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小一条院の辺りにはうんざりするほど建て込んでいた家並も、西の京へ入る頃にはすっかり減って、見渡す限り草ぼうぼうの畑や稲田に変わっていた。 ところどころに庶民の小家や納屋のような建物が見えるだけで、とてもまだ都の中にいるとは思えない。 建都当初、東の京と同じように整然とした都が建設される予定だった西の京は、元々湿地が多く都作りには適さない土地だったため、次第に建物が建てられなくなって放置され、今では京の郊外とさほど変わらない田畑や荒地になっていた。 それでも、いくつかは大きな屋敷や寺院があり、草地の彼方に高い塔や長い築地塀が見られることもある。 その一つが、小八条第だった。 小八条第は西の京の南端近くにあり、東西二町の広大な敷地を誇る大邸宅である。 清少納言の枕草子でも名邸の一つに挙げられている、趣き豊かな美しい館だ。 元は源昇の屋敷だったが、長い間に様々に伝領されて、道雅の父である伊周の別荘となっていた。 世間から身を引いた後の道雅は、ずっとこの屋敷に引き篭っている。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2015年12月20日
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能季の胸の中では、美しい斉子女王の顔とおぞましい師実の顔とが、交互に渦巻いている。 だが、だんだん師実の哀れな顔の方が、胸の中を占めるようになっていった。 私のことを兄のように信頼している、師実の澄んだ瞳。 どうしても、私には師実を見殺しにすることはできない。 そう思った瞬間、能季の口は勝手に動いてしまっていた。 頼通は既に目を輝かせ、能季の方へ詰め寄ってきている。 もはや後戻りはできない。 能季は観念したように目を閉じ、頼通に斉子女王のことを話した。 当子内親王にそっくりな斉子女王なら、道雅は必ず興味を示す。その導きなら、きっと屋敷からおびき出すことができるだろうと。 頼通はふいに能季の手を取って言った。「道雅のこと、そなたに任せよう。私からの助力は惜しまぬ。小八条第の周りを見張らせている手の者たちも、そなたの自由に使ってよい。どうか、師実を救ってやってくれ」 頼通は必死の面持ちで、能季の手を握り締める。 その顔は父親らしい心配と熱意に溢れていたが、目の暗い底にはやはり冷たい光があった。 頼通にとっては、斉子女王のことなどどうでも良いのだ。 世間から忘れられた女王の一人や二人くらい、師実の命に較べれば塵(ちり)のようなもの。朝廷を平和裏に収めていくことを考えれば、大して重い犠牲ではない。 そう考えているのは明らかだった。 斉子女王は何としても私が守らねばならぬ。 襲ってきた緊張と心痛に、能季は唇を噛み締めて頷いていた。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2015年12月13日
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頼通は冷や汗の滲(にじ)む額を押さえながら言った。「どうしたら、道雅をあの屋敷からおびき出せるだろう。手の者の話では、祈祷を施し出家までしたのが功を奏したのか、道雅はかなり持ち直してきたようだ。今は外出できぬほどの病状ではないと思う。私が使者を遣わして、どこかへ呼び出すこともできるが……果たして素直に出てくるものか」「それはなぜ?」「私は今まで散々道雅に脅しをかけてきた。ちょっとでも妙な真似をしたら命はないとな。道雅には例の風雅の宴の一件がある。おそらく、世間の噂から、私がそれを知っていることにも、薄々感づいているだろう。私から呼び出しがあれば、その件を追及されると思うに違いない。そうすれば、また病いと称して屋敷のうちに引き篭もってしまう」「関白様の御威光をもってしても無理ですか」「道雅もひとかどの貴族だ。それに人柄から言っても、簡単に私へ頭を下げるような男ではない。無理強いすればするほど頑固になって、手におえなくなるだろう。そうなったら、もはや夜討ちでもかけて、強引に屋敷から引きずり出すしかない。しかも、道雅は用心のために侍どもを屋敷内に大勢飼っているから、少々の人数では無理だ。だが、私が数多の兵を動かしたりすれば、都中が大騒ぎになる。それだけは、何としても避けたいのだ」「できるかぎり、隠密裏(おんみつり)にことを進めたいと」「そういうことだ。それに、師実が怨霊に祟(たた)られて死にかかっているなど、できるだけ他の人間には知られたくない。そんなことがわかれば、あの教通らをどれほど喜ばせることになるか。これに乗じてよからぬことを画策するかもしれぬ。何か、世人にも知られぬようにこっそりと、道雅を屋敷からおびき出す手立てはないものか」「あることは……あります」 能季は口から搾(しぼ)り出すように、小さな声で呟(つぶや)いた。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2015年12月07日
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