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ココ百景(79) ガーデン・テーブルに乗って芝生を見張っているココである。ガーデン・テーブルは適当に移動させ、今ではポーチのコンクリートの上に置いている。洗濯物を干すのに芝生にステンレス・パイプの竿受け台を置くのに邪魔になるからと妻が「毎日の家事と庭でのお茶と、どちらが大事ですか?」と言ったからだ。陽射しの良い場所を洗濯物を干すのに優先的に使うにはガーデン・テーブルが邪魔になるのだそうだ。物干し場はもっと陽射しの良い花畑横があるのだが、部屋から出て直ぐに干せる場所は芝生の上だから其処が便利なのだ。洗濯物が多い時はそちらから干すが、少量の場合は近くの芝生が便利という訳である。ココにとってはテーブルの位置なぞ何処でも良いから、その日の気分で乗ったり乗らなかったりするのだが、妻がテーブルにも洗濯物を置けばその下に入り込んで日陰から庭を見張る事になる。夏場は日陰の方が良いという事だ。小説「猫と女と」(5) 「今、何を考えているか当ててみようか?」事が終わって煙草に火を付け、黙って天井を見て居る私を見て女は言った。「え?」と振り向きざま口から煙を噴出して訊き返した。「だって黙っているんだもの・・・。私達、随分と続いているわネ、もう何年に成るのか知らと想っているのでしょ?」元夫のデザイン事務所が潰れずに続いているせいか女は月に一度は事務所に顔を出す様になったらしい。「そうだな、猫を飼い始めて・・・もう七年ほどだから、八年目に入るかな」「あら、そんなに成る?早いわねえ」「余程馬が合ったんだろうなあ」「そうヨ、私達、絶対に相性が良いのよ。ねえ、死ぬまで一緒ヨ、良い事?約束して!」「フフフ、死ぬまで?そんな先の事なぞ分からない」少女の様な事を言う女に失笑してしまう。「約束して!」女は積極的に身体を委ねて来た。そして私の下部をまさぐって握った。「ほら、亦元気になって来た。タフじゃない。もっと堅くしてあげる」女はシーツを払いのけてそれを口に含んだ。 「もう良いヨ、今日は」「駄目、折角こんなになって来たのに、身体は正直ヨ」上に跨って女は自分の秘所にそれをあてがってそっと腰を下ろした。已む無く女のするがままにさせ煙草を飲み続け、疲れない様に気を散らした。すると女が燃えるのとは逆に冷静に成って行った。それが余計に長引かせる事になって女は悶え呻き始めた。「嗚呼・・・良い・・・」腰の動きが激しくなって両肩を鷲掴みにしている女の指先に力が入った。押さえつけられたまま見上げると女の顔が歪んで眉間に皺を立てている。これまでこういう姿勢でまじまじと女の顔を観る事は無かった。鼻が心もち上を向いて唇が半開きで可愛らしい形をしている。この唇を何度吸った事か。キッスをすると女は必ず舌を入れて来る。釣られてこちらも入れる。舌を絡ませると声に成らない呻きが聴こえる。キッスは慣れている積もりだったのに女の方が上手いと想った。経験が多いと想った。それとも本能的なものかも知れないとも想った。これが私を飽きさせないのだ。 煙草を持つ反対の手で女の首を引き寄せキッスをした。荒い息遣いの女を受け入れ舌を絡ませた。動きを合わせると気持も女と一体となって行った。女は腰の動きを緩やかにして深く浅くを繰り返し余韻を楽しむ様になった。立て続けの二度目だけになかなか気は出なかった。それが返って良いのか夢見心地の様に女は呻いた。「うーん、今日は最高。こんなの初めて。骨の髄から蕩けそう・・・」女は頬を胸に当てたまま肩で喘いで言った。私はと言えば絶頂に達しないまま為されるままの状態で気だるさだけが襲って来る。その内、女が重苦しく感じ始め、押しやった。「シャワーを浴びて来る」そう言い残して、手に残っているフィルターだけに成りそうな煙草をベッドサイドの灰皿に捻じ込んだ。開いたままのカーテンの間から大阪の夕闇が観えた。超高層のビルが目立つ。ふと五十を過ぎても若い頃と同じ様なセックスをしている自分が、景色のせいか新宿のホテルに居させる気分にさせた。 そう言えば十年前は東京の仕事が中心だった。京都や大阪よりも東京の方が仕事量が多いせいもあったが、地元での仕事よりも手離れが良く金にもなって魅力があった。地元のクライアントや建設業者は尾を引き易く、些細な事でも相談ばかりされ肝心の仕事が捗らなかった。言わば決断力に掛け、ねちっこい人間が多過ぎた。仕事柄、相談されるのは当然としても何でも仕事にかこつけて付き合わされた。その点、東京では仕事と私的な事との区別は明瞭で割り切って付き合え、私的な事で振り廻される事なぞ皆無だった。その方が性分に合い、交通費や宿泊代が余計に要っても、それだけに無駄な動きはせず効率よく動けた。総てが計画通り行く事が多く、お蔭で関東と軽井沢に多くの作品を残せた。それを想い出させるビルの光景が窓から見渡せるのだった。 「何しているの?シャワーしないの?だったら私が先にシャワーするワ」女の声で一瞬、目前の風景が新宿から大阪に戻った。「いや、是からだヨ。何だったら一緒に入っても良い」その声を待っていたかの様に女はベッドを出ると一緒にバス・ルームに入った。バスタブに湯が張る迄、二人は熱いシャワーを浴びた。抱き合ってお互いにシャンプーを塗りたくった。「こうして二人で洗い合うのは久しぶりネ」「そうかい?」「あら、覚えて居ないの?最初の時、洗ってくれたじゃない」「そんな昔の事なんか忘れてしまったさ」「薄情な人」女は一寸すねて見せた。「でも、この身体は覚えている。形の良い胸も」そう言って女の胸の突起を吸った。「フフ、嫌らしい人・・・」女はまんざらでも無い態度で身を任ねて来た。「ベッドよりも此処の方が刺激的だ」「濡れ場だから?」「そうかも知れない。水はそういう気にさせる・・・」女の身体を回し背後から抱き、襟足に唇を這わせながら空虚な気分を満たそうとした。 シャワーの後、一緒にバス・タブに浸かって身体を伸ばしていると激しかったベッドでの運動を忘れさせてくれ、そのままジッと動かず浸かっていると額が汗ばんで来て疲れも取れて行く。外はそろそろ秋風が吹き始めている。そう想うと軽井沢の寒さを想い出し、赤茶けた唐松林の風景が浮かんで来る。丁度十年前の今頃、軽井沢のホテルでも同じ様な事をしたのを想い出す。相手は事務所の若い助手だった。別荘を設計し、工事の様子をクライアントと共に観に行った時の事だ。クライアントと同じプリンス・ホテルに泊まり、翌日は現場監督を交えて共にゴルフをする遊びを兼ねた出張だった。三年ほど居た助手だったが、欧米で建築の修業をしたいと翌年辞めて行った。もう顔は半分忘れてしまったのに身体のしなやかさだけは今も想い出せる。一緒に浸かって居るこの女と比較するのは酷だが、それでも柳腰だけは似ていると想う。(6月上旬へつづく・月の上旬・中旬・下旬の3回連載予定)
2012/05/31
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ココ百景(78) ポーチの鉢の物影から周りを覗っているココは獲物を見張るのとは別に鉢や植え込みの緑の臭いを嗅いでいる事もある。雑食ではあるが野菜よりも肉系の方が好みながら時々、庭の雑草を食べている事を先日書いた。それは胃の中の毛玉を出す為にする行為であって決して食べて栄養にする訳ではない。大蛇が大きな獲物を丸呑みしてからある種の草を食べてゴロンと横になったまま腹の中の獲物を溶かすという話があるが、あれは嘘で、実際は胃酸が獲物を溶かして消化するのである。大きな生き物を丸呑みするから重くて身動きが取れず一週間からひと月ほどジッと消化されるまで動かないそうである。南米の原住民はジャングルでその姿をチラリとでも観れば飛んで逃げるという。自分も呑み込まれるからだ。消化できない骨と毛は体外に吐き出す。人々が偶然その亡き柄を発見するとゾッとするそうである。小説「猫と女と」(5) 「今、何を考えているか当ててみようか?」事が終わって煙草に火を付け、黙って天井を見て居る私を見て女は言った。「え?」と振り向きざま口から煙を噴出して訊き返した。「だって黙っているんだもの・・・。私達、随分と続いているわネ、もう何年に成るのか知らと想っているのでしょ?」元夫のデザイン事務所が潰れずに続いているせいか女は月に一度は事務所に顔を出す様になったらしい。「そうだな、猫を飼い始めて・・・もう七年ほどだから、八年目に入るかな」「あら、そんなに成る?早いわねえ」「余程馬が合ったんだろうなあ」「そうヨ、私達、絶対に相性が良いのよ。ねえ、死ぬまで一緒ヨ、良い事?約束して!」「フフフ、死ぬまで?そんな先の事なぞ分からない」少女の様な事を言う女に失笑してしまう。「約束して!」女は積極的に身体を委ねて来た。そして私の下部をまさぐって握った。「ほら、亦元気になって来た。タフじゃない。もっと堅くしてあげる」女はシーツを払いのけてそれを口に含んだ。 「もう良いヨ、今日は」「駄目、折角こんなになって来たのに、身体は正直ヨ」上に跨って女は自分の秘所にそれをあてがってそっと腰を下ろした。已む無く女のするがままにさせ煙草を飲み続け、疲れない様に気を散らした。すると女が燃えるのとは逆に冷静に成って行った。それが余計に長引かせる事になって女は悶え呻き始めた。「嗚呼・・・良い・・・」腰の動きが激しくなって両肩を鷲掴みにしている女の指先に力が入った。押さえつけられたまま見上げると女の顔が歪んで眉間に皺を立てている。これまでこういう姿勢でまじまじと女の顔を観る事は無かった。鼻が心もち上を向いて唇が半開きで可愛らしい形をしている。この唇を何度吸った事か。キッスをすると女は必ず舌を入れて来る。釣られてこちらも入れる。舌を絡ませると声に成らない呻きが聴こえる。キッスは慣れている積もりだったのに女の方が上手いと想った。経験が多いと想った。それとも本能的なものかも知れないとも想った。これが私を飽きさせないのだ。 煙草を持つ反対の手で女の首を引き寄せキッスをした。荒い息遣いの女を受け入れ舌を絡ませた。動きを合わせると気持も女と一体となって行った。女は腰の動きを緩やかにして深く浅くを繰り返し余韻を楽しむ様になった。立て続けの二度目だけになかなか気は出なかった。それが返って良いのか夢見心地の様に女は呻いた。「うーん、今日は最高。こんなの初めて。骨の髄から蕩けそう・・・」女は頬を胸に当てたまま肩で喘いで言った。私はと言えば絶頂に達しないまま為されるままの状態で気だるさだけが襲って来る。その内、女が重苦しく感じ始め、押しやった。「シャワーを浴びて来る」そう言い残して、手に残っているフィルターだけに成りそうな煙草をヘッドサイドの灰皿に捻じ込んだ。開いたままのカーテンの間から大阪の夕闇が観えた。超高層のビルが目立つ。ふと五十を過ぎても若い頃と同じ様なセックスをしている自分が、景色のせいか新宿のホテルに居させる気分にさせた。 そう言えば十年前は東京の仕事が中心だった。京都や大阪よりも東京の方が仕事量が多いせいもあったが、地元での仕事よりも手離れが良く金にもなって魅力があった。地元のクライアントや建設業者は尾を引き易く、些細な事でも相談ばかりされ肝心の仕事が捗らなかった。言わば決断力に掛け、ねちっこい人間が多過ぎた。仕事柄、相談されるのは当然としても何でも仕事にかこつけて付き合わされた。その点、東京では仕事と私的な事との区別は明瞭で割り切って付き合え、私的な事で振り廻される事なぞ皆無だった。その方が性分に合い、交通費や宿泊代が余計に要っても、それだけに無駄な動きはせず効率よく動けた。総てが計画通り行く事が多く、お蔭で関東と軽井沢に多くの作品を残せた。それを想い出させるビルの光景が窓から見渡せるのだった。 「何しているの?シャワーしないの?だったら私が先にシャワーするワ」女の声で一瞬、目前の風景が新宿から大阪に戻った。「いや、是からだヨ。何だったら一緒に入っても良い」その声を待っていたかの様に女はベッドを出ると一緒にバス・ルームに入った。バスタブに湯が張る迄、二人は熱いシャワーを浴びた。抱き合ってお互いにシャンプーを塗りたくった。「こうして二人で洗い合うのは久しぶりネ」「そうかい?」「あら、覚えて居ないの?最初の時、洗ってくれたじゃない」「そんな昔の事なんか忘れてしまったさ」「薄情な人」女は一寸すねて見せた。「でも、この身体は覚えている。形の良い胸も」そう言って女の胸の突起を吸った。「フフ、嫌らしい人・・・」女はまんざらでも無い態度で身を任ねて来た。「ベッドよりも此処の方が刺激的だ」「濡れ場だから?」「そうかも知れない。水はそういう気にさせる・・・」女の身体を回し背後から抱き、襟足に唇を這わせながら空虚な気分を満たそうとした。 シャワーの後、一緒にバス・タブに浸かって身体を伸ばしていると激しかったベッドでの運動を忘れさせてくれ、そのままジッと動かず浸かっていると額が汗ばんで来て疲れも取れて行く。外はそろそろ秋風が吹き始めている。そう想うと軽井沢の寒さを想い出し、赤茶けた唐松林の風景が浮かんで来る。丁度十年前の今頃、軽井沢のホテルでも同じ様な事をしたのを想い出す。相手は事務所の若い助手だった。別荘を設計し、工事の様子をクライアントと共に観に行った時の事だ。クライアントと同じプリンス・ホテルに泊まり、翌日は現場監督を交えて共にゴルフをする遊びを兼ねた出張だった。三年ほど居た助手だったが、欧米で建築の修業をしたいと翌年辞めて行った。もう顔は半分忘れてしまったのに身体のしなやかさだけは今も想い出せる。一緒に浸かって居るこの女と比較するのは酷だが、それでも柳腰だけは似ていると想う。(6月上旬へつづく・月の上旬・中旬・下旬の3回連載予定)
2012/05/30
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ココ百景(77) 猫は何故か物影が好きである。そこは外敵に襲われ難い場所であるからだろう。植え込みや鉢の蔭からジッと獲物を見張っていたり寝そべって寛いだりする。今日のココはガーデン・チェアーの下で庭を見張っている。芝生面よりも30cm程高い位置だから全体を見渡せるのである。上には椅子の座があるから身を守ってくれ横には椅子の足が両サイドにあって囲まれていて安心出来る。猫は神経質な生き物だから常に敵に襲われる心配をする訳である。外敵なぞ自宅に居れば現れることは無いのに習性でそういう態度をとってしまうのだろう。そのくせボクが椅子に腰掛けると其処から逃げ出す。ボクに悪戯されるのでは無いかと用心するのである。ボクはブラッシングして無駄毛を取り除いてやるだけなのに、それが煩わしいのだろう。最近は季節の変わり目で抜け毛が多く、毎日ブラッシングしないと其処ら中が綿毛が散って汚いのだ。そのくせ自分は身綺麗に毛づくろいばかりしているのだから身勝手なものである。小説「猫と女と」(5) 「今、何を考えているか当ててみようか?」事が終わって煙草に火を付け、黙って天井を見て居る私を見て女は言った。「え?」と振り向きざま口から煙を噴出して訊き返した。「だって黙っているんだもの・・・。私達、随分と続いているわネ、もう何年に成るのか知らと想っているのでしょ?」元夫のデザイン事務所が潰れずに続いているせいか女は月に一度は事務所に顔を出す様になったらしい。「そうだな、猫を飼い始めて・・・もう七年ほどだから、八年目に入るかな」「あら、そんなに成る?早いわねえ」「余程馬が合ったんだろうなあ」「そうヨ、私達、絶対に相性が良いのよ。ねえ、死ぬまで一緒ヨ、良い事?約束して!」「フフフ、死ぬまで?そんな先の事なぞ分からない」少女の様な事を言う女に失笑してしまう。「約束して!」女は積極的に身体を委ねて来た。そして私の下部をまさぐって握った。「ほら、亦元気になって来た。タフじゃない。もっと堅くしてあげる」女はシーツを払いのけてそれを口に含んだ。 「もう良いヨ、今日は」「駄目、折角こんなになって来たのに、身体は正直ヨ」上に跨って女は自分の秘所にそれをあてがってそっと腰を下ろした。已む無く女のするがままにさせ煙草を飲み続け、疲れない様に気を散らした。すると女が燃えるのとは逆に冷静に成って行った。それが余計に長引かせる事になって女は悶え呻き始めた。「嗚呼・・・良い・・・」腰の動きが激しくなって両肩を鷲掴みにしている女の指先に力が入った。押さえつけられたまま見上げると女の顔が歪んで眉間に皺を立てている。これまでこういう姿勢でまじまじと女の顔を観る事は無かった。鼻が心もち上を向いて唇が半開きで可愛らしい形をしている。この唇を何度吸った事か。キッスをすると女は必ず舌を入れて来る。釣られてこちらも入れる。舌を絡ませると声に成らない呻きが聴こえる。キッスは慣れている積もりだったのに女の方が上手いと想った。経験が多いと想った。それとも本能的なものかも知れないとも想った。これが私を飽きさせないのだ。 煙草を持つ反対の手で女の首を引き寄せキッスをした。荒い息遣いの女を受け入れ舌を絡ませた。動きを合わせると気持も女と一体となって行った。女は腰の動きを緩やかにして深く浅くを繰り返し余韻を楽しむ様になった。立て続けの二度目だけになかなか気は出なかった。それが返って良いのか夢見心地の様に女は呻いた。「うーん、今日は最高。こんなの初めて。骨の髄から蕩けそう・・・」女は頬を胸に当てたまま肩で喘いで言った。私はと言えば絶頂に達しないまま為されるままの状態で気だるさだけが襲って来る。その内、女が重苦しく感じ始め、押しやった。「シャワーを浴びて来る」そう言い残して、手に残っているフィルターだけに成りそうな煙草をベッドサイドの灰皿に捻じ込んだ。開いたままのカーテンの間から大阪の夕闇が観えた。超高層のビルが目立つ。ふと五十を過ぎても若い頃と同じ様なセックスをしている自分が、景色のせいか新宿のホテルに居させる気分にさせた。 そう言えば十年前は東京の仕事が中心だった。京都や大阪よりも東京の方が仕事量が多いせいもあったが、地元での仕事よりも手離れが良く金にもなって魅力があった。地元のクライアントや建設業者は尾を引き易く、些細な事でも相談ばかりされ肝心の仕事が捗らなかった。言わば決断力に掛け、ねちっこい人間が多過ぎた。仕事柄、相談されるのは当然としても何でも仕事にかこつけて付き合わされた。その点、東京では仕事と私的な事との区別は明瞭で割り切って付き合え、私的な事で振り廻される事なぞ皆無だった。その方が性分に合い、交通費や宿泊代が余計に要っても、それだけに無駄な動きはせず効率よく動けた。総てが計画通り行く事が多く、お蔭で関東と軽井沢に多くの作品を残せた。それを想い出させるビルの光景が窓から見渡せるのだった。 「何しているの?シャワーしないの?だったら私が先にシャワーするワ」女の声で一瞬、目前の風景が新宿から大阪に戻った。「いや、是からだヨ。何だったら一緒に入っても良い」その声を待っていたかの様に女はベッドを出ると一緒にバス・ルームに入った。バスタブに湯が張る迄、二人は熱いシャワーを浴びた。抱き合ってお互いにシャンプーを塗りたくった。「こうして二人で洗い合うのは久しぶりネ」「そうかい?」「あら、覚えて居ないの?最初の時、洗ってくれたじゃない」「そんな昔の事なんか忘れてしまったさ」「薄情な人」女は一寸すねて見せた。「でも、この身体は覚えている。形の良い胸も」そう言って女の胸の突起を吸った。「フフ、嫌らしい人・・・」女はまんざらでも無い態度で身を任ねて来た。「ベッドよりも此処の方が刺激的だ」「濡れ場だから?」「そうかも知れない。水はそういう気にさせる・・・」女の身体を回し背後から抱き、襟足に唇を這わせながら空虚な気分を満たそうとした。 シャワーの後、一緒にバス・タブに浸かって身体を伸ばしていると激しかったベッドでの運動を忘れさせてくれ、そのままジッと動かず浸かっていると額が汗ばんで来て疲れも取れて行く。外はそろそろ秋風が吹き始めている。そう想うと軽井沢の寒さを想い出し、赤茶けた唐松林の風景が浮かんで来る。丁度十年前の今頃、軽井沢のホテルでも同じ様な事をしたのを想い出す。相手は事務所の若い助手だった。別荘を設計し、工事の様子をクライアントと共に観に行った時の事だ。クライアントと同じプリンス・ホテルに泊まり、翌日は現場監督を交えて共にゴルフをする遊びを兼ねた出張だった。三年ほど居た助手だったが、欧米で建築の修業をしたいと翌年辞めて行った。もう顔は半分忘れてしまったのに身体のしなやかさだけは今も想い出せる。一緒に浸かって居るこの女と比較するのは酷だが、それでも柳腰だけは似ていると想う。(6月上旬へつづく・月の上旬・中旬・下旬の3回連載予定)
2012/05/29
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ココ百景(76) 相当量のココの写真が在る割には、分類整理してみると「ココ百景」用の写真に用いるのに案外少ない事が分かる。必ずしも上手に撮れていないものはなるべく外す様にしているのだが、それでもダブらない様に注意しているものの既にアップしたものを重複させてしまうかも知れない。もしそうなればお許し願いたいが、今の処、大丈夫の様である。最近は仕事が暇なので自宅に居る事が多く、ココと接する時間が多いのに写真を撮る事は少ない。ふだんは花や庭の風景ばかりを撮っている。其処にココが現れれば撮るが、ココは好き勝手に動くので想い通りのポーズを取ってくれない。ジャスト・タイミングを狙うとプイッと何処かへ行ってしまう。身勝手な奴である。小説「猫と女と」(5) 「今、何を考えているか当ててみようか?」事が終わって煙草に火を付け、黙って天井を見て居る私を見て女は言った。「え?」と振り向きざま口から煙を噴出して訊き返した。「だって黙っているんだもの・・・。私達、随分と続いているわネ、もう何年に成るのか知らと想っているのでしょ?」元夫のデザイン事務所が潰れずに続いているせいか女は月に一度は事務所に顔を出す様になったらしい。「そうだな、猫を飼い始めて・・・もう七年ほどだから、八年目に入るかな」「あら、そんなに成る?早いわねえ」「余程馬が合ったんだろうなあ」「そうヨ、私達、絶対に相性が良いのよ。ねえ、死ぬまで一緒ヨ、良い事?約束して!」「フフフ、死ぬまで?そんな先の事なぞ分からない」少女の様な事を言う女に失笑してしまう。「約束して!」女は積極的に身体を委ねて来た。そして私の下部をまさぐって握った。「ほら、亦元気になって来た。タフじゃない。もっと堅くしてあげる」女はシーツを払いのけてそれを口に含んだ。 「もう良いヨ、今日は」「駄目、折角こんなになって来たのに、身体は正直ヨ」上に跨って女は自分の秘所にそれをあてがってそっと腰を下ろした。已む無く女のするがままにさせ煙草を飲み続け、疲れない様に気を散らした。すると女が燃えるのとは逆に冷静に成って行った。それが余計に長引かせる事になって女は悶え呻き始めた。「嗚呼・・・良い・・・」腰の動きが激しくなって両肩を鷲掴みにしている女の指先に力が入った。押さえつけられたまま見上げると女の顔が歪んで眉間に皺を立てている。これまでこういう姿勢でまじまじと女の顔を観る事は無かった。鼻が心もち上を向いて唇が半開きで可愛らしい形をしている。この唇を何度吸った事か。キッスをすると女は必ず舌を入れて来る。釣られてこちらも入れる。舌を絡ませると声に成らない呻きが聴こえる。キッスは慣れている積もりだったのに女の方が上手いと想った。経験が多いと想った。それとも本能的なものかも知れないとも想った。これが私を飽きさせないのだ。 煙草を持つ反対の手で女の首を引き寄せキッスをした。荒い息遣いの女を受け入れ舌を絡ませた。動きを合わせると気持も女と一体となって行った。女は腰の動きを緩やかにして深く浅くを繰り返し余韻を楽しむ様になった。立て続けの二度目だけになかなか気は出なかった。それが返って良いのか夢見心地の様に女は呻いた。「うーん、今日は最高。こんなの初めて。骨の髄から蕩けそう・・・」女は頬を胸に当てたまま肩で喘いで言った。私はと言えば絶頂に達しないまま為されるままの状態で気だるさだけが襲って来る。その内、女が重苦しく感じ始め、押しやった。「シャワーを浴びて来る」そう言い残して、手に残っているフィルターだけに成りそうな煙草をヘッドサイドの灰皿に捻じ込んだ。開いたままのカーテンの間から大阪の夕闇が観えた。超高層のビルが目立つ。ふと五十を過ぎても若い頃と同じ様なセックスをしている自分が、景色のせいか新宿のホテルに居させる気分にさせた。 そう言えば十年前は東京の仕事が中心だった。京都や大阪よりも東京の方が仕事量が多いせいもあったが、地元での仕事よりも手離れが良く金にもなって魅力があった。地元のクライアントや建設業者は尾を引き易く、些細な事でも相談ばかりされ肝心の仕事が捗らなかった。言わば決断力に掛け、ねちっこい人間が多過ぎた。仕事柄、相談されるのは当然としても何でも仕事にかこつけて付き合わされた。その点、東京では仕事と私的な事との区別は明瞭で割り切って付き合え、私的な事で振り廻される事なぞ皆無だった。その方が性分に合い、交通費や宿泊代が余計に要っても、それだけに無駄な動きはせず効率よく動けた。総てが計画通り行く事が多く、お蔭で関東と軽井沢に多くの作品を残せた。それを想い出させるビルの光景が窓から見渡せるのだった。 「何しているの?シャワーしないの?だったら私が先にシャワーするワ」女の声で一瞬、目前の風景が新宿から大阪に戻った。「いや、是からだヨ。何だったら一緒に入っても良い」その声を待っていたかの様に女はベッドを出ると一緒にバス・ルームに入った。バスタブに湯が張る迄、二人は熱いシャワーを浴びた。抱き合ってお互いにシャンプーを塗りたくった。「こうして二人で洗い合うのは久しぶりネ」「そうかい?」「あら、覚えて居ないの?最初の時、洗ってくれたじゃない」「そんな昔の事なんか忘れてしまったさ」「薄情な人」女は一寸すねて見せた。「でも、この身体は覚えている。形の良い胸も」そう言って女の胸の突起を吸った。「フフ、嫌らしい人・・・」女はまんざらでも無い態度で身を任ねて来た。「ベッドよりも此処の方が刺激的だ」「濡れ場だから?」「そうかも知れない。水はそういう気にさせる・・・」女の身体を回し背後から抱き、襟足に唇を這わせながら空虚な気分を満たそうとした。 シャワーの後、一緒にバス・タブに浸かって身体を伸ばしていると激しかったベッドでの運動を忘れさせてくれ、そのままジッと動かず浸かっていると額が汗ばんで来て疲れも取れて行く。外はそろそろ秋風が吹き始めている。そう想うと軽井沢の寒さを想い出し、赤茶けた唐松林の風景が浮かんで来る。丁度十年前の今頃、軽井沢のホテルでも同じ様な事をしたのを想い出す。相手は事務所の若い助手だった。別荘を設計し、工事の様子をクライアントと共に観に行った時の事だ。クライアントと同じプリンス・ホテルに泊まり、翌日は現場監督を交えて共にゴルフをする遊びを兼ねた出張だった。三年ほど居た助手だったが、欧米で建築の修業をしたいと翌年辞めて行った。もう顔は半分忘れてしまったのに身体のしなやかさだけは今も想い出せる。一緒に浸かって居るこの女と比較するのは酷だが、それでも柳腰だけは似ていると想う。(6月上旬へつづく・月の上旬・中旬・下旬の3回連載予定)
2012/05/28
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ココ百景(75) 書斎の外のポーチや和風庭園での毛づくろいを終えるとココは家の外を左回りに廻って、台所・居間の外にあるパティに行く。其処の足元にもインターロッキングが敷き詰めてあるからココはゴロンと横に成って寛ぐ。何処にでも寛ぐ場所がある様なもので、自分のテリトリー内では怖いもの無しだ。ボクや家人の行く処には必ず自分も一緒に行かないと気が済まないらしく、家の内外周辺で知らない場所は無いと自任しているらしい。確かに人に付く犬と違って家に付く猫は、人間の都合で引っ越しをしても強制的に駕籠に入れて運ばない限り引っ越しはしないから残さねばならない。子供時分にそういう哀しい経験をしているだけに二度と猫は飼うまいと想ったのだったが、五十代に成って貰った猫(ココ)は、もう引っ越す事も無いからと安心して飼う事にしたのだった。お蔭でココは自由気ままに家の周りを我が物顔で遊び回っている。小説「猫と女と」(5) 「今、何を考えているか当ててみようか?」事が終わって煙草に火を付け、黙って天井を見て居る私を見て女は言った。「え?」と振り向きざま口から煙を噴出して訊き返した。「だって黙っているんだもの・・・。私達、随分と続いているわネ、もう何年に成るのか知らと想っているのでしょ?」元夫のデザイン事務所が潰れずに続いているせいか女は月に一度は事務所に顔を出す様になったらしい。「そうだな、猫を飼い始めて・・・もう七年ほどだから、八年目に入るかな」「あら、そんなに成る?早いわねえ」「余程馬が合ったんだろうなあ」「そうヨ、私達、絶対に相性が良いのよ。ねえ、死ぬまで一緒ヨ、良い事?約束して!」「フフフ、死ぬまで?そんな先の事なぞ分からない」少女の様な事を言う女に失笑してしまう。「約束して!」女は積極的に身体を委ねて来た。そして私の下部をまさぐって握った。「ほら、亦元気になって来た。タフじゃない。もっと堅くしてあげる」女はシーツを払いのけてそれを口に含んだ。 「もう良いヨ、今日は」「駄目、折角こんなになって来たのに、身体は正直ヨ」上に跨って女は自分の秘所にそれをあてがってそっと腰を下ろした。已む無く女のするがままにさせ煙草を飲み続け、疲れない様に気を散らした。すると女が燃えるのとは逆に冷静に成って行った。それが余計に長引かせる事になって女は悶え呻き始めた。「嗚呼・・・良い・・・」腰の動きが激しくなって両肩を鷲掴みにしている女の指先に力が入った。押さえつけられたまま見上げると女の顔が歪んで眉間に皺を立てている。これまでこういう姿勢でまじまじと女の顔を観る事は無かった。鼻が心もち上を向いて唇が半開きで可愛らしい形をしている。この唇を何度吸った事か。キッスをすると女は必ず舌を入れて来る。釣られてこちらも入れる。舌を絡ませると声に成らない呻きが聴こえる。キッスは慣れている積もりだったのに女の方が上手いと想った。経験が多いと想った。それとも本能的なものかも知れないとも想った。これが私を飽きさせないのだ。 煙草を持つ反対の手で女の首を引き寄せキッスをした。荒い息遣いの女を受け入れ舌を絡ませた。動きを合わせると気持も女と一体となって行った。女は腰の動きを緩やかにして深く浅くを繰り返し余韻を楽しむ様になった。立て続けの二度目だけになかなか気は出なかった。それが返って良いのか夢見心地の様に女は呻いた。「うーん、今日は最高。こんなの初めて。骨の髄から蕩けそう・・・」女は頬を胸に当てたまま肩で喘いで言った。私はと言えば絶頂に達しないまま為されるままの状態で気だるさだけが襲って来る。その内、女が重苦しく感じ始め、押しやった。「シャワーを浴びて来る」そう言い残して、手に残っているフィルターだけに成りそうな煙草をベッドサイドの灰皿に捻じ込んだ。開いたままのカーテンの間から大阪の夕闇が観えた。超高層のビルが目立つ。ふと五十を過ぎても若い頃と同じ様なセックスをしている自分が、景色のせいか新宿のホテルに居させる気分にさせた。 そう言えば十年前は東京の仕事が中心だった。京都や大阪よりも東京の方が仕事量が多いせいもあったが、地元での仕事よりも手離れが良く金にもなって魅力があった。地元のクライアントや建設業者は尾を引き易く、些細な事でも相談ばかりされ肝心の仕事が捗らなかった。言わば決断力に掛け、ねちっこい人間が多過ぎた。仕事柄、相談されるのは当然としても何でも仕事にかこつけて付き合わされた。その点、東京では仕事と私的な事との区別は明瞭で割り切って付き合え、私的な事で振り廻される事なぞ皆無だった。その方が性分に合い、交通費や宿泊代が余計に要っても、それだけに無駄な動きはせず効率よく動けた。総てが計画通り行く事が多く、お蔭で関東と軽井沢に多くの作品を残せた。それを想い出させるビルの光景が窓から見渡せるのだった。 「何しているの?シャワーしないの?だったら私が先にシャワーするワ」女の声で一瞬、目前の風景が新宿から大阪に戻った。「いや、是からだヨ。何だったら一緒に入っても良い」その声を待っていたかの様に女はベッドを出ると一緒にバス・ルームに入った。バスタブに湯が張る迄、二人は熱いシャワーを浴びた。抱き合ってお互いにシャンプーを塗りたくった。「こうして二人で洗い合うのは久しぶりネ」「そうかい?」「あら、覚えて居ないの?最初の時、洗ってくれたじゃない」「そんな昔の事なんか忘れてしまったさ」「薄情な人」女は一寸すねて見せた。「でも、この身体は覚えている。形の良い胸も」そう言って女の胸の突起を吸った。「フフ、嫌らしい人・・・」女はまんざらでも無い態度で身を任ねて来た。「ベッドよりも此処の方が刺激的だ」「濡れ場だから?」「そうかも知れない。水はそういう気にさせる・・・」女の身体を回し背後から抱き、襟足に唇を這わせながら空虚な気分を満たそうとした。 シャワーの後、一緒にバス・タブに浸かって身体を伸ばしていると激しかったベッドでの運動を忘れさせてくれ、そのままジッと動かず浸かっていると額が汗ばんで来て疲れも取れて行く。外はそろそろ秋風が吹き始めている。そう想うと軽井沢の寒さを想い出し、赤茶けた唐松林の風景が浮かんで来る。丁度十年前の今頃、軽井沢のホテルでも同じ様な事をしたのを想い出す。相手は事務所の若い助手だった。別荘を設計し、工事の様子をクライアントと共に観に行った時の事だ。クライアントと同じプリンス・ホテルに泊まり、翌日は現場監督を交えて共にゴルフをする遊びを兼ねた出張だった。三年ほど居た助手だったが、欧米で建築の修業をしたいと翌年辞めて行った。もう顔は半分忘れてしまったのに身体のしなやかさだけは今も想い出せる。一緒に浸かって居るこの女と比較するのは酷だが、それでも柳腰だけは似ていると想う。(6月上旬へつづく・月の上旬・中旬・下旬の3回連載予定)
2012/05/27
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ココ百景(74) 相当量のココの写真が在る割には、分類整理してみると「ココ百景」用の写真に用いるのに案外少ない事が分かる。必ずしも上手に撮れていないものはなるべく外す様にしているのだが、それでもダブらない様に注意しているものの既にアップしたものを重複させてしまうかも知れない。もしそうなればお許し願いたいが、今の処、大丈夫の様である。最近は仕事が暇なので自宅に居る事が多く、ココと接する時間が多いのに写真を撮る事は少ない。ふだんは花や庭の風景ばかりを撮っている。其処にココが現れれば撮るが、ココは好き勝手に動くので想い通りのポーズを取ってくれない。ジャスト・タイミングを狙うとプイッと何処かへ行ってしまう。身勝手な奴である。小説「猫と女と」(5) 「今、何を考えているか当ててみようか?」事が終わって煙草に火を付け、黙って天井を見て居る私を見て女は言った。「え?」と振り向きざま口から煙を噴出して訊き返した。「だって黙っているんだもの・・・。私達、随分と続いているわネ、もう何年に成るのか知らと想っているのでしょ?」元夫のデザイン事務所が潰れずに続いているせいか女は月に一度は事務所に顔を出す様になったらしい。「そうだな、猫を飼い始めて・・・もう七年ほどだから、八年目に入るかな」「あら、そんなに成る?早いわねえ」「余程馬が合ったんだろうなあ」「そうヨ、私達、絶対に相性が良いのよ。ねえ、死ぬまで一緒ヨ、良い事?約束して!」「フフフ、死ぬまで?そんな先の事なぞ分からない」少女の様な事を言う女に失笑してしまう。「約束して!」女は積極的に身体を委ねて来た。そして私の下部をまさぐって握った。「ほら、亦元気になって来た。タフじゃない。もっと堅くしてあげる」女はシーツを払いのけてそれを口に含んだ。 「もう良いヨ、今日は」「駄目、折角こんなになって来たのに、身体は正直ヨ」上に跨って女は自分の秘所にそれをあてがってそっと腰を下ろした。已む無く女のするがままにさせ煙草を飲み続け、疲れない様に気を散らした。すると女が燃えるのとは逆に冷静に成って行った。それが余計に長引かせる事になって女は悶え呻き始めた。「嗚呼・・・良い・・・」腰の動きが激しくなって両肩を鷲掴みにしている女の指先に力が入った。押さえつけられたまま見上げると女の顔が歪んで眉間に皺を立てている。これまでこういう姿勢でまじまじと女の顔を観る事は無かった。鼻が心もち上を向いて唇が半開きで可愛らしい形をしている。この唇を何度吸った事か。キッスをすると女は必ず舌を入れて来る。釣られてこちらも入れる。舌を絡ませると声に成らない呻きが聴こえる。キッスは慣れている積もりだったのに女の方が上手いと想った。経験が多いと想った。それとも本能的なものかも知れないとも想った。これが私を飽きさせないのだ。 煙草を持つ反対の手で女の首を引き寄せキッスをした。荒い息遣いの女を受け入れ舌を絡ませた。動きを合わせると気持も女と一体となって行った。女は腰の動きを緩やかにして深く浅くを繰り返し余韻を楽しむ様になった。立て続けの二度目だけになかなか気は出なかった。それが返って良いのか夢見心地の様に女は呻いた。「うーん、今日は最高。こんなの初めて。骨の髄から蕩けそう・・・」女は頬を胸に当てたまま肩で喘いで言った。私はと言えば絶頂に達しないまま為されるままの状態で気だるさだけが襲って来る。その内、女が重苦しく感じ始め、押しやった。「シャワーを浴びて来る」そう言い残して、手に残っているフィルターだけに成りそうな煙草をヘッドサイドの灰皿に捻じ込んだ。開いたままのカーテンの間から大阪の夕闇が観えた。超高層のビルが目立つ。ふと五十を過ぎても若い頃と同じ様なセックスをしている自分が、景色のせいか新宿のホテルに居させる気分にさせた。 そう言えば十年前は東京の仕事が中心だった。京都や大阪よりも東京の方が仕事量が多いせいもあったが、地元での仕事よりも手離れが良く金にもなって魅力があった。地元のクライアントや建設業者は尾を引き易く、些細な事でも相談ばかりされ肝心の仕事が捗らなかった。言わば決断力に掛け、ねちっこい人間が多過ぎた。仕事柄、相談されるのは当然としても何でも仕事にかこつけて付き合わされた。その点、東京では仕事と私的な事との区別は明瞭で割り切って付き合え、私的な事で振り廻される事なぞ皆無だった。その方が性分に合い、交通費や宿泊代が余計に要っても、それだけに無駄な動きはせず効率よく動けた。総てが計画通り行く事が多く、お蔭で関東と軽井沢に多くの作品を残せた。それを想い出させるビルの光景が窓から見渡せるのだった。 「何しているの?シャワーしないの?だったら私が先にシャワーするワ」女の声で一瞬、目前の風景が新宿から大阪に戻った。「いや、是からだヨ。何だったら一緒に入っても良い」その声を待っていたかの様に女はベッドを出ると一緒にバス・ルームに入った。バスタブに湯が張る迄、二人は熱いシャワーを浴びた。抱き合ってお互いにシャンプーを塗りたくった。「こうして二人で洗い合うのは久しぶりネ」「そうかい?」「あら、覚えて居ないの?最初の時、洗ってくれたじゃない」「そんな昔の事なんか忘れてしまったさ」「薄情な人」女は一寸すねて見せた。「でも、この身体は覚えている。形の良い胸も」そう言って女の胸の突起を吸った。「フフ、嫌らしい人・・・」女はまんざらでも無い態度で身を任ねて来た。「ベッドよりも此処の方が刺激的だ」「濡れ場だから?」「そうかも知れない。水はそういう気にさせる・・・」女の身体を回し背後から抱き、襟足に唇を這わせながら空虚な気分を満たそうとした。 シャワーの後、一緒にバス・タブに浸かって身体を伸ばしていると激しかったベッドでの運動を忘れさせてくれ、そのままジッと動かず浸かっていると額が汗ばんで来て疲れも取れて行く。外はそろそろ秋風が吹き始めている。そう想うと軽井沢の寒さを想い出し、赤茶けた唐松林の風景が浮かんで来る。丁度十年前の今頃、軽井沢のホテルでも同じ様な事をしたのを想い出す。相手は事務所の若い助手だった。別荘を設計し、工事の様子をクライアントと共に観に行った時の事だ。クライアントと同じプリンス・ホテルに泊まり、翌日は現場監督を交えて共にゴルフをする遊びを兼ねた出張だった。三年ほど居た助手だったが、欧米で建築の修業をしたいと翌年辞めて行った。もう顔は半分忘れてしまったのに身体のしなやかさだけは今も想い出せる。一緒に浸かって居るこの女と比較するのは酷だが、それでも柳腰だけは似ていると想う。(6月上旬へつづく・月の上旬・中旬・下旬の3回連載予定)
2012/05/26
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ココ百景(73) 外の日溜まりのポーチでは置かれた鉢のグリーンを嗅ぐのもココの習性である。時には芝生や雑草を嗅いで食べている時もある。草なぞ食べて大丈夫か知らと想うが、猫の整腸剤なのかも知れない。それで胃の中の毛玉を掃除をしているのではないだろうかと想っている。ちなみに時々、食べた物を吐き出しているからだ。臭いはしないが気持ちが悪いから直ぐに掃除して片づける。が、糞では無いので悪い気はしないものの、何処か悪いのではないかと心配したものだった。毛玉は毛づくろいしているのだから相当量が胃の中に溜まる筈である。その証拠に部屋のあちこちに綿毛の塊が落ちているので抜け毛が激しい事が分かる。特に季節の変わり目はよく抜け落ちる。掃除を小まめにしないと床が汚なく観え、フローリングの場合は掃除が楽だが、カーペットの場合は面倒である。小説「猫と女と」(5) 「今、何を考えているか当ててみようか?」事が終わって煙草に火を付け、黙って天井を見て居る私を見て女は言った。「え?」と振り向きざま口から煙を噴出して訊き返した。「だって黙っているんだもの・・・。私達、随分と続いているわネ、もう何年に成るのか知らと想っているのでしょ?」元夫のデザイン事務所が潰れずに続いているせいか女は月に一度は事務所に顔を出す様になったらしい。「そうだな、猫を飼い始めて・・・もう七年ほどだから、八年目に入るかな」「あら、そんなに成る?早いわねえ」「余程馬が合ったんだろうなあ」「そうヨ、私達、絶対に相性が良いのよ。ねえ、死ぬまで一緒ヨ、良い事?約束して!」「フフフ、死ぬまで?そんな先の事なぞ分からない」少女の様な事を言う女に失笑してしまう。「約束して!」女は積極的に身体を委ねて来た。そして私の下部をまさぐって握った。「ほら、亦元気になって来た。タフじゃない。もっと堅くしてあげる」女はシーツを払いのけてそれを口に含んだ。 「もう良いヨ、今日は」「駄目、折角こんなになって来たのに、身体は正直ヨ」上に跨って女は自分の秘所にそれをあてがってそっと腰を下ろした。已む無く女のするがままにさせ煙草を飲み続け、疲れない様に気を散らした。すると女が燃えるのとは逆に冷静に成って行った。それが余計に長引かせる事になって女は悶え呻き始めた。「嗚呼・・・良い・・・」腰の動きが激しくなって両肩を鷲掴みにしている女の指先に力が入った。押さえつけられたまま見上げると女の顔が歪んで眉間に皺を立てている。これまでこういう姿勢でまじまじと女の顔を観る事は無かった。鼻が心もち上を向いて唇が半開きで可愛らしい形をしている。この唇を何度吸った事か。キッスをすると女は必ず舌を入れて来る。釣られてこちらも入れる。舌を絡ませると声に成らない呻きが聴こえる。キッスは慣れている積もりだったのに女の方が上手いと想った。経験が多いと想った。それとも本能的なものかも知れないとも想った。これが私を飽きさせないのだ。 煙草を持つ反対の手で女の首を引き寄せキッスをした。荒い息遣いの女を受け入れ舌を絡ませた。動きを合わせると気持も女と一体となって行った。女は腰の動きを緩やかにして深く浅くを繰り返し余韻を楽しむ様になった。立て続けの二度目だけになかなか気は出なかった。それが返って良いのか夢見心地の様に女は呻いた。「うーん、今日は最高。こんなの初めて。骨の髄から蕩けそう・・・」女は頬を胸に当てたまま肩で喘いで言った。私はと言えば絶頂に達しないまま為されるままの状態で気だるさだけが襲って来る。その内、女が重苦しく感じ始め、押しやった。「シャワーを浴びて来る」そう言い残して、手に残っているフィルターだけに成りそうな煙草をベッドサイドの灰皿に捻じ込んだ。開いたままのカーテンの間から大阪の夕闇が観えた。超高層のビルが目立つ。ふと五十を過ぎても若い頃と同じ様なセックスをしている自分が、景色のせいか新宿のホテルに居させる気分にさせた。 そう言えば十年前は東京の仕事が中心だった。京都や大阪よりも東京の方が仕事量が多いせいもあったが、地元での仕事よりも手離れが良く金にもなって魅力があった。地元のクライアントや建設業者は尾を引き易く、些細な事でも相談ばかりされ肝心の仕事が捗らなかった。言わば決断力に掛け、ねちっこい人間が多過ぎた。仕事柄、相談されるのは当然としても何でも仕事にかこつけて付き合わされた。その点、東京では仕事と私的な事との区別は明瞭で割り切って付き合え、私的な事で振り廻される事なぞ皆無だった。その方が性分に合い、交通費や宿泊代が余計に要っても、それだけに無駄な動きはせず効率よく動けた。総てが計画通り行く事が多く、お蔭で関東と軽井沢に多くの作品を残せた。それを想い出させるビルの光景が窓から見渡せるのだった。 「何しているの?シャワーしないの?だったら私が先にシャワーするワ」女の声で一瞬、目前の風景が新宿から大阪に戻った。「いや、是からだヨ。何だったら一緒に入っても良い」その声を待っていたかの様に女はベッドを出ると一緒にバス・ルームに入った。バスタブに湯が張る迄、二人は熱いシャワーを浴びた。抱き合ってお互いにシャンプーを塗りたくった。「こうして二人で洗い合うのは久しぶりネ」「そうかい?」「あら、覚えて居ないの?最初の時、洗ってくれたじゃない」「そんな昔の事なんか忘れてしまったさ」「薄情な人」女は一寸すねて見せた。「でも、この身体は覚えている。形の良い胸も」そう言って女の胸の突起を吸った。「フフ、嫌らしい人・・・」女はまんざらでも無い態度で身を任ねて来た。「ベッドよりも此処の方が刺激的だ」「濡れ場だから?」「そうかも知れない。水はそういう気にさせる・・・」女の身体を回し背後から抱き、襟足に唇を這わせながら空虚な気分を満たそうとした。 シャワーの後、一緒にバス・タブに浸かって身体を伸ばしていると激しかったベッドでの運動を忘れさせてくれ、そのままジッと動かず浸かっていると額が汗ばんで来て疲れも取れて行く。外はそろそろ秋風が吹き始めている。そう想うと軽井沢の寒さを想い出し、赤茶けた唐松林の風景が浮かんで来る。丁度十年前の今頃、軽井沢のホテルでも同じ様な事をしたのを想い出す。相手は事務所の若い助手だった。別荘を設計し、工事の様子をクライアントと共に観に行った時の事だ。クライアントと同じプリンス・ホテルに泊まり、翌日は現場監督を交えて共にゴルフをする遊びを兼ねた出張だった。三年ほど居た助手だったが、欧米で建築の修業をしたいと翌年辞めて行った。もう顔は半分忘れてしまったのに身体のしなやかさだけは今も想い出せる。一緒に浸かって居るこの女と比較するのは酷だが、それでも柳腰だけは似ていると想う。(6月上旬へつづく・月の上旬・中旬・下旬の3回連載予定)
2012/05/25
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ココ百景(72) 外に出して貰ったココは先ずポーチの端の植え込みの手前で毛づくろいをし、やがて周りを見渡し芝生の方へ歩き出す。その先は追跡しないから想像するしかないが、家の周辺に居る事は間違いない。猫は家に付き、犬は人に付くと言われる由縁である。多分、パティオの薔薇ゲートを越え、花壇の周りを徘徊してからガレージの塀の上にでも乗って表の通りを眺めるのだろう。ココも人間と同じ様に左回りの行動をとる。たまたま偶然なのか、それとも本能的に心臓のある身体の左側を庇うせいで左回りに行動するのか知らないが、ポーチを出て芝生から左の方へ消えて行くのが常である。尤も、左側には花畑も在り、朝の用足しをするのに適切な場所に成っているのかも知れない。しかし、糞をすれば臭う。そうすれば妻が怒る。最近は臭いがしないから裏の空き家にでも行っているのかも知れない。小説「猫と女と」(5) 「今、何を考えているか当ててみようか?」事が終わって煙草に火を付け、黙って天井を見て居る私を見て女は言った。「え?」と振り向きざま口から煙を噴出して訊き返した。「だって黙っているんだもの・・・。私達、随分と続いているわネ、もう何年に成るのか知らと想っているのでしょ?」元夫のデザイン事務所が潰れずに続いているせいか女は月に一度は事務所に顔を出す様になったらしい。「そうだな、猫を飼い始めて・・・もう七年ほどだから、八年目に入るかな」「あら、そんなに成る?早いわねえ」「余程馬が合ったんだろうなあ」「そうヨ、私達、絶対に相性が良いのよ。ねえ、死ぬまで一緒ヨ、良い事?約束して!」「フフフ、死ぬまで?そんな先の事なぞ分からない」少女の様な事を言う女に失笑してしまう。「約束して!」女は積極的に身体を委ねて来た。そして私の下部をまさぐって握った。「ほら、亦元気になって来た。タフじゃない。もっと堅くしてあげる」女はシーツを払いのけてそれを口に含んだ。 「もう良いヨ、今日は」「駄目、折角こんなになって来たのに、身体は正直ヨ」上に跨って女は自分の秘所にそれをあてがってそっと腰を下ろした。已む無く女のするがままにさせ煙草を飲み続け、疲れない様に気を散らした。すると女が燃えるのとは逆に冷静に成って行った。それが余計に長引かせる事になって女は悶え呻き始めた。「嗚呼・・・良い・・・」腰の動きが激しくなって両肩を鷲掴みにしている女の指先に力が入った。押さえつけられたまま見上げると女の顔が歪んで眉間に皺を立てている。これまでこういう姿勢でまじまじと女の顔を観る事は無かった。鼻が心もち上を向いて唇が半開きで可愛らしい形をしている。この唇を何度吸った事か。キッスをすると女は必ず舌を入れて来る。釣られてこちらも入れる。舌を絡ませると声に成らない呻きが聴こえる。キッスは慣れている積もりだったのに女の方が上手いと想った。経験が多いと想った。それとも本能的なものかも知れないとも想った。これが私を飽きさせないのだ。 煙草を持つ反対の手で女の首を引き寄せキッスをした。荒い息遣いの女を受け入れ舌を絡ませた。動きを合わせると気持も女と一体となって行った。女は腰の動きを緩やかにして深く浅くを繰り返し余韻を楽しむ様になった。立て続けの二度目だけになかなか気は出なかった。それが返って良いのか夢見心地の様に女は呻いた。「うーん、今日は最高。こんなの初めて。骨の髄から蕩けそう・・・」女は頬を胸に当てたまま肩で喘いで言った。私はと言えば絶頂に達しないまま為されるままの状態で気だるさだけが襲って来る。その内、女が重苦しく感じ始め、押しやった。「シャワーを浴びて来る」そう言い残して、手に残っているフィルターだけに成りそうな煙草をベッドサイドの灰皿に捻じ込んだ。開いたままのカーテンの間から大阪の夕闇が観えた。超高層のビルが目立つ。ふと五十を過ぎても若い頃と同じ様なセックスをしている自分が、景色のせいか新宿のホテルに居させる気分にさせた。 そう言えば十年前は東京の仕事が中心だった。京都や大阪よりも東京の方が仕事量が多いせいもあったが、地元での仕事よりも手離れが良く金にもなって魅力があった。地元のクライアントや建設業者は尾を引き易く、些細な事でも相談ばかりされ肝心の仕事が捗らなかった。言わば決断力に掛け、ねちっこい人間が多過ぎた。仕事柄、相談されるのは当然としても何でも仕事にかこつけて付き合わされた。その点、東京では仕事と私的な事との区別は明瞭で割り切って付き合え、私的な事で振り廻される事なぞ皆無だった。その方が性分に合い、交通費や宿泊代が余計に要っても、それだけに無駄な動きはせず効率よく動けた。総てが計画通り行く事が多く、お蔭で関東と軽井沢に多くの作品を残せた。それを想い出させるビルの光景が窓から見渡せるのだった。 「何しているの?シャワーしないの?だったら私が先にシャワーするワ」女の声で一瞬、目前の風景が新宿から大阪に戻った。「いや、是からだヨ。何だったら一緒に入っても良い」その声を待っていたかの様に女はベッドを出ると一緒にバス・ルームに入った。バスタブに湯が張る迄、二人は熱いシャワーを浴びた。抱き合ってお互いにシャンプーを塗りたくった。「こうして二人で洗い合うのは久しぶりネ」「そうかい?」「あら、覚えて居ないの?最初の時、洗ってくれたじゃない」「そんな昔の事なんか忘れてしまったさ」「薄情な人」女は一寸すねて見せた。「でも、この身体は覚えている。形の良い胸も」そう言って女の胸の突起を吸った。「フフ、嫌らしい人・・・」女はまんざらでも無い態度で身を任ねて来た。「ベッドよりも此処の方が刺激的だ」「濡れ場だから?」「そうかも知れない。水はそういう気にさせる・・・」女の身体を回し背後から抱き、襟足に唇を這わせながら空虚な気分を満たそうとした。 シャワーの後、一緒にバス・タブに浸かって身体を伸ばしていると激しかったベッドでの運動を忘れさせてくれ、そのままジッと動かず浸かっていると額が汗ばんで来て疲れも取れて行く。外はそろそろ秋風が吹き始めている。そう想うと軽井沢の寒さを想い出し、赤茶けた唐松林の風景が浮かんで来る。丁度十年前の今頃、軽井沢のホテルでも同じ様な事をしたのを想い出す。相手は事務所の若い助手だった。別荘を設計し、工事の様子をクライアントと共に観に行った時の事だ。クライアントと同じプリンス・ホテルに泊まり、翌日は現場監督を交えて共にゴルフをする遊びを兼ねた出張だった。三年ほど居た助手だったが、欧米で建築の修業をしたいと翌年辞めて行った。もう顔は半分忘れてしまったのに身体のしなやかさだけは今も想い出せる。一緒に浸かって居るこの女と比較するのは酷だが、それでも柳腰だけは似ていると想う。(6月上旬へつづく・月の上旬・中旬・下旬の3回連載予定)
2012/05/24
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ココ百景(71) 外へ出たいココは、ガラス戸をよう開ける事が出来ないからボクが開けるのを待つ事になる。しかし、ボクが敢えて開けずに居ると仕方無くガラス戸の手前でウロウロしたりジッと外の景色を見ながら無言の業をする様な格好に成る。いづれ開けて貰えるまでの辛抱である。午前中は未だ肌寒いので日向ぼっこをして待つのも悪くないと、ココは自分の為に在ると想っているカーペットの上で毛づくろいを始めたり寝転んだりする。兎に角、日溜まりで時間を潰すのである。ペットは飼い主の気分次第で行動が制限されるので自分の意のままに成らない時は大人しい。しかし、一旦外に出して貰えると自由になったと想うのか、ポーチでゴロゴロと寝転がったり芝生を走り回ったりする。それがココの至福の時である。小説「猫と女と」(5) 「今、何を考えているか当ててみようか?」事が終わって煙草に火を付け、黙って天井を見て居る私を見て女は言った。「え?」と振り向きざま口から煙を噴出して訊き返した。「だって黙っているんだもの・・・。私達、随分と続いているわネ、もう何年に成るのか知らと想っているのでしょ?」元夫のデザイン事務所が潰れずに続いているせいか女は月に一度は事務所に顔を出す様になったらしい。「そうだな、猫を飼い始めて・・・もう七年ほどだから、八年目に入るかな」「あら、そんなに成る?早いわねえ」「余程馬が合ったんだろうなあ」「そうヨ、私達、絶対に相性が良いのよ。ねえ、死ぬまで一緒ヨ、良い事?約束して!」「フフフ、死ぬまで?そんな先の事なぞ分からない」少女の様な事を言う女に失笑してしまう。「約束して!」女は積極的に身体を委ねて来た。そして私の下部をまさぐって握った。「ほら、亦元気になって来た。タフじゃない。もっと堅くしてあげる」女はシーツを払いのけてそれを口に含んだ。 「もう良いヨ、今日は」「駄目、折角こんなになって来たのに、身体は正直ヨ」上に跨って女は自分の秘所にそれをあてがってそっと腰を下ろした。已む無く女のするがままにさせ煙草を飲み続け、疲れない様に気を散らした。すると女が燃えるのとは逆に冷静に成って行った。それが余計に長引かせる事になって女は悶え呻き始めた。「嗚呼・・・良い・・・」腰の動きが激しくなって両肩を鷲掴みにしている女の指先に力が入った。押さえつけられたまま見上げると女の顔が歪んで眉間に皺を立てている。これまでこういう姿勢でまじまじと女の顔を観る事は無かった。鼻が心もち上を向いて唇が半開きで可愛らしい形をしている。この唇を何度吸った事か。キッスをすると女は必ず舌を入れて来る。釣られてこちらも入れる。舌を絡ませると声に成らない呻きが聴こえる。キッスは慣れている積もりだったのに女の方が上手いと想った。経験が多いと想った。それとも本能的なものかも知れないとも想った。これが私を飽きさせないのだ。 煙草を持つ反対の手で女の首を引き寄せキッスをした。荒い息遣いの女を受け入れ舌を絡ませた。動きを合わせると気持も女と一体となって行った。女は腰の動きを緩やかにして深く浅くを繰り返し余韻を楽しむ様になった。立て続けの二度目だけになかなか気は出なかった。それが返って良いのか夢見心地の様に女は呻いた。「うーん、今日は最高。こんなの初めて。骨の髄から蕩けそう・・・」女は頬を胸に当てたまま肩で喘いで言った。私はと言えば絶頂に達しないまま為されるままの状態で気だるさだけが襲って来る。その内、女が重苦しく感じ始め、押しやった。「シャワーを浴びて来る」そう言い残して、手に残っているフィルターだけに成りそうな煙草をヘッドサイドの灰皿に捻じ込んだ。開いたままのカーテンの間から大阪の夕闇が観えた。超高層のビルが目立つ。ふと五十を過ぎても若い頃と同じ様なセックスをしている自分が、景色のせいか新宿のホテルに居させる気分にさせた。 そう言えば十年前は東京の仕事が中心だった。京都や大阪よりも東京の方が仕事量が多いせいもあったが、地元での仕事よりも手離れが良く金にもなって魅力があった。地元のクライアントや建設業者は尾を引き易く、些細な事でも相談ばかりされ肝心の仕事が捗らなかった。言わば決断力に掛け、ねちっこい人間が多過ぎた。仕事柄、相談されるのは当然としても何でも仕事にかこつけて付き合わされた。その点、東京では仕事と私的な事との区別は明瞭で割り切って付き合え、私的な事で振り廻される事なぞ皆無だった。その方が性分に合い、交通費や宿泊代が余計に要っても、それだけに無駄な動きはせず効率よく動けた。総てが計画通り行く事が多く、お蔭で関東と軽井沢に多くの作品を残せた。それを想い出させるビルの光景が窓から見渡せるのだった。 「何しているの?シャワーしないの?だったら私が先にシャワーするワ」女の声で一瞬、目前の風景が新宿から大阪に戻った。「いや、是からだヨ。何だったら一緒に入っても良い」その声を待っていたかの様に女はベッドを出ると一緒にバス・ルームに入った。バスタブに湯が張る迄、二人は熱いシャワーを浴びた。抱き合ってお互いにシャンプーを塗りたくった。「こうして二人で洗い合うのは久しぶりネ」「そうかい?」「あら、覚えて居ないの?最初の時、洗ってくれたじゃない」「そんな昔の事なんか忘れてしまったさ」「薄情な人」女は一寸すねて見せた。「でも、この身体は覚えている。形の良い胸も」そう言って女の胸の突起を吸った。「フフ、嫌らしい人・・・」女はまんざらでも無い態度で身を任ねて来た。「ベッドよりも此処の方が刺激的だ」「濡れ場だから?」「そうかも知れない。水はそういう気にさせる・・・」女の身体を回し背後から抱き、襟足に唇を這わせながら空虚な気分を満たそうとした。 シャワーの後、一緒にバス・タブに浸かって身体を伸ばしていると激しかったベッドでの運動を忘れさせてくれ、そのままジッと動かず浸かっていると額が汗ばんで来て疲れも取れて行く。外はそろそろ秋風が吹き始めている。そう想うと軽井沢の寒さを想い出し、赤茶けた唐松林の風景が浮かんで来る。丁度十年前の今頃、軽井沢のホテルでも同じ様な事をしたのを想い出す。相手は事務所の若い助手だった。別荘を設計し、工事の様子をクライアントと共に観に行った時の事だ。クライアントと同じプリンス・ホテルに泊まり、翌日は現場監督を交えて共にゴルフをする遊びを兼ねた出張だった。三年ほど居た助手だったが、欧米で建築の修業をしたいと翌年辞めて行った。もう顔は半分忘れてしまったのに身体のしなやかさだけは今も想い出せる。一緒に浸かって居るこの女と比較するのは酷だが、それでも柳腰だけは似ていると想う。(6月上旬へつづく・月の上旬・中旬・下旬の3回連載予定)
2012/05/23
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ココ百景(70) いよいよ庭に出たく成ったココはパソコンから降りて来てガラス戸の前でジッと開けて貰えるまで待っている。そうすればボクが直ぐにでも開けて開けてくれると想っているのだ。しかし、ボクはパソコンの進行具合や気分でいちいちココの要望通りには動かない。そういう事も織り込み済みのココは待つという事を覚えた。「今日はご主人は機嫌が悪いな」と想えばジッと待っているのだ。だからボクが立ちあがってガラス戸を開けようとする体制になれば何時でも飛びだせる様に身構える。そんなに外が好きなのかと想える程外に目をやっているのを見ると何かボクが意地悪でガラス戸を開けないのではないかと想えて来るから、ココはそういう事も計算に入れているのかも知れない。我が家の知能犯である。小説「猫と女と」(5) 「今、何を考えているか当ててみようか?」事が終わって煙草に火を付け、黙って天井を見て居る私を見て女は言った。「え?」と振り向きざま口から煙を噴出して訊き返した。「だって黙っているんだもの・・・。私達、随分と続いているわネ、もう何年に成るのか知らと想っているのでしょ?」元夫のデザイン事務所が潰れずに続いているせいか女は月に一度は事務所に顔を出す様になったらしい。「そうだな、猫を飼い始めて・・・もう七年ほどだから、八年目に入るかな」「あら、そんなに成る?早いわねえ」「余程馬が合ったんだろうなあ」「そうヨ、私達、絶対に相性が良いのよ。ねえ、死ぬまで一緒ヨ、良い事?約束して!」「フフフ、死ぬまで?そんな先の事なぞ分からない」少女の様な事を言う女に失笑してしまう。「約束して!」女は積極的に身体を委ねて来た。そして私の下部をまさぐって握った。「ほら、亦元気になって来た。タフじゃない。もっと堅くしてあげる」女はシーツを払いのけてそれを口に含んだ。 「もう良いヨ、今日は」「駄目、折角こんなになって来たのに、身体は正直ヨ」上に跨って女は自分の秘所にそれをあてがってそっと腰を下ろした。已む無く女のするがままにさせ煙草を飲み続け、疲れない様に気を散らした。すると女が燃えるのとは逆に冷静に成って行った。それが余計に長引かせる事になって女は悶え呻き始めた。「嗚呼・・・良い・・・」腰の動きが激しくなって両肩を鷲掴みにしている女の指先に力が入った。押さえつけられたまま見上げると女の顔が歪んで眉間に皺を立てている。これまでこういう姿勢でまじまじと女の顔を観る事は無かった。鼻が心もち上を向いて唇が半開きで可愛らしい形をしている。この唇を何度吸った事か。キッスをすると女は必ず舌を入れて来る。釣られてこちらも入れる。舌を絡ませると声に成らない呻きが聴こえる。キッスは慣れている積もりだったのに女の方が上手いと想った。経験が多いと想った。それとも本能的なものかも知れないとも想った。これが私を飽きさせないのだ。 煙草を持つ反対の手で女の首を引き寄せキッスをした。荒い息遣いの女を受け入れ舌を絡ませた。動きを合わせると気持も女と一体となって行った。女は腰の動きを緩やかにして深く浅くを繰り返し余韻を楽しむ様になった。立て続けの二度目だけになかなか気は出なかった。それが返って良いのか夢見心地の様に女は呻いた。「うーん、今日は最高。こんなの初めて。骨の髄から蕩けそう・・・」女は頬を胸に当てたまま肩で喘いで言った。私はと言えば絶頂に達しないまま為されるままの状態で気だるさだけが襲って来る。その内、女が重苦しく感じ始め、押しやった。「シャワーを浴びて来る」そう言い残して、手に残っているフィルターだけに成りそうな煙草をヘッドサイドの灰皿に捻じ込んだ。開いたままのカーテンの間から大阪の夕闇が観えた。超高層のビルが目立つ。ふと五十を過ぎても若い頃と同じ様なセックスをしている自分が、景色のせいか新宿のホテルに居させる気分にさせた。 そう言えば十年前は東京の仕事が中心だった。京都や大阪よりも東京の方が仕事量が多いせいもあったが、地元での仕事よりも手離れが良く金にもなって魅力があった。地元のクライアントや建設業者は尾を引き易く、些細な事でも相談ばかりされ肝心の仕事が捗らなかった。言わば決断力に掛け、ねちっこい人間が多過ぎた。仕事柄、相談されるのは当然としても何でも仕事にかこつけて付き合わされた。その点、東京では仕事と私的な事との区別は明瞭で割り切って付き合え、私的な事で振り廻される事なぞ皆無だった。その方が性分に合い、交通費や宿泊代が余計に要っても、それだけに無駄な動きはせず効率よく動けた。総てが計画通り行く事が多く、お蔭で関東と軽井沢に多くの作品を残せた。それを想い出させるビルの光景が窓から見渡せるのだった。 「何しているの?シャワーしないの?だったら私が先にシャワーするワ」女の声で一瞬、目前の風景が新宿から大阪に戻った。「いや、是からだヨ。何だったら一緒に入っても良い」その声を待っていたかの様に女はベッドを出ると一緒にバス・ルームに入った。バスタブに湯が張る迄、二人は熱いシャワーを浴びた。抱き合ってお互いにシャンプーを塗りたくった。「こうして二人で洗い合うのは久しぶりネ」「そうかい?」「あら、覚えて居ないの?最初の時、洗ってくれたじゃない」「そんな昔の事なんか忘れてしまったさ」「薄情な人」女は一寸すねて見せた。「でも、この身体は覚えている。形の良い胸も」そう言って女の胸の突起を吸った。「フフ、嫌らしい人・・・」女はまんざらでも無い態度で身を任ねて来た。「ベッドよりも此処の方が刺激的だ」「濡れ場だから?」「そうかも知れない。水はそういう気にさせる・・・」女の身体を回し背後から抱き、襟足に唇を這わせながら空虚な気分を満たそうとした。 シャワーの後、一緒にバス・タブに浸かって身体を伸ばしていると激しかったベッドでの運動を忘れさせてくれ、そのままジッと動かず浸かっていると額が汗ばんで来て疲れも取れて行く。外はそろそろ秋風が吹き始めている。そう想うと軽井沢の寒さを想い出し、赤茶けた唐松林の風景が浮かんで来る。丁度十年前の今頃、軽井沢のホテルでも同じ様な事をしたのを想い出す。相手は事務所の若い助手だった。別荘を設計し、工事の様子をクライアントと共に観に行った時の事だ。クライアントと同じプリンス・ホテルに泊まり、翌日は現場監督を交えて共にゴルフをする遊びを兼ねた出張だった。三年ほど居た助手だったが、欧米で建築の修業をしたいと翌年辞めて行った。もう顔は半分忘れてしまったのに身体のしなやかさだけは今も想い出せる。一緒に浸かって居るこの女と比較するのは酷だが、それでも柳腰だけは似ていると想う。(6月上旬へつづく・月の上旬・中旬・下旬の3回連載予定)
2012/05/22
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ココ百景(69) 空調機の効率を上げる為に小柄扇風機を飾り棚に置いて部屋の気温を均一にさせている。その為に風が正面にあるデスクの私の顔に当たるのでブラインドを下ろしている状態の風景である。ココは相変わらずブラインドの向こうのパソコンに乗って外に出して貰えるのを待っている。ブラインドが何故下りて居るのか訳は分からずとも兎に角毎日と同じ行動をとっている訳だ。ブラインドで自分の行動が制限される訳でも無いから気にせず同じ行動をするのだろう。ブラインドのお蔭で風は直接顔に当たらなくなったが、目の前が遮蔽されて鬱陶しいと想えば何時でも上げるから常時の事では無く、ココも単なるカーテンと同じ様に観ているのだろう。ココは直接的な行動をとるからインテリアとか人間の思惑で置き換える家具のレイアウトなぞ無関心で、邪魔にならなければ全く関係が無い事と割り切っている風である。小説「猫と女と」(5) 「今、何を考えているか当ててみようか?」事が終わって煙草に火を付け、黙って天井を見て居る私を見て女は言った。「え?」と振り向きざま口から煙を噴出して訊き返した。「だって黙っているんだもの・・・。私達、随分と続いているわネ、もう何年に成るのか知らと想っているのでしょ?」元夫のデザイン事務所が潰れずに続いているせいか女は月に一度は事務所に顔を出す様になったらしい。「そうだな、猫を飼い始めて・・・もう七年ほどだから、八年目に入るかな」「あら、そんなに成る?早いわねえ」「余程馬が合ったんだろうなあ」「そうヨ、私達、絶対に相性が良いのよ。ねえ、死ぬまで一緒ヨ、良い事?約束して!」「フフフ、死ぬまで?そんな先の事なぞ分からない」少女の様な事を言う女に失笑してしまう。「約束して!」女は積極的に身体を委ねて来た。そして私の下部をまさぐって握った。「ほら、亦元気になって来た。タフじゃない。もっと堅くしてあげる」女はシーツを払いのけてそれを口に含んだ。 「もう良いヨ、今日は」「駄目、折角こんなになって来たのに、身体は正直ヨ」上に跨って女は自分の秘所にそれをあてがってそっと腰を下ろした。已む無く女のするがままにさせ煙草を飲み続け、疲れない様に気を散らした。すると女が燃えるのとは逆に冷静に成って行った。それが余計に長引かせる事になって女は悶え呻き始めた。「嗚呼・・・良い・・・」腰の動きが激しくなって両肩を鷲掴みにしている女の指先に力が入った。押さえつけられたまま見上げると女の顔が歪んで眉間に皺を立てている。これまでこういう姿勢でまじまじと女の顔を観る事は無かった。鼻が心もち上を向いて唇が半開きで可愛らしい形をしている。この唇を何度吸った事か。キッスをすると女は必ず舌を入れて来る。釣られてこちらも入れる。舌を絡ませると声に成らない呻きが聴こえる。キッスは慣れている積もりだったのに女の方が上手いと想った。経験が多いと想った。それとも本能的なものかも知れないとも想った。これが私を飽きさせないのだ。 煙草を持つ反対の手で女の首を引き寄せキッスをした。荒い息遣いの女を受け入れ舌を絡ませた。動きを合わせると気持も女と一体となって行った。女は腰の動きを緩やかにして深く浅くを繰り返し余韻を楽しむ様になった。立て続けの二度目だけになかなか気は出なかった。それが返って良いのか夢見心地の様に女は呻いた。「うーん、今日は最高。こんなの初めて。骨の髄から蕩けそう・・・」女は頬を胸に当てたまま肩で喘いで言った。私はと言えば絶頂に達しないまま為されるままの状態で気だるさだけが襲って来る。その内、女が重苦しく感じ始め、押しやった。「シャワーを浴びて来る」そう言い残して、手に残っているフィルターだけに成りそうな煙草をベッドサイドの灰皿に捻じ込んだ。開いたままのカーテンの間から大阪の夕闇が観えた。超高層のビルが目立つ。ふと五十を過ぎても若い頃と同じ様なセックスをしている自分が、景色のせいか新宿のホテルに居させる気分にさせた。 そう言えば十年前は東京の仕事が中心だった。京都や大阪よりも東京の方が仕事量が多いせいもあったが、地元での仕事よりも手離れが良く金にもなって魅力があった。地元のクライアントや建設業者は尾を引き易く、些細な事でも相談ばかりされ肝心の仕事が捗らなかった。言わば決断力に掛け、ねちっこい人間が多過ぎた。仕事柄、相談されるのは当然としても何でも仕事にかこつけて付き合わされた。その点、東京では仕事と私的な事との区別は明瞭で割り切って付き合え、私的な事で振り廻される事なぞ皆無だった。その方が性分に合い、交通費や宿泊代が余計に要っても、それだけに無駄な動きはせず効率よく動けた。総てが計画通り行く事が多く、お蔭で関東と軽井沢に多くの作品を残せた。それを想い出させるビルの光景が窓から見渡せるのだった。 「何しているの?シャワーしないの?だったら私が先にシャワーするワ」女の声で一瞬、目前の風景が新宿から大阪に戻った。「いや、是からだヨ。何だったら一緒に入っても良い」その声を待っていたかの様に女はベッドを出ると一緒にバス・ルームに入った。バスタブに湯が張る迄、二人は熱いシャワーを浴びた。抱き合ってお互いにシャンプーを塗りたくった。「こうして二人で洗い合うのは久しぶりネ」「そうかい?」「あら、覚えて居ないの?最初の時、洗ってくれたじゃない」「そんな昔の事なんか忘れてしまったさ」「薄情な人」女は一寸すねて見せた。「でも、この身体は覚えている。形の良い胸も」そう言って女の胸の突起を吸った。「フフ、嫌らしい人・・・」女はまんざらでも無い態度で身を任ねて来た。「ベッドよりも此処の方が刺激的だ」「濡れ場だから?」「そうかも知れない。水はそういう気にさせる・・・」女の身体を回し背後から抱き、襟足に唇を這わせながら空虚な気分を満たそうとした。 シャワーの後、一緒にバス・タブに浸かって身体を伸ばしていると激しかったベッドでの運動を忘れさせてくれ、そのままジッと動かず浸かっていると額が汗ばんで来て疲れも取れて行く。外はそろそろ秋風が吹き始めている。そう想うと軽井沢の寒さを想い出し、赤茶けた唐松林の風景が浮かんで来る。丁度十年前の今頃、軽井沢のホテルでも同じ様な事をしたのを想い出す。相手は事務所の若い助手だった。別荘を設計し、工事の様子をクライアントと共に観に行った時の事だ。クライアントと同じプリンス・ホテルに泊まり、翌日は現場監督を交えて共にゴルフをする遊びを兼ねた出張だった。三年ほど居た助手だったが、欧米で建築の修業をしたいと翌年辞めて行った。もう顔は半分忘れてしまったのに身体のしなやかさだけは今も想い出せる。一緒に浸かって居るこの女と比較するのは酷だが、それでも柳腰だけは似ていると想う。(6月上旬へつづく・月の上旬・中旬・下旬の3回連載予定)
2012/05/21
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ココ百景(68) 庭を歩き廻っていたココが何かに気がついて次なる行動に移ろうとしている表情である。我々人間には聴こえない微かな音に反応して耳を傾ける猫は人間の聴力の数十倍、数百倍の感度で音を聞き分ける事が出来る能力を持っている。変な音や聞き慣れない音には敏感に反応するから、その反応を観て我々は何かが居る事を知るのである。動物は人間には無い能力で自然界を生きているのだが、ペットに成ってしまった猫は、野生のネコ科の生き物から比べれば鈍感な堕落した生き物にしか観えない。むしろペットは自分が人間だと想っているから庭の闖入者は人間以外は総て敵だと想っているのだろう。自分のテリトリー(縄張り)ではボクや家人以外は総て狩りの対象になるのである。小説「猫と女と」(5) 「今、何を考えているか当ててみようか?」事が終わって煙草に火を付け、黙って天井を見て居る私を見て女は言った。「え?」と振り向きざま口から煙を噴出して訊き返した。「だって黙っているんだもの・・・。私達、随分と続いているわネ、もう何年に成るのか知らと想っているのでしょ?」元夫のデザイン事務所が潰れずに続いているせいか女は月に一度は事務所に顔を出す様になったらしい。「そうだな、猫を飼い始めて・・・もう七年ほどだから、八年目に入るかな」「あら、そんなに成る?早いわねえ」「余程馬が合ったんだろうなあ」「そうヨ、私達、絶対に相性が良いのよ。ねえ、死ぬまで一緒ヨ、良い事?約束して!」「フフフ、死ぬまで?そんな先の事なぞ分からない」少女の様な事を言う女に失笑してしまう。「約束して!」女は積極的に身体を委ねて来た。そして私の下部をまさぐって握った。「ほら、亦元気になって来た。タフじゃない。もっと堅くしてあげる」女はシーツを払いのけてそれを口に含んだ。 「もう良いヨ、今日は」「駄目、折角こんなになって来たのに、身体は正直ヨ」上に跨って女は自分の秘所にそれをあてがってそっと腰を下ろした。已む無く女のするがままにさせ煙草を飲み続け、疲れない様に気を散らした。すると女が燃えるのとは逆に冷静に成って行った。それが余計に長引かせる事になって女は悶え呻き始めた。「嗚呼・・・良い・・・」腰の動きが激しくなって両肩を鷲掴みにしている女の指先に力が入った。押さえつけられたまま見上げると女の顔が歪んで眉間に皺を立てている。これまでこういう姿勢でまじまじと女の顔を観る事は無かった。鼻が心もち上を向いて唇が半開きで可愛らしい形をしている。この唇を何度吸った事か。キッスをすると女は必ず舌を入れて来る。釣られてこちらも入れる。舌を絡ませると声に成らない呻きが聴こえる。キッスは慣れている積もりだったのに女の方が上手いと想った。経験が多いと想った。それとも本能的なものかも知れないとも想った。これが私を飽きさせないのだ。 煙草を持つ反対の手で女の首を引き寄せキッスをした。荒い息遣いの女を受け入れ舌を絡ませた。動きを合わせると気持も女と一体となって行った。女は腰の動きを緩やかにして深く浅くを繰り返し余韻を楽しむ様になった。立て続けの二度目だけになかなか気は出なかった。それが返って良いのか夢見心地の様に女は呻いた。「うーん、今日は最高。こんなの初めて。骨の髄から蕩けそう・・・」女は頬を胸に当てたまま肩で喘いで言った。私はと言えば絶頂に達しないまま為されるままの状態で気だるさだけが襲って来る。その内、女が重苦しく感じ始め、押しやった。「シャワーを浴びて来る」そう言い残して、手に残っているフィルターだけに成りそうな煙草をベッドサイドの灰皿に捻じ込んだ。開いたままのカーテンの間から大阪の夕闇が観えた。超高層のビルが目立つ。ふと五十を過ぎても若い頃と同じ様なセックスをしている自分が、景色のせいか新宿のホテルに居させる気分にさせた。 そう言えば十年前は東京の仕事が中心だった。京都や大阪よりも東京の方が仕事量が多いせいもあったが、地元での仕事よりも手離れが良く金にもなって魅力があった。地元のクライアントや建設業者は尾を引き易く、些細な事でも相談ばかりされ肝心の仕事が捗らなかった。言わば決断力に掛け、ねちっこい人間が多過ぎた。仕事柄、相談されるのは当然としても何でも仕事にかこつけて付き合わされた。その点、東京では仕事と私的な事との区別は明瞭で割り切って付き合え、私的な事で振り廻される事なぞ皆無だった。その方が性分に合い、交通費や宿泊代が余計に要っても、それだけに無駄な動きはせず効率よく動けた。総てが計画通り行く事が多く、お蔭で関東と軽井沢に多くの作品を残せた。それを想い出させるビルの光景が窓から見渡せるのだった。 「何しているの?シャワーしないの?だったら私が先にシャワーするワ」女の声で一瞬、目前の風景が新宿から大阪に戻った。「いや、是からだヨ。何だったら一緒に入っても良い」その声を待っていたかの様に女はベッドを出ると一緒にバス・ルームに入った。バスタブに湯が張る迄、二人は熱いシャワーを浴びた。抱き合ってお互いにシャンプーを塗りたくった。「こうして二人で洗い合うのは久しぶりネ」「そうかい?」「あら、覚えて居ないの?最初の時、洗ってくれたじゃない」「そんな昔の事なんか忘れてしまったさ」「薄情な人」女は一寸すねて見せた。「でも、この身体は覚えている。形の良い胸も」そう言って女の胸の突起を吸った。「フフ、嫌らしい人・・・」女はまんざらでも無い態度で身を任ねて来た。「ベッドよりも此処の方が刺激的だ」「濡れ場だから?」「そうかも知れない。水はそういう気にさせる・・・」女の身体を回し背後から抱き、襟足に唇を這わせながら空虚な気分を満たそうとした。 シャワーの後、一緒にバス・タブに浸かって身体を伸ばしていると激しかったベッドでの運動を忘れさせてくれ、そのままジッと動かず浸かっていると額が汗ばんで来て疲れも取れて行く。外はそろそろ秋風が吹き始めている。そう想うと軽井沢の寒さを想い出し、赤茶けた唐松林の風景が浮かんで来る。丁度十年前の今頃、軽井沢のホテルでも同じ様な事をしたのを想い出す。相手は事務所の若い助手だった。別荘を設計し、工事の様子をクライアントと共に観に行った時の事だ。クライアントと同じプリンス・ホテルに泊まり、翌日は現場監督を交えて共にゴルフをする遊びを兼ねた出張だった。三年ほど居た助手だったが、欧米で建築の修業をしたいと翌年辞めて行った。もう顔は半分忘れてしまったのに身体のしなやかさだけは今も想い出せる。一緒に浸かって居るこの女と比較するのは酷だが、それでも柳腰だけは似ていると想う。(6月上旬へつづく・月の上旬・中旬・下旬の3回連載予定)
2012/05/20
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ココ百景(67) 庭を徘徊して狩りの獲物が現れないかと探し回っているココである。こういう時は何も現れない。獲物はジッと辛抱強く一定の場所に留まって静かに見張って居なければ見つける事は出来ない。トカゲや小鳥や蝶はココが動かない置き物にしか観えない時に安心して現れるからである。獲物になる小動物は絶えず命の危険と隣り合わせで生きているのである。安全だと分かった上で出歩くから静かに粘り強く待って居なければ狩りは出来ないのである。そういう精神状態になれずイライラとしている時は獲物の方が逆にココを見張っている訳である。見張られているココはそれが分からず徘徊している様では、未だ未熟な段階に居るか、何か他の事を考えている時である。もう大人のココは、多分何か考えているのだろう。小説「猫と女と」(4) 「部屋へ行く?」食後のコーヒーを飲みながら一種の儀礼的な言い方で女に誘いを掛けてみた。彼女と初めて寝たのは紹介されて会ってから二度目の事だった。自然の流れの様に無理の無い行動だった。お互い若くは無いだけに変な羞恥心は無かった。とは言いながら、若い頃の無責任な一時の遊び心の心境でも無かった。何故かいい加減な気持ちにはなれず、正直に言えばこれから不倫をしようとしているくせに罪悪感さえ無かった。お互い心から惹き合うものを感じたのだ。好みのタイプだったのか女も最初から積極的だった。こんな小柄な身体から余りにも激しい情熱が出て来るのが不思議にさえ想え、かつての別れた女達には無かったキメの細やかな動きが私を飽きさせなかった。それもあってそれ以降、月に一度程度の情事を重ねて来た。お互い良い歳をしている事もあって、言わば惚れた張れたという若い情熱よりも大人の遊びとしての付き合いだった。一種のダンスの様にも想えた。それだけに誘いも事務的な言い方になった。 お互い飽きもせず今日まで続いている関係は、金銭的な関係が無かったからかも知れない。会って食事したり飲んだりして気が向けば寝る関係は確かに愛人関係には違いないのにドロドロした愛憎の気持ちは全く無かった。元夫が私を意識してか時に冗談めいて元妻にタメグチで話し掛けたり小言を言うのさえ私は気にならず敢えてそれに乗る事も無く、他人行儀な接し方を守った。仮に元夫に女との関係を感づかれていたとしても社会的には彼等が夫婦で無い以上、気にとめる必要も無いのだ。偽装離婚だったとして実質的な夫婦関係が残っていたにせよ私は惚けて知らない顔をしているだけで良かった。女も殊更波風を立てる様子も無く、このままの関係が続けば良いと願っている風だった。まして元夫の会社が上手く行かなくなり事務所を引っ越す事になって「新しい事務所には私は行かない積もりヨ」と言う女の気持ちとは裏腹に、多分このままずるずると彼等の関係は続くのではないかと想えた。 それは娘の存在だけが理由でも無い様に観えた。今回のニューヨークのマンションの件もそういう気持ちがあるからこそわざわざ自分からニューヨークまで行ったのだろうし、夫婦で築き上げた会社が左前になっても経理の内容を掌握している以上、けじめとして行く方が心の整理がつくと想ったのだろう。経営者としては事業の失敗が杜撰な経営や財務管理の甘さにあったのだから自分にも責任の一端があるのは自覚しているだろう。だからこそ新規に市場を拡大しようと紹介された私との関係も大事にしたい筈なのだ。尤も、仕事と私事との混同で私との関係が危うく成ったとしても女は割り切って処理するだろう。私は付かず離れずの関係で良いと想っている。女が別れたいのならそれで良し、別れたく無いのならそれでも良しだ。私にとって女は言わばペットの様な接し方でしか無いのだ。そういうスマートな関係の方が長続きするだろうし別れても悔やむ事も無い。しかし、何時までこういう関係が続くかは体力との相談だ。少なくともあと十年も続けば上等だろう。 ずるずると年月が経って猫を飼い始めて七年が経ち、女との関係も不定期ではあるが続いた。ところが最近体力が落ちて来たのが目に観えて分かり始め、特に何か健康法を心がえている訳でも無いものの月例会だけのゴルフでは運動量が少なく筋力の衰えがよく分かるのだ。それを一番よく感じさせるのが情事だった。事が済んでベッドにうつ伏せになって呼吸を整えているとゴルフの一ラウンドを終えた様な疲労感がドッと襲う。女の方も流石に五十を過ぎれば女盛りも過ぎ、化粧の乗りも悪く、疲れが顔に出る。年齢的に濃い化粧はしない様に努めているだけに明るい処ではそれがよく分かった。それでも惰性の様に飽きもせず女との関係は続いた。そんなある日「おや、白髪がある」と、ふと言葉になって出てしまった。「嫌ねえ、五十にも成れば当然白髪もあるわヨ」「いや、下の方だヨ」「嫌らしい!何処を観てるのヨ」女は慌ててシーツで身体を覆った。「ハハハ、御免ごめん。でも身体の線は未だ綺麗だヨ」「そう?未だまだ行けそう?」 「まだ十年は大丈夫だろう」と言い掛けて、内心、こんな関係が是から先十年もとても続かないだろうと想うと声にならず「こちらの方が先に身体がダウンしてしまうだろうな」とボソリと独り言の様に出てしまった。「あら、あなたは大丈夫ヨ。元気そのものじゃ無い。八十でも充分行けそうヨ。所長なんかとは全然比較に成らないワ。別れる前から二十年以上も関係がなかったのヨ」女はサラリと言ってのけた。「それにしては女盛りだな。若いツバメでも居たんじゃない?」「冗談じゃないワ。若い子なんか相手にしない、お金だけの繋がりでしか無いもの」「でも、金の切れ目が縁の切れ目で後腐れも無くサバサバするだろう?」「あなたの方こそ若い子と遊んでいる雰囲気ヨ」「まさか、もう昔の話さ。最近はトンとご無沙汰で、あんただけだヨ。青春はとっくの昔に終えた」「その口が曲者なのヨ」女は身体を乗せて来て含み笑いをする。汗ばんで火照った身体から中年過ぎの女の持つ底知れぬエネルギーを感じさせる。 「ねえ、愛している?」女が口に出して愛を確認する。そういう場合は女が不安を感じる時だ。何に不安を感じるのだろう。事務所の行く末を気にして何かにすがりたいのだろうか。それとも元夫との依りを戻したいのだろうか。今更、下り坂の元夫に未練なぞ感じていない筈だ。経済的にも体力的にも私の方が勝っているだけに単純に考えればそうなのだが、女の心理は複雑で微妙なものだ。損得だけの打算では男には分からない面がある。女を引きよせ「確かめたい?」と言ってみた。「ううん、言ってみただけ」と薄笑いをする。自分でも分かっているのだ。人生の大半を終えた五十過ぎの男女の不倫なぞ将来的な明るい希望なぞ無いのだ。と言って暗いイメージでも無い。お互い家に帰れば別の世界が待っている。整理ダンスの引き出しが一つ増え、其処にお互いの秘密の部分を仕舞い込んであるだけなのだ。所詮は人生の数ある想い出の一つになる程度の愛なのかも知れない。(5月下旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/19
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ココ百景(66) 暑くなって来れば体温を下げる為に植え込みの蔭や側溝の冷やかな土の上で寛ぐのがココの日課のひとつである。其処に居れば狩りの獲物は近寄らないのに体力を維持する為には体力の消耗も避けなければならない。朝方の冷える寒い時は逆に日光のよく当たるポーチでゴロゴロ転げ廻っては身体全体を暖める。特に背中は手が届かない部分だけに仰向けになって温める。そうすると腹も日光に晒されるので気持ちが良いのだろう。ボクや妻が近付くと仰向けになってこちらを観上げるのは「一緒に遊んで頂戴」というココのポーズである。独りで勝手にゴロゴロしているのは身体に居る蚤を追い落とす作用でもあるのか知らと想うが、定期的に蚤取りの液薬剤を首の後ろに掛けてやるので居ない筈だが、それでも地面に直に寝るからどうしても蚤は毛の間に入り込むだろう。蚤駆除の一番良いのは湯の行水だが、ココは水を嫌がるので年に一回程度しか出来ない。小説「猫と女と」(4) 「部屋へ行く?」食後のコーヒーを飲みながら一種の儀礼的な言い方で女に誘いを掛けてみた。彼女と初めて寝たのは紹介されて会ってから二度目の事だった。自然の流れの様に無理の無い行動だった。お互い若くは無いだけに変な羞恥心は無かった。とは言いながら、若い頃の無責任な一時の遊び心の心境でも無かった。何故かいい加減な気持ちにはなれず、正直に言えばこれから不倫をしようとしているくせに罪悪感さえ無かった。お互い心から惹き合うものを感じたのだ。好みのタイプだったのか女も最初から積極的だった。こんな小柄な身体から余りにも激しい情熱が出て来るのが不思議にさえ想え、かつての別れた女達には無かったキメの細やかな動きが私を飽きさせなかった。それもあってそれ以降、月に一度程度の情事を重ねて来た。お互い良い歳をしている事もあって、言わば惚れた張れたという若い情熱よりも大人の遊びとしての付き合いだった。一種のダンスの様にも想えた。それだけに誘いも事務的な言い方になった。 お互い飽きもせず今日まで続いている関係は、金銭的な関係が無かったからかも知れない。会って食事したり飲んだりして気が向けば寝る関係は確かに愛人関係には違いないのにドロドロした愛憎の気持ちは全く無かった。元夫が私を意識してか時に冗談めいて元妻にタメグチで話し掛けたり小言を言うのさえ私は気にならず敢えてそれに乗る事も無く、他人行儀な接し方を守った。仮に元夫に女との関係を感づかれていたとしても社会的には彼等が夫婦で無い以上、気にとめる必要も無いのだ。偽装離婚だったとして実質的な夫婦関係が残っていたにせよ私は惚けて知らない顔をしているだけで良かった。女も殊更波風を立てる様子も無く、このままの関係が続けば良いと願っている風だった。まして元夫の会社が上手く行かなくなり事務所を引っ越す事になって「新しい事務所には私は行かない積もりヨ」と言う女の気持ちとは裏腹に、多分このままずるずると彼等の関係は続くのではないかと想えた。 それは娘の存在だけが理由でも無い様に観えた。今回のニューヨークのマンションの件もそういう気持ちがあるからこそわざわざ自分からニューヨークまで行ったのだろうし、夫婦で築き上げた会社が左前になっても経理の内容を掌握している以上、けじめとして行く方が心の整理がつくと想ったのだろう。経営者としては事業の失敗が杜撰な経営や財務管理の甘さにあったのだから自分にも責任の一端があるのは自覚しているだろう。だからこそ新規に市場を拡大しようと紹介された私との関係も大事にしたい筈なのだ。尤も、仕事と私事との混同で私との関係が危うく成ったとしても女は割り切って処理するだろう。私は付かず離れずの関係で良いと想っている。女が別れたいのならそれで良し、別れたく無いのならそれでも良しだ。私にとって女は言わばペットの様な接し方でしか無いのだ。そういうスマートな関係の方が長続きするだろうし別れても悔やむ事も無い。しかし、何時までこういう関係が続くかは体力との相談だ。少なくともあと十年も続けば上等だろう。 ずるずると年月が経って猫を飼い始めて七年が経ち、女との関係も不定期ではあるが続いた。ところが最近体力が落ちて来たのが目に観えて分かり始め、特に何か健康法を心がえている訳でも無いものの月例会だけのゴルフでは運動量が少なく筋力の衰えがよく分かるのだ。それを一番よく感じさせるのが情事だった。事が済んでベッドにうつ伏せになって呼吸を整えているとゴルフの一ラウンドを終えた様な疲労感がドッと襲う。女の方も流石に五十を過ぎれば女盛りも過ぎ、化粧の乗りも悪く、疲れが顔に出る。年齢的に濃い化粧はしない様に努めているだけに明るい処ではそれがよく分かった。それでも惰性の様に飽きもせず女との関係は続いた。そんなある日「おや、白髪がある」と、ふと言葉になって出てしまった。「嫌ねえ、五十にも成れば当然白髪もあるわヨ」「いや、下の方だヨ」「嫌らしい!何処を観てるのヨ」女は慌ててシーツで身体を覆った。「ハハハ、御免ごめん。でも身体の線は未だ綺麗だヨ」「そう?未だまだ行けそう?」 「まだ十年は大丈夫だろう」と言い掛けて、内心、こんな関係が是から先十年もとても続かないだろうと想うと声にならず「こちらの方が先に身体がダウンしてしまうだろうな」とボソリと独り言の様に出てしまった。「あら、あなたは大丈夫ヨ。元気そのものじゃ無い。八十でも充分行けそうヨ。所長なんかとは全然比較に成らないワ。別れる前から二十年以上も関係がなかったのヨ」女はサラリと言ってのけた。「それにしては女盛りだな。若いツバメでも居たんじゃない?」「冗談じゃないワ。若い子なんか相手にしない、お金だけの繋がりでしか無いもの」「でも、金の切れ目が縁の切れ目で後腐れも無くサバサバするだろう?」「あなたの方こそ若い子と遊んでいる雰囲気ヨ」「まさか、もう昔の話さ。最近はトンとご無沙汰で、あんただけだヨ。青春はとっくの昔に終えた」「その口が曲者なのヨ」女は身体を乗せて来て含み笑いをする。汗ばんで火照った身体から中年過ぎの女の持つ底知れぬエネルギーを感じさせる。 「ねえ、愛している?」女が口に出して愛を確認する。そういう場合は女が不安を感じる時だ。何に不安を感じるのだろう。事務所の行く末を気にして何かにすがりたいのだろうか。それとも元夫との依りを戻したいのだろうか。今更、下り坂の元夫に未練なぞ感じていない筈だ。経済的にも体力的にも私の方が勝っているだけに単純に考えればそうなのだが、女の心理は複雑で微妙なものだ。損得だけの打算では男には分からない面がある。女を引きよせ「確かめたい?」と言ってみた。「ううん、言ってみただけ」と薄笑いをする。自分でも分かっているのだ。人生の大半を終えた五十過ぎの男女の不倫なぞ将来的な明るい希望なぞ無いのだ。と言って暗いイメージでも無い。お互い家に帰れば別の世界が待っている。整理ダンスの引き出しが一つ増え、其処にお互いの秘密の部分を仕舞い込んであるだけなのだ。所詮は人生の数ある想い出の一つになる程度の愛なのかも知れない。(5月下旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/18
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ココ百景(65) 獲った獲物は単なる遊び道具に過ぎないから、犠牲に成るトカゲや雀や野ネズミは可哀想ものである。死ぬまでココに弄ばれ、死んで動かなく成れば見向きもされない。これまで大きな獲物としてはヒヨドリが居た。メジロも居た。猫に捕まるトンマな鳥が居たもので、めったに捕まるものでもないだけにココは大興奮する。但し、目撃すれば可哀想だから逃がしてやるようにしている。小鳥なら手に触っても気持ち悪く無い。小鳥の体温を手の平に感じたままココから奪い、離れた場所で空に放りあげる。すると慌てて飛び去って行く。「二度と捕まるなヨ」と見送るのだ。多分仲間の処に帰って「恐ろしい猫が居る。あそこだけは用心しろヨ」とでも報告するだろう。トカゲなんかは気持ち悪いだけで可哀想な気にも成らないが、小鳥や野ネズミ程度の大きさになれば死骸が転がっているのを観るのは嫌なものである。芝生に転がっているのが直ぐ分かるだけに、気がつけばサッサと片付けてしまう。夏場なぞ腐っては困る事になるのだ。小説「猫と女と」(4) 「部屋へ行く?」食後のコーヒーを飲みながら一種の儀礼的な言い方で女に誘いを掛けてみた。彼女と初めて寝たのは紹介されて会ってから二度目の事だった。自然の流れの様に無理の無い行動だった。お互い若くは無いだけに変な羞恥心は無かった。とは言いながら、若い頃の無責任な一時の遊び心の心境でも無かった。何故かいい加減な気持ちにはなれず、正直に言えばこれから不倫をしようとしているくせに罪悪感さえ無かった。お互い心から惹き合うものを感じたのだ。好みのタイプだったのか女も最初から積極的だった。こんな小柄な身体から余りにも激しい情熱が出て来るのが不思議にさえ想え、かつての別れた女達には無かったキメの細やかな動きが私を飽きさせなかった。それもあってそれ以降、月に一度程度の情事を重ねて来た。お互い良い歳をしている事もあって、言わば惚れた張れたという若い情熱よりも大人の遊びとしての付き合いだった。一種のダンスの様にも想えた。それだけに誘いも事務的な言い方になった。 お互い飽きもせず今日まで続いている関係は、金銭的な関係が無かったからかも知れない。会って食事したり飲んだりして気が向けば寝る関係は確かに愛人関係には違いないのにドロドロした愛憎の気持ちは全く無かった。元夫が私を意識してか時に冗談めいて元妻にタメグチで話し掛けたり小言を言うのさえ私は気にならず敢えてそれに乗る事も無く、他人行儀な接し方を守った。仮に元夫に女との関係を感づかれていたとしても社会的には彼等が夫婦で無い以上、気にとめる必要も無いのだ。偽装離婚だったとして実質的な夫婦関係が残っていたにせよ私は惚けて知らない顔をしているだけで良かった。女も殊更波風を立てる様子も無く、このままの関係が続けば良いと願っている風だった。まして元夫の会社が上手く行かなくなり事務所を引っ越す事になって「新しい事務所には私は行かない積もりヨ」と言う女の気持ちとは裏腹に、多分このままずるずると彼等の関係は続くのではないかと想えた。 それは娘の存在だけが理由でも無い様に観えた。今回のニューヨークのマンションの件もそういう気持ちがあるからこそわざわざ自分からニューヨークまで行ったのだろうし、夫婦で築き上げた会社が左前になっても経理の内容を掌握している以上、けじめとして行く方が心の整理がつくと想ったのだろう。経営者としては事業の失敗が杜撰な経営や財務管理の甘さにあったのだから自分にも責任の一端があるのは自覚しているだろう。だからこそ新規に市場を拡大しようと紹介された私との関係も大事にしたい筈なのだ。尤も、仕事と私事との混同で私との関係が危うく成ったとしても女は割り切って処理するだろう。私は付かず離れずの関係で良いと想っている。女が別れたいのならそれで良し、別れたく無いのならそれでも良しだ。私にとって女は言わばペットの様な接し方でしか無いのだ。そういうスマートな関係の方が長続きするだろうし別れても悔やむ事も無い。しかし、何時までこういう関係が続くかは体力との相談だ。少なくともあと十年も続けば上等だろう。 ずるずると年月が経って猫を飼い始めて七年が経ち、女との関係も不定期ではあるが続いた。ところが最近体力が落ちて来たのが目に観えて分かり始め、特に何か健康法を心がえている訳でも無いものの月例会だけのゴルフでは運動量が少なく筋力の衰えがよく分かるのだ。それを一番よく感じさせるのが情事だった。事が済んでベッドにうつ伏せになって呼吸を整えているとゴルフの一ラウンドを終えた様な疲労感がドッと襲う。女の方も流石に五十を過ぎれば女盛りも過ぎ、化粧の乗りも悪く、疲れが顔に出る。年齢的に濃い化粧はしない様に努めているだけに明るい処ではそれがよく分かった。それでも惰性の様に飽きもせず女との関係は続いた。そんなある日「おや、白髪がある」と、ふと言葉になって出てしまった。「嫌ねえ、五十にも成れば当然白髪もあるわヨ」「いや、下の方だヨ」「嫌らしい!何処を観てるのヨ」女は慌ててシーツで身体を覆った。「ハハハ、御免ごめん。でも身体の線は未だ綺麗だヨ」「そう?未だまだ行けそう?」 「まだ十年は大丈夫だろう」と言い掛けて、内心、こんな関係が是から先十年もとても続かないだろうと想うと声にならず「こちらの方が先に身体がダウンしてしまうだろうな」とボソリと独り言の様に出てしまった。「あら、あなたは大丈夫ヨ。元気そのものじゃ無い。八十でも充分行けそうヨ。所長なんかとは全然比較に成らないワ。別れる前から二十年以上も関係がなかったのヨ」女はサラリと言ってのけた。「それにしては女盛りだな。若いツバメでも居たんじゃない?」「冗談じゃないワ。若い子なんか相手にしない、お金だけの繋がりでしか無いもの」「でも、金の切れ目が縁の切れ目で後腐れも無くサバサバするだろう?」「あなたの方こそ若い子と遊んでいる雰囲気ヨ」「まさか、もう昔の話さ。最近はトンとご無沙汰で、あんただけだヨ。青春はとっくの昔に終えた」「その口が曲者なのヨ」女は身体を乗せて来て含み笑いをする。汗ばんで火照った身体から中年過ぎの女の持つ底知れぬエネルギーを感じさせる。 「ねえ、愛している?」女が口に出して愛を確認する。そういう場合は女が不安を感じる時だ。何に不安を感じるのだろう。事務所の行く末を気にして何かにすがりたいのだろうか。それとも元夫との依りを戻したいのだろうか。今更、下り坂の元夫に未練なぞ感じていない筈だ。経済的にも体力的にも私の方が勝っているだけに単純に考えればそうなのだが、女の心理は複雑で微妙なものだ。損得だけの打算では男には分からない面がある。女を引きよせ「確かめたい?」と言ってみた。「ううん、言ってみただけ」と薄笑いをする。自分でも分かっているのだ。人生の大半を終えた五十過ぎの男女の不倫なぞ将来的な明るい希望なぞ無いのだ。と言って暗いイメージでも無い。お互い家に帰れば別の世界が待っている。整理ダンスの引き出しが一つ増え、其処にお互いの秘密の部分を仕舞い込んであるだけなのだ。所詮は人生の数ある想い出の一つになる程度の愛なのかも知れない。(5月下旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/17
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ココ百景(64) ココが狙っていた獲物を捕えた瞬間である。サツキの植え込みの手前に浅い側溝を掘ってあるのでトカゲはそういう処をサツキの間から出て来て一旦隠れる。ココはそういうトカゲの習性を知っているので常に目を光らせていて確実に獲れそうなタイミングを図って飛びかかる。僅か1秒か2秒の間の出来事である。前脚で抑え込んでしまえば獲物は逃げられない。猫の前脚の鋭い爪は鋭利な針の様になっていてサメの歯の様に次から次へと新しい爪が出て来る仕組みになっている。それが獲物にグッと喰い込めば痛さと一種の諦めで獲物はジッとする。逃げるチャンスを待っているのである。ココは獲物を銜えると先ず遊ぶ前に見せびらかす為に銜えたまま我々に知らせる。つい興奮して大きく啼くと銜えた獲物が口からポロリと落ちる事もある。その僅かな瞬間に逃げるのである。それを亦追い掛け、今度は憎しみもあって弄んで殺してしまう。尻尾が切れておとりにしようとするトカゲの習性にはココは乗らず確実に殺す。それをポーチに並べるから処理する方も半分気持ちの悪さでゴミバサミでつまんで処理するのである。小説「猫と女と」(4) 「部屋へ行く?」食後のコーヒーを飲みながら一種の儀礼的な言い方で女に誘いを掛けてみた。彼女と初めて寝たのは紹介されて会ってから二度目の事だった。自然の流れの様に無理の無い行動だった。お互い若くは無いだけに変な羞恥心は無かった。とは言いながら、若い頃の無責任な一時の遊び心の心境でも無かった。何故かいい加減な気持ちにはなれず、正直に言えばこれから不倫をしようとしているくせに罪悪感さえ無かった。お互い心から惹き合うものを感じたのだ。好みのタイプだったのか女も最初から積極的だった。こんな小柄な身体から余りにも激しい情熱が出て来るのが不思議にさえ想え、かつての別れた女達には無かったキメの細やかな動きが私を飽きさせなかった。それもあってそれ以降、月に一度程度の情事を重ねて来た。お互い良い歳をしている事もあって、言わば惚れた張れたという若い情熱よりも大人の遊びとしての付き合いだった。一種のダンスの様にも想えた。それだけに誘いも事務的な言い方になった。 お互い飽きもせず今日まで続いている関係は、金銭的な関係が無かったからかも知れない。会って食事したり飲んだりして気が向けば寝る関係は確かに愛人関係には違いないのにドロドロした愛憎の気持ちは全く無かった。元夫が私を意識してか時に冗談めいて元妻にタメグチで話し掛けたり小言を言うのさえ私は気にならず敢えてそれに乗る事も無く、他人行儀な接し方を守った。仮に元夫に女との関係を感づかれていたとしても社会的には彼等が夫婦で無い以上、気にとめる必要も無いのだ。偽装離婚だったとして実質的な夫婦関係が残っていたにせよ私は惚けて知らない顔をしているだけで良かった。女も殊更波風を立てる様子も無く、このままの関係が続けば良いと願っている風だった。まして元夫の会社が上手く行かなくなり事務所を引っ越す事になって「新しい事務所には私は行かない積もりヨ」と言う女の気持ちとは裏腹に、多分このままずるずると彼等の関係は続くのではないかと想えた。 それは娘の存在だけが理由でも無い様に観えた。今回のニューヨークのマンションの件もそういう気持ちがあるからこそわざわざ自分からニューヨークまで行ったのだろうし、夫婦で築き上げた会社が左前になっても経理の内容を掌握している以上、けじめとして行く方が心の整理がつくと想ったのだろう。経営者としては事業の失敗が杜撰な経営や財務管理の甘さにあったのだから自分にも責任の一端があるのは自覚しているだろう。だからこそ新規に市場を拡大しようと紹介された私との関係も大事にしたい筈なのだ。尤も、仕事と私事との混同で私との関係が危うく成ったとしても女は割り切って処理するだろう。私は付かず離れずの関係で良いと想っている。女が別れたいのならそれで良し、別れたく無いのならそれでも良しだ。私にとって女は言わばペットの様な接し方でしか無いのだ。そういうスマートな関係の方が長続きするだろうし別れても悔やむ事も無い。しかし、何時までこういう関係が続くかは体力との相談だ。少なくともあと十年も続けば上等だろう。 ずるずると年月が経って猫を飼い始めて七年が経ち、女との関係も不定期ではあるが続いた。ところが最近体力が落ちて来たのが目に観えて分かり始め、特に何か健康法を心がえている訳でも無いものの月例会だけのゴルフでは運動量が少なく筋力の衰えがよく分かるのだ。それを一番よく感じさせるのが情事だった。事が済んでベッドにうつ伏せになって呼吸を整えているとゴルフの一ラウンドを終えた様な疲労感がドッと襲う。女の方も流石に五十を過ぎれば女盛りも過ぎ、化粧の乗りも悪く、疲れが顔に出る。年齢的に濃い化粧はしない様に努めているだけに明るい処ではそれがよく分かった。それでも惰性の様に飽きもせず女との関係は続いた。そんなある日「おや、白髪がある」と、ふと言葉になって出てしまった。「嫌ねえ、五十にも成れば当然白髪もあるわヨ」「いや、下の方だヨ」「嫌らしい!何処を観てるのヨ」女は慌ててシーツで身体を覆った。「ハハハ、御免ごめん。でも身体の線は未だ綺麗だヨ」「そう?未だまだ行けそう?」 「まだ十年は大丈夫だろう」と言い掛けて、内心、こんな関係が是から先十年もとても続かないだろうと想うと声にならず「こちらの方が先に身体がダウンしてしまうだろうな」とボソリと独り言の様に出てしまった。「あら、あなたは大丈夫ヨ。元気そのものじゃ無い。八十でも充分行けそうヨ。所長なんかとは全然比較に成らないワ。別れる前から二十年以上も関係がなかったのヨ」女はサラリと言ってのけた。「それにしては女盛りだな。若いツバメでも居たんじゃない?」「冗談じゃないワ。若い子なんか相手にしない、お金だけの繋がりでしか無いもの」「でも、金の切れ目が縁の切れ目で後腐れも無くサバサバするだろう?」「あなたの方こそ若い子と遊んでいる雰囲気ヨ」「まさか、もう昔の話さ。最近はトンとご無沙汰で、あんただけだヨ。青春はとっくの昔に終えた」「その口が曲者なのヨ」女は身体を乗せて来て含み笑いをする。汗ばんで火照った身体から中年過ぎの女の持つ底知れぬエネルギーを感じさせる。 「ねえ、愛している?」女が口に出して愛を確認する。そういう場合は女が不安を感じる時だ。何に不安を感じるのだろう。事務所の行く末を気にして何かにすがりたいのだろうか。それとも元夫との依りを戻したいのだろうか。今更、下り坂の元夫に未練なぞ感じていない筈だ。経済的にも体力的にも私の方が勝っているだけに単純に考えればそうなのだが、女の心理は複雑で微妙なものだ。損得だけの打算では男には分からない面がある。女を引きよせ「確かめたい?」と言ってみた。「ううん、言ってみただけ」と薄笑いをする。自分でも分かっているのだ。人生の大半を終えた五十過ぎの男女の不倫なぞ将来的な明るい希望なぞ無いのだ。と言って暗いイメージでも無い。お互い家に帰れば別の世界が待っている。整理ダンスの引き出しが一つ増え、其処にお互いの秘密の部分を仕舞い込んであるだけなのだ。所詮は人生の数ある想い出の一つになる程度の愛なのかも知れない。(5月下旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/16
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ココ百景(63) これから狩りのシーズンが始まる。既に夏日になった先日にはトカゲを銜えて五月蝿く啼いていた。チラリと観るとガラス戸の外でココがトカゲを頭から銜えてこちらを観ているのだった。「どうだ、獲物を獲って来たぞ」と見せびらかしている訳だ。不用意に家の中に入れてしまうと部屋の中で未だ死んでいないトカゲを置いて遊ぶ事になる。以前そういう失敗をしているからボクも家人も用心して確実に獲物を銜えていないかどうかを確認してからでないとココを入れない様にしている。トカゲが必死で部屋中を走り廻るのを捕まえるのに苦労したものだった。ゴミバサミで捕まえるのは至難の技だった。何とか片隅に追いやって捕まえた頃にはトカゲはグッタリしていた。死んでしまっているトカゲにはココは見向きもしない。死ねば単なる石の様な物体にしか観えないらしい。小説「猫と女と」(4) 「部屋へ行く?」食後のコーヒーを飲みながら一種の儀礼的な言い方で女に誘いを掛けてみた。彼女と初めて寝たのは紹介されて会ってから二度目の事だった。自然の流れの様に無理の無い行動だった。お互い若くは無いだけに変な羞恥心は無かった。とは言いながら、若い頃の無責任な一時の遊び心の心境でも無かった。何故かいい加減な気持ちにはなれず、正直に言えばこれから不倫をしようとしているくせに罪悪感さえ無かった。お互い心から惹き合うものを感じたのだ。好みのタイプだったのか女も最初から積極的だった。こんな小柄な身体から余りにも激しい情熱が出て来るのが不思議にさえ想え、かつての別れた女達には無かったキメの細やかな動きが私を飽きさせなかった。それもあってそれ以降、月に一度程度の情事を重ねて来た。お互い良い歳をしている事もあって、言わば惚れた張れたという若い情熱よりも大人の遊びとしての付き合いだった。一種のダンスの様にも想えた。それだけに誘いも事務的な言い方になった。 お互い飽きもせず今日まで続いている関係は、金銭的な関係が無かったからかも知れない。会って食事したり飲んだりして気が向けば寝る関係は確かに愛人関係には違いないのにドロドロした愛憎の気持ちは全く無かった。元夫が私を意識してか時に冗談めいて元妻にタメグチで話し掛けたり小言を言うのさえ私は気にならず敢えてそれに乗る事も無く、他人行儀な接し方を守った。仮に元夫に女との関係を感づかれていたとしても社会的には彼等が夫婦で無い以上、気にとめる必要も無いのだ。偽装離婚だったとして実質的な夫婦関係が残っていたにせよ私は惚けて知らない顔をしているだけで良かった。女も殊更波風を立てる様子も無く、このままの関係が続けば良いと願っている風だった。まして元夫の会社が上手く行かなくなり事務所を引っ越す事になって「新しい事務所には私は行かない積もりヨ」と言う女の気持ちとは裏腹に、多分このままずるずると彼等の関係は続くのではないかと想えた。 それは娘の存在だけが理由でも無い様に観えた。今回のニューヨークのマンションの件もそういう気持ちがあるからこそわざわざ自分からニューヨークまで行ったのだろうし、夫婦で築き上げた会社が左前になっても経理の内容を掌握している以上、けじめとして行く方が心の整理がつくと想ったのだろう。経営者としては事業の失敗が杜撰な経営や財務管理の甘さにあったのだから自分にも責任の一端があるのは自覚しているだろう。だからこそ新規に市場を拡大しようと紹介された私との関係も大事にしたい筈なのだ。尤も、仕事と私事との混同で私との関係が危うく成ったとしても女は割り切って処理するだろう。私は付かず離れずの関係で良いと想っている。女が別れたいのならそれで良し、別れたく無いのならそれでも良しだ。私にとって女は言わばペットの様な接し方でしか無いのだ。そういうスマートな関係の方が長続きするだろうし別れても悔やむ事も無い。しかし、何時までこういう関係が続くかは体力との相談だ。少なくともあと十年も続けば上等だろう。 ずるずると年月が経って猫を飼い始めて七年が経ち、女との関係も不定期ではあるが続いた。ところが最近体力が落ちて来たのが目に観えて分かり始め、特に何か健康法を心がえている訳でも無いものの月例会だけのゴルフでは運動量が少なく筋力の衰えがよく分かるのだ。それを一番よく感じさせるのが情事だった。事が済んでベッドにうつ伏せになって呼吸を整えているとゴルフの一ラウンドを終えた様な疲労感がドッと襲う。女の方も流石に五十を過ぎれば女盛りも過ぎ、化粧の乗りも悪く、疲れが顔に出る。年齢的に濃い化粧はしない様に努めているだけに明るい処ではそれがよく分かった。それでも惰性の様に飽きもせず女との関係は続いた。そんなある日「おや、白髪がある」と、ふと言葉になって出てしまった。「嫌ねえ、五十にも成れば当然白髪もあるわヨ」「いや、下の方だヨ」「嫌らしい!何処を観てるのヨ」女は慌ててシーツで身体を覆った。「ハハハ、御免ごめん。でも身体の線は未だ綺麗だヨ」「そう?未だまだ行けそう?」 「まだ十年は大丈夫だろう」と言い掛けて、内心、こんな関係が是から先十年もとても続かないだろうと想うと声にならず「こちらの方が先に身体がダウンしてしまうだろうな」とボソリと独り言の様に出てしまった。「あら、あなたは大丈夫ヨ。元気そのものじゃ無い。八十でも充分行けそうヨ。所長なんかとは全然比較に成らないワ。別れる前から二十年以上も関係がなかったのヨ」女はサラリと言ってのけた。「それにしては女盛りだな。若いツバメでも居たんじゃない?」「冗談じゃないワ。若い子なんか相手にしない、お金だけの繋がりでしか無いもの」「でも、金の切れ目が縁の切れ目で後腐れも無くサバサバするだろう?」「あなたの方こそ若い子と遊んでいる雰囲気ヨ」「まさか、もう昔の話さ。最近はトンとご無沙汰で、あんただけだヨ。青春はとっくの昔に終えた」「その口が曲者なのヨ」女は身体を乗せて来て含み笑いをする。汗ばんで火照った身体から中年過ぎの女の持つ底知れぬエネルギーを感じさせる。 「ねえ、愛している?」女が口に出して愛を確認する。そういう場合は女が不安を感じる時だ。何に不安を感じるのだろう。事務所の行く末を気にして何かにすがりたいのだろうか。それとも元夫との依りを戻したいのだろうか。今更、下り坂の元夫に未練なぞ感じていない筈だ。経済的にも体力的にも私の方が勝っているだけに単純に考えればそうなのだが、女の心理は複雑で微妙なものだ。損得だけの打算では男には分からない面がある。女を引きよせ「確かめたい?」と言ってみた。「ううん、言ってみただけ」と薄笑いをする。自分でも分かっているのだ。人生の大半を終えた五十過ぎの男女の不倫なぞ将来的な明るい希望なぞ無いのだ。と言って暗いイメージでも無い。お互い家に帰れば別の世界が待っている。整理ダンスの引き出しが一つ増え、其処にお互いの秘密の部分を仕舞い込んであるだけなのだ。所詮は人生の数ある想い出の一つになる程度の愛なのかも知れない。(5月下旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/15
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ココ百景(62) 今日もココは門柱の上で見張り番をしている。ボクが帰宅する時間帯に大概そこで待っている。餌が待ち遠しいのか、それともボクが居なくて寂しくて「早く帰ってこないかな」と待っているのか知らないが、待って居られると可愛らしく想ってしまうものである。そのくせ帰宅して頭を撫でてやるとプイと何処かへ行ってしまう。しかし、着替えをして餌を用意していると走って来て「ニャア、ニャア」と五月蝿く啼く。「早くして頂戴。お腹が減って仕方がないのヨ」とでも言っているのだろう。そんなに腹が減っているのなら家人に頼めば貰えるのに、わざわざボクを待っている処が憎い。敵もなかなか考えている。ココの作戦に乗せられ、自分が一番頼りにされていると想う処が人間の馬鹿な面なのだろう。猫の方が一枚上手なのか、ペットの哀しい性なのか色々と知恵を出すものである。小説「猫と女と」(4) 「部屋へ行く?」食後のコーヒーを飲みながら一種の儀礼的な言い方で女に誘いを掛けてみた。彼女と初めて寝たのは紹介されて会ってから二度目の事だった。自然の流れの様に無理の無い行動だった。お互い若くは無いだけに変な羞恥心は無かった。とは言いながら、若い頃の無責任な一時の遊び心の心境でも無かった。何故かいい加減な気持ちにはなれず、正直に言えばこれから不倫をしようとしているくせに罪悪感さえ無かった。お互い心から惹き合うものを感じたのだ。好みのタイプだったのか女も最初から積極的だった。こんな小柄な身体から余りにも激しい情熱が出て来るのが不思議にさえ想え、かつての別れた女達には無かったキメの細やかな動きが私を飽きさせなかった。それもあってそれ以降、月に一度程度の情事を重ねて来た。お互い良い歳をしている事もあって、言わば惚れた張れたという若い情熱よりも大人の遊びとしての付き合いだった。一種のダンスの様にも想えた。それだけに誘いも事務的な言い方になった。 お互い飽きもせず今日まで続いている関係は、金銭的な関係が無かったからかも知れない。会って食事したり飲んだりして気が向けば寝る関係は確かに愛人関係には違いないのにドロドロした愛憎の気持ちは全く無かった。元夫が私を意識してか時に冗談めいて元妻にタメグチで話し掛けたり小言を言うのさえ私は気にならず敢えてそれに乗る事も無く、他人行儀な接し方を守った。仮に元夫に女との関係を感づかれていたとしても社会的には彼等が夫婦で無い以上、気にとめる必要も無いのだ。偽装離婚だったとして実質的な夫婦関係が残っていたにせよ私は惚けて知らない顔をしているだけで良かった。女も殊更波風を立てる様子も無く、このままの関係が続けば良いと願っている風だった。まして元夫の会社が上手く行かなくなり事務所を引っ越す事になって「新しい事務所には私は行かない積もりヨ」と言う女の気持ちとは裏腹に、多分このままずるずると彼等の関係は続くのではないかと想えた。 それは娘の存在だけが理由でも無い様に観えた。今回のニューヨークのマンションの件もそういう気持ちがあるからこそわざわざ自分からニューヨークまで行ったのだろうし、夫婦で築き上げた会社が左前になっても経理の内容を掌握している以上、けじめとして行く方が心の整理がつくと想ったのだろう。経営者としては事業の失敗が杜撰な経営や財務管理の甘さにあったのだから自分にも責任の一端があるのは自覚しているだろう。だからこそ新規に市場を拡大しようと紹介された私との関係も大事にしたい筈なのだ。尤も、仕事と私事との混同で私との関係が危うく成ったとしても女は割り切って処理するだろう。私は付かず離れずの関係で良いと想っている。女が別れたいのならそれで良し、別れたく無いのならそれでも良しだ。私にとって女は言わばペットの様な接し方でしか無いのだ。そういうスマートな関係の方が長続きするだろうし別れても悔やむ事も無い。しかし、何時までこういう関係が続くかは体力との相談だ。少なくともあと十年も続けば上等だろう。 ずるずると年月が経って猫を飼い始めて七年が経ち、女との関係も不定期ではあるが続いた。ところが最近体力が落ちて来たのが目に観えて分かり始め、特に何か健康法を心がえている訳でも無いものの月例会だけのゴルフでは運動量が少なく筋力の衰えがよく分かるのだ。それを一番よく感じさせるのが情事だった。事が済んでベッドにうつ伏せになって呼吸を整えているとゴルフの一ラウンドを終えた様な疲労感がドッと襲う。女の方も流石に五十を過ぎれば女盛りも過ぎ、化粧の乗りも悪く、疲れが顔に出る。年齢的に濃い化粧はしない様に努めているだけに明るい処ではそれがよく分かった。それでも惰性の様に飽きもせず女との関係は続いた。そんなある日「おや、白髪がある」と、ふと言葉になって出てしまった。「嫌ねえ、五十にも成れば当然白髪もあるわヨ」「いや、下の方だヨ」「嫌らしい!何処を観てるのヨ」女は慌ててシーツで身体を覆った。「ハハハ、御免ごめん。でも身体の線は未だ綺麗だヨ」「そう?未だまだ行けそう?」 「まだ十年は大丈夫だろう」と言い掛けて、内心、こんな関係が是から先十年もとても続かないだろうと想うと声にならず「こちらの方が先に身体がダウンしてしまうだろうな」とボソリと独り言の様に出てしまった。「あら、あなたは大丈夫ヨ。元気そのものじゃ無い。八十でも充分行けそうヨ。所長なんかとは全然比較に成らないワ。別れる前から二十年以上も関係がなかったのヨ」女はサラリと言ってのけた。「それにしては女盛りだな。若いツバメでも居たんじゃない?」「冗談じゃないワ。若い子なんか相手にしない、お金だけの繋がりでしか無いもの」「でも、金の切れ目が縁の切れ目で後腐れも無くサバサバするだろう?」「あなたの方こそ若い子と遊んでいる雰囲気ヨ」「まさか、もう昔の話さ。最近はトンとご無沙汰で、あんただけだヨ。青春はとっくの昔に終えた」「その口が曲者なのヨ」女は身体を乗せて来て含み笑いをする。汗ばんで火照った身体から中年過ぎの女の持つ底知れぬエネルギーを感じさせる。 「ねえ、愛している?」女が口に出して愛を確認する。そういう場合は女が不安を感じる時だ。何に不安を感じるのだろう。事務所の行く末を気にして何かにすがりたいのだろうか。それとも元夫との依りを戻したいのだろうか。今更、下り坂の元夫に未練なぞ感じていない筈だ。経済的にも体力的にも私の方が勝っているだけに単純に考えればそうなのだが、女の心理は複雑で微妙なものだ。損得だけの打算では男には分からない面がある。女を引きよせ「確かめたい?」と言ってみた。「ううん、言ってみただけ」と薄笑いをする。自分でも分かっているのだ。人生の大半を終えた五十過ぎの男女の不倫なぞ将来的な明るい希望なぞ無いのだ。と言って暗いイメージでも無い。お互い家に帰れば別の世界が待っている。整理ダンスの引き出しが一つ増え、其処にお互いの秘密の部分を仕舞い込んであるだけなのだ。所詮は人生の数ある想い出の一つになる程度の愛なのかも知れない。(5月下旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/14
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ココ百景(61) 俗に「◎◎と煙は上に上がりたがる」と言うが、猫も何時も高い屋根や塀の上に登る。高い処だと見晴らしが良いから気持ちが良いのだろう。それと安全な場所だからだろう。大体、ネコ科は樹に登る習性があって、豹やピューマ、ライオン等も樹に登っている光景を画像でよく見掛ける。観慣れた光景ではあるが、それを人間が観て感心する振りをするから余計に猫は得意になってしまうのだろう。単純なものである。ココもその一種で、ガレージの屋根に乗って薔薇のツルを導く縄の付近を徘徊して下に居る我々を見降ろすのが嬉しい様である。カーポートの屋根は強化プラスチックかカーボナイトの板で出来て居るので猫が飛び跳ねたぐらいでは割れない。だからココは大屋根から飛び降りてドンッ!と大きな音をさせて人を驚かせる。音に驚く人間を観て楽しんでいるのは一緒に遊びたいからだろう。小説「猫と女と」(4) 「部屋へ行く?」食後のコーヒーを飲みながら一種の儀礼的な言い方で女に誘いを掛けてみた。彼女と初めて寝たのは紹介されて会ってから二度目の事だった。自然の流れの様に無理の無い行動だった。お互い若くは無いだけに変な羞恥心は無かった。とは言いながら、若い頃の無責任な一時の遊び心の心境でも無かった。何故かいい加減な気持ちにはなれず、正直に言えばこれから不倫をしようとしているくせに罪悪感さえ無かった。お互い心から惹き合うものを感じたのだ。好みのタイプだったのか女も最初から積極的だった。こんな小柄な身体から余りにも激しい情熱が出て来るのが不思議にさえ想え、かつての別れた女達には無かったキメの細やかな動きが私を飽きさせなかった。それもあってそれ以降、月に一度程度の情事を重ねて来た。お互い良い歳をしている事もあって、言わば惚れた張れたという若い情熱よりも大人の遊びとしての付き合いだった。一種のダンスの様にも想えた。それだけに誘いも事務的な言い方になった。 お互い飽きもせず今日まで続いている関係は、金銭的な関係が無かったからかも知れない。会って食事したり飲んだりして気が向けば寝る関係は確かに愛人関係には違いないのにドロドロした愛憎の気持ちは全く無かった。元夫が私を意識してか時に冗談めいて元妻にタメグチで話し掛けたり小言を言うのさえ私は気にならず敢えてそれに乗る事も無く、他人行儀な接し方を守った。仮に元夫に女との関係を感づかれていたとしても社会的には彼等が夫婦で無い以上、気にとめる必要も無いのだ。偽装離婚だったとして実質的な夫婦関係が残っていたにせよ私は惚けて知らない顔をしているだけで良かった。女も殊更波風を立てる様子も無く、このままの関係が続けば良いと願っている風だった。まして元夫の会社が上手く行かなくなり事務所を引っ越す事になって「新しい事務所には私は行かない積もりヨ」と言う女の気持ちとは裏腹に、多分このままずるずると彼等の関係は続くのではないかと想えた。 それは娘の存在だけが理由でも無い様に観えた。今回のニューヨークのマンションの件もそういう気持ちがあるからこそわざわざ自分からニューヨークまで行ったのだろうし、夫婦で築き上げた会社が左前になっても経理の内容を掌握している以上、けじめとして行く方が心の整理がつくと想ったのだろう。経営者としては事業の失敗が杜撰な経営や財務管理の甘さにあったのだから自分にも責任の一端があるのは自覚しているだろう。だからこそ新規に市場を拡大しようと紹介された私との関係も大事にしたい筈なのだ。尤も、仕事と私事との混同で私との関係が危うく成ったとしても女は割り切って処理するだろう。私は付かず離れずの関係で良いと想っている。女が別れたいのならそれで良し、別れたく無いのならそれでも良しだ。私にとって女は言わばペットの様な接し方でしか無いのだ。そういうスマートな関係の方が長続きするだろうし別れても悔やむ事も無い。しかし、何時までこういう関係が続くかは体力との相談だ。少なくともあと十年も続けば上等だろう。 ずるずると年月が経って猫を飼い始めて七年が経ち、女との関係も不定期ではあるが続いた。ところが最近体力が落ちて来たのが目に観えて分かり始め、特に何か健康法を心がえている訳でも無いものの月例会だけのゴルフでは運動量が少なく筋力の衰えがよく分かるのだ。それを一番よく感じさせるのが情事だった。事が済んでベッドにうつ伏せになって呼吸を整えているとゴルフの一ラウンドを終えた様な疲労感がドッと襲う。女の方も流石に五十を過ぎれば女盛りも過ぎ、化粧の乗りも悪く、疲れが顔に出る。年齢的に濃い化粧はしない様に努めているだけに明るい処ではそれがよく分かった。それでも惰性の様に飽きもせず女との関係は続いた。そんなある日「おや、白髪がある」と、ふと言葉になって出てしまった。「嫌ねえ、五十にも成れば当然白髪もあるわヨ」「いや、下の方だヨ」「嫌らしい!何処を観てるのヨ」女は慌ててシーツで身体を覆った。「ハハハ、御免ごめん。でも身体の線は未だ綺麗だヨ」「そう?未だまだ行けそう?」 「まだ十年は大丈夫だろう」と言い掛けて、内心、こんな関係が是から先十年もとても続かないだろうと想うと声にならず「こちらの方が先に身体がダウンしてしまうだろうな」とボソリと独り言の様に出てしまった。「あら、あなたは大丈夫ヨ。元気そのものヨじゃ無い。八十でも充分行けそうヨ。所長なんかとは全然比較に成らないワ。別れる前から二十年以上も関係がなかったのヨ」女はサラリと言ってのけた。「それにしては女盛りだな。若いツバメでも居たんじゃない?」「冗談じゃないワ。若い子なんか相手にしない、お金だけの繋がりでしか無いもの」「でも、金の切れ目が縁の切れ目で後腐れも無くサバサバするだろう?」「あなたの方こそ若い子と遊んでいる雰囲気ヨ」「まさか、もう昔の話さ。最近はトンとご無沙汰で、あんただけだヨ。青春はとっくの昔に終えた」「その口が曲者なのヨ」女は身体を乗せて来て含み笑いをする。汗ばんで火照った身体から中年過ぎの女の持つ底知れぬエネルギーを感じさせる。 「ねえ、愛している?」女が口に出して愛を確認する。そういう場合は女が不安を感じる時だ。何に不安を感じるのだろう。事務所の行く末を気にして何かにすがりたいのだろうか。それとも元夫との依りを戻したいのだろうか。今更、下り坂の元夫に未練なぞ感じていない筈だ。経済的にも体力的にも私の方が勝っているだけに単純に考えればそうなのだが、女の心理は複雑で微妙なものだ。損得だけの打算では男には分からない面がある。女を引きよせ「確かめたい?」と言ってみた。「ううん、言ってみただけ」と薄笑いをする。自分でも分かっているのだ。人生の大半を終えた五十過ぎの男女の不倫なぞ将来的な明るい希望なぞ無いのだ。と言って暗いイメージでも無い。お互い家に帰れば別の世界が待っている。整理ダンスの引き出しが一つ増え、其処にお互いの秘密の部分を仕舞い込んであるだけなのだ。所詮は人生の数ある想い出の一つになる程度の愛なのかも知れない。(5月下旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/13
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ココ百景(60) 庭の高野槇の下で寛いでいるココである。此処もココの指定席で、6年ほど前までは隣家のモモ(アメリカン・ショートヘア)の席だった。ココが一年で大人の猫に成って立場が逆転したのである。今ではモモは隣家の庭の片隅で小さく成って老後の生活を送っている。呼び掛けても反応が鈍くなった。ココと競走していた頃はモモも元気だったが、悪さをするモモの対抗馬として飼い始めたココがその役割を果たしてからはココの天下になった。モモの悪さは庭の片隅に糞をして困った事だった。臭いがするのでその都度処しなければならなかった。ココは躾が上手く行って糞トレ―でするから近所迷惑にも成らず悪い噂も出ないが、モモは悪評判が絶えなかった。しかし、老婆になったモモは今では自分の家の庭で大人しくしているだけである。小説「猫と女と」(4) 「部屋へ行く?」食後のコーヒーを飲みながら一種の儀礼的な言い方で女に誘いを掛けてみた。彼女と初めて寝たのは紹介されて会ってから二度目の事だった。自然の流れの様に無理の無い行動だった。お互い若くは無いだけに変な羞恥心は無かった。とは言いながら、若い頃の無責任な一時の遊び心の心境でも無かった。何故かいい加減な気持ちにはなれず、正直に言えばこれから不倫をしようとしているくせに罪悪感さえ無かった。お互い心から惹き合うものを感じたのだ。好みのタイプだったのか女も最初から積極的だった。こんな小柄な身体から余りにも激しい情熱が出て来るのが不思議にさえ想え、かつての別れた女達には無かったキメの細やかな動きが私を飽きさせなかった。それもあってそれ以降、月に一度程度の情事を重ねて来た。お互い良い歳をしている事もあって、言わば惚れた張れたという若い情熱よりも大人の遊びとしての付き合いだった。一種のダンスの様にも想えた。それだけに誘いも事務的な言い方になった。 お互い飽きもせず今日まで続いている関係は、金銭的な関係が無かったからかも知れない。会って食事したり飲んだりして気が向けば寝る関係は確かに愛人関係には違いないのにドロドロした愛憎の気持ちは全く無かった。元夫が私を意識してか時に冗談めいて元妻にタメグチで話し掛けたり小言を言うのさえ私は気にならず敢えてそれに乗る事も無く、他人行儀な接し方を守った。仮に元夫に女との関係を感づかれていたとしても社会的には彼等が夫婦で無い以上、気にとめる必要も無いのだ。偽装離婚だったとして実質的な夫婦関係が残っていたにせよ私は惚けて知らない顔をしているだけで良かった。女も殊更波風を立てる様子も無く、このままの関係が続けば良いと願っている風だった。まして元夫の会社が上手く行かなくなり事務所を引っ越す事になって「新しい事務所には私は行かない積もりヨ」と言う女の気持ちとは裏腹に、多分このままずるずると彼等の関係は続くのではないかと想えた。 それは娘の存在だけが理由でも無い様に観えた。今回のニューヨークのマンションの件もそういう気持ちがあるからこそわざわざ自分からニューヨークまで行ったのだろうし、夫婦で築き上げた会社が左前になっても経理の内容を掌握している以上、けじめとして行く方が心の整理がつくと想ったのだろう。経営者としては事業の失敗が杜撰な経営や財務管理の甘さにあったのだから自分にも責任の一端があるのは自覚しているだろう。だからこそ新規に市場を拡大しようと紹介された私との関係も大事にしたい筈なのだ。尤も、仕事と私事との混同で私との関係が危うく成ったとしても女は割り切って処理するだろう。私は付かず離れずの関係で良いと想っている。女が別れたいのならそれで良し、別れたく無いのならそれでも良しだ。私にとって女は言わばペットの様な接し方でしか無いのだ。そういうスマートな関係の方が長続きするだろうし別れても悔やむ事も無い。しかし、何時までこういう関係が続くかは体力との相談だ。少なくともあと十年も続けば上等だろう。 ずるずると年月が経って猫を飼い始めて七年が経ち、女との関係も不定期ではあるが続いた。ところが最近体力が落ちて来たのが目に観えて分かり始め、特に何か健康法を心がえている訳でも無いものの月例会だけのゴルフでは運動量が少なく筋力の衰えがよく分かるのだ。それを一番よく感じさせるのが情事だった。事が済んでベッドにうつ伏せになって呼吸を整えているとゴルフの一ラウンドを終えた様な疲労感がドッと襲う。女の方も流石に五十を過ぎれば女盛りも過ぎ、化粧の乗りも悪く、疲れが顔に出る。年齢的に濃い化粧はしない様に努めているだけに明るい処ではそれがよく分かった。それでも惰性の様に飽きもせず女との関係は続いた。そんなある日「おや、白髪がある」と、ふと言葉になって出てしまった。「嫌ねえ、五十にも成れば当然白髪もあるわヨ」「いや、下の方だヨ」「嫌らしい!何処を観てるのヨ」女は慌ててシーツで身体を覆った。「ハハハ、御免ごめん。でも身体の線は未だ綺麗だヨ」「そう?未だまだ行けそう?」 「まだ十年は大丈夫だろう」と言い掛けて、内心、こんな関係が是から先十年もとても続かないだろうと想うと声にならず「こちらの方が先に身体がダウンしてしまうだろうな」とボソリと独り言の様に出てしまった。「あら、あなたは大丈夫ヨ。元気そのものヨじゃ無い。八十でも充分行けそうヨ。所長なんかとは全然比較に成らないワ。別れる前から二十年以上も関係がなかったのヨ」女はサラリと言ってのけた。「それにしては女盛りだな。若いツバメでも居たんじゃない?」「冗談じゃないワ。若い子なんか相手にしない、お金だけの繋がりでしか無いもの」「でも、金の切れ目が縁の切れ目で後腐れも無くサバサバするだろう?」「あなたの方こそ若い子と遊んでいる雰囲気ヨ」「まさか、もう昔の話さ。最近はトンとご無沙汰で、あんただけだヨ。青春はとっくの昔に終えた」「その口が曲者なのヨ」女は身体を乗せて来て含み笑いをする。汗ばんで火照った身体から中年過ぎの女の持つ底知れぬエネルギーを感じさせる。 「ねえ、愛している?」女が口に出して愛を確認する。そういう場合は女が不安を感じる時だ。何に不安を感じるのだろう。事務所の行く末を気にして何かにすがりたいのだろうか。それとも元夫との依りを戻したいのだろうか。今更、下り坂の元夫に未練なぞ感じていない筈だ。経済的にも体力的にも私の方が勝っているだけに単純に考えればそうなのだが、女の心理は複雑で微妙なものだ。損得だけの打算では男には分からない面がある。女を引きよせ「確かめたい?」と言ってみた。「ううん、言ってみただけ」と薄笑いをする。自分でも分かっているのだ。人生の大半を終えた五十過ぎの男女の不倫なぞ将来的な明るい希望なぞ無いのだ。と言って暗いイメージでも無い。お互い家に帰れば別の世界が待っている。整理ダンスの引き出しが一つ増え、其処にお互いの秘密の部分を仕舞い込んであるだけなのだ。所詮は人生の数ある想い出の一つになる程度の愛なのかも知れない。(5月下旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/12
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ココ百景(59) ココは人に抱かれるのを嫌がる。ボクや妻が抱いても精々長くて5分程度で、何時も餌を貰う前の数分だけはペットとしての役割でジッと我慢している。唯、変わっているのは冬場の寒い時期は妻の電気アンカ(膝掛け毛布)の上に自発的に乗っている事もあるが、大概は居間の床暖房のフローリングで餌を貰うのを待って居るのが常である。もうひとつ変わっているのが、ボクが錦織健の「荒城の月」に合わせて一緒に歌っていると高音部に来ると自発的にボクの膝にやって来て大人しくジッと耳を傾けている。何が哀しいのか、それとも気に成るのかボクに頭をすり寄せて小さく「ニャオ」と啼く。「荒城の月」の高音部がココの神経を刺激するらしいのだ。つまり歌を歌って居るのが分かり自分も一緒に歌いたいのだろうかと想わせる。妻に言わせれば「高音部が気持ち悪いのヨ」だそうだが、ボクにはココが音楽に感動している様に観えるのだ。勝手な思い込みかも知れない。小説「猫と女と」(4) 「部屋へ行く?」食後のコーヒーを飲みながら一種の儀礼的な言い方で女に誘いを掛けてみた。彼女と初めて寝たのは紹介されて会ってから二度目の事だった。自然の流れの様に無理の無い行動だった。お互い若くは無いだけに変な羞恥心は無かった。とは言いながら、若い頃の無責任な一時の遊び心の心境でも無かった。何故かいい加減な気持ちにはなれず、正直に言えばこれから不倫をしようとしているくせに罪悪感さえ無かった。お互い心から惹き合うものを感じたのだ。好みのタイプだったのか女も最初から積極的だった。こんな小柄な身体から余りにも激しい情熱が出て来るのが不思議にさえ想え、かつての別れた女達には無かったキメの細やかな動きが私を飽きさせなかった。それもあってそれ以降、月に一度程度の情事を重ねて来た。お互い良い歳をしている事もあって、言わば惚れた張れたという若い情熱よりも大人の遊びとしての付き合いだった。一種のダンスの様にも想えた。それだけに誘いも事務的な言い方になった。 お互い飽きもせず今日まで続いている関係は、金銭的な関係が無かったからかも知れない。会って食事したり飲んだりして気が向けば寝る関係は確かに愛人関係には違いないのにドロドロした愛憎の気持ちは全く無かった。元夫が私を意識してか時に冗談めいて元妻にタメグチで話し掛けたり小言を言うのさえ私は気にならず敢えてそれに乗る事も無く、他人行儀な接し方を守った。仮に元夫に女との関係を感づかれていたとしても社会的には彼等が夫婦で無い以上、気にとめる必要も無いのだ。偽装離婚だったとして実質的な夫婦関係が残っていたにせよ私は惚けて知らない顔をしているだけで良かった。女も殊更波風を立てる様子も無く、このままの関係が続けば良いと願っている風だった。まして元夫の会社が上手く行かなくなり事務所を引っ越す事になって「新しい事務所には私は行かない積もりヨ」と言う女の気持ちとは裏腹に、多分このままずるずると彼等の関係は続くのではないかと想えた。 それは娘の存在だけが理由でも無い様に観えた。今回のニューヨークのマンションの件もそういう気持ちがあるからこそわざわざ自分からニューヨークまで行ったのだろうし、夫婦で築き上げた会社が左前になっても経理の内容を掌握している以上、けじめとして行く方が心の整理がつくと想ったのだろう。経営者としては事業の失敗が杜撰な経営や財務管理の甘さにあったのだから自分にも責任の一端があるのは自覚しているだろう。だからこそ新規に市場を拡大しようと紹介された私との関係も大事にしたい筈なのだ。尤も、仕事と私事との混同で私との関係が危うく成ったとしても女は割り切って処理するだろう。私は付かず離れずの関係で良いと想っている。女が別れたいのならそれで良し、別れたく無いのならそれでも良しだ。私にとって女は言わばペットの様な接し方でしか無いのだ。そういうスマートな関係の方が長続きするだろうし別れても悔やむ事も無い。しかし、何時までこういう関係が続くかは体力との相談だ。少なくともあと十年も続けば上等だろう。 ずるずると年月が経って猫を飼い始めて七年が経ち、女との関係も不定期ではあるが続いた。ところが最近体力が落ちて来たのが目に観えて分かり始め、特に何か健康法を心がえている訳でも無いものの月例会だけのゴルフでは運動量が少なく筋力の衰えがよく分かるのだ。それを一番よく感じさせるのが情事だった。事が済んでベッドにうつ伏せになって呼吸を整えているとゴルフの一ラウンドを終えた様な疲労感がドッと襲う。女の方も流石に五十を過ぎれば女盛りも過ぎ、化粧の乗りも悪く、疲れが顔に出る。年齢的に濃い化粧はしない様に努めているだけに明るい処ではそれがよく分かった。それでも惰性の様に飽きもせず女との関係は続いた。そんなある日「おや、白髪がある」と、ふと言葉になって出てしまった。「嫌ねえ、五十にも成れば当然白髪もあるわヨ」「いや、下の方だヨ」「嫌らしい!何処を観てるのヨ」女は慌ててシーツで身体を覆った。「ハハハ、御免ごめん。でも身体の線は未だ綺麗だヨ」「そう?未だまだ行けそう?」 「まだ十年は大丈夫だろう」と言い掛けて、内心、こんな関係が是から先十年もとても続かないだろうと想うと声にならず「こちらの方が先に身体がダウンしてしまうだろうな」とボソリと独り言の様に出てしまった。「あら、あなたは大丈夫ヨ。元気そのものヨじゃ無い。八十でも充分行けそうヨ。所長なんかとは全然比較に成らないワ。別れる前から二十年以上も関係がなかったのヨ」女はサラリと言ってのけた。「それにしては女盛りだな。若いツバメでも居たんじゃない?」「冗談じゃないワ。若い子なんか相手にしない、お金だけの繋がりでしか無いもの」「でも、金の切れ目が縁の切れ目で後腐れも無くサバサバするだろう?」「あなたの方こそ若い子と遊んでいる雰囲気ヨ」「まさか、もう昔の話さ。最近はトンとご無沙汰で、あんただけだヨ。青春はとっくの昔に終えた」「その口が曲者なのヨ」女は身体を乗せて来て含み笑いをする。汗ばんで火照った身体から中年過ぎの女の持つ底知れぬエネルギーを感じさせる。 「ねえ、愛している?」女が口に出して愛を確認する。そういう場合は女が不安を感じる時だ。何に不安を感じるのだろう。事務所の行く末を気にして何かにすがりたいのだろうか。それとも元夫との依りを戻したいのだろうか。今更、下り坂の元夫に未練なぞ感じていない筈だ。経済的にも体力的にも私の方が勝っているだけに単純に考えればそうなのだが、女の心理は複雑で微妙なものだ。損得だけの打算では男には分からない面がある。女を引きよせ「確かめたい?」と言ってみた。「ううん、言ってみただけ」と薄笑いをする。自分でも分かっているのだ。人生の大半を終えた五十過ぎの男女の不倫なぞ将来的な明るい希望なぞ無いのだ。と言って暗いイメージでも無い。お互い家に帰れば別の世界が待っている。整理ダンスの引き出しが一つ増え、其処にお互いの秘密の部分を仕舞い込んであるだけなのだ。所詮は人生の数ある想い出の一つになる程度の愛なのかも知れない。(5月下旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/11
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ココ百景(58) ココは終日、家の周りを徘徊したり、あちこちの指定席で見張り番をしたりしている。その他は居眠りをしたり餌やお八つを食べ、庭で狩りをしたりしているだけである。狩りは春から秋に掛けての3シーズンだけで冬場は獲物が居ないから書斎のガラス戸の内側からの庭の見張り番である。今日のココは門柱の上の指定席で道路を眺めている光景である。上には槇の横長の枝が被さって屋根代わりになっているので少々の雨でも其処に居られる。誰を見張っているのか知らないが誰でも良いのだろう。兎に角、家の前を行く数少ない車や人を見張っているのである。閑静な住宅地だけに人通りは少なく静かである。よく飽きもせず眺めているものだと想う。小説「猫と女と」(4) 「部屋へ行く?」食後のコーヒーを飲みながら一種の儀礼的な言い方で女に誘いを掛けてみた。彼女と初めて寝たのは紹介されて会ってから二度目の事だった。自然の流れの様に無理の無い行動だった。お互い若くは無いだけに変な羞恥心は無かった。とは言いながら、若い頃の無責任な一時の遊び心の心境でも無かった。何故かいい加減な気持ちにはなれず、正直に言えばこれから不倫をしようとしているくせに罪悪感さえ無かった。お互い心から惹き合うものを感じたのだ。好みのタイプだったのか女も最初から積極的だった。こんな小柄な身体から余りにも激しい情熱が出て来るのが不思議にさえ想え、かつての別れた女達には無かったキメの細やかな動きが私を飽きさせなかった。それもあってそれ以降、月に一度程度の情事を重ねて来た。お互い良い歳をしている事もあって、言わば惚れた張れたという若い情熱よりも大人の遊びとしての付き合いだった。一種のダンスの様にも想えた。それだけに誘いも事務的な言い方になった。 お互い飽きもせず今日まで続いている関係は、金銭的な関係が無かったからかも知れない。会って食事したり飲んだりして気が向けば寝る関係は確かに愛人関係には違いないのにドロドロした愛憎の気持ちは全く無かった。元夫が私を意識してか時に冗談めいて元妻にタメグチで話し掛けたり小言を言うのさえ私は気にならず敢えてそれに乗る事も無く、他人行儀な接し方を守った。仮に元夫に女との関係を感づかれていたとしても社会的には彼等が夫婦で無い以上、気にとめる必要も無いのだ。偽装離婚だったとして実質的な夫婦関係が残っていたにせよ私は惚けて知らない顔をしているだけで良かった。女も殊更波風を立てる様子も無く、このままの関係が続けば良いと願っている風だった。まして元夫の会社が上手く行かなくなり事務所を引っ越す事になって「新しい事務所には私は行かない積もりヨ」と言う女の気持ちとは裏腹に、多分このままずるずると彼等の関係は続くのではないかと想えた。 それは娘の存在だけが理由でも無い様に観えた。今回のニューヨークのマンションの件もそういう気持ちがあるからこそわざわざ自分からニューヨークまで行ったのだろうし、夫婦で築き上げた会社が左前になっても経理の内容を掌握している以上、けじめとして行く方が心の整理がつくと想ったのだろう。経営者としては事業の失敗が杜撰な経営や財務管理の甘さにあったのだから自分にも責任の一端があるのは自覚しているだろう。だからこそ新規に市場を拡大しようと紹介された私との関係も大事にしたい筈なのだ。尤も、仕事と私事との混同で私との関係が危うく成ったとしても女は割り切って処理するだろう。私は付かず離れずの関係で良いと想っている。女が別れたいのならそれで良し、別れたく無いのならそれでも良しだ。私にとって女は言わばペットの様な接し方でしか無いのだ。そういうスマートな関係の方が長続きするだろうし別れても悔やむ事も無い。しかし、何時までこういう関係が続くかは体力との相談だ。少なくともあと十年も続けば上等だろう。 ずるずると年月が経って猫を飼い始めて七年が経ち、女との関係も不定期ではあるが続いた。ところが最近体力が落ちて来たのが目に観えて分かり始め、特に何か健康法を心がえている訳でも無いものの月例会だけのゴルフでは運動量が少なく筋力の衰えがよく分かるのだ。それを一番よく感じさせるのが情事だった。事が済んでベッドにうつ伏せになって呼吸を整えているとゴルフの一ラウンドを終えた様な疲労感がドッと襲う。女の方も流石に五十を過ぎれば女盛りも過ぎ、化粧の乗りも悪く、疲れが顔に出る。年齢的に濃い化粧はしない様に努めているだけに明るい処ではそれがよく分かった。それでも惰性の様に飽きもせず女との関係は続いた。そんなある日「おや、白髪がある」と、ふと言葉になって出てしまった。「嫌ねえ、五十にも成れば当然白髪もあるわヨ」「いや、下の方だヨ」「嫌らしい!何処を観てるのヨ」女は慌ててシーツで身体を覆った。「ハハハ、御免ごめん。でも身体の線は未だ綺麗だヨ」「そう?未だまだ行けそう?」 「まだ十年は大丈夫だろう」と言い掛けて、内心、こんな関係が是から先十年もとても続かないだろうと想うと声にならず「こちらの方が先に身体がダウンしてしまうだろうな」とボソリと独り言の様に出てしまった。「あら、あなたは大丈夫ヨ。元気そのものヨじゃ無い。八十でも充分行けそうヨ。所長なんかとは全然比較に成らないワ。別れる前から二十年以上も関係がなかったのヨ」女はサラリと言ってのけた。「それにしては女盛りだな。若いツバメでも居たんじゃない?」「冗談じゃないワ。若い子なんか相手にしない、お金だけの繋がりでしか無いもの」「でも、金の切れ目が縁の切れ目で後腐れも無くサバサバするだろう?」「あなたの方こそ若い子と遊んでいる雰囲気ヨ」「まさか、もう昔の話さ。最近はトンとご無沙汰で、あんただけだヨ。青春はとっくの昔に終えた」「その口が曲者なのヨ」女は身体を乗せて来て含み笑いをする。汗ばんで火照った身体から中年過ぎの女の持つ底知れぬエネルギーを感じさせる。 「ねえ、愛している?」女が口に出して愛を確認する。そういう場合は女が不安を感じる時だ。何に不安を感じるのだろう。事務所の行く末を気にして何かにすがりたいのだろうか。それとも元夫との依りを戻したいのだろうか。今更、下り坂の元夫に未練なぞ感じていない筈だ。経済的にも体力的にも私の方が勝っているだけに単純に考えればそうなのだが、女の心理は複雑で微妙なものだ。損得だけの打算では男には分からない面がある。女を引きよせ「確かめたい?」と言ってみた。「ううん、言ってみただけ」と薄笑いをする。自分でも分かっているのだ。人生の大半を終えた五十過ぎの男女の不倫なぞ将来的な明るい希望なぞ無いのだ。と言って暗いイメージでも無い。お互い家に帰れば別の世界が待っている。整理ダンスの引き出しが一つ増え、其処にお互いの秘密の部分を仕舞い込んであるだけなのだ。所詮は人生の数ある想い出の一つになる程度の愛なのかも知れない。(5月下旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/10
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ココ百景(57) 昨年の夏の朝の風景である。向日葵が咲いている。ポーチに出て庭の見張り番をしているココは獲物が現れるのを今か今かと待っている。獲物と言っても精々トカゲぐらいしか現れないのに目の色を変えて飛びかかって行く。トカゲは尻尾を切って逃げる。それでもココはクネクネとのたうち回っている尻尾には目もくれず追う。お蔭で我が家の庭のトカゲは災難で、もしココが居なければ天国だった筈の場所が地獄になっている訳だ。想い起せばココが来る前まではトカゲが多く居たのだった。ふとそれをを想い出すと自然界の生存競争は過酷なものとして目に映る。しかしココは食べる為では無く単なる遊びで獲るだけである。それでもトカゲは絶滅せず飽きもせず茂みから芝生に現れる。それがココの狙い目なのである。獲ったら「ニャアニャア」と五月蝿く啼く。ボクや家人に知らせる為に啼くのである。一応、目に止め「分かった」という仕草をしてやれればココはそれで満足し大人しくなる。小説「猫と女と」(3) 「ねえ、時間ある?これから出て来ない?」会話が途切れたのを気にする様に女は言った。「これから?」「ウェスティン・ホテルのロビーで待ってるワ。一緒に食事でもしない?」「事務所の方は?」「もう一寸したら揚げる積もりヨ。所長も出掛けているし」「じゃ、一時間後に」女とは二週間ぶりだった。娘の迎えとマンションの処分手続きにニューヨークへ行った後、やつれた顔で帰国した時の顔とは打って変わった明るい顔をしていた。尤も、ニューヨークのマンションの件は飽くまでも推測に過ぎなかった。が、女が折角の海外旅行なのに少しも嬉しい顔をせず逆に暗い表情であった事やデザイン事務所の脱税容疑が修正申告で済んだと所長がわざわざ言ていった事、更にはこの一年で知り得た事務所の経営状態で推測出来るのだった。それは自社ビルのテナントが減って行ったり毎月の様に所員が慌ただしく入れ替わっているのを観ても明らかだった。 女が事務所の事を何も言わなかったが、近々、ビルを引き払い近くの貸しビルに引っ越すという話が所員の口から出た事でそれは決定的だった。単なる引っ越しとは違う。マンション以外に自社ビルまで処分せねばならない状況にまで追い込まれていた訳だ。女の表情以外にも所長の苛立った言動からそれは感じられ、偽装離婚であるにせよ今と成っては実質的な夫婦関係を継続させる理由は経済問題でしか無いのだろう。そうなれば女の方が強かで割り切り方が早く、かつての恋慕の情なぞ消え失せた元夫との関係なぞ、娘の存在だけで繋がっている様なものだ。彼等の関係がどうであれ私には一人の女と一人の仕事関係者に過ぎず、男が私に抱く気持も大した問題に想えず、女もわざわざ元夫の前で私に親しげに話し掛ける仕草でそれを助長させる。刺激が欲しくてそうするのか、それとも仕事が欲しくて媚を売るのか知らないが大いに刺激にはなる。 「事務所、引っ越すんだって?」レストランの席につくと躊躇わず訊いた。「ええ、そうなのヨ。あの人、言わなかった?」「何も聴いていない。所員が話していたので分かった」「近くのビルなので電話番号は変わらずそのままヨ。でも、新しい事務所には私は行かない事にしたの」「ほう、どうして?」「だって、もう会社は倒産したも同然ヨ。今だからこそ言えるけど、あなたの仕事の方は先月で終えたから良かったものの、中途半端になるのだけは嫌で、ハラハラしながら見ていたのヨ」「そうだったのか・・・。だからニューヨークのマンションも処分した訳だ」「ええ、そういう事。娘が最後に一番長く住んでくれた様なものネ」「高く売れた?」「差し押さえになっていたから・・・、税金や手続費用で全部消えてしまったワ」女は何の未練も無い様な表情で淡々と言った。既に財産分与を終えている彼女に何も手に入るものは無く、今後の新事務所に彼女は何も期待していないのだろう。 「これから先、どうする積もりだい?」「当面は、家でブラブラするだけネ。娘は就職するでしょうけれど・・・」「英語が生かせる会社?」「そうネ。旅行会社なんかに当たっているワ」そんな会話をしながら軽い食事をとっていると、ふと中年夫婦と言うよりも愛人同士が楽しそうに食事している光景に観えるのでは無いかと想った。しかし、今時そんな風には誰も想わないだろう。世間では中年アベックが食事をしている光景なぞ有り触れ過ぎている。そう言えば、十年程前に梅田のターミナルですれ違った昔の恋人とターミナル・ビルのレストランで食事した事を想い出した。女は結婚していた。相手は医者だと言った。「子供は?」「居ないワ」「相変わらず遊び回っている様だネ?」「嫌ねえ、こう観えても専業主婦ヨ」「シャンソン、まだ歌っている?」「歌っているワ。そうだワ、チケットを買ってヨ。来週、祇園でディナー・ショウをやるの」 チケットなぞ要らなかったが、事務所の方に送ってくれる様に言って、改めて女をシゲシゲと観察した。ステージ映えする派手な顔つきはしているが、もう往年の張りのある表情ではなかった。サングラスで隠していても小皺が分かり、頬は垂れている。それでも十年も遭わなかったのに、つい最近別れたような錯覚に陥りかけた。こんな女に熱を挙げていた頃があったのが懐かしくもおかしかった。妻の方が美人だと想った。別れるべくして別れたのが当然だと想い返し、それじゃあ何故わざわざ食事に誘ったのかと自問自答してみた。多分、別れた男と今の夫とを比較させて迷わせようという下心が在ったのかも知れない。それ程、自信があった。女の男を判断する基準は学歴や仕事の社会的地位だけでしか無かった。言わば頭の悪い女ながら男の気を惹く小悪魔的魅力を持って居た。それに振り廻される真面目な男が多く、真面目から程遠い私なぞ女は半分警戒していた筈なのに、私が現れたせいで彼女を失った男も何人か居た。 それが一種のゲームの様な感覚で楽しかった。「そろそろ別れようか。婚約したんだ」バーの近くの蕎麦屋で女とうどんを食べている最中に私は言った。女がパラリと箸を落としたのを覚えて居る。女がどういう返事をしたか覚えていないが、かなりの衝撃を与えた様だった。数ヶ月後、バーのクリスマス・パーティーに婚約者を連れて行った時、女も居た。既に女は立ち直っていた風に観えた。私との関係を知って居る友人達は婚約者の手前、女に気を使っていたが、婚約者にはかつての恋人だった事を事前に話してあった。女に婚約者を紹介すると「綺麗な人ネ」と女はポツリと言った。それから十年が瞬く間に過ぎた。京都を離れて大阪で新婚生活に入り、直ぐに子供が出来た事もあって京都の夜の世界から次第に足が遠のき、祇園で遊び回っていた独身時代が嘘の様に想える様になっていた。そして更に十年が過ぎて五十近く成った今、決して若くは無いのに、デザイン事務所の女と食事をし女の表情に可愛さを感じている。(5月中旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/09
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ココ百景(56) 夏日になったり菜種梅雨のの肌寒い日になったりと初夏の気候は気まぐれだ。朝晩は冷えても日中は10度以上も温かく成る。そのせいもあって朝の目覚めが早く成り、無理やりベッドを出てトイレに立つと小窓から射す光は未だ薄暗い。時計を観れば未だ4時である。それでもココは朝飯を貰おうと付いて来る。トイレの中にまで入ってボクの周りをウロウロと巡回する。気忙しい猫である。腹が減っているので自分の欲求の事しか頭に無いのだ。已む無く餌を皿に盛って与えるとガツガツと食べ始める。ボクは目が冴えてしまって今更寝直す訳にも行かず、そのまま書斎でブログやメールで時間を潰す事になる。10分もすると食べ終わったココはパソコンの横に来て、サッシュのガラス戸を開けて欲しいという催促をする。しかし5時を廻ってからでないと雨戸を開ける気になれない。家人が雨戸の開ける大きな音で目を覚ますからだ。家人は寝坊な連中ばかりで8時を過ぎないと起きて来ないのだ。それまでココはお預けの状態でジッと待っている事に成る。小説「猫と女と」(3) 「ねえ、時間ある?これから出て来ない?」会話が途切れたのを気にする様に女は言った。「これから?」「ウェスティン・ホテルのロビーで待ってるワ。一緒に食事でもしない?」「事務所の方は?」「もう一寸したら揚げる積もりヨ。所長も出掛けているし」「じゃ、一時間後に」女とは二週間ぶりだった。娘の迎えとマンションの処分手続きにニューヨークへ行った後、やつれた顔で帰国した時の顔とは打って変わった明るい顔をしていた。尤も、ニューヨークのマンションの件は飽くまでも推測に過ぎなかった。が、女が折角の海外旅行なのに少しも嬉しい顔をせず逆に暗い表情であった事やデザイン事務所の脱税容疑が修正申告で済んだと所長がわざわざ言ていった事、更にはこの一年で知り得た事務所の経営状態で推測出来るのだった。それは自社ビルのテナントが減って行ったり毎月の様に所員が慌ただしく入れ替わっているのを観ても明らかだった。 女が事務所の事を何も言わなかったが、近々、ビルを引き払い近くの貸しビルに引っ越すという話が所員の口から出た事でそれは決定的だった。単なる引っ越しとは違う。マンション以外に自社ビルまで処分せねばならない状況にまで追い込まれていた訳だ。女の表情以外にも所長の苛立った言動からそれは感じられ、偽装離婚であるにせよ今と成っては実質的な夫婦関係を継続させる理由は経済問題でしか無いのだろう。そうなれば女の方が強かで割り切り方が早く、かつての恋慕の情なぞ消え失せた元夫との関係なぞ、娘の存在だけで繋がっている様なものだ。彼等の関係がどうであれ私には一人の女と一人の仕事関係者に過ぎず、男が私に抱く気持も大した問題に想えず、女もわざわざ元夫の前で私に親しげに話し掛ける仕草でそれを助長させる。刺激が欲しくてそうするのか、それとも仕事が欲しくて媚を売るのか知らないが大いに刺激にはなる。 「事務所、引っ越すんだって?」レストランの席につくと躊躇わず訊いた。「ええ、そうなのヨ。あの人、言わなかった?」「何も聴いていない。所員が話していたので分かった」「近くのビルなので電話番号は変わらずそのままヨ。でも、新しい事務所には私は行かない事にしたの」「ほう、どうして?」「だって、もう会社は倒産したも同然ヨ。今だからこそ言えるけど、あなたの仕事の方は先月で終えたから良かったものの、中途半端になるのだけは嫌で、ハラハラしながら見ていたのヨ」「そうだったのか・・・。だからニューヨークのマンションも処分した訳だ」「ええ、そういう事。娘が最後に一番長く住んでくれた様なものネ」「高く売れた?」「差し押さえになっていたから・・・、税金や手続費用で全部消えてしまったワ」女は何の未練も無い様な表情で淡々と言った。既に財産分与を終えている彼女に何も手に入るものは無く、今後の新事務所に彼女は何も期待していないのだろう。 「これから先、どうする積もりだい?」「当面は、家でブラブラするだけネ。娘は就職するでしょうけれど・・・」「英語が生かせる会社?」「そうネ。旅行会社なんかに当たっているワ」そんな会話をしながら軽い食事をとっていると、ふと中年夫婦と言うよりも愛人同士が楽しそうに食事している光景に観えるのでは無いかと想った。しかし、今時そんな風には誰も想わないだろう。世間では中年アベックが食事をしている光景なぞ有り触れ過ぎている。そう言えば、十年程前に梅田のターミナルですれ違った昔の恋人とターミナル・ビルのレストランで食事した事を想い出した。女は結婚していた。相手は医者だと言った。「子供は?」「居ないワ」「相変わらず遊び回っている様だネ?」「嫌ねえ、こう観えても専業主婦ヨ」「シャンソン、まだ歌っている?」「歌っているワ。そうだワ、チケットを買ってヨ。来週、祇園でディナー・ショウをやるの」 チケットなぞ要らなかったが、事務所の方に送ってくれる様に言って、改めて女をシゲシゲと観察した。ステージ映えする派手な顔つきはしているが、もう往年の張りのある表情ではなかった。サングラスで隠していても小皺が分かり、頬は垂れている。それでも十年も遭わなかったのに、つい最近別れたような錯覚に陥りかけた。こんな女に熱を挙げていた頃があったのが懐かしくもおかしかった。妻の方が美人だと想った。別れるべくして別れたのが当然だと想い返し、それじゃあ何故わざわざ食事に誘ったのかと自問自答してみた。多分、別れた男と今の夫とを比較させて迷わせようという下心が在ったのかも知れない。それ程、自信があった。女の男を判断する基準は学歴や仕事の社会的地位だけでしか無かった。言わば頭の悪い女ながら男の気を惹く小悪魔的魅力を持って居た。それに振り廻される真面目な男が多く、真面目から程遠い私なぞ女は半分警戒していた筈なのに、私が現れたせいで彼女を失った男も何人か居た。 それが一種のゲームの様な感覚で楽しかった。「そろそろ別れようか。婚約したんだ」バーの近くの蕎麦屋で女とうどんを食べている最中に私は言った。女がパラリと箸を落としたのを覚えている。その時、女がどういう返事をしたか覚えていないが、かなりの衝撃を与えた様だった。数ヶ月後、バーのクリスマス・パーティーに婚約者を連れて行った時、女も居た。既に女は立ち直っていた風に観えた。私との関係を知って居る友人達は婚約者の手前、女に気を使っていたが、婚約者にはかつての恋人だった事を事前に話してあった。女に婚約者を紹介すると「綺麗な人ネ」と女はポツリと言った。それから十年が瞬く間に過ぎた。京都を離れて大阪で新婚生活に入り、直ぐに子供が出来た。そいういう事もあって京都の夜の世界から次第に足が遠のき、祇園で遊び回っていた独身時代が嘘の様に想える様になっていた。そして更に十年が過ぎて五十近く成った今、決して若くは無いのに、デザイン事務所の女と食事をし女の表情に可愛さを感じている。(5月中旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/08
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ココ百景(55) ガレージで車の屋根に乗ったココがボクのカメラに興味を示して近寄って来た処である。何か良い物でも貰えると想ったのか、それとも一緒に遊んで貰えると期待しているのかカメラに向かって臭いを嗅いで確かめている。何にでも興味を示すココは、ボクが庭先や外に出ると必ず付いて来る。何か良い事でもあると想って来るのだろうが、ボクにすれば精々、気分転換で外に出るだけの事だからいちいちココに構っていられない。しかし何処までも付いて来られると可愛く想え、つい頭を撫でてやりたくなる。頭を撫でて貰うのが気持ち良いのか、ココはされるままにしている。何処の猫もその様で、鼻から額に掛けて指先で撫でてやると目を細めて嬉しそうにする。其処が亦可愛い。小説「猫と女と」(3) 「ねえ、時間ある?これから出て来ない?」会話が途切れたのを気にする様に女は言った。「これから?」「ウェスティン・ホテルのロビーで待ってるワ。一緒に食事でもしない?」「事務所の方は?」「もう一寸したら揚げる積もりヨ。所長も出掛けているし」「じゃ、一時間後に」女とは二週間ぶりだった。娘の迎えとマンションの処分手続きにニューヨークへ行った後、やつれた顔で帰国した時の顔とは打って変わった明るい顔をしていた。尤も、ニューヨークのマンションの件は飽くまでも推測に過ぎなかった。が、女が折角の海外旅行なのに少しも嬉しい顔をせず逆に暗い表情であった事やデザイン事務所の脱税容疑が修正申告で済んだと所長がわざわざ言ていった事、更にはこの一年で知り得た事務所の経営状態で推測出来るのだった。それは自社ビルのテナントが減って行ったり毎月の様に所員が慌ただしく入れ替わっているのを観ても明らかだった。 女が事務所の事を何も言わなかったが、近々、ビルを引き払い近くの貸しビルに引っ越すという話が所員の口から出た事でそれは決定的だった。単なる引っ越しとは違う。マンション以外に自社ビルまで処分せねばならない状況にまで追い込まれていた訳だ。女の表情以外にも所長の苛立った言動からそれは感じられ、偽装離婚であるにせよ今と成っては実質的な夫婦関係を継続させる理由は経済問題でしか無いのだろう。そうなれば女の方が強かで割り切り方が早く、かつての恋慕の情なぞ消え失せた元夫との関係なぞ、娘の存在だけで繋がっている様なものだ。彼等の関係がどうであれ私には一人の女と一人の仕事関係者に過ぎず、男が私に抱く気持も大した問題に想えず、女もわざわざ元夫の前で私に親しげに話し掛ける仕草でそれを助長させる。刺激が欲しくてそうするのか、それとも仕事が欲しくて媚を売るのか知らないが大いに刺激にはなる。 「事務所、引っ越すんだって?」レストランの席につくと躊躇わず訊いた。「ええ、そうなのヨ。あの人、言わなかった?」「何も聴いていない。所員が話していたので分かった」「近くのビルなので電話番号は変わらずそのままヨ。でも、新しい事務所には私は行かない事にしたの」「ほう、どうして?」「だって、もう会社は倒産したも同然ヨ。今だからこそ言えるけど、あなたの仕事の方は先月で終えたから良かったものの、中途半端になるのだけは嫌で、ハラハラしながら見ていたのヨ」「そうだったのか・・・。だからニューヨークのマンションも処分した訳だ」「ええ、そういう事。娘が最後に一番長く住んでくれた様なものネ」「高く売れた?」「差し押さえになっていたから・・・、税金や手続費用で全部消えてしまったワ」女は何の未練も無い様な表情で淡々と言った。既に財産分与を終えている彼女に何も手に入るものは無く、今後の新事務所に彼女は何も期待していないのだろう。 「これから先、どうする積もりだい?」「当面は、家でブラブラするだけネ。娘は就職するでしょうけれど・・・」「英語が生かせる会社?」「そうネ。旅行会社なんかに当たっているワ」そんな会話をしながら軽い食事をとっていると、ふと中年夫婦と言うよりも愛人同士が楽しそうに食事している光景に観えるのでは無いかと想った。しかし、今時そんな風には誰も想わないだろう。世間では中年アベックが食事をしている光景なぞ有り触れ過ぎている。そう言えば、十年程前に梅田のターミナルですれ違った昔の恋人とターミナル・ビルのレストランで食事した事を想い出した。女は結婚していた。相手は医者だと言った。「子供は?」「居ないワ」「相変わらず遊び回っている様だネ?」「嫌ねえ、こう観えても専業主婦ヨ」「シャンソン、まだ歌っている?」「歌っているワ。そうだワ、チケットを買ってヨ。来週、祇園でディナー・ショウをやるの」 チケットなぞ要らなかったが、事務所の方に送ってくれる様に言って、改めて女をシゲシゲと観察した。ステージ映えする派手な顔つきはしているが、もう往年の張りのある表情ではなかった。サングラスで隠していても小皺が分かり、頬は垂れている。それでも十年も遭わなかったのに、つい最近別れたような錯覚に陥りかけた。こんな女に熱を挙げていた頃があったのが懐かしくもおかしかった。妻の方が美人だと想った。別れるべくして別れたのが当然だと想い返し、それじゃあ何故わざわざ食事に誘ったのかと自問自答してみた。多分、別れた男と今の夫とを比較させて迷わせようという下心が在ったのかも知れない。それ程、自信があった。女の男を判断する基準は学歴や仕事の社会的地位だけでしか無かった。言わば頭の悪い女ながら男の気を惹く小悪魔的魅力を持って居た。それに振り廻される真面目な男が多く、真面目から程遠い私なぞ女は半分警戒していた筈なのに、私が現れたせいで彼女を失った男も何人か居た。 それが一種のゲームの様な感覚で楽しかった。「そろそろ別れようか。婚約したんだ」バーの近くの蕎麦屋で女とうどんを食べている最中に私は言った。女がパラリと箸を落としたのを覚えている。その時、女がどういう返事をしたか覚えていないが、かなりの衝撃を与えた様だった。数ヶ月後、バーのクリスマス・パーティーに婚約者を連れて行った時、女も居た。既に女は立ち直っていた風に観えた。私との関係を知って居る友人達は婚約者の手前、女に気を使っていたが、婚約者にはかつての恋人だった事を事前に話してあった。女に婚約者を紹介すると「綺麗な人ネ」と女はポツリと言った。それから十年が瞬く間に過ぎた。京都を離れて大阪で新婚生活に入り、直ぐに子供が出来た。そいういう事もあって京都の夜の世界から次第に足が遠のき、祇園で遊び回っていた独身時代が嘘の様に想える様になっていた。そして更に十年が過ぎて五十近く成った今、決して若くは無いのに、デザイン事務所の女と食事をし女の表情に可愛さを感じている。(5月中旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/07
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ココ百景(54) 今日も天気が良いのでポーチでココは日向ぼっこをしている。草花にとって是からは花盛りの季節である。ココは花を愛でる気があるのか無いのか知らないが、草花には注意をして決して踏みつける事はしない。たまに花の香りを嗅いでいる事もある。妻やボクが大事にしている草花だけに自分も大切にしなければならないと想っているのだろうか。兎に角、草花には悪戯はしないのである。猫が花の横にいる図は絵に成るから春から夏に掛けてはカメラを向けるチャンスが増える。ココも心得たものでポーズをとる。「こちらを向いてくれ」と願っても他所ばかり観て居るからシャッター・チャンスがなかなか訪れない。辛抱強く待つしかない。小説「猫と女と」(3) 「ねえ、時間ある?これから出て来ない?」会話が途切れたのを気にする様に女は言った。「これから?」「ウェスティン・ホテルのロビーで待ってるワ。一緒に食事でもしない?」「事務所の方は?」「もう一寸したら揚げる積もりヨ。所長も出掛けているし」「じゃ、一時間後に」女とは二週間ぶりだった。娘の迎えとマンションの処分手続きにニューヨークへ行った後、やつれた顔で帰国した時の顔とは打って変わった明るい顔をしていた。尤も、ニューヨークのマンションの件は飽くまでも推測に過ぎなかった。が、女が折角の海外旅行なのに少しも嬉しい顔をせず逆に暗い表情であった事やデザイン事務所の脱税容疑が修正申告で済んだと所長がわざわざ言ていった事、更にはこの一年で知り得た事務所の経営状態で推測出来るのだった。それは自社ビルのテナントが減って行ったり毎月の様に所員が慌ただしく入れ替わっているのを観ても明らかだった。 女が事務所の事を何も言わなかったが、近々、ビルを引き払い近くの貸しビルに引っ越すという話が所員の口から出た事でそれは決定的だった。単なる引っ越しとは違う。マンション以外に自社ビルまで処分せねばならない状況にまで追い込まれていた訳だ。女の表情以外にも所長の苛立った言動からそれは感じられ、偽装離婚であるにせよ今と成っては実質的な夫婦関係を継続させる理由は経済問題でしか無いのだろう。そうなれば女の方が強かで割り切り方が早く、かつての恋慕の情なぞ消え失せた元夫との関係なぞ、娘の存在だけで繋がっている様なものだ。彼等の関係がどうであれ私には一人の女と一人の仕事関係者に過ぎず、男が私に抱く気持も大した問題に想えず、女もわざわざ元夫の前で私に親しげに話し掛ける仕草でそれを助長させる。刺激が欲しくてそうするのか、それとも仕事が欲しくて媚を売るのか知らないが大いに刺激にはなる。 「事務所、引っ越すんだって?」レストランの席につくと躊躇わず訊いた。「ええ、そうなのヨ。あの人、言わなかった?」「何も聴いていない。所員が話していたので分かった」「近くのビルなので電話番号は変わらずそのままヨ。でも、新しい事務所には私は行かない事にしたの」「ほう、どうして?」「だって、もう会社は倒産したも同然ヨ。今だからこそ言えるけど、あなたの仕事の方は先月で終えたから良かったものの、中途半端になるのだけは嫌で、ハラハラしながら見ていたのヨ」「そうだったのか・・・。だからニューヨークのマンションも処分した訳だ」「ええ、そういう事。娘が最後に一番長く住んでくれた様なものネ」「高く売れた?」「差し押さえになっていたから・・・、税金や手続費用で全部消えてしまったワ」女は何の未練も無い様な表情で淡々と言った。既に財産分与を終えている彼女に何も手に入るものは無く、今後の新事務所に彼女は何も期待していないのだろう。 「これから先、どうする積もりだい?」「当面は、家でブラブラするだけネ。娘は就職するでしょうけれど・・・」「英語が生かせる会社?」「そうネ。旅行会社なんかに当たっているワ」そんな会話をしながら軽い食事をとっていると、ふと中年夫婦と言うよりも愛人同士が楽しそうに食事している光景に観えるのでは無いかと想った。しかし、今時そんな風には誰も想わないだろう。世間では中年アベックが食事をしている光景なぞ有り触れ過ぎている。そう言えば、十年程前に梅田のターミナルですれ違った昔の恋人とターミナル・ビルのレストランで食事した事を想い出した。女は結婚していた。相手は医者だと言った。「子供は?」「居ないワ」「相変わらず遊び回っている様だネ?」「嫌ねえ、こう観えても専業主婦ヨ」「シャンソン、まだ歌っている?」「歌っているワ。そうだワ、チケットを買ってヨ。来週、祇園でディナー・ショウをやるの」 チケットなぞ要らなかったが、事務所の方に送ってくれる様に言って、改めて女をシゲシゲと観察した。ステージ映えする派手な顔つきはしているが、もう往年の張りのある表情ではなかった。サングラスで隠していても小皺が分かり、頬は垂れている。それでも十年も遭わなかったのに、つい最近別れたような錯覚に陥りかけた。こんな女に熱を挙げていた頃があったのが懐かしくもおかしかった。妻の方が美人だと想った。別れるべくして別れたのが当然だと想い返し、それじゃあ何故わざわざ食事に誘ったのかと自問自答してみた。多分、別れた男と今の夫とを比較させて迷わせようという下心が在ったのかも知れない。それ程、自信があった。女の男を判断する基準は学歴や仕事の社会的地位だけでしか無かった。言わば頭の悪い女ながら男の気を惹く小悪魔的魅力を持って居た。それに振り廻される真面目な男が多く、真面目から程遠い私なぞ女は半分警戒していた筈なのに、私が現れたせいで彼女を失った男も何人か居た。 それが一種のゲームの様な感覚で楽しかった。「そろそろ別れようか。婚約したんだ」バーの近くの蕎麦屋で女とうどんを食べている最中に私は言った。女がパラリと箸を落としたのを覚えている。その時、女がどういう返事をしたか覚えていないが、かなりの衝撃を与えた様だった。数ヶ月後、バーのクリスマス・パーティーに婚約者を連れて行った時、女も居た。既に女は立ち直っていた風に観えた。私との関係を知って居る友人達は婚約者の手前、女に気を使っていたが、婚約者にはかつての恋人だった事を事前に話してあった。女に婚約者を紹介すると「綺麗な人ネ」と女はポツリと言った。それから十年が瞬く間に過ぎた。京都を離れて大阪で新婚生活に入り、直ぐに子供が出来た。そいういう事もあって京都の夜の世界から次第に足が遠のき、祇園で遊び回っていた独身時代が嘘の様に想える様になっていた。そして更に十年が過ぎて五十近く成った今、決して若くは無いのに、デザイン事務所の女と食事をし女の表情に可愛さを感じている。(5月中旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/06
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ココ百景(53) 春も終わりに近づき初夏らしい日が続くと、もう日陰が恋しくなったココは庭の木犀の根元で涼しさを満喫する様になる。其処には苔が生えて居て涼しいのだろう。日中は摂氏25度を越えて夏日に成る事もある。しかし夜は冷気が流れ肌寒く成るから気温の変化は10度以上もある。そういう日はボクなんか風邪をひき易くなるので面倒でも何回も着替えをしなくてはならないが、猫や犬は汗腺が無いから体温調整は環境の良い場所を探すしかない。木犀の根元の苔が生えた処は最適の場所と言う事である。日本画にも猫が樹の根元で寛いでいる光景を題材にしたものが多い。昔から猫は知っているのだろう。小説「猫と女と」(3) 「ねえ、時間ある?これから出て来ない?」会話が途切れたのを気にする様に女は言った。「これから?」「ウェスティン・ホテルのロビーで待ってるワ。一緒に食事でもしない?」「事務所の方は?」「もう一寸したら揚げる積もりヨ。所長も出掛けているし」「じゃ、一時間後に」女とは二週間ぶりだった。娘の迎えとマンションの処分手続きにニューヨークへ行った後、やつれた顔で帰国した時の顔とは打って変わった明るい顔をしていた。尤も、ニューヨークのマンションの件は飽くまでも推測に過ぎなかった。が、女が折角の海外旅行なのに少しも嬉しい顔をせず逆に暗い表情であった事やデザイン事務所の脱税容疑が修正申告で済んだと所長がわざわざ言ていった事、更にはこの一年で知り得た事務所の経営状態で推測出来るのだった。それは自社ビルのテナントが減って行ったり毎月の様に所員が慌ただしく入れ替わっているのを観ても明らかだった。 女が事務所の事を何も言わなかったが、近々、ビルを引き払い近くの貸しビルに引っ越すという話が所員の口から出た事でそれは決定的だった。単なる引っ越しとは違う。マンション以外に自社ビルまで処分せねばならない状況にまで追い込まれていた訳だ。女の表情以外にも所長の苛立った言動からそれは感じられ、偽装離婚であるにせよ今と成っては実質的な夫婦関係を継続させる理由は経済問題でしか無いのだろう。そうなれば女の方が強かで割り切り方が早く、かつての恋慕の情なぞ消え失せた元夫との関係なぞ、娘の存在だけで繋がっている様なものだ。彼等の関係がどうであれ私には一人の女と一人の仕事関係者に過ぎず、男が私に抱く気持も大した問題に想えず、女もわざわざ元夫の前で私に親しげに話し掛ける仕草でそれを助長させる。刺激が欲しくてそうするのか、それとも仕事が欲しくて媚を売るのか知らないが大いに刺激にはなる。 「事務所、引っ越すんだって?」レストランの席につくと躊躇わず訊いた。「ええ、そうなのヨ。あの人、言わなかった?」「何も聴いていない。所員が話していたので分かった」「近くのビルなので電話番号は変わらずそのままヨ。でも、新しい事務所には私は行かない事にしたの」「ほう、どうして?」「だって、もう会社は倒産したも同然ヨ。今だからこそ言えるけど、あなたの仕事の方は先月で終えたから良かったものの、中途半端になるのだけは嫌で、ハラハラしながら見ていたのヨ」「そうだったのか・・・。だからニューヨークのマンションも処分した訳だ」「ええ、そういう事。娘が最後に一番長く住んでくれた様なものネ」「高く売れた?」「差し押さえになっていたから・・・、税金や手続費用で全部消えてしまったワ」女は何の未練も無い様な表情で淡々と言った。既に財産分与を終えている彼女に何も手に入るものは無く、今後の新事務所に彼女は何も期待していないのだろう。 「これから先、どうする積もりだい?」「当面は、家でブラブラするだけネ。娘は就職するでしょうけれど・・・」「英語が生かせる会社?」「そうネ。旅行会社なんかに当たっているワ」そんな会話をしながら軽い食事をとっていると、ふと中年夫婦と言うよりも愛人同士が楽しそうに食事している光景に観えるのでは無いかと想った。しかし、今時そんな風には誰も想わないだろう。世間では中年アベックが食事をしている光景なぞ有り触れ過ぎている。そう言えば、十年程前に梅田のターミナルですれ違った昔の恋人とターミナル・ビルのレストランで食事した事を想い出した。女は結婚していた。相手は医者だと言った。「子供は?」「居ないワ」「相変わらず遊び回っている様だネ?」「嫌ねえ、こう観えても専業主婦ヨ」「シャンソン、まだ歌っている?」「歌っているワ。そうだワ、チケットを買ってヨ。来週、祇園でディナー・ショウをやるの」 チケットなぞ要らなかったが、事務所の方に送ってくれる様に言って、改めて女をシゲシゲと観察した。ステージ映えする派手な顔つきはしているが、もう往年の張りのある表情ではなかった。サングラスで隠していても小皺が分かり、頬は垂れている。それでも十年も遭わなかったのに、つい最近別れたような錯覚に陥りかけた。こんな女に熱を挙げていた頃があったのが懐かしくもおかしかった。妻の方が美人だと想った。別れるべくして別れたのが当然だと想い返し、それじゃあ何故わざわざ食事に誘ったのかと自問自答してみた。多分、別れた男と今の夫とを比較させて迷わせようという下心が在ったのかも知れない。それ程、自信があった。女の男を判断する基準は学歴や仕事の社会的地位だけでしか無かった。言わば頭の悪い女ながら男の気を惹く小悪魔的魅力を持って居た。それに振り廻される真面目な男が多く、真面目から程遠い私なぞ女は半分警戒していた筈なのに、私が現れたせいで彼女を失った男も何人か居た。 それが一種のゲームの様な感覚で楽しかった。「そろそろ別れようか。婚約したんだ」バーの近くの蕎麦屋で女とうどんを食べている最中に私は言った。女がパラリと箸を落としたのを覚えている。その時、女がどういう返事をしたか覚えていないが、かなりの衝撃を与えた様だった。数ヶ月後、バーのクリスマス・パーティーに婚約者を連れて行った時、女も居た。既に女は立ち直っていた風に観えた。私との関係を知って居る友人達は婚約者の手前、女に気を使っていたが、婚約者にはかつての恋人だった事を事前に話してあった。女に婚約者を紹介すると「綺麗な人ネ」と女はポツリと言った。それから十年が瞬く間に過ぎた。京都を離れて大阪で新婚生活に入り、直ぐに子供が出来た。そいういう事もあって京都の夜の世界から次第に足が遠のき、祇園で遊び回っていた独身時代が嘘の様に想える様になっていた。そして更に十年が過ぎて五十近く成った今、決して若くは無いのに、デザイン事務所の女と食事をし女の表情に可愛さを感じている。(5月中旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/05
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ココ百景(52) 玄関の外で毛づくろいをしているココである。ボクの行く処に付いて来るので、家の周りを一周すると諦めて一か所で何かを始める。例えばガレージの塀の上で道路の光景を見張ったり、庭の高野槇の下で寛いだり、ポーチにゴロゴロ寝転んだりするのである。ココは餌を食べたりお八つを食べる以外は殆ど眠っているか庭か家の外の何処かで何かをしている。寝る場所は自分の部屋かボクのベッドである。ネコのテリトリーは大体半径100mで200mの園の中で行動する。自分のテリトリーに他所者が来ると威核して追い返す。この辺りはネコが少なく野良ネコも少ないから隣家のモモ(アメリカン・ショートヘア)が隣家の庭で寝そべっている程度である。ネコにとって平和な場所であるが、ココには物足りない様である。小説「猫と女と」(3) 「ねえ、時間ある?これから出て来ない?」会話が途切れたのを気にする様に女は言った。「これから?」「ウェスティン・ホテルのロビーで待ってるワ。一緒に食事でもしない?」「事務所の方は?」「もう一寸したら揚げる積もりヨ。所長も出掛けているし」「じゃ、一時間後に」女とは二週間ぶりだった。娘の迎えとマンションの処分手続きにニューヨークへ行った後、やつれた顔で帰国した時の顔とは打って変わった明るい顔をしていた。尤も、ニューヨークのマンションの件は飽くまでも推測に過ぎなかった。が、女が折角の海外旅行なのに少しも嬉しい顔をせず逆に暗い表情であった事やデザイン事務所の脱税容疑が修正申告で済んだと所長がわざわざ言ていった事、更にはこの一年で知り得た事務所の経営状態で推測出来るのだった。それは自社ビルのテナントが減って行ったり毎月の様に所員が慌ただしく入れ替わっているのを観ても明らかだった。 女が事務所の事を何も言わなかったが、近々、ビルを引き払い近くの貸しビルに引っ越すという話が所員の口から出た事でそれは決定的だった。単なる引っ越しとは違う。マンション以外に自社ビルまで処分せねばならない状況にまで追い込まれていた訳だ。女の表情以外にも所長の苛立った言動からそれは感じられ、偽装離婚であるにせよ今と成っては実質的な夫婦関係を継続させる理由は経済問題でしか無いのだろう。そうなれば女の方が強かで割り切り方が早く、かつての恋慕の情なぞ消え失せた元夫との関係なぞ、娘の存在だけで繋がっている様なものだ。彼等の関係がどうであれ私には一人の女と一人の仕事関係者に過ぎず、男が私に抱く気持も大した問題に想えず、女もわざわざ元夫の前で私に親しげに話し掛ける仕草でそれを助長させる。刺激が欲しくてそうするのか、それとも仕事が欲しくて媚を売るのか知らないが大いに刺激にはなる。 「事務所、引っ越すんだって?」レストランの席につくと躊躇わず訊いた。「ええ、そうなのヨ。あの人、言わなかった?」「何も聴いていない。所員が話していたので分かった」「近くのビルなので電話番号は変わらずそのままヨ。でも、新しい事務所には私は行かない事にしたの」「ほう、どうして?」「だって、もう会社は倒産したも同然ヨ。今だからこそ言えるけど、あなたの仕事の方は先月で終えたから良かったものの、中途半端になるのだけは嫌で、ハラハラしながら見ていたのヨ」「そうだったのか・・・。だからニューヨークのマンションも処分した訳だ」「ええ、そういう事。娘が最後に一番長く住んでくれた様なものネ」「高く売れた?」「差し押さえになっていたから・・・、税金や手続費用で全部消えてしまったワ」女は何の未練も無い様な表情で淡々と言った。既に財産分与を終えている彼女に何も手に入るものは無く、今後の新事務所に彼女は何も期待していないのだろう。 「これから先、どうする積もりだい?」「当面は、家でブラブラするだけネ。娘は就職するでしょうけれど・・・」「英語が生かせる会社?」「そうネ。旅行会社なんかに当たっているワ」そんな会話をしながら軽い食事をとっていると、ふと中年夫婦と言うよりも愛人同士が楽しそうに食事している光景に観えるのでは無いかと想った。しかし、今時そんな風には誰も想わないだろう。世間では中年アベックが食事をしている光景なぞ有り触れ過ぎている。そう言えば、十年程前に梅田のターミナルですれ違った昔の恋人とターミナル・ビルのレストランで食事した事を想い出した。女は結婚していた。相手は医者だと言った。「子供は?」「居ないワ」「相変わらず遊び回っている様だネ?」「嫌ねえ、こう観えても専業主婦ヨ」「シャンソン、まだ歌っている?」「歌っているワ。そうだワ、チケットを買ってヨ。来週、祇園でディナー・ショウをやるの」 チケットなぞ要らなかったが、事務所の方に送ってくれる様に言って、改めて女をシゲシゲと観察した。ステージ映えする派手な顔つきはしているが、もう往年の張りのある表情ではなかった。サングラスで隠していても小皺が分かり、頬は垂れている。それでも十年も遭わなかったのに、つい最近別れたような錯覚に陥りかけた。こんな女に熱を挙げていた頃があったのが懐かしくもおかしかった。妻の方が美人だと想った。別れるべくして別れたのが当然だと想い返し、それじゃあ何故わざわざ食事に誘ったのかと自問自答してみた。多分、別れた男と今の夫とを比較させて迷わせようという下心が在ったのかも知れない。それ程、自信があった。女の男を判断する基準は学歴や仕事の社会的地位だけでしか無かった。言わば頭の悪い女ながら男の気を惹く小悪魔的魅力を持って居た。それに振り廻される真面目な男が多く、真面目から程遠い私なぞ女は半分警戒していた筈なのに、私が現れたせいで彼女を失った男も何人か居た。 それが一種のゲームの様な感覚で楽しかった。「そろそろ別れようか。婚約したんだ」バーの近くの蕎麦屋で女とうどんを食べている最中に私は言った。女がパラリと箸を落としたのを覚えて居る。女がどういう返事をしたか覚えていないが、かなりの衝撃を与えた様だった。数ヶ月後、バーのクリスマス・パーティーに婚約者を連れて行った時、女も居た。既に女は立ち直っていた風に観えた。私との関係を知って居る友人達は婚約者の手前、女に気を使っていたが、婚約者にはかつての恋人だった事を事前に話してあった。女に婚約者を紹介すると「綺麗な人ネ」と女はポツリと言った。それから十年が瞬く間に過ぎた。京都を離れて大阪で新婚生活に入り、直ぐに子供が出来た事もあって京都の夜の世界から次第に足が遠のき、祇園で遊び回っていた独身時代が嘘の様に想える様になっていた。そして更に十年が過ぎて五十近く成った今、決して若くは無いのに、デザイン事務所の女と食事をし女の表情に可愛さを感じている。(5月中旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/04
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ココ百景(51) 冬場は寒いからココは温かな部屋でジッとしている事が多いが、それでも退屈すると庭に出たくなって「出して頂戴」という合図をする。その合図の一つがパソコンの上に乗る事である。それが分かっていてもボクは面倒くさい時は無視してパソコンの作業をしているから、ココはボクがその気になる迄待っている。待ちきれなくなって来るとパソコンの上で方向転換をする。それを繰り返し始めると辛抱が出来なくなって来た証拠だから已む無く後のサッシュのガラス戸を開けてやる。するとパッと飛び降りてガラス戸の開いた隙間から脱兎の様に去って行く。そんなに外が良いのかどうか知らないが気分転換に成るのだろう。狩りをする季節では無いのに庭で見張りをするのが楽しみの一つになっているらしい。しかし、余りにも冷えて寒い時は直ぐに舞い戻って来る。小説「猫と女と」(3) 「ねえ、時間ある?これから出て来ない?」会話が途切れたのを気にする様に女は言った。「これから?」「ウェスティン・ホテルのロビーで待ってるワ。一緒に食事でもしない?」「事務所の方は?」「もう一寸したら揚げる積もりヨ。所長も出掛けているし」「じゃ、一時間後に」女とは二週間ぶりだった。娘の迎えとマンションの処分手続きにニューヨークへ行った後、やつれた顔で帰国した時の顔とは打って変わった明るい顔をしていた。尤も、ニューヨークのマンションの件は飽くまでも推測に過ぎなかった。が、女が折角の海外旅行なのに少しも嬉しい顔をせず逆に暗い表情であった事やデザイン事務所の脱税容疑が修正申告で済んだと所長がわざわざ言ていった事、更にはこの一年で知り得た事務所の経営状態で推測出来るのだった。それは自社ビルのテナントが減って行ったり毎月の様に所員が慌ただしく入れ替わっているのを観ても明らかだった。 女が事務所の事を何も言わなかったが、近々、ビルを引き払い近くの貸しビルに引っ越すという話が所員の口から出た事でそれは決定的だった。単なる引っ越しとは違う。マンション以外に自社ビルまで処分せねばならない状況にまで追い込まれていた訳だ。女の表情以外にも所長の苛立った言動からそれは感じられ、偽装離婚であるにせよ今と成っては実質的な夫婦関係を継続させる理由は経済問題でしか無いのだろう。そうなれば女の方が強かで割り切り方が早く、かつての恋慕の情なぞ消え失せた元夫との関係なぞ、娘の存在だけで繋がっている様なものだ。彼等の関係がどうであれ私には一人の女と一人の仕事関係者に過ぎず、男が私に抱く気持も大した問題に想えず、女もわざわざ元夫の前で私に親しげに話し掛ける仕草でそれを助長させる。刺激が欲しくてそうするのか、それとも仕事が欲しくて媚を売るのか知らないが大いに刺激にはなる。 「事務所、引っ越すんだって?」レストランの席につくと躊躇わず訊いた。「ええ、そうなのヨ。あの人、言わなかった?」「何も聴いていない。所員が話していたので分かった」「近くのビルなので電話番号は変わらずそのままヨ。でも、新しい事務所には私は行かない事にしたの」「ほう、どうして?」「だって、もう会社は倒産したも同然ヨ。今だからこそ言えるけど、あなたの仕事の方は先月で終えたから良かったものの、中途半端になるのだけは嫌で、ハラハラしながら見ていたのヨ」「そうだったのか・・・。だからニューヨークのマンションも処分した訳だ」「ええ、そういう事。娘が最後に一番長く住んでくれた様なものネ」「高く売れた?」「差し押さえになっていたから・・・、税金や手続費用で全部消えてしまったワ」女は何の未練も無い様な表情で淡々と言った。既に財産分与を終えている彼女に何も手に入るものは無く、今後の新事務所に彼女は何も期待していないのだろう。 「これから先、どうする積もりだい?」「当面は、家でブラブラするだけネ。娘は就職するでしょうけれど・・・」「英語が生かせる会社?」「そうネ。旅行会社なんかに当たっているワ」そんな会話をしながら軽い食事をとっていると、ふと中年夫婦と言うよりも愛人同士が楽しそうに食事している光景に観えるのでは無いかと想った。しかし、今時そんな風には誰も想わないだろう。世間では中年アベックが食事をしている光景なぞ有り触れ過ぎている。そう言えば、十年程前に梅田のターミナルですれ違った昔の恋人とターミナル・ビルのレストランで食事した事を想い出した。女は結婚していた。相手は医者だと言った。「子供は?」「居ないワ」「相変わらず遊び回っている様だネ?」「嫌ねえ、こう観えても専業主婦ヨ」「シャンソン、まだ歌っている?」「歌っているワ。そうだワ、チケットを買ってヨ。来週、祇園でディナー・ショウをやるの」 チケットなぞ要らなかったが、事務所の方に送ってくれる様に言って、改めて女をシゲシゲと観察した。ステージ映えする派手な顔つきはしているが、もう往年の張りのある表情ではなかった。サングラスで隠していても小皺が分かり、頬は垂れている。それでも十年も遭わなかったのに、つい最近別れたような錯覚に陥りかけた。こんな女に熱を挙げていた頃があったのが懐かしくもおかしかった。妻の方が美人だと想った。別れるべくして別れたのが当然だと想い返し、それじゃあ何故わざわざ食事に誘ったのかと自問自答してみた。多分、別れた男と今の夫とを比較させて迷わせようという下心が在ったのかも知れない。それ程、自信があった。女の男を判断する基準は学歴や仕事の社会的地位だけでしか無かった。言わば頭の悪い女ながら男の気を惹く小悪魔的魅力を持って居た。それに振り廻される真面目な男が多く、真面目から程遠い私なぞ女は半分警戒していた筈なのに、私が現れたせいで彼女を失った男も何人か居た。 それが一種のゲームの様な感覚で楽しかった。「そろそろ別れようか。婚約したんだ」バーの近くの蕎麦屋で女とうどんを食べている最中に私は言った。女がパラリと箸を落としたのを覚えている。その時、女がどういう返事をしたか覚えていないが、かなりの衝撃を与えた様だった。数ヶ月後、バーのクリスマス・パーティーに婚約者を連れて行った時、女も居た。既に女は立ち直っていた風に観えた。私との関係を知って居る友人達は婚約者の手前、女に気を使っていたが、婚約者にはかつての恋人だった事を事前に話してあった。女に婚約者を紹介すると「綺麗な人ネ」と女はポツリと言った。それから十年が瞬く間に過ぎた。京都を離れて大阪で新婚生活に入り、直ぐに子供が出来た。そいういう事もあって京都の夜の世界から次第に足が遠のき、祇園で遊び回っていた独身時代が嘘の様に想える様になっていた。そして更に十年が過ぎて五十近く成った今、決して若くは無いのに、デザイン事務所の女と食事をし女の表情に可愛さを感じている。(5月中旬へつづく・月に3回連載予定)
2012/05/03
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ココ百景(50) 餌をやっても未だ何か欲しい時は食卓のボクの横に来てストールに乗って何かをねだる。おかずの一部(魚や肉など)が貰えるからだ。人間の食べる物は全部美味しい物の様に想っている様で、どんなものを食べて居るのかが気にかかるらしい。しかし、カレーや野菜の煮込んだ物などは食べないから一応は少し見せて臭いを嗅いで食べられそうだと判断すれば見本に興味を示す。食事以外の時に来れば、ココ用のお八つ(煮干し雑魚)を缶から取り出して一匹ずつ取り出して与える。小さな雑魚なら20匹ほど、大きな雑魚の場合は5匹ほどで満足してプイと離れて行く。「御馳走さま」なぞという礼儀は表現出来ないから満足そうに舌舐めずりしている様が「有難う」という表現だと解釈している。自分から離れて行く行為そのものが満足の表現なのである。ココの目が赤眼になっているのはフラッシュの光のせいである。小説「猫と女と」(3) 「ねえ、時間ある?これから出て来ない?」会話が途切れたのを気にする様に女は言った。「これから?」「ウェスティン・ホテルのロビーで待ってるワ。一緒に食事でもしない?」「事務所の方は?」「もう一寸したら揚げる積もりヨ。所長も出掛けているし」「じゃ、一時間後に」女とは二週間ぶりだった。娘の迎えとマンションの処分手続きにニューヨークへ行った後、やつれた顔で帰国した時の顔とは打って変わった明るい顔をしていた。尤も、ニューヨークのマンションの件は飽くまでも推測に過ぎなかった。が、女が折角の海外旅行なのに少しも嬉しい顔をせず逆に暗い表情であった事やデザイン事務所の脱税容疑が修正申告で済んだと所長がわざわざ言ていった事、更にはこの一年で知り得た事務所の経営状態で推測出来るのだった。それは自社ビルのテナントが減って行ったり毎月の様に所員が慌ただしく入れ替わっているのを観ても明らかだった。 女が事務所の事を何も言わなかったが、近々、ビルを引き払い近くの貸しビルに引っ越すという話が所員の口から出た事でそれは決定的だった。単なる引っ越しとは違う。マンション以外に自社ビルまで処分せねばならない状況にまで追い込まれていた訳だ。女の表情以外にも所長の苛立った言動からそれは感じられ、偽装離婚であるにせよ今と成っては実質的な夫婦関係を継続させる理由は経済問題でしか無いのだろう。そうなれば女の方が強かで割り切り方が早く、かつての恋慕の情なぞ消え失せた元夫との関係なぞ、娘の存在だけで繋がっている様なものだ。彼等の関係がどうであれ私には一人の女と一人の仕事関係者に過ぎず、男が私に抱く気持も大した問題に想えず、女もわざわざ元夫の前で私に親しげに話し掛ける仕草でそれを助長させる。刺激が欲しくてそうするのか、それとも仕事が欲しくて媚を売るのか知らないが大いに刺激にはなる。 「事務所、引っ越すんだって?」レストランの席につくと躊躇わず訊いた。「ええ、そうなのヨ。あの人、言わなかった?」「何も聴いていない。所員が話していたので分かった」「近くのビルなので電話番号は変わらずそのままヨ。でも、新しい事務所には私は行かない事にしたの」「ほう、どうして?」「だって、もう会社は倒産したも同然ヨ。今だからこそ言えるけど、あなたの仕事の方は先月で終えたから良かったものの、中途半端になるのだけは嫌で、ハラハラしながら見ていたのヨ」「そうだったのか・・・。だからニューヨークのマンションも処分した訳だ」「ええ、そういう事。娘が最後に一番長く住んでくれた様なものネ」「高く売れた?」「差し押さえになっていたから・・・、税金や手続費用で全部消えてしまったワ」女は何の未練も無い様な表情で淡々と言った。既に財産分与を終えている彼女に何も手に入るものは無く、今後の新事務所に彼女は何も期待していないのだろう。 「これから先、どうする積もりだい?」「当面は、家でブラブラするだけネ。娘は就職するでしょうけれど・・・」「英語が生かせる会社?」「そうネ。旅行会社なんかに当たっているワ」そんな会話をしながら軽い食事をとっていると、ふと中年夫婦と言うよりも愛人同士が楽しそうに食事している光景に観えるのでは無いかと想った。しかし、今時そんな風には誰も想わないだろう。世間では中年アベックが食事をしている光景なぞ有り触れ過ぎている。そう言えば、十年程前に梅田のターミナルですれ違った昔の恋人とターミナル・ビルのレストランで食事した事を想い出した。女は結婚していた。相手は医者だと言った。「子供は?」「居ないワ」「相変わらず遊び回っている様だネ?」「嫌ねえ、こう観えても専業主婦ヨ」「シャンソン、まだ歌っている?」「歌っているワ。そうだワ、チケットを買ってヨ。来週、祇園でディナー・ショウをやるの」 チケットなぞ要らなかったが、事務所の方に送ってくれる様に言って、改めて女をシゲシゲと観察した。ステージ映えする派手な顔つきはしているが、もう往年の張りのある表情ではなかった。サングラスで隠していても小皺が分かり、頬は垂れている。それでも十年も遭わなかったのに、つい最近別れたような錯覚に陥りかけた。こんな女に熱を挙げていた頃があったのが懐かしくもおかしかった。妻の方が美人だと想った。別れるべくして別れたのが当然だと想い返し、それじゃあ何故わざわざ食事に誘ったのかと自問自答してみた。多分、別れた男と今の夫とを比較させて迷わせようという下心が在ったのかも知れない。それ程、自信があった。女の男を判断する基準は学歴や仕事の社会的地位だけでしか無かった。言わば頭の悪い女ながら男の気を惹く小悪魔的魅力を持って居た。それに振り廻される真面目な男が多く、真面目から程遠い私なぞ女は半分警戒していた筈なのに、私が現れたせいで彼女を失った男も何人か居た。 それが一種のゲームの様な感覚で楽しかった。「そろそろ別れようか。婚約したんだ」バーの近くの蕎麦屋で女とうどんを食べている最中に私は言った。女がパラリと箸を落としたのを覚えている。その時、女がどういう返事をしたか覚えていないが、かなりの衝撃を与えた様だった。数ヶ月後、バーのクリスマス・パーティーに婚約者を連れて行った時、女も居た。既に女は立ち直っていた風に観えた。私との関係を知って居る友人達は婚約者の手前、女に気を使っていたが、婚約者にはかつての恋人だった事を事前に話してあった。女に婚約者を紹介すると「綺麗な人ネ」と女はポツリと言った。それから十年が瞬く間に過ぎた。京都を離れて大阪で新婚生活に入り、直ぐに子供が出来た。そいういう事もあって京都の夜の世界から次第に足が遠のき、祇園で遊び回っていた独身時代が嘘の様に想える様になっていた。そして更に十年が過ぎて五十近く成った今、決して若くは無いのに、デザイン事務所の女と食事をし女の表情に可愛さを感じている。(5月中旬へつづく・今後、月に3回連載予定)
2012/05/02
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ココ百景(49) エリザベス・カラ―は傷口を舐めない為のカバーであるが、ココは意外にもそれを取りつけても嫌な態度は取らなかった。そう言えば首に鈴を取りつける事も嫌がらなかった。逆に嬉しそうにしている位だった。何か変わった事が好きな様である。木登りを教えるとグングンと上に登って行き、降りるのに苦労していたが、それでも冒険心があるらしく何でも変わった事に挑戦するネコである。だから籠や段ボールの箱を与えると自分から中に入って勝手に遊んでいる。押し込めても暫くは其処でジッとしている。一般的には狭い処に押し込めばネコは嫌がるのに、犬猫病院へ連れて行くのに駕籠に入れても平気だった。しかし、車は嫌で、揺れる車内では「ニャー、ニャー」とよく啼いた。車以外は物置に閉じ込められても何とも無い。不思議な気がする。小説「猫と女と」(2) 飼い猫が自宅の周りだけでなく近所の家々へも行く様になって自分のテリトリーが拡大し確保されて行くに連れ、我が物顔で我が家の庭に闖入していた隣家の猫が来なくなった。それは当初の思惑通りで満足出来るものだった。ところが勝手なもので、逆に来なく成ればなったで少し寂しい気もする。「仔猫を貰ってくれない?」と女から頼まれ、軽く承知した心の底には、隣家の悪猫対策に成るかも知れないという淡い期待もあった。隣家の飼い猫が我が家の庭に糞をして臭って困っていた。「あなた、一寸来てくれない?」ある晴れた日の午後、ガーデニングをしている妻が声を掛けて来た事があった。花壇で雑草を取ったり花柄の手入れをしているのを遠目で見ながらゴルフのピッチング練習をしている時だった。ボールの転がり具合が上手く行き出した矢先だっただけに生返事をしただけで練習を続けていると再度呼ぶ声がした。 ピッチング・ウェッジを打ち込む位置が正確に成り、ボールの飛距離も落下地点も同じ様に成って来た時だけに妻の声が煩わしかった。仕方無く如何にも面倒くさいという風にクラブを握ったまま花壇の方へ行くと「何か、臭うでしょ?」と言う。「花かい?」「いいえ、花は良い香りヨ。垣根辺りから変な臭いがしない?」言われるまま境界線の垣根へ行き、貝塚伊吹の根元を眺め、ゴルフ・クラブで枯葉を引っ掻いてみた。数回同じ様な仕草をしながら移動して行くと小さな黒い塊がポロリと現れた。「在った、在った!猫の糞だ。また、モモがやりやがったな。しょうがない奴だ!」とつい言ってしまった。「やっぱりネ。どうも臭うと想ったのヨ」妻は納得した顔で言った。「糞うッ!」納屋からスコップを持って来ると私は土と一緒にすくい上げて「持ち主に返しておこう!」と垣根越しに隣家の庭へばら撒いた。 「あら、大丈夫?お隣さんの庭に放り投げても・・・」「大丈夫さ、自分の飼いネコがした粗相だから・・・」と当然の様に撒いてから、今年に入って何回目になるだろうと数えてみた。平均すれば月に数度の割で放り投げ入れているから相当の量になる筈だ。多分、隣家でも気がついているだろう。今のところ文句の一つも出て居ないからモモが粗相したものと納得しているのだろう。もし、文句を言って来たら逆に文句を言ってやらねばならない。言わないと分からない飼い主なのだ。それけに、こちらからわざわざ出掛けて行ってまで文句を言う気にも成れない。もし臭いが気になるぐらいなら既にモモの糞の処理はしている筈だし、ちゃんとした躾もしている筈なのだ。ところが、隣家の夫人は見掛けに依らずだらし無い性格なのか糞トレーなぞ用意もせず、糞用の砂だけを袋のまま端を少し破って縁側の外にばら撒いてあるのが垣根越しに観えるだけだ。 それだけに猫にすれば決められた場所で用を足すでなく、何処でも好きな処でやる事になり、柔らかな土の花壇とか人目に付き難い垣根の根元で用を足すのが当たり前になっている。猫の本能の穴を掘って糞を隠す猫ババ状態なら臭いも余りして来ないのだろうが、枯葉があるからそれを被せてその気に成っているらしい。日頃から厚化粧の夫人は外出する時は大層めかし込んでいる。そのくせペットの世話を焼くのが面倒らしく躾や手入れなぞやった事が無いらしい。通いの家政婦は猫の面倒なぞ全くみないから躾の出来て居ない猫はココが来るまではこの辺りを勝手放題好きな様にしていた。ところが、ココが来て、糞トレーを外に置く様になってからはモモもそれを使う様になった。仔猫のココは相使いでも怒らなかった。モモが姉の様に想えたのだろう。しかし、それもココが一年経って大人に成った頃からモモを威嚇し排除する様になった。 ココに追いやられたモモは、それ以来、我が家には近付かない様に成って行き、それまでのモモの指定席だった場所はココが居座る様になった。一年経ってようやく思惑通りに成った訳だ。「やっと一年が経って、大人の猫に成ったヨ」久々に女に電話を掛け、その事を言った。「あら、そう?白と黒の模様が綺麗でしょ?」「パンダの様な猫だねえ」「如何にも高級そうな猫に観えるでしょ?」「そうそう、来客が皆、綺麗な猫だと言っている。人懐っこくて、誰にでも愛想を振りまいている。木登りが上手くてネ、気性が荒いけど、あれの親はどうなの?兄弟が居る?」「もう一匹、友達の処に居るワ。そっちの方は大層大人しいのヨ。同じ血でも気性の違いが出るのか知らねえ。写真を舞子に見せたら喜んで居たワ。亦、新しい写真を頂戴ネ」女は娘の事を言った。会った事も無い娘は、マンションのテーブルに置かれた写真でしか知らなかった。 可愛い顔だが何処にでも居るタイプの現代的な少女という感じだった。母親にも父親にも似ていず、父親は娘を溺愛していると女は言い、目がない割には、ニューヨークでの生活がどの様なものであったかデザイン事務所では一切言わなかった。ビジネスだけの付き合いだけに私生活は無関係と想っているのだろう。が、女と私との出逢いや関係を知っているだけに殊更触れないのかも知れない。まして猫の事は全く知らないだけに共通の話題が無いのだ。女はニューヨークの娘の生活を毎日の様に電話を掛けて知っていると言った。「学校でネ、セントラル・パーク横のマンションから通学していると言うと皆驚くそうヨ。あそこにマンションを持っているなんて相当のお金持ちに成るらしいの」「そりゃあ、そうだろう。グーグル・アースでマンションの写真を観たけれど超高層の高級マンションだった」そう言いながら、そのマンションを手放さざるを得なかった事情を想うと話は途切れた。(5月上旬へつづく)
2012/05/01
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