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「何でございます?」「若過ぎると言うのだ。義親が正盛に討たれたのは嘉承三年。今から二十二年も前だ。義親がもし生きていたとするならば、もうとうに六十歳は越えているはず。だが、鴨院の男は別れた頃の義親と同じ年頃だったそうだ。私もそれを聞いて、これは生前の本人に似た者を探し出して、本物として仕立て上げたのだと思った。それで、この男をこちらに奪い取って、世間に公表して偽者だとはっきり証言しようと考えたのだ。だが、いろいろ考え合わせると、鴨院の男は秘術によって生き返った義親であると考えるのが、一番つじつまが合う」「でも、わたくしには少し解せないところがあるのでございます」「何だ」「わたくしの局にいた者が、そのように西国で悪行の限りを尽くしたような恐ろしい男であるとは思えないのです。確かに、腕は立つような風でございました。でも、気性は穏かで優しく、細かいことまでよく気がつき、わたくしのために花など摘んでくるような風流も持ち合わせておりました。その上、裁縫がたいそう好きで……」「裁縫?!」 実能はぶっと噴き出した。「まさか。あの義親は、軍神と崇(あが)められる八幡太郎義家の再来と言われた猛将。女ではあるまいし、裁縫など好むわけがなかろう」 そう言った実能は、ふっと首を傾げて考え込んだ。そして、改めて堀河に問うた。「どんな男だったか、もっと詳しく話して見てくれ」「そうですね。とにかく奇妙な男でした。性格や振る舞いもその時々で違っていて、わたくしにもどれが本当のあの男なのかよくわかりませぬ。女のように嬉々として針を運ぶかと思えば、甘えた子供のように擦り寄って来るし。無口になったり、饒舌になったり。男なのか女なのか、大人なのか子供なのか、よくわからないようなところがございました。でも、決して悪い者ではございませぬ。心の優しい、可哀想な男でございます。とても、あの正盛殿が申されるような極悪非道な男では……」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2012年10月26日
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あまりにも信じられぬような話が続くので、堀河の頭は混乱していた。それで、自分を納得させるように小声で呟いた。「それでは、あの男は師時殿らの誰かが造った、源義親の甦(よみがえ)り。だれが、何のためにそうしたかはわからないけれど」 実能も頷いた。「そう考えるしかあるまい。顔も生前の義親に生き写しだそうだからな」「実能様は義親の顔を知っているのですか」「私は直接会ったことはないから知らぬ。だが、何人かの者たちが密かに鴨院に呼ばれ、義親と対面したのだそうだ。私はその一人である義親の妻だった女を呼び出して、密かに訊ねてみた」 妻、という言葉を聞いて、堀河の胸は少し痛んだ。確かに、年齢や地位からして義親に妻がいるのは当たり前だが、はっきりとそう聞くと何となく苦しかった。実能はそんな堀河に気づかぬ振りをしながら続けた。「その女ははっきりと、その男は夫ではなかったと言った。確かに、鴨院で対面させられた男は、顔立ちも身体つきも、夫にそっくりだったそうだ。だが、面前で話しかけても、まるで女が誰だかわからぬようだった。それに、自分の問いに答える口調も、子供っぽいと言うか、何となくひどく頼りない感じであったとか。以前は、堂々としてはっきりとした物言いをする男だったそうだがな。それに、本人であるはずがない理由がもう一つあると言った」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2012年10月25日
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桜子は気味が悪そうに眉を顰(しか)めた。堀河は恐る恐る実能に尋ねた。「その人造りの秘術の写しは、それからどうなったのでしょう」「そなたたちが知らぬところを見ると、おそらく俊房殿の作った写しは、その子の師時殿に伝わっていることだろう。孫の師仲にもな。そう考えると、あの義親は彼らのうちの誰かが造ったのではないだろうか。髑髏(どくろ)さえあれば、他の骨は他人のものでも、その人間を甦らせることが出来る。義親の首はあの正盛がこの京へ凱旋(がいせん)した時持ち帰ってきた。その後しばらくは六条河原にさらされていたそうだが、その後どこへ行ったかはわからない。誰かがその髑髏を持ち去り、密かに彼らに義親の再生を依頼したとしたら……」「でも、一体誰が」「それがわかれば苦労はしない。義親が生き返ることで得をする人物ならすぐに何人か挙げられるがな。いかんせん、証拠がない」「では、師時殿にでも密かに訊ねてみては? 世の乱れを防ぐために必要だと説けば、きっと打ち明けてくれるでしょう」「それが、そうはいかんのだ。彼らは絶対に口を割らぬ」「どうしてでございます?」「それはな、この人造りの秘術には、一つだけ恐ろしい呪いがあるのだよ」「呪い?」「そうだ。人を造った人間には、一つだけ絶対にしてはならぬことがある。それは、この人間を自分が作ったと、造った本人自らが他人に打ち明けてしまうことだ。人を造ったということだけならば、誰に話しても良い。だが、誰を造ったかは、決して話してはならぬ。もし、話してしまったならば、造った本人も造られた人間も、その瞬間に溶けて流れてしまうのだそうだ。だから、俊房殿もご自分が誰を造ったかは決して教えては下さらなかった。師時殿らも同じであろう。年齢を考えると、義親を造った公算が一番高いのは師時殿だと思う。だが、義親を造るよう命じた者の名を明かせば、それはすなわち義親を造ったことを認めたことになる。何しろ、死んでしまうのだからな。いくら天下のためだとしても、絶対に口は割らぬ。ひたすらしらばっくれるだけだろう」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2012年10月17日
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実能の声は暗く低い。堀河と桜子は、恐ろしさに身を寄せ合った。「それは髑髏(どくろ)のように痩せ衰えた老人の姿をしていたそうだ。その翁は師房殿に言った。私はすべての死人を支配する者。死人の主である私に何のことわりもなく、なにゆえこれらの死人の骨を取り集められたのか、とな。そして、長い爪の生えた皺ばんだ手で掴みかかり、師房殿の首をねじり切ろうとしたのだそうだ」 桜子は自分にその手が向ってきたかのように首を竦(すく)めた。「師房殿はそこで目覚めた。だが、その日からひどく気分が悪くなってな。十日も経たぬうちに、枕から頭が上がらなくなった。どうしてこのように急に病になられたのかと、俊房殿をはじめ子息方は不思議がられたそうだよ。そして、結局病は癒えることはなく、そのまま師房殿は亡くなったのだ。もちろん、師房殿の死がその翁の霊の仕業であったかどうかはわからない。師房殿はもうお年だったしな。それに、俊房殿は師房殿から秘術の書物を渡された後、好奇心にかられて、焼く前にその大事な部分だけをこっそり写し取られたらしい。そして、師房殿の死後しばらくして、実際に人を造ってみたのだそうだ。俊房殿ももう亡くなられたが、それは人を造ってからずっと後のことだった。だから、人を造ったからといって、みんな直ちに死んでしまうというわけではないのかも知れぬ」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2012年10月12日
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「私もうろ覚えだが、大たいこんな話だった。まず、死人の骨を拾い集めて、五体の骨を骨格通りに並べる。それに砒霜(ひそう)という薬を塗り、苺と繁縷(はこべ)の葉を揉み合せてから、藤蔓や糸などで骨を互いに結び合わせて肉付けする。こうして一つの人型に作り上げたものを、水で何度も洗う。そして、頭には皀莢(さいかち)と木槿(むくげ)の葉を焼いたものを擦りつけて髪の毛を作る。ここまで出来たら、今度はこの人型を土の上に敷いた筵(むしろ)の上に寝かせ、あまり風が当たらないよう工夫して、二十七日間待つのだ。そうして、最後に、反魂(はんごん)の秘術を行う」「反魂の秘術とは何ですか」「死人の魂を呼び戻す術のことだ。その昔、漢の国の孝武帝が愛妃の李夫人を甦らせるために行ったという話を聞いたことがあるだろう。香を焚いて、死者の復活を心に深く念じながら、反魂の真言を千回唱えれば、その死者の魂が冥界から戻ってくるという」「はい、話だけは。でも、本当にそうなるとは考えたこともありませんでした」「いや、本当のことなのだ。師房殿は書物を開き、そこに書いてある通りに人を造った。すると、恐ろしいことに、全く本物そっくりの人間が出来たのだそうだ。師房殿はもう大喜びでな。この方法を使えば、思い通りの美女を作り出したり、死んだ人間を甦らせたり出来ると、有頂天になったとか......ところが、人造りをした翌晩のこと、師房殿の夢枕に怪異の人物が立った」↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2012年10月05日
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「まさか。そんな秘術があろうはずは。それに、身内の中でもそのような秘術の噂さえ聞いたことがございませぬ。わたくしの父も知りますまい」「そうだろうな。師房殿はそのことをずっと秘しておられた。ご自分の子息方にも明かさず、秘術の書かれた書物を密かに所蔵しておられたのだそうだ。その秘術が、どこから伝わったものか、定かではない。その昔、四条大納言藤原公任卿が鬼に教わったという話もあるが、詳しいことは何も残っていない。師房殿がその秘術の書かれた書物をどこから手に入れたかもわからない。ただ、師房殿は亡くなる直前、たまたま側で看取っていた息子の俊房殿に、秘蔵のその書物を渡して、そっと打ち明けられたのだという。私は人を造った罪により地獄へ落ちる。だから、私のような者が二度と出ないよう、この書物を燃やしてしまってくれと」 堀河と桜子は、ぞっとした面持ちで実能の顔を見つめた。実能はさらに声を落として続けた。「師房殿はふとしたことからその書物を手に入れたのだが、やはり恐ろしくて長い間手元に置いていただけだったのだそうだ。だが、人は好奇心には勝てぬもの。年を取り自分の老い先も見えてくると、死ぬ前にどうしても知りたくなった。本当に人を造ることが出来るのだろうかとな。そして、とうとう我慢し切れなくなって、その書物通りに人を造ってしまったのだそうだ」「まさか、そんなことが出来るわけが。私にはとても信じられませぬ」 桜子が口を挟んだ。少年らしい生真面目な顔ではっきりと言う。実能は穏かな顔で桜子を見つめて言った。「この世には、常識では説明のつかぬ物事がたくさんあるのだよ。お前ももっと年を取ればわかる」「でも、どうやって人を造るんです? そんな方法があるわけがない」 実能は少し迷ったが、きかん気の桜子の顔を見ると、小さく溜め息をついて言った。「私はその方法を知っている。俊房殿が私に教えてくれたのだ」「本当ですか!」 目を輝かせて近寄る桜子を押し留めるようにして、実能は難しい顔で言った。「それを聞いても、自分で造ってみようなどと考えぬ方が良い。私が聞いたのはあらましだけで、詳しいことまでは知らぬ。それに人造りは一種の呪いのようなもので……」「造ってみようなどとは思いませぬ。その方法に納得がいけば、信じられまする」 頑なな桜子に実能は苦笑した。そして、しばらく頭をひねった後、おもむろに語り出した。↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m
2012年10月02日
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