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歩世亜さんComments
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料理小説にふれた 1998 年刊 のやや古い本であるが・・・ええでえ♪
図書館に予約していた『村上龍料理小説集』という本を、待つこと
3
週間ほどでゲットしたのです。
初期の短編集であるが・・・村上の地が表れているようで、期待できそうでおます。
【村上龍料理小説集】
村上龍著、講談社、
1998
年刊
<「
BOOK
」データベース>より
料理をつくらない、しかし料理の真髄を知悉している料理人ー村上龍。ニューヨーク・パリ・ウィーン・リオ・ローマそして東京
etc.
を舞台に、男たちとは人生の懊悩を語りあい、女たちとは悦楽を分かちあうそのテーブルにこそふさわしい
32
の掌編小説をお届けしましょう。
<読む前の大使寸評>
初期の短編集であるが・・・村上の地が表れているようで、期待できそうでおます。
<図書館予約:(
1/26
予約、副本
1
、予約
0
)>
村上龍料理小説集
ニューヨークのホットドックを、見てみましょう。
p66
~
70
<
Subject 7
>
うろうろと空席を捜す老人に整理員がすぐに近づいてきて、最低の青いチケットを見ると、まるで乞食を追い払うように手を振った。
「よかったら、ここに座りませんか?」
傍を通りかかった老人に私はそう言った。誘った友人が仕事で来られず、二人用のボックスシートにはその日私しかいなかったからだ。老人はしばらく私を見て、しゃがれた声でありがとうと言った。
老人はスーパーマーケットの紙袋ともう十年も使い込んでいるような柄の汚れたコウモリ傘を持っていた。
よほどテニスが好きなのだろうと思ったのだが、そうではないようだ。エバートが素晴らしいショットを放っても拍手をするわけではないし、相手選手を応援しているとも思えない。ボールを追う顔が無表情なのだ。
「エバートは勝ちそうですね」
私がそう声をかけても、眉を少し動かしただけだった。
第一セットをエバートが簡単に取った時、老人は、失礼、と言って席を立った。
帰ってしまったのかなと思っていると、ホットドックを二つ持って戻ってきた。一つを差しだし、私が財布を出すと、首を振った。
ホットドックには酢漬けにした細切りのキャベツがたっぷりとはさまって、ケチャップが隠れてしまうくらいマスタードが塗ってあった。
頬張って、顔を見合わせたとき、老人は初めて微笑んだ。
「君はいくつだ?」
そう聞いてきた。
34
だと答えると、
24
にしか見えない、とまた笑った。唇の端の深い皺にケチャップとマスタードが丸くついている。
「日本人は若く見られるんですよ」
私は言った。
「ここに住んでいるのかね」
「いや旅行者です」
空腹だった私はホットドック一つでは足りずに、プリツェルという塩パンを買うことにした。街頭のスタンドでもよく売っている最も一般的なパンで、普通の食パンをギュッと押し潰して丸めたように密度が濃く、細長く伸ばしたものをねじって結ぶようにつないで焼き、粗い岩塩を表面にまぶしてある。
二つ買おうとしたら老人は手を振って断った。
「ありがとう、あんまり好きじゃないんだ」
私が気分を悪くしたと思ったのか、ユダヤのパンだからね、と言った。
「わたしはユダヤ人なんだ、ルーマニアから来た、マルセイユに十年ほどいたけどね」
「ルーマニアか、ドラキュラが有名ですね」
「知らない、何だね?」
「ドラキュラですよ、血を吸う」
「知らないね」
「ルーマニアのトランシルバニア地方に住んでたらしいですよ」
「知らないけど、とにかくルーマニアは田舎だよ」
それからしばらく老人は黙った。だが、目はボールを追っていなかった。
「ホットドックとプリツェルとどっちがうまいと思う?」
ナプキンで口のまわりを拭きながらそう聞いた。
「同じようなものじゃないですかね」
「スポーツを観ながら食べるホットドックはおいしいと思わないか?」
「それも太陽の下でね」
「よく冷えたビールと」
「そうです」
「日本にもあるか?」
「アメリカのホットドックの方がおいしい」
「私もそう思う」
太陽の下で、テニスやフットボールを観ながら食べる時、ホットドックはほとんど他の何ものにもかえがたい食べものに変わってしまう。食べている時にそう感じるわけではない。太陽とスポーツから離れている時に、幸福感の象徴としてその味がよみがえるのである。それも脳や舌や胃にではなく、全身によみがえる。
「二十年前にマルセイユから船でアメリカに来た、私は妻を置いてルーマニアからマルセイユに出たんだが、マルセイユでフィンランドの女と一緒に住んで息子が生れた、ニューヨークには三人で来た、息子は
11
歳だった。
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週間ほど移民センターにとめられて、その間に、一度だけヤンキースタジアウムに行く機会があった、私達は三人でホットドックを食べたよ、君には信じられないかも知れないが、私には生まれて始めてのホットドックだったんだ、ソーセージとパンとケチャップとマスタードが口の中で混ざって、おいしかった、ずっとタクシーの運転手をやっていたが、少し金に余裕ができると三人でヤンキースタジアウムへ行って、そしてホットドックを食べた」
ウーム マルセイユから来たルーマニア人で妻はフィンランド人だった。そして今はニューヨークに来たってか・・・
まるで昔見た映画「アメリカ アメリカ」のような境遇である。
『村上龍料理小説集』
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■ 2020.02.20
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