【4-1-1. 8月概観】
7月7日、日銀は金利抑制効果が強いという「指値オペ(さしね)」を実施した、という報道がありました。指値オペとは、10年債金利を指定することで、その金利が日銀の防衛線だと市場に認知させる効果があります。従来から実施していた国債買入規模の増減より、更に直接的な金利調整手段に着手した訳です。
8月に入り、4-6月期GDP速報値が年率+4.0%に達し、コアCPIは+0.5%だったものの物価上昇基調が確認できました。速報値とは言え、日本の成長率が主要国で最も高くなったことなど、全く覚えがないほど久しぶりのはずです。
それでもJPYは、大して売られも買われもしていません。
一部の解説記事では、日銀は既にこれ以上の緩和拡大と低金利操作が難しいため、海外の金融政策だけが二国間の政策・金利ギャップの大きさを決めつつある点を指摘しています。だから、日銀はもう何をやっても政策効果があがらない、という趣旨です。
【4-1-2. 政策決定指標】
(1) 金融政策
政策金利及び政策発表時刻は、金融政策決定会合終了次第となっており不定時です。ほぼ正午前後に発表されるものの、大きな政策変更があるときには発表が遅れるというジンクスがあります。ともあれ、平日昼間の発表で時刻が不定というのでは、趣味でFXをやっている多くの人にとって取引参加できない、ということですね。取引に参加できなくても、大きな動きだけは追っておきましょう。
7月20日、日銀金融政策決定会合結論は、(a) 短期金利を△0.1%、(b) 長期金利をゼロ%程度に誘導する現行の金融政策維持、を賛成多数で決定しました。
同時発表された展望リポートは、(c) コアCPI前年比見通しを下方修正し、目標とする物価2%の到達時期を2019年度頃に先送りし、(d) GDP見通しを上方修正して、景気総括判断を「緩やかに拡大している」に引き上げました。
(2) 財政政策
危機的と言われて久しい財政赤字については、国債がほぼ国内で消化されていることや、国全体のバランスシート上の対外純資産が多いことから、楽観視する向きが多いようです。これはおかしな理屈で、財政赤字を民間も含めた与信規模で安心するという理屈がちっともわかりません。
もし夕張市にまだ金持ちが居たとしても、夕張市が財政破綻したら、行政サービスは現実問題として縮小したし、市は財政投資ができなくなったじゃないですか。
(3) 景気指標
景気指標への反応は、日欧が小さく米英が大きいという傾向があります。短観は日銀金融政策の判断材料とされているので、報道では大きく扱われます。
2017年7月3日に発表された短観では、企業規模の大小を問わず全般的な景況感改善となっていました。特に製造業は3四半期連続改善し、2014年3月以来の水準に達し、消費税増税前のレベルまで回復しました。
(分析事例) 日銀短観 (2017年7月3日調査)
(4) 物価指標
金融・財政政策に影響を与えるため記録しています。がしかし、ほとんど動かない指標のため、取引には全く向いていません。
なお、海外におけるコアCPI(消費者物価指数)に相当するのはコアコアCPIです。日本におけるコアCPIは生鮮食料品だけを除き、エネルギーを除いていません。日銀が目標とする物価上昇率2%とは、このコアCPIの年率+2%を指しています。
8月14日に発表された4-6月期GDPデフレータ速報値は△0.4%(1-3月期改定値は△0.5%)でした。これは、金額ベース(名目)GDPが増加しても、そのうち0.4%は物価上昇によるため、という意味です。
なお、コアCPIとGDPデフレータが符合逆転して一致しているのは偶然です。
8月25日に発表された7月分コアCPI前年比は+0.5%でした。全体的には僅かずつ上昇しているように見受けられます。
(分析事例) 全国CPI (2017年8月25日発表結果検証済)
(分析事例) GDPデフレータ速報値 (2017年8月14日発表結果検証済)
(5) 雇用指標
取引は行いません。
8月4日に発表された6月分毎月勤労統計調査では△0.4%(前月+0.7%)でした。厚労省は「緩やかな増加傾向」という見方を示しています。
8月29日に発表された7月分失業率は2.8%、有効求人倍率は1.52倍でした。前々前月5月分の有効求人倍率の1.49倍という数字は43年3か月ぶりの高水準だそうです。
【4-1-3. 経済実態指標】
いずれも反応しないことは同じです。指標良し悪しに対して為替が絶望的に反応しません。
(1) 経済成長
日本は、米国・中国・EUに次ぐ経済規模なのに、成長率の多寡ではほとんど反応しません。よって、速報値だけしか取引をしません。発表値は実質GDPでデフレータによってインフレ調整された値です。
ざっくり、日本のGDPを500兆円と考えてみましょう。市場認知(予想)と0.2%のズレが生じた場合、1兆円分のズレが発表後に修正される訳です。GDP速報値で、最も指標結果に素直に反応する直後1分足跳幅は平均10pips程度です。1pips動かすために0.1兆円ぐらい、というのは何かの目安になるかも知れませんね。
さて、7月20日に発表された日銀展望レポートでは、実質GDPの見通しが、2017年度は+1.8%(前回+1.6%)、2018年度は+1.4%(前回+1.3%)、2019年度は+0.7%増に据え置かれました。全体的に上方修正されています。
一方、IMFが7月24日に発表した世界経済見通しでは、2017年が+1.3%、2018年が+0.6%です。IMFも4月に発表した見通しより、2017年はわずかに上方改定しています。
そして、8月14日に発表された4-6月期GDP速報値は前年比が+4.0%でした。これは、速報値では2014年4-6月期以来の高い水準です。前期比も2016年4-6月期以降(改定値)、プラス継続となっています。
内訳を見ると、設備投資が好調(前期比+2.4%)で、個人消費も前期比+0.9%だったことが寄与したようです。
がしかし、見るべき点はそうした経済改善の兆しよりも、これほどの数字でも直後1分足が陰線だったことです。直後11分足は陽線に転じたものの、こうした動きが本指標取引の難しさです。何より、これほど難しい動きをピタリと当てても、直後1分足跳幅はたったの2pips、直後11分足跳幅・値幅でも12pipsしかなかったのです。
(分析事例) 四半期GDP速報値 (2017年8月14日発表結果検証済)
四半期GDP速報値は、事前分析判別式の符号と直前10-1分足の方向一致率が70%強あるので、発表前に折込みが進みやすい可能性があります。その結果、発表後の反応は小さくなりがちで、しかも直後1分足終値がついたら、むしろ反転に気を付ける必要があります。
なお、事前差異判別式は、2013年1-3月期から2017年1-3月期までの18回のデータに基づけば、−1?GDP前期比事前差異ー1?前年比事前差異ー2?デフレータ事前差異、となります。
(2) 実態指標
反応が小さ過ぎて取引には向きません。
消費は全体に改善基調です。
7月28日に発表された6月分全世帯家計調査消費支出前年比は+2.3%(前月△0.1%)でした。プラス転換したのは、2016年2月分以来17か月ぶりです。同日発表された6月分小売業販売額前年比は+2.1%(前月+2.0%)でした。小売販売額は、2016年8月をボトムに2016年11月にプラス転換してから、上昇基調継続です。
最も大きな消費である住宅は、今年に入って横這いです。
7月31日に発表された新設住宅着工戸数前年比は+1.7%(前月△0.3%)でした。プラス数値が続いた2016年に比べ、2017年に入ってからは0%近辺で上下しています。
生産は消費や小売のような改善の兆しがまだ現れていません。
製造業はかつてよりもBtoB(企業-企業間取引)を重視しています。CPIではわからない動きを指標で掴むため、製造業の動向が必要です。非製造業には、金融・小売だけでなく発電などが含まれています。
7月31日に発表された6月分鉱工業生産前月比速報値は+1.6%でした。8月15日に発表された6月分鉱工業生産前月比確報値は+2.2%(前月△3.6%)と、速報値が上方修正されました。鉱工業生産は、2017年に入って毎月交互にプラス・マイナスが続いており、消費や小売のような改善の兆しはまだ現れていません。
8月10日発表された6月分機械受注前月比は△1.9%(前月△3.6%)でした。これでマイナスは3か月連続です。
(分析事例) 機械受注 (2017年6月12日発表結果検証済)
(分析事例) 鉱工業生産速報値 (2017年2月14日発表結果検証済)
【4-1-4. 収支関連指標】
貿易収支と経常収支で反応に結び付くのは貿易収支の方です。日本の対米・対中収支は、政治的発言・事件によって景気や為替に影響を与えます。
8月17日に発表された7月分通関ベース貿易収支は+4188億円(前月+4399億円)でした。2016年から黒字になることが多くなっています。
対応する7月分国際収支は9月8日発表予定です。貿易収支は2014年頃から改善基調と見受けられ、2016年頃からは黒字になることが多くなっています。
(分析事例) 貿易統計(通関ベース) (2017年6月19日発表結果検証済)
(分析事例) 貿易収支・経常収支 (2017年7月10日発表結果検証済)
これら指標は、市場予想の精度がかなり高いことに着目すべきです。市場予想の精度が高い指標では、指標発表後よりも早い時刻から指標発表前に影響が現れがちです。
以上