詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

2015年11月22日
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死体の眼は閉じられていたが、引き摺られていったとき、

眼がカッと見開いて、死体にかがみこんでいる自分たちを、

じっと嘲るように見つめたと、

多くのものが幻覚を覚えた。

[ガラス張りのイベントギャラリー・・]

被写体がふと油断した隙を突いて表情を盗み取る。

雑誌のインタビューカット。

広告の手法。

ゆるやかな坂を上る間に、汗が落ちる頃、



夏だった。


夏になると、子供の時に、ママ――母親が胃潰瘍で入院していたことを思い出す。

病室の外まで、よく歩いて、窓を見に行った。

会いに行くな、とパパ――父親に言われた。

見えなかったけれど、入っていっても喜んでくれそうにない気がした。

(こんな時に、子はかすがい転じて、茶碗の足があるのは何故か?・・と考えた。

これは糸底といって、ロクロを使って形を作り上げて、

最後に、糸で切る部分。この底は飾りではなく、熱いお茶を、

掌が熱くないようにとする配慮でもない。

陶器を焼くためには、約千三百度という高熱で焼きあげる。

この時、原材料が熱に反応して、抵抗が生じ、製品にひずみが出てくる。



足があると、底の接触面積が少なくなるので抵抗は少なくなり、割れが生じない。)


――お菓子の甘い匂いや、ガーデニング・・

軽く頭を振った。すぐ外にでもいるといった格好で、
、、、、、、、、、、、、
見ている僕等知るわけがない。

でもそんな時、僕は必ずこのようなことを口にした。




多くの人が――それをどのように捉えたのかはわからない。

あまりにも悲しそうなので呆気にとられたか、目をそらしたか。

そしてこれはまた、どうしたというのだ! 

絶えいらんばかりに、泣きだしたのを見て、

さらに呆気にとられたか、目をそらしたか。

何を考えたか、何を恐れたか、

とにかく、夢中で、ただじっと彼の顔を見つめている。


あの嵐の空を仰いでいた顔、握りしめていた拳の震え、夜目にも苦しかった様子。

それらは、あの荒涼たる砂浜の光景と結びついて、いまだに、忘れることができない。

いつもそれは夜であり、そして、主役は、彼一人と決まっている。


願いを書いた短冊をちいさな笹の枝にさげた。

彼は僕の脇腹をつつく。何を書いたのか、無言で聞いてきたのだ。

僕は短冊を返して見せた。

[新しいマウンテンバイクが欲しい。]

(高度の知的独立心に冒された、順応者たちの観察。)


・・・二人を見たとたんに、サッと変わった彼の表情。

退院。でもそこに歩いているのは、

僕だったけれど、僕ではなかった。

もう一度繰り返そう。

僕だったけれど、僕ではなかった。

それは、かりに僕が、一万年生きたとしても、

到底、忘れることはできないほど激しい変化だった。


いつも、肝心なときにへまをやらかす信じられない才能。

『気付いた』とか、『そういう気がした』を繰り返していると、

ふっと、ニュアンスが異なる。

僕は、その僕に訊ねたことはなかったけれど――

というより、その時の僕は、もう既に、水死体の傍にいた、

まったく別の少年であったのだけれど――・・。


ミソサザイが苔の巣にこもっている、

月桂樹の細い幹や、葉の陰にかさなる陰を透かし見る。

イモリは水面を揺らしながら溺れている――蒼空の絵・・鳴いている、

その写真を見ながら、格闘している。

夏が、夏の大気に、永遠に固定されるのを見つめる。

会計係にカウンター越しに差し出した請求書にサインして立ち去る。

「心付けをしなきゃならない人たちに、

あなたの方から渡しておいてくれると助かるんだけど。

いや、ずいぶん、うっかりしていたもんでね。」

――水死体・・。

、、、、、、、、、、、、、、、、、
不愉快になるくらい感傷的な売春婦は、

迷信をコインに変える。磁器によって作用され、手にその現象がうつると、

ハンドパワーになる。千人の高名な科学者が望み、一人の神の手が、

遺跡を発掘するために宿る。偉大なロバの耳! 華麗なる枯れ井戸・・!


素朴だが、厳かだった。

僕の母親――ママから、あの子どう?・・と聞かれるのは。

何だかこのシチュエーションって、

専門誌で特集されていた科学者に悲壮な最期みたいに見えた。

(あなたは、○○ですね?)氏名の確認を受けた。

(はい。よろしくお願いします。)

微笑みもせず、いかにも素っ気ない。

半ば無意識に、ママ――母親につながる何かを探り当てようとしたまま、
、、、、、、、、、、、、
僕はナイフで親指を傷つけ、彼女の伸ばした舌に血を垂らした。

もう少し左・・。

ブレーキが遅い――。

もっとしっかり視認。

流刑・・・。


わいせつ罪。たとえばミニスカートの女性が、電車の向かいの席にすわっている。

男性なら、気になる。しかし彼が、エスカレートして、腰をかがめて覗きこんだら?

もちろん、わいせつ罪になると思われるが、公共の場所であれば、

直接女性の体や衣服に触れない限り成立しない。

もちろん、公共の場所でないところで覗きこめば。

無論、公共の場所ですと勝手な主張をしても、罪になる可能性がないとはいえない。

時給が二百円高いイタリアンレストラン。

水死体・・・。


ちぢれた亜麻色の髪・・!

ちぢれた亜麻色の髪・・・!

二匹のばかなウサギみたいにうずくまったまま、

ただ共に暮らす喜びのために生き埋めになるつもりだったのだろうか?


広告代理店の就職はままならない。

鼻筋が通っていて、やさしそうな瞳の持ち主で、人当たりが良かった。

屈託のない笑顔がさわやかで、華奢な身体つきなのに豊かな乳 房を誇っていた。

しかし馬鹿な女ではない。

でも、パパ――父親と結婚した。

でも気の弱い女ではない。どちらかというと、気が強い方だ。

でも、結婚した・・・。


(そもそもの始まりは、水死体を発見するまでが、

僕がまったく違う僕であり、というよりも、

僕がおそらく、僕が認識しているという世界での僕であったのだが、

とある日、つまり、――水死体が見つかった日、

僕はそれとは違う別の存在になって、その時から、

新しい父親と新しい母親を手に入れ、新しい生活、新しい習慣を、

手に入れていたということだ。よそよそしく、変てこだったけれど・・

みんな疑問に思わなかった――・・)


日曜日の刑務所の休憩室のドアの覗き穴から見る囚人の気分だ。

多分、洋画だろう。

その穴から、減らず口を叩きあって笑う囚人達がいるが、

そこに、こつんこつんと足音が聞えると、顔が強張る。

ぬれそぼった大つるべを、井戸から引っ張り上げるみたいに、

つるべは網の先でふるえ、揺れ、きらめく長いしずくをはふり落とす。

あまり気分のいいものではない。


老いしぼんだ、がらんどうの、硝子玉を宿す肉体。

しかし愛想よく微笑んでいる。しわだらけの顔も、笑みくずれている。

あまり気分のいいものではない。


カニかまぼこよ、と僕は思った。

そいつの中にはまったく、カニの肉は全然入っていない。

原料はスケソウダラ。水揚げされたスケソウダラを、骨や皮をとって、

どろどろにすり身にとかし、かちんかちんに冷凍。

それを今度は急速に解凍して、もう一度冷凍すると、

カニの足と同じような繊維ができる寸法。

その間、すり身に含まれた水分が、一定の方向に向かって流れるようにするのが。

よりカニに似せるコツ。この原理、専門家の間では、

“冷凍変性”と言われるテクニック。

こうしたあとに、カニの香りをつけ、はけで表面に赤い色を塗ったら、

カニかまぼこが出来上がる。


――苛められているという意識ではなく、受け容れることで、

相手を包みこんでいると感じるマゾヒズムの心理。

電気分解の中を。流動する。

ふちどりのある重そうな長靴。

馬をはずした荷車。

そしてクリップボードに何か、呪文のようなものを書きこんでから。

何度も飽き飽きしている台詞をまた暗唱しているような口調で、

注意と要点を説明した。

水死体・・。


日没時に浮上した死体は、朽ちた手すりを妙な恰好で握りしめている。

あわれな男は若く、髪が黒くて、ことのほか顔立ちがととのい、

それでもイギリス人か、ギリシア人みたいに見えた。

でも、その表情が何故か、無表情さと、

一本だけの牙のような取り合わせのなかで、子供っぽい、

皺のないものであったことを、感じるのは――

おそらく不思議な感想だろう・・・。


二十年後、自分の境遇を知られるくらいなら、死んだ方がましだ、

と、僕は思った。

何か月か前にハンドルを握っていた頃の感覚が戻ってくるように、

いや、それが子供の時に触れていた、おもちゃの車のハンドルであったように、

想像できる頃、何世紀とも思える二十年の後、

僕であった、いや、僕ではないとうすらぼんやりと思っていた彼から、

「そろそろ、肉体を返そう。」と言われる。

僕は恐怖した。待ってくれ、君は何を言っているんだ。

仮にそれが本当だとしても、古い昔のことじゃないか。

「――違う、私はそもそも、君の肉体の所有者ではない。」

待ってくれ、じゃあ、あの、水死体か?

「――違う・・私は、あの、あわれな男の肉体の所有者でもない。」


幸せへの唯一のパスポートは、肉体を取り戻すことだった。

それが僕だと思っていた。しかしその形而上学的な渇望は、死の渇望だ。

やたらうねうねと長いので、万里の長城みたいに、ゴールを探すが、

そんなものだと諦めて、風景を眺めている方がよい。

当座の自由裁量権。一貫して、矛盾なく、落ち着いた自由な洞察の一つ。

われわれを保持し、高く放り投げるところの、俘虜。しかもそれを、

平穏無事に、これぽっちも服従せず、

十分な力を持つことのできる人間自身の原理――。


窓越しにママ――母親を見つめたあの瞬間・・

血と唾を混ぜ合わせたように、粘土の中に砂が入れられたように、

頭上にきらりと光る円盤が、

確かに光ったことを、僕はその時に思い出す・・。

だれかが南京錠をかけてしまった、扉。

僕が僕であった頃の僕に戻ることはできないのに、

この不条理は、喜びたまえ、とばかりに繰り出される。


そして多くのものがそうであると、確信しているのだが・・

僕は長い間に生きてきた人生の結論のように、水の中へ飛び込んだ。

その瞬間、人生はめちゃくちゃにかき混ぜられる。時も、意思も、

何もないその世界は、あっという間に、

僕の死んだ肉体をあの場所まで連れていってしまう。

――そこに、二人の少年がやって来る・・


一人の少年の心からの願いは、

彼みたいにではなく、彼そのものになることだった。だがいくら友達でも、

そんなことを言われたら気持ち悪いだろうと考えて我慢していた。

でも、少年はその願いが叶うなら、何を差し出してもいいと思っていた。

彼と同じ人生を生きられるなら、彼の養分として、溶けてしまってもいい。

その方が自分の一生よりずっと豊かで素晴らしいものと出会えるだろう。

そう思っていた――・・。


水死体は、何も語らずに、浮かび続けている――。








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最終更新日  2015年11月28日 08時18分12秒
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