君へのメッセージ
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早朝の小雨のぱらつく中、傘をさしてのウォーキング。いつもとは違う路地に入って歩みを続けていると、家が途切れて畑が広がっていた。そこに一本の結構大きな栗 の木を見つけた。さび色の十四、五センチほどのひも状の花が、ときおりはらりと地面に落ちてくる。 栗の花が落ちるころ梅雨入りとなる。と、先日天気予報士が話していた。それに、この辺りは梅雨入りしたと聞いたばかり。栗の花の落ちる景色と遭遇したことが、なにやら うれしい納得感があった。しばし栗の花のはらりひらりと落下するのを眺めていた。 近頃栗の木がなくなっているなあ、と感じる。 散歩コースにも、かつて五月の頃には栗の花独特の匂いが漂っている個所に出逢ったものだが、近頃めっきり目にも鼻にも栗の木の存在が伝わってこない。五年ほど前まで知人から、毎年大きい栗が届いていたが、ぷっつりと途絶えた。知人が鬼籍に入り、栗畑は伐採された。栗の面倒なことを私は知っている。 この頃は栗の花を知るものは、意外と少ない。ひも状の花ととげとげのイガ栗が高価なモンブランやマロングラッセに結びつかないのかも知れない。この季節は四十五年ほど前に伐採して今はない大きな栗の木の話を、私が家族に人様にそれとなく語りたくなるときでもある。何しろその大きさが直径五十センチ以上あった、巨大な二本の栗の木にまつわる話は、語り切れないほどある。 終戦の年に、鹿沼の祖母がもってきた栗の実を現在八十歳になる双子の弟たちが小学生になる前植えたもので、実生の栗の木だった。「桃栗三年柿八年」のとおり、栗の木に実がつくようになるのは比較的早い。ぐんぐん成長して巨木となり地上二メートルぐらいの高さのところの枝分かれの部分に、弟二人は同じように自分たちの巣と称するものを作っていた。お互いの巣は三メートルほど離れていたが、ターザンを真似て木から木へ飛び移れる綱やハンモックを作って、行き来を楽しんでもいた。マンガ読みはもちろん、宿題もそこでやり、学校帰りの友人たちがカバンを背負ったままよく道草を楽しむ場所ともなった。いやなことがあると弟も友人たちもそこに籠もり、ふて寝をしていたものだ。栗の木をめぐる話は多い。台風時、トタン屋根を鳴らした栗の実演奏会、心臓に悪い大きな栗虫が部屋に我が物顔でモコモコ歩き回ったり巨大蛾が乱舞したりの背筋がぞくぞくした話、母が心を痛めたイガや枯れ葉のご近所迷惑物語、イガ剥き競争、涙の伐採などなど。大笑いしながら語り合いたい。
2022.06.15
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