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146 『石 と人間の歴史』 蟹澤聡史 中公新書 257頁 ¥820 2010.11.25 初版第1刷発行 [目次] まえがき 序 石とは何だろう 第1章古い大陸とその周辺の石 第2章テチス海の石 第3章アジアの古い大陸とテチス海の石 第4章新しい活動帯の石 第5章天から降ってきた石と地の底から昇ってきた石 あとがき 引用・参考文献 [内容] 世界各国、古今東西の建築物、遺跡、彫刻などがどのような岩石で造られている かが記されている (下記参照) のに 興味を覚えて買いました。 [感想] この本を読んで、石は身近なものなのに、動物や植物にくらべて自分の知識がな いことをつくづく感じさせられました。 [抄録] 〇 地表に近いところの岩石には、火成岩が圧倒的に多 い。火成岩とは地球内 部で生まれたマグマが上昇して固まったものである。火成岩には、火山岩と深成 岩とがある。火山岩とは、マグマが地表 に噴出してできたもので、深成岩とは マグマの上昇が地中で止まり、そこで固まったものである。(5-6頁) 〇 ギリシャのパルテノン神殿、デルポイの神殿 ――― 石灰岩 ミケランジェロの彫刻ダビデ像 ―― ビアンコ・ カッラーラの大理石 ローマのコロッセオ、日本の新国立劇場の床 ――― トラバーチン ピサの斜塔とドゥオーモ ――― 大理石 スペインのセゴビアの水道橋 ――― 花崗岩 ハンガリーのマーチューシャ教会 ―― 多孔質石 灰岩とトラバーチン チェコのカレル橋 ――― ボヘミア 砂岩 英国ウエストミンスター大聖堂 ――― 旧赤色砂 岩 英国シュルーズベリー城 ――― 新赤色砂 岩 オスロの彫刻公園 ――― ボー ヒュース花崗岩 クフ王ピラミッド ―― モカタム層石灰岩 (ただし玄室天井の梁は 花崗岩) スフィンクス ―― マーディ層の石灰岩、泥灰岩質岩、砂岩の互層 カンボジアのアンコール遺跡 ――― 細粒砂 岩、ラテライト 秀吉の大阪城の石垣 ――― 花崗岩 姫路城の石垣 ――― 白亜紀の流紋岩質溶結凝灰岩 **************************************************** ランダム読書日記 by 道は るか MICHI Haluka (2015.4.28. No.146)
2015.04.28
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145 『戦 後史の正体1945-2012』 孫崎亨 創元社 186頁¥1500 2012.8.10 初版第1刷発行 [目次] 序章 なぜ「高校生でも読める」戦後史の本を書くの か 第1章「終戦」から占領へ 第2章冷戦の始まり 第3章講和条約と日米安保条約 第4章保守合同と安保改定 第5章自民党と経済成長の時代 第6章冷戦終結と米国の変容 第7章9・11とイラク戦争後の世界 あとがき 資料 年表 INDEX [内容] ここで扱われているのは、戦後史といっても、「日本の政治の戦後史」です。日 本の戦後史は余りに米国追随型であった、 というのが本書の主張のようです。 そして最後に歴代首相を、自主派、対米追随派、一部抵抗派に分類しています。 自主派には、重光葵、石橋 湛山、芦田均、岸信介、鳩山一郎、佐藤栄作、田中 角栄、福田赳夫、宮沢喜一、細川護熙、鳩山由紀夫が、対米追随派には、吉田 茂、池田勇 人、三木武夫、中曽根康弘、小泉純一郎、小渕恵三などが入れられ ています。 [感想] 歴史というのは、同じ事象でも見方によって色合いが大きく異なって見えるもの です。私には、この本では、戦後史の見方 が対米という軸に集中しすぎている ように思われます。ソ連や中国の動きとそれらの脅威を軽くみすぎです。ここに この本を紹介するからと いって、この本の内容を勧めるわけではありません。 ただ、戦後史の流れから少しでも「事実fact」をくみ取り理解するには、いろい ろな見方の本を読 み、できるかぎり詳しく把握することが大切と思います。 [抄録] 〇1951年のサンフランシスコ講和条約では、48か国の代表が条約に調印した。ソ 連は会議に出席したが調印を拒んだ。中国(中華民国)は招待されず、インドは 参加を拒 否した。会議の初日、米国トルーマン大統領は「われわれのあいだに 勝者もなく、敗者もなく、ただ平和に協力する対等な者だけがある」とい う言 葉で演説を締めくくった。セイロン代表は「憎悪は憎悪によって消えるのではな く、愛によって消える」とのべた。しかし、1947年に最初の対日講和条約案で は、「日本軍国主義の復活 はアジア最大の脅威であり、これを防止するため に、日本は無期限に連合国の統制のもとにとどまらねばならない」とされてい た。(121頁) **************************************************** ランダム読書日記 by 道は るか MICHI Haluka (2015.3.29. No.145)
2015.03.31
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144 『図 説 本の歴史』 樺山紘一編 宗村泉・緒方宏大・中西保仁 共著 河出書房新社 126頁¥1800 2011.7.30 初版第1刷発行 [目次] 第1章書物という仕組みは 第2章本が揺り籠から出る 第3章書物にみなぎる活気 第4章本の熟成した味わい 第5章書物はどこへゆくか [内容] 2頁を1単位として「本の歴史」に関する55テーマを 扱っています。文字、 活字と印刷、書物、読者など、本に関連する歴史的話題が展開されています。編 者は印刷博物館館長で、著者らも同館職 員です。ちなみに印刷博物館は、凸版 印刷株式会社により東京都文京区水道1丁目の「トッパン小石川ビル」に2000年 に設立されました。 [感想] この本の魅力は、簡潔な内容の文章の中に掲げられている美し く鮮明な写真の 数々です。本好きの人ならこれらの写真を眺めているだけで楽しい気分になるこ と請け合い。本が提示するものは、単に情報だ けではありません。装丁や紙や 活字体を含めた全体です。読書ののちには、読んだ本の手触りや匂いまでもが記 憶に残ります。 [抄録] ○ドイツ人グーテンベルクが開発した15世紀の活字書体は、当時の西ヨーロッパ で書かれた典礼書体を模したものである。ペン先を斜めに削った特 殊なペンに よって書かれたごつごつした書体で「ゴシック体」とよばれた。活版印刷がイタ リアに伝わると、古代ローマのトラヤヌス帝碑文を 手本とした優雅な曲線で構 成された活字「ローマン体」が造られた。さらに16世紀にアルドゥス・マヌティ ウスという印刷人が、文字 を斜めに傾けた「イタリック体」を開発した。18世 紀になると、タテ線とヨコ線が同じ太さの「サンセリ フ体」が英国で生まれ た。(20-21頁) ○紀元前213年に秦 の始皇帝は、秦朝が定めた新しい郡県制に異を唱える書籍を 焼却させ、著者を死罪にした。世に言う「焚書坑儒」である。中国では、王朝が 交 替するたびに焚書がくりかえされたので、古代典籍の多くが失われた。欧州 では、ルネサンス期のフィレンツェで、修道士サヴォナローラによ り信仰を冒 涜するものとして芸術作品や著作物の焼却が行われた。さらにドイツでは、ナチ スの第三帝国支配下において、政権に批判的な哲学 書や文学書が焼却された。 (52-53頁) ○日本での最初のベストセラーは、幕末から明治初めにかけて出版された福沢諭 吉の『西洋事情』(全10冊)である。発行部数は15万部であった。つぎのベスト セラーは、中村正直が1871年に出した翻訳本『西国立志編』で、100万部を超え た。(112頁) **************************************************** ランダム読書日記 by 道は るか MICHI Haluka (2015.3.23. No.144)
2015.03.23
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143 『修 道院へようこそ』 心のやすらぎを手にするための11章 Peter Seewald編 Simone Kosog著(島 田道子訳) 創元社 191頁¥1400 2010.5.10 初版第1刷発行 [目次] はじめに 第1章修道院へようこそ 第2章「修道院の安息」に関する短い考察 第3章一日のリズムについて―正しいリズムを見つける方法 第4章沈黙について―安らぎを得るための最初のステップ 第5章静寂について―安らぎを得るために、なぜ静かな決まった場所が必要なのか 第6章聞くことについて―なぜ、正しい「検挙」と「従順」が必要なのか 第7章補備の暮らしについて―安らぎを日常にとり入れる方法 第8章祈りについて―安らぎに近づくもっとも重要な方法 第9章黙想について―魂の深みへ降りていく方法 第10章自分自身について―自分自身と、また他人と、いままでよりも仲よく暮ら すための方法 第11章人生のリズムについて―自分の人生と、うまく折り合うための方法 資料編 代表的なドイツの修道院と日本の修道院 [内容] この本は、12世紀に建立されたドイツ最古のシトー会女子修道院であ るオー バーシェーネンフェルト女子大修道院を、35歳の女性編集者が体験訪問した経験 にもとづいて書かれた本です。 [感想] 昨年の夏、修道院の生活を扱ったドキュメンタリー映 画「大いなる沈黙へ」 を東京日比谷の映画館まででかけて観てきました。それはアルプスの麓にあるフ ランスの戒律の厳しいグランド・シャル トルーズという男子修道院で行われる 修道士の生活を撮った映画でした。3時間近い長編でしたが、照明や効果音やナ レーションは 一切ありませんでした。申し込みから10年目に撮影許可が与えら れ、カトリック信者のドイツ人 監督がひとりで撮影したものでした。 [抄録] ○修道生活の歴史は、紀元3世紀ごろにエジプトで最初の隠修士(いんしゅうし) たちが、町や村での生活を捨ててナイル河畔の砂漠に 移って庵(いおり)を結 び、祈りと静寂の生活を送ったことに始まる。喧噪と多忙に満ちた俗世を去るこ とが目的であった。(33頁) ○最初の隠修士は聖アントニウス(251頃~356)で あった。彼はエジプトの名門 の出であったが、ある日聖書のマタイ伝19章24節にある「金持ちが神の国に入る よりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい」という聖句に出会って打ちのめ され、直 ちに全財産を寄付し、町外れ、洞窟、砂漠の奥へと居を移し、絶対的 静けさの中で禁欲的生活を送った。彼は日没後に1度だけ食事をした。それもパ ンと塩と水を口にするだけ であった。(35頁) ○修道院とは、ただ人生に疲れた人間が救いを求めて訪れる場所ではない。そこ は天との確かな結びつきを求めて、人びとが 絶えざる努力をつづける戦いの場 でもある。(186頁) **************************************************** ランダム読書日記 by 道はるか MICHI Haluka (2015.3.17. No.143)
2015.03.17
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142 『気 候の文化史』 ヴォルフガナング・ベーリンガー(松岡尚子ほか計6名訳) 丸善プラネット 355頁¥2800 2014.2.10 初版第1刷発行 [目次] 序章 はじめに 第1章気候について 第2章地球温暖化―完新世 第3章地球寒冷化―小氷期 第4章小氷期が文化に及ぼした影響 第5章地球温暖化―現代の温暖期 第6章環境破壊の罪と温室ガス気候―結び あとがき 訳者あとがき 図の解説 参考文献 註 [内容] 「私たちの祖先は氷期に生まれ、苛酷な厳寒期を生き抜き、温暖期に文化を育 んできた。文明の興亡は気 候抜きには語れない。いわば気候が歴史を作ってき たのだ」とカバーに記してあります。著者は、地球寒冷化にくらべれば温暖化の ほうが望ま しい、また排出ガスをたとえゼロにできたとしても地球温暖化は進 むであろうと考えています。そして「時代は変わり、それとともに我らもま た 変わる」というラテン語の格言をこの本の末尾に掲げています。 [感想] この本は、少し難解です。それはここに描かれている 世界史的事件や気候と 関連した社会の変動についての歴史的知識が私に不足しているためでしょう。し かし辛抱強く丹念に読んでいると、少し ずつ理解が広がり、1万年前からの地 球上で起こった歴史と気候の壮大な関連に圧倒されます。気候の悪化は、農作物 の生産を妨げ、飢えを通 して病気の流行をもたらし、時代の絵画や音楽にまで 影響するということが描かれています。なお、こういうテーマが多様な著書の和 訳本に は、日本語索引が不可欠と思われます。 [抄録] ○スイスの作家マックス・フリッシュは「人類は完新世に出現した」と記した。 もっといえば、完新世の地球温暖化こそが、 人類の高度な文明を発達させた。 完新世初期の世界人口はおよそ500万人であった。(56頁) ○ヨーロッパの民間信仰では、異常気象は常に人間の影響によるとされた。とく に凶作、不妊、不自然な病気の発生は、魔女 のせいとされた。14世紀に小氷期 が進むにつれて魔女の犯罪は増加してい き、小氷期の最も過酷な時期であった 1600年前後に魔女狩りもピークを迎えた。(183頁) ○19世紀半ばアイルランドは大飢饉により、貧しい人々は、 飢えに苦しみ、加え て熱病、胃腸病、チフス、壊血病にかかり、住民の25%が死亡した。その原因 は、1. 当時のアイルランド人の栄養源が多様でなく、ジャガイモに偏っていた こと。2. ジャガイモに疫病がはやり、収穫量が1845年から1848年の4年間、平 年にくらべ30から60%も減 収したこと。3. 最初の凶作年には、英国政府が大 量のトウモロコシを 米国から買付けてあったので、飢饉が回避された。しかし 翌年も凶作となり、その蓄えは尽きてしまった。4. 政権が交代して自由貿易政 策がとられ、危機の克服は 市場にゆだねられた結果、食料の供給が崩壊した。 (234頁)5. 追加として、当時のヨーロッパで栽培されていたジャガイモは導 入されたわずか数個のイモから栄養繁殖で増殖された子 孫であり、先祖が疫病 に弱い個体であったため、子孫の全個体が疫病に罹ったことも悲劇の原因となっ た。6. ジャガイモ疫病の病原体のほうは、南米から肥料とし てグアノ(糞化 石)を輸入したことによるのではないかと著者は考えている。 **************************************************** ランダム読書日記 by 道はるか MICHI Haluka (2015.3.12. No.142)
2015.03.12
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141 『チーズと文明』 ポール・キンステッド(和田佐規子訳) 築地書館 343頁¥2800 2013.6.10 初版第1刷発行 [目次] はしがき はじめに 文明史と交差するチーズの歴史 第1章チーズの起源 古代南西アジア 第2章文明のゆりかご チーズと宗教 第3章貿易のゆくえ 青銅器とレンネット 第4章地中海の奇跡 ギリシャ世界のチーズ 第5章ローマ帝国とキリスト教 体系化されるチーズ 第6章荘園と修道院 チーズ多様化の時代 第7章イングランドとオランダの明暗 市場原理とチーズ 第8章伝統製法の消滅 ピューリタンとチーズ工場 第9章新旧両世界のあいだ 原産地名称保護と安全性をめぐって 参考文献 索引 訳者あとがき [内容] 古代南西アジアで誕生したチーズの現代までの歴史がつづられています。この本 は、いろいろな種類のチー ズについて、その歴史上の起源を明かしてくれるの で、チーズに目がない人には興味深いことでしょう。 [感想] ヤギかヒツジの胃で作った水筒に新鮮なミルクを入れ て旅に出た遊牧民が、 旅の途中で休んでミルクを飲もうとして水筒を開けたら、ミルクが固まっていた のが、チーズの最初の発見だという。こ のよく知られた話は、信ぴょう性が薄 いと書いてあります。チーズやバターは新石器時代人がミルクを利用するように なるとすぐに作られた が、少なくともその後千年間(紀元前550年ごろまで)は、 成 人はラクトース(乳糖)に対してアレルギーがあり新鮮なミルクを飲むと激し い下痢をおこすので飲めなかったということです。つまり、ミルクを 飲む習慣 のほうがチーズを食べることよりずっと後のことだというのです。おどろき。 [抄録] ○紀元前7000年まで に古代オリエント文明の中心地「肥沃な三日月地帯」全体に すでに羊とヤギの牧畜が広がってはいたが、このころはまだ動物飼育は肉用で、 ミ ルク用でなかった。羊やヤギの野生種では出産した子どもに与える以上のミ ルクを出すことはほとんどできなかった。(23頁) ○牛乳と違って、羊乳からクリームを分離できないのでバターを造れなかった。 バターはアングロサクソンの時代では贅沢品 で、中世後期、酪農が羊乳から牛 乳に比重を移して初めて、広く手に入るようになったのである。(195頁) ○13世紀にはチーズの生産は羊毛生産と切り離され始めた。 牛はミルク生産、羊 は羊毛生産のためにそれぞれ飼育されるようになった。こうして荘園でのチーズ 製造は羊乳から牛乳へと移った。その結 果、イングランドの羊乳チーズは15世 紀終までにほとんど姿を消した。(201頁) **************************************************** ランダム読書日記 by 道は るか MICHI Haluka (2015.3.1. No.141)
2015.03.01
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140 『カ ブラの冬』 藤原辰史 人文書院 154頁¥1500 2011.1.15 初版第1刷発行 [目次] はじめに 戦争と食糧 第1章大国が飢える条件 第2章食糧危機のなかの民衆と政府 第3章日常生活の崩壊過程―「ブタ殺し」と「カブラの冬」 第4章食糧暴動から革命へ 第5章飢饉からナチズムへ おわりに ドイツの飢饉の歴史的位置 参考文献 あとがき 略年表 [内容] 一般の食物史では平時の時の食の歴史が中心で、戦 時という非常時の食糧難 に触れているものはほとんどありません。この本は、第一次世界大戦中のドイツ で76万人の餓死者を出した飢饉のことを書いたものです。 (餓死者数は第二次 大戦中の連合軍によるドイツ諸都市への空襲での死者数60万人よりも多い)書名 の『カブラの冬』のカブラは、ル タバガ(別名スウェーデンカブ)のことで す。カブラを主食としなければならないほどの飢饉でした。 この本では、多数の餓死者が出た時代の人々の悲惨な情況が詳しく描かれてい ます。 ○エンバク藁の粉が50%入ったビスケット、10%のジャガイモを含む戦時パン、 豚肉に乾し鱈の実を入れた代用肉が工夫された。(日本でもダイコン、ニンジ ン、サツマ イモ茎などを米飯にまぜて増量したことがありました) ○1916年にはパンの配給が少なくなり都市下層の人々の主食は ルタバガになっ た。ルタバガをスープ、スフレ、だんご、カツレツと手を変え品を変えて調理す るようさまざまなレシピが人々に勧められた が、ルタバガは所詮ルタバガだっ た。(ルタバガは英国ではスウィードといわれます。アブラナ科ですが、日本の カブとは異なる野菜です。私 も英国で何回か煮て食べたことがありますが、日 本のカブとは大違いで、硬くてまずい) ○ 腹を空かせた子供たちは、パンやパン切符を盗んだ。盗みを犯した少年少女 たちには牢獄での懲役刑が 待っていた。これは緩慢な死刑に等しかった。弱っ ていた身体はさらに弱った。(私も、1945年3月10日未明 に東京大空襲で焼け出 されたときの夜に配給された一人1個のおにぎり、1週間後に疎開先へ行くために 待っていた駅のプラットホームで、見知らぬ人から譲って頂いた1袋のポップ コーンが忘れられません。) [感想] 戦時、脂肪不足に対処するためドイツ政府は学校の生徒にサクランボの種子を集 めさせた。また食糧不足を補うため畑の害 虫、ブナの実、キノコ、野イチゴを 集めさせ、豚の餌用にコガネムシを採集させた、と書いてあります。 (日本でも第二次大戦中、疎開先の田舎の小学校で、一人あたり60キログラムの 野草を集めて乾燥させて学校にもってくるよう言われた記憶があります。あれは 何の役に立ったのだろうと今 でも不思議です。) [頁のか けら] ○ 「50キログラムの豚肉の生産のためには90キログラムのジャガイモか25キロ グラムの大麦を必要とするのに対し、これらは人間の食料としては1キログラム の豚肉よりも遥かに多くの栄養を供給し得 る」という「単純な計算」。(中 略)学者たちは、もし、このままジャガイモが豚にまわされるのであれば、1915 年7月末で、ジャガイモの在庫が尽きてしまう、という計算をはじき出した。 1200万頭の豚の殺戮が必要であるとされたのである。(74頁) ○ 3週間に卵1個と か、1週間に5ポンド(約180グラ ム)のジャガイモしか当た らないとか、牛乳が全くなく、台所に香辛料さえないとか、リンデンの花を紅茶 がわりにし、タンポポの根や炒った ドングリをコーヒーに用いなければなら ず、しかも牛乳も砂糖もなく、わずかに少しばかりのサッカリンがあるだけとい うようなこととかを、 肌で体験したことがない人が表現することは絶対に不可 能である。(79頁) ○ 「カブラの冬」の最大の犠牲者が女性と子どもで あったことは、ドイツ民衆 の憎悪をかき立てた。しかし、それはケインズが恐れたように敵国へと向かうだ けでなく、内にも向けられた。つま り、ドイツ帝国政府とユダヤ人である。前 者は革命へ、後者はナチズムへと接続している。(92頁) **************************************************** ランダム読書日記 by 道は るか MICHI Haluka (2015.2.25. No.140)
2015.02.16
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139 『盗 作の文学史』 栗原裕一郎 新曜社 492頁¥3800 2008.6.30 初版第1刷発行 [目次] 序章 盗作前史-偽版・代作・著作権 第1章メディアの事件としての盗作疑惑 第2章新人賞と盗作事件 第3章オリジナルという“データ” 第4章素材と創作のあいだ 第5章作品の自立と模倣の可能性 第6章異メディア間における盗作疑惑 第7章インターネットという新しい告発装置 第8章その他の事件 あとがき 盗作事件年表 [内容] 日本推理作家協会賞受賞作品です。「文学における盗作事件のデータをここま で揃えた書物は過去に例が なく」と、著者が述べています。正にそのとおり。 江戸時代の仮名垣魯文から2008年の泉鏡花賞受賞作家の事件まで、数えきれない くらい 多くの盗作事件を丹念にまとめあげた労作です。「盗作されたといわれ る作品」と「盗作疑惑をもたれた作品」の文章を併記してあるので、読 者が自 分で比較して盗作かどうかある程度判断できるのがよい。 [感想] それぞれの盗作事件は状況がさまざまで、それらを全 体的に俯瞰して、どこ からが盗作で、どこまでは問題のない利用ないし引用といえるのかという線引き は難しいと思われました。 同時に、文学の世界において真にオリジナルな作品を 生むということがいか に難事かという感想をもちました。 オリジナルな作品は、オリジナルな人生からしか生まれないのかも。 [頁のか けら] ○ たとえば、「国境の長いトンネルを抜けると雪国で あった」とは、川端康成 の小説『雪国』の有名な冒頭であるが、この一文自体は、国境のトンネルを出た ならば雪国であったという状態(=ア イディア)を文章にすることが決まって いるのであればだれでも思いつく文章の一つであるから創作性はなく、この程度 の長さの文章に著作物 性を認めると、幾人目か以降はこのアイディアを表現す ることができなくなるということを勘案しなければならない。(田村善之『著作 権法概 説』)(15頁) ○ 有吉佐和子『複合汚染』は朝日新聞に連載された作 品だが、連載中の1975年 5月、科学啓蒙書からの「無断引用」が問題になった。(中略)この事件にはい くつかの報道が出たが、『複合汚染』の連載 媒体である朝日新聞は報じなかっ た。先に見た堀田善衛『19階日本横丁』も朝日新聞で連載された小説であった が、 こちらについても同紙は報道しなかった。いずれも同紙が率先してスクー プした山崎豊子か『不毛地帯』事件とほとんど同じ性質の事件である のに、自 紙に連載された作品には目をつむるというのではダブル・スタンダードではない かという批判が出た。(440頁) **************************************************** ランダム読書日記 by (改 名)道はるか MICHI Haluka (2015.2.1. No.139)
2015.02.01
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138「疎開 した四〇万冊の図書」金高謙二 幻戯書房 277頁¥2400 2013.8.15 初版第1刷発行 [目次] 第1章文化か人か 第2章時代を映す鏡 第3章国策としての図書疎開 第4章中田邦造の読書会運動 第5章疎開の困難と障害 第6章わずかな時間差 第7章躊躇による失敗 第8章事業の打ち切り あとがき [内容] この本の内容は、冒頭(12頁)に書かれたつぎの文章に要約されています。 「昭和19年から20年にか けて、旧都立日比谷図書館の蔵書およそ40万冊が戦禍 を逃れるため疎開した。史上空前の大移動。1年におよぶ疎開は過酷を極め、図 書館員をはじめ都立一 中(現都立日比谷高校)や高輪商業(現高輪高校)の学 生たちが、大八車を押し、あるいはリュックを背負って、約50キロ離れた奥多摩 の多西村(現あきる野市)や埼玉県志 紀町(現志木市)などに何度も足を運ん だ。その後、昭和20年5月25日、ア メリカ軍が投下したおびただしい焼夷弾で日 比谷図書館は全焼する。」 [感想] 戦争は、人命を奪い、家屋を破壊するだけでなく、民 族の文化や遺産をも破 壊します。 書籍の他にも、第二次大戦下のパリで、ルーブル美術館の美術品を略奪しドイツ へ運ぼうとするナチの目から逃れて極秘に 列車で急きょ避難させた話(映画 「大列車作戦」)や、旧ソ連の農業試験場で世界から収集した貴重な作物の遺伝 資源をドイツ軍に奪われない よう研究員たちがトラックで作物を売りに行く農 夫に変装して運んで隠した、という話が伝えられています。 40万冊の本の疎開に、著名な古本商の反町茂雄氏が貢献さ れていたことをはじ めて知りました。 戦争で失われるのは、個人の記録も同じです。私には、中学生より前の家族写真 が一枚もありません。戦災前の旧宅や祖 父・祖母の顔を思い出すすべもありま せん。 [頁のか けら] ○Veritas liberat (真理は われらを自由にする) 「汝等は、汝等に与えられた自由にあたいするや」 ○東京市立日比谷図書館は、坪内善四郎が寄贈した『江戸名著図会』外55種87 冊、 (英国の)ゴルドン夫人が寄贈した日英文庫10万3698冊、そして、新たに 購入した2万数千冊を合わせて、明治41年11月16日に開 館した。 〇 日本点字図書館の創設者本間一夫が、昭和19年に2300冊の点字図書を茨城へ 疎開、翌年には3000冊に増えた点字図書を携え、さらに北海道増毛の実家へ疎開 した。(あとがきより) **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2015.1.29. No.138)
2015.01.29
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137 「病 が語る日本史」酒井シヅ 講談社 332頁¥1050 2008.8.7 初版第1刷発行 [目次] 第1部病の記録 1.骨や遺 物が語る病 2.古代人 の病 3.疫病と 天皇 4.光明皇 后と施療 5.糖尿病 と藤原一族 6.怨霊と 物の怪 7.マラリ ア(おこり)の蔓延 8.寄生虫 との長いつきあい 第2部時代を映す病 1.ガンと 天下統一 2.江戸時 代に多い眼病 3.万病の もと風邪 4.不当に 差別されたらい・ハンセン病 5.脚気論 争 6.コレラ の恐怖 7.天然痘 と種痘 8.梅毒の 経路は? 9.最初の 職業病 10.長い歴史をもつ赤痢 11.かつては「命定め」の麻疹 第3部変わる病気像 1.明治時 代のガン患者 2.死病と して恐れられた結核 3.ネズミ 買い上げーペスト流行 4.事件簿 とエピソード 5.消えた 病気 6.新しく 現れた病気 7.平均寿 命と死生観 あとがき 参考文献 [内容] この本は、「病気の文化史」ともいえる本です。縄 文・彌生時代から記紀の 時代、奈良・平安・鎌倉・室町・江戸時代、さらに明治以降と日本史の流れを丁 寧に追って、時代時代の病の発生をた くさんの具体例をあげて説いています。 道長の糖尿病、藤原定家のおこり(マラリア)、一条天皇や九条頼経の赤痢、西 郷隆盛のフィラリア 症、武田信玄や徳川家康の胃ガン、鑑真の眼病、徳川家光 や家茂の脚気、岩倉具視や中江兆民の食道ガンなど、歴史上の人物が命を取られ た病 を同定しているのが興味深い。 [感想] クスリと予防注射を受け付けない身体なので、病気の 本はメッタに読まない のですが、日本史と病の相関が面白くて、本屋で立ち読みしたあと、すぐに買っ て帰りました。エピソード満載です。 [頁のかけら] ○ 縄文人の骨から発育不全の人骨が見つかることがあ る。宇都宮大谷地洞窟か ら四歳くらいの幼児のほかに、女性の成人二体と生後数カ月の乳児が一体、合計 五体が発掘された。(中略) 小児の下肢は左右で発育が違っていた。小方氏は、 この子は脊髄性小児麻痺(ポリオ)であったと診断している。(中略)ポリオの骨 が一家族の中にあったということは、縄文社会で身体障害児が親の保護のもとで 生活していたことを物語る。彼 らの生活は身障者を養う余裕があったといえる。 〇 痘瘡(とうそう)の原発地や、いつから始まった か、その時期はわからな い。しかし、二千年前のインドの仏典に痘瘡の記事がある。また紀元前1157年に 死んだエジプトのミイラの顔に痘瘡が残る。 〇 (岩倉具視公)の病勢 は急速に悪化して、まもなく食べ物がまったく食道を 通らなくなり、ほとんど飢餓の状態になり、からだはやせ衰えるままにおかれて いた。(中略)それから数週間後、いよいよ最後の時が近づいてきた。ベルツが岩 倉公にそれを告げると、井上参議を呼び寄せるように命 じた。岩倉公は参議 に、声がかれているから、そば近くにひざまずくように促した。ベルツは反対側 の数歩離れたところにすわり、いつでも注 射ができる用意をしていた。終始、 寸刻を死と戦いながら、岩倉公は信ずる者の耳に遺言を一言、一言、ささやきつ つ、あえぎながら伝えて、 まもなく息絶えた。 **************************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2015.1.27. No.137) *********************************************************
2015.01.27
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136 「が ん治療で殺されない七つの秘訣」 近藤誠 文芸春秋 241頁¥780 2013.4.20 初版第1刷発行 [目次] 第1章中村勘三郎さんのがん治療への疑問 1.全摘出 は妥当だったのか 2.肺炎は なぜ起こったのか 3.放射線 のほうがベター 4.ARDSの原因は誤嚥 第2章 まずはがんを理解すべし 1がんは 放っておいても痛まない 2がんを 手術したらどうなる? 3抗がん 剤治療を受けたらどうなる 4ニセモ ノのがん「がんもどき」 5発酵と 不浄 第3章 がんをどうすべきか? 1検診 2放置療 法 3放射線 治療 4手術 5抗がん 剤 6代替療 法 7終末期 医療 第4章 「専心医療」はカネの無駄 1粒子線 両方のまやかし 2免疫療 法は詐欺商法 第5章 がん治療で殺されない七つの秘訣 あとがき [内容] 無理矢理がんを見つけて手術や抗がん剤治療を行い、患者の寿命を縮めている日 本のがん治療。「早期発見・早期治療が鉄 則」はすべて誤り。「無治療が最高 の延命策」「検査を受けないのが最良の健康法」などの目からウロコの秘訣を伝 授する、と帯にあります。 著者によれば、 1. がんは初期であっても、転移があるもの(本物のがん)と 転移がないもの (がんもどき)に分かれる。 2. がんにも幹細胞がある。「がん幹細胞」に転移する能力があった場合にの み転移が生じ、がん幹細胞に転移能力がなけれ ば、転移は生じない。 3. 臓器転移があれば、一部例外を除き、治ることはない。逆に言えば、臓器 転移がなければ治る可能性が高い。 4. 要するに、がんが治るか治らないかは、がん幹細胞が誕生したときにほぼ 決まっている。 これが真実であるとすれば、がんへの対処は、つぎのようになります。 1.「早期 発見」の努力は無意味。「本物のがん」ならば発見する前にすでに転 移している。「がんもどき」なら放っておいてよい。 2.手術は 不要。がんは切除しても治らない。メスを入れた場所に再発すること がある。がんに関係なく、手術は痛みを生じさせ、また臓器を傷つけた摘 出す ることによる悪影響で死ぬ「術死」も多い。 3.抗がん 剤にはがんを治す力がないうえ、さまざまな種類の強い毒性がある。 (ただし、急性白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍、睾丸腫瘍、子宮絨毛が ん、 などは抗がん剤で治る可能性がある。) 4.手術や 抗がん剤投与より、放射線照射がよい。ただし重粒子線や陽子線など 高価な治療を選ぶ必要はない。 5.症状が 出てなければ、無治療が一番よい。生活の質を低下させることはない し、寿命も縮まない。 [感想] がん治療というと、手術か抗がん剤がすぐ思い浮かぶ 時代にあって、この本 では思い切った意見が書かれています。巷でも、手術や抗がん剤投与で「がんは 小さくなったが、病人は死んだ」とよく 言われています。生来極端な胃弱で体 も頑健でない小生には、初めから手術や抗がん剤治療の選択岐はありませんが。 [頁のか けら] ○ 転移があっても、苦痛等の症状がなければ、治療し ないで様子を見るのが一 番確実に寿命を延ばします。転移が増大し、症状が出てきたら、身体がラクにな るような治療を受けましょう。健康な のに検査で発見されたがんは、放置を原 則とすべきです。治療を受けても、より健康になることはなく、治療死したり、 寿命を縮める可能性が 高いからです。 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2015.1.22. No.136)
2015.01.20
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135「聖書 の大地」Roberta L. Harris (大坪孝子訳)東京書籍 325頁 ¥4800 2003.8.14 初版第1刷り発行 [目次] 第1章 聖書の周辺 第2章 初めに 第3章 旧約聖書の世界 第4章 広がる地平 第5章 イエスの時代 第6章 波瀾の歳月 訳者あとがき [内容] 聖書の世界が生まれた地域での波瀾の歴史が、考古学および碑文学の成果にもと ずいて描かれています。 そこはユダヤ教とキリスト教の発祥地であり、イスラム教の初期の拠点でした。 最古の文明が生まれた「肥沃な三日月地帯」のウル、マリなど の古代都市には じまり、エジプト、そしてイスラエル民族が定住したカナンの地にいたり、旧約 聖書のサムソン、ダビデ、ソロモン、ヘロデな ど聖書に現れる人物について語 り、イエス・キリストの誕生とキリスト教の発祥、ローマ帝国によるユダヤの滅 亡、さらにイスラム教の勃興、 十字軍の遠征までが描いています。 著者は、考古学と聖書時代の歴史の研究を専門と し、英国=イスラエル考古 学協会の名誉幹事を務めています。 [感想] 写真や図も豊富で、親しみやすい本といえます。 [言葉の かけら] (本文から要約したもの) 〇 *ヘロデ大王* 新約聖書では、ヘロデは誕生したばかりのイエス・キリストを殺そうと計った悪 の大王として有名であるが、政治家としてはローマ皇帝の忠実 な部下として、 働いた。 ローマ皇帝アウグストゥスにならい、首都エルサレムを豪華絢爛たる町に造り変 える。ヘロデの治世により、城塞や宮殿、導水路、競技場、円 形闘技場、劇場 などが拡張および新設された。代表的な建築物として、マサダやエリコの建造 物、カエサリアの港、ユダの荒野のヘロディオン(宮殿兼要塞)がある。歴史家ヨ セ フスは、彼の建てた神殿を世界屈指の建造物と呼んだ。 主イエスは、ヘロデが死去した前4年に生誕されたとする説が有力である。 (213頁) 〇*ガリラヤ湖の船* 1985年と86年にガリ ラヤ湖は激しい旱魃に見舞われて干上がった。湖底を探索 していた二人の兄弟によって船の輪郭らしいものが泥の中にめりこんでいるのが 発見 された。 船の木材は、2000年の間泥土につかっていたため柔らかなスポンジ状のチーズの ようで、乾けば粉々に砕けそうであった。保存と調査のため、先進技術を駆使し て、船は避難所にゆっくりゆっくりと曳航された。船の木材の 放射性炭素測定 から前120年から紀元40年 頃までの間の製造と推定された。 イエス・キリストの弟子シモン・ペトロとその兄弟がガリラヤ湖で漁をしていた ころの船であることは間違いない。(232頁) 〇 *使徒パウロ* ファリサイ派のユダヤ人で、現在のトルコ南部にあたるタルソスで生まれた。タ ルソスの住民はローマの市民権を認められていた。 2世紀の資料によれば、パウロは両眉がくっつき、鼻が大きく、頭は禿げあがっ てい た。脚はがにまた、小柄でがっしりとした身体つきをしていた。 神の恵みにみちた彼は、ときに人間らしく、ときに天使のような顔をみせた。伝 承によれば、パウロは紀元67年にローマで処刑された。(240頁) 〇 *ユダヤの滅亡* 第一次反乱は紀元66年に起きた。紀元70年、 ローマ軍の攻略によりエルサレム が陥落した。ローマ軍による大規模な殺戮、強姦、略奪がおこなわれた。ローマ 軍の最初の駐屯地マサダを攻 略した熱心党(ゼロタイ)は最後まで抵抗しつづ けた。 ユダヤ総督に就任したフラウィウス・シルヴァは、紀元73年春にこの岩山の砦 を 包囲した。周囲に壁を築き逃げ道を絶ち、高さ80mの攻撃用傾斜路を造っ た。傾斜 路の上に攻略塔を建て、投石器と破城槌を引き上げ、猛攻した。 軍 団が城壁を破った翌朝、砦に入ると、中は静まりかえっていた。女性二人 と子 ども数人を除き、すべての人が集団自決をしていた。 第二次反乱は紀元132~135年に起きた。指導者 はバル・コホバであった。時の 皇帝ハドリアヌスが割礼を禁止したことが原因ともいう。この戦争で50万 人の ユダヤ人が亡くなったといわれる。1950年代の探索で、ナハル・ヘベルとい う 険しい峡谷の断崖にある洞窟から、40人以上の男女の人骨が発見され、それとと もに土製、金属製、ガラス製の家庭用品や、羊皮紙やパピルスに記された旧約聖 書の断片がみつかっている(252頁)。 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2015.1.15 No.135)
2015.01.01
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134「パン の文化史」舟田詠子(ふねだえいこ) 講談社学術文庫 343頁¥1150 2013.12.10 初版第1刷発行 [目次] はしがき 序章 米偏世界へ渡来した異邦人 第1章 パンとは何か 1パンづ くりとは何か 2ムギ 3無発酵 パンと発酵パン 第2章 パンの発酵 1パンは なぜふくらむのか 2パン種 3「たね なしパンの祭り」 4「最後 の晩餐」のパン 5発酵と 不浄 第3章 パン焼き 1古代遺 跡が語るパンの発達 2古代人 のパン焼きのくふう 3中世の パン焼き 第4章 パンを焼く村を訪ねて 1パンを 焼く村を訪ねて 2パンの 保存 3パンと 十字印 第5章 パン文化の伝承 1 パン文化の伝承 2 嫁のパン焼きと姑のパン焼き 3 祭りの象形パン 4民話の 中の記憶 5パン窯 にまつわる暗い影 第6章貴族のパンと庶民のパン 1 中世の白パン社会と黒パン社会 2 パン屋 終章 パン何を意味してきたか 1 パンのほどこし 2 ある巡礼の古い記憶から あとがき [内容] 著者は1978年より パンの文化史を研究している人で、ウイーン在住。本書の前 半では先人による文献や遺跡調査をたどりながらパンの歴史を解説し、後半で は、 オーストリアのアルプス山中の村などで綿密な実地調査を行った成果を盛 り込みながら、ヨーロッパ文化の中でのパンの姿を語っています。 オオムギとコムギは「肥沃な三日月地帯」と呼ばれるチグリス、ユフラテス川流 域を含む西アジアの地域で作物として誕生 したことが知られています。著者 は、パンもこの地帯で生まれたのであろうと考えています。しかし、パンがいつ からあったかという点になる と、臼や土器の存在だけでは決められないという ことです。 [感想] 一つだけ気になったこと。この本では、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク の総称として「ムギ」と呼んでいます。し かし植物学的には、ムギという植物 ないし植物群は存在しません。一般に、ムギという語は使われ方が曖昧です。コ ムギとオオムギを合わせて ムギと呼ぶ場合も多いようです。英語にはムギに相 当する語はありません。また一口に「コムギ」と呼ばれる植物にも、ヒトツブコ ムギ、フタ ツブコムギ、マカロニコムギ、パンコムギなど多数の栽培種があり ます。とくにパンの誕生の時代を解説する際には、どの植物種が用いられた の かをきちんと区別して記述する必要があります。 巻末に詳しい引用文献一覧が掲げられているのは、読者にとって有難い。 [頁のか けら] 〇 今から5500年以上前にスイス湖畔で生活をしていた遺跡の住人は、オオムギ とコムギを知っており、これを挽いて、その粉ではパンを つくり、粗びきでは カユをつくった。そのカユは、貯蔵できて、いつでも必要なときに水煮ができ た。パンはすでに最初の段階から発酵させて いた。そしてよりふっくらしたも のを目指して、灰焼きから、パン窯状の設備を考案するに至ったのである。(99頁) ○ アルプス以北は、ライムギでパンをつくる黒パン地 帯である。しかしもっと も収穫量の多いのはエンバク、次いでライムギ、コムギの順であるから、エンバ クパンの方を日常多く食べ、ライムギ パンはよりおいしいものとして大切にさ れた。そしてコムギパンを食べる機会は、自給自足時代には年にたった二度、ク リスマス前日と復活祭 のみ、という家がほとんどであった。(161頁) **************************************************** ランダム読書日記 by 行道 はるか YUKUMICHI Haruka (2014.12.25. No.134)
2014.12.25
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133「直観力」羽生善治 PHP新書 PHP研究所 210頁¥760 2012.11.1 初版第1刷発行[目次] 第1章 直観は、磨くことができる第2章 無理をしない第3章 囚われない第4章 力を借りる第5章 直観と情報第6章 あきらめること、あきらめないこと第7章 自然体の強さ第8章 変えるもの、変えられないものおわりに[内 容]著者(1970-)は、言わずと知れた将棋界の文字通りの第1人者。現名人。1996年に名人、王将、竜王、棋聖、王位、王座、棋王の七大タイトルを独占し、将棋界始まって以来の七冠達成をなしとげた人。2008年には名人通算5期により永世名人(19世)の資格を獲得、永世称号も竜王を除く6タイトルで資格をもつ。タイトル獲得数も故大山康晴15世名人を抜いて歴代1位である。NHK早指し選手権でも優勝回数最多。[感想]小さな分かりやすく書かれた本の文章の中から、羽生名人の強さがどのような考えから生まれたのか が分かるような気がしました。生活も思考も自然体であること。納得のいくまで自力で考えること。勝敗や対戦相手を基に考えないこと。升田式石田流、雀刺し、急戦矢倉、棒銀、ひねり飛 車、居飛車穴熊など、現在ではよく知られた数々の将棋戦法が、往年の棋士升田幸三により編み出されたことを、この本で知りました。[頁のか けら] 〇たとえば私は、1年間で50から60試合くらいの対 局をしているが、今日はノ-ミスで100点満点、どこも悪いところがなく完璧だったとおもえるような対局は、よくて1年に1回とか2回。〇 いつも、「自分の得意な形に逃げない」ことを心が けている。 〇 情熱は、常に何かを探し続けることでも保たれる。 (中略) 心がけるのは、常に違う何かを見つけていくこと。 それは現状に不満足でいることではなく、さらに違う何かを常に探し求めて いく姿勢だ。〇 何事であれ、最終的には自力で考える覚悟がなければならない。〇 どんなことでもいい。これまでとの違い、昨日からの変化を見つけてみる。 そして、その先を思い描いてみる。そうすることで、想像力が鍛えられていく。 そして、その想像力を働かせて頭の中に描いた何かを具体的に実現させるアイ デア・発想が創造力だ。 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道 はるか YUKUMICHI Haruka (2014.12.23 No.133)
2014.12.14
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132 「障 害と子どもたちの生きるかたち」浜田寿美男 岩波書店 197頁¥800 2009.2.17 初版第1刷発行[目次] I たか し君の小さな事件1ある出 会い2たかし 君のきまり3小さな 事件4むかつ く子供たち5もうひ とつの文化との接触6障害を 文化に読みかえるII 生き 物の生きるかたち1文化っ てなに?2動物と いう文化3生きる かたちをつくるもの4人と人 のあいだの噛み合わせIII 与え られた条件のままに1彼らの 不思議、私たちの不思議2自閉症 が治ってもらったらこまる3治療・ 訓練という発想の危うさ4たかし 君の世界5世間の 目と羞恥心IV 羞恥 にとらわれて1みつこ さんの右手2手袋3手袋の ジレンマ4手袋の もう一つのジレンマ5内化し た「世間の目」6手袋を 脱ぐ7ありの ままを受け入れられておわりに[内容]「障碍をありのままに受け入れ、誰もがのびのびと生き られる社会をつくるために、障碍を一つの<生きるかたち>と考え、一つの<!文化>としてとらえることはできないか。多様な文化が 共生できる社会を、ともにめざそうと呼びかける。」と、表紙裏に書かれています。著者(1947-)は発達心理学者で奈良女子大学名誉教授[感想]人目を気にしない(できない)、自閉症のたかし君。人 目を気にし、大人になるまで指の無い右手を手袋で隠し続けたみつこさん。おふたりの実例を中心に、障碍をもつ人々が「ありのままに生き る」ことがいかに難しいかが語られています。人は人にどこまで寄り添えるのだろうか、と考えさせられました。障碍者は、障碍であることによる苦痛や不便だけでも生 きて行くことが難しいのに、それに加えて周囲(社会)の故なき偏見や差別によって裁かれたり軽んじられたりします。障碍者を苦しめるのは、障碍自体の大きさではなく、偏見 の大きさです。[頁のか けら] 〇「まなざしの地獄」というのはサルトルのことばで す。サルトルがこのようなことを言い出した背景に、彼の斜視というハンディがあったのかどうか、それはわかりません。しかし彼もまた不特 定多数の目に「見られる」恐怖を感じていたことは確かです。そしてみつこさんはまさにこのまなざし地獄の渦中にいました。〇 ありのままを生きるとは、よく誤解されるように、 ありのままの現状をあきらめる消極的な姿勢ではありません。むしろ逆に、いま生きているかたちには、なんであれつねになんらかの理由があ り、論理があることをあきらめて(はっきり見て)、そのありのままを生かす積極的な姿勢だと、私は思っています。 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道 はるか YUKUMICHI Haruka (2014.11.27. No.132)
2014.10.29
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131 「うまい文章が書ける本」 大隈秀夫 三笠書房 249頁¥495 1995.6.10 初版第1刷発行 (発行日がカバーに書いてある) [目次] 序文 第1章 短く、わかりやすく書くポイント 1 わかりやすい文章をどう書くか 2 短い言葉で具体的なことを書け 3 主題が一つ、述語が一つの文章を書く 4 言葉一つにもっとデリケートになれ 5 具体的な描写で話を動かす 第2章 どこを直せばもっと”いい文章”が書けるか 1 ”おしゃべり”の文章は心に残らない 2 気取らない文章を心がけよ 3 読む人はだれなのかを頭に入れて置く 4 独りよがりの文章を書いていないか 5 どうすればリズム感のある文章が書けるか 第3章 基本は観察眼、目で書け 1 文章のうまさは「観察眼」に比例する 2 文章を書くための観察眼をどう養うか 3 心を打つ文章をどう書くか 4 筆を抑えるほど訴える力は強い 5 「これは」と思ったらその場でメモを取れ 第4章 文章のうまい、下手は”しかけ八分”で決まる 1 史料の集め方で文章の”出来”が違ってくる 2 集めた資料をどう生かすか 3 ”和文和訳”がうまいと資料が一段と生きてくる 4 聞き上手は文章上手にもなる 第5章 切れ味鋭い文章をどう書くか 1 まず執筆メモを作って「起承転結」を組みたてる 2 大事なことは冒頭に持ってくる 3 書き出しの一行は短いほどよい 4 個性的な文章はどう書くか 5 文章を”引き締める”こつ 6 改行するときはこんな所に気を配る 第6章 読む人の心を打つ文章の書き方 1 体験談、エピソードを入れると内容がぐっと現実的になる 2 "不親切”な文章を書いていないか 3 片仮名語はできるだけ少なくする 4 自分の言葉でどう書くか 5 会話文ではテンポを重視していく 第7章 文章を生かすも殺すも「比ゆ」と「修飾語」 1 「比ゆ」をどううまく使うか 2 "意外な組み合せ”で言葉のセンスを磨く 3 自分で使いこなせる言葉を使え 4 書き言葉の「ルール」をきちんと守る 5 薄化粧の文章がいちばんよい 第8章 レポート・論文・手紙文はこう書く 1 論理的な展開のしかたを身につける 2 話の「核」を早めに明示する 3 論旨に「説得力」を持たせるためにこれだけは入れる 4 ばか丁寧な敬語はかえって失礼になる 5 とにかく手紙を書くのが文章上手への道である 後書き [内容] 文章を書くに当って注意するさまざまな点を列記した本です。 各節でよい実例、わるい実例をあげて示しているので、とても わかりやすい。 こういう本が安価で買えるので、文庫本は宝の山です。 (しかし、アマゾンに最安値1円で出ているのを発見したときは、 「著者に失礼だろう」という気持ちでした) 著者(1922-)は大学や旧制中学の教壇に立ったのち、西日本新聞社に 13年間勤務し(東京支局長)、フリーのルポライターになった人です。 大宅壮一に師事。 [感想] 目次が詳しく書かれているので、目次だけ読んでも役に立つ感じですが、 是非中身も読んでほしいと思います。 実例に挙げている文章も、記者のインタビュー、 新聞のコラム、週刊誌のグラビア頁、ルポライターの戦地報告から、 物書きのプロではない裁判官や看護師の文、企業の入社試験の作文、 野坂昭如、沢木耕太郎、津本陽、加賀乙彦、師の大宅壮一などの文章、 さらには皇太子殿下徳仁親王が英国留学された折の随筆まで、 実に豊富で多彩です。 [頁のかけら] ○略 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2010.2.21. No.131)
2010.02.21
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130 「中世ヨーロッパ 食の生活史」 ブリュノ・ロリウー Bruno Laurioux (吉田春美訳)原書房 305頁¥2800 2003.10.4 初版第1刷発行原著題 Manger au Moyen Age [目次] 序文第1章 中世の味覚第2章 自然の制約第3章 食糧供給の条件第4章 宗教の義務第5章 文化の規範第6章 食べ物のモデル第7章 食事、社会的な行為第8章 テーブルマナーとサーヴィス第9章 料理結び付録訳者あとがき[内容]ヨーロッパでは、西ローマ帝国の滅亡した紀元476年から東ローマ帝国の滅亡した1453年までの約1000年の間を中世とよびますが、その時代の食生活に係わる、食材、料理、飲み物、食器、食の環境、規約からテーブルマナーまでさまざまなことを総合的に再現した本です。[感想] 世界史というと王侯の系譜や戦争の年代を覚えさせられた記憶が甦りますが、それぞれの時代に人々が実際はどのように暮らし、何を食べていたのかはあまり知られていないようです。この本でみつけた興味深いこと;1. 中世の家には一般に食堂はなかった。食事は一日二食だった。2. パリではワインが高価だったので、貧しい人はセルヴォワーズというビールの元祖のような飲み物や、シードル(リンゴ酒)、ポワレ(梨酒)を飲んでいた。3. ナイフは普及していたが、フォークは貴重品だった。 公爵夫人でも1本しかもっていなかった。4. 農家でみつかる唯一の金属性容器はフライパンであった。 焼き網や焼き串など直火で焼く道具はほとんどなかった。5. 王侯の家でワインが出されるときは、守衛、酌をするエシャンソン、 ソムリエ、助手が列を作って食事の部屋に入る。誰がどの容器を もって入り、どこへ立ち、容器をどこへ置き、どのようなステップをへて 最終的に主人にワインが供されるかは、バレーのように儀式化されていた。 それは、主人が毒殺されるのを防ぐためであった。6. ローマの農学者が軽蔑していたライムギが、中世欧州では登場が 遅かったが、それはケルトの北西ヨーロッパから広まった。[頁のかけら] ○ 略 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2010.2.14. No.130)
2010.02.14
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129 「キャベツにだって花が咲く」 稲垣栄洋 光文社新書347 214頁¥740 2008.4.20 初版第1刷発行 副題 知られざる野菜の不思議 [目次] 第1章 野菜に咲く花、どんな花? 第2章 植物のどこを食べている? 第3章 野菜はどこから来たにか? 第4章 ちゃんと野菜を食べなさい! エピローグ 付録 野菜のことわざ [内容] 野菜たちの知られざる姿がつぎつぎと明かされている本です。 朝日新聞の天声人語(2008)で紹介されたそうです。 [感想] 植物一般や作物を扱った一般読者向けの本はたくさん ありますが、この本は面白いと思いました。 ネギの筒のような葉は、外側が葉の裏で、内側が表。、 ダイコンは、胚軸と根が太ってできたが、カブは胚軸だけが太った。 ニンジンは形成層の外側が、ダイコンは形成層の内側が肥大。 山で採れるものが山菜、野で採れるものが野菜、それに対して 畑で栽培されるのは蔬菜として区別されていた。 一文字の名前。「い」、「き」、「ち」はそれぞれイグサ、ネギ、チガヤのこと。 などなど、ちょっと気がつかないことが分かりやすく説明されています。 こういう本を読むときには、あまり細事はこだわらない ほうが楽しめるのですが、つい、気になったことを書くと、 1. 品種名が少し不正確(43頁)。 「男爵」は「男爵薯」、「メイクイーン」は「メークイン」が正解。 2. 45頁。ジャガイモをフランス国内に苦労して普及させたのは、 ルイ16世というよりは民間のパルマンチェという人。 パリ地下鉄にはこの人の銅像まであるそうな。 3. 154頁。ジャガイモが日本にもたらされたのは1600年頃と ありますが、実際は慶長年間(1610-1620)とのこと。 浅間和夫氏の「じゃがいも博物館」のサイトに詳しい。 http://www.geocities/a5ama/e000.html 4. 159頁。「トマトの原産地は南米のアンデス」とありますが、 ジャガイモの原産地と同じ表現では、違和感がある。 ジャガイモはチチカカ湖周辺、トマトはペルー、エクアドル、 メキシコ説もある。 [頁のかけら] ○ 瓜の皮は大名にむかせよ。カキの皮は乞食にむかせよ。 ○ 親の小言とナスビの花は千に一つも徒(あだ)がない。 (ことわざ) **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2010.2.9. No.129)
2010.02.09
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128 「孤高の鬼たち」 文藝春秋編 文春文庫 348頁¥420 1989.11.10 初版第1刷発行 副題 素顔の作家 [目次] I 作家が描く作家の肖像 三鷹下連雀・太宰治 ----- 瀬戸内寂聴 隣りの”伯父さん”とわたし ----- 山口瞳 長編小説の鬼 ----- 北川荘平 室生犀星の大きな愛 ----- 萩原葉子 宇野千代言行録 ----- 吉屋信子 憂国の詩人・三好達治 ----- 河盛好蔵 II 家族が描く作家の肖像 夏目漱石の「猫」の娘 ----- 松岡筆子 父龍之介の映像 ----- 芥川比呂志 坂口安吾と「青鬼の褌を洗う女」 --- 坂口三千代 貧乏詩人の妻といわれて ----- 山之口静江 III 師弟が描く作家の肖像 太宰治のこと ----- 井伏鱒二 鬼の面 ----- 今東光 枯野の人・宇野皓ニ ----- 水上勉 解説 [内容] 文藝春秋の本誌や別冊に、折々に掲載された短編を集めた ものです。 「作家の言行が、人間的興味の対象とされるのは、そこに 個性的な生き方が読みとれるからだ」と、と解説の冒頭 にあります。ここには漱石、芥川、太宰、川端康成など、 著名な作家の生活が身近な人を通して描かれています。 [感想] 漱石が家庭では子煩悩であったこと、 銭湯で会った谷崎潤一郎の話 川端康成と近所づきあいだった山口瞳の話、 など、中には作品からは窺い知れない日常もあり、 改めて作品を再読したくなります。 13の短編中、とくに惹かれたのは、 冒頭の寂聴による太宰と5人の女性- 初代、田部シメ子、美知子、太田静子、山崎富栄の話でした。 [頁のかけら] ○ (谷崎の輝かしい成功にショックを受け) 和辻哲郎は小説をあきらめて哲学に進み、芦田均は文学を 捨てて外交官を志した。 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2010.1.30 No.128)
2010.01.30
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127 「ビッグバン宇宙論」 上・下 Simon Singh (青木薫訳) 新潮社 298+284頁¥1600+¥1600 2006.6.25 初版第1刷発行 原著題 BIG BANG [目次] 上巻 第1章 はじめに神は..... 第2章 宇宙の理論 第3章 大論争 下巻 第4章 宇宙論の一匹狼たち 第5章 パラダイム・シフト エピローグ 謝辞 付録-科学とは何か? 用語解説 訳者あとがき [内容] この本は、各章の終わりに、その章の要約が記されている親切な本です。 これをさらに辿って要約すると; 上巻では 1. 紀元前6世紀のギリシャで、哲学者たちは宇宙を自然現象 として記述しはじめた。 彼らは実権と観測、論理と理論を使って地球、太陽、月の大きさと、 それら相互の距離を測ることに成功した。 ギリシャの天文学者は宇宙について間違った「地球中心モデル」 を作った。 2. 16世紀にコペルニクスが円軌道の「太陽中心モデル」を 唱えたが、無視された。 3. テイコのデータを駆使して、ケプラーが楕円軌道の 「太陽中心モデル」を確立した。 4. ガリレオは「太陽中心モデル」を支持した。彼は 木星の衛星、太陽の黒点、金星の満ち欠けを発見した。 5. 1670年、レーマーが、木星の衛星の観測から光の速度は有限 であることを示した。 6. 宇宙は光を伝達するエーテルという物質で満たされていると 信じた人たちがいた。 しかし、マイケルソンとモーリーの実験でエーテルの存在は否定された。 7. アインシュタインは、光の速度は観測者に対して一定であると主張した。 この仮定にもとづいて、1905年に「特殊相対性理論」を作った。 これによれば、空間と時間はともに伸縮する。 1915年に「一般相対性理論」を作りあげた。 これは優れた重力理論となった。 8. アインシュタインは宇宙全体を調べ、重力による宇宙の収縮 を避けるため、 「一般相対性理論」に宇宙定数を加えて、 静的で永遠の宇宙像を描いた。 9. フリードマンとルメートルは、宇宙定数を捨て、膨張する宇宙を唱えた。 しかし、この「ビッグバン・モデル」は無視された。 10. 1929年ハッブルが銀河の距離と速度の間に直線的関係が あることを示した。宇宙は今日も膨張していた。 宇宙は無限の過去から存在していたのではなく、宇宙の全物質が 小さく押し込められていた揺籃期があり、それが爆発して進化したと 考えられた。 ついに「ビッグバン・モデル」が検証された。 下巻では、「ビッグバン・モデル」と「定常宇宙モデル」との相克が 詳しく描かれています。 1950年にはまだ。「ビッグバン・モデル」と「定常宇宙モデル」の 闘いが続いていた。 しかし、やがて「ビッグバン・モデル」が持っていた実証のなさという 弱点が、観測によってつぎつぎと証拠がみつかり、 ついに主流の説となった。 著者は英国ケンブリッジ大学大学院で素粒子物理学の博士号 を取得し、ジュネーヴの研究センターに勤務後、BBCに転職、 その後「フェルマーの最終定理」、「暗号解読」などの世界的 ベストセラーを生み出したサイエンス・ライターです。 [感想] 宇宙論の発展過程だけでなく、どのような人たちがどのような 状況で結論にたどりついたかが、実にわかりやすく興味深く 描かれていて、飽きさせません。 天文学や宇宙に興味にある人には、ぜひお薦めの本です。 (本文とは関係がないのですが、本ブログNo.125で書いた ジャガイモ疫病を「胴枯れ病」と誤訳した例がこの本210頁 にも見られます。残念です。) [頁のかけら] ○ 宇宙についてもっとも理解しがたいのは、宇宙が理解可能 だということだ。 アルバート・アインシュタイン **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2010.1.26. No.127)
2010.01.26
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126 「失敗という人生はない」(再) 曽野綾子新潮文庫 240頁¥480 1991.6.25 初版第1刷発行副題 真実についての528の断章 [目次] まえがき人生に失敗ということはない愛は生命そのものである神は私たちひとりひとりの中にいる無力からの出発持てる能力を生かす”私”は人々の中で生かされる曽野綾子の世界-岡宣子著作リスト[内容]曽野綾子の代表作の中から、真実をめぐる528の言葉を選び、全6章に構成したアフォリズム集、と裏表紙にあります。[感想]ある文章を、前後の関係から断ち切って抜き出して提示することは、とかくその文章の本来の意味を誤解させるもととなりがちです。でもここに並べられた528もの文章の断片を読んでいくと、曽野綾子という作家がどのように人生を捉えているかが少しずつ解ってくる気がします。ここに並んでいる文章は、作家の包み隠さない言葉です。良い悪い、好き嫌いはともかくとして、このようにはっきり物をいう人が、近時は少ないように思います。[頁のかけら] ○「愛」ほど変質しやすいものはない。 愛はその辺に転がしておけば、すぐ腐る。 愛もまた状況の温暖なところでは、腐敗が一段と進む。○祈るなんて非科学的だなんていうのは、貧しい痩せた心情なんですよ。それは人間の思いあがりなんだ。やるだけのことをやって、祈るほかはないんですよ。○ 日本人であるということは、三つの意味を持つ。日本という国家から恩恵を受ける。日本という国を、少しずつでもよくするために、ささやかな 市民的な協力をする。日本という国の持つ不運や悪をも自分のものとして甘受する。この三つが揃わなくては独立国の国民ではない。 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2010.1.22. No.126)
2010.01.22
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125 「悩ましい翻訳語」 -科学用語の由来と誤訳 垂水雄二(たるみ ゆうじ) 八坂書房 207頁¥1900 2009.11.25 初版第1刷発行 [目次] はじめに 第1章 イヌも歩けば誤訳にあたる 第2章 草木もなびく誤りへの道 第3章 人と自然を取り巻く闇 第4章 こんな訳語に誰がした 第5章 進化論をめぐる思い違い 第6章 心理学用語の憂鬱 第7章 生物学用語の正しい使い方 第8章 悩ましきカタカナ語 あとがきに代えて 参考文献/索引/著者紹介 [内容] 翻訳書の編集や翻訳者としての経験から出会った誤訳に まつわる話を、実例とともに解説した本です。 [感想] 私も一例を加えたい。 アイルランドの大飢饉(1845-1849)の話で出るジャガイモの病名blightを 「胴枯れ病」とか「ジャガイモ胴枯れ病」とか訳している本が実に多い。 「疫病」が正しい。 これは、岩波「英和大辞典」(1970)などでblightの訳として 「胴枯れ病」だけを上げているのが原因であろう。 植物病害は英名が同じでも植物によって和名が異なる (別の病気ゆえ)ので、植物病理学の本でよく確かめる必要がある。 (胴枯れ病は養蚕がはなやかなりし頃のクワの病名だった。 そもそもジャガイモには胴などない!) [頁のかけら] ○ 聖書の日本語訳には、ナツメヤシを「しゅろ(棕櫚)」、オリーヴを 「かんらん(橄欖)」、バッタを「いなご(蝗)」にするといった誤訳が散見され る。 ○ 誤訳の実例 great white shark 大きな白いサメ(誤訳)→ ホオジロザメ african wild dog アフリカ野生犬 (誤訳) → リカオン guinea pig ギニア豚 (誤訳) → モルモット guinea fowl ギニア鶏 (誤訳) → ホロホロチョウ fruit fly ミバエ (遺伝学では誤訳) → ショウジョウバエ locust イナゴ(誤訳) → バッタ (アフリカトノサマバッタ) (聖書) pollution 公害(誤訳) → 汚染 natural selection 自然選択 (著者は容認しない)→ 自然淘汰 control group 統制群 (誤訳) → 対照群 warning color 警戒色 (著者は容認しない) → 警告色 inbreeding 内婚 (遺伝学では誤訳) → 近親交配, 近交 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2010.1.18. No.125)
2010.01.18
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124 「害虫の誕生」 -虫からみた日本史- 瀬戸口明久 ちくま新書 217頁¥720 2009.7.10 初版第1刷発行 [目次] プロローグ 第1章 近世日本における「虫」 第2章 明治日本と「害虫」 第3章 病気ー植民地統治と近代都市の形成 第4章 戦争ー「敵」を科学で撃ち倒す エピローグ 主要参考文献 図版出典一覧 あとがき [内容] 江戸時代、虫は自然発生するものだと考えられていた。 そのため害虫による農業への被害はたたりとされ、 それを防ぐ方法は田圃にお札を立てるという神頼みだけだった。 当時はまだ、いわゆる「害虫」は存在していなかったのだ。 しかし、明治、大正、昭和と近代化の過程で、「害虫」は 次第に人々の手による排除の対象になっていく。 と、表紙裏に書いてあります。 虫、とくに農業害虫(ニカメイガ、イナゴ、カイガラムシなど) と衛生害虫(ノミ、シラミ、ハエ、カ)の被害を、人はどのようにとらえ、 どのように対処してきたかが歴史を追って描かれています。 [感想] かつては、男の子の多くは、野原を駈けずりまわって、 バッタやトンボを追いかけまわして楽しんだものでした。 丸の内でバッタが飛び、浅草でアカトンボが道の水溜りに群れて いたことがあったのです。かくいう私も、父親が作ってくれた 大きめの虫かごにトノサマバッタを飼ったときの敷き草の匂い が忘れられません。 大人になっても昆虫から離れられない人は少なくありません [頁のかけら] (虫の日本史) 701年:日本最初の害虫の記録、「続日本紀」に蝗被害の記述 9世紀初: 斎部広成(いんべのひろなり)による「古語拾遺」の記述 1787年:森島中良「紅毛雑話」で顕微鏡でみた蚊やシラミの図を描く 1826年:大蔵永常「除蝗録」で「注油駆除法」を推薦 1885年:玉利喜造が殺虫剤製造のため栽培する除虫菊の種子を輸入 1895年:松村松年(しょうねん)札幌農学校ではじめて昆虫学を講義 1896年:名和靖が「名和昆虫研究所」を設立。月刊誌「昆虫世界」を発行 1899年:国立農事試験場に昆虫部設立。小貫信太郎が部長就任 1909年:台湾のイセリアカイガラムシ防除にはじめて天敵を導入 1914年:小泉丹(まこと)が台湾総督府の医動物学研究室を設立 1921年:穀物燻蒸用に毒ガス「クロールピクリン」の商業生産開始 1943年:「青色蛍光誘蛾灯」の実用化(東大、東京芝浦電気など) 1946年:GHQは日本人全員にシラミ駆除用にDDTを撒布 1950年代:有機リン殺虫剤パラチオンが輸入されニカメイガに使用される 1970年代:殺虫剤に限らず天敵やフェロモンも使う「総合防除」の導入 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2010.1.17. No.124)
2010.01.17
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123 「幸田家のしつけ」 橋本敏男 平凡社新書 254頁¥740 2009.2.13 初版第1刷発行 [目次] 序文 第1章 理詰めで教える掃除の達人 第2章 父に向けた手厚い看護 第3章 反発しながらも畏敬の心 第4章 父は遊ばせ上手 第5章 最もおししいときに食す 第6章 無言で育む美しい心 第7章 「わかる」とは「結ぶ」こと 第8章 形が人を美しく見せる 第9章 着物は着こなしにある 第10章 言葉遣いに厳しく 第11章 父と娘の性教育問答 第12章 夫婦の不和で傷つく子の心 第13章 男の子に甘い父心 第14章 生死の間に最後の教え あとがき 参考引用書籍一覧 [内容] 幸田露伴の娘、文(あや)は家の食事の支度を十四歳から手助けし、 十六歳からは一切をひとり任された。 厳しいしつけに反発しながらも敬わざるをえない絶対的な父。 文豪の父をもつ娘という特異な関係から生まれたしつけの話が、 ここに描かれています。 [感想] 継母にかわり娘にしつけをした父。 そのしつけを見事に受けとめた聡明で強い娘。 子供は親の思い描いたとおりには育たぬものですが、 ここに描かれているのはみごとに,成功した「関係」でしょう。 それでも娘の文は、父が自分を愛してくれていることを実感 したのは、父の臨終に間もないときであったと告白している。 [頁のかけら] ○ 「父にいわれました。悪い言葉をつかわないのは みずからを守ることなんだ。人さまによく言うばかりじゃなくて、 自分をいやしくしないことだ。」 文 ○ 天の成せる麗質、これを美人という。 刻苦して或境界を開いた人、これを佳人という。 ○ きれいになりたい頃、私は鏡から失望と悲しみをうけとった。 文 ○ 無理におとなの承知している感覚なんかを、子供に押しつけるな。 そんなのよくないことだ。 うちのもののすることは、子供が自然に秋の夜といふものを 理解するときを静かに見きはめていて、そのときこちらも 一緒になって秋の夜を楽しむなり哀しむなりしてやればいいんだ。 露伴 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2010.1.12. No.123)
2010.01.12
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122 「叡智」 ポール・ヴェルレーヌ(Paul Marie Verlaine) (河上徹太郎訳) ダヴィッド社 210頁 1956.9.10 初版第一刷発行 原著題 Sagesse (1881) [目次] 序 原著の序 I 1-24 II 1-9 III 1-20 跋 [内容] 詩の世界では、あまりにも有名な詩集です。 放浪の詩人ヴェルレーヌが37歳のとき(1881年)の詩集です。 「叡智」とは「心の貧しさ」のことに外ならない、と訳詩者はいっています。 この詩は堀口大学「ヴェルレーヌ詩集」にも含まれていますが、 私はこの河上徹太郎訳が好きです。 なお、Wikiには河上訳「叡智」として1935年芝書店版と 1994年の新潮文庫版しか載っていませんが、私のもっているのは 1956年のダヴィッド社版です。 [感想] 今日はクリスマスです。 私が少年のころは、年末になるとジングルベルの曲が 街中に流れ、なんとなくせわしげに、しかし賑わしく、 またお正月の楽しみを控えて、1年で最も楽しい期間でした。 あの楽しみはどこへ行ってしまったのでしょうか。 サンタクロースの来ない町、正月にも餅もつかず門松もない町、 国旗を飾って祝うことも忘れた国、 ムダを削り、街からお祭り気分をなくすと不景気になるのでしょう。 (「不景気だからお祭り気分にはなれない」というのは、ウソです) この詩は、青春時代に出会い、その後の長い職業生活の単調さの 中でなぐさめとなった詩です。 [頁のかけら] ○ 空は屋根の彼方で あんなに青く、あんなに静かに、 樹は屋根の彼方で 枝を揺がす。 鐘はあすこの空で、 やさしく鳴る 鳥はあすこの樹で、 悲しく歌ふ。 あヽ神様、これが人生です、 卑ましく静かです。 あの平和な物音は 街から来ます。 --どうしたのだ?お前は又、 涙ばかり流して? さあ、一体どうしたのだ、 お前の青春は? ○ 何ものか嬰児の如妙なる心もつものあれかし。 善よ、敬愛よ!まこと死の来らん時 われ等に同伴(ともな)ふものぞ何?残らんものぞ何? **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.12.25 No.122)
2009.12.25
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121 「ワインの文化史」 ジャン・フランソワ・ゴーティエ Jean-Francois Gautier (八木尚子訳)白水社 161頁¥951 1998.4.10 初版第1刷発行原著題 Histoire du Vin [目次] 序文はじめに-ワイン以前の「酒」第 1章 ワインとその文化第2章 ワインと宗教第3章 ワインと{守護聖人第4章 ワインと祝祭第5章 ワインとその消費第6章 ワインとヨーロッパ結び-ワイン以後の「酒」訳者あとがき主要参考文献[内容]原題は「ワインの歴史」です。しかし、内容は日本語題の「ワインの文化史」のほうがぴったりの感じがするほど、神話、宗教、から時代時代の社会の変遷がからみあっていて、ワインを縦糸としたヨーロッパ社会の歴史をほうふつとさせます。[感想]底なしの不景気とはっきりしない天気と、やはりはっきりしないブレまくりの政治の下、少し気分転換をしたくて、読んだのがこの本でした。訳書ゆえの硬さはありますが、丹念に時間をかけてよむと楽しい本です。ヨーロッパ社会の歴史に詳しい人ならば、とくに楽しむことができるでしょう。「ワイン」、「ビール」、そして「日本酒」の歴史に興味があり、ときどきこのような本を探しています。[頁のかけら] ○ 葡萄栽培はまずカフカス山脈の斜面で、次いでメソポタミアで始まった。エジプトでも紀元前三〇〇〇年頃から葡萄を栽培し、葬儀用のワインをつくっていた。ヨーロッパでは古代ギリシャ人がシチリア島やイタリア半島南部に葡萄を移植し、ワインづくりを広めた。(カフカス山脈:黒海からカスピ界まで東西に走る山脈で、アジアとヨーロッパの境のひとつ)○キリスト教はフランスの葡萄栽培の普及者であり、ワインの宣伝者であった。聖職者はローマの支配下にあった時代から行われてきた葡萄栽培を遺産として受け継ぎ、それによって教会の権力と栄華を維持した。聖職者による葡萄栽培はフランス革命とともにその歴史的役割を終え、十九世紀初頭には完全に葡萄畑が教会と切り離されることになる。○ 本書が語るワイン小史紀元前3000年 エジプトで葡萄栽培が始まる紀元前154年 古代ローマ人が葡萄栽培を本格化紀元480年 聖ベネディクトゥスが戒律を定め、「酒の飲み方」を指示。12世紀 フランスでワイングラスの使用が始まる15世紀 フランスでワイン貯蔵にガラス瓶の使用が始まる17世紀 樽の中で硫黄を燃やして燻蒸する「樽殺菌法」の発明17世紀初頭 オランダ人が「焼いたワイン」つまりブランデーを発明17世紀 ピエール・ペリニョンによる、葡萄品種の選択、 ブレンド技術、発泡性ワイン、厚手の瓶とコルク栓の製造18世紀 ワイン蔵(カーヴ)で寝かせる「長期熟成法」の発見19世紀 鉄道に発達により、ワイン消費がフランス全土に広がる ワインの品質による葡萄畑の格づけが始まる1855-1885 ウドンコ病と害虫フィロキセラの発生でワイン産出量が低下1866 ルイ・パストゥールによる低温殺菌法の開発 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.12.5 No.121)
2009.12.05
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120 「二大政党制批判論」 吉田徹光文社 222頁¥740 2009.10.20 初版第1刷発行 [目次] まえがき第1章 政党はどのような存在なのか第2章 政治改革論と「政治工学」の始まり第3章 二大政党制の誤謬第4章 歴史の中の政党政治-なぜ社会に根付かないのか第5章 もうひとつのデモクラシーへあとがき参考文献[内容]マスコミなどでは「二大政党制」が政治にとっての理想であるように喧伝されていますが、それが盲信であり、他の先進国とくらべて、かなり異質な政党政治のありかたであることを示しています。政治改革の議論の中では、「政権交代」や「マニフェスト」といった、口当りは良くとも、かなり粗雑な議論が横行してしまった。その結果、二大政党制の「功」だけが一人歩きすることになり、その「罪」は無視されることになった。と、カバー裏にあります。著者は1975年生まれ34歳の新進気鋭の論客です。もう少し政治音痴の者にも分かりやすいと、なおよいと思いました。[感想]9月の選挙が終わって、新しい政権が何を目指すのかとちょっと期待して注目してきましたが、少なくとも私にとっては失望から疑惑を覚えるようなことばかりが続いていて、いまはもう「信じたワタシがバカなのよ」という気分です。少なくともフラフラ外交と無防備防衛と首相のお気楽発言だけは「誰か早くなんとかしてくれ」といいたくなります。ランダムに気楽に読んでいた読書も、それで暫くは休みになってしまいました。元気をとりもどすために、私がとった策は、まずは現況の政治の何がおかしいのか、自分で考えようということでした。具体的には、 新聞の購読をいったん止め、毎月雑誌を選択して購入する。私の長くとっていた新聞は、ここ数年とくに特定の思想や政党への肩入れがひどくなっためです。新聞を止めて浮いたお金で、月刊誌を毎週1冊ずつ買えるのが楽しみになりました。 テレビの政治関連ニュースは、見ないで即まわす。大して政治や社会のことを知りそうにない、ただマスコミのおかげで知名度が少しあるだけの人たちが4、5人集まって、得て勝手なことを無責任に放言している番組は有害無益とみました。(事故や事件のニュースは見ます)そのようなニュースの代わりに「国会中継」を丹念に観ることにしました。 ネットのサイトで、政治に関連したマジメなサイトを探して、少しずつ見ることにしました。私自身が偏向しないように、右から左まで幅広く探すことにしています。テレビで中継しない国会審議も、後からみれるサイトhttp://www.shugiintv.go.jp/jp/index..phpがあるので助かります。[頁のかけら] ○ 複数の政党による競合こそが、民主政治の必要条件である(以下略)。アフリカの発展途上国では、しばしばカリスマ的な政治家が作った政党の長期一党支配が続き、これは汚職や腐敗の温床となるという現実がみられる。○小選挙区制の持つ弊害は、一般に得票率と議席率との乖離が大きく民意が反映されないこと区割りにおいて恣意性が介在すること死票が多いため投票のインセンティブが低下すること、の3点にまとめることができる。(09年選挙では、民主党が議席の74%を得票率47.4%で獲得している)(勝てば官軍か)○ 二大政党制は、その片方を政権や権力の分け前から排除して敗者を作り出すシステムだ。だから、敗者の側に回った有権者は当然不満を蓄積させていく。その結果として、政権交代が起こった場合、それまで権力の座にあった政党の既得権益の基盤を破壊しようと、急進的な政治が行われることになる。そして二大政党制は。敵対する側が単数であるから、新自由主義改革のような、社会構造を根本的に変化させる政策を採ることを可能にしてしまう。(やりたい放題。怖い怖い。マニフェストに書かなかった事までこっそり国会で通そうとするな。) **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.11.21. No.120)
2009.11.21
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119 「総理の座」 田勢康弘(たせ やすひろ)文藝春秋 333頁¥524 2000.4.10 初版第1刷発行 [目次] 口上文庫化にあたって第1章 橋本・小渕政権時代 人材払底社会の悲劇 小沢一郎とは何か第2章 羽田・村山政権時代 内閣総理大臣の孤独 大蔵省に牛耳られる首相官邸 村山政権誕生の内幕 村山長期政権説 人材払底の時代 日本の限界・羽田総理大臣 羽田・小沢この近くて遠い関係 小沢一郎は死んだか第3章 細川政権時代 細川護煕黄昏の日々 風を求めた人たち 風が吹いたあとで 「操り人形」を拒んだ細川 奇妙な政治に成り果てた 細川連立政権「四つの罪」第4章 宮澤政権時代 宮澤最後の日々 佐川の神風にして 「ひとり歩き」はじめた宮澤政権 宮澤、自前政権を手に 強運の人・宮澤 ぐらつく宮澤再選 非情の人・宮澤関連年表[内容]宮澤喜一 (1991.11.5-1993.8.6, 在任644日)細川護煕 (1993.8.6-1994.4.25, 在任263日)羽田孜 (1994.4.25-1994.6.30、在任64日)村山富市 (1994.6.30-1996.1.11、在任561日)橋本龍太郎(1996.1.11-1998.7.30、在任932日)小渕恵三(1998.7.30-2000.4.5、在任616日)10年前の歴代政権の内実を描き、また宰相像のあるべき姿を考察した本です。[感想]選挙は終わりました。しかし、800兆円を超える赤字国債や消費税議論は横において、「年31万2千円もの子供手当て(15年間で468万円!)」、「高速道路無料化」、「農家個別補償」、「CO2 25%削減」など、マニフェストを金科玉条とした財源も展望もないバラマキ政策や、さらにはマニフェストから意図的に隠して党首討論でも出さなかった「永住外国人の地方参政権」だの、「人権擁護法案」だの、「戸籍法改訂」だの、社会を改悪しかねない法律にきわめて熱心な政党の天下になってみると、「自民党にお灸をすえる」とか、「一度政権を交代したほうがよい」という程度の気楽な動機だけから投票した結果、ひょっとして我々はとりかえしのつかない選択をしてしまったのではないか、子孫のためにいつのまにか本物のサヨク政権を選んでしまったのではないかと、 とても不安になります。それで、10年前のことですが、政治の内実を書いたこの本を再読しました。政治の世界は、魑魅魍魎、複雑怪奇ですが、あまり無知、無関心ではとんでもないことになると思いますから。[頁のかけら] ○太平洋戦争敗北のあとは、1945年8月15日を境に、それ以前の価値観をすべて否定し、GHQ(連合国軍総司令部)のもたらしたアメリカン・デモクラシーに酔いしれた。「人間はみな平等である」という民主主義のごく一部だけが強調され、民主主義を維持するための犠牲や努力の必要性は忘れさられた。反動から戦後の日本人は「権威」というものをことごとく否定した。「国家」という権威を否定し、国家という言葉さえ忌み嫌ったのである。そこから先は「弱者の脅迫」の社会へと転落していった。○ 細川政権が崩壊した理由は、細川自身が説明しているような「新たに判明した個人的な法的問題」などではない。また、「政治改革を成し遂げて、連立政権が求心力を失った結果」でもない。政治のリーダーとしての資格の欠如が政権崩壊の最大の原因だと思わずにいられない。 ○ 日本新党の新衆議院議員三十六人の名簿を見て、ただ、唖然とするばかりである。一言でいえば壮大なアマチュア集団だということだ。プロ政治家の存在そのものが問われている時代ゆえに、アマチュアだからといって悪いことは何もない。たしかにそれはそうなのだが、野心満々の若者たちが、さほどの苦労もせずに、ただ、上昇気流に乗って国政に参加する。この若者たちの多くが既成政治家としてすべて生き残ったら、日本の政治はいったい、どうなるのだろうという懸念は消えないのである。○側近の平泉渉はいう。「官僚組織の隅から隅まで知っていて、なおかつその弊害もよく理解しているのは吉田茂、福田赳夫についで宮沢だな」 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.9.22. No.119)
2009.09.22
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118 「こんな「歴史」に誰がした」 -日本史教科書を総点検する谷沢永一(たにざわ えいいち)・渡部昇一(わたなべ しょういち)文春文庫 294頁¥552 2000.2.10 初版第1刷発行 [目次] はじめに第1章 古代史-「日本人」らしさの無視第2章 平安朝文化を過小評価する「無知」第3章 虚偽と悪意の連続-元寇(げんこう)と朝鮮征伐第4章 「江戸260年の遺産」を黙殺する教科書第5章 中国人・韓国人のための明治史第6章 「一揆史観」は歴史にあらず第7章 反日教科書-誰が真犯人かあとがき解説[内容]近時横行する反日的な歴史教科書(とくに中学の)について、その意図的にねじまげられた内容を徹底的に批判し論破した本です。[感想]小学校では、先生が自作の小説を読んで聞かせるのが授業でした。中学校では、英語の単語にカタカナのルビをふるように教えられました。高等学校では、私がたずねた数学の質問にわかりきったことだと先生は答えてくれませんでした。いつしか私は学校で使われる教科書と授業に頼ることをやめていました。数学や英語ならば、教科書の誤りや偏向はいつかは気づいて、それを超えられます。しかし、偏向した歴史をいったん刷り込まれた脳は、汚されたキャンバスのように修復が難しく、その弊害は甚だしい。歴史の諸相を知ったのは、大人になっていろいろな本を読んでからでした。いま現に中学で使われている歴史教科書がここまでひどい偽造と偏向の本であることを知り、驚愕しました。歴史観が人により異なるのはごく自然でしょう。しかし、一定のイデオロギーにもとづく策謀の下に、青少年を洗脳し誘導するために、ある種のグループが小中高の歴史教科書を利用しているとしたら、それは犯罪行為でしょう。著者らがいう「教科書で自虐史観を刷り込むのは日本だけ」というのは正しい。これでは次代の若者に夢と誇りが生まれるわけがないでしょう。このような教科書で教わるから、日本の国旗を切り裂いて党旗を造る政党がまるでわが世の春のごとく有頂天になるのでしょう。[頁のかけら] ○ 中学教科書にみられる 「元寇(げんこう)の勝利はコリア民衆のおかげ」という暴論 「太平天国の乱が明治維新の原動力」という珍説 ○ 「1850年の時点で住む場所を選ばなくてはならないなら、 私が裕福であるならイギリスに、労働者階級であれば日本に 住みたいと思う」 スーザン・B・ハンレー ○ (中学の歴史教科書の多くは)、差別をなくして素晴らしい日本を作ろうという前向きの意欲よりも、むしろ日本の歴史を暗黒に、邪悪に書きたいという後向きの意図がうかがえる。しかも、その歴史観の主軸を日本に置くのではなく、むしろコリアに置いている---これはどう見ても、おかしなことです。 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.8.22. No.118)
2009.08.22
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117 「ホーキング 宇宙のすべてを語る」 Stephen Hawking と Lonard Mlodinow (佐藤勝彦訳)ランダムハウス講談社 252頁¥1800 2005.9.28 初版第1刷発行原著題 Breifer History of Time [目次] 序文第1章 宇宙について考える第2章 進化する宇宙像第3章 科学理論の本質第4章 ニュートンの宇宙第5章 相対性理論第6章 曲がった空間第7章 膨張している宇宙第8章 ビッグバン、ブラックホール、宇宙の進化第9章 量子重力理論第10章 ワームホールとタイムトラベル第11章 自然界の力と統一理論第12章 結論アルバート・アインシュタインガリレオ・ガリレイアイザック・ニュートン用語集訳者あとがき索引[内容]宇宙はどのように生まれたのだろう?宇宙の果てはどうなっているのだろう?宇宙は最後にどうなるのだろうか?若い時にこのような問いに悩み、からみとられる人は少なくありません。それだからこそ、前著「ホーキング宇宙を語る」が237週もベストセラ-になったのでしょう。この本は、元科学者のサイエンス・ライタ-、ムロディナウと共著の形で、前著に最新のデータを加え、カラー写真をつけ、著者が写真に登場するなどして、さらにわかりやすくしたものです。[感想]どのような分野であれ、世界の最先端にある人だけが、自己の分野について最も平易にわかりやすい本を書くことができる、という見本のような本だと思いました。走っている列車の中で進行方向とおなじ方向に打ったピンポン玉の速度は、玉の速度+列車の速度と等しくなる。しかし、走っている列車の中で進行方向とおなじ方向に放った光の速度は、光の速度+列車の速度と等しくはならない。光の速度は列車が止まっている場合とおなじである。光を列車の進行と反対の方向に放っても、速度は変わりない。私は寡聞にして、「光の速度は一定」という物理法則は物理学における仮定された公理のようなものかと思っていましたが、実は惑星の運動の観察から得られた「実験結果」であることをこの本で知りました。長生きはするものだなぁと嬉しくなりました。[頁のかけら] ○ 量子力学における波と粒子の二元性によって、光は波とも粒子とも みなせるのです。「波」とか「粒子」という記述は人間が作り出した概念 であり、自然界にはあらゆる現象をそのどちらかに分類する義務など ないのです。○ 少なくとも私たちの知っているような生物は、一つの時間次元と ちょうど三つの空間次元が小さく丸まらずにある時空領域内でのみ、 存在することができるように思えます。 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.8.15. No.117)
2009.08.15
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116 「ゆかいな数学者たち」 矢野健太郎 (やの けんたろう)(1912.3.1-1993.12.25)新潮文庫 293頁¥360 1981.12.25 初版第1刷発行 [目次] まえがき高木貞治中川セン吉掛谷宗一辻正次岡潔正田建二郎と菅原正夫湯川秀樹角谷静夫ある日本の先生エリー・カルタンアダマールアンリ・ルベーグアインシュタインほか26名の数学者[内容]著者と同時代でしかも面識のあった数学者39人のおもしろおかしいエピソードを盛り沢山に提示した本です。著者自身が世界的な数学者で、最後に自身を紹介しています.ちなみに著者は私の高校の同窓会長でもありました。[感想]数学の最先端で研究を続けてゆくには、著者のような柔軟でユーモアにあふれた頭脳が必要なのだなと納得。[頁のかけら] ○ 「ルベーグ先生は、黒板の左上の方からはじめて、黒板一杯に式を書いて、黒板の右下まできて、おや答が合わない、どこで間違ったかな、と言って、だんだんもとへ戻っていって、おやおや、ここが間違っていたよと、始めの方に間違いを発見されることがよくあるのです。こんな先生がほんとうに偉い先生ですかね」そう、立派な数学者のなかには、計算の下手な人がよくあるのである。○ publish or perish 論文を書くか、それとも書けずに学会から落ちこぼれるか publish and perish 数学の論文が増えてきたので、論文を書いても、やはり落ちこぼれる **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.7.21. No.116)
2009.07.21
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115 「岡 潔 数学の詩人」 高瀬正仁 (たかせ まさひと)岩波新書 225頁¥740 2008.10.21 初版第1刷発行 [目次] はじめに1. お日さまの光2. 留学と模索の日々3. 問題群の造型4. 情緒の世界5. 響き合う数学の心6. 晩年の思索あとがき年譜[内容]これは、著名な数学者「岡潔」の学問と人生を回想する本であると著者がはしがきに書いています。ただし、著者も数学者なためか、岡潔の人生よりも論文の流れに重点が置かれていて、新書版の本としてはきわめて難解です。[感想]ここでいう「学問」については、数学のそれも最先端の分野の話なので、数学者でない私にはさっぱりわかりませんが、こういう世界もあるのだなぁというのが感想です。数学者としての岡潔の生き様についても行間から窺えますが、奇行でも知られた岡先生の生活についても、もう少し面白く書いてあったら一般の人に親近感が湧いたのではないかとも思いました。理系の研究というと、とかく予算、施設、設備などがからみ、それらを多く利用できる立場にいる者が有利であるという状況があります。その点、数学者は自己の才能と努力だけで勝負するのが、すがすがしく感じられます。[頁のかけら] ○ 何か数学上の発見というふうなことを言うためには、一度行き詰まらなければなりません。どれくらい行き詰まってるかといったら、たいてい六、七年は行き詰まる。追記○ 先生は、お勤め先の奈良女子大学まで歩いて行かれたが、その途中にお地蔵さまがある。その前までくると先生は、道端の石を拾ってこれをお地蔵様に投げつける。もしこれがうまくお地蔵様に当れば、先生は歩き続けて大学まで行かれて講義をされるが、もしこれがうまく当らなければ、先生は、そこからお宅へ引き返されて、その日は先生の講義は休講になってしまうというのである。 「ゆかいな数学者たち」(矢野健太郎)より **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.6.11. No.115)
2009.06.11
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114 「中国、核ミサイルの標的」 平松茂雄 (ひらまつ しげお)角川書店 224頁¥743 2006.3.10 初版第1刷発行 [目次] 序章 なぜ日本の知識人は中国の核の脅威を論じないのか 第1章 核兵器保有の論理第2章 ソ連からの援助を受けた初期の核兵器開発第3章 核兵器独自開発への転換第4章 次世代核兵器の開発第5章 宇宙開発と対米直接攻撃第6章 台湾の軍事統一第7章 なぜ、日米にとって台湾が問題になるのか第8章 日本のとるべき戦略は残されているあとがき附表1、附表2[内容]著者は中国軍事問題研究家。元防衛研究所研究室長です。ソ連のスターリンは核兵器の使用禁止、実験停止を世界に訴えながら、他方で自力で核兵器開発を急いだ。 中国の毛沢東は、他国首脳との会見では「原爆は張り子の虎」といいながら、その裏で通常兵器の改良はあとまわしにして、国の経済発展は無視して、当初から水爆と大陸間弾道ミサイルの組み合せによる対米核抑止力を構築するという明確な戦略目標をもって核兵器の開発に邁進した。中国の人工衛星の打ち上げは、もっぱら軍事用で、民事用や通信衛星はなかった。原水爆を保有しても原子力発電を始めることはなかった。航空機を開発してもすべて軍用機で、民間航空機はなかった。この本は、中国の核開発にかけるすさまじい執念と、すべてを犠牲にして開発してきた結果が世界に与える脅威とを、詳しいデータにもとづいて明確に示しています。[感想]こういう本を読むのは、ほんとうにしんどい。しかし、目をそらしているわけにはいかない。二回の世界大戦をへても、何もそこから汲み取ることなく、イデオロギーか、はたまた己の権力をまもるためだけに、国家予算のほとんどをつぎこんで大量殺人兵器を開発している国家が今も存在する現況に、深く暗い気持ちにならざるをえません。北朝鮮はかつての(そして今の)中国を見習っているにすぎない。北朝鮮の核実験とミサイル発射実験だけでなく、日本や他のアジア諸国(韓国、フィリッピン、タイ、ヴェトナム、モンゴルなど)が直面する核の状況から目をそらさないことが必要と思わされます。戦後64年たって、日本人でさえ原爆の恐ろしさの実感をもっている人は少なくなりつつあります。アメリカ、ロシア、中国、英国、フランス、インド、パキスタンなど、核保有国の施政者も、ありていのところ、まったく実感がないでしょう。施政者が、想像力の欠如から、核兵器のボタンを押すとき、パンドラの箱が開き、そのときこそ「人類は生物進化の失敗品」とうそぶく悪魔の高笑いが虚空に響くことでしょう。[頁のかけら] ○「中国は人口が六億人いるから、仮に原水爆によって半数が 死んでも、三億人が生き残り、何年か経てばまた六億人になり、 もっと多くなるだろう」 (毛沢東) (生き残った三億人はむごい放射線障害に苦しみ、国土は疲弊する ことでしょう)○ (毛沢東の言は、) 「単なる聞きかじりだけで、核兵器のいかなるものかを知らない」、人間の「非人間的な考え方」であり、「野獣の考え方」である。 (フルシチョフ)○ 「一点の火花も核戦争に拡大する」 (フルシチョフ)**************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.5.24. No.114)
2009.05.24
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113 「エピソードで読む西洋哲学史」 堀川哲 (ほりかわ てつ)PHP新書 395頁¥920 2006.4.28 初版第1刷発行 [目次] はじめに 第 I 部 これがモダンだ(17-18世紀)第1章 機械と神 -- デカルト、スピノザ第2章 イギリス人の哲学 -- ホッブス、ロック、ヒュ-ム第3章 百科全書派とルソ- -- サロンの哲学者たち、ヴォルテール、ディドロ、ルソー第 II 部 調和の快感 (18-19世紀)第4章 モダンの優等生 -- スミス、カント第5章 歴史の哲学 -- ヘーゲル、マルクス第 III 部 歴史の終り (20世紀)第6章 超人と精神分析 -- ニ-チェ、ハイデガー、フロイト、ウィトゲンシュタイン第7章 フレンチコネクション -- サルトル、ボーヴォワール第8章 コンピュータとDNA -- ウィナー、ドーキンス、ジャック・モノー第9章 リチャード・ローティおわりに[内容]表紙裏の説明には、「彼ら(哲学者)は、不条理な世界と人生をどのように理解し、渡り歩いたのか。生い立ち、学歴、異性関係、挫折、死に際などのエピソードを拾い集め、その思想のルーツを探る。好奇心、やじうま根性なくして哲学は語れない!抱腹絶倒の哲学者列伝」とあります。抱腹絶倒というほどではありませんが、哲学者の生きざまが面白く書かれています。生きざまだけでなく、その哲学者が何を考え、どのように主張していたかが分かりやすく示されています。もうひとついい点は哲学者間の思想的なつながりにも触れていて、哲学の歴史にようなものが展開されていることです。[感想]哲学は私にとってほとんど無縁でした。キェルケーゴールとウィトゲンシュタインを除いて。若いときからぽつぽつと哲学にふれた本など買っていたのですが、何を言っているのかちんぷんかんぷん。後で分かったことはそれらの文章中で使われている言葉は日常用語のようにみえてじつは別の意味をもつ業界用語でその定義を知らないと読めないということでした。そんなら一般向けの詳しくやさしい注解書でもあればよいのにと思いました。聖書注解書のように。道元の膨大な「正法眼蔵」でさえ注解書が出ているではないか。あったのかも知れませんが田舎では求むべきもありませんでした。もうひとつ哲学が無縁だった理由は、スミスにしろ、フロイトにしろ、はたまたカントでも、生涯にわたって議論している課題が自分の生活となんの関わりもないことでした。自分が抱えている課題の解決をもとめて哲学書を開いても、そこには私にはどうでもよいことしか扱われていませんでした。私のほうは漱石の「門」の主人公のような心境でした。しかし、年をとるにしたがって哲学に期待するのは半分あきらめたせいか、ときどき哲学にふれた気楽な本をまた買うようになりました。[頁のかけら] ○「答えが成立するときだけ問いも成立し、そして何かが語られうるときだけ答えも成立する」。人生の意味については私たちは問うことさえもできないのだ。それは答えがありえないからであり、それについて語ることはできないからである。語りえないものについて人は沈黙しなければならない、のである。これが(ウィトゲンシュタインの)「論理哲学論考」の結論である。**************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.4.3. No.113)
2009.04.03
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112 「生物と無生物のあいだ」 福岡伸一 (ふくおか しんいち)講談社現代新書 285頁¥740 2007.5.20 初版第1刷発行 [目次] プロロローグ第1章 ヨークアベニュー、66丁目、ニューヨーク第2章 アンサング・ヒーロー第3章 フォー・レター・ワード第4章 シャルガフのパズル第5章 サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ第6章 ダークサイド・オブ・DNA第7章 チャンスは、準備された心に降り立つ第8章 原子が秩序を生み出すとき第9章 動的平衡とは何か第10章 タンパク質のかすかな口づけ第11章 内部の内部は外部である第12章 細胞膜のダイナミズム第13章 膜にかたちを与えるもの第14章 数・タイミング・ノックアウト第15章 時間という名の解(ほど)けない折り紙エピローグ[内容]この本には、つぎのようなことが書かれています。遺伝子はタンパク質ではなく、DNAであったことを示したエイブリ-、PCRの原理を発見したキャリー・マリスDNAの構造模型をはじめて提示したワトソン、クリック、ウイルキンソン彼らの「業績」の裏に隠れた陰湿な事実と悲劇のロザリンド・フランクリン動的平衡を示したシェーンハイマーの重窒素を用いた実験細胞内で造られたタンパク質が細胞外へ出るしくみを示したジョージ・パラーディ幹細胞(ES細胞)発見の端緒となる腫瘍を発見したリロイ・スティーブンス著者によるノックアウト実験の顛末[感想]ある事情から新幹線のぞみで博多まで行くことになった日に、5時間もの退屈をしのぐためにと上野駅の書店で書名につられて買ったのが本書でした。この本に書いてあることのほとんどは、理系人間とくに生物学を少しはかじった人間からみればとくに新しいことではありません。にもかかわらず、読んでいてわくわくする楽しい本でした。みれば帯にこれまで50万部も売れ、新書大賞とサントリー学芸賞を受けたとあります。サイエンスの話は一般に難解です。しかし、著者の現役の実験科学者としての深い経験と稀にみる文章力から、DNAや細胞膜のことをまったく知らない人でも、庭先の花を見るように具体的なありさまが目に浮かぶことでしょう。おすすめの本です。ベストセラーになったのも、むべなるかなです。[頁のかけら] ○生命とは動的平衡にある流れである。(なお、138頁にある「花粉のブラウン運動」の記述は誤り。花粉ではなく花粉中の顆粒がブラウン運動をする。これは古典的で有名な誤りです) **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.3.21. No.112)
2009.03.21
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111 「贅沢なる人生」 中野孝次 (なかの こうじ) 文春文庫 207頁¥371 1997.9.10 初版第1刷発行 [目次] まえがき 大岡昇平 尾崎一雄 藤枝静男 中野孝次・生のかたちー解説にかえて 近藤信行 [内容] 著者中野孝次が人生で出会った師とよぶ三人の先輩作家 について語っています。 [感想] 作家の生き方には、他の職業の人には見られない個性的で、 多様な面があります。私のような宮仕えの理系人間として過ご した者からすると、羨ましいほどの自由さがあります。 そのためかこのような作家の生き方を語る本をふだんから好 んで読んでいます。この本からは以前にご紹介した奥野健男 「素顔の作家たち」とはまたちょっと異なる側面が窺えます。 [頁のかけら] 「負け惜しみが強いのねえ」と家人が笑っていったが、 負け惜しみをのけたらぼくという人間に、何が残るか。 何も残らないかもしれない」 大岡昇平 ○ 文章というものは「風俗や飾りから真っ先に腐食していく」 尾崎一雄 ○「東洋の芸術が西洋の芸術の伝統で接ぎ木されなければ ならぬ理由はない。そしてそれより何より、元来もっとも個人的 であるべき芸術が何故ヨーロッパの規格に合ったものでなければ いけないのか私には合点が行かないのである」 藤枝静男 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.3.18. No.111)
2009.03.18
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110 「おごれる白人と闘うための日本近代史」 松原久子 (まつばら ひさこ)田中敏(訳)文藝春秋 237頁¥1524 2005.8.25 初版第1刷発行書題の「おごれる」は馬へんに喬原題 はドイツ語で Raumschiff Japan (宇宙船日本)つまり日本人がドイツ語でドイツで出版した本を日本人が翻訳した本です。 [目次] 訳者まえがき序章 「西洋の技術と東洋の魅力」第1章 世界の端で -「取るに足らない国」だった日本第2章 劣等民族か超人か-「五百年の遅れと奇跡の近代化」という思い込み第3章 草の根民主主義 -江戸時代の農民は「農奴」ではなかった第4章 税のかからない商売-商人は独自の発展を遂げていた第5章 金と権力の分離-サムライは官僚だった第6章 一人の紳士-初代イギリス駐日公使オリコックが見た日本第7章 誰のものでもない農地-欧米式の「農地改革」が日本に大地主を生んだ第8章 大砲とコークス-日本はなぜ「自発的に」近代化しなかったか第9章 高潔な動機-「白人奴隷」を商品にしたヨーロッパの海外進出第10章 通商条約の恐ろしさ-日本はなぜ欧米との「通商関係」を恐れたか第11章 茶の値段-アヘンは「中国古来の風習」だと信じている欧米人第12章 ゴールドラッシュの外交官-不平等条約で日本は罠に陥った第13章 狙った値上げ-関税自主権がなかったために第14章 頬ひげとブーツ-欧米と対等になろうとした明治政府第15章 猿の踊り-日本が欧米から学んだ「武力の政治」第16章 たて糸とよこ糸-今なお生きる鎖国時代の心著者あとがき参考文献[内容]これは欧米に向けての日本の伝統文化の紹介や解説などとは次元の異なる、「日本の弁明」であり、「言葉による自国の防衛」です。ドイツやアメリカで袋だたきに遭い、傷つき悔し涙を流しながら、今なおこびりついている欧米人の日本への無知、誤解、奢りについてテレビや講演で反論してきた著者がドイツでドイツ語で出版した本の日本語訳です。「この本はどうしても彼らに言わねば我慢できないという「激怒」と「使命感」に{燃えて書き上げた」「出版にこぎつけるまでの闘いで一度に十歳くらい歳をとった」「この報われることの少ない薄幸な作品をこのまま埋めてしまうことに、ある日突然耐えられなくなった」(著者の言)[感想]世界、とくに欧米史観の中に置かれた「日本史」や「世界史」を教育されてきた世代の私には衝撃を受けた一書でした。どの国であれ、自国の歴史や世界史を誤解や糊塗や自虐や奢りや捏造なしで描くことがいかに難しいかを知らされます。この本には、イギリスがインドにワタだけの栽培を強制し、綿織物の家内工業を弾圧して植民地化に成功したこと、イギリスのピューリタンが北米大陸に上陸したとき先住民の助けによりかろうじて冬の餓死を免れたにもかかわらず、その後に先住民を殺戮し追放しその豊かな土地を奪ったこと、オーストラリアに送り込まれたイギリス人が先住民を悪魔の子として殲滅したこと、中国に対する巨額の貿易赤字をアヘンをもちこんで解消したこと、日本に対して植民地と同じ不平等条約を世界の慣例だといってアメリカ領事ハリスやイギリス公使オールコックがだまして押しつけたこと、金と銀の交換比率を偽り、それが原因で百万両を越える金貨が欧米に持ち去られたこと、などなどが記されています。[頁のかけら] ○ 近東、インド、東南アジア、中国、日本といった古い文化の中心地に比べて、中部及び北部ヨーロッパはかつて荒涼とした貧しい土地だった。このことは今日なかなか想像し難い。ヨーロッパは惨めにも貧しい大陸だった。その事実はいくら壮大な大聖堂を建設しても覆い隠すことはできなかった。○「奴隷(スレイブ)」は、語源的に「スラブ人」と同じである。大掛かりな奴隷狩りが行われた。ポーランドからボルガ河畔に沿ってウラル山脈にいたるロシアの平原で、ヨーロッパの奴隷狩り専門家たちによって、スラブ人の男女が捕らえられたのである。(アフリカの黒人の奴隷狩りの前に白人による白人奴隷狩りが存在した。オリエントへの輸出品とするために!)○ヨーロッパのいくつかの民族が海洋国家となったそもそもの動機は、決して遠い異教徒たちの魂を救済するためでも、キリスト教伝道の任務を遂行する内なる衝動のためでも、文化的優越感のためでも、その優越感から導き出された、非ヨーロッパ民族をヨーロッパの文化によって幸せにしたいという願いのためでもなかった。大航海時代を生み出した原動力は、自然に呪われたヨーロッパ大陸の貧しさを克服したいという願望だった。 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.2.6. No.110)
2009.02.06
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109 「さくもつ紳士録」 青木恵一郎 (あおき けいいちろう) 中公新書 208頁¥??? 1974.8.25 初版第1刷発行 [目次] 果物 石垣いちご、夏みかん、鳥取二十世紀、巨峰ぶどう、など36項目 稲 太郎兵衛もち、銀坊主、愛国、ササニシキ、小麦農林十号、など16項目 工芸さくもつ 蜂蜜、狭山茶、こんにゃく、くず、国分タバコ、など11項目 野菜 たけのこ、ふき、練馬大根、聖護院かぶ、野沢菜、など36項目 あとがき [内容] 見開き2頁に1項目ずつ、果物、稲+麦類、工芸作物、野菜などの品種 について、育成された由来や栽培普及の状況などを描いた新書版の 本です。全部で99項目あります。 「水を飲むときは源を思い、米、果物、野菜を食べるときは、それを 育てた人を思え」という言い伝えを、著者はあとがきで引用しています。 [感想] 「(歴史は)人を殺し合う戦場のことはいろいろ書きたてるが、 我々に生きる糧を与える栽培畑のことは黙りこくっている。 歴史は王様の隠し子たちのことなら知っているが、小麦の起源と なるとさっぱり知らない。 人の愚かさの然らしめるところだ」 J.アンリ.ファ-ブル この本に出てくる人々。 夏みかん : 西本於長 (山口県大津郡の評判娘)が発見 サクランボ「佐藤錦」:佐藤栄助 (山口県上山、明治) ナシ「二十世紀」 : 松戸覚之助 (千葉県東葛飾郡、1898年) ブドウ「甲州」 : 雨宮勘解由 (山梨県八代郡、1186年) ブドウ「巨峰」 : 大井上康 (静岡県田方郡、昭和) リンゴ「ふじ」 : 定盛昌助 (農林省園芸試験場東北支場) イネ「神力」 : 丸尾重次郎 (兵庫県、1877年) イネ「農林1号」 : 並河成資 (新潟県農事試験場) コムギ「農林10号」 : 稲塚権次郎、浅沼清太郎 (岩手県農事試験場) 世界のコムギの増産に貢献した品種。 (ボ-ロ-グがノ-ベル平和賞を受けたとき、 賞の意義からいえばその遺伝資源を創った 稲塚らも受賞されるべきだったと思う) こんにゃく :中島藤右衛門 (茨城県那珂郡) じゃがいも : 幸田善太夫 (飛騨高山)、川田龍吉 (函館) [頁のかけら] ○ (長門国(山口県)大津郡青海島に)元気な評判娘・西本於長がいた。 あるとき、縞の大日比の海岸に珍しい果物が流れついた。於長がこれを 拾って、その種子を蒔いて育てたところ、木はだんだん大きくなり、数年 にして大きな果実をつけた。しかし、これが何というものかだれも知る者 がない。近所の子供たちは、この果物をまり投げ遊びに使い、人にぶっつ けるので、人々は「於長さんはバケモノを作った」と非難したものである。 (夏みかんの由来) ○ **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.2.1. No.109)
2009.02.01
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108 「藍が来た道」 村上道太郎 (むらかみ みちたろう) 新潮選書 219頁¥874 1989.10.20 初版第1刷発行 [目次] はじめに I 海を渡ってきた藍 一、 ヒロシゲ ブルー 二、 紺屋の白袴 三、 頼朝の袴 四、 貴族の衣 五、 青丹よしの色 六、 水はだの帯 七、 大国主命の衣の謎 八、 倭人の面影 九、 卑弥呼と魏王の贈り物 II 藍は地球をめぐる 一、正倉院とシルクロード 二、 ヨーロッパの藍 三、 アフリカの藍 四、 アメリカの藍 III 私と藍 あとがき [内容] イルクーツクの捕虜収容所での苛酷な日々から生還した著者は、 草木染めの世界に救われ、独学で道を究めた。 60歳台に入り、都会の生活と個展、講演、執筆に疲れ、仕事からくる 神経痛に悩み、北伊豆の山中に引きこもったとき、はじめて藍に 出会う。 以後、古代の染色技術の研究から「藍の生葉染めと乾葉染め」、 「ヨーロッパ藍の栽培と染色」、「植物染めの機械化」などに成功した。 このような著者による藍談義です。縦横無尽に語られる世界各国 の藍の話はつきません。 [感想] この本を紹介しようと思ったのは、偶然テレビで藤田まこと主演の 「必殺仕事人」の中で藍職人が藍を染めるシーンをみたからでした。 著者は「藍とはどんな木ですか」と質問されて驚いたと書いていますが、 恥ずかしながら私も、藍はある1種類の植物だと思いこんでいました。 藍と呼ばれるている植物は世界中で数多くあって、藍はそれぞれ 特徴のあるそれらのさまざま植物の総称だということを知りました。 日本本州 タデアイ(蓼藍) タデ科 沖縄 琉球藍 北海道 蝦夷大青(北海道藍) アブラナ科 この本ではそのほか世界の藍として、 インド藍、アフリカのスーダンやナイジェリアの藍、米国のインディオ による藍、アンデスの藍、などが出てきます。 [頁のかけら] ○ (チュニジアの女性には、結婚や祭りに「ハンナ」と呼ばれる化粧 を手足に施す習慣があり、それと関連して娘が嫁ぐ日の歌が紹介さ れています。ハンナとはミソハギ科のツマクレナイのこと) 娘よ この日を楽しみに お前を育てた なんてうれしい 美しく装って あなたは この家を去る おめでたいのに わたしは さびしい **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.22 No.108)
2009.01.22
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107 「ジャガイモのきた道-文明・飢饉・戦争」 山本紀夫 (やまもと のりお) 岩波新書 204頁¥740 2008.5.20 初版第1刷発行 [目次] はじめに 第1章 ジャガイモの誕生 -野生種から栽培種へ 第2章 山岳文明を生んだジャガイモ -インカ帝国の農耕文化 第3章 「悪魔の植物」、ヨーロッパへ -飢饉と戦争 第4章 ヒマラヤの「ジャガイモ革命」 -雲の上の畑で 第5章 日本人とジャガイモ -北国の保存技術 第6章 伝統と近代化のはざまで -インカの末裔たちとジャガイモ 終章 偏見をのりこえて -ジャガイモと人間の未来 あとがき 参考文献 [内容] ジャガイモは富士山の高さに匹敵する標高3000mから4000mの 南米アンデス高地の高山植物として生まれました。 この本では、ジャガイモこそアンデス先住民を支えた作物であった ことを証明すべく努めてきた民俗植物学を専攻する著者が、 ジャガイモの生い立ちから、世界各地への伝播と普及、そして 人々の暮らしに与えた影響について語っています。 [感想] 作物の中でジャガイモほどエピソードの多い作物はないでしょう。 アンデスの山岳地帯で野生のジャガイモからどのように栽培種が生まれたか。 南米アンデスから海を越えて、ヨーロッパの平地にどのように伝わったのか。 当初は気味悪がられたジャガイモが、どのように受け入れられていったのか。 ジャガイモの不作で起こったアイルランドの大飢饉はどのような有様だったのか、 などなど。 海外ではこのようなジャガイモにまつわる話を扱った本はいくつも出て いますが、この新書本では、それらを引用しながらも、著者長年の 研究成果が随所に説かれています。またインカ時代のジャガイモの 植えつけ風景、ダブリンにある大飢饉を表わす群像、パリ地下鉄に あるパルマンティエの肖像、エベレスト山麓でのジャガイモの収穫状況、 など興味深い写真も多く載っています。 [頁のかけら] ○ 江上(波夫)氏は、イモを中心とする芋農耕では文明は生まれ ない、とはっきり述べている。また、江上氏も伊東(俊太郎)氏も 穀物農耕こそが文明を生んだと強調している。これらの説のためか、 これまでアンデス文明もイモではなく、トウモロコシを中心とする農耕 が生んだというのが定説であった。たとえば、日本の高等学校の 歴史教科書でもほとんど例外なく「アンデス文明はトウモロコシ農耕 を基礎に成立、発達した」と記述されている。(中略) しかし、私自身は、ちがう、と思っている。 ○ 初めてインカの領土に入ったスペイン人たちを驚嘆させた農耕 技術が少なくとも二つあった。ひとつは灌漑であり、もうひとつは階段 耕作である。 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2009.15 No.107)
2009.01.15
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106 「名画でみる聖書の世界」 <新約篇> 西岡文彦 (にしおか ふみひこ) 講談社 284頁¥1600 2000.10.15 初版第1刷発行 [目次] はじめに 1. 受胎告知 2. 東方三博士の礼拝 3. キリスト洗礼 4. 悪魔と奇跡 5. 山上の説教 6. 最後の晩餐 7. 裏切りと嘲笑 8. ゴルゴタへの道 9. 十字架のイエス 10. ピエタ 11. キリストの復活 12. 最後の審判 おわりに [内容] 西洋の絵画を鑑賞するときには、聖書の世界の世界を欠かせない。 それは、キリストや聖母マリアや洗礼者ヨハネや大天使ガブリエルが 出てくる絵だけでなく、一見ふつうの市民生活を描いたものでも、 聖書の中の約束事が隠されていて、それを知らないと大きな誤解 をする。たとえば画面に赤と青の女性があれば、それは聖母マリアである。 この本は聖書に関連する絵画を説明しながら、絵だけでなく、 画家を語り、聖書の世界を語り、神と人との関係を語っている。 [感想] テレビでよく紹介されるフェルメールの「天秤を持つ婦人」が、単に 女性が宝石の重さを計っているさまを表しているのだと思っていたら、 後ろの壁に「最後の審判」の絵が描かれていて、絵画全体が最後の 審判で人の一生になしたことが秤にかけられていることを示している ということを知り、まさに「目からウロコがおちる(パウロ)」気持ちでした。 この本で紹介されている273の絵画のうち、レンブラント最後の作品と いわれる「放蕩息子の帰還」(122頁)がいちばん好きです。 [頁のかけら] ○ やっと十字架のイエスが描かれるようになったのが六世紀。 九世紀頃からは聖書の記述に従って、聖母や聖ヨハネという 立会人の約束事も成立し始める。が、それでも十二世紀頃まで は、イエスは十字架の上で威厳を保っており、苦痛の表情はいっさい 見せていない。微笑さえ浮かべている。この超然としたイエスに、 苦痛の表情が見え始めるのは十三世紀になってからのことである。 ○ピエタの迫真の描写には、大きな二つの虚構がある。 ひとつは聖母の年齢である。イエスの母親にしては、このマリア は若過ぎる。むしろ妻にしか見えない年齢である。 その聖母の身長が、ミケランジェロのピエタのもうひとつの虚構である。 座った姿勢でこれだけの高さならば、立ち上がった聖母は、ゆうに イエスの二倍はあるだろう。にもかかわらず、頭の大きさはイエスと 同じである。こんな不自然なプロポーションであるにもかかわらず、 作品の見た目はきわめて自然である。 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2008.12.24 No.106)
2008.12.24
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105 「世界一有名な方程式の伝記 E=mc2」 デヴィッド・ボダニス (David Bodanis)(訳)伊藤文英・高橋知子・吉田三知世早川書房 330頁¥1900 2005.6.30 初版第1刷発行 [目次] はじめに第1部 誕生第2部 E=mc2の先祖第3部 若かりし頃第4部 成熟期第5部 時間が果てるまで付録 他の重要人物のその後謝辞文献案内注[内容]この宇宙において、エネルギ-は形は変わっても総量は変化しない(ファラデ-)。物質の質量もまた、形は変わっても、総量は変わらない(ラボアジェ)。そして、エレルギ-と質量は互いに交じり合うことのない別次元のものと物理学者さえ長い間考えていた。そこへ、アインシュタインが E=mc^2 という方程式を提示し、エネルギ-と質量が相互に代わりうること、その変換係数が光速度cの2乗であることを示した。物理学の国際誌に掲載されても、すぐには理解されなかったらしい。この本は、この方程式がどのように生まれ、どのように育ち、どのような結果を与えたかを、生き生きと描いています。この方程式から、原爆という悪魔と、原子力という新しいエレルギ-とが生まれ、火災報知器や非常口灯にまで使われる放射性物質の種々の応用場面が開かれました。最後は、太陽の寿命や宇宙全体の悲劇的終末にまで話は及んでいます。随所に科学者の生涯やエピソードが盛り込まれ、一気に読みました。[感想]E=mc^2という方程式を大学で教えられてから、どうしてあんなに簡潔な方程式で表わされるのだろうとズット気になっていたので、この本を買えば、少しは分かるのだろうと期待して買いました。しかし、その期待はあまり満たされませんでした。それ以外の周辺の話はわくわくするほど面白かったのですが、詳しい説明は著者のサイトにあるというので探したけれど、それらしき記事は見つかりませんでした。第二次大戦中のナチスドイツと米国との原爆開発(?)競争のくだりは、映画のシナリオのように興味深く描かれていますが、その結果が広島・長崎に及ぼした惨状にはほとんど触れられていないのも残念です。[頁のかけら] ○「宇宙には、15747724136275xxx-xxx-xxxxx611815554680447 179145271167xxx-xxx-xxxxx6185631031296個の陽子と同じ数 だけの電子が存在すると私は考えている」 エディントンの論文の冒頭○教師たちにとって、従順さに欠けるアインシュタインは頭痛の種だった。中でももっとも彼に悩まされたのは、高校時代のギリシャ語教師ヨゼフ・デゲンハルトだった。彼は「きみは絶対に大した人物にはならない」と(アインシュタインに)言ったことで、歴史書に名を残すことになる。○「ドイツには原爆がつくれないとわかっていたら......」と、アインシュタインは長年の秘書に語ったことがある。「けっしてあんなことには手を貸さなかった。指一本さえも貸さなかったのに」**************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2008.12.22 No.105)
2008.12.22
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104 「文字の文化史」 藤枝晃 (ふじえだ あきら)(1911-1998)岩波書店 293頁¥950 1991.10.15 初版第1刷発行 [目次] 1. 殷人の絵文字2. 神々との対話3. トウテツの背面4. 皇帝の文字5. 政治の文字6. 印章7. 絹8. 紙の出現9. 巻物の尊厳10. 古文書11. 新しい書物のかたち12. 漢字の周辺13. 印刷のはじまり14. 不滅への願い15. 木版印刷16. 活版印刷あとがき[内容]ここで扱われる文字は、東洋の文字です。3500年前に刻まれた甲骨文・金文・漢字の誕生は、神をまつり、神託を聞く儀式と深い関連がありました。このような聖なる文字が、やがて万人のものとなる過程を丹念に追い解説しています。象形文字からはじまり印刷技術が出現するまでの漢字の歴史を、文字そのものだけでなく、写本の素材や形態、文字を記すのに用いた道具なども含めて、その変化を語っています。敦煌出土のペン字写経など貴重な図版も102点載っています。(表紙裏の文章を参考にして)(なお西洋の文字については、ブログ24(2007.8.8)の「文字の歴史」(GeorgesJean)を参照下さい)[感想]著者は敦煌学および西域出土の古写本研究の第一人者で、中国で研究した際に「敦煌は中国にあるが、敦煌学は国外にあった」と賛嘆された、とWikiに書いてあります。専門家による本ですが、とても読みやすく書かれています。中国には敦煌の古文書は別として、通常の社会での古文書はほとんど残されてこなかったということに驚きました。[頁のかけら] ○亀卜に使うのは実は腹の甲であって、背中の甲羅ではない。甲羅の方は固くて文字など刻れないし、亀裂も注文通り出ない。○文字についての始皇帝の(焚書坑儒に加えて)もう一つの処置は、皇帝が公式に宣言する言葉をしるすための文字と、皇帝以外の者が使う文字とを区別したことである。皇帝用の文字は「篆(てん)書」という書体、臣下用は「隷書」という書体。○秘書とは、本来の意味は文字通り「秘要の書」であって、実質は「天子の書」を指す。書とは、書物も書類も含む。従って秘書省とは、天子に所属する書き物一切を扱う役所である。のちに書物が印刷になり、「秘要の書」ではなくなって、書類だけを指すようになり、今日の日本の秘書官、秘書役となる。○**************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2008.12.18 No.104)
2008.12.18
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103 「あんな作家 こんな作家 どんな作家」 阿川佐和子 (あがわ さわこ) 講談社文庫 301頁¥571 2001.3.15 初版第1刷発行 [目次] 松谷みよ子 松本清張 新井素子 山村美紗 山口洋子 大沢在昌 宮本輝 吉村昭 山川健一 逢坂剛 田辺聖子 C・W・ニコル 白石一郎 中山あい子 森瑶子 中村敦夫 高橋克彦 瀬戸内寂聴 村松友視 渡辺淳一 森村誠一 吉行淳之介 澤地久枝 藤沢周平 曽野綾子 以下全57名 文庫あとがき [内容] 阿川佐和子が当代人気作家に突撃取材、 と裏表紙にあります。 [感想] 297頁に57人もの作家のインタヴューを詰めこんだ文庫本なので、 あまり多くは期待できない。これは作家論でも作品論でもない。 ただ取材したときの感想みたいなもの。でもそれぞれの作家に ついて、ほかの本には書いてないことがみつかる。 気軽に読むにはいいかも。 [頁のかけら] ○「僕はただ景色がきれいで安全といった国には興味がない。 三日いると退屈しますね。むしろ、あの角を曲がったらヒョッと するとやられるんじゃないかって、そういうウキウキした緊張感 がある国が好きです」 船戸与一 ○『いかなる名人上手でも、細工の出来不出来は時の運。下手な 細工を世に出して、かほどに御無念と思し召しなら、これから いよいよ精出して、世の人を驚かす立派な面を作ってくだされ。 一生に一つでも立派な面を打てば、それがあっぱれ名人では ございませぬか』 「修善寺物語」 ○大きな作品を書くときは、必ず心の中で誰かに片思いを しています。 三浦哲郎 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2008.12.14 No.103)
2008.12.14
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102 「鉄から読む日本の歴史」 窪田蔵郎 (くぼた くらお)講談社学術文庫 269頁¥960 2003.3.10 初版第1刷発行 [目次] 序1. 鉄器時代のはじまり2. 大陸からきた鉄器文化3. ヤマタノオロチと製鉄民族4. 大和朝廷をささえた鉄器5. 三韓遠征と武具6. 権力の象徴としての鉄器7. 王朝の確立と製鉄の普及8. 姿を消した銅製武器9. 荘園経済をささえた鉄製農工具10. 鋳鉄技術の発達した鎌倉・室町時代11. 日本刀の輸出と鉄砲の伝来12. 南蛮鉄の流入13. 鉄山師の信奉した宗教14. 砂鉄七里に炭三里15. タタラ製鉄の設備16. タタラの操業法と製品17. タタラ場残酷物語と幕府・藩の鉄山干渉18. 外国船の渡来と反射炉・洋式高炉築造19. 富国強兵と近代製鉄業の勃興原本あとがき学術文庫版あとがき[内容]日本の歴史を切り開いてきた製鉄技術について、時代を追って紹介しています。大陸から伝来し、大和朝廷の権力の基盤となり、荘園経済を支え農業の生産力を飛躍的に発展させ、美術工芸品として輸出までされた日本刀を生み、信長や戦国の武将の勝敗を決めた鉄砲を普及させ、明治に入ると近代国家の象徴となった鉄について、考古学、民俗学、技術史をも交えて解説しています。著者は日本製鋼連盟に勤め、サラリーマン生活のかたわら、参考文献を求めて土曜の午後は神田古本屋街をあさり歩き、それが済むと上野図書館に通いづめ、つぎは小遣いをはたいて各地の製鉄関係の遺跡を歩き、鉄と日本の歴史の関係をさぐり集めつづけたをあとがきにあります。[感想]ときどき出てくる製鉄についての専門用語がシロウトにはわかりにくいことと、文章が少し古調という点がありますが、全体として読みやすく興味のあることが豊富でした。[頁のかけら] ○人類はどうして鉄を知ったか?この問いに対しては、いまだ確たる答えは与えられていない。しかし、偶然に鉄を入手する経路として次の二つが考えられる。すなわち、一つは落下した隕鉄の入手であり、もう一つは露出した鉱脈の上での焚き火や山火事または溶岩の流れなどによって自然に製錬された鉄の入手である。○平安時代には日本刀製造の技術が完成しており、形状も奈良時代の直刀形式から、現在見られる「そり」と「しのぎ」のある日本刀の形へと移っている。○(鉄砲が伝来した種子島は砂鉄の産地で、古来から小規模ながら鉄を生産していたので、領主が異国人から買い求めた二挺の鉄砲を手本にして苦心のすえ鉄砲を製造できた。それにくらべて大砲のほうは幕末まで満足なものができず、試射の折に砲身が爆発して射手が即死する事故が何度もあった、ということです。)**************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2008.12.13 No.102)
2008.12.13
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101 「塩の道」 宮本常一 (みやもと つねいち) 講談社学術文庫 ¥800 1985.3.10 初版第1刷発行 [目次] I. 塩の道 1. 塩は神に祭られた例がない 2. 製塩法とその危惧の移り変わり 3. 塩の生産量の増加に伴う暮らしの変化 4. 塩の道を歩いた牛の話 5. 塩を通して見られる生活の知恵 6. 塩の通る道は先に通ずる重要な道 II. 日本人と食べ物 1. 民衆の手から手へ広がっていった作物 2. 北方の文化を見直してみよう 3. 稲作技術の広がり方 4. 人間は食うためにだけ働いているのではない 5. 食糧を自給するためのいろいろなくふう III. 暮らしの形と美 1. 環境に適応する生活のためのデザイン 2. 農具の使い方にみる日本人の性格 3. 直線を巧みに利用した家の建て方 4. 畳の発明で座る生活に 5. 軟質文化が日本人を器用にした 6. 生活を守る強さをもつ美 解説 田村善次郎 [内容] 生活学の先駆者として生涯を貫いた著者最晩年の貴重な 3話を収録したもので、日本人の生きる姿を庶民の中に求め て村から村へと歩きつづけた著者の膨大な見聞と体験が 中心となっている。と、裏表紙にあります。 この本は2007年4月までで46刷を重ねています。 [感想] 著者の講演をまとめたもので、ですます調で書かれていて、講話を 聞いているような親しみを覚えます。内容は具体的で、日本人の 生活のなりたちがよく分かります。 [頁のかけら] ○山の中の人が刺身を食べたのは、大正時代になって魚を氷詰め にして運ぶようになってからです。それまで山の中で海の魚を生で 食べるということはなかったのです。 ○大阪を中心とした吉野の杉が利用されて桶や樽が作られ、堺や 西宮地方を中心に大量な酒の醸造がおこってきます。その酒が江戸 にきますと、そのからっぽになった樽は大阪までもって帰ることが できないので江戸は置かれます。江戸へ置かれることによって、 今度はそれを利用して江戸の郊外でつけ物が発達するようになります。 練馬を中心にしたダイコンづけから菜っ葉のつけ物、それは、そういう 関西から運ばれた樽や桶が利用されたものです。そればかりでなく、 さらにそういう桶や樽を利用して千葉県のしょうゆの醸造業も発達 していった。 ○日本における馬の使い方、牛の使い方、とくに東日本における馬 の使い方を見ますと、馬へは乗るものではなかった。馬へは荷をつけ る、そういうことはあった。そうして、しかもその馬を人間が引っぱって いく。口取りした馬を、荷をつけて引っぱっていく。人間が乗る場合 でも口取りがついていたのです。 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2008.12.12 No.101)
2008.12.12
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「ランダム読書日記」 1-100 のまとめ 往道はるかNo. Up月日 書名 著者・編者 100 2008.11.23 グレン・グールド 孤独のアリア Michel Schider99 2008.11.10 果てしなく美しい日本 ドナルド・キーン 98 2008.10.26 排出する都市パリ A.フランクラン97 2008.10.04 いいたかないけど数学者なのだ 飯高茂96 2008.9.12 アメリカ・インディアンの書物よりも賢い言葉 エリコ・ロウ95 2008.09.07 詩集故園 島崎光正94 2008.8.22 暗号の天才 R.W.クラ-ク93 2008.8.17 英語の語源 渡部昇一92 2008.8.09 粉の文化史 三輪茂雄91 2008.8.01 ヨーロッパの紋章・日本の紋章 森護90 2008.7.27 核爆発災害 高田純89 2008.7.25 銀文字聖書の謎 小塩節88 2008.7.22 座右の名文 高島俊男87 2008.7.19 古本暮らし 荻原魚雷86 2008.7.13 コロンブスが持ち帰った病気(2) R.S.Desowitz85 2008.7.06 本棚が見たい 川本武ほか84 2008.6.24 絵で見る幕末日本 A.Humbert83 2008.6.17 そば通の本 サライ編集部82 2008.6.06 軟弱者の戦争論 由紀草一81 2008.5.19 貧乏するのも程がある 長山靖生80 2008.5.07 教科書でおぼえた名詩 文芸春秋編79 2008.4.25 孤独について 中島義道78 2008.4.12 じゃがいもが世界を救った Larry Zuckerman77 2008.4.02 大衆の心に生きた昭和の画家たち 中村嘉人76 2008.3.24 犬は「びよ」と鳴いていた 山口仲美75 2008.3.18 博士と狂人 S.Winchester74 2008.3.10 反空爆の思想 吉田敏浩73 2008.2.29 非暴力-武器を持たない闘士たち Mark Kurlansky72 2008.2.27 吾輩はハスキーである 三田誠広71 2008.2.21 世界の教科書は日本をどう教えているか 別技篤彦70 2008.2.12 ヨーロッパ 本と書店の物語 小田光雄69 2008.2.05 修復家だけが知る名画の真実 吉村絵美留68 2008.1.25 トマトとイタリア人 内田洋子67 2008.1.16 全核兵器消滅計画 中嶋彰66 2008.1.09 山頭火とともに 小野沢実65 2007.12.29 壁を破る言葉 岡本太郎64 2007.12.25 新約聖書63 2006.12.10 素顔の作家たち 奥野健男62 2007.12.05 前世療法 B.L.Weiss61 2007.12.01 日本博覧人物史 紀田順一郎60 2007.11.28 聖書の中の女性たち 遠藤周作59 2007.11.24 水の文化史 富山和子58 2007.11.14 中国を追われたウイグル人 水谷尚子57 2007.11.10 人生最後の時間 木原武一56 2007.11.04 生涯を賭けた一冊 紀田順一郎55 2007.10.25 石垣りん詩集 石垣りん54 2007.10.23 名作はなぜ生まれたか 木原武一53 2007.10.19 ベルリッツの世界言語百科 Charles Berlitz52 2007.10.14 ものの声ひとの声 水上勉51 2007.10.08 稀書自慢 紙の極楽 荒俣宏50 2007.10.05 技術と文明の歴史 星野芳郎49 2007.10.01 本という不思議 長田弘48 2007.9.25 ビールと日本人 キリンビール編47 2007.9.23 長崎の殉教者 片岡弥吉46 2007.9.18 トマトが野菜になった日 橘みのり45 2007.9.16 本をつんだ小舟 宮本輝44 2007.9.10 失われた文明 A.ゴルボフスキー43 2007.9.07 沈みゆく箱舟 Norman Meyers42 2007.9.02 天才の精神病理 飯田真・中井久夫41 2007.8.31 まだ見ぬ書き手へ 丸山健二40 2007.8.28 日本のゴーギャン・田中一村伝 南日本新聞社39 2007.8.26 聖書に隠された日本・ユダヤ封印の古代史 Marvin Tokayer38 2007.8.25 内部被曝の脅威 肥田舜太郎・鎌仲ひとみ37 2007.8.21 うたの心に生きた人々 茨木のり子36 2007.8.20 前世を記憶する子どもたち Ian Stevenson35 2007.8.19 人生を拓く 酒井大岳34 2007.8.18 孤独の研究 木原武一33 2007.8.17 本の世界 庄司浅水32 2007.8.16 明治東京畸人伝 森まゆみ31 2007.8.15 ジョニーは戦場へ行った Dalton Trumbo30 2007.8.14 ヤシの生活史 阿部登29 2007.8.13 自分らしく生きる 人間らしく生きる 中野孝次28 2007.8.12 牛の歩み 奥村土牛27 2007.8.11 貧民史観を見直す 佐藤常雄26 2007.8.10 ロザリオの鎖 永井隆25 2007.8.09 死の灰と闘う科学者 三宅泰雄24 2007.8.08 文字の歴史 Georges Jean23 2007.8.07 古本屋奇人伝 青木正美22 2007.8.06 植物が語る放射線の表と裏 鵜飼保雄21 2007.8.05 ハラスのいた日々 中野孝次20 2007.8.04 昭和将棋史 大山康晴19 2007.8.03 父の威厳 数学者の意地 藤原正彦18 2007.8.02 英国紅茶論争 滝口明子17 2007.8.01 アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書 J.M.Vardaman,Jr16 2007.7.31 黒死病 疫病の社会史 N.F.Cantor15 2007.7.30 ローラ叫んでごらん フライパンで焼かれた少女の物語 Richard D'Ambrosio14 2007.7.29 コシヒカリを創った男 粉川宏13 2007.7.28 人生に意味はあるのか 諸富祥彦12 2007.7.27 偽りの種子 遺伝子組み換え食品をめぐるアメリカの嘘と謀略 J.M.Smith11 2007.7.26 コロンブスが持ち帰った病気(1) R.S.Desowitz10 2007.7.25 失敗という人生はない 曽野綾子9 2007.7.24 世界を変えた6つの飲み物 T.Standage8 2007.7.23 文明の人口史 湯浅赳男7 2007.7.22 ロンドン食の歴史物語 Annette Hope6 2007.8.21 アサガオ 江戸の贈りもの 米田芳秋5 2007.8.20 幽霊を捕まえようとした科学者たち Deborah Blum4 2007.7.19 古代文明と気候大変動 B・ヘイガン3 2007.7.18 オーストラリア物語 遠藤雅子2 2007.7.17 評論家入門 小谷野敦1 2007.7.16 素顔の数学者たち 片野善一郎
2008.11.23
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100 「グレン・グールド 孤独のアリア」 ミシェル・シュネデール (Michel Schneider) 千葉文夫訳ちくま学芸文庫 ¥950 1995.10.5 初版第1刷発行 [目次] アリア第 1 変奏第 2 変奏以下第 30 変奏までアリア訳者あとがき解説[内容]鮮烈な衝撃を残して20世紀を駆け抜けた天才ピアニストの生と死と音楽。コンサートを拒否し、スタジオにこもって生み出された、世界の果てに位置し、作品の内部から発せられる光に包まれているかのごときその演奏-フランスの精神分析学者が、透明なタッチで奏でるグールドへのレクイエム。と裏表紙にあります。[感想]この本を読んではじめてグールドを知り、グールドのCDを買いに行ったような音痴ですが、グールドの生き方にとても興味とある種の共感をおぼえました。この本は私のように音楽やピアノを知らない者には難しい。それでも本を買いCDを求めたのは、周囲に妥協することなく自分に正直に生きたことに惹かれたのでしょう。天才だから許されたのでしょうが。グールドは、1932年9月25日カナダのトロントに生まれた。グールドの学校時代は、惨めだった。いじめにも遭った。グールドは、1946年5月13歳のときトロントでソリストとして オーケストラとの最初の共演をし、絶賛された。グールドは、モスクワ、ベルリン、ウイーン、ロンドンの演奏旅行 を皮切に、求められれば極限までどこへでも出かけた。グールドは、1964年に演奏家としてのそれまでの輝かしい経歴 をすててコンサート活動から完全に引退した。グールドは色彩を嫌った。派手な色の部屋のなかでは仕事が できなかった。グールドは、生涯を通じてあまりものを食べなかった。 フルーツジュース、クラッカー、ビスケットだけが食事だった。グールドは、録音のときには夏でもオーバーを着込み、帽子 をかぶり、マフラーと手袋を着用して登場した。グールドは、金魚、犬、ウサギ、カメ、ケナガイタチなど沢山 の動物を飼っていた。グールドは、1982年10月4日、50歳のとき脳卒中で死んだ。 枕元には、書き込みのある古い聖書と漱石の『草枕』が残された。(ようやくこのBlogも100回目を迎えることができました。昨年初めたときは、毎日頑張って出すぞと思っていたのですが、すぐに息切れして今では牛の歩みのごとしですが、これからも続けたいと思っています。)[頁のかけら] ○1964年のことだった。それまで輝かしい演奏家として名を馳せていたカナダのピアニストのグレン・グールドは、コンサート活動から完全に身をひいてしまった。1982年に死去するまで、その後の彼はレコード録音、ラジオおよびテレビ番組、彼自身の音楽へのアプローチを論じる文章を書くなどの仕事以外はやらなかった。一本の線を境として彼の人生はふたつに折りたたまれる。○「このコンサート活動の時代は死んだ歳月だ。悪夢のようにおぞましく、不快だった。」 グレン・グールド○「弾いているのは自分の指ではないと感じる必要がある。指は単なる延長物にすぎないのであって、特定の瞬間に自分とつながっているだけだと感じる必要があるのだ。」 グレン・グールド**************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2008.11.10 No.100)
2008.11.23
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ランダム読書日記 「果てしなく美しい日本」 ドナルド・キーン (Donald Keene) 足立康訳(第1部, 第3部) 講談社学術文庫 ¥1100 2002.9.10 初版第1刷発行 [目次] 第 1 部 生きている日本 (1973.8 朝日出版社) 第 2 部 世界の中の日本文化 (1992.7 富山での日本語講演) 第 3 部 東洋と西洋 (1999.10 国際シンポジウム講演) [内容] このたび文化勲章を受けられた著者の若い時の著作(第1部)や 講演(第2、3部)をまとめたものです。一言でいえば、日本への 愛情あふれる日本論といえるでしょう。 [感想] 外国人(ほとんどすべてが西洋人ですが)が書いた「日本論」をいくつか 読んだ印象では、西洋人のものの考え方や西洋社会を基準点として そこから測った日本を論じる人が多い中で、この著者の日本論は、 とりあげているひとつひとつの日本の事情が具体的で、おしつけがま しさや批判めいたところがないのが特徴です。西洋人社会にはない 日本社会の風習や習慣について、表面のちがいだけでなく、それが どのような意味をもっているかまでを調べつくして理解しているからでしょう。 日本人としての自分には、現在に近い日本の紹介である第1部よりも、 日本の文化や歴史に触れた第2部や第3部のほうが、知らなかった ことが多く書かれていて、面白く読みました。 著者は1922年ニューヨーク生まれ。 [頁のかけら] ○ 鎖国の国の不便さを経験済みのヨーロッパ人としてはまったく 意外なことに、ケンペルは鎖国という制度を賞賛しました。日本の 経済は自給自足しているので、外国との交易は必要なく、とりわけ、 絶え間ない戦争に引き裂かれていた当時のヨーロッパと違って 日本が百年も平和を維持できたのは、鎖国のおかげに他ならない というのです。(中略) (ツンベリーは)帰国すると、時のスウェーデン王、グスタフ三世に 向かって幕府の制度を賞賛し、スウェーデンでも同じものを作る ことを薦めました。 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2008.11.10 No.99)
2008.11.10
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ランダム読書日記 「排出する都市パリ」 アルフレッド・フランクラン (Alfred Franklin) 高橋清徳訳 悠書館 ¥2200 2007.4.10 初版第1刷発行 [目次] 第 I 章 十二世紀から十六世紀まで リユステおよびパリという語の語源 十二世紀における街路および建物の様子 最初の舗装 黒死病 最初の下水道 ほか 第 II 章 十六世紀 道路掃除・便所設置の義務 「臭い穴」、下水道、井戸 汚染された道路 1531年から1597年までの疫病 ほか 第III章 十七世紀 窓から投棄される汚物 ルーヴルの吐き気を催すような状態 街路に公衆のために便所を設置する最初の計画 ほか 第IV章 十八世紀 糞便の捨て場と下水の状態 飲料水の希少性 セーヌ川の状態 ほか 史料 訳者あとがき [内容] 中世から近世にかけての数百年間、パリの路上には人や動物の 糞尿があふれ、腐った食品のくずが散乱し、セーヌ川には屠殺さ れた牛や豚の臓物や血が途切れることなく流れ込んだ。うっかり 道の端を歩こうものなら、頭上から容赦なく屎尿がぶちまけられた。 街は悪臭に満ち、それは王宮にまで及んだ。ひとたび疫病が発生 するや、あっという間にパリを席巻し、数千数万の人々の命を奪った。 --汚穢と汚臭に満ちていた時代のパリの生活空間を、第一次 史料にもとづき、いきいきと再現! と表紙裏にあります。 この本の内容を完全に表しています。 内容はショッキングですが、 本書の原題は「衛生-街路の状態、下水、ごみ捨て場、便所、墓地」 で、決してきわものの本ではなく手堅い歴史書ですが、読みやすい 本です。 [感想] 今はあまりいわないようですが、かつては「花の都パリ、霧の都ロンドン」 と言われたものでした。しかし、同時代に、江戸では糞尿が汲み 取られ農家の肥料となり、そこで生産された食料が再び江戸市民の 食料になるという循環が行われていた時代のパリがこのようなひどい 悪臭にみちた衛生状態だったということに驚きました。 私たちは歴史というと、政治や経済や文化などの社会の華やかな事件 や積極的な面だけが教えられてきましたが、ようやくこのような負の面 もとりあげられるようになり、一般の本として読めるようになったことは、 よいことだと思います。 「負の歴史」から顔をそむけず、粉飾や捏造を加えることなく、ありの ままの姿を提示することから、はじめて真の「歴史」が姿を現わすこと になるのでしょう。 [頁のかけら] ○便所がなかったので、その代わりが必要で、通りがその役を勤め ていた。町のなかで、ひどい悪臭を発しないような場所はなく、安全に 歩くことができるような場所もなかった。四つ辻、教会の周囲、もっとも 賑わう通りは悪臭を放つ糞便にまみれていた。大規模な建物、たとえ ば裁判所では、片隅にはどこでも糞便が見かけられた。ルーヴル宮 ですらむかつくような様相を呈していた。すなわち、中庭、階段、バル コニー、戸の裏側で訪問者たちは用を足した。宮廷の住人たちは、 それを気にかける様子はなかった。 **************************************************** ランダム読書日記 by 行道はるか YUKUMICHI Haruka (2008.10.25 No.98)
2008.10.26
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