まいかのあーだこーだ

まいかのあーだこーだ

2024.01.15
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一月の笑いの外にひとりいた 残業の鍋焼M-1の出囃子 初笑い追い出す寄席のはね太鼓 爆笑や横隔膜に去年の揺れ 福笑いのような祖父の、死に顔 初旅のB席iPadにドリフ 盃の富士に一礼初笑 「犯人は…」に続く客席のくつさめ 笑ひ声洩るる交番注連飾 妣の忌や遺言だもの牡蠣フライ ばればれの手品の父や冬座敷 ゲラの子はゲラに育つや春隣 元日の大仏の鼻抜く女優 大笑ふ君は私似春間近 墓前にてあなたと笑った冬の空 雪景色転んだあとの顔判子
1月11日のプレバト俳句。
冬麗戦です。お題は「大笑い」。


上位から順に見ていきます。



1位は春風亭昇吉。
一月の笑いの外にひとりいた


笑いの外に誰かを見つけたときのセリフなら、
「いた」という過去形にもなるだろうけど、
自分自身を描写したのなら、
ふつうは「居 り」と現在形にすべきです。



2位はキスマイ横尾。
残業の鍋焼 M-1の出囃子


いつもの対句。
正直、このスタイルにも飽きたけど(笑)。

問題は季語の「鍋焼」です。
本来の「鍋焼」は、肉を野菜と一緒に煮る料理。

職場で豪勢に鍋焼を囲んでるのかしら?
…とも誤読されるだろうし、
かりに「鍋焼うどん」の略だとしても、
キッチンのある職場で鍋焼うどんを作ったのかしら?


しかし、
映像を見ると、即席の鍋焼うどんのようです。

思うに、
「いつものカップラーメンよりは贅沢」
みたいなニュアンスかもしれませんが、


なお、歳時記にはないものの、
「M1」も「紅白」と同様に、
実質的に季語としての機能をもってるので、
ダメ押しの年末感がありますね。



3位は梅沢富美男。
初笑い追い出す寄席のはね太鼓


ハネ太鼓の別称は「追い出し」です。

なので、言ってみれば、
「観客を追い出すのが寄席のハネ太鼓である」
との説明を、季語を使って俳句っぽく書いただけ。

いつもならボツになるパターンですが、
今回は景気の良さや縁起の良さもあいまって、
たまたま上手くいったかな、という感じ。



4位はフルポン村上。
爆笑や 横隔膜に去年 こぞ の揺れ


これは評価するのが難しい…。

季語でないものを上五で詠嘆し、
形式は二句一章なのに、中身は一物仕立てに見えます。

山本健吉の言葉を借りるなら、
《主題+細叙的な反復》かもしれないけど、
わたしにはたんに、
《主題+主題の説明》のようにも思えるし、

ある意味では、梅沢と同じく、
「笑いとは横隔膜の揺れである」との説明に、
季語を加えただけの句とも言える。

上五の「爆笑」が、
現在の爆笑か去年の爆笑かも分かりませんが、
それを切れ字で詠嘆した際の位置づけも、
どう解釈すればよいのか、判断しがたい。



5位は立川志らく。
福笑いのような祖父の、死に顔


読点込みで17音ってこと?

散文でいうなら、
さしずめ「…」のような効果を狙ったものですが、
なんか小手先の技巧って気もする。



6位は川島如恵留。
初旅のB席 iPadにドリフ


9+9=18音の対句。

他人のiPadなら、
初旅や 隣のiPadにドリフ

と助詞の「に」を使ってもいいと思いますが、

自分のiPadだったら、
助詞は「の」を使うほうが妥当じゃないかな。



7位は中田喜子。
盃の富士に一礼 初笑


実体験だといわれれば仕方ないけど、

富士の絵柄に頭を下げる場面は、
なんだかちょっと芝居がかっていて、
あまりリアリティを感じないのよね。

むしろ大袈裟に「一拝」「叩頭」などと書いて、
マンガっぽい滑稽味を強める手もあるかなと思う。



8位の森口瑤子。
「犯人は…」に続く客席のくつさめ
「犯人は…」の静黙 客席のくつさめ
(添削後)

原句は18音、添削句は19音の破調。

芝居の重要なシーンの緊張感を、
観客のくしゃみで遮られた様子ですが、

あえて「くしゃみ」と書かずに、
狂言っぽく「くっさめ」と描写した大仰さが、
この場面の滑稽味を強めています。

たしかに原句の「続く」が説明くさいけど、
うまい代替案を出すのもちょっと難しい。

ためしに17音で、
「犯人は!」…そこで客席のくつさめ

でどうでしょうか。



9位は千原ジュニア。
笑ひ声洩るる交番 注連飾 しめかざり


兼題に対して内容が控えめすぎる…
との理由で9位に甘んじましたが、

俳句自体の出来としては、
これがいちばん良いと感じました。



10位は安藤和津。
はは の忌や 遺言だもの牡蠣フライ
母の忌や 遺言だもの牡蠣フライ
(添削後)
母の通夜 遺言だもの牡蠣フライ (添削後)

梅沢が言うように、
「妣」と「忌」の重複は避けるべきなのか、
正直なところ、よく分からないけど、

まあ、あえて両方を並べずとも、
「母の忌」or「妣の日」で十分ってことでしょう。

なお、
後段のフレーズを面白いと思う人もいるでしょうが、
わたしは「相田みつを?」との印象が先立って、
どうも安っぽいコピーライトのように感じてしまう。

むしろ、
母の忌も遺言だから牡蠣フライ

と書いたほうが滑稽味が増すのでは?



11位の本上まなみ。
ばればれの手品の父や 冬座敷
ばればれの手品の父や お正月
(添削後)

これも兼題に対して内容が控えめすぎる…
との理由でランク外。

たしかに添削のほうがいいと思うけど、
個人的にはジュニアの次に良い出来だと思いました。



12位はこがけん。
ゲラの子はゲラに育つや 春隣
大笑 げら の子は大笑 げら や 春隣のげらげら
(添削後)

原句は、
助詞の「は」を使う必要を感じない。
むしろ「の」を使うのが妥当だと思います。

添削句のほうは「は」でいいと思いますが、
いつもながらリフレインがくどくて好きじゃない。

なお、Wikipediaを見ると、
「ゲラ」はおもに関西方言とあります。
とはいえ、その記述はやや信憑性に乏しい。
むしろ起源不詳の現代語じゃないのかな。

もちろん俳句に現代語を使っても構わないのだし、
「ゲラ=校了紙」と誤読される惧れがなければ、
あえて「大笑」にルビをふる必要もない気がする。



13位はかたせ梨乃。
元日の「大仏の鼻」抜く女優
大仏の鼻を抜けたり お元日
(添削後)

これは東大寺の「柱くぐり」の場面。

おそらく、
「通り抜ける」を古語で「通り抜く」としたのでしょうが、
字面からは古語か現代語か判断できないので、
まるで鼻を「抜き取った」みたいに誤読されますね。



14位は水野真紀。
大笑ふ君は私似 春間近
君は私似 春まぢかなる大笑ひ
(添削後)

造語「大笑ふ」の是非と、
我が子の意味で「君」を使ったことの是非。
※俳句では、恋人の意味で使うのが一般的。


ふつうに書いたら、
笑ふ子の顔は私似 春間近
私似の子の笑ひ顔 春間近

のようになるんじゃないかしら?



15位は勝村政信。
墓前にてあなたと笑った冬の空
冬空に笑う原田芳雄の墓前にて
(添削後)

原句には2通りの解釈がありうる。
A: あなた(墓参りの同伴者)とふたり墓前で笑ったときの冬空を思い出してるよ
B: 墓前にひとり立って、あなた(死者)と笑ったときのような冬空を見てるよ

しかし、Aの解釈はありえません。
季語をふくめてまるごと過去の話になってしまうし、
そもそも「墓前で笑う」という行為が不謹慎です。

なので、Bの解釈が正しいのだけど、
過去と現在の時制が交錯して分かりにくいし、
上五に切れがあると言えなくもない。

かたや添削句にも複数の解釈がありえる。
A: 冬空に私は笑っている、原田芳雄の墓前で。
B: 私は「冬空に笑う原田芳雄」の墓前でたたずむ。

Aの解釈は、やはり「墓前で笑う」という不謹慎な話になる。
Bの解釈は、季語が過去の話になる。
したがって、両方とも許容できない。

かろうじて、
C: 冬空に「笑う原田芳雄」の墓前で立つ私

との解釈をとれば問題を回避できるけど、
かなり無理があるし、これなら原句のほうがマシ。

ためしに句またがりで、
冬空の墓前 あなたと笑った日

としてみました。



16位はえなこ。
雪景色 転んだあとの顔判子
失恋や 雪にわたしの顔の痕
(添削後)

下五「顔判子」の比喩の是非。

手をつかずに顔面から転ぶ場面が、
なにやらマンガっぽくて嘘くさく、
比喩そのものもつまらなく思えるけど、

あえてマンガっぽさを自嘲して、
雪に転べば見事なる顔の型

のようにも書けるかもしれない。



清水アナ。
ゴーグルの雪焼け はきと残りけり


先生が言うとおり、後段の説明は不要ですね。

かりに横尾っぽい対句にすれば、
オフィスの休憩 ゴーグルの雪焼け

みたいな感じでしょうか。

なお、「ゴーグル」には、
スキーの雪眼鏡や、水泳の水中眼鏡のほかに、
オートバイ用とか、最近はVR用ゴーグルもあるけど、
なぜか歳時記によっては冬の季語になってるらしい。

一昔前の日本人にとっては、
もっぱらスキー用語だったのでしょうねえ…(^^;



▽過去の記事はこちら
https://plaza.rakuten.co.jp/maika888/diary/ctgylist/?ctgy=12




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最終更新日  2024.01.21 18:35:43


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