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ビフィがテーブルから嗅ぎタバコの箱を取ってコートのポケットにしまった。「それで」――と兵士に向かって椅子に座るよう身ぶりし――「彼はなんと言っていました?連中は何を探しているんです?」「それがなんとも妙な話で。遺物です」「遺物?」兵士は唇を噛んだ。「ええ、古代エジプトの遺物です。でも、われわれが想像していたようなものじゃありません。いわゆる武器じゃない。だから、わたしが見せたものにあんなに腹を立てたんです。連中は巻き物を探しています。それも、文字が描かれた巻き物です」「ヒエログリフか?」バートがうなずいた。「どんな文字か、やつは言ったか?」「連 中はかなりあせっているようです。わたしの前でうっかり口をすべらせたくらいですから。でも、たしかに彼は言いました。なんでも輪つき型十字形(アンク) とか呼ばれるもので、しかもそれが壊れているものがほしいようです。ほら、よく絵にあるでしょう、マークがふたつに割れたような」ライオールとビフィは目を見交わし、同時に言った。「おもしろい」「そのシンボルについては公文書管理局が記録を保管しているかもしれません」もちろんビフィには吸血鬼の情報源に関する知識もある。「ということは、つまり」ライオールが考えぶかげに言った。「これは過去にも起こったということだな」(ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う」P294)
2012年11月30日
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エジプト十字とも呼ばれる。そもそも、「Ankh」という古代エジプト語自体が生命を意味しており、生命的宗教的象徴とされる。ラテン十字の上部がループ状の楕円となった形状をしており、サンダルの紐を模ったものと言われる。また、ヒエログリフにおいては「Ankh」や「Anx」音を表す文字としても用いられており、ツタンカーメンも「Tut-ankh-amen」の「ankh」の部分にこの文字が用いられている。上に図示された図像のカルトゥーシュに囲まれた内側の部分が、「Ankh」である。現在のエジプトではエジプトの象徴であるとも言われており、アンクの力を信じる者は一度だけ生き返ることができると信じられている。(うぃきぺでぃあ)
2012年11月30日
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アレクシアは思わず舌を噛んだ。フェリシティに余分な魂があるとしたら、足台にだってあるわ。アレクシアは無理に会話をルフォーに戻した。「なぜフランスを離れてここに?」「おばが死んだあと、かつて誰かに盗まれた大事なものを探すためですわ」「まあ、それで、見つかったの?」「ええ、でも最初からわたくしのものではなかったことがわかっただけでした」「それは気の毒に」アイヴィが同情した。「わたしも一度、帽子でそんな目にあったわ」「いいんです。それを見つけたときには、もう見わけがつかないほど変わっていましたから」「あなたは、とても謎と秘密に満ちた人ね」アレクシアは興味を引かれた。「これはわたくしだけの話ではありませんし、気をつけなければ他の誰かに迷惑がかかるかもしれません」(ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う」P212)
2012年11月29日
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「あの人、あたしのこと、あなたに何か言~ましたか、奥様?」アンジェリクはアレクシアのドレスの高い襟を伸ばしながらたずねた。「いえ、とくに何も」アンジェリクは疑わしげな表情を浮かべた。「奥様、あたしのこと、信用してないですね?」アレクシアは驚いて目を上げ、鏡に映るアンジェリクの目を見つめた。「あなたははぐれ吸血鬼のドローンでありながらウェストミンスター群で働いていた。信用という言葉は軽々しく使うべきじゃないわ、アンジェリク。あなたの髪結いの腕は申しぶんないし、あなたのファッションセンスは、服に無頓着なあたくしにはなくてはならないものよ。でも、それ以上のものを求められても困るわ」アンジェリクはうなずいた。(ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う」P180)
2012年11月28日
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アヌビスはエジプト神話に登場する冥界の神。エジプトの中でも比較的に古い時期から崇拝されていた神でミイラづくりの神であり、犬またはジャッカルの頭部を持つ半獣もしくはジャッカルそのものの姿で描かれた。これは古代エジプトにおいて、死肉を求めて墓場の周囲を徘徊する犬またはジャッカルの様子を死者を守ってくれているのだと勘違いしたと考えられたからである。また、そもそもアヌビスはセトのモデルとなった動物と同じく、ジャッカルや犬と似てはいるが現在は絶滅してしまった別のイヌ科の動物やまったくの想像上の動物であるとする説もある。その身体はミイラ製造時に防腐処理のために遺体にタールを塗りこみ黒くなるのに関連して真っ黒だった。アヌビスはセトとネフティスの息子。オシリスがセトに殺された時はオシリスの遺体に防腐処理を施してミイラにしたとされ、そのためアヌビスはミイラ作りの監督官とされ、実際にミイラを作ったり死者を冥界へと導く祝詞をあげたりする際にアヌビスの仮面を被って作業が行われた。ひいては医学の神ともされている。また死んだ人間の魂を速やかに冥界へと運ぶために足がとても速いとされる。またオシリスが冥界アアルの王となる以前の冥界を支配、管理しておりオシリスが冥界の王となった後も彼を補佐してラーの天秤を用いて死者の罪を量る役目を担い、その様子は死者の書や墓の壁面などに描かれている。(うぃきぺでぃあ)
2012年11月27日
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マコン卿は唇を引き結んだ。「かつてエジプトはわれわれ人狼の土地だった。いまから四千年以上も昔――太陰暦もなかったころの話だ。昼間族がギリシアに都市を造り、吸血鬼がローマを形成するよりはるか昔、人狼はエジプトを支配していた。わたしが頭だけ狼に変身できるのを知ってるだろう?」「本物のアルファだけができる変身ね?」アレクシアは頭が狼で身体が人間のマコン卿を思い出した。なんとも気味の悪い、ぞっとするような光景だった。マコン卿はうなずいた。「今もわれわれはあれを「アヌビスの形」と呼ぶ。語り部によれば、古代エジプトには人狼が神とあがめられた時代があったそうだ。そして、その時代に破滅が始まった。伝説の疫病が発生したのだ。異界族だけを襲う伝染病で、「神殺し病」――破滅の病と呼ばれている。疫病はナイル川流域から 血と牙を一掃し、人狼も吸血鬼もみんな人間に戻り、その世代は瀕死の状態にあったそうだ。それから一千年のあいだ、ナイル川流域では一度も変異がなかった」(ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う」P77)
2012年11月27日
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「どうしてきみはいつも、そう頑固なんだ?」マコン卿が思わず口走った。「魂がないからかしら?」アレクシアがにっこり笑った。「分別がないからだ!」「たとえそうだとしても」――アレクシアは立ち上がった。(ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」P84)というわけで、ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」を読みました。人狼や吸血鬼が人類と共存するもうひとつのヴィクトリア朝に、反異界族と呼ばれる、人狼や吸血鬼を無効化する一族が存在するのですが、その一人が、このお話のヒロイン「アレクシア女史」です。全体を、「パラソル奇譚」とゆ~んだそうで、第1話であるこの巻では、ひそかに人を吸血鬼化させる、秘密の科学者集団との戦いが描かれます。よくある貴種譚といえばそうなんですが、それだけに軽いのりで読めるエンターテイメントになっています。しかし、このお話には、はしたないと言うか、お行儀がわりぃと言うか、な部分が多々あり、それがまた、楽しいのか、とまどうのか、よくわかんないです(笑)。とりあえず、第2巻「アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う」に進んでみたいと思います。
2012年11月26日
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明石公園内、県立図書館前の「のじぎく」です。兵庫県の花ですね。
2012年11月26日
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「いずれにせよ、あたくしがいなければ何も始まらないわ。太陽が沈む前に会わなければならない友人がいるの」アレクシアは許可も得ずにルーントウィル家の馬車に乗りこみ、アケルダマ卿の金ぴか屋敷に向かった。悠然と玄関を通ってドローンたちの前を通り過ぎ、死んだように昼寝をむさぼるアケルダマ卿を揺り起こした。人間に戻ったアケルダマ卿はまばたきし、アレクシアをうつろに見上げた。「もうすぐ日没よ」アレクシアはアケルダマ卿の肩に手を載せ、小さく笑った。「来て」アレクシアは寝間着姿のアケルダマ卿の手を握って壮麗な屋敷の階段を上り、衰えかけた太陽が射す屋上に出た。二人は立ったまま――アレクシアはアケルダマ卿の肩に頬を載せ――街並みに沈む太陽を無言で見つめた。アケルダマ卿はアレクシアが結婚式に遅れないかと心配だったが、何も言わなかった。アレクシアはアケルダマ卿が泣いているのに気づいたが、何も言わなかった。アレクシアは思った――オールドミス人生の終わらせかたとしては悪くないわね。(ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」P381)
2012年11月25日
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ちょっと前まで、明石駅交番前にありました。ところで、今日は神戸マラソンの日です。まあ、大阪マラソンの日でもありますが・・・・・。
2012年11月25日
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早川敦子さんの「世界文学を継ぐ者たち」を買書つんどく。エヴァ・ホフマン「記憶を和解のために」、アン・マイケルズ「儚さのかけら」、アルンダティ・ロイ「小さきものたちの神」、マフムード・ダルウィーシュ「忘却への記憶」、デイヴィッド・アーモンド「スケリグ」、僕はほとんど知らなかった方たちですね。「一九世紀、文豪ゲーテは「世界文学の時代が到来した」という名言を遺しました。そして現在、世界の多極化を映し出す「バベル後の光景」から、新たな文学地図が描かれています。村上春樹や吉本ばなながイタリアの街を闊歩し、イギリス国籍の日本人作家カズオ・イシグロが、かの地の精神的風土を英語のキャンバスに描き出す。そんな中、多くの作品を翻訳し、最先端の翻訳理論に通暁した著者が、旧植民地からの声や、ホロコーストの沈黙から芽吹いた言葉に耳を澄まし、五つの作品を取り上げました。本書は「小さき者たち」が切り拓く領野を展望する、二一世紀の世界文学案内です。」(集英社の紹介)
2012年11月24日
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アレクシアはシーモンズの言葉に目を細めた。「あなたがたの任務とは具体的になんですの、ミスター・シーモンズ?」「もちろん公共の福祉を守ることだ」「何から?」アレクシアはあえて問いただした。「異界族の脅威からだ。ほかに何がある?われわれ英国人は内容をよく知らぬままヘンリー王の命を受け入れて以来、吸血鬼や人狼を堂々とのさばらせてきた。何千年ものあいだ彼らはわれわれを襲い、餌食にしてきた。たしかにわれわれが一大帝国を築いたのは異界族の軍事知識のおかげだ。だが、その代償はなんだっ た?」シーモンズは興奮し、狂信者のように甲高い声でわめきだした。「彼らは英国政府や防衛組織に深く関わっているが、その目的は人類を守ることではない。彼らは自分たちの目的の追求しか考えていないのだ!少なくともやつらは世界統治をもくろんでいる。われわれの目的は研究成果を結集し、異界族による攻 撃と目に見えない潜入から祖国を守ることだ。きわめて複雑で神経を使う任務であり、全員が一致団結しなければならん。科学者たちの主たる任務は、理解の枠 組みを提供することだ。そしていずれは国家的努力の先頭に立ち、大規模な殲滅作戦を推し進めるのだ!」異界族の大虐殺ってこと?アレクシアの全身から血の気が引いた。(ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」P298)
2012年11月24日
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レーモン・クノー「文体練習」を買書つんどく。レーモン・クノー・コレクション7で新訳が出ました。「何の変哲もない一つのエピソードを99通りの文体で書く、ただ、それだけ。クノーの代名詞ともなったロングセラーが、新訳で生まれ変わる!ウンベルト・エーコが自ら翻訳するほど愛し、イタロ・カルヴィーノは「それ自体で独自のジャンルを構成する作品」と評し、ウジェーヌ・イヨネスコがこれと同じ試みをしたいと切望した、クノーの出世作。」(水声社の紹介)
2012年11月23日
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またもや、アレクシアは言葉をさえぎった。「お願い、アケルダマ卿、悪いけど、早くホムンクルス・シュミラクラムのことを話してちょうだい」「わかっておる。わたしはいつ連れ去られるかわからん。わかるかぎりの情報を伝えておこう。わたしのかぎられた経験によれば、自動人形を殺すことはできん。生きていないものをどうやって殺す?だが、機能を停止させることはできる」「どうやって?」不気味なロウ男にレディらしからぬ殺意を抱きはじめたアレクシアは、じれったそうにたずねた。「いいかね、自動人形の作動と制御は通常、文字や言葉を使って行なわれる。その命令を取り消すことが出来れば、機能を停止させることができるわけだ――機械人形と同じように」「VIXIのような言葉のこと?」と、アレクシア。「そのとおり。見たかね?」「額に描いてあったわ――黒い粉のようなもので」(ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」P279)アケルダマ卿はベストのポケットから奇跡的にしみひとつないハンカチを取り出すと、よろめきながら自動人形に近づき、額の文字をぬぐった。そのとたん、怪物はマコン卿を放し、床にくずおれた。それから起こったことは、実に驚くべきものだった。自動人形の皮膚が温かいハチミツのように細い筋となってゆっくりと溶けはじめ、どろりとした黒い血が黒い粒子物質と混じって流れ出し、皮膚だった物質と混じり合った。皮膚と血は機械じかけの骨格からずるずるすべり落ち、あとには、腐った血とロウと黒い微粒子のべたつく液だまりのなかに横たわる、みすぼらしい服を着た金属枠だけが残った。自動人形の内部は歯車とゼンマイじかけだったようだ。(ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」P353)※「VIXI」は、ラテン語の「私は生きた」という過去のことを意味し、すでにこの世にいないことを示唆する。らしい・・・・・。 ちなみに、「ゴーレム」は、土をこねて人形を作り、「emeth、真理」という文字を書いた羊皮紙を人形の額に貼り付けることで完成し、「emeth」の「 e 」の一文字を消し、「meth、死んだ」にすることで消滅する。らしい・・・・・。
2012年11月23日
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「ヒポクラス・クラブ」の扉の上部にかかるイタリア白大理石のプレートには「PROTEGO RES PUBLICA」と いう文字が彫りこまれていた。猿ぐつわをはめられ、身体をぐるぐる巻きにされ、二人の男に肩と足をかつがれたミス・アレクシア・タラボッティは、文字を上 下逆さまに読んだ。頭がずきずきし、クロロホルムをかいだあとの吐き気のせいで、すぐには翻訳ができない。しばらくして、ようやく意味がわかった。「公共の福祉のため」ふん、気に入らない。この状態のどこが守られてるの?文字の両脇に記章のようなものがついている。何かのシンボルかしら?なんだか興奮しやすい無脊椎動物のような・・・・・?真鍮製のタコ?(ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」P268)
2012年11月22日
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キース・ロバーツ「パヴァーヌ」 が、ちくま文庫で復刊されましたのでご紹介。これぞ、「歴史改変SF」というもの。「1588年、英国女王エリザベス1世暗殺。混乱に乗じたスペイン無敵艦隊が英国本土に侵攻。英国は欧州世界と共にローマ法王の支配下に入る。プロテスタントによる宗教改革は鎮圧されー。20世紀、法王庁の下で科学は弾圧され、蒸気機関車だけが発達。その閉ざされた「もう一つの欧州」でついに反乱の火の手が上がる。高い完成度と圧到的なリアリティを備えた不朽の名作。」(「BOOK」データベースより)
2012年11月22日
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マクドゥーガルはため息をついた。「こことは世界が違います、ミス・タラボッティ。まったく違うんです。祖国は今も内戦状態にあります。吸血鬼が南部連合国側についた事実が、いまだに許されていないんです」アレクシアはアメリカ政府に対する批判を差し控えた。新しい友人を侮辱したくはない。でも、いったいアメリカ人は異界族との共存を拒否してどうするつもりなの?忌わしきヨーロッパ暗黒時代のように、吸血鬼や人狼を闇に閉じこめるつもり?「あなたは、清教徒の教義を拒否なさったの?」(中略)「「異界族は悪魔に魂を売った種族だ」という考えを捨てたかどうかってことですか?」と、マクドゥーガル。アレクシアはうなずいた。(ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」P160)
2012年11月21日
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桜庭一樹さんの、「まだ桜庭一樹読書日 記」が更新されてましたので、ご紹介。今回は、沢村貞子さんの「私の浅草」、石川桂郎さんの「剃刀日記」、横山秀夫さんの「64」、ニック・ダイベック「フリント船長がまだいい人だったころ」、アーナルデュル・インドリダソン「湿地」なんかのことでした。
2012年11月21日
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「はい。はっきり申し上げて、まずいやりかたでした。ていねいな謝罪と腹ばいが必要かと思われます」ライオールの表情は穏やかだが、目は冷酷そのものだ。ひとかけらの同情もない。マコン卿はすっくと立ち上がった。たとえライオールが立っていても、マコン卿はそびえるほどの巨体だ。「腹ばいなどできるか!」「一生のあいだには、いくらでも新しく興味深い技術を学ぶことができるものです」ライオールはマコン卿の脅しのポーズにもひるまず、淡々と言った。マコン卿はキッとにらみかえした。(中略)マコン卿はため息をついて椅子に座りこんだ。沈黙は三十分ほど続いた。夜は静まり返り、聞こえるのは書類をめくる音と金属板がぶつかる音と、ときどき紅茶をすする音だけだ。やがてマコン卿が顔を上げた。「腹ばいなれと言うのか?」ライオールは読みかけの吸血鬼に関する最新報告書から顔も上げずに答えた。「腹ばいです、マコン卿」(ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」P152)マコン卿は人狼ですので、このやりとりが生きてます。
2012年11月20日
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かつてアケルダマ卿は、異界族が昼間族に知られる前の暗い時代を詳しく話してくれたことがある。吸血群や人狼団の存在がブ リテン島に知られる前の話だ。彼らの出現は哲学と科学にすばらしき革命をもたらした。ルネサンスと呼ぶ者もいるが、吸血鬼は「啓蒙の時代」と呼ぶ。異界族 はそれ以前を当然のごとく「暗黒の時代」と呼んだ。事実、彼らは夜の闇にまぎれて長く暗い時代を過してきた。(ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」P69)
2012年11月20日
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赤坂憲雄さんの「3・11から考える「この国のかたち」 東北学を再建する」を買書つんどく。民俗学者赤坂さんは、震災以降、完全にこの問題にシフトされています。「今まで何を聞き書きしてきたのか―。厳しい自己認識から再出発した著者は、土地の記憶を掘り返し、近代の残像を探りつつ、剥き出しの海辺に「将来の日本」を見出していく。津波から逃れた縄文貝塚、名勝松島の変貌、大久保利通が描いた夢、塩田から原発、そして再び潟に戻ったムラの風景…。災厄から学ぶべき思想とは何か。問いと発見に満ちた一冊。」(「BOOK」データベースより)
2012年11月19日
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反異界族であることは、ミス・タラボッティが六歳のとき、市民課から来た感じのよい紳士によって当人に告げられた。銀色のステッキを持った銀色の髪の紳士は反異界族担当の人狼だった。アレクシアは黒髪と立派な鼻だけでなく、反異界族の血を受け継いだことを亡きイタリア人の父に感謝した。アレクシアにとって何より重要だったのは、アイ(i)とかミー(me)といった言葉がきわめて理論的になったことだ。もちろんアレクシアにも自我はあるし、喜びや悲しみを感じることもできる。ただ、魂がない。六歳のアレクシアは感じのよい銀髪の紳士に礼儀正しくうなずいた。そして、理性や論理や倫理について書かれた古代ギリシャの本を片っぱしから読むことに決めた。魂がなければ道徳観も欠けているはずだ。ならば、それに代わる能力を伸ばさなければならない。(ゲイル・キャリガー「アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う」P24)
2012年11月19日
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「――夢は外からやってきて」岩清水がぽつんと呟いた。「どこへ行くんでしょうね」ぼんやりしていた浩章は、少し遅れて岩清水の言葉に反応した。「どこへ?」「いや、なんでもない。独り言です」岩清水がかすかに笑ったような気がした。(恩田陸さん「夢違」P442)というわけで、恩田陸さんの「夢違」を読みました。テレビの「悪夢ちゃん」の「原案(!)」ということですが、共通するのは、「古藤結衣子」と「夢札」と「予知夢」がでてくるくらいで、どこから見てもまったくの別物です。(ところで、「悪夢ちゃん」面白いですね。北川景子さん、木村真那月ちゃん、最高!)「原案(!)」のほうはというと、現代の預言者ともいうべき「古藤結衣子」は、とある事故により、すでに死したことになっており、そんな中、各地の学校で子どもたちが白昼夢を見るという事件があり、ある学校では大量に失踪してしまいます。白昼夢を見た子どもたちの夢札の中に、「古藤結衣子」の影が感じられるのですが、その謎を、かつての「古藤結衣子」の恋人が追っかけるというサスペンス・ホラーの趣になっています。最後には、ちょっと安直な結末だとは思いましたが、静かなカタルシスがありました。しかし、恩田さん、エピソードをばらまきながら、ほっぽらかしにするクセはあいかわらずですね。もったいないなあ。でも、それが恩田さんか・・・・・。
2012年11月18日
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夢を変える方法を教えて。結衣子の言葉を思い出す。そう、彼女はずっとその方法を考えていたのだ。自分の見る恐ろしい夢を変える方法。それを良い夢に変えられればどんなにいいだろう。きっと、彼女はこの世界に戻ってきたのちも、ずっとそのことについて夢の中でも考え続けていた。ならば、この場所に来ないはずがない。ここには、彼女の願いを叶えてくれるものが古くから存在しているのだから。(恩田陸さん「夢違」P488)
2012年11月17日
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夢違観音(ゆめちがいかんのん・ゆめたがいかんのん) 明るい表情と美しい均整のとれた夢違観音像。夢違観音の由来は悪夢を見ても、この仏像に祈れば吉夢に変えてくれるという信仰があり、夢違観音とよばれています。白鳳時代の作品であり高さ86.9cmの銅造で、額には化仏をつけ、顔は丸顔で、やや鋭角的な唇に優しほほえみをうかべています。また、上半身裸形で身体は豊かな厚みがあり、天衣はゆるやかな曲線をもち、左手には小さな水瓶をもっています。現在法隆寺の大宝蔵院にありますが、江戸時代の宝永7年(1710年)以降は東院絵殿の本尊として祀られていました。 法隆寺の国宝美術
2012年11月17日
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「まず思ったのは、古藤結衣子は本当に死んでいる人なのだろうか、ということだった。調べてみると、彼女が亡くなったという証拠はない。だとすれば、生きているのかもしれないと考えるようになった。あるいは」鎌田は言葉を切り、少しためらった。「あるいは?」浩章が先を促す。「どこかでずっと夢を見続けているのではないかと考えた」「それは生きているということではないんですか」もどかしげに尋ねると、鎌田は黙り込む。「――それが自分でもよく分からなかった。直感でそう思いついただけで、特に根拠はなかったんだ。でも、彼女がこちらにアクセスしてくるのは、きっとどこかで夢札を引いている最中ではないかと思った。俺は、夢札を引くという行為そのものが、我々の意識を変容させたと考えているのでね」(恩田陸さん「夢違」P465)
2012年11月16日
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佐々木和歌子さんの「やさしい古典案内」を買書つんどく。またまた、こんな本ばっかり買ってますね。「文字を獲得して以来、日本人はさまざまな作品を書き残してきた。漢字で書かれた『万葉集』から、仮名で綴られた和歌へ、そして散文、さらに物語へー。新たな表現方法の誕生は、新たな作品の形式を生み出していく。人々はどういう時に書きたいと思い、どういう思いで新たなジャンルを生み出したのか?江戸時代までの主要な古典の概要と、文字とともに生活してきた日本人の姿を描き出す。身近でわかりやすい古典文学入門。」(「BOOK」データベースよ り)
2012年11月16日
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「――夢を」長い沈黙のあと、女は溜息のように呟いた。「変える方法を探している、と言っていました」「夢を変える?」そう繰り返したのは浩章だった。今更、なぜそんなことを聞き回らなければならないというのか?「はい、まあ、確かに、うちがかつて宮司を務めていた神社では、そういうご祈祷があったと聞いております。どこかでそのことを見聞きしてこられたようです」女は気のない調子ですらすらと答える。「昔は夢というものがお告げのように考えられていましたからね。見た夢が瑞兆であるとか、凶兆であるとか、ずいぶん真剣に議論されていたようです。今でもありますでしょ?嫌な夢を見たら、正夢にならないよう呪いを唱えるという民間信仰が」(中略)「け れど、うちが宮司を務めていたのはかなり前のことですし、父が亡くなった時に、もうその秘法と呼ばれていたものも誰も分からなくなって、、とっくに廃れて しまいましたわ。そもそも、民間の呪いと大差のないものやったと聞いております、と申し上げましたら、それ以上は深くお聞きになりませんでした」(恩田陸さん「夢違」P414)
2012年11月15日
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小杉英了さんの「先導者」を買書つんどく。こんなインタビューがありました。5歳のとき「先 導者」として認可された「わたし」。死者を再び富と名誉を持った家系に生まれ変われるように導く役割を託されていた。過酷な訓練を経て、ついに最初の任務 を果たすときが来たが……。(角川書店の紹介)感じていたい、あの人のぬくもりを。過酷な運命を背負った少女が 辿った、哀しき死と再生の物語。第19回日本ホラー小説大賞大賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
2012年11月15日
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いや、問題はそこにはない。浩章は自分が予感した災厄の内容は、別のところにあることに気付いた。みんなが手軽に夢札を引き、夢を目視するようになった時、いったい何が起きるのか。少数の人間が目視しているのではなく、多くの人間が日常として夢を「見る」ようになった時、何かが大きく変わるのではないか。今、夢札を引いたことのある子供たちに起きている何かが、更に拡大するのではないか。もっと取り返しのつかない、決定的な形で。(恩田陸さん「夢違」P361)
2012年11月14日
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「何か話していましたか」「うーん、俺の聞き間違いかもしれないんだが。」南雲は目をこすった。「なんで変わってないんだろう、と」「変わっていない?変化する、しないのことでしょうか」「そう聞こえた。「なんだって」と聞き直してみたんだが、「いえ、なんでもないです」とそっけなくかわされちまった」なんで変わってないんだろう。「どういう意味だろう」浩章は腕組みをした。何が変わるのか。夢の内容?それとも現実?それこそ、なんで何が変わるというのだろ?(恩田陸さん「夢違」 P335)
2012年11月14日
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「――古代の日本では」唐突に岩清水が話し始めたので、夢想から覚める。「誰かの夢を見るのは、その誰か が自分のことを思っているからだと考えられていたんですよね。逆だからではなく」(中略)「不思議ですよね。今はすっかり逆になってい る。思い続けていると、その相手が夢に出てくる。今ならそう考えますよねどこで逆転したんだろう」「やっぱり西洋式の精神分析が入ってきてから じゃないですか。夢というのは、抑圧された心理や欲望が顕れたものなのだ、という考え方が主流となって、夢は自分の無意識の投影だ、望んでいるから夢を見るんだと考えるようになったわけだ」「あなたはどう思います?古代の日本人の感覚は間違っていたと思いますか」(恩田陸さん「夢違」P284)
2012年11月13日
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ひとんちのツバキです。毎年、近所では、ここんちのがひとあし先に咲きます。
2012年11月13日
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「彼女の幽霊が入ってきたっていうの?」玉紀が硬い声で言った。岩清水は首をひねる。「幽霊とい うよりも、彼女自身がもう集団的無意識の一部になっちゃったんじゃないでしょうか。彼女は夢を物理的にとらえた新世代の第一世代。代替わりした子供たちの 無意識に「先祖」として潜んでいるのかもしれません」(中略)「あの予知夢。二千年前ならまず間違いなく預言者と呼ばれていただろうな」夢 は外からやってくる。預言者。天から降ってきた神の言葉を受け取る者。「昔 から悪い夢というのは必ず現実に起きるものであり、予兆だと信じられて いた。預言者というのは、悪い夢、つまりこれから起きる悪い出来事を伝えるのが主な使命だった。日本でも、厭な夢を見たらいい夢に変えてくれるよう、まじ ないをしたり、祈祷したり、観音様にお願いしたりした。やはり、厭な夢というのは現実になると思われていたわけだ」(恩田陸さん「夢違」 P233)
2012年11月12日
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これも、冬越えしてくれたリンドウです。
2012年11月12日
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「もうひとつは、もっと根本的な話です」一恵は小さく咳払いをした。「夢札という技術が登場して、みんなの集団的な無意識が変化してきたのではないか。それがこれまでとは異なる形の集団幻想を生み出すようになったのではないか、という話です」(中略)「夢札がない時代には?」鎌田が口を挟む。「夢は個人のものでした。大昔から、誰もが見ているし、存在は知られていたけれど、誰もが自分の夢しか知らない。人のものは見られない。みんな言葉で説明するしかなかったし、それを聞いて他人の夢を想像するしかなかった」「でも、それが見られるようになった」一恵が頷く。(中略)「夢札の場合、見えないものが見えるようになってしまった。夢って存在するんだ、みんなの意識に共通点があるんだと納得して、それが常識になってしまうと、それ以外の見えないものも存在して不思議ではないと考えるようになるんじゃないでしょうか」「それって――他の見えないはずのものも、無意識のうちに視覚化しようとしているってことかしら?」遥が尋ねると、一恵は大きく頷いた。(中略)「いったい何を視覚化しようとしているんだろうね?」加藤が呟いた。「それは分かりませんけど、夢札が登場して、夢が目で見られるという共通認識が出来た世代の子供たちですから、世代交代した彼らにそういう現象が起るというのは、なんとなく感覚的に納得できるような気がするんです」みんなが黙り込んだ。あらゆるものが可視化された世界。それが言ったいどいうものなのか、それぞれが想像しているのだろう。考えてみれば、人類はすべてを可視化することで進化してきた。宇宙の彼方の星も、ウイルスも、うんと大きなものもうんと小さなものも、目で見ることに果てしない労力を傾けてきたのだ。そして、今度はとうとう夢を可視化した。言葉や絵でしか語られてこなかった「見えないはずのもの」を目で見ることに成功したのだ。いったんこの領域に手を付けてしまったら、人は他の見えないものも見えるはずだと思い、見ることを躊躇しなくなるに違いない。(恩田陸さん「夢違」P205)
2012年11月11日
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イレーヌ・ネミロフスキー「フランス組曲」を買書つんどく。数奇な運命をたどった未完の作品です。これも、まくらにできます。「一九四〇年初夏、ドイツ軍の進撃を控え、首都パリの人々は大挙して南へと避難した。このフランス近代史上、最大の屈辱として記憶される「大脱出」(エクソダス)を舞台に、極限状態で露わとなる市井の人々の性を複線的かつ重層的に描いた第一部「六月の嵐」。ドイツ占領下のブルゴーニュの田舎町を舞台に、留守を守る女たちと魅惑的な征服者たちの危うい交流を描く第二部「ドルチェ」。動と静、都会と地方、対照的な枠組みの中で展開する珠玉の群像劇が、たがいに響き合い絡み合う。 著者は一九〇三年キエフ生まれ。ロシア革命後に一家でフランスに移住したユダヤ人。四二年アウシュヴィッツで亡くなった。娘 が形見として保管していたトランクには、小さな文字でびっしりと書き込まれた著者のノートが長い間眠っていた。命がけで書き綴られたこの原稿が六十年以上の時を経て奇跡的に世に出るや、たちまち話題を集め、本書は「二十世紀フランス文学の最も優れた作品の一つ」と讃えられて二〇〇四年にルノードー賞を受賞(死後授賞は創設以来初めて)。フランスで七十万部、全米で百万部、世界でおよそ三五〇万部の驚異的な売上げを記録(現在四十カ国以上で翻訳刊行)、映画化も進行中である。巻末に収められた約八十ページに及ぶ著者のメモや書簡からは、この奇跡的な傑作のもう一つのドラマが生々しく伝わって来る。流麗なる訳文で贈る、待望の邦訳。」(白水社の紹介)
2012年11月11日
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「ただ、一言だけ、言ったことがありました」「なんと?」「「あれが入ってきたよ」、と」「あれ?」「はい。ぽつんと独り言のように。「あれってなあに?何が入ってきたの?」って聞いてみたんですけど、自分がそう呟いたことにも気付いていなかったみたいで、「え?あれって?」って逆に聞き返された。あの子が事件に関して何かいったのはそれだけです。たぶん、そう言ったことも今は覚えていないと思います」「「あれが入ってきたよ」、ですか」「はい、そう言いました」(恩田陸さん「夢違」P201)
2012年11月10日
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マリオ・バルガス・リョサ「アンデスのリトゥーマ」を買書つんどく。岩波文庫にも、ぞくぞくとラテン・アメリカの小説が入りつつありますが、日本での35年ぶりくらいのブームなんでしょうか?「苛烈な〈革命〉の嵐吹き荒れるペルー。『緑の家』のアマゾンとは一転、テロリストの影に怯えながらアンデス山中に駐在する伍長リトゥーマと、愛すべき助手トマスの目の前で、三人の男が消える。彼らの身に何が起こったのか? 迷信、悪霊、暴力、正義──交錯する語りのなかに、悪夢と現実が溶け合う。ノーベル賞作家・バルガス=リョサの世界を堪能できる一作。」 (岩波書店の紹介)
2012年11月10日
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「彼女のケースはとても興味深い――今でも彼女のケースを研究している人を何人か知っています」「もう二度とあんな人は出てこないかもしれない」浩章はそう相槌を打っていた。「不思議ですね」岩清水が呟く。「もっと彼女に続いて出てくるかと思っていたのに、そうでもない。世界的に見てもそうです。夢札の技術の開発と同時に予知夢を見ている人が世界中に大勢現れて、何かが解決されるんじゃないか、何かの謎が解けるんじゃないかと誰もが期待した時期があったのに、今や皆が関心を失い、後が続かない。だとすると、あのタイミングで古藤結衣子という人が現れたのはとても不思議な気がする」「巡りあわせでしょうか」「そう、彼女のために夢札が開発されたのかもしれない。彼女ただ一人をこの世に送り出すためだけに」(恩田陸さん「夢違」P152)
2012年11月10日
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踝を返そうとした瞬間、鳥居の下に何かがいることに気付いた。反射的に足を止める。鳥居の下の真ん中に、影がある。さっきの犬だろうか。無意識のうちに足を一歩踏み出し、その影を見つめた。目の錯覚か。いや、あそこに何かいる。鳥居の真下にじっとしている影。(中略)鳥居の下の影。真ん中にいた――不意に、奇妙なことを思い出した。子供の頃、祖母が繰り返し言っていた台詞。神社の参道の真ん中を歩いちゃいけないよ。脇に寄りなさい。なぜなら――真ん中は、神様の通るところだからね。(恩田陸さん「夢違」P110)
2012年11月09日
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夢は外からやってくる。それは鎌田が普段からよく口にしている言葉だった。我々は、眠っていても外界と接触していて、常に外界を感じている。耳も聞こえているし、匂いも嗅いでいるし、いろいろなものに触れている。眠っている人の近くで大きな声を出せば夢の中でもその音を聞いているし、胸に重いものを載せたら夢の中でもそれを感じる。寝ごとを言っている人と会話できたりもする。つまり、外部から夢に介入できるということだ。しかし、鎌田が言うのはそういう物理的な意味ではなく、もっと根源的な話だった。よくアイデアが降ってくる、とか、霊感が訪れる、とか言うだろう。昔から、何かのインスピレーションや芸術的なイメージは、必ず外からやってくるものとして表現されている。みんな、薄々気付いているんだ。個人個人の意識の外に、人類全体が共有する巨大な無意識があって、そこからいろいろなものがやってくるのさ。夢もそのひとつで、文字通り「外から」やってきて、人間の脳に侵入しているというわけだ。(恩田陸さん「夢違」P41)そう、日本の神々は移動する。どこかからやってきて、またどこかへ帰っていく。春日大社の若宮がこの「お旅所」に来る時も、姿を見てはならない神様は、榊を目の前に掲げた神官に囲まれて移動するのだ。普段だって、神様は神殿の中にいるわけではない。ご神体はあるにはあるが、それはあくまで「依り代」であって、極端な話、対象はなんだっていいのだ。岩や山など、場所そのものがご神体であるケースも多い。不在の神。そんな言葉を思い浮かべた。鎌田の言うように、もし夢が依り代として何かがやってきて、また帰っていく。人はそんな儀式を夜な夜な繰り返しているのだ。(恩田陸さん「夢違」P53)
2012年11月09日
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岡本綺堂「青蛙堂鬼談」を買書つんどく。この中公文庫のシリーズは、「旧かな」表記で、そこが気に入ってます。「夜ごと人間の血を舐る一本足の美女、蝦蟇に祈祷をするうら若き妻、井戸の底にひそむ美少年、そして夜店で買った目隠しされた猿の面をめぐる怪異ー。ひとところに集められた男女が披露する百物語形式の怪談十二篇に、附録として単行本未収載の短篇二篇を添える。」(「BOOK」データベースより)
2012年11月08日
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「昔は、風景だって、人体だって、もっとシンプルで大雑把だった気がする。なんにもないだだっぴろい原っぱを駆け回って、土地を耕してできたものを食べ て、人間の身体だって肺と心臓があって血が流れてる、程度の認識だったんだよね。それが、生態系だの遺伝子だの、肉眼で見えないようなところまでぎっしり 情報が詰まっていることをみんなが認識しちゃった。実際に、ものを見るときだって、昔は当時のザラザラした粗い画像みたいに、かなりの部分を省略して見て たんだと思う。でも、デジタル化が進んでどんどん細かいところまで見えるようになると、実際に、人間の目もデジタルカメラのようにものを見るようになる。 本当に「見える」ようになるんだ。さっきのビールマン・スピンじゃないけど、一人が百メートルを走るのに十秒を切ると、他にも走れる人間が出てくるのと同 じさ。この先、どこまでいくんだろうね。いったいどこまで「見える」ようになるんだろう」この先どこまで。いったいどこまで。(恩田陸さん「夢違」P21)
2012年11月07日
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「夢の中から責任は始まる。(In dreams begin the responsibilities.)」――W・B・イエイツ(恩田陸さん「夢違」エピグラフ)昔々、どこの国の話だったか忘れたけれど、悪い知らせを持ってきた兵士はその場で斬り殺されたそうよ。彼女の声を思い出す。夢が変えられたらいいのに。(恩田陸さん「夢違」P279)
2012年11月07日
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たたかいにやぶれて咲けよひまわりの種をやどしてをんなを歩く――口をついて出たミツの歌が、耳の奥で繰り返された。里和はアスファルトに引かれた白線の眩しさに、思わず目を瞑った。眼裏に、中田ミツが最期に見た景色が広がってゆく。一面のひまわり畑などではなかった。モノトーンの海。それは果てしないモノトーンの海だった。(桜木紫乃さん「たたかいにやぶれて咲けよ」(「起終点駅(ターミナル)」所収)P215)というわけで、桜木紫乃さんの「起終点駅(ターミナル)」を読みました。6つの短編で構成されていますが、もともと、共通する「無縁」というテーマで執筆の依頼があって書かれたものだということです。すべてのお話が、どこかに傷をもつ人々が、これまたどこか孤独に、諦念を抱いて生きていく姿がたんたんと描かれており、そこに、乾いた叙情を感じます。地味な味のあるお話たちですので、わかりやすいエンターテイメントを期待される向きには、おすすめではないかもしれません。ところで、上り坂と下り坂は同じものですが、起点と終点は同じものだろうか、なんてことを考えてしまいました。
2012年11月06日
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工藤隆さんの「古事記誕生 「日本像」の源流を探る」を買書つんどく。こんなんばっかり買ってる気がしますが・・・・・。「今からちょうど千三百年前、『古事記』が誕生した。律令の制定や平城京遷都など、古代日本の急速な近代化が進められるなかで、なぜこのような「時代に遅れた書」が作られたのか。縄文・弥生時代に遡る神話が、国家成立期にまで生き残ったのはなぜか。「記序」贋作説を検証しながら分析する。さらに、アメノイワヤト神話を例に、歌垣、酔っぱらい体質、銅鏡と鉄鏡の違いなど、多様な視点から新旧の層に区分けして解読する。」(「BOOK」データベースより)
2012年11月05日
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十六までニシンのまちでニシンをたべて育った娘は、一日五十銭の小遣いを稼ぐために、魚のいっぱい入ったモッコを背負う。読んでいると、彼女がちょうどその頃売られていったのがわかった。 だれもうらまず わらってはたらく いもうと おとうとに あったかいめしをくわせ かあちゃんに かくまきを とうちゃんには あったかいくつしたを かってあげるんだ まいにち わらってはたらいているうちに とうちゃんも かあちゃんも しにました わたしはもう にしんのにおいがしません(中略)潮にさらしたたみ子の体から、再びニシンのにおいが漂っていることを祈った。自分もたみ子もあとはただ、ぽつりといなくなればいいのだろう。千鶴子は壁に垂らした状差しのいちばん手前に、たみ子からのはがきを差した。(桜木紫乃さん「潮風の家」(「起終点駅(ターミナル)」所収)P250)
2012年11月05日
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横山秀夫さんの「64」を買書つんどく。「64」とは、たった7日間しかなかった昭和64年を指し、この間に起きた未解決の少女誘拐事件を、D県警では「ロクヨン」と呼んでいた、というのがタイトルの由来です。約7年ぶりの新作長篇だそうで。「警察職員二十六万人、それぞれに持ち場があります。刑事など一握り。大半は光の当たらない縁の下の仕事です。神の手は持っていない。それでも誇りは持っている。一人ひとりが日々矜持をもって職務を果たさねば、こんなにも巨大な組織が回っていくはずがない。D県警は最大の危機に瀕する。警察小説の真髄が、人生の本質が、ここにある。」(「BOOK」データベースより)
2012年11月04日
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「たたかいにやぶれて咲けよひまわりの種をやどしてをんなを歩く」四十代半ばのミツは、恋愛を「たたかい」と読み、敗れても咲けと己を叱咤する。内裏に花の種を宿した歌人は、一体なにを種にして咲いていたのか。(桜木紫乃さん「たたかいにやぶれて咲けよ」(「起終点駅(ターミナル)」所収)P178)「KAJIN」のカウンターでは斉藤昌子が豆を選り分けていた。黒いTシャツから伸びた真白い喉、鎖骨のくぼみ。「僕」が惹かれてゆく「花屋の女主人」と同じ。初めて会った日、近藤悟の名前を出したのは昌子だった。里和はあれこれと思いめぐらし、結局なんの配慮もない言葉で男に訊ねた。「すべて、中田ミツさんの計算だったとは、思われませんか」近藤悟の視線が窓の外に逸れた。朝から街を覆っていた海霧が、少し薄くなっている。「計算だとしたら、もっとすごい裏があるんじゃないですか。少なくとも、物語にするとき、僕はそこまで考えますけど。なんだろう、そう考えるとちょっと怖いな」彼は、昌子の父とミツの関係についてどこまで知っているのだろう。彼が中田ミツという物語の「もっとすごい裏」に気づくときは、次の物語が始まっている。(桜木紫乃さん「たたかいにやぶれて咲けよ」(「起終点駅(ターミナル)」所収)P212)
2012年11月03日
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