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2014.02.03
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カテゴリ: 映画
いくら映画作りが進化しても、スーパー字幕自動焼付け機はできないだろうと・・・

スーパー字幕つくりは、それだけアナログの要素が多い職人技の世界だったのです。
日本でのスーパー字幕入り第1号作品『モロッコ』から説き起こし、生前の著者の最新作まで、まさにスーパー字幕とともに生きてきた職人のお話です。


【映画字幕は翻訳ではない】
字幕

清水俊二, 戸田奈津子著、早川書房、1992年刊

<「BOOK」データベース>より
1行10字、2行まで-。映画字幕の制約はまだまだある。この道50余年の著者が遺した字幕作りの真髄。
【目次】
スーパー字幕業誕生の記/同業10人/スーパー字幕と漢字制限/スーパー談義/文字と言葉/わが映画字幕人生/雑学大百科事典/Go and get’em!/スーパー字幕よもやま話/映画字幕あれこれ/心躍る20文字の世界/字幕談義/『オセロ』のスーパー字幕/字幕スーパーの文法/読み巧者/オン・デッキ/“フランチョー、コム・ヒア!”/男はタフでなければ生きて行けない/英会話/地下鉄/花嫁の父/アンナとミード/原田真人君のスーパー字幕改造談義/シネ英会話Lesson

<大使寸評>
スーパー字幕誕生のときからこの仕事に携わった清水さんのお話であるが…
とにかく、映画への愛と、雑学的な薀蓄に溢れている♪
そして、もちろん翻訳者としての気概も。

rakuten 映画字幕は翻訳ではない


次の章を読むと、大使はスーパー字幕を仕事にするには適任ではないかと思ったりもするのだが(簡単に務まるものではないで!)


<スーパー字幕よもやま話> p39~43
 英語が(あるいはフランス語が、イタリア語が)好きで、少々自信もあるのですが、どうしたらスーパー字幕の仕事にはいれるでしょう、という手紙をよこすスーパー字幕志願者があとをたたないので、この機会に「スーパー字幕作者」は「翻訳者」ではないことをはっきりさせておきたい。
 スーパー字幕を仕事にするには語学のほかに三つの条件がどうしても必要である。
 1 映画を愛し、映画を理解する力をそなえていること
 2 日本語、とくに話し言葉に熟達していること
 3 百科事典的な雑知識に好奇心を持っていること
 この三つのうち、1と2は当然のことだが、3の条件については案外忘れられている。この条件はスーパー字幕をつくるときほどではないにしても、翻訳という仕事には多かれ少なかれ必用なことなのである。

 映画で扱う題材は古今東西におよび、多岐にわたって際限がない。場所と時代だけをとり上げてみても、世界中の主要な国々の地理と歴史を、細かいことはともかく、だいたいは心得ていないと、いつどんな映画がとびこんでくるかわからない。もちろん、知らないことは書物などで調べればよいのだが、知識がまったくないと、調べる手がかりがつかめない。
 宇宙もののSFがふえてくると、辞書に載っていないSF用語がポンポンと飛び出してくる。つい先ごの『ジョーイ』のような白血病を扱った映画が、どういうわけか、外国では毎年つくられる。医学用語はどんなにチンプンカンでも耳で聞いているかぎりでは、意味がわからなくても、たいして違和感を感じない。ところがなまじ医学用語をむずかしい漢字で字幕に出すと、観客は抵抗を感じて、ストーリーを追うリズムを乱される。こんなときには字幕に工夫をしなければならない。

 美術、建築、ファッション、スポーツ、ゲーム、宝石、動物、植物・・・・いちいちげていたらきりがない。あらゆることに好奇心を持っていることが必要である。
 ニューヨーク、パリ、ロンドンといういつも映画に登場する都市については、だいたいの街の様子を頭に入れておかないと具合がわるい。ニューヨークでいえば、マンハッタン島は南北に細長く、Avenueが南北に通じている道路、Streetが島を東西に横断している道路、BroadwayはこのAvenueとStreetをつっ切って南の端から北の端にななめに通っている道路で、この道路の42丁目から59丁目までの劇場が集まっている部分をいわゆるブロードウェイと呼ぶくらいのことは知っておく方がいい。
 政治家ならカーター、ベースボールならベンチ、テレビならカースンといったような各界の有名人についてもひととおりの知識を持っていないと、何をいっているせりふなのか、見当がつかないことがある。

 アラン・アーキンの映画だったと思う。題名は忘れたのだが、アーキンがアパートの台所でスリッパか何かを振り上げて、ゴキブリを追いまわし、「こんちくしょう、ミルホウズ」とどなっている。ニクソン大統領時代の末期に製作された映画で、MilhousはRichard M. NixonのMなのである。スーパー字幕には「このニクソンめ!」としたが、ニクソンの名前のMがミルホウズであるという、あまり役にも立たぬことをたまたま知っていたので、「このニクソンめ!」という字幕をつくることができたのである。

(中略)
 私がスーパー字幕の仕事に入ったのが1931年。33年まで1年半の間、ニューヨークにいた。この1年半のニューヨーク滞在がその後の仕事におおいにプラスになった。私の経験からいわせていただくと、持ち前の好奇心でニューヨークの生活という機会を生かし、貪欲にあらゆるものを吸収したのが、ものをいったようである。
 好奇心というものがどんなに大切なものか、読者のみなさんにもよく考えていただきたいと思う。



清水さんは、自分の仕事をスーパー字幕屋とやや卑下して言うが、もちろんそこには職人技を誇る職人気質が隠れ見えるのです。

<スーパー字幕の文法> p63~68
 「字幕スーパーの文法」というタイトルで何か書いてほしいという注文をいただいた。 雑誌の編集者というものはうまい題を考えつくものだ。外国映画にスーパー字幕をつける仕事を半世紀―正確にいうと昭和6年11月からだから、52年間手がけていて、スーパー字幕について話をしたり書いたりしたことはたびたびあるが、「文法」という発想が頭にうかんだことはかつてなかった。だれかがいったのを耳にしたこともない。
 私にいわせると、「文法」などというかたくるしいことばはスーパー字幕にふさわしくない。もっともらしく理屈をつける気ならいくらでもつけられるが、私たち、スーパー字幕屋は、外国映画を映画館のお客にどうしたらわかりやすく見せられるかということだけを頭において仕事をしているので、肩をいからせて理屈をつけたくないのである。すくなくとも、私はそう考えている。

 「文法」を辞書でひくと「文章を作る上のきまり」とある。きまりで結構。つまり、「外国語のせりふを日本語の字幕に置き換えるときのきまり」が「字幕スーパーの文法」ということになる。
 せりふだけではなく、New Yorkとか500B.C.とかいう字幕、名刺、手紙などの文字を日本語字幕にして出すのもスーパー字幕屋の仕事である。この字幕の「きまり」にあてはめてつくらなければならないわけだ。
 ところで、この「きまり」はいつごろできたのであろう。翻訳の歴史は何百年になるのか、何千年になるのか知らないが、スーパー字幕はまだ半世紀の歴史しか持っていない。私はさいわい、スーパー字幕誕生のときからこの目で見てきているので、「きまり」ができ上がったいきさつをじかに知っている。まず、そんなところから話を始めたい。

 日本語スーパー字幕が初めてつけられた外国映画はマレーネ・ディートリッヒ、ゲーリー・クーパー主演のアメリカ映画『モロッコ』である。この映画のスーパー字幕をつくったのは当時「キネマ旬報」主筆だった田村幸彦で、昭和5年暮れにニューヨークのパラマウント東部撮影所まで出かけて行って仕事をした。私はこのひとからスーパー字幕づくりのABCを教えられた。
 そのときの体験を田村幸彦は次のように書いている。

…口で喋る言葉を日本文字に翻訳した際、どうしても翻訳の方が長くなる。だから台詞をそのまま忠実に訳して画面へ焼きつけてみると、人物が喋って終わって、シーンが次のカットへ移っても、まだ文字が出ているというような醜態を演じなくてはならない。喋る時間と文字の出ている時間とをできるだけ同一にしなくてはならない。
 次はどの位の程度まで台詞を翻訳するかという問題である。全部の翻訳をしたのでは、観客は読むのに気をとられ、画面の方への注意が行き届くまいし、あまり少なくては、今度は意味が通じない惧れがある。(「キネマ旬報」昭和6年2月1日号)


 ここで田村がいっていることはいまでもこのまま通用する。これがスーパー字幕の「きまり」の骨組みになり、その上に私たちが実際にスーパー字幕の仕事をしているあいだに得た経験が積み重ねられて、「字幕スーパーの文法」がしだいに固まっていったのである。私たちというのは田村幸彦をはじめ、内田岐三雄、林文三郎、秘田余四郎、柳沢保篤、楢原茂二、それに私といったスーパー字幕草創期に字幕づくりに苦労をした字幕屋仲間で、話し合って決めたわけではないまま使われている「字幕スーパーの文法」がしぜんにでき上がったのである。
 この文法(スーパー字幕づくりのきまり)はふつうの翻訳の場合とだいぶちがう。
 まずだいいちに、田村幸彦がいっているようにしゃべられているせりふを全部訳すのではなく、要約して日本語の字幕にしなければならない。もとのせりふをきちんと訳したのでは読みきれない場合が多い。
Juliet:What's in a name? That which we call a rose
By any other name would smell as sweet.

 ご存じ『ロミオとジュリエット』第二幕第二場のジュリエットの有名なせりふである。どの引用句辞典にも出ていて、ごまかしのきかぬせりふである。坪内逍遥から小田島雄志まで日本語訳はいろいろあるが、中野良夫訳は次のようになっている。
 「名前が一体何だろう。私たちがバラと呼んでいるあの花の、
  名前が何と変わろうとも、薫りに違いはないはずよ」

 『ロミオとジュリエット』は何回も映画につくられているが、われわれはイタリーのフランコ・ゼフィレッリ監督がつくったのがもっとも印象に残っている。ジュリエットはこの映画で売り出したオリビア・ハッセー。歌手布施明と結婚したあのオリビアで、彼女はこのせりふをおよそ8秒でしゃべった。したがって8秒で読みきれるスーパー字幕をつくらなければならない。入場料を払って映画を観にくる観客が8秒で読みきれなければならないのである。試写室で映画を見る先生がたの字幕を読む速度は標準にならないのだ。
(文字数制限により省略、続きは ここ


…とまあ、清水さんは職人技の奥義を披露してくれたが…
トップクラスの達人というべきか♪

外国映画と観客をつなぐインターフェースには、どうしても「スーパー字幕」というアナログな過程がいるわけで、自動化が困難のようです。


というわけで・・・
日本語吹き替えとスーパー字幕が選べる映画は、必ずスーパー字幕の方を選んでおります。





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Last updated  2014.02.03 07:26:45
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