最後の夜
翌日からいろいろな観光地を回った。あの鬱陶しい気分はどこかへ飛んでしまった。両親には三日おきに電話した。僕たちは、修学旅行に来た中学生のようにはしゃいでいた。
絵梨の頬はピンク色に輝いていた。
ハネムーンの最後の夜「純、この二週間は私は本当に幸福な妻だったわ。でも、この後はあなたの好きな道に進んでほしい。私は十分に幸福だから心配いらない。誰からも祝福される恋をしてほしいの。」といった。
最初の夜のことが尾を引いていた。絵梨は嘘が下手だった。もし、今僕が離れたら絵梨は生きてはいられないはずだ。あんなに、親戚中巻き込んで結婚にこぎつけた二人がそんなに簡単に別れられるはずはなかった。少なくても僕は、つまらない友人の言葉に惑わされる絵梨に腹がったった。
「つまらないこと言うな。そりゃ、初めて外国人の女の子とあけっぴろげな恋をしたさ。その子が好きだったよ。だけど、それでも絵梨の不幸を聞いたら放っておけなかったんだ。その子を置いてさっさと日本へ帰っちゃったんだよ。だから、あんな風に嫌味をくらったんだよ。それが今の僕なんだよ。こんなこと説明しなきゃわからない?その子もあの男と幸福になるさ。それとも、青春の思い出も作っちゃいけなかった?」
「ごめん、なんかモヤモヤして笑えないの、腹が立つのよ。」
「知らないの?それをジェラシーっていううんだよ。これから、そのジェラシーを溶かしてあげるよ。」
帰国してから、実家の会社に平社員として入社した。僕がわりと一生懸命働いたので、他の社員とも仲良くなれた。穏やかな日々が続いた。
僕は会社関係や友人に絵梨のことを話すときには、「家内」とよんだ。そういう、ちょっとおじさん臭い言い方が気に入っていた。その言葉を言うときに、自分の口元がちょっとニヤけるのがわかった。
親しい友人は絵梨が姉だということを知っていて一瞬ぎょっとした。僕は、実父が誰だとは言わなかったが、自分が養子だったこと、養子と実子の結婚は法的に問題がないことを丁寧に説明した。友人たちは僕の説明を聞いてほっとした顔をする。めんどうだったが理解して欲しかった。
続く
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