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2012.01.18
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カテゴリ: 映画
美大を出て、CM制作、美術監督を経て、映画を作り始めたリドリー・スコットは、映画作りを全て一人でやりかねない拘りがあったようですね。

映画はやはり、脚本と、それを映像化する監督の強い拘りから生まれるものだろう。
リドリー・スコットは《ブレードランナー》の風景にはフェルメールとエドワード・ホッパーを見本に構想したそうだが、明らかに美術的素養があるわけで・・・・・
その拘りの映画美術に大使は惚れ込んだのである。

「リドリー・スコットの世界」ポール・M・サモン著、扶桑社、2001年刊

ブレードランナー2

<ヘビィ・メタル・メトロポリス>p149~169
 とはいうものの《エイリアン》のあとでSF映画を撮る気はまったくなかった―「なによりも出来の良い物語であること。また、同じような作業のくり返しは大嫌いなので、新しいジャンルに誘ってくれそうな、製作可能な企画を率先して探していた」という―でも、彼の興味を惹いた次の脚本も、やはりSF映画だった。題名は《デンジャラス・デイズ》。未来の大都市を舞台に、この世に飽きあきしていた刑事リック・デッカードが、凶悪なアンドロイドたちを追跡して抹殺するという味気ない仕事を負わされる物語だった。アンドロイドは人間を完璧に模倣した擬似人間で、寿命はごく短く設定されていた。
 偏執的なSFの名手フィリップ・K・ディックの長編小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』が《デンジャラス・デイズ》の原作だった。脚色は、元MGM専属俳優でテレビ・タレントでもあるハンプトン・ファンチャーが担当。「じつのところ、ハンプトンの脚本の出来栄えはなかなかのものでね、物語に描かれていた『人間とはなにか』という道徳的テーマに興味を感じた」とスコットは述懐する。「もっとも奇抜なのは、この世界ではおおぴらに殺人が認めれているという設定だった。さらに、合成生物として誕生し人類よりも優秀なアンドロイドの、どこが人間とちがうのかという主張も。また、脚本の持つ映像的な要素にも魅了された。《デンジャラス・デイズ》は、ノワール映画とSF調警察ドラマの異種交配からなりたっていたが、さらにもっと多くのものが混ぜあわせられるように思った。ぼくが呼ぶところの“接ぎ木”をほどこせる可能性が、この物語にはあったんだ。細部まで凝った建築物によって、想像上の世界をまるまる映像化できるのではないかとね」

 皮肉にも、一年前にまだ題名が《アンドロイド》だった時点で、すでに監督は一度、同じこの台本を見送っていた。彼は《デューン砂の惑星》企画と契約をむすんでいて、さらに《エイリアン》のあとですぐにまたSF映画を撮るのはいやだと言って、そのときは拒否したのだった。しかし、スコットの仲間だったアイヴァー・パウウェルは《アンドロイド》の脚本を読んで興奮、ファンチャーの脚本を実行可能な企画の棚に残しつづけていたのである。題名が変更された《アンドロイド》はふたたび高名なプロデューサー、《ディア・ハンター》《コンボイ》のマイケル・ディリーにより、内容はそのままの《デンジャラス・デイズ》として、スコットにふたたび提示され、監督はこれを読み返して「斬新なデザインを画面に描ける可能性のある、なみはずれた脚本だ」と宣言。SFはやりたくないという、以前の方針を転換した。

 1980年2月21日、スコットは―いまいちど題名が《ブレードランナー》と変更されたこの企画の―監督契約を結んだ。ところが、まだスタートしたばかりの企画だというのに、製作プロダクションはヨブの苦難のような不幸の集中砲火を浴びはじめていた。
 最初、《ブレードランナー》は、ドライブイン・シアター用のクズ映画と、ロジャー・コーマン監督の古典映画の管理会社として知られながら解散したばかりの、アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ社の残骸を吸収し、再建して誕生した中規模のフィルムウェイズ社による、そこそこの予算1300万ドルを投じた作品として準備されていた。ところが1980年12月、新作が連続して大コケしたあげく苦境に立たされたフィルムウェイズ社は、当初予定していた撮影開始のほんの1ヶ月前だというのに、製作予定を白紙にもどしてしまったのだ。
 かってテレビドラマ《わんぱくフリッパー》の主人公を演じていたブライアン・ケリーとともにこの作品の製作総指揮を担っていた、本来の脚本家ハンプトン・ファンチャーも、スコットと意見がこじれ、新たに《許されざる者》の脚本家デヴィッド・ピープルズが改稿のためにやってくる。原作者フィリップ・K・ディックが公の場で、不愉快そうな口調で『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の脚色について文句をつけたからだ。「わたしはファンチャーの書いた二通りの脚本に目を通したが、どちらも製作会社フィルムウェイズ社の手垢にまみれたひどいものだった。感傷的で、最初から最後までぎごちない内容だったよ」と。
 スコットとプロダクションは最初の大雨にさらされたわけだが、1980年の末に《ブレードランナー》の予算約2800万ドルを、アメリカのテレビ/映画製作プロダクションのタンデム・プロダクションズの三社との契約によって、ようやく調達した。
 撮影スケジュールは、1981年の3月9日から約16週間と予定しなおされ、バーバンクにあるワーナー・スタジオの野外撮影用地でほとんどを撮ることになった。
 スコットはこの空間をめいっぱい使い、2019年の人口が密集したロサンジェルスの風景を構築するつもりだった。想像上の街はひっきりなしに降り続ける酸性雨にけぶり、作り物とは思えない密集した町並みがひろがる世界。フリッツ・ラング監督の《メトロポリス》―《ブレードランナー》の最終的な印象はこの映画に影響されていっる。と監督は1981年当時に教えてくれた―(に登場した、天までそびえ眩暈をさそうゴシック調の高層建築や、似た雰囲気の薄暗い眺望に埋めつくされた世界になるはずだった。さらに監督は、2019年のロサンジェルスはアジア人に占められているという、社会学的な未来予測を作品につけ加えようとした)―1981年当時、この設定は論理的に正しかった。世界経済における日本のうなぎのぼりの急成長と、ほかのアジア系人種のアメリカへの流入があったためだ。しかし、時代の変遷とともに、いまやラテン系人種の人口がアジア系を押しのけてトップに立ってしまっている。
 これまでスコットは、《デュエリスト/決闘者》ではジョルジュ・ド・ラトゥール、《エイリアン》ではH・R・ギーガーとロン・コッブを美術面で起用してきた。彼はふたたび、完璧で文句のつけようがない魅力的な21世紀のロサンジェルスを構築するためのインスピレーションを与えてくれる者はいないかと、古今東西の芸術家ったちを検索しはじめた。
 最初に見つけたのは、またしても、映像的刺激に満ちていたヘヴィ・メタルだった。さらに、まったく異質なオランダ人芸術家フェルメールと、20世紀中期の芸術家エドワード・ホッパーを《ブレードランナー》の一連の映像の見本に選んだ。プロダクション全体にとってもっと重要なきっかけは、「未来の技術をよく考察している」アーティスト、シド・ミードのまるで写真のように精密なイラストを集めた画集『センチネル』を、スコットが見つけた時にやってきた。

 ミードは、フォード・モーターやフィリップ・エレクトロニクスの商業広告アーティストとしてデビュー。なかでも乗用車や、輸送業全域にわたるさまざまな車両のデザインを得意としていた。「実現可能な、先進的なデザインを描いているのです」と『メイキング・オブ・ブレードランナー』の中でミードは語り、さらに「そして、思い浮かべたものを疵ひとつない具体的な映像にしあげることもできる・・・・言いかえれば、わたしは独自の箱庭世界と、そこを走る車両を想像し、未来環境のなかに具体的に機能する形で実現させようとしているのですよ」とも言っていた。
(中略)
 監督は考えぬいたあげく、ギリシャ生まれのシンセサイザー音楽作曲家バンゲリス(《炎のランナー》)に映画音楽を依頼した。スコットは語る。「音楽は、ぼくの映画におけるもっとも重要な要素のひとつだといつも思っている。なんとも不思議な話に聞こえるかもしれないが、音楽は映像的な要素をもつメディアなのだ。ぼくはメロディに触発され、じつに多くの映像を夢想してきた。だからこそ、適切な音楽を文句の無い映画に加えてやれば、作品の出来は飛躍的にあがる。さらに時として映画音楽は、監督がつけ加えられずにいた要素をおぎなってくれる。または、さらにひとつ上の次元に、監督を引き上げてくれると表現してもいいだろう。バンゲリスが《ブレードランナー》に書いた音楽は、まさにこれにあたった」
(中略)
 ハリウッドの大手映画会社の内部の複雑な縦割り構造のなかで企画が二転三転するたびに、さらに刺激を増しながら。たぶんこの物語には疵があるし、(時おり)いいかげんでケチをつけられてもしかたのない部分も垣間見えるだろう。でも、スコットの想像力の王冠にはめこまれた実に輝かしい宝石のひとつなのは確かだ。これは、怯むことのない想像力と、その強烈なイメージにもとづく洗練されたアプローチが、現代SF映画のスタイルを一変させた。映画界における画期的事件だと見てまちがいないだろう。

 以上のように、1982年後半、リドリー・スコットは監督キャリアのなかで最も過酷な製作体験を、苦しみながらくぐり抜けた。ある意味、大ヒットによって利益をあげ、周囲から賞賛と祝福の嵐をうけた《エイリアン》は、商業的に大損害をもたらした《ブレードランナー》に比べると、薄ぼけた幽霊のようにも見える。







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Last updated  2012.01.18 21:37:42
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