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蜜柑は真佐子を見送った後、蛍雪大学へ電話を入れ、鮫島教授への面会を申し入れた。総務課の職員は、警視庁からの面談と聞いて驚いたが、緊張した声で、「鮫島先生なら、今日は2限に授業があり、授業終了後昼休みに研究室にいらっしゃいます。ご案内しますから、総務課にお立ち寄りください」と答えた。構えられると困るので、「先生の専門的なお知恵を拝借したい」と、申し入れた。夏からは、「思い切って核心をつけ」と指示があった。ただ、総務課を通したのは、神奈川県警から教授に面会申し入れがあったことが大学側に知られるわけで、波紋が広がることを読んだからであった。その波紋の中から思わぬ手掛かりが出てくることがある。 蜜柑の頭の中には、ドリーム・プロダクションから東京のワールド・エンタテーメントへの3人の移籍者、山城、倉橋、江島の三人の中の、教授をしている山城に注目した。山城は中東の歴史が専門で、イスラム教に関する歴史的考察で、パリの大学から博士号を授与されている。イスラム教と言えば、その極端な思想にイスラム原理主義があり、アメリカニューヨーク貿易センタービルの爆破テロを企てた、オサマ・ビン・ラディンの背景思想だ。 蜜柑は、まさかとは思うが、山城に関してはその思想的背景も調べる必要があると思った。これは、仲村教授に頼んだほうがよい。いやもう調べているだろう。当面は山城教授と鮫島教授との関係なのだが、ここは鮫島教授を直撃することで、明らかになると読んだ。「山城さんならよく知っていますよ」 鮫島教授は、銀縁の眼鏡をはずして蜜柑の質問に答えた。平然としている。「黙示録の企画については、別に私が提案したのではなく、人類学的な観点から感想を申し上げたくらいです。山城教授と大阪第一テレビのスタッフが、よく私の研究室に来て雑談をしたものです。ドリーム・プロダクションでしたか、社長さんが殺害されたことは、私も新聞で読みましたが、何も心当たりがありません。ただ・・・」と言って、鮫島教授は難しい顔になった。「社長さんが、一度研究室に来たことがあります。名刺を置いて行かれて、私は受け取った日付を書いておく習慣があるので、これですが、2019年3月となっています」蜜柑が身を乗り出した。「山城さんと二人で来たと記憶しています。彼女から紹介があったので、黙示録について私が知っている限りで、詳しく話してあげました。」 鮫島教授は、窓の外の木の葉を眺めながら言った。「山城先生が、元のドリーム・プロダクションから、東京のワールド・エンタテーメントへ移籍されましたが、ご存じでしたか?」と、蜜柑は意表をついて聞いた。鮫島教授の目線が一瞬乱れたが、平静を装って答えた。「いえ、その点は知りません。大学の教師と芸能プロダクションとの関係は、私にはよくわかりません」と、先手を打って答えた。「彼女は、東京の大学から招聘されて移ったと聞いています。優秀な方ですから」と付け加えた。「山城先生は中東の大学へは行かれていたでしょうか?」「はい、名前は忘れましたがイスラエルの大学に遊学されていたと聞いています。直接本人に聞いてください」「山城先生は赤色の傘をもっていませんでしたか?」「そこまではちょっと」「では、赤色のイアリングをしていませんでしたか?」 蜜柑は、歌手の光岡瑠偉が、彼をはねた車に赤色のイアリングをしている女性が乗っている夢を見ると言っていたのを、ぶつけてみた。「いえ、そのようなものは見たことはありません」と、鮫島は落ち着いて答えた。大学の女性教師が、授業や研究関係で、イアリングを飾ることはまずないだろう。鮫島は、私生活での付き合いを疑われたと思い、早々に否定したのだろう。蜜柑は、仮説ではあるが、鮫島と山城が私生活でつながっているのではないかという想定で聞いた。案の定、鮫島は否定した。それは、山城教授が赤い傘、赤いイアリングやネックレスを身に着けることがあることを警察が知っていると、鮫島に知らしめることになったであろう。だとすれば、警察が赤い傘、イアリングなどの着用に気づいていることを、山城に伝えることになるとの読みであった。警察が疑っていると、山城に必ず連絡がいくだろうと、蜜柑は確信した。それは、山城に会ってからの楽しみだ。 一方、真佐子は山口県の湯玉に戻り、勤務先の道の駅に顔を出し、秋野菜、果物までの端境期なので、引き続き休暇を取ることにして、仕入れの仕事もかねて、島根県境にある道の駅の友人を訪ねることにした。中年の男女が現れたこの道の駅周辺で、きっと情報が得られると考えた。大学は秋の授業が始まるまで、あと1週間ほどがある。感染が下火になってきたのでで、仲村を呼べばきっと来るだろう。いつか、仲村がこのあたりの海を眺めてみたいと言っていたのを思い出した。「もしもし仲村さん。蜜柑さんからの連絡で、大阪のドリーム・プロダクションと蛍雪大学の鮫島教授との関係が分かったし、山城教授との接点も見えてきたようなの。私、県境の道の駅に現れた中年男女の女性は山城教授ではないかと…」 真佐子は、仲村を誘い出そうと言葉を選びながら言った。まだ静岡にいた仲村は、「真佐子さん、僕も黙示録を読みながらいろいろ考えましたよ。実は、個人的な研究で出雲へ行くので、用事がすんだら、山陰本線で道の駅の最寄りの駅まで行きます。真佐子さんは車ですか?」「嬉しいわ。もちろん車よ。小さい車ですけど」「それでは、急な話ですが、明後日、出雲で用事をしますから、その次の日でどうですか?」「ええ、いいわ」と答えて、真佐子は胸がどきどきしてきた。続く
2021.09.26
渋谷道玄坂では、翌朝、本格的な現場検証が行われた。警視庁の刑事は、当然のことながら第一発見者の男性に対して事情を聴いた。わかったことはと言えば、午後10時過ぎ、消音銃のような鈍い音とともに、道路で人が倒れる音に気付き、もしやと思い外に出て、通りかかった車を止めて警察へ連絡してもらったということだけだった。ただ、その通りかかった車の運転手は、この上り坂の上からやってきた関係で、犯行後と思われる黒っぽい乗用車とすれ違ったというのだ。その乗用車はかなりスピードを出していたと答えた。 付近には防犯カメラはなく、幹線道路に設置されているカメラをリレー解析するしかなかった。担当者はさっそく作業に通りかかったが、深夜でもあり、バックナンバーの映像には期待できなかった。 被害者の心臓を貫いた拳銃の弾丸の特定を急いだ。警視庁では、この殺人事件が芸能人であるので、横浜港の殺人事件と関係があるのではないかと判断し、急拠、神奈川県警の夏警部を呼び、広域捜査の提案をした。アジア・エンタテーメントの光岡瑠偉のひき逃げ事件との関連もあった。 現場検証を終えて、警視庁に入った夏警部は、これまでの事件の展開と捜査のあらましを担当刑事に披露した。警視庁の刑事の関心を引いたのは、当然のことながら社名変更前のワールド・エンタテーメントのマネジャーで、殺害された澤田研一が黙示録のメモを書き残し、本まで買っていたことと、この黙示録が、大阪第一テレビから最初ドリーム・プロダクションに提示され、さらにさかのぼると、蛍雪大学の鮫島教授から提案があったという経緯であった。 ワールド・エンタテーメントの澤田と大阪のドリームプロダクションの社長・君川が殺害されたのは、おそらくこのテレビ企画をめぐる何かが殺人の原因になったためであろうという夏警部の推理だった。さらに、夏は、この間、大阪のドリーム・プロダクションから、東京のアジア・エンタテーメントへ、タレント3人が突然移籍したことを付け加えた。今回、ダイヤモンド・エンタテーメントの風吹が拳銃で殺害された件に関して、夏の見方はこうであった。「おそらく、黙示録の企画が再浮上する中で何らかの利権が絡み、その主導権争いのようなものが、犯行への引き金になったのではないか?」 夏警部は、警視庁の刑事たちに説明し、さらに続けた。「目下、鳥取白兎海岸での殺人に関して、お隣の島根県で中年男女の目撃情報があり、民間人の協力で当たっているところです。拳銃の出どころと、風吹の身辺をあたるところで操作願えれば幸いです」 警視庁の刑事部長はこれを了承した。続く 目次へ
2021.09.21
お断り:この推理小説は予告なしに加筆修正することがあります。あしからず。目次へ 風吹翔馬はCMの収録を終えて、自宅への帰路を急いでいた。マネジャーの車で、近くのコンビニまで送ってもらい、夜食を買い込み、自宅のマンションへ向かった。NHK放送センターの入り口が近くにある。コロナ禍のこういうご時世、途中、道草を食わないように、マネジャーからきつく言われている。感染でもしようものなら、契約によって進められているドラマの収録も中断し、放映予定のテレビ局に迷惑をかけてしまう。 半年連載のこのドラマには、風吹翔馬のこれからの俳優人生がかかっていると言っても過言ではない。大学在籍中から芸能界に首を突っ込み、いろんなことをやってきたが、目指すは俳優としての道だ。一時的な快楽よりも、長い人生の成功の道を選んだほうが良いに決まっている。コロナ禍に突入して1年半、中年の域に差し掛かった彼の年輪は、慎重な行動をとらせるに十分だった。 彼はダイヤモンド・エンタテーメントに所属していたが、近く、今の倍もある企画の話が舞い込んでおり、余計に慎重な行動が求められていた。彼はフリーエージェント宣言をしており、自分で仕事を取ってくることも可能だった。 コロナが、ワクチンの普及もあって、やや下火になってきたこともあって、近く新企画を動かすチーム会合が開かれることになっていた。苦労して手に入れたこの新企画へのチャンスを、逃すことはできなかった。中心はタレント、俳優、アーチスト総勢10数名で、毎週金曜夜のゴールデンタイムに、1時間のテレビドラマの企画が動き出す。「新黙示録 天国から愛をこめて」というのが、企画段階の名称だった。この企画を我が物にしようと、もともとは関西のテレビ会社・大阪第一テレビ会社の企画なのだが、これを取り込もうと、地下でタレントの猛烈な売り込みが行われていた。その中に風吹翔馬がおり、強引な手口で主演の座を得るところまで食い込んでいたのだった。 風吹はこれから『黙示録』を読まなければならなかった。目の前の角を曲がり細い道を少し進むと、風吹のマンションがある。風吹はそのマンションの5階に住んでいた。細い道に入りかけた瞬間、濃い色のセダンが彼の背後から近づき、パワーウインドーを開けたかと思うと、拳銃の鈍い発射音がした。消音ピストルの弾丸が、風吹翔馬の心臓を貫通した。彼は路上に倒れ、抱えていた食料品などがあたりに散乱した。車は音もなく走り去った。 あたりに人影はなかったが、角の一軒家の二階の暗い窓に明かりがつき、住人が窓を開けて、鈍い音の方向を見た。街路灯の下に、人がうずくまっているのに気づいて、その住人は恐る恐る玄関を出て街路灯の下の物体に近づき、そして大声を上げた。 偶然通りかかった乗用車を止め、「人が銃で撃たれた」と叫んだ。運転手は車を降り、状況を飲み込むと、驚いてスマホを取り出した。五分もたたないうちにパトカーが駆け付けた。 渋谷道玄坂上の殺人事件は、朝刊で報じられた。蜜柑と真佐子は、新大阪駅前の、ビジネスホテルの朝食会場のテレビを見て、食事の手がとまった。「大変な事件です。詳細は分かりませんが、芸能人が殺害されたことと、テレビの字幕に出た黙示録の意味するところは、私たちが捜査している横浜港と白兎海岸の殺人事件との関連は明らかですね」 蜜柑は刑事の顔に戻った。仲村に会いに来たところが、素人探偵になりきり、捜査の一翼を担うことになり、真佐子は心ときめく思いがして嬉しかった。 今日は思い切って、第一テレビに「黙示録」の進言・助言をしたという、蛍雪大学・人文学教授の鮫島研究室を訪ねる決意を固めた。もしかしたら、第一テレビから連絡が入っているかもしれない。「寝込みを襲う」のが有効なことは、父親から「捜査の常道」と教えられたことであった。「真佐子さん、ここは一度ご自宅に戻って、また機会があったら仲村さんと一緒に横浜においでください」 真佐子と蜜柑は朝食を切り上げ、ビジネスホテルを出る準備に取り掛かった。真佐子には大胆な算段があった。新大阪の駅には徒歩で向かった。コロナ騒動どころではない、何かが動き出したと蜜柑は直感した。「この事件は、どうも大阪第一テレビが発案した黙示録が絡んでいて、最初にこの企画が持ち込まれた大阪のドリーム・プロダクションの社長が、白兎海岸で殺害された。どちらも神話や伝説めいた世界で、何か得体のしれないものを感じるわ。島根へ行くと鳴き砂伝説があって、平家と源氏の壇ノ浦の合戦で危うく難を逃れた平家方のお姫様が、小舟で流れ着いた鳴き砂海岸があります。白兎海岸も因幡の白兎の伝承ですが、社長を殺害した男女は、島根県から山口県の県境まで足を延ばしています。私その場所に行ってみます。中年の男女が立ち寄ったとされる道の駅には、私の知り合いがいますから、何かわかるかもしれません」 真佐子の独り言のような言葉に、「おひとりでは危険が伴いますね」と、蜜柑が案じると、「大丈夫よ。仲村私立探偵を呼ぶから。どうせあの人は、大学は夏休みだし、静岡から飛行機で出雲空港へ飛んで、私が車で待ち受けるという方法があるわ。いつももったいぶって偉そうなことを言っているけど、私がいないと何もできないんだから」 真佐子は、自分に言い聞かせるように言った。蜜柑は吹き出しそうになった。蜜柑は遠い空を眺めるような目つきで言った。「捜査のほうは無理をなさらないでくださいね」 引き留めてもやめるような真佐子ではないことが、だんだんわかってきた蜜柑は、新大阪の改札口で手を振った。続く目次へ
2021.09.18
お断り:この推理小説は予告なく加筆修正することがあります。「羨ましいわ」 缶ビールを、部屋に備え付けのグラスに移し替えて、蜜柑は真佐子に言った。「何が?」と、真佐子は一応聞き返して、グラスの半分を空けた。蜜柑は、あまりアルコールを嗜まない父親にはにずに、瓶ビールなら中瓶2本は軽く空ける。コロナ禍の中、アルコールを出す飲食店は皆無で、ここは捜査に便乗して、ストレスを発散させようと企んだところだ。「だって、真佐子さん、仲村先生と仲がいいんですもん」 眠くなったら、ベッドに潜り込めばいいし、明日の朝食は定食だけど、自炊をする必要もない。「私ってわがままでしょ、あの人、私に合わせてくれるんですよ。私っていい気になっているかしら?」 真佐子は、テイクアウトで取った餃子を、大事そうにつついている。「蜜柑さんも、いい人いるんでしょ?」 真佐子は、宿泊に誘ってくれた蜜柑の真意を察して聞いた。「ええ、まあ、いるにはいるんですけど、本気かどうかもわからないし」「どちらが?」「もちろん」「わたし」「当たり」 二人はどちらからともなく笑い出し、大声で笑った。「わたしも同じよ」 真佐子が続けた。もう、缶ビールの大瓶が空になっている。冷蔵庫から2本目を取り出して、並々と注いだ。「でもね、蜜柑さんと違うのは、ごめんなさいね、私たちの間には、明日がないの」蜜柑には、この真佐子の言葉が理解できなかった。でも理解できないままにした。「わたしには、仲村さんの家庭に踏み込む権利もないし、その資格もないの。そのつもりもないわ。でも、わたしが失った過去の一部を知っているのは、仲村さんだけなの。わたしにしつこく付き纏って、勤めていた会社の社員旅行のバスを爆破した犯人を突き止めてくれたのは、仲村さんです。わたしが14から15歳まで、恋人ごっこみたいなことをしていた頃のことを、彼は包み隠さず教えてくれるのよ。もしかして、記憶を取り戻すのではないかと。その度に、わたし人間らしくなっていくの。「羨ましいわ」 蜜柑は口を挟んだ。「でもね、仲村さんは、大袈裟ですけど、なぜ、私たちが別れなければならなくなったのか、言ってくれないの」「真佐子さん、その秘密をわからないままにしておきたいのでしょ」「図星」「分かってしまうと、お二人は会う必然性がなくなります」「仲村さん、私の弱みを握っているのかしら」「仲村先生は、そんな人ではないと思います。きっと真佐子さんの幸せを考えて」 蜜柑は、ふと脳裏に優柔不断な彼氏の顔がかすめた。「島根の海辺で偶然再会されて、鳥取砂丘でお互いを確認されたとか、パパから聞きました」「ええ、それはもう、半信半疑というか、心臓が飛び出るようでした」「でも、記憶は失われていたのでは。よくわかりましたね」「仲村さんのことは、姉から聞いていましたので。もしやと思い、イニシャルの編んであるハンカチを渡したのです」「再開する運命だった?」「そうかもしれませんね」「蜜柑さんも、出会いは神様がくれたものと思って、大事にしてくださいね」「はい、私もハンカチを渡します」「ハハハ」 真佐子と蜜柑が、酔いに任せて、おのろけを言っている間に、第三の殺人事件が実行に移されようとしていた。真佐子と蜜柑の会話は、深夜まで続いた。(続く) 目次へ
2021.09.17
お断り 本稿は予告なしに加筆修正することがあります。9月3日、午後1時過ぎ、菅総理は9月で任期切れになる自民党総裁選に出ないことを、ぶら下がり会見で明らかにした。1年間よく頑張ったとは思うが、一国一城の主としては、いささか心許ない面ばかりが目だった宰相であった。菅さんとは同い年、出身も同じ法政大学なので、その挙動には同窓(期)生として注目してきた。「コロナ対策に専任(念?)する」ためだとも言い、また「総裁立候補と感染対策が耐えがたい」とも洩らした。 (ちなみにこの「専任」するは、ある職種に専任するという風に使い、たとえば名詞では専任教員、国語として間違いではないが、専念するが正しい。そこであるテレビ局は字幕でわざわざ専念に訂正した。菅にはこの種のケアレスミス、読み間違い、読み飛ばしなどのミスが多い。ついでに言わしていただくと、〇〇××こうしたことをという表現をよく使うが、国語の簡潔性からいうと「こうしたこと」は不要だ。「こうした」と言うことで、言いたいことの明瞭性がぼやける。「聞く者の耳に響かない」といわれることの一端は国語表現の拙劣さにある。) 学術会議6名の承認を拒否できるような器ではない。午前中の臨時役員会で急きょ出ない旨を、となりに二階幹事長を置いて発表した。皆は驚いたという。つい先日まで、総裁選に立候補することが当たり前であるかのようなことを言っていたのが、一夜明けて臨時役員会に遭遇して一転、次期総理をあきらめるに至ったのはなぜか。これに先立って、若手議員から「菅では総選挙を戦えない」と、求心力の低下した菅は、二階を呼びつけ幹事長を降りるように伝えていた。横浜市長選では法政大学卒業後、就職課から紹介され師事した小此木彦三郎の子息、小此木八郎の惨敗は菅の責任だとする新聞記事もある。前年持病が悪化した安倍退任のあとを、二階(敬称略) の後押しを受けて総理になった恩人の二階を切るという行為は、人事で恐怖政治を得意としてきた、菅の常套手段が効を奏するかと、一瞬思えたがそうはならなかった。また最初、衆議員を解散してその後総裁選を行うとの方針を表明していたが、総裁選を先延ばしにすることへの批判が高まり、役員人事を先行して行うとしたら、総選挙を行ってから役員人事を行なうのが筋、と批判に批判が重なって人事権もがはぎ落とされてしまった。「人事権と解散権が奪われたら政権トップは終わり」との厳しい見方もある。私は、それよりも「絶対の権力は崩壊する」というシュムペーターの言葉を思い出す。こうして解散権と人事権を奪われてしまった菅は、頼みの綱、小泉進次郎を4日連続で呼び、何を話したかは伝えられていないが、進次郎にスガるという、私に言わせれば、みっともない終末劇を演じ始め出した。進次郎は、会見で涙を流していたが、それは丸裸になった仲人の菅を見て、その哀れさに感極まったのだろう。進次郎は「このまま突っ込むとぼろぼろになりますよ」と言ったと伝えられるが、その胸の内は定かではない。しかし、小泉の脳裏には一瞬、地元横浜の選挙区での惨敗が二重写しになったのではないだろうか。 政治評論家の田崎氏は、このような厳しい見方に対して、「コロナ対策を進め、オリンピックを成功させた」と菅を擁護する。しかし、オリンピックをやるのはIOCだと菅も言っていたように、おリンピック・パラリンピックをやったのは、IOCと選手であり、コロナ・ワクチンを開発・製造配送したのはメーカーである。 菅の敗北によって、菅の忖度評論家も敗北した。(続く)
2021.09.04
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