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2019年07月12日
映画「ファイナル・カウントダウン」世界最強の原子力空母ニミッツが真珠湾攻撃直前のハワイ沖へタイムスリップ
「ファイナル・カウントダウン」
(The Final Countdown) 1980年アメリカ
監督ドン・テイラー
脚本デイヴィッド・アンブローズ
ピーター・パウエル
ゲイリー・デーヴィス
トーマス・ハンター
音楽ジョン・スコット
撮影ヴィクター・J・ケンパー
〈キャスト〉
カーク・ダグラス マーティン・シーン
キャサリン・ロス チャールズ・ダーニング
1945年の第二次世界大戦の終結と、東西冷戦下で予想される第三次世界大戦の勃発。そのような中で世界の覇権を目指そうとするアメリカは軍事力を強化。
1958年には世界初の原子力空母「エンタープライズ」が建造を開始して1961年に就役。続く1975年には原子力空母「ニミッツ」が就役します。
長距離空対空ミサイルを搭載したF-14トムキャットなどの艦上戦闘機を搭載した「ニミッツ級」は現在でも「海に浮かぶ都市」と形容され世界最大・最強を誇っています(F-14トムキャットは2006年に退役)。
「ファイナル・カウントダウン」は、その原子力空母「ニミッツ」がハワイ沖を航行中に、1941年の日本海軍による真珠湾攻撃直前にタイムスリップしてしまうお話し。
1980年。
民間人のウォーレン・ラスキー(マーティン・シーン)が「ニミッツ」乗艦のために海軍のヘリに乗り込むところから物語は始まります。
彼は大手企業タイドマン社からニミッツの視察を命じられた人物で、海軍基地に停まっている車の中にはラスキーの乗艦を見守るタイドマン社の社長の人影。
ラスキーは社長に挨拶をしようと近寄りますが、挨拶は拒まれます。
この顔の見えない謎の人物はストーリーのオチとして最後に再び登場するのですが、それはそれとして。
ハワイ沖を航行中のニミッツに乗り込んだラスキーは艦長のマシュー・イーランド海軍大佐(カーク・ダグラス)に迎えられ、あてがわれた部屋へと案内されます。
その日の気象予報では好天のはずだったのが、突如雷雲が発生したとの気象係の連絡をイーランドは受けます。
気温も下がり、気圧は急激に下がっていきます。荒れ模様となった天候の中、危険を感じたイーランドは真珠湾へ引き返そうとしますが、突如として海上に巨大な渦巻きが発生してニミッツを飲み込みます。
計器類は故障。気圧の急激な低下によるものか、低周波の影響なのか、乗員のすべてが極度の頭痛に襲われる中、しばらくして渦巻きは消え、海上は再び穏やかさを取り戻します。
レーダーは正常に戻り、音声をとらえますが、それは現在使われていない旧式の暗号で、ソ連とアメリカ、それにドイツが開戦したというものでした。
第三次世界大戦の勃発かと緊張の走る中、ラジオからはすでに亡くなっているはずのジャック・ベニーの放送が流れています。
イーランドはE-2早期警戒機を飛ばし周囲の状況を偵察しようとしますが、戻って来たE-2がとらえた航空写真には、1941年当時そのままに“アリゾナ”“ウェストバージニア”“テネシー”などの戦艦が真珠湾に無傷で停泊しています。
ニミッツ上空を飛来する日本のゼロ戦。
洋上には時代遅れのヨットが一隻。
不可解な事態にラスキーはタイムスリップを予感しますが、状況を飲み込めない乗員との間で激しい議論が戦わされる中、ゼロ戦が洋上のヨットを攻撃し始めます。
ヨット救出のためにニミッツから飛び立ったF-14はゼロ戦とのドッグファイトを展開しますが、いくらゼロ戦が無敵の格闘性能を誇っているとはいえ、近代兵器を装備し、マッハの速度を持つトムキャットの敵ではなく、2機のゼロ戦はあえなく撃墜されてしまいます。
ゼロ戦に攻撃されて転覆したヨットから救出されたのは、1944年の大統領選挙の候補とされている民主党の上院議員サミュエル・S・チャップマン(チャールズ・ダーニング)と、彼の秘書ローレル(キャサリン・ロス)、そしてローレルの愛犬チャーリー。
救出されたチャップマンは次期大統領と目されている人物で、彼は本来、1941年12月7日に行方不明になるはずでした。
そのまま生存していれば、1944年の次期大統領は民主党のフランクリン・ルーズベルトではなくサミュエル・S・チャップマンが大統領職に就くことになります。
すでに歴史に介入してしまった「ニミッツ」。
さらにイーランドは、撃墜したゼロ戦の戦闘員で捕虜となったシムラの口から、日本海軍の空母6隻が千島列島を離れ、真珠湾へ進撃していることを知ります。
歴史的事実である日本軍の真珠湾攻撃を翌日の未明に控え、イーランドは歴史に介入するか否かの決断を迫られますが、軍人としての責務を果たす、として介入を決断。
中国全土を完全制覇した高い空戦性能を持つゼロ戦を擁して連戦連勝の勢いに乗る日本海軍対F-14などの最新鋭の要撃・攻撃機を擁する原子力空母「ニミッツ」の決戦は、最終的な秒読み“ファイナル・カウントダウン”に入ってゆきます。
製作費2000万ドルの巨費を投じ、アメリカ海軍の全面的な協力のもとに作られた「ファイナル・カウントダウン」は、アメリカ国民が最も屈辱を感じるとされる日本海軍による「真珠湾攻撃」の前日に、アメリカが誇る世界最強の原子力空母「ニミッツ」がハワイ沖にタイムスリップをするという、いわば時空を超えた雪辱戦が展開される、というストーリー。
監督は「トム・ソーヤーの冒険」(1973年)、「ドクター・モローの島」(1977年)のドン・テイラー。
この人は俳優としても「花嫁の父」(1950年)、「第十七捕虜収容所」(1953年)などの出演作があります。
ニミッツの艦長に「炎の人ゴッホ」(1956年)、「OK牧場の決斗」(1957年)、「スパルタカス」(1960年)などの大スター、カーク・ダグラス。
ニミッツの視察に乗り込むウォーレン・ラスキーに、「地獄の逃避行」(1973)、「地獄の黙示録」(1979年)のマーティン・シーン。
マーティン・シーンはテレンス・マリックの監督デビュー作「地獄の逃避行」の主役以降、あまりパッとしない俳優でしたが、「地獄の黙示録」の主役がスティーブ・マックイーンやハリソン・フォードらの相次ぐ降板によって主役の座をつかみ、後には「ウォール街」(1987年)で息子で三男のチャーリー・シーンと共演するなど、数多くの映画に出演。
しかし映画「ファイナル・カウントダウン」の主役は、カーク・ダグラスでもマーティン・シーンでもありません。
主役は原子力空母ニミッツであり、F-14トムキャットであるといってもいいと思います。
タイムスリップを題材にしたSF映画ですが、過去に遡(さかのぼ)ることに対するタイムパラドックスにおける問題とか(ラスキーと乗員との論争はありますが)、複雑な話はワキへ置いといて、原子力空母ニミッツやF-14トムキャットなど、すべて本物を使った迫力は圧倒的で、そのために、アメリカの軍事力を誇示したいだけの映画と見られても仕方のない面はあります。
私は以前、陸上自衛隊明野駐屯地(三重県)での航空ショーをのぞきに行ったことがありますが、間近で見る対戦車ヘリAH-1Sコブラや、F-2、F-15といった戦闘機の迫力に驚いたことがあります。
現在の主流であるステルス戦闘機のF-35はずんぐりむっくりした体型になってしまいましたが、「ファイナル・カウントダウン」に登場するF-14トムキャットは、そのしなやかな機体から人気は高く、退役した現在でも人気の衰えていない艦上戦闘機です。
すべてが本物志向の「ファイナル・カウントダウン」(さすがにゼロ戦はニセモノですが)、ストーリー的にはやや肩透かしをくらう面は否めませんが、コンピューターグラフィックスに頼らない本物の迫力を楽しめる映画です。
(The Final Countdown) 1980年アメリカ
監督ドン・テイラー
脚本デイヴィッド・アンブローズ
ピーター・パウエル
ゲイリー・デーヴィス
トーマス・ハンター
音楽ジョン・スコット
撮影ヴィクター・J・ケンパー
〈キャスト〉
カーク・ダグラス マーティン・シーン
キャサリン・ロス チャールズ・ダーニング
1945年の第二次世界大戦の終結と、東西冷戦下で予想される第三次世界大戦の勃発。そのような中で世界の覇権を目指そうとするアメリカは軍事力を強化。
1958年には世界初の原子力空母「エンタープライズ」が建造を開始して1961年に就役。続く1975年には原子力空母「ニミッツ」が就役します。
長距離空対空ミサイルを搭載したF-14トムキャットなどの艦上戦闘機を搭載した「ニミッツ級」は現在でも「海に浮かぶ都市」と形容され世界最大・最強を誇っています(F-14トムキャットは2006年に退役)。
「ファイナル・カウントダウン」は、その原子力空母「ニミッツ」がハワイ沖を航行中に、1941年の日本海軍による真珠湾攻撃直前にタイムスリップしてしまうお話し。
1980年。
民間人のウォーレン・ラスキー(マーティン・シーン)が「ニミッツ」乗艦のために海軍のヘリに乗り込むところから物語は始まります。
彼は大手企業タイドマン社からニミッツの視察を命じられた人物で、海軍基地に停まっている車の中にはラスキーの乗艦を見守るタイドマン社の社長の人影。
ラスキーは社長に挨拶をしようと近寄りますが、挨拶は拒まれます。
この顔の見えない謎の人物はストーリーのオチとして最後に再び登場するのですが、それはそれとして。
ハワイ沖を航行中のニミッツに乗り込んだラスキーは艦長のマシュー・イーランド海軍大佐(カーク・ダグラス)に迎えられ、あてがわれた部屋へと案内されます。
その日の気象予報では好天のはずだったのが、突如雷雲が発生したとの気象係の連絡をイーランドは受けます。
気温も下がり、気圧は急激に下がっていきます。荒れ模様となった天候の中、危険を感じたイーランドは真珠湾へ引き返そうとしますが、突如として海上に巨大な渦巻きが発生してニミッツを飲み込みます。
計器類は故障。気圧の急激な低下によるものか、低周波の影響なのか、乗員のすべてが極度の頭痛に襲われる中、しばらくして渦巻きは消え、海上は再び穏やかさを取り戻します。
レーダーは正常に戻り、音声をとらえますが、それは現在使われていない旧式の暗号で、ソ連とアメリカ、それにドイツが開戦したというものでした。
第三次世界大戦の勃発かと緊張の走る中、ラジオからはすでに亡くなっているはずのジャック・ベニーの放送が流れています。
イーランドはE-2早期警戒機を飛ばし周囲の状況を偵察しようとしますが、戻って来たE-2がとらえた航空写真には、1941年当時そのままに“アリゾナ”“ウェストバージニア”“テネシー”などの戦艦が真珠湾に無傷で停泊しています。
ニミッツ上空を飛来する日本のゼロ戦。
洋上には時代遅れのヨットが一隻。
不可解な事態にラスキーはタイムスリップを予感しますが、状況を飲み込めない乗員との間で激しい議論が戦わされる中、ゼロ戦が洋上のヨットを攻撃し始めます。
ヨット救出のためにニミッツから飛び立ったF-14はゼロ戦とのドッグファイトを展開しますが、いくらゼロ戦が無敵の格闘性能を誇っているとはいえ、近代兵器を装備し、マッハの速度を持つトムキャットの敵ではなく、2機のゼロ戦はあえなく撃墜されてしまいます。
ゼロ戦に攻撃されて転覆したヨットから救出されたのは、1944年の大統領選挙の候補とされている民主党の上院議員サミュエル・S・チャップマン(チャールズ・ダーニング)と、彼の秘書ローレル(キャサリン・ロス)、そしてローレルの愛犬チャーリー。
救出されたチャップマンは次期大統領と目されている人物で、彼は本来、1941年12月7日に行方不明になるはずでした。
そのまま生存していれば、1944年の次期大統領は民主党のフランクリン・ルーズベルトではなくサミュエル・S・チャップマンが大統領職に就くことになります。
すでに歴史に介入してしまった「ニミッツ」。
さらにイーランドは、撃墜したゼロ戦の戦闘員で捕虜となったシムラの口から、日本海軍の空母6隻が千島列島を離れ、真珠湾へ進撃していることを知ります。
歴史的事実である日本軍の真珠湾攻撃を翌日の未明に控え、イーランドは歴史に介入するか否かの決断を迫られますが、軍人としての責務を果たす、として介入を決断。
中国全土を完全制覇した高い空戦性能を持つゼロ戦を擁して連戦連勝の勢いに乗る日本海軍対F-14などの最新鋭の要撃・攻撃機を擁する原子力空母「ニミッツ」の決戦は、最終的な秒読み“ファイナル・カウントダウン”に入ってゆきます。
製作費2000万ドルの巨費を投じ、アメリカ海軍の全面的な協力のもとに作られた「ファイナル・カウントダウン」は、アメリカ国民が最も屈辱を感じるとされる日本海軍による「真珠湾攻撃」の前日に、アメリカが誇る世界最強の原子力空母「ニミッツ」がハワイ沖にタイムスリップをするという、いわば時空を超えた雪辱戦が展開される、というストーリー。
監督は「トム・ソーヤーの冒険」(1973年)、「ドクター・モローの島」(1977年)のドン・テイラー。
この人は俳優としても「花嫁の父」(1950年)、「第十七捕虜収容所」(1953年)などの出演作があります。
ニミッツの艦長に「炎の人ゴッホ」(1956年)、「OK牧場の決斗」(1957年)、「スパルタカス」(1960年)などの大スター、カーク・ダグラス。
ニミッツの視察に乗り込むウォーレン・ラスキーに、「地獄の逃避行」(1973)、「地獄の黙示録」(1979年)のマーティン・シーン。
マーティン・シーンはテレンス・マリックの監督デビュー作「地獄の逃避行」の主役以降、あまりパッとしない俳優でしたが、「地獄の黙示録」の主役がスティーブ・マックイーンやハリソン・フォードらの相次ぐ降板によって主役の座をつかみ、後には「ウォール街」(1987年)で息子で三男のチャーリー・シーンと共演するなど、数多くの映画に出演。
しかし映画「ファイナル・カウントダウン」の主役は、カーク・ダグラスでもマーティン・シーンでもありません。
主役は原子力空母ニミッツであり、F-14トムキャットであるといってもいいと思います。
タイムスリップを題材にしたSF映画ですが、過去に遡(さかのぼ)ることに対するタイムパラドックスにおける問題とか(ラスキーと乗員との論争はありますが)、複雑な話はワキへ置いといて、原子力空母ニミッツやF-14トムキャットなど、すべて本物を使った迫力は圧倒的で、そのために、アメリカの軍事力を誇示したいだけの映画と見られても仕方のない面はあります。
私は以前、陸上自衛隊明野駐屯地(三重県)での航空ショーをのぞきに行ったことがありますが、間近で見る対戦車ヘリAH-1Sコブラや、F-2、F-15といった戦闘機の迫力に驚いたことがあります。
現在の主流であるステルス戦闘機のF-35はずんぐりむっくりした体型になってしまいましたが、「ファイナル・カウントダウン」に登場するF-14トムキャットは、そのしなやかな機体から人気は高く、退役した現在でも人気の衰えていない艦上戦闘機です。
すべてが本物志向の「ファイナル・カウントダウン」(さすがにゼロ戦はニセモノですが)、ストーリー的にはやや肩透かしをくらう面は否めませんが、コンピューターグラフィックスに頼らない本物の迫力を楽しめる映画です。
2019年07月05日
映画「ソイレント・グリーン」環境汚染と人口増加の未来
「ソイレント・グリーン」
(Soylent Green)
1973年アメリカ
監督リチャード・フライシャー
原案ハリイ・ハリスン
脚本スタンリー・R・グリーンバーグ
撮影リチャード・H・クライン
第2回アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞
〈キャスト〉
チャールトン・ヘストン エドワード・G・ロビンソン
チャック・コナーズ リー・テイラー・ヤング
2022年、人口増加と環境汚染による温暖化によって食料は枯渇し、住むところを失った人々が路上や建物に溢れ、“温室効果”による、むせ返るような息苦しさの中で生きる人々をよそに、一部の特権階級は高級住宅街のマンションで贅沢な生活を享受している激しい格差が生まれたニューヨーク。
本物の肉や魚、新鮮な野菜はなくなり、人々はソイレント社が作る“ソイレント・レッド”、“ソイレント・イエロー”などの高栄養食品で生き延びていました。
そして、さらに新製品として海中プランクトンから作る食料“ソイレント・グリーン”の配給が決定される中、高級マンションで殺人事件が起きます。
殺されたのは富豪の弁護士ウィリアム・R・サイモンソン(ジョセフ・コットン)。
ニューヨーク市警殺人課14分署のソーン刑事(チャールトン・ヘストン)が調査に乗り出し、殺人事件はチンピラの犯行と見せかけたプロの仕業とにらんだソーンは、サイモンソンのボディーガード、タブ・フィールディング(チャック・コナーズ)が手引きをしたと考え、タブの身辺の調査を始めます。
一方、ソーンの同居人で“本”と呼ばれる老人ソル(エドワード・G・ロビンソン)は、サイモンソンがソイレント社の委員会の重要人物であることを突き止めます。
ソイレント社の大きな暗い謎が次第に判明するにつれ、希少価値のプランクトンから作る“ソイレント・グリーン”は配給が滞るようになり、市民の間では怒りと暴動が広がり、混乱の中でソーンは何者かに命を狙われるようになります。
ハリウッドが得意とする近未来映画ですが、高度に発達したテクノロジーや、きらびやかな未来都市といったようなSF感あふれる世界ではなく、70年代から見た50年後はこうなのか、と思われる人口増加と環境汚染による食料問題と居住空間の悪化、そうした日常性が皮膚感覚に訴えるかのような暑く澱(よど)んだ空気感として伝わってきます。。
ベースとなったのはハリイ・ハリスンの小説「人間がいっぱい」。
急速な人口増加による食料不足や住宅の不足といった混乱の中で起きる殺人事件を、1999年のニューヨークを舞台に描いています。
出版は1966年なので、ほぼ30年後の未来を想定しています。
20世紀初頭に約20億人だった地球の人口は1987年に50億人を超え、国連の人口白書によれば2011年にはすでに70億人を突破しています。
だから世界的な食料不足に直面しているのか、というわけでもありませんし、現在の日本では食べられるのに捨てられている“食品ロス”は年間632万トンにのぼっています。
一方で、世界的には慢性的な栄養不足に苦しむ人々がアジアやアフリカで増加している現実があります。
食料危機の背景には政治的な問題があったり、干ばつや水害などの自然災害によるものがあったりします。
現在の世界では地球の温暖化による台風の大型化を始めとして、広範囲な赤潮の発生による水産資源の悪化、頻発する山火事、森林の砂漠化、熱波、夏の異常高温、河川の枯渇、海面の上昇による陸地の縮小、これらは今日的な問題でもあり、人々の生活と命を脅(おびや)かすものですが、中でも病害虫による作物への被害は深刻な食料危機になると予測されています。
「ソイレント・グリーン」の食料不足の背景のひとつとして環境汚染があります。映画的世界の話ですが、こういう世界になったらどうなるのだろうという、ちょっと怖い結末を迎える映画です。
人口が多いということは就職状況も厳しいわけで、刑事であるソーンは失業の不安を抱えながら、サイモンソン殺人事件を追いかけることになります。
この刑事ソーンは職権を利用しながら、手に入りにくい肉や野菜、サイモンソンの部屋から頂戴したバーボンなどをちゃっかりと持ち帰り、ソルとの食事を楽しむのですが、この場面は特に印象の深いものになっています。
本物の肉や野菜を目にしたときのソルの驚きと感情の高ぶり、バーボンを口にした歓び、すでに遠い過去になってしまった、当たり前の食事をする満ち足りた幸福感がよく表れていて、これは名優エドワード・G・ロビンソンの名演技によるものでしょうけど、失われてしまった人間らしい生活に涙するソルの心情がよく表現されたいいシーンでした。
あまりにも格差の激しくなった社会の中で、電気すら乏しい生活のソーンとソルは自転車を漕いで自家発電に頼るという、未来社会というよりは産業革命の時代に逆戻りしたような生活環境。
やがてソルは“ホーム”に入り、大自然の雄大な映像とベートーヴェンの交響曲第6番「田園」を聴きながら死を迎えるのですが、ソルの死はソイレント社の作る「ソイレント・グリーン」の秘密をソーンに暗示するものであり、その秘密を知ったソーンも凶弾に倒れることになります。
監督は「海底二万哩」(1954年)、「ミクロの決死圏」(1966年)、「ドリトル先生不思議な旅」(1967年)などの名匠リチャード・フライシャー。
チャールトン・ヘストンは「ボウリング・フォー・コロンバイン」(2002年)以降、全米ライフル協会会長として負のイメージがついてしまいましたが、「十戒」(1956年)、「ベン・ハー」(1959年)、「エル・シド」(1961年)などの史劇で見せた、たくましい男性像は、登場するだけでスクリーンに厚みがあります。
エドワード・G・ロビンソンは数多くの映画に出演していて、特に「キー・ラーゴ」(1948年)の貫禄たっぷりのギャングのボスがとても印象的だったのですが、「ソイレント・グリーン」が遺作になってしまいました。
1973年アメリカ
監督リチャード・フライシャー
原案ハリイ・ハリスン
脚本スタンリー・R・グリーンバーグ
撮影リチャード・H・クライン
第2回アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞
〈キャスト〉
チャールトン・ヘストン エドワード・G・ロビンソン
チャック・コナーズ リー・テイラー・ヤング
2022年、人口増加と環境汚染による温暖化によって食料は枯渇し、住むところを失った人々が路上や建物に溢れ、“温室効果”による、むせ返るような息苦しさの中で生きる人々をよそに、一部の特権階級は高級住宅街のマンションで贅沢な生活を享受している激しい格差が生まれたニューヨーク。
本物の肉や魚、新鮮な野菜はなくなり、人々はソイレント社が作る“ソイレント・レッド”、“ソイレント・イエロー”などの高栄養食品で生き延びていました。
そして、さらに新製品として海中プランクトンから作る食料“ソイレント・グリーン”の配給が決定される中、高級マンションで殺人事件が起きます。
殺されたのは富豪の弁護士ウィリアム・R・サイモンソン(ジョセフ・コットン)。
ニューヨーク市警殺人課14分署のソーン刑事(チャールトン・ヘストン)が調査に乗り出し、殺人事件はチンピラの犯行と見せかけたプロの仕業とにらんだソーンは、サイモンソンのボディーガード、タブ・フィールディング(チャック・コナーズ)が手引きをしたと考え、タブの身辺の調査を始めます。
一方、ソーンの同居人で“本”と呼ばれる老人ソル(エドワード・G・ロビンソン)は、サイモンソンがソイレント社の委員会の重要人物であることを突き止めます。
ソイレント社の大きな暗い謎が次第に判明するにつれ、希少価値のプランクトンから作る“ソイレント・グリーン”は配給が滞るようになり、市民の間では怒りと暴動が広がり、混乱の中でソーンは何者かに命を狙われるようになります。
ハリウッドが得意とする近未来映画ですが、高度に発達したテクノロジーや、きらびやかな未来都市といったようなSF感あふれる世界ではなく、70年代から見た50年後はこうなのか、と思われる人口増加と環境汚染による食料問題と居住空間の悪化、そうした日常性が皮膚感覚に訴えるかのような暑く澱(よど)んだ空気感として伝わってきます。。
ベースとなったのはハリイ・ハリスンの小説「人間がいっぱい」。
急速な人口増加による食料不足や住宅の不足といった混乱の中で起きる殺人事件を、1999年のニューヨークを舞台に描いています。
出版は1966年なので、ほぼ30年後の未来を想定しています。
20世紀初頭に約20億人だった地球の人口は1987年に50億人を超え、国連の人口白書によれば2011年にはすでに70億人を突破しています。
だから世界的な食料不足に直面しているのか、というわけでもありませんし、現在の日本では食べられるのに捨てられている“食品ロス”は年間632万トンにのぼっています。
一方で、世界的には慢性的な栄養不足に苦しむ人々がアジアやアフリカで増加している現実があります。
食料危機の背景には政治的な問題があったり、干ばつや水害などの自然災害によるものがあったりします。
現在の世界では地球の温暖化による台風の大型化を始めとして、広範囲な赤潮の発生による水産資源の悪化、頻発する山火事、森林の砂漠化、熱波、夏の異常高温、河川の枯渇、海面の上昇による陸地の縮小、これらは今日的な問題でもあり、人々の生活と命を脅(おびや)かすものですが、中でも病害虫による作物への被害は深刻な食料危機になると予測されています。
「ソイレント・グリーン」の食料不足の背景のひとつとして環境汚染があります。映画的世界の話ですが、こういう世界になったらどうなるのだろうという、ちょっと怖い結末を迎える映画です。
人口が多いということは就職状況も厳しいわけで、刑事であるソーンは失業の不安を抱えながら、サイモンソン殺人事件を追いかけることになります。
この刑事ソーンは職権を利用しながら、手に入りにくい肉や野菜、サイモンソンの部屋から頂戴したバーボンなどをちゃっかりと持ち帰り、ソルとの食事を楽しむのですが、この場面は特に印象の深いものになっています。
本物の肉や野菜を目にしたときのソルの驚きと感情の高ぶり、バーボンを口にした歓び、すでに遠い過去になってしまった、当たり前の食事をする満ち足りた幸福感がよく表れていて、これは名優エドワード・G・ロビンソンの名演技によるものでしょうけど、失われてしまった人間らしい生活に涙するソルの心情がよく表現されたいいシーンでした。
あまりにも格差の激しくなった社会の中で、電気すら乏しい生活のソーンとソルは自転車を漕いで自家発電に頼るという、未来社会というよりは産業革命の時代に逆戻りしたような生活環境。
やがてソルは“ホーム”に入り、大自然の雄大な映像とベートーヴェンの交響曲第6番「田園」を聴きながら死を迎えるのですが、ソルの死はソイレント社の作る「ソイレント・グリーン」の秘密をソーンに暗示するものであり、その秘密を知ったソーンも凶弾に倒れることになります。
監督は「海底二万哩」(1954年)、「ミクロの決死圏」(1966年)、「ドリトル先生不思議な旅」(1967年)などの名匠リチャード・フライシャー。
チャールトン・ヘストンは「ボウリング・フォー・コロンバイン」(2002年)以降、全米ライフル協会会長として負のイメージがついてしまいましたが、「十戒」(1956年)、「ベン・ハー」(1959年)、「エル・シド」(1961年)などの史劇で見せた、たくましい男性像は、登場するだけでスクリーンに厚みがあります。
エドワード・G・ロビンソンは数多くの映画に出演していて、特に「キー・ラーゴ」(1948年)の貫禄たっぷりのギャングのボスがとても印象的だったのですが、「ソイレント・グリーン」が遺作になってしまいました。