『福島の歴史物語」

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2007.09.06
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 輝定は、新たに信夫・安達の地を得た。
 ——万々才じゃ。今度こそ間違いなく後醍醐天皇の世じゃ。
 この思いが、輝定をさらに後醍醐天皇の側に押しやっていた。
「重教様一統の断絶についての責任は感じるが最大の努力は致した。あとは坂上田村麻呂公以来の重教様一統を継ぐ我が田村家の存続こそが大事業。心致さねば」
 そう周囲にも言って覚悟をしていた輝定の元に、後醍醐天皇からの綸旨が届けられた。ところがその内容たるや、遠路京都に来て自己の戦功を奏上して貰った筈の領地を、「返上せよ」と命じて来たのである。つまり召返綸旨で、あっさりと取り上げられてしまったのである。
 ││一体、これは何としたことか!。
 大体当時の将兵は自弁で戦いに参加していた。それであるから將たる者、兵士たちへの手厚い報償分も獲得しなければならなかった。この戦功の奏上によっては、自分の所領と部下への分け前に大きく影響するのであるからこの奏上競争は大変なことであった。その大変な中で、獲得した筈の信夫・安達の地である。
 ││最初の上洛は鎌倉幕府の依頼であった。その時も恩賞がなかった。だからこそ今度は後醍醐天皇側として戦ったではないか。しかも今度は自分の手ではないとは言え、宗家たる田村重教一族を滅ぼしてしまった。これだけの犠牲を払いながら折角得た領地にも拘わらず召返綸旨とは・・・。
 輝定は憤激も顕にして、召返綸旨の撤回を要求した。
 この時に足利尊氏が一番望んでいた新幕府開設に関わる征夷大将軍の位は、大塔宮護良親王に与えられてしまった。しかしその大塔宮護良親王も今回の論功行賞に不満を爆発させると、父である後醍醐天皇の呼び返し命令を無視し、武装解除をせず軍とともに志貴山に籠ってしまった。その上新田義貞も、鎌倉に戻ると形勢を眺めるという日和見的態度に出てしまったのである。この微妙な情勢の変化は、後醍醐天皇の不手際を表していた。
 このような全国の武士たちの不満を確認した足利尊氏は、勝手に奉行所を設置すると武士たちの着到状に所領安堵の確認をした。
 しかしここでの重要な三人の政権構想は、それぞれに異なっていた。つまり
 1:後醍醐天皇は、天皇による独裁的親政を目的としていた。
 2:征夷大将軍・大塔宮護良親王は、公家が天皇の下で武家を統轄しようとした。
 3:足利尊氏は自分が征夷大将軍となり、武家による新幕府を開設しようとしていた。
ということである。
 この考えに基づく尊氏の所領安堵の敏速な行動は、日和見的であった奥羽のこれまでの態度を足利一色に塗り替えるという形勢に変わって行った。このことが、出遅れた後醍醐天皇を不安がらせていた。
[奥羽にくさびを打ち込まなければならない]
 あわてた後醍醐天皇は、奥羽に対して『召返綸旨』の『召返綸旨』を発した。つまり修正の再修正である。この召返綸旨によって、輝定はようやく信夫・安達の地の獲得を再確認した。
 ││天子様たるもの、何をやっているか?
 これが輝定の本音であった。
 七草木超円もまた、[田村参川前司入道宗猷女子藤原氏女当知行地事、被聞食了]との勅を得て七草木の地を安堵された。
 後醍醐天皇は足利尊氏に従三位を、北畠顕家には正三位を贈った。「日本のなかばに及びなんずるようにいひければ(およそ日本の半分)・・・」といわれた奥羽五十四郡は、このようにして後醍醐天皇の支配下に組み込まれることになったのである。輝定も一時は不満は持ったものの領地は確保できたという安心感から、後醍醐天皇支持を堅持することとした。

 建武の新政府は、後醍醐天皇の優位性を具体的に示すため大内裏の造営を計画した。それに合わせるかのように、各地の将士たちよりも多くの恩賞を貰った公家たちも、大邸宅をこぞって新築していた。「上の好む所、下これに従う」そう言って京都の庶民たちも、はやし立てていた。とはいってもこれらの多くの大工事の発注で商工業は未曾有の繁栄を見せ、京都は賑わっていた。
 輝定はそれらの賑わいを見ながら、さすがに京都は天子様の都と感激していた。しかしそのための増税に苦しんだ全国の農民の反対運動は、[州都今だ静謐せず。民庶なお疲労す]と大内裏の造営計画を中止に追い込んだ。従って庶民の中にも建武の新政を呪う声が出て、[近頃都に流行るもの 夜討 強盗 偽綸旨 召人 早馬 虎騒動 生首 還俗 自由出家にわか大名 迷い者 本領離るる訴訟人 文書入れたる細葛・・・]などという庶民の不満をよく表した落首が二条河原にかかげられたりした。
 後醍醐天皇は結城宗広に綸旨を下だすと、北畠顕家が陸奥に下向するについての協力援助を命じた。それにより顕家はわずか六才の皇子・義良親王(のちの後村上天皇)を奉じて、父の北畠親房と共に任地・多賀国府に赴いた。この三人には目にも鮮やかな色とりどりの 指貫姿に市女笠の女官なども従って、百人を超す大行列であった。
 田村輝定と七草木超円は、結城宗広や南部師行らとともにこの一行に加わった。京都・鎌倉で戦ってきた田村軍は、今度は義良親王護衛という晴れがましい大役を仰せつかったのである。白河からは石川・田村・伊達の地を通って自己の領地の宣伝をしてもよかったのであるが、「軍の通過に際して道も良く・・・」と主張すると義良親王を供奉しながら安積庄を意気揚々と行軍して行った。反後醍醐派である伊東氏に対して、大いなる軍事的牽制をしたのである。
 北畠顕家を多賀国府に送り届け、輝定がようやく守山の地に帰還したのはその年も暮れのことであった。







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最終更新日  2007.11.15 16:44:09
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