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2019年03月04日
映画「銃殺」戦場の不条理
「銃殺」(King and Country)
1964年 イギリス
監督ジョセフ・ロージー
脚本エヴァン・ジョーンス
ジョセフ・ロージー
撮影デニス・クープ
〈キャスト〉
ダーク・ボガード トム・コートネイ
レオ・マッカーン
1964年ヴェネチア国際映画祭男優賞(トム・コートネイ)
原題は「King and Country」。
「国王と国土」「王と王国」といったような意味合いでしょうか。ヨーロッパでは絶対王政は19世紀にほぼ消滅していますから、ここでは支配する者と、そこに住む者、あるいは国王が支配する土地といったような、絶対的支配者と隷属する国民の関係を指しているかとも思います。
舞台は第一次世界大戦のベルギー、パッシェンデール駐屯地。
パッシェンデールはイギリス・カナダなどの連合軍とドイツ軍が戦った第一次世界大戦の激戦地であり、軟弱な沼沢地(しょうたくち)でもあったために連合軍によるおびただしい戦死者を出した場所でもあります。
そのパッシェンデール駐屯地では、一人の脱走兵に対する軍事裁判が開かれようとしています。
被告は陸軍兵士アーサー・ハンプ(トム・コートネイ)。
ハンプを弁護するのはハーグリーブス大尉(ダーク・ボガード)。
しかしハーグリーブスは、「死刑は自業自得だ。皆が戦っているときに逃げた者が悪い」という持論を公言する男。その彼は最初、上官と部下の立場でハンプの話を聞いています。
元々靴職人の23歳のハンプは、妻に裏切られ、義母と妻にそそのかされて戦場にやって来たいきさつをハーグリーブスに語ります。
大砲の音におびえ、大砲から遠ざかって歩いているうちに、足は家に向かっていたと話すハンプ。
朴訥(ぼくとつ)ながら、戦場の実態を知らずに志願してやって来た若者の心情を聞いているうち、ハーグリーブスの態度には変化が現れます。
ハンプを無罪にするべくハーグリーブスは対策を立て、裁判の席上、熱弁をふるいますが、ハンプにもたらされた判決は銃殺でした。
雨上がりのぬかるんだ空き地で目隠しをされて椅子に座り、駐屯地の全員が見守る中、銃殺隊の射撃を受けてハンプは小川の中に倒れますが、いくつかの銃弾はそれて絶命には至らず、近寄ったハーグリーブスはピストルの銃口をハンプの口に入れ、引き金を引きます。
★★★★★
映画は駐屯地を舞台として展開されていきます。
激戦地であったパッシェンデールですが特に戦闘シーンなどはなく、延々と降り続く雨、泥と水たまりの宿舎、兵舎のベッドを這いまわり、馬の死肉に群がるドブネズミ。
不衛生で不快な駐屯地の様子と、遠くで轟(とどろ)く砲声、画面がモノクロのため、ドキュメンタリー的な寒々とした映像が戦場の一端を伝えています。
ハンプの判決は銃殺でしたが、「ひとりの人間の命がかかっているんです」と訴えるハーグリーブスの熱弁とアーサー・ハンプの実直な態度は、裁判の趨勢(すうせい)を無罪へと傾かせていました。
しかし、前線への移動を控えた部隊の士気を高めるため、ハンプの命は犠牲にされてしまいます。
軍隊の中でひとりの若者の命が弄(もてあそ)ばれてしまう、暗く重い映画ですが、演技陣の熱演によるものでしょう、見応えのある裁判劇になっています。
トム・コートネイはヴェネチア国際映画祭で男優賞を受賞しましたが、同時に、深みのある落ち着きと裁判での熱弁。処刑に失敗したハンプに近寄り、ためらわずにハンプに止(とど)めを刺す冷徹な一面を持った軍人を演じたダーク・ボガードはお見事で、主演男優賞でもよかったんじゃないかと思いました。
でも、「銃殺」という邦題はよくないですね、有罪か無罪かを決める裁判劇でもあるわけなのに、判決の結果をそのままバラしてしまってますからね。
監督ジョセフ・ロージー
脚本エヴァン・ジョーンス
ジョセフ・ロージー
撮影デニス・クープ
〈キャスト〉
ダーク・ボガード トム・コートネイ
レオ・マッカーン
1964年ヴェネチア国際映画祭男優賞(トム・コートネイ)
原題は「King and Country」。
「国王と国土」「王と王国」といったような意味合いでしょうか。ヨーロッパでは絶対王政は19世紀にほぼ消滅していますから、ここでは支配する者と、そこに住む者、あるいは国王が支配する土地といったような、絶対的支配者と隷属する国民の関係を指しているかとも思います。
舞台は第一次世界大戦のベルギー、パッシェンデール駐屯地。
パッシェンデールはイギリス・カナダなどの連合軍とドイツ軍が戦った第一次世界大戦の激戦地であり、軟弱な沼沢地(しょうたくち)でもあったために連合軍によるおびただしい戦死者を出した場所でもあります。
そのパッシェンデール駐屯地では、一人の脱走兵に対する軍事裁判が開かれようとしています。
被告は陸軍兵士アーサー・ハンプ(トム・コートネイ)。
ハンプを弁護するのはハーグリーブス大尉(ダーク・ボガード)。
しかしハーグリーブスは、「死刑は自業自得だ。皆が戦っているときに逃げた者が悪い」という持論を公言する男。その彼は最初、上官と部下の立場でハンプの話を聞いています。
元々靴職人の23歳のハンプは、妻に裏切られ、義母と妻にそそのかされて戦場にやって来たいきさつをハーグリーブスに語ります。
大砲の音におびえ、大砲から遠ざかって歩いているうちに、足は家に向かっていたと話すハンプ。
朴訥(ぼくとつ)ながら、戦場の実態を知らずに志願してやって来た若者の心情を聞いているうち、ハーグリーブスの態度には変化が現れます。
ハンプを無罪にするべくハーグリーブスは対策を立て、裁判の席上、熱弁をふるいますが、ハンプにもたらされた判決は銃殺でした。
雨上がりのぬかるんだ空き地で目隠しをされて椅子に座り、駐屯地の全員が見守る中、銃殺隊の射撃を受けてハンプは小川の中に倒れますが、いくつかの銃弾はそれて絶命には至らず、近寄ったハーグリーブスはピストルの銃口をハンプの口に入れ、引き金を引きます。
★★★★★
映画は駐屯地を舞台として展開されていきます。
激戦地であったパッシェンデールですが特に戦闘シーンなどはなく、延々と降り続く雨、泥と水たまりの宿舎、兵舎のベッドを這いまわり、馬の死肉に群がるドブネズミ。
不衛生で不快な駐屯地の様子と、遠くで轟(とどろ)く砲声、画面がモノクロのため、ドキュメンタリー的な寒々とした映像が戦場の一端を伝えています。
ハンプの判決は銃殺でしたが、「ひとりの人間の命がかかっているんです」と訴えるハーグリーブスの熱弁とアーサー・ハンプの実直な態度は、裁判の趨勢(すうせい)を無罪へと傾かせていました。
しかし、前線への移動を控えた部隊の士気を高めるため、ハンプの命は犠牲にされてしまいます。
軍隊の中でひとりの若者の命が弄(もてあそ)ばれてしまう、暗く重い映画ですが、演技陣の熱演によるものでしょう、見応えのある裁判劇になっています。
トム・コートネイはヴェネチア国際映画祭で男優賞を受賞しましたが、同時に、深みのある落ち着きと裁判での熱弁。処刑に失敗したハンプに近寄り、ためらわずにハンプに止(とど)めを刺す冷徹な一面を持った軍人を演じたダーク・ボガードはお見事で、主演男優賞でもよかったんじゃないかと思いました。
でも、「銃殺」という邦題はよくないですね、有罪か無罪かを決める裁判劇でもあるわけなのに、判決の結果をそのままバラしてしまってますからね。