ひろさちやは、「ほとけさまの幸福」を得るには、「自分と他人を比較しなければよい」と説いた。
香山リカが「くらべない幸せ」という本を上梓している。
題名にひかれて、取り上げてみる。
香山は特に仏教者というわけではない。
精神科医であり、現代心理学部の教授である。
多くの患者を診察するうちに、その疾患にある原因を見た。
私たちは、子どものときから家庭で学校で、繰り返し「他人は他人、私は私」と言われ、他人と自分をくらべないように、と教えられる。しかし、それでも、どうしても自分にはないものを持っていたり、自分とは違う状態にいたりする人をみると、自分と比較しては「どうしてあの人だけうまくいったのだろう?」「なぜ私だけこうなんだろう?」とうらやましがったり落ち込んだりしてしまう。
そして、次第に「人にできることができない自分はダメな人間だ」と自分を責め、ついには日常生活にも支障が出てきて、診察室を訪れるようになってしまう人までいるのだ。(中略)
人と自分をくらべても、何の意味もない。
なぜなら、よく誰かとくらべられ、「あの人みたいだったらいいだろうな」と思われがちな人が、「実は私、誰にも言えない悩みがあるんです」とそっと相談にやって来ることもよくあるからだ。(中略)
他人とくらべたために、自分がすでに持っている幸せも見えなくなって、幸せ不感症になるなんて、本当にもったいない。(中略)
つまり、目の前の誰かやメディアのなかの何かと自分をくらべ、いまある幸せが見えなくなる"幸せ不感症"や、「あの人みたいになりたい、いや、ならなければ!」と"あきらめきれない病"にかかるのはこのへんでやめておきましょう。
香山は『くらべない幸せ』の前に、『しがみつかない生き方』という本を書いており、その第10章が「《勝間和代》を目指さない」と名指しで批判している。
やる気を出して努力し向上し続け、その先に大きな成果や成功を目指す生き方を説く、勝間和代の読者達は「カツマー」と呼ばれ、前向きで肯定的で実践的な生き方を目指す。
勝間によれば、あくまで大切なのは「最大の結果の発揮」にある。
これに対し、香山は臨床医として疑問を持つ。
病院という場で仕事をしていると、医者の私も心の中で「なぜこの人がこんな不幸な目にあわなければならないのか」と神に抗議したくなるような人に、毎日のように出会う。というより、「まあ、この人の場合、病気になったのは、自業自得か」と思えるようなケースのほうが、ずっと少ないのが実際のところだ。(中略)
「がんばれば夢はかなう」とか「向上心さえあればすべては変わる」といったいわゆる"前向きなメッセージ"を聞くたびに、診察室で出会った人たちの顔を思い出して、こう反論したくなる。「あの人はずっとがんばっていたのに、結局、病気になって長期入院することになり夢は潰えたじゃないか」「両親とも自殺して、育ててくれた祖父が認知症になっている彼女がどうやって向上心を出せばよいのか」
努力したくても、そもそもそうできない状況の人がいる。あるいは、努力をしても、すべての人が思った通りの結果にたどり着くわけではない。(中略)
人生が思い通りに展開していない人の多くは、努力がたりないわけではなくて病気になったり勤めた会社が倒産したり、という"不運な人"なのだ。たとえ、努力不足が挫折や失敗の原因であったとしても、丹念にその人生を振り返ると、そもそも家庭環境などに恵まれず、努力しようにも出来る状態になかった、という場合が多い。そして依頼殺到の人気者の側にいるか、誰からも相手にされない絶望や孤独の側にいるかは、本当に"紙一重"だと私は思う。
『しがみつかない生き方』のテーマは、
「ふつうに生きて、ふつうに幸せになるには、そんなにむずかしいことなのか。
ふつうにがんばって、しがみつかずにこだわらずに自分のペースで生きていけば、誰でもそれなりに幸せを感じながら人生を送れる。
それで充分」
と言うことだ。
「恋愛にすべてを捧げない」「仕事に夢をもとめない」「子どもにしがみつかない」「お金にしがみつかない」「生まれた意味を問わない」・・・
と、普通といえば普通の内容だったが、最終章の「《勝間和代》をめざさない」をキャッチコピーにしたために話題を呼び、香山リカVS勝間和代のバトルが繰り広げられるようになってしまった。
キャッチコピーも含め、メディアが仕組んだことにも見える。
勝間和代が世間に登場した時は、すごい人だなあと単純に思った。
この人の言うとおりにすれば、日本の不況もすぐに解決するのでは。
頭はいいし、知識はあるし、言い切るし。
一方、香山リカは、どういうわけか昔から、いつでも雑談の出来る"友達感"を持っていた。
あっちこっちふらふらしながら会話をするような書き方で、正論を大上段に振りかざすようなことはしない。
わたしはこんなふうに思うんだけど・・・的な、こちらの意見も差し挟めるような行間を持っている。
TVのバトルは見逃したが、勝間と論争をしたのでは旗色が悪かったのではないか。
僕は友達感で香山の肩を持つが、勝間を全く否定するわけではない。
彼女は効率的な人生が好きなのだ。
たまたま成功したが、失敗も数多くしているはずだ。
それにめげず、ゲームをリセットするように再度チャレンジして、ステージをクリアーしていった。
『断る力』でとりあげる、“アサーテイブ(賢い自己主張)”はこれからの日本人が、国際社会、得に中国と関係を持つためには必要な能力になる。
そういう生き方が好きでやっている訳で、こうでなくてはいけないとか、出来ない人を軽蔑するようなところはないと思う。
“カツマーのすすめ”もメディアの企みであったように思える。
悪いのは、人の向上心に付け込んで商売をしようとする輩と、それをあおるメディアだ。
『くらべない幸せ』に戻る。
満足されたら社会が困る
市場主義経済の今の日本では、「もっと向上したい!」「もっと自分を磨きたい!」「もっと別の何かを手に入れたい!」とひたむきにがんばる若い女性たちは、なんといっても"大事なお客さま"なのだ。
最近ではビジネスマン向けの早朝セミナーも人気のようだ。また、ビジネスマンが受講可能の夜遅くに開講されるセミナーや大学院なども盛況。仕事だけでもたいへんなのに、その前後にさらに勉強、というのは考えただけで気が遠くなりそうだが、そうやって自分を忙しい状況に追い込めば追い込むほどやる気が出て、「よし、私は成長しているぞ」という実感が持てる、と胸を張る人もいる。
そういう生活の果てに疲れて倒れてしまったある女性は、診察室でこう言った。
「セミナーの講師が言っていました。"現状維持は即、衰退"と。まあ、このままでいいや、と思った瞬間に、人間はどんどん凋落していくそうです。だから、これ以上、がんばらないというぐらいがんばって、ようやく現状維持が可能、という講師の考え方に、私も全面的に賛成でした。でもこうなってしまって・・・」
とにかく若い女性たちには、どんどん消費してもらわなければ困る。これが、多くの人たちが「ほしがりすぎ、背伸びは人を幸せにしない」とわかっていても、「もうやめておきなさい」「いいかげんにあきらめなさい」とは口にできない最大の理由だろう。
「わかりやすい勝ち」がほしい
今の私は、○○さんとくらべるとなんだか不幸だ。自分が選ばれた特別な存在だとは思っていないけど、もうちょっと違う生活があるのではないか。
そうやって一度、今の自分、現在の生活に疑問を持ってしまった人は、まずは「私には"これ"が足りないから、満足できないんだ」と具体的な目標を定めて、それを手に入れるために努力を続ける。(中略)
しかし、いくらそうやって勉強や学校に通い、貯金、美容、ダイエットなどの努力を重ね、「これさえあれば」と思ったものを次々に手に入れても、「これで満足。これで幸せになれた」という心からの満足は、決して訪れない。(中略)
そうやってひたすらがんばる生活を続けていくと、ある日突然、奇妙な現象が起きる。今、目の前にあるすべてのもの、自分が続けてきた努力が、無駄なもの、意味のないものに思えるのだ。
こんなとき女性はマンションがほしくなる
結婚したい。仕事もしたい。でも結婚も仕事も相手や職場があってのことだし、自分ひとりではどうにもならないこともある。「私はどうなりたいの?私がほしいのは何?」という終わりのない問いには振り回されたくはないが、どうしても振り回されてしまう。
そうなると、とりあえずは「あなたは、こういう人。あなたのほしいものは、これ」という"自分の証"のようなものを、自分で自分に与えなければならなくなる。
じぶんでも納得できて、まわりの人たちも「よかったじゃない」とある程度、師事してくれるような自分の証。
「マンション購入」はその代表的なひとつではないだろうか。
いつの間にか、独身女性論になって"くらべない"からどんどん離れていくきらいはあるが、話題は婚活ブーム・買い物依存症・電話占い・ダーリンは外国人などに広がる。
友達の雑談感満載である。
そして、最後にゆる~いアドバイスでまとめられているが、参考になるだろうか。
「くらべない幸せ」3つのヒント
1・不安や心配がわいてくるのはあたりまえ、そのとき怖れずくらべず、ゆっくりやりすごせば大丈夫。
2・人とくらべて刺激のない毎日だからつまらない、というには間違い。
どんな単調に見える毎日のなかにも、必ず心温まるドラマがある。
3・幸せと生活レベルとは、まったく無関係。
たとえ人から見て「かわいそう」と言われる暮らしをしていても、心はお姫さまですごすことだって可能。
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