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2015.04.13
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カテゴリ: カテゴリ未分類
図書館で『JR上野駅公園口』という本を手にしたが・・・・
この小説の主人公はJR上野駅付近で暮らすホームレスの男性である。
大使は転勤で2年間、東京暮らしをしたことがあるので、JR上野駅付近は土地勘もあり懐かしいのです。

柳美里さんのエッセイなどは読んだことがあるが、小説を読むのは初である。、
毎度のことではあるが・・・
虐げられる者、ハンデキャップを持つ者に寄り添う柳さんのスタンスがいいではないか。
ホームレスの実態に触れているところを見てみましょう。
p85~91
 だが、この公園で暮らしている大半は、もう誰かのために稼ぐ必用のない者だ。女房のため、子どものため、母親、父親、弟、妹のためという枷が外れて、自分の飲み食いのためだけに働けるほど、日雇いは楽な仕事ではない。

 昔は、家族が在った。家も在った。初めから段ボールやブルーシートの掘っ立て小屋で暮らしていた者なんていないし、成りたくてホームレスに成った者なんていない。こう成るにはこう成るだけの事情がある。サラ金の高利子の借金が膨らんで、夜逃げしたまま蒸発した者もいれば、金を盗んだり人を傷つけたりして刑務所にぶち込まれ、娑婆に出ても家族の許には帰れないという者もいる。会社をクビになって、女房に離婚されて子どもも家も取られて、捨て鉢になって酒や賭け事に溺れて一文無しになった者、転職を繰り返してハローワークに通い詰めても希望する職が見つからず、気落ちして抜け殻みたいになった4,50代の背広を着たホームレスもいる。

 落とし穴だったら這い上がることもできるが、断崖絶壁から足を滑らせたら、二度と再び人生に両足を下ろすことはできない。落ちることを止められるのは、死ぬ時だけだ。それでも、死ぬまでは生きなければならないから、細々と駄賃稼ぎをするしかない。

 秋になれば、公孫樹の木の下で銀杏を拾って、ゴザで干して売ることもできる。
 駅のゴミ箱で漫画雑誌や週刊誌を拾って古本屋に持って行けば、一冊何十円かにはなる。堅い雑誌よりかは、若い女の水着や下着が表紙の週刊誌の方が高値で引き取ってもらえる。ビニールシートの上に雑誌を並べて捨て本屋をやっている者もいるが、地回りのヤクザにショバ代を取られる場合もあるし、ホームレス同士で雑誌の取り合いになって突き飛ばされて線路に転落し、電車に撥ねられて死んだという話も聞く。一時でも何かを所有すれば、奪われ失うかもしれないという危険と不安に付き纏われ、気が気ではない。

 その点、その日に集めた分をその日のうちに換金できるアルミ缶は気が楽だ。回収用のビニール袋を持って、道端や植え込みやゴミ箱に捨ててあるアルミ缶を拾って歩く。リサイクル業者に持って行けば、一個二円、百個で二百円、千円稼ぐには五百個、二千円稼ぐには千個――。

 ここで暮らしはじめた67歳の時から、何度この銅像を見上げたかわからない。西郷さんは、いつもアメ横の方に体を向け、丸井のビルの辺りを眺めている。右手には犬の綱、左手は脇差しの鞘を握っているが、右手の方に力が籠もっているように見える。
(中略)

 ここは、上野公園の中でいちばん外の音が聞こえる場所だ。アルミ缶で膨らんだゴミ袋や捨て雑誌を積んだ自転車を引いて歩く道すがら、よく西郷さんの前で足を止めて、目を閉じた。
 車の走る音・・・・エンジン・・・・ブレーキ・・・・アスファルトを滑るタイヤの音・・・・ヘリコプターが旋回する音・・・・

 一歩、二歩、前に出た。帽子を目深に被っていたから、目を閉じたことは誰にも気付かれなかったと思う。足裏で盲人のための点字ブロックを黄色い線の上に立つと、瞼の暗闇の中で恐怖が伸び伸びと広がっていった。


ホームレスに陥るあたりを見てみましょう。
p128~152
 娘の洋子が心配して、原町の動物病院に看護師として勤めはじめた孫娘の麻里をちょくちょく寄越してくれていたが、しまいには「おじいちゃんが心配だから」と麻里はアパートを引き払って越してきた。 コタロウという名前の雄犬も一緒だった。胴と顔の長い、よく吠える茶色い小型犬だった。
 (中略)

 雨の朝だった。
 「むしむしすんね」と麻里が半分開けて網戸にした窓から、湿気を含んだ風が雨音と共に流れ込んできた。雨の匂いを嗅ぎながら、麻里がこしらえてくれたスクランブルエッグとトーストを食べて、麻里と犬を玄関まで見送った。21歳になったばかりの麻里を、祖父である自分とこの家に縛るわけにはいかない、と思った。

 <突然いなくなって、すみません。おじいさんは東京へ行きます。この家にはもう戻りません。探さないでください。いつも、おいしい朝飯を作ってくれて、ありがとう>と書き置きをして、押し入れから出稼ぎに行く時に使っていた黒いボストンバックを取り出し、身の回りの物を詰め込んだ。

 鹿島駅から常磐線に乗り、終点の上野駅で降りた。公園口改札から表に出ると、上野も雨だった。青信号が点滅し出したので、傘を差さずに横断歩道を渡った。渡り切ったところで、夜空を見上げた。大粒の雨が空から降ってくるのが見えて、雨で濡れた瞼が震えた。その夜は、東京文化会館の軒下で過ごすことにしたが、規則正しく地を打つ雨の音を聞いているうちに疲れと眠りが押し寄せ、ボストンバッグを枕にして眠っていた。
 生まれて初めての野宿だった。
(中略)

 テント村のホームレスの荷物はブルーシートと紐で小包のようにまとめられ、その一つ一つに、国、西、燈、す、すなどと車のナンバープレートのように、公園内の「縄張り」別に整理番号が付けられた荷物調査表がぶら下げてある。「国」が国立科学館、「西」が西郷さん、「燈」が上野東照宮のお化け燈籠、「す」が摺鉢山―、自分とシゲちゃんのコヤは「す」で摺鉢山の麓の木陰にあった。

<●いつも荷物(にもつ)の外側(そとがわ)の見(み)えるところにつけておくこと。
●この番号表(ばんごうひょう)の貸(か)し借(か)りや譲(ゆず)り渡(わた)しはできません。
●ほかの人(人)の荷物(にもつ)などをあずからないこと。
●荷物(にもつ)は必用(ひつよう)なものだけにして、大(おお)きくしないこと。
●次(つぎ)の更新(こうしん)については、平成(へいせい)24年(ねん)8月(がつ)になったらお知(し)らせします>
 と、漢字の後にいちいち平仮名の読みが入っていて、かえって読みづらいのだが、ホームレスたちには小学校卒業程度の学力もないと思っているのだろう。

 ガァーガァーガァー・・・・・テント村の樹上で、烏たちが鳴き交わしている。コヤの中の食料を狙っているのか、巣が近くにあるのか、時々ギャッギャッと鳴き声が険しくなり羽ばたきの音が混じるので、烏同士で争っているのかもしれない。
(中略)

 あの日は11月20日、一ヶ月間で五度目の「山狩り」だった。上野公園内や周囲には美術館や博物館が多く、天皇家の方々が訪問されるような展覧会やイベントが立てつづけに行われることもある。御料車の経路に上野公園の正岡子規記念球場の前の通りも入っているのだが、通りからは見えない場所にあるコヤまで撤去が強制されるということは、行幸啓の機会を利用して、上野公園で暮らす五百人ものホームレスを公園から追い出そう、とオリンピックを誘致しようとしている東京都が目論んでいるからだろう。

 その証拠に、天皇家の方々が皇居や赤坂御用地にお帰りになられた後も数時間はコヤを建てられないし、夜になって元の場所に戻ると、立入禁止の看板や柵や花壇が設置されていて、ホームレスは公園から締め出しを食らって路頭に迷う――、と解っていても、行幸啓の時は、雨が降っていようが、雪が降っていようが台風が接近していようが、コヤを畳んで公園の外へ出なければならないのだった。


2014年2月に書かれた「あとがき」の一部を見てみましょう。
p179~181
 この小説を構想しはじめたのは、12年前のことです。
 2006年に、ホームレスの方々の間で「山狩り」と呼ばれる、行幸啓直前に行われる「特別清掃」の取材を行いました。

 「山狩り」実施の日時の告知は、ホームレスの方々のブルーシートの「コヤ」に直接貼り紙を貼るという方法のみで、早くても実施1週間前、2日前の時もあるということで、東京在住の友人に頼んで上野公園に通ってもらい、張り紙の情報を送ってもらいました。

 上野恩賜公園近くのビジネスホテルに宿泊し、ホームレスの方々が「コヤ」を畳みはじめる午前7時から、公園に戻る5時までのあいだ、彼らの足跡を追いました。
 真冬の厳しい雨の日で、想像の何倍も辛い一日でした。

 「山狩り」の取材は三回行いました。
 彼らと話をして歩き、集団就職や出稼ぎで上京してきた東北出身者が多い、ということを知りました。彼らの話に相槌を打ったり質問をしたりしていると――、70代の男性が、わたしとのあいだの空間に、両手で三角と直線を描きました。
「あんたには在る。おれたちには無い。在るひとに、無いひとの気持ちは解らないよ」と言われました。
 彼が描いたのは、屋根と壁――、家でした。

 その後、8年の歳月が過ぎ、わたしはこの作品のことを気に掛けながら、5冊の小説と2冊のノンフィクションと2冊の対談集を出版しました。

 2011年3月11日に東日本大震災が起きました。
 3月12日に東京電力福島第一原子力発電所1号機が水素爆発、14日に3号機が水素爆発、15日に4号機が爆発しました。

 わたしは、原発から半径20キロ圏内の地域が「警戒区域」として閉ざされた4月22日の前日から原発周辺地域に通いはじめました。



有名人という利点を生かしているが、この持続するしつこさは、なかなかできることではないと思うのだ。



上野

柳美里著、河出書房新社、2014年刊

<「BOOK」データベース>より
東京オリンピックの前年、男は出稼ぎのため、上野駅に降り立った。そして男は彷徨い続ける、生者と死者が共存するこの国をー。構想から十二年、柳美里が福島県に生まれた一人の男の生涯を通じて“日本”を描く、新境地!

<読む前の大使寸評>
著者は南相馬市のFM放送で週一回のパーソナリティを務めているそうである。
毎度のことではあるが・・・
虐げられる者、ハンデキャップを持つ者に寄り添う著者のスタンスがいいではないか。

rakuten JR上野駅公園口






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Last updated  2015.04.13 07:04:48
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