椿荘日記

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けむり男と落ちてきたお月様~3


けむり男と落ちてきたお月様~4


その6


November 6, 2004
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カテゴリ: カテゴリ未分類
今朝新聞に目を通していて、ふと小さいコラムに気が付きました。
それはパリで日常的に頻発する「スリ」に関する記事で、実はマリも一つだけ思い当たることがあるのです。

マリは一時期、夫の仕事でイギリスに滞在していたことがあり、休暇を取ってはヨーロッパ諸国へ、暖と美味を求めて(余り評判の芳しくないイギリス料理ですけれど、ホームメイドのパブ料理や家庭料理に関しては、マリはその限りではないと思っております)旅することが多く、ドーバー海峡を挟んだフランスは、その中でも訪れることの多い、大好きな国のひとつでした。
当時は英仏海峡に地下トンネルが通る直前でしたので、カーフェリーに寄る海路か空路で向かうのが常で、特にパリは、シャルル・ド・ゴール空港からすぐですので、途中の都市に立ち寄る予定のない訪問の際は、必ず航空機を使用しました。

パリはマリに取りまして、ハンドルネームの由来でもあり、椿姫のモデルでもある「マリ・デュプレシ」の所縁の地ですし、「心の恋人(笑)」と未だ呼んで憚らないかのピアノの詩人「ショパン」の活躍とその死を受け止めた地でもありますので、特別に思い入れのある場所です。
件のコラムの通り、パリは掏りの天国で(もちろんパリだけではないのですが)、マリも夫と共に常に用心していたのですが、その時はルーブルで観た素晴らしい美術品の数々にうっとりし、聊かぼうっとしていたのと、実姉に頼まれたお土産物のブランド品の入った紙袋を両手に持っておりまして、如何にもおのぼりさんの体に、持って来いのターゲットになったのでしょうね。夫は未だ幼かった息子を抱いておりましたし、お天気の良いパリの午後の歩道は、観光客でごった返し、前後に人が付くのに不信感を抱かせ辛い状況でした。

夫と話しながら歩いていたマリが、何気なく足元の石畳を見遣りますと、一本の男性と思しき手の影が、マリの斜めがけにしたポシェット型のバッグに伸びていくではありませんか。ぎょっとして何時の間にか後ろに回ってしまったバッグを体の前に引っ張りますと、同時にその手はすうっと消え、咄嗟に振り返りますと、若い男性が何食わぬ顔で、友人(相方?)と、話をしながら道路を渡り遠ざかって行くのが見え、こちらも被害は免れましたので、事を構えることは止めに致しました。
ローマやナポリ、グラナダなど「悪名高い(?)」土地でも被害を逃れている(幾度か危ない目には会いましたけれど)マリと夫ですが、さすがにこの時ばかりは暫く動悸が止まらず、一時でも気の抜けない地であることを改めて思い起こす事件となりました。

マリは八十年代にブラジル音楽好きの夫と、かの地の主要都市であるリオデジャネイロとサルバドールを訪れましたけれど、リオで一度づつ、擦りと引ったくりの被害に合いまして(と申しましても、約三百円分の紙幣と、マリが当時お守り代わりに首から提げていた金メッキの鎖に、木彫りの象でしたけれど)以来、用心深くなったようです。


マリと夫が遭遇した掏りのお兄さん方は、混んだ乗り合いバスの中で、本当にさりげなく夫の背後に近づいて、自然にすうっと夫のズボンのポケットから紙幣を抜いていったようですし、マリが首からペンダントを持ち去られた際は、閑静な大通りを、数人の子供たちが向こうから楽しそうにはしゃぎながら近付いて来て、すれ違いざまに、まるでお友達からボールを奪うようにさっと手で掴むと、引き千切りざま一目散に逃げて行きました。
一瞬のことで、暫く唖然と立ち尽くしてしまいましたが、殆ど金銭的価値の無いもので(それでもお守りとして大切にしておりましたので、大そうがっかり致しましたけれど)、いきなり銃で襲われる昨今の状況から思いますと、牧歌的とも言えなくは無いお話でしょうね。
かのコラムのタイトルは「近づく影にご用心」とありましたけれど、やはり「影」である間は、未だ「余裕」があるのかもしれません。
唯、それが何時、もっと悪質な犯罪に発展しないとも限りませんし、世界的な政情の不安や戦争、不景気が、犯罪の温床となり得る貧困層を作り続ける事実を忘れることは出来ませんけれど、のんびりとした日本人観光客の描写で終わったその文章は、まだまだ薄い日本人の危機意識を窺わせられるようで、暫し考えさせられてしまいました。

以前より治安が悪くなったと感じられる日本ですけれど、女性が夜道を辿るのは日常的な光景で、大邸宅でも入り口にガードマンが居ることは稀ですし、極端な例ながら、一般家庭の塀にガラスが埋められ、有刺鉄線が張り巡らされるなど珍しいという今の国内の状況を考えますと、危機意識を持てと言う方が、中々難しいのでしょう。
しかしながら、凶悪犯罪が増えつつあるのは確かですし、やはり少なくとも心の備えは必要でしょうね。
とは言え、楽しい旅行先で緊張で心も体もがちがちでは、嬉しさも半減してしまいますし、注意を怠らず、用心は欠かさずに、且つ旅を心行くまで楽しむ本当の余裕こそ、必要なのかもしれません。





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Last updated  November 6, 2004 04:24:55 PM
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