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幼い頃、父親は地域の消防団に入っていて、夜になると、その訓練か会合かによく出掛けていった。夜中遅く帰ってくると、父は、僕ら子供たちにお菓子をくれた。起きていたのか起こされたのか、電灯の明かりの下、パジャマ姿でお菓子を受け取ったときの嬉しさを、今もはっきりと覚えている。作家の向田邦子のエッセイに、夜遅く酔って帰ってきた父親に、子供たちみんなが起こされて、眠い目をこすりながら土産の折り詰めを分け合って食べる。という場面があった。それが、戦前のことだと考えると、向田さんは良い家庭に育ったのだなと、つくづく思う。と同時に、時代は変わっても父親というものは、いつもこんなことを繰り返していることが、おかしくも懐かしく感じられる。亡き父の声思い出せぬほど時隔ち虫鳴く夜の月影親し
2007/06/30
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雪が積もっているときの新聞配達は大変だが、その次くらいに嫌なのが、梅雨の時期の配達だ。小さな町だったので、配達部数は多くはなかった。家の手伝いなので、配達している人が辞めると、その穴埋めに新聞を配っていた。そのために、配る地域がどんどん変わっていく。その配達先を覚えるのも大変だった。一番つらかったのは、坂の多い山際の地区で、梅雨時には、着ている雨合羽の中がすぐに汗で蒸れてしまった。その坂道の途中に、花がたくさん植えられている家があって、この時期、紫陽花が咲き競っていた。梅雨の朝坂道に咲く紫陽花の青い花弁が溝を流れる
2007/06/23
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このくらいの気候になると、毎年夜には窓を開けて眠る。夜風が心地好い季節だ。外が白み始める頃に目が覚めるときがあって、開いた窓から、雀の鳴く声が今までよりもはっきりと聞こえる。何年か前は、長い間鳴き声が聞こえていた気がするが、今年は数分くらいで聞こえなくなる。他の場所に飛んでいってしまうのだ。周りに家が建て込んできたからかも知れない。雀らは夜明けとともに昨夜みた夢の話を歌い囀る刻まれし野性のさがか朝毎に鳴き交わし止まぬ雀の衝動
2007/06/16
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子供の頃、幼なじみの友人達と、庭の躑躅の花を摘んで蜜を吸っては、甘い甘いと言い合っては遊んでいた。蜜蜂が甘い蜜を採りに来ることを知っていたし、誰から聞いたのか、躑躅の花を摘んで吸うと、甘い味がするとも聞いていた。本当だ、甘い味がする。そう言って、僕も喜んでいたが、本当は味なんかしなかった。友人達が嬉しそうに言い合っているし、甘いと聞いてもいたので、甘くないとは言い出せなかった。友人達が帰った後も、一人で花を摘んでは口に含んで吸ってみたけれど、何度やっても甘く感じられなかった。花摘んで蜜を吸う子ら笑い合う疑心覚えし躑躅また咲く紅躑躅花の甘さを知らずして梅雨の間に間に終生過ごす子
2007/06/09
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衣替えの季節になったが、部屋着はもう五月の連休中に夏物に替えていた。昼の間は冷房をつけるほどでも、夜中になると寒くなることがある。寒さに目が覚めると、全身に軽いだるさを感じる。特に素足が冷えてしまう。その足を布団の中に戻すと、じんわりと温まって、痺れがほぐれてくるのが気持よく感じられる。身体冷えて目覚めかすかな疲労感鋼のような初夏の三日月
2007/06/02
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