母と娘
母の利子は自力で居酒屋をやっていた。居酒屋をしながらその二階では客を取っていた。居酒屋の客はそれをよく知っていて時間が来ればさっさと帰った。だから、女房達も利子の居酒屋を嫌わなかったのだ。利子が賢かったのは、居酒屋の客と二階の客をはっきり分けていたことだった。
二階の客は、仕入れ先の社長とか家主の旦那などで、仕入れも家賃もずいぶん安くしてもらっていた。利子が、勘で作り上げたビジネスモデルだった。
そして、利子は近所の資産家の子供を産んだ。それが幸恵だった。その男と関係ができてからは利子は客を取るのはすっぱりやめた。男がそれを希望したからだ。そして、子供ができててからは商売もやめた。男の手当てで暮らした。
利子は、そんな生活の中でも貯蓄を忘れなかった。普段は質素な生活をして、男が来る日だけは、いい食事をだした。そういう、けなげなところが男に愛された。男が亡くなった時には、幸恵のために相応の金額が用意されていた。
その段取りをしたのは、その男の母だった。利子は、その男が来た日には「お母様へ」と言ってお土産を持たせることを忘れなかったのだ。利子は、その後はまた居酒屋を始めて地道に暮らした。
幸恵は18の時にはキャバレーで働いた。美人だし出勤もちゃんとするから店から大事にされていた。キャバレーのオーナーとはできていた。入店して半年でオーナーとできたんだから凄腕だった。オーナーの嫁さんとも仲良くした。抵抗なんて全然なかった。よく働くいいホステスだったのだ。おかげで若いうちにマンションを買った。
21のときに真由美を身ごもってキャバレーをやめた。子供が生まれたときには養育費をもらった。そして、それ以降幸恵とオーナーとの縁が切れた。子供の相続権を主張することもなかった。約束通りけじめはしっかりつけた。だから真由美は自分の父親が誰か知らない。1年間は真由美の父親がくれた金で暮らした。
それ以降は小さなスナックを開いた。その資金は自分がためた金を充てた。残った養育費は貯金した。母親と同じように、スナックの小さな部屋で客をとった。客は店の客とは別にした。つきあいのある銀行の支店長だった。
暮らしに困ることはなかった。店はいつも清潔で、インテリアのセンスもよかった。大企業のサラリーマンがよく来ていた。