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今の会社を設立したのは今年3月であるが、12月決算としたので今月で第1期が終わる。会社勤めと比べると生活は不安定だが、なんとか食っていけそうなメドが立って年末を迎えることができたことに感謝。背中を押してくれたり有形無形の支援をしてくれたりした諸先輩、大小にかかわらずお仕事をいただいた取引先の皆様、様々な形で手伝ってくれた友人や起業仲間に心からお礼を申し上げる。私自身にとって大きな1年だったのと同様、高速バス業界全体にとっても大きな1年だったはずだ。昨年12月、国交省から「バス事業のあり方検討会」設置を伝えられた際には、正直、高速ツアーバス各社が事業を継続できなくなる危機を感じた。厳密には、そうならない自信はあったがリスクとしては明確に認識した。そしてなんとしてもそれだけは阻止せねばと考えた。もちろん、万一そうなってしまって困る理由の一つは、当時私は楽天トラベルにいて取扱う商品のほとんどが高速ツアーバスであった上に、高速ツアーバス連絡協議会の事務局長として検討会に臨むという立場にあったからだ。目の前の売上、組織での立場、これまで一緒に成長してきた仲間達の生活の全てに大きな影響を与えるからだ。ただ、その時点では既に私は今の生き方、つまり楽天を離れ、ウェブ販売にとどまらず高速バス事業全体のコンサルタントとして、どちらかというと既存の高速路線バス事業者のお手伝いをすることを決めていた。高速ツアーバス各社が事業を継続できないような結論が出て困ると考えた理由は、したがって、「ツアーバス側」としての事情だけではない。首都圏~京阪神、名古屋、仙台の3区間において、高速ツアーバスの利用者数は高速路線バスの輸送人員を逆転したとはいえ、高速ツアーバス利用者の7割はその3区間に集中し、全国合計で見ると「路線:ツアー」は「95:5」。高速ツアーバスは未だ5%のシェアしかない。ということは、仮にウィラーやオリオンが必死になって(一切のカニバリなくして)新規需要喚起によって今の倍の規模にまで成長したとしても、「95:10」、つまり高速バス市場を5%底上げするだけである。一方、既存の高速路線バス各社が輸送人員を10%増加させるだけで、高速バス市場全体を9.5%押し上げるのだ。「ツアー」が2倍に成長するよりも「路線」があと10%頑張ることの方が、約2倍の効果をもたらすのである。成長著しい高速ツアーバスを育てる仕事は大変ダイナミックであり、楽天の仕事に未練はあったし、斬新なアイデアを次々と実現させている高速ツアーバス各社の経営者、担当者を羨ましいと思う気持ちは今でもあるが、私としては、既存各社のお尻を叩き続けるという地味な仕事こそ自分の役回りだと感じたのだ。そして、もし検討会の場で、高速ツアーバスを現実にもまた理念的にも否定し、かつ高速路線バスの制度が何も変わらないという結論が出たらどうだろう? 既存各社は現状に安住し自ら「あと10%の成長」(まあ、10%でなくてもいいのだが)を望むことは絶対にないし、仮にそう望んだとしても「平場」向けの規制を高速バスに当てはめたいびつな制度のままでは、成長は容易ではないだろう。1年たち、検討会が導こうとしている結論がおおよそ見えてきた。まず、高速路線バスの制度は、「あと10%の成長」を十分に望める内容に変わる。事業者側の意識も、会社ごとに、あるいは個人ごとに差はあるものの、この1年で本当に大きく大きく変化したのではないだろうか。その意味では「既存側」にとってはプラスの大きい結論のはずだ。一方「ツアー側」としては、示されたハードルを超えられればさえ従来よりも安定した形で事業を継続できるわけで、全体で見ればプラスは大きい。ただ、会社単位で見ればそのハードルは高く感じているかも知れない。ただ、そこは歯を食いしばってでも乗り越えてもらいたい。なお、その「ハードル」だが、高速ツアーバス連絡協議会では、会員全社が「新高速バス」に移行するという原則を臨時総会やその他の会合で何度か確認をしている(ただし、バス停の配分が非現実的な結果になった場合を除く)。貸切バス事業者の旅行業部門が企画する高速ツアーバスならともかく、純粋な旅行会社の場合は自らがバス事業者にならないといけないわけだが、貸切バス事業者を買収する、あるいは新会社を共同出資で設立するなど既に準備に入っている。検討会で議論を重ねた結果、制度上は高速ツアーバスを禁止できないことになったわけだが、高速ツアーバス各社はその事業モデルを放棄するのだ。既存事業者の中には、「制度上、明確な禁止」とならなかったことに不満があることは承知しているが、それを実現するためには(省令や通達でなく)法律を変える必要があり、法律改正はそう簡単にできるものでないという行政サイドの現実と、各種の状況を踏まえ自らの事業モデルを放棄する決断をした「ツアー側」の現実を、関係者は理解してほしい。行政のプロが、<現状では高速ツアーバス業態は違法ではない>と何度も繰り返しているのである。それを「事実上禁止」するという判断が、その行政のプロにとっても、受け入れる側にとっても、どれだけ勇気のいる決断か、理解してほしい。もしそれ以上を望むのであれば、逆に既存側がどれだけ代償を支払わされるか、想像してみてほしい。もっとも、私が見る限り、「制度上、明確な禁止」にならなかったことに不満を表明しているのは、一部の事業者の一部の経営者でしかない。あるいは、それもお立場柄、というところか。10年後に振り返ったとき、バス産業の歴史の中で今年はどんな意味を持つだろう? それを決定づけるのは、次の1年がどんな年になるか、に尽きる。2011年が、単に高速ツアーバスが「新高速バス」に一本化されることが決まったというだけか、あるいはそれを機に既存の高速路線バスも含め高速バス市場が大きく拡大していくきっかけになった年か。実は年が明けると、大きな意味を持つミーティングが既にいくつか入っている。感慨にふける時間の余裕は私達には存在せず、むしろ正月休みが明けるのが今から楽しみだ。
2011.12.30
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全国の高速路線バス事業者を回っているが、そろそろ各社から、新制度に基づく管理受委託の話題が現実の話として出てくるようになった。<新制度では、御社の高速バス部門は委託側としてこんなことができ、貸切バス部門は受託側としてこんなチャンスがあるんですよ>と言い続けてきたのは私の方だが、いざ、<ウチのこの路線を委託するとすれば委託料はいくらくらいになるんだろう?>と具体的な質問に会うとその場で固まってしまう。もっとも、制度の詳細はまだ決定していない。細かい点を議論中だ。その議論の中に「委託料の算出基準」みたいな話が入っているから、今の時点で誰も答えられるものではない。ただ、あらゆる商品には何事も「相場感」のようなものが必要だ。コーヒー一杯は、セルフサービス店なら200円、街の喫茶店なら500円、高級ホテルのラウンジでは1000円くらい、というのは一つの「相場感」だ(※投資家が相場を読めるという意味での「相場観」ではなく、これくらいの価格だよね、という共通認識が成立するという意味での「相場感」)。実際には、まずは路線延長や所要時間、次に契約の規模(通年なのかスポットなのか。あるいは他の路線も含めた大規模な委託契約か単発か、など)といった様々な「目に見える」条件が、委託料を決定する最大の要素だ。また貸切バス型管理受委託では、車両自体も受託者のものを使用することになるから、例えば3列シートなどの「特車」を所有する貸切バス事業者(あるいは高速路線バス事業者が、自らの高速バスの予備車両を「乗合貸切併用登録」することも考えられる)は高い委託料を取れるかも知れない(もちろん、委託者が現有車両を受託者に譲渡又は貸与し、委託料と相殺するケースも生まれるだろう)。もう一つ、いざ受委託が行なわれるとなると、運用(オペレーション)で二つの類型が考えられる。現状の説明にいったんさかのぼるが、現状では、高速路線バスは車内発券が認められているし、逆に運送引受義務もあるから、満席等の正当な理由がない限り乗車券を持たずに停留所に現れた乗客を断ることはできない。一方で高速ツアーバスは車内での現金収受は認められていない。ただ、高速ツアーバスのほとんどは300km5時間以上の長距離区間(ほとんどが夜行)であり、利用者サイドから見ると、制度のいかんにかかわらずおおむね事前予約して利用する。今日ではウェブ上やコンビニでの決済手段が普及したため、事前決済(発券)の手間も一気に低下しており抵抗感は小さい。そして制度的には車内発券が認められている高速路線バスでも、長距離夜行路線に関しては、ノーショー対策として事業者側が発券期限を設けている例がほとんどだ。結局、制度的には車内発券可能な高速路線バスも、夜行については事実上「事前予約・事前発券必須」に近いのだ。フリー乗車(飛び込み)は制度上は可能だが営業上は無視できるほどの数だ。そこまで説明した上で今回の「新高速バス」制度に話を戻すと、系統または便ごとに「事前に予約または予約発券が必須」という制限をつけることができる。そういった路線では、受託と言っても本質的には貸切と変わらない。もちろん、安全面でのハードルをはじめ乗合の決まりごとはあるが、現実的な業務の内容としては、貸切バス事業者が、高速ツアーバスやTDRツアー、甲子園の応援団輸送など長距離の仕業を請けた感覚で受託できる。他方で「事前発券を必須としない」路線を受託した場合は、車内での現金収受までが「業務」となる。単なる運行に留まらないのだ。現金収受など簡単ではないかという指摘は間違いで、それを行なうには、例えば釣り銭を準備して出庫時に持参させ、入庫時に精算するといったノウハウと手間など、貸切バス専業者では普段行なわない業務が発生する。これが夜行路線ならまだいいが、多頻度の昼行路線ならかなり複雑になる。極端な話をすれば、高速上の途中バス停で待っていた乗客に、<お待たせしました。新宿行です>と伝えると、<回数券を持っていて、かつ一本後の便に予約してあるんだが、この便に空席があれば乗せてもらえるかね? しかも回数券は中央道府中までだが、今日は差額を払って新宿まで乗りたいんだが>。貸切専業者にはお手上げである。他にも、渋滞で到着が遅れたから、復路は全便、一本ずつ「段落とし」で、などなど、運行面も独特の複雑さがある。ここまでが「目に見える」受委託の要件だ。実際に委託料が決まるには、これらに加え受託事業者の「格」という要素が加わる。そこまで含めて「相場感」である。法令上、委託料の算定基準を明確化することで下限を設けようという考え方もあり、一定程度は意味があることだと思うが、最終的には「いいものは高く売れる」市場環境を整備することが必要だ。バス業界の一部の人たちは、貸切バス分野において、<バスのことを知らない素人(旅行会社)が、価格だけを見て安い貸切バス会社に発注するから業界がダメになった>と主張しているが、高速バスの管理受委託において発注者は素人ではない。高速ツアーバスからの「移行組」は別として、「既存組」の高速路線バスにおいて、この度の貸切バス型管理受委託は、まずはグループ内の貸切バスや共同運行先同士での受委託に活用されるであろう。それであれば、受託者の「格」を問うことなく、続行便設定が容易になり、また以前に書いたように大都市側事業者と地方側事業者とで仕業配分の適正化が進むからだ。一方、リスク(一例:受託者に重大な法令違反が判明すると委託者にも罰則が与えられる)とコスト削減効果を天秤にかけ、まずは老舗の貸切専業者、やがては中堅事業者にまで委託先の範囲を広げていく委託者(高速路線バス事業者)も出てくるだろう。逆の観点から見れば、中堅以上の貸切専業者にとって、大手私鉄系やJR系の一流事業者から高速バスの運行管理受託を勝ち取るという、単なる売上増以上の意味を持つ新しいゴールが生まれるのだ。それを目指す各社の努力が新しいドラマとなり、その切磋琢磨する姿が業界に元気を与えてくれるはずである。
2011.12.28
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先日、原稿を掲載いただいた『年鑑バスラマ』に続き、本誌『バスラマ・インターナショナル』の第129号で、11月に開催した「高速バス・マネジメント・フォーラム2011」の様子を、小さい記事ながらご紹介いただいた。2日間みっちりご取材いただいた編集部に感謝。一方、今号の『バスラマ』で特徴的なのは、やはり「事業者訪問」のコーナーで平成エンタープライズが大きく取り上げられていることだろう。先日も書いたが、『バスラマ』では決して高速ツアーバスが紹介されたことが無いわけではないものの、同誌の目玉である「事業者訪問」で、高速ツアーバスを手広く運行する事業者が紹介されるのは初めてだ(過去にイルカ交通などの例はある)。『年鑑』の私の原稿と合わせ、驚いている読者も少なくないだろう。12月22日にウィラー・エクスプレスが乗合バス事業に参入したというニュースも含めて、時代の大きな変化を感じる。高速ツアーバスに関して、運行だけ請け負う貸切バス事業者の総数は数えきれないくらいだが(大手私鉄系事業者の貸切バス部門などもあったり)、自ら企画実施する会社は、純粋な旅行会社、および貸切バス事業者の旅行業部門を合わせて50数社というところか。高速路線バス事業者にとっては、<いったいどんなヤツらだろう?>というところだが、大きく3つの類型に分けられる。第一に、スキーツアーを中心にした旅行会社が、スキーの低迷とテーマパーク向けツアーの成長の結果、気が付けば都市間の高速ツアーバス事業に進出していたという例。彼らには、<既得権益に風穴を開けてやろう>などという気負いは一切ない。実は私自身、彼らと付き合いだしたころは拍子抜けしたのを覚えている。第二は、貸切バス事業者にせよ旅行会社にせよ、経営者がもともと高速バス事業に強い興味を持っていたケース。<高速バスをやるのが夢だったんです。高速ツアーバスが容認されたおかげで私達でも高速バスに進出できる。手伝ってください>と頭を下げられたことがある。そして第三が、貸切バス事業に苦労して参入し一人前の会社に育て上げた事業者。彼らの中では、既存の、特に路線バス事業者に一目置く気持ちと、過去の経験から生まれる反骨心とが入り混じる。ウィラー、オリオン、日本ユース旅行などが第一のパターン。桜交通、海部観光あたりは第二と第三両方の要素を併せ持つか。そして平成は第三のパターンだ。『バスラマ』の記事からも、立ち止まらずに考え続け走り続ける田倉社長のエネルギーが伝わってくるようだ。なにせ、需給調整撤廃前から苦労して貸切バス事業に参入し、現在では全国有数の250台規模にまで会社を成長させた男だ。貸切バスの需給調整撤廃と一口に言うが、わずか10年前まで需給調整が存在したということは、それまでは、貸切バス事業への新規参入が極めて困難であったということだ。その一方で当時から大手私鉄は本来の拠点以外の大都市に貸切バス子会社を持っていたりしたわけだから、「政治力」が通用した世界でもあったのだろう。同事業が十分以上に儲かった時代で、例えば関西では、繁忙期の貸切バスチャーター代が「日車」60万円を記録したともいう。そこに、「業界の秩序」を守らないタイプの、平成のような新参者が入ってくると、嫌がらせのような行為も少なくなかったことだろう。今日、貸切バスの規制再強化の話が出ている。「既存側」は、ついつい自らの価値感で「行き過ぎた規制緩和」、なかには「市場原理主義」などという感覚的な言葉の使い方をしてしまいがちだ(どう逆立ちして考えても、今日の貸切バス業界に「市場原理主義」という言葉を当てはめるのは違うと思うのだが)。需給調整撤廃前の「よかった頃」を懐かしむ気持ちはわからなくはない。しかし、そう主張する者は次の二点を肝に銘じなければならない。まず、我が国の旅行形態が急激に「団体」から「個人」へと移行したことだ。社員旅行など「団体」に依存してきた旅館業界では廃業や倒産が後を絶たないことからわかるように、貸切バス事業のポテンシャルは確実に縮小している。貸切バスの輸送人員そのものは減っていないが、それは需給調整撤廃により競争が激化(一言で言えば運賃が低下)した結果でしかない。規制がどう変わろうと「よかった頃」には戻れない。もう一つ、規制再強化を主張する限り、それは既存の事業者を利することに変わりなく、第三者、社会から見れば単なる「既得権益」「わがまま」に映るリスクをよく理解しないとならない。これは高速バス分野にも言えることだが、「安全」を錦の御旗にしておけば許されるだろうというのは、あまりにも他人をバカにした思い込みである。社会はそんなにアホではない。規制再強化の結果、誰が得をするのかなど皆が見破っている。いや、個人的には私自身も、今日の貸切バス事業のあり方には問題が大きいと思う。この点は、私も彼らに同意するのだ。しかし、彼らの、あまりにも客観性を欠いた主張を横で聞いている限り、むしろ逆効果だろうと感じざるを得ない。変な言い方だが、高速バス分野に比べると貸切バス分野におけるこの種の議論は、私は少しだけ客観性を持って眺められる。正直に言うと、発言者を後ろから羽交い絞めにして、<殿、お待ちくだされい>と言いたい気分なのだ。彼らに必要なことは二点。まずは規制緩和の何がよくてどこが悪かったのか、感情ではなく論理できちんと説明することだ。そしてもう一つ。他人に責任をなすりつける物言いを今すぐ辞めることだ。あれでは誰も耳を貸さない。もっとも、今日は珍しく貸切バス分野について書いたが、この二点はバス産業のあり方を巡るあらゆる議論において、「既存組」に共通の病根かもしれないが。
2011.12.26
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年末を控え全国へ出張が続く。いくら好きとて、先週のように「両夜行」(往復とも夜行高速バス)はもうやめないと体が重くなってきた。週末は友人たちとある路線の初乗車を楽しんで、週が明けて月曜朝1便の飛行機で別の出張。午後から隣県に移動してその地の事業者に食事にお招きいただいた後、火曜はさらに隣県の事業者に移動して夜行で東京に戻ってきた。ますます体が重いが帰着後の本日はアポイントが無い。サラリーマンを辞めてよかったことの一つが、平日の朝に帰って飲む「明け」のビールだったり。今回の出張は、ある地方を代表する事業者への往訪がメインだった。部長さんには面識があったのだが社長さんをご紹介いただけるということでご挨拶程度のつもりだったが、<せっかくだからちょっとしゃべって(講演して)くれないか?>。日時が迫っていたにもかかわらず、社長ご本人から各営業所、そして隣県など周囲の路線バス事業者にも声をかけてくださり合わせて50人という、事業者内での私の講演としては過去最大規模となった。この、「周囲の事業者を巻き込む」姿勢は大変頼もしい。運賃や車両調達が柔軟化すれば事業運営上の変数が一気に増加する。共同運行先とも、また目先のライバルであるダブルトラック先とも常に連絡を取り合い情報を交換し、共通の価値観を養い個人レベルでの信頼関係を築くことができなければ荒波の時代を乗り越えることは難しいだろう。さて、新制度そして「高速バス・ビッグバン」に関する理解は一部の事業者では着実に進んでいる様子。「あり方検討会」の議事録(おそらく国土交通省が発表する公式な議事録ではなく、より詳細なもの)や、時にはこのブログを隅々までお読みで細かい点まで鋭いご質問をいただき驚くことも増えてきた。今回の制度改正は共同運行会社同士の関係性を大きく変化させるであろうことも、皆様との会話の中から強烈に伝わってくる。キーになるのは、「貸切バス型管理受委託」と「共同運送(コードシェア)」だ。その二つにより具体的にどのようなビジネスモデルが成立するかはここでは詳しく書けないが、この制度改正に多少なりともかかわっている私の考えはこうだ。大都市の大手事業者は運行コストが高く、高速バス事業から利益を上げにくい状況が続いている。さらに空港線など収益性のより高い事業も他にあるし、例えば営業所(車庫)はおおむね親会社の鉄道沿いにあり、仮に減車すればその分の車庫用地を不動産として活用できるなど「誘惑」が多い。逆に地方の路線バス事業者は、利幅は多少無視してもいいから仕業数を稼ぎたい。平場や貸切が縮小均衡にあるなか、とはいえ組合員である乗務員をクビにはできず人件費が固定費化しているからだ。一方でレベニューマネジメント導入など一気に複雑化が進む今後の高速バス事業の運営には、地方の事業者が個別に立ち向かっていては情報もリソースも不足する。複雑さを増すマーケティング面は大都市のハブ的事業者に任せ、実際の運行は地方の事業者が中心に行なえるよう、共同運行会社間で収益の配分方法が変化することが予想される。鉄道や航空といった他の輸送モードと競ううえで、「考える人」と「走る人」の役割を分化して、それぞれ得意分野に特化することが有効だと私自身は考えている(もちろん、長い期間かけて結果としてそう落ち着くだろう、という意味だ)。しかし、だ。今回お邪魔した数社のように、手間とコストをかけてまで私を招いてくれる、あるいは元気な経営者や担当者にお会いしたくて私から好んで伺うような地方の事業者に限って、上記のステレオタイプが通用しないことにあらためて気づく。彼ら自身はただの「走る人」になる気などなく、「考える人」になる意欲もリソースも十分にある。むしろ高速バス事業への期待が大きい分、経営者から担当者まで、大都市側事業者に輪をかけて懸命に考え、制度改正にも期待している。彼ら自身が東京や大阪に自らのバス停を持つことができれば、単独運行に移行し存分に力を発揮することだろうが、現実にそれは困難だ。彼らにとっては、地力はあるはずなのに鷹揚に構えて動こうとしない大都市側の共同運行先には苛立っていることだろう。せめて周囲の地方側事業者がもうちょっと積極的になってくれれば大都市側の共同運行先にプレッシャーを掛けられるのに、というところだろう。しかし、その苛立ちが何かを変えていかないか、私はひそかに期待している。「既存組」の高速バスが他の輸送モードに勝っていくために最終的に必要なことは、「頭脳」の役割を追う大都市側のハブ的事業者が、「考える人」としての責任を自覚し本気で積極的にマーケティング活動に励むことだ。そしてそれを導くのは、そのような大都市側事業者同士の競争だ。そのためには、地方側事業者が、地元での分厚い顧客基盤を持参金にして、より強いパートナーを求め共同運行の組み替える動きを起こすしかない。大都市側事業者が、一等地に昔からバス停を持っている、ということに胡坐をかき、戦略的なマーケティングを担う意欲も能力も持たなければ、実は顧客を握ってきた地方側共同運行先に見捨てられてしまうという環境を作ることが大切なのだ。もちろんそれは、「業界内の暗黙の了解」の中ですぐには起こりえない。だからこそ、地方側事業者の強い苛立ちに期待する。しばらくは、たとえ二等地でも大都市に自社バス停を確保する動き、あるいは「(高速ツアーバスからの)移行組」とのパートナーシップなど試行錯誤が続くだろう。だがその苦労が、また新しい高速バスの歴史を築いてくれるはずだ。振り返ってみれば、民間事業者の高速バス参入、共同運行クローズドドア制の定着、3列独立シート開発など我が国の高速バスの輝かしい歴史は全て、事業者自身の熱意が作り上げてきたわけだから。
2011.12.21
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ぽると出版の和田編集長からご指名いただき、『年鑑バスラマ 2011→2012』(12月5日発売)に、「新時代を迎えた高速バス事業」と題して寄稿させていただいた。季刊である本誌『バスラマ・インターナショナル』は、学生時代からずっと読み続けており、既に何度か記事中に名前を紹介いただいたことはあるものの、今回は『年鑑』に原稿の形で掲載いただいたもの。大変光栄なお話で多くの関係者の皆様に感謝。和田編集長には、もう5年ほど色々お世話になっている。やはり業界の人脈は格別で、一例を挙げれば、編集長にご紹介いただいたある路線バス事業者のE氏が、もともと私の知人であったO氏と知り合ったことがきっかけで、お二人からG氏とT氏をご紹介いただき、今やそのG氏とT氏は私にとって重要なビジネスの相手である。この人と知り合っていなければ今の自分はなかっただろうという人が何人かいるが、和田編集長もその一人である。そういえば『バスラマ』本誌では、私が事務局長として高速ツアーバス連絡協議会を立ち上げた際、綿密にご取材いただき大きな記事にしていただいたことがある。設立準備会の様子やウィラー村瀬社長のインタビュー、平成エンタープライズ乗車記などだ。ただ、本格的にこの問題を取り上げるのはそれ以来、ということになる。私自身、編集長からお電話を頂き、ご依頼の内容を聞いて少し驚いたくらいだ。前回のその『バスラマ』第109号(2008年8月25日発売)では、編集長ご自身の言葉としてこうある。<サッカーのゲームにたとえよう。高速路線バス事業者はフットワークでボールを運び収益を得ようとする。かたやツアーバスは足だけはなく時には手も使う。それはハンドというルール違反だと審判に訴えても、相手チームにはそうしたルールが適用されると説明を受ける。それはフェアではないし観客としても面白くない>しかし最近、編集長が公式な場で、<手を使ってもいいと審判が言い、手を使った方が面白いと観客が拍手喝采したのだから、高速路線バス事業者もそのことを認識しないといけない>とお話になったのを私は聞いている。今回、『年鑑』の巻頭言にも同趣旨の文言がある。私をご指名くださったのは、109号の特集の続編、という位置づけなのかもしれない。一方で私の方でも、期せずして「続編」となった。2009年に財団法人運輸調査局からご指名いただき『運輸と経済』に「高速ツアーバス事業の現状と課題」を寄稿した際、かねてからご説明している通り、高速ツアーバスの成長はウェブマーケティングと結びついたことによる、と書いた。ただそこでは、紙数の関係で、ウェブマーケティングによる新規需要(特に大都市圏の需要)開拓に焦点を当てざるを得なかった。一方で今回は編集サイドから、<高速ツアーバスのハイグレード車両を紹介してほしい>というご要望を頂戴した。紙の時刻表やパンフレットと電話による予約の時代から、ウェブ上で情報を見てそのままウェブで予約する時代になった。特に高速ツアーバスではほぼ100%がウェブ予約だ。ウェブの特徴として、その需要喚起力とともに、複数の事業者、車両タイプを簡単に比較できる「一覧性」と、その際に利用者側が画像やスペック、他利用者の感想まで確認することができる「豊富な情報量」の二点も挙げられる。おのずと利用者はバスどうしをじっくり比較して予約するようになり、平板な商品では多数のライバルの中でうずもれてしまう。結果として高速ツアーバス各社は商品の個性を競うようになり、ハイグレードな座席や待合ラウンジなど地上サービスに力を入れるようになった。新規需要の開拓と並んで、ウェブが高速バスに与えた二つ目の影響である。今回はその点を細かく紹介できたことで、私にとっては『運輸と経済』の、ちょうど続編のようになったのだ。もっとも、正直に言うと私にとってちょっと困ったこともある。この記事で初めて私の名前をご覧になった方は、記事の内容そして私の経歴をお読みになって「ツアーバス側」の人物だと判断なさるだろう、ということだ。私としては、今の会社のクライアントの7割は既存の高速路線バス事業者なのだから、「ツアーバス側」と思われるのは心外だ。いや、私自身の率直な気持ちとして、このブログもそうだが、「既存組」の高速路線バスに厳しめの文章ばかり書いてしまうのは結局は、高速路線バスのことを大切に感じているからの裏返しであり(それは事実だ)、逆に言うとここまで自分を育ててくれた高速ツアーバスのことは大切に思っていないからではないか、と自らを心配しているくらいだ。もちろん、私と仕事で関係する皆様はご理解くださっていると思うが、高速ツアーバスのことを軽く感じているわけではいっさいない。むしろ高速ツアーバス各社は、会うたびに小言をいうヤツだと、私のことを煙たく感じておられるだろう。その「小言」こそ、私が高速ツアーバスも大切に感じているあかしである。その意味で、いつかは高速ツアーバスに対し厳しいことを書かないといけないし、書くことになろう。ただし、「既存組」の高速路線バス各社が、自らが成長を止めていることへの免罪符として「ツアーバス批判」をすることをやめる時がきたならば、だ。繰り返すが、今回の制度改正により、既存も新興も、「路線」も「ツアー」も関係なくなる。それを機に高速バス市場全体が大きく拡大していく「高速バス・ビッグバン」の到来だ。『バスラマ』にこのような原稿が掲載されたことは、まさに今、時代の節目が訪れていることの一つの象徴だろう。高速バス事業にたずさわる全ての関係者は、その節目を強く感じ取り、今すぐにギアを入れ替えるべきである。
2011.12.02
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