椿荘日記

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けむり男と落ちてきたお月様~2


けむり男と落ちてきたお月様~3


けむり男と落ちてきたお月様~4


その6


August 24, 2004
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カテゴリ: カテゴリ未分類
今朝は昨日に引き続き、蝉の声も遠くから微かに聞こえるだけで、涼しく静かな、秋を思わせる朝です。


記録的との報道が相次ぐ、異常なまでの暑さの今年の夏でしたけれど、今や観測史上二位となった95年の夏の暑さを知らないマリは(その当時は未だ、夫の赴任先のイギリスにおりましたので)、生まれてこの方初めてと思しき、この夏の暑さには本当にすっかり参ってしまいました。
日記を再開し、また、ささやかで取り留めない日常や身辺のことをお知らせすることが出来る様になりましたけれど、以前の日記で何度も触れましたように、夏の暑さが大の苦手のマリですので、この夏はさしたる活動やイベントも設けず、西湖でのキャンプ以外は相変わらずの、自宅と先生のご自宅兼アトリエの往復に終始致しておりました。
暑さのために食欲が落ちるのは毎年のこととしても、今年何より驚き参ってってしまったのは、しばしば「熱中症」になってしまったことなのです。

七月中の、すでに真夏の暑さを迎えたある日、季節衣料の最後の入れ替えの為、納戸となっている屋根裏に上がり、ほんの十数分ほどその場で作業していたマリなのですが、脂汗のようなものをじっとりと全身に掻き、軽い眩暈と気持ち悪さに襲われまして、慌てて階下におり、シャワーで体温を下げ給水致しまして、これで手当ては万全と思い、暫しの休憩の後に、いつも通り茅ヶ崎にある先生のアトリエへと出かけたのでした。
この日はお稽古と作業の後にマリのお友達のお店である「女王様のカフェ(勿論仇名です)」に立ち寄るつもりでしたので、何時もの車ではなく鉄道を使っての外出で、最寄の駅まで散歩を兼ねて徒歩で参りました。
目が痛くなるほどの濃い青空と強い光を、サングラスと日傘で避けながら、駅へと続く道を辿ります。七月とは思えない程の気温と、耳には眩暈を起こしそうなくらいの蝉の声が鳴り響き、不快感は頂点に達しましたけれど、汗を額に浮かべながら(どんな暑さでも、体質の故かマリは流れるような汗を掻くことが出来ないのでした)、やっと駅に到着、おもむろに遣って来た列車に乗り込んで、冷房の涼しさにほっとしたのも束の間、十数分後にはまた蒸し風呂のような駅のホームに再び投げ出され、途方に暮れてしまいそうになりました。
以前でしたら、真冬の寒さと真夏の暑さとどちらが許容出来るかとの質問をもし受けたとしたら、迷わず後者を取っていたマリですが、流石にこの夏の暑さには、迷わず前者を選びたくなるほどで(そう、情けないことに寒さにも滅法弱いのです)、先生のアトリエに辿り着いた時は大分ぐったりとしていたのですが、その際もやはり発汗はうっすらでしかなく、熱を体内に溜めた状態であっただろうと思われます。アトリエは冷房がありますし、海に近く周囲には緑が多いので、何時もは比較的涼しく過ごし易いのですけれど、今年の異常な暑さに涼しいはずのアトリエは、冷房を入れても利きが弱く、不覚にも作業中に筆を持ったまま居眠りをしてしまう程で、そんなマリの様子に先生も心配顔で、辛ければ休んでいいよとのお声が掛かることもしばしばでした。


ふらつき、力の入らない体を先生に支えて頂き、申し訳ないことに自宅まで送って頂いて、漸く居間のソファに崩れるように横になりますと、沈み込むように気が遠くなって行きました。その晩、夫の帰宅は未だで、マリの頭上では、慌てて階上から降りてきた、中学三年生の息子の心配そうな声と、その息子に指示を出す先生のお声が混じり、直ぐに額と脇にひんやりとした感覚が走ります。熱の篭った体は熱く、相変わらずぐったりとしておりましたが、口元に運ばれた水を少しずつ飲みますと、少し意識が戻ってきたようで、「○○君(息子の名前です)、お母さんは熱中症だから、・・・」と手当ての方法を教示する先生のお声を、近くに、また遠くに朦朧と聞いておりましたけれど、一生懸命給水させようとする息子の手と、見守る先生の視線に安堵感を覚えながら眠りに落ちていったようです。ふと気がつきますと、夜は大分更け、先生も既にお帰りになって、心配そうな息子が未だマリに付き添っておりました。「お母さん、このまま眠るといいよ。僕がお父さんに言っておいてあげるから」との言葉にその晩はそのまま休むこととなりました。

そんなことがあって以来、度を越す暑い日には気をつけていたのですが、つい無理をして徒歩で外出したり、炎天下での庭仕事の後は決まって具合が悪くなり、その度に息子に介抱されまして、自分自身の体質と「年齢」も思いましたけれど、例年ではここまでのことはありませんでしたので、やはり尋常な暑さではないのでしょう。報道でお年寄りを中心とした、熱中症で入院したり、最悪の場合死亡したりの気の毒な方々のなどの話を聞く度に、決して人事とは思えず、息子も何時も心配そうで、夏休みに入り、お昼からの夏期講習の時間まで一緒に過ごしておりますと、忙しそうに立ち働くマリを気遣っては「少し休んだら?」と、つい動きすぎてしまいがちなのを制してくれ、また助けてくれるのです。

高校受験を控え、忙しく、落ち着かない日々でしょうに、あまり丈夫でない、母親であるマリのことを何時も心配してくれる、息子の思いやりは本当に有り難く、ある時などやはり暑さにやられてへたり込んでしまった晩に、ずっと付きっきりで、額に載せた紙に包んだ保冷剤が、融けるたびに取替え、定期的に水を飲ませるなど、長い時間本当に甲斐甲斐しく面倒を看てくれまして、涙が出るほど嬉しく思いました。親馬鹿のようでお恥ずかしいのですけれど、心根の優しい、望外の良い息子で、マリの先生も何時も褒めて下さいます。
それにしても、まだ十四歳だというのにこれ程まで世話焼きが上手くなるのは、本当のところどうなのでしょうね。きっと将来、「良き夫」となることでしょうけれど、マリの様につい甘えてしまうことが常になってしまうのは、互いに取りまして若い内には余りいいことではないのかもしれません。いずれにせよ、これからも年を重ねて行くマリには有り難い存在ですし、マリだけでなく高齢の婚家の義父母にも優しい、良き孫ですので感謝しておりますけれど。

予報では残暑が長いようですし、以降も続けて気を付けるつもりですけれど、先ほどまで隠れていた太陽が、またもや強い日差しを投げかけはじめ、何時の間にか始まった蝉の混声合唱を聞きながら、溜め息を禁じえないマリでした。







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Last updated  August 24, 2004 09:28:01 AM
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