椿荘日記

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その6


June 23, 2009
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久しぶりの更新なので、ふと、思いついた事を。

マリの「椿荘」には、春と違い、夏の花が咲き始めております。その一つ、八重の梔子(洋名をアザレアというのでしょうか)は、薫り高く、白く、美しい花を咲かせまして、椿と並び、マリの「偏愛(笑)」の対象となっておりまして、今朝も三番目に咲いた一輪を手折り、小さなベースに生ける事に致しました。
お庭の花なので、当然小さな虫が群がり、マリは何時もの如く病葉を取り除き、花房を洗い群がる小虫を落として、厨房の窓辺に据えました。明るい厨房の出窓に真っ白な花は香り、上質な練り絹を思わせる花びらは貴婦人の衣装の様で、日に何度となく厨房に立つマリの気持ちを引き立ててくれるのでした。
そして、作業の手を休めて飽かず眺める梔子の花びらの上に、除去した筈の「虫」が動き回る姿を、二つ三つ見つけた時、マリは面白みを感じ、ふと想像した事があるのでした。

僅か一ミリにも満たない、黒くて細い小さな虫(マリの目には、刻んだ髪の毛の一片にしか見えません)が、忙しそうに、慌しく、生けられた花びらの上を走り回っておりまして、おやと思い、暫く観察しておりましたら、遥か昔、家族と共に暫し移り住んだイギリスで見た、「サーカス」の公演時の「クラウン(道化)」を何故か思い出したのでした。

真っ白で広大なテントの元、様々な動物や曲芸者、象使い、華やかな衣装の馬上のペア・・。
近くの町に興行に遣ってきた、名はあまり知らなくとも、華やかなチラシと共に興奮を振りまくサーカス一団に、夫と共にまだ幼い息子(当時三歳でした)を連れて観に参りましたのは当然のことでした。

客席は暗く、団長の口上を待ち、飛び出して来たのは、三人組の「クラウン」でした。
サークルの中を縦横無尽に走り回り、おどけ、笑い、跳んだり跳ねたりのパフォーマンスは、会場の観客の笑いと喝采を誘いましたけれど、幼い息子はクラウンの派手なお化粧に怯えて母親であるマリの腕にしっかりとしがみ付いておりまして、その様子にマリは単純にカスタムの違いであると、彼を宥めて受け流し、「認識」や「価値観」の、ちょっとしたエアポケットだったと軽く受け止め、次第に忘れてしまいました。


改めて、時を違えて眺め、自覚した瞬間、微かに胸の奥深い場所で、動揺が走りましたのだけは確かで、想像を膨らませますと、「クラウン」である虫は、いきなり巨人が現れテントを根こそぎ別の場所に持って行き、頭の上から大量の洪水で仲間を流され、吃驚すると共に途方に暮れたことかもしれません。

テントと思しき、白い幕屋の如き梔子の花びらの上を、縦横無尽に走り回る小さなクラウンは、いずれ梔子のテントが萎れた時、目の前から居なくなり、そしてマリの記憶から薄く離れていってしまうのでしょうね。
サーカスの公演の後日、テントを設営したはずの場所に、その姿を想像するのが、難しくなる程の記憶と同じ様に。

覚書きとして、静かなる夜に。





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Last updated  June 27, 2009 04:38:22 PM
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