旧家の蔵
大阪では隆君が美奈子さんの親戚の地盤を継いで選挙に出るようだ。美奈子さんは大反対だったが隆君が強く希望したらしい。聡一もずいぶん気落ちしている。結局、大阪の田原興産は聡一が頑張るしかない状態だ。
最近はこちらへの相談事も多い。何かといえば夫婦でやってきては愚痴をこぼして帰る。それなりに仲のいい夫婦になっていた。純一への頼み事も増えていた。
美奈子さんの父親の山下氏の家の整理を頼まれた。もともとは浅田隆一氏が住んでいたところを建て直したものだ。浅田氏は梨花叔母と真梨に何かと贈り物をしてくれていた人だ。我が家とは縁の深い家だった。家の方は建て直したというものの、もう廃屋になっていた。
それよりは築100年にもなろうかという蔵の方が堅牢だった。しかも昔の道具類が残されている。こちらの整理は大変だろうと思った。何があるかわからないので細かく見て回った。まるで金目の物をあさっている古道具屋のようなものだ。
それでも高価な骨董品があれば無視はできない。美奈子さんに目録を作るしかないだろう。本業とは全く違う仕事だった。純一も少し辟易していた。
純一や社員達が大きな文箱を見つけた。鎌倉彫の立派なものだが経年で表面は剥げていた。僕たちが驚いたのは、その中身だった。
真梨と梨花叔母と浅田隆一の3人が写った記念写真には「真梨成人式」と書かれていた。そして裏には、真梨、梨花とペンで書かれている。これには純一もこだわった。なぜ呼び捨てなんだろうと。
そのほかにも、真一叔父の身上書が2通。そして僕が何よりも驚いたの文箱の底には僕の身上書があったことだ。なぜ、ここにこんなものが?僕と真梨は従妹結婚だ。だれも僕のことなど調べなかった。調べる必要など誰も感じていなかったのだ。
にも拘わらずなぜ浅田隆一は僕を調べたのだろう。僕はあわてて自分の身上書を隠した。絵梨や純一には僕の実父に犯罪歴があることを話していない。今更大きな問題になることは無いだろうが、それでも、わざわざ知らせる事でもないだろう。
僕の実父と母の離婚の原因を蒸し返せば長谷川の話も蒸し返すことになる。余計な事を知らせる必要はなかった。
そのほかにも僕たちの祖母に当たる田原莉恵子からの手紙もある。その手紙には梨花叔母の結婚がきまったこと、相手は島本真一であることが報告されている。そして島本真一の身上書、叔父の身上書は田原姓に代わってからのものもあった。
なぜ、こんなに叔父に関心があったのだろう?なぜ、浅田隆一は田原家の婿のことをこんなにも詳しく調べたのだろう?確かに浅田隆一は親族の出世頭だ。それでも田原家と浅田家は親族ではない。なにか不自然な感じのする文箱だった。
この話は、聡一にも美奈子さんにも話したが事情はよくわからなかった。昔の政治家は親族にいろいろな頼まれごとをしたのだろうと憶測するだけだった。僕は自分の身上書があったことは美奈子さんにも聡一にも秘密にしていた。
続く
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2019年07月04日
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