『福島の歴史物語」

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2007.09.20
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 宗季は歩みを遅らせながら、部下につぶやいた。
「後ろから来るは、敵か味方か?」
「月山の衆なればもう声をかけてもいい筈。それをせぬは敵やも知れませぬ」
「よし! その先の大きな巖によって休息と見せかけるぞ。奴等の姿を見て判断致す。森田。その方はそのまま単独で先行致せ。そして後ろから来る奴ばらが敵なれば即刻走り、宇津峰宮に急を知らせい」
 迎撃の準備を整え巖を背に汗を拭いている宗季らの前に、二十人ほどの追手の一団が現れた。
 ——ほう。やはり敵であったか。それにしても大そうな人数よ。
 宗季はそう思った。それぞれの背の葛籠は手元に置き、刀は直ぐに取り出せるようにしていた。頭目らしいのが声をかけて来た。
「その方共、いずれへ参られる?」
 追手が声をかけた。
「羽黒山へ参りまする」
「して見たところ三人のようじゃが?」
 すでにそれを言う追手の一団が、宗季らを半月形に取り囲んでいた。
「はい。我ら一行三人にございまする」
 ——ここで時間を稼げば森田の報告が届く筈だし、そろそろ出迎えの山伏たちにも会う時刻。そうすれば宇津峰宮は安全圏に入れる筈。
 宗季はそう胸の中で計算していた。
 追手が訊いた。
「いや我らの目には、四人と見えたが?」
 ——ということは宇津峰宮らの先発組は見られていないな。
 そう思うと宗季は少し安心した。
「いや。我らは三人でございまする。のう?」
 そう言うと宗季は傍らの者に同意を求めた。二人は頷いてそれを認めた。
「我らは羽黒山富田山坊の衆なれば、嘘は申しませぬ」
「いや、お主らのその眼光、言葉使い。誠の山伏ではあるまい?」
 緊張が高まった。
「これまで!」
 宗季は叫ぶと一瞬の内に刀を取り出し、鞘をはらった。二十数本の刃が、一斉に襲いかかった。
 この混戦の中で、田村宗季らの三人は戦死した。しかし宇津峰宮と北畠顕信は、無事に立谷沢城に達した。立谷沢城は月山と羽黒山の間の渓谷にあり、羽黒山富田山坊の衆徒が固守していた天嶮であったのである。







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最終更新日  2008.01.16 21:47:00
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