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DHHUその38 ――京都・地下都市碁盤の目町 「――以上が報告となります」 冬華、谷川、茉白は椅子に座る華月に向かって一礼した。 「良い経験をしたな冬華、我にはできぬ方法での勇者のサポート見事だ」 椅子から下りて冬華の頭に手を乗せる華月。 「谷川、褒美を取らせる。なんなりと言ってみよ」 「では……華月様の髪を少し頂きとうございます。茉白の美の研究の為に」 「……いいだろう」 華月はうなじから生えている髪の一束を切り取り谷川に渡した。 「こんなにも! ありがたく頂戴致します!!」 基本華月は髪を切った後は自分で消滅させている。ジークベルトが華月の一部を大量に保管しているの知ってから自分の体から出たものは全て自分で始末するようになっていた。 保管物はあまりにしつこく食い下がるので勝手に増やさない事を条件に始末するのを中断した。 ジークベルトはダンジョンで華月が自ら切り落とした髪と手も後で申請していた。 「茉白、お前は何かあるか?」 「いえ、何もございません。先生が望むものが全てです」 「そうか」 ――別室。 「捗りますなぁ捗りますなぁジークベルト殿!」 勝田波留夫は財団と関わったすべてのデータを整理しながら新開発の冬華のボディの設計図を眺めて言った。 「素晴らしい! 流石は天才科学者の勝田さん!! ニューボディのフォルム、最高です」 両手を広げ大きな手振り身振りでいいはなつジークベルト。 「精神的年齢思春期を迎えるであろう冬華たんのこのボディは従来のものより小さくなりますが……より経験値を積める仕様になっています。冬華たんと……例の勇者とのバランスを考えてます」 「ふむ、肉感的過ぎず機械的でもない……超高級サイバネのような存在感を放ちながらも親しみを覚える。細かいパーツは少年勇者の厨二心を刺激すると」 「その通り! 最高最強サイボーグ美少女。冬華たん!! かづたん様と並べば姉妹にも見えますぞー」 「実にいい! 今の華月様の姿で横に並ぶのであればこの冬華のボディこそ最高。親子逆になど見られることはもうないでしょう」 「デメリットはですねぇ……以前のボディ程の拡張製はない所ですかね。前のフルアーマー冬華たんも良かったんですが。その代わり支援ポッドを着けます」 「それがこのシロクマのキャラクターのマシンですか」 「ええ、背負えばバックパックに。抱っこすればぬいぐるみに手を放しても自律して着いてきます。カメラ付きで我々はいつでも冬華たんを見守れます。収納スペースも十分」 「何を騒いでおる」 華月が入ってきた。 「何もやましい事は致しておりませんぞーかづたん様」 「冬華の新ボディの開発状況を勝田さんと話しておりました」 「ふむ……これが良いのか?」 華月は少し首をかしげて言った。 「お前たちの好みは解らん。冬華が拒否しなければよいお前たちに任せる」 「はいいいいっ!」背筋を伸ばして叫ぶ勝田。 「さぁさ、華月様新しい御召し物を用意しておりますので自室に行きましょうか」 ジークベルトは肩に手を乗せて華月を誘導する。 *** ――センジョービル地下 「で、【凶】のダンジョンとやらの痕跡は回収できたのか?」 酒呑童子・仙丈隼磨は褐色で派手な格好のギャル、夜叉童子に言った。 「ダンジョンのものか解りませんが呪符の欠片を見つけました」 「慎重に解析しろ。山の施設でやれ」 「は」 夜叉童子が去った後、仙丈隼磨は秘匿性の高い電話通信を使う。 『……なんだ?』 「久しぶりだな」 『用件を言え鬼め』 「面白い話があるんだが会って話さねえか?」 『……今更どういう風の吹き回しだ』 「そっちにとってもいい話なんだがな。ちょいと新しいプロジェクトを思いついてな。いっちょ噛みしねえかってな」 『何を考えている』 「ビジネスだ。俺は常にビジネス思考なんだよ。儲かりそうだから適任者に話を持ってきた、そういう訳だ」 『いいだろう、いつまでも貴様らに貸しをつくったままではいられん』 「いいねぇそう言うと思ってたぜ」 『では例の山小屋で付き人はお互い一人、十分警戒しろ』 「ああ、解ってるお前も気を付けろよ大天狗」 *** 「32ヒット!」 柄留はゴム弾並みに柔らかくした弾丸で銀行強盗をグレイブラスターで撃ち抜いた。 「全弾急所に命中!」 はしゃぐ柄留の横で愛来薔薇は小さくため息を着いた。 「どう考えても撃ちすぎ」 「大丈夫大丈夫、痛みだけだし。早く手錠かけよ?」 「はいはい」 ミニパトから降りる二人。銀行強盗二人は顔と股間を抑えて呻いている。 「はぁ~い逮捕~只のサイバネでよかったねぇ~怪人化してたら特別収容所にぶち込まれるところだよ」 愛来薔薇は慣れた様子で事務的に犯人に手錠をかけ、柄留は現れた護送車に犯人を押し込む。 「おわったおわった~」 「おつかれ~……ところで勇者くん達の事聞いた?」 「え? どうしたの?」 「ほら先日無事に解決したって話、その後世界中飛び回るんだって」 「え~そうなんだ」 「あんまり興味なさげだね」 「そうじゃないよ、無事でよかったし塞ぎこまないで前を向いてるんだって関心してるよ」 「あんたって時々マジでよくわかんない」 「そう? 悩んでも仕方ない事は悩みたくないだけかなぁ」 「え~~~~~? 例の彼(諸田和音)の事で四六時中悩んでるくせに」 「それは別の問題かな~~~~~~~~~」 「今朝だって旨味パウダー鬼盛りポテトと無臭ガーリックスパイシーチキン1本増しどっち買うかで悩んでたじゃん」 「それは悩むところだよ?」 「やっぱりわかんないわ」 手続きを済ませ愛来薔薇の運転で署に向かう二人。 「そういやさ、ウチの課に新人君が配属されるんだって」 「そうなの!? 男? 女?」 「男だって、将来の幹部候補だから経験積ませたいんじゃないかって課長が言ってた」 「めんどくさそう~……でもすぐにまた転属するんでしょ?」 「多分ね。1年くらいウチにいるんじゃない? テキトーに相手してやりすごそ」 「だね~」 *** ――太平洋上空飛行機内 「あんな巨大な敵を倒せたのが今でも信じれないよなぁ」 宗像刀耶は合衆国に出現した正体不明生物大量発生事件を相棒のリティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲ、魔女・立花冥珂、TMIと合同で解決し帰国している途中であった。 「グレイ・イーター……恐ろしい敵でした」 リティーシャがつぶやいた。 「大怪獣合衆国横断とか勘弁して欲しかったで……」 冥珂はタバコの代わりにミントフレーバーを吸いながら言った。 「TMIの人達が居なかったら合衆国はもっと酷い事になってたんだろうなぁ」 TMI長官が世界各地からエージェントを集めて指揮をしていた。日本から呼び寄せた終夜アリナが弾丸のように飛び掛かり大怪獣となったグレイ・イーターの顎を撃ち抜いて転倒させた場面を思い出す冥珂。 「オーグルの力はやはり危険でしたね最初から利用するべきじゃなかったんです」口をとがらせるリティーシャ。 「途中までは皆うまくいくと思ってたから余計にあの瞬間は肝を冷やしたわ」 冥珂はグレイ・イーターが突然変異を起こした時に感じた絶望を思い出す。 「合衆国のオーグル兵器化は白紙になるだろうってセレスティア博士が言ってました。結果良かったですよ……」 「あ~久しぶり日本に帰れる~……しばらくゆっくりしてぇな~」 コーラを喉に流し込んで刀耶が言った。 「何を言ってるんですトーヤ。休学してるんですからさっさと復学して単位をとるのです」 「は? いいだろ2週間くらい休ませてくれよ」 「駄目ですせめて1週間。私の仕事の手伝いもあるんですから」 「おまえって本当に仕事好きだよな……そのせいでミルク切らして死にかけたもんな」 「またその話ですか! あんなことは滅多にないですよ今はトーヤがいるのですからその辺のサポートはお願いします」 「さらっと面倒な事言いやがる……お世話しろってかハイハイ」 「そのおかげでトーヤは最新のゲームテストプレイできるのですからWinWinな取引では」 「お、おう……そうだな。それはそう……」 刀耶とリティーシャの様子を笑顔で見つめる冥珂。 「師匠はこの後どうするのです?」 「そうやねぇ……ちょっとオータムホースシティに居ようかなって」 「そうなんですか、師匠の好きそうな街ではないんですけど何か理由が?」 「気になる事がいくつかあってねぇ……少し前に感じた魔女の気配、まだあの街にある気がしてるのと……大きなうねりを感じたんよ」 「うねり……魔女の予感は軽視できませんからね……師匠がいるならちょっと安心します」 「魔女の領域に他の魔女が侵入すると碌な事にならないんだけどね」 「いえ、それでも悪しき流れがきているとしたら阻止しなくてはなりません!」 「ん~……難しい所なんやけど……お節介な性格のせいで魔女界隈から嫌われてるし警戒されまくってるし結果良ければすべて良しって訳でもないのが毎回やし」 「やけに弱気ですね」 「年取ったのかもね、アンタや刀耶君みたいなのが成長してくれてちょっと気が緩んでるのかもしれんわ。一人でやっとった時と違って色々考えなあかん事も変わるしな」 「師匠は背後でドンと構えていてくださいよ。私とトーヤが前面に立ってやりますし!」 「まぁ、そうなるか。そろそろアンタを一人前の魔女にせなあかんしな。アタシも全盛期終わりそうやし今回の事件でどっと疲れたわ」 「まだまだ引退は早いですって! もっと私の活躍を近くで見ていてくださいよ」 「冥珂さんに尻ぬぐいして欲しいんじゃないのか?」と刀耶はすぐにツッコミを入れた。 「な! 失礼な!」 「怒るな怒るな……思いっきりノビノビとやりゃあいいじゃないか。冥珂さんが近くにいてくれてる間はよ」 「いうやんか刀耶君も。だんだんリティーシャの厚かましいところ似てきたんちゃう?」 「いえそんな……でもやれる時にやるべき事を思いっきりやらないのはきっと後悔するんで……」 「そっか。せやな、弟子とその助手の補助くらい任せとき」 *** ――東京の財団ギルド 「良くやってくれた皆……真邪王は封印され【凶】のメンバーは全員死亡。完全に壊滅した」 セイはユウ、ケン、集まったギルドメンバーに言った。 「これまでにない規模の被害が出てしまったが【凶】と真邪王の野望を打ち砕けて本当に良かった」 セイは被害状況と真邪王の封印の事、【凶】の関係者の洗い出しなどを話し、1時間ほどで解散を言い渡した。 ユウとケンは荷物を置いている自室へと戻る。 「なぁユウ……」 「なんだい?」 照れくさそうにしながらケンは不死鳥の剣士のカードをユウに渡す。 「これは! ケンの一番大事にしてるカードじゃないのか?」 「いいんだ。俺にはもう使えない、だからユウに使って欲しいんだ、着装もできるユウならそいつの性能を十二分に発揮できるしね」 「あ……ダメージ受けたらランダムで他のカードを消費する不死鳥の剣士を使って月光姫を使う前に消費したくないのか」 「うん、だからさ。ユウは獅子王を真邪王に斬られて使用不可能になったんだろ?代わりに使ってくれ」 「そうなんだ、あれから使えなくなったんだ。じゃあありがたく不死鳥の剣士使わせてもらうよ」 「龍帝はどんな感じなんだ?」 「全然使いこなせてない……まだまだこれからなんだ」 「そっか……」「うん……」 そこから沈黙する二人。お互いカードのメンテナンスを行い始める。 「あの……ハオランの事残念だったな」 「あ、うん……俺がもっと強ければ……」 「仲間って……凄く大事だよな。出会いも絆も」 「うん……ケンは色んな凄い人と組めて良い経験になったね」 お互い自分のカードを触りながら話す。 「本当に勇者の幸運に感謝してる、最高の出会いがあった、だから俺は成長できた」 「俺も最高の仲間に出会って最高の絆を築けた。だから成長できた」 「ユウ、これまでの事すまなかった。これからは兄弟勇者として力を合わせて頑張ろう」 「うん! 嬉しいよケン、そう言ってくれて。俺は今までケンの足を引っ張ってばかりいるから嫌われてるんだと思ってたよ」 「俺はバカだったんだ、自分に出来る事、ユウに出来る事を考えずに……」 「いいんだ、俺が未熟でイライラさせてたのは本当だし。【凶】の残党と世界中に散らばっている真邪王の欠片が原因の突発的発生ダンジョン処理、まだまだ勇者には仕事が一杯あるから一緒にやっていこう!」 「ああ!」 ユウとケンは目を合わせて大きく頷いた。 終
Jan 10, 2025
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DHHUその37 龍帝のブレスを背中に受けて加速したユウは真邪王の顔面に蹴りを叩き込む。ブレスのエネルギーが足から伝わり真邪王の顔面から黒いオーラが放出される。 「ぎいいいいえええええええああああああああああっ!」 「どうだ! 龍帝のブレスは邪悪な者にしか効かないんだ!」 「おのれぇ……こうなったら……」 床に激突して転倒する真邪王、素早く立ち上がり回転を始める。徐々に速度を増し独楽のように高速回転。 「この場にいる全てを無差別に斬りまくってやる!」 シェルターの壁、棚など所かまわず切り裂き始める。 「いくら結界の力が強力でもあんなに暴れられたらまずいね」と才賀。 「どうする……動きを止めなくては」ドウェイン。 「今は無差別攻撃だろ? じゃあ何かに狙いを定めさせてユウの魔眼でやれば」ハオラン。 「つまり?」 「囮になるって事だぜ。チャンスは一度きり、絶対に外すなよユウ」 「え? え?」 「凄剣イクスバーンいつでも撃てる準備しておけよ!」 スライディングで真邪王に接近しながら軸足を狙うハオラン。 「甘い! 飛び上がればいいだけの事!」「そうかよ! だが俺もそうするだろうと思ってたぜ!」 全身のバネを使ってしゃがんだ状態から飛び上がり空中に回避した真邪王の足に飛びつくハオラン、途端に回転速度が落ちていく。 「バカめ! この状態で邪腕剣は回避できんぞ!」「いいんだよ!」 足にしがみついたハオランを狙い逆手に持った剣を突き下ろす真邪王。ハオランは直剣で受け流す動作を取るが邪腕剣に耐えきれず直剣は折れ肩から胸に突き刺さった。 「ギャハハハハ!」「ぐぅ……」 そのまま床に落下する二人。 「ぐっ!? 抜けん! それにこの感触、貴様……」 「逃がさねえぞ! ここが俺の人生のクライマックスなんだからよぉ!」 「ハオラン!」叫ぶユウ。 「撃てユウ! 魔眼を使って確実に!」 「そんな……でも!」「でもじゃねえ! 俺の覚悟を無駄にすんな!!」 「うあああああああっ! 凄剣イクスバーン!!」 龍帝に強化された凄剣イクスバーンの崩壊波は真っすぐにビーム状に黄金の閃光となり真邪王の心臓を貫いた。 「gaaaaaaaaaaaaaaaaaa! 馬鹿な! 心臓が……そうか……」 全身から黒いオーラをまき散らして仰向けに倒れる真邪王。 「ハオラン!」 駆け寄るユウ。真邪王に貫かれた胸からは血液が殆ど出てない事に気付く。 「え? なにこれ! どうなってんの?」 「へへ……実はよ……心臓が無いんだわ」 「え……」 「最初の邪腕攻撃で俺の心臓は潰された。才賀さんがネクロマンシーを使って仮の生命維持してくれたって訳なんだ。どの道長くは無かったんだ最後にこうやってクソッタレに一矢報いて死ぬ前に別れの挨拶できる……出来すぎだぜ」 「そんな! そんなああああああああっ!」 「へへっ……そんな顔すんなってユウ、お前は最高の勇者だったぜ。お前と組めてよかった、楽しかった」 「駄目だ駄目だ! 今治療のカードを使って……」 「無駄だ……俺の心臓は戻ってこない、もう死んでいるんだ」 「うああああああああああああっ!」 「姉貴によろしくなユウ、最後に大仕事やってのけたって言っといてくれよな」 「わかった、わかったよおおおおおおおおおっ……」 *** 魔王最終ダンジョンの玉座のジンガは最後のコピーを使う。 「京都で得た最後の切り札……酒呑童子コピー。これで決着をつける……」 波動を探るジンガ。 「……真邪王の奴、追い詰められてるのか? 呪力が乱れている、奴はしたたかだ、危なくなればこっちのダンジョンに来るだろう」 しかしそれは出来なかった。邪体を封じているシェルターに閉じ込められたことをジンガは知らない。 「早々に決着をつけるか……『領域酒樽発動』」 床に手を着けるジンガ。酒呑童子の能力である領域酒樽をダンジョン内に展開。酒気で満たしていく。 「防御不可能、回避不可能の広範囲必中攻撃……恐ろしいぜこれは展開されたが最後本体を叩き潰さなければどうにもできないぞ~……」 ――ダンジョン内 ケンは冬華、谷川、茉白と無事合流していた。 「うっ……これは……」冬華に支えられているケンが言った。 「これはもしや酒呑童子の?」「領域酒樽だと思われます」谷川と茉白。 「私の魔力放出範囲を広げます、みんな私の近くにきて……これでダメージは相当に抑えられるはずです」冬華が言った。 「酒気を浴び続ければ1分程度しかこの状態は持ちませんが」 「使い捨てのアーマーを複数使えば……」 谷川は大量に得た怪人の血液から人数分のアーマーを3着は作れる事を説明した。 「1分以内にジンガの元にたどり着いてアーマーを着て即戦闘……か」 ケンは三人の姿を見る。 「この場で皆さんを運んで高速移動できるのはこの茉白。皆さんを運びます。変形、運搬モード」 車輪のついた4足に変形する茉白。背中に谷川、谷川の右腕に冬華、左腕にケンがしがみつく。 「ジンガは動く気配はないですね、行きましょう茉白」冬華はジンガの反応を見て言った。 冬華の放出限界まであと20秒の所でジンガの待つ玉座のある広間にたどり着いた。 「ヌウウウウウウウウウウウンッ!」 金棒を持った筋骨隆々の二本角ジンガが飛び掛かってきた。受け止めたのはケンの月光姫。 「酒螺掌!」 ジンガが手をかざすと掌から酒の渦巻きが発生し月光姫を吹き飛ばす。 「酒は力、万物酒に変えればそれは力に変わる。京都で酒呑童子に敗北し学びえたこの領域酒樽の中では全てのものが弱化する!」 ケンは酒を浴びた月光姫の動きが鈍くなったのを感じた。 「いけません、みなさん私のスーツで防御を!」 谷川が全員に布をかぶせるとたちまち全身スーツとなって身を包み込んだ。 「これでも1着30秒持てばいい所ですが……」 「やるしかないですね……」 冬華は血液カプセルを噛み砕いて魔力を補充する。 「茉白、冬華様のサポートを。私はケン君を守ります」「はい先生」 ジンガはケンに狙いを定める。 「徹底的に! 勇者を狙って潰す! 後の奴らなど放っておいてもダンジョンは消せねぇ!」 怒涛のラッシュを仕掛ける酒呑童子ジンガ。月光姫を自在に操りケンは自分に攻撃を向かわせない。 「酒流走」 酒の水流に乗り足場を増やして多角的に攻撃を仕掛ける。水流は月光姫に降り注ぎダメージを与えていく。 「クソ! この酒を吸収して月光姫の魔力変換するには少し時間がかかる……それに量が多すぎる」 「ギャハハハハハ! ダンジョンにおいて最強のコピー体だ!」 横から冬華の波動弾の牽制が入るも金棒で受け止める。 「解る解る、手に取るように空間を把握できるぞ……離れていても反応できる」 月光姫のエネルギーソードを軽く回避し酒を浴びせかけるジンガ。 「しぶといなその召喚者……流石テメェの切り札って訳だ」 「月光姫は負けない……負けないんだ!」 その様子をしっかりと観察する冬華。 「(いつかくるかもしれない本物の酒呑童子との対決の為にもデータを取らなくては)」 ケンから月光姫は白峰家をイメージして発現させたと聞いていた冬華。動きからすぐに華月がモデルだと解った。 「(この場合お母様よりも雪名や吹雪の能力の方が有利……)」 冬華は冷凍エネルギーを体内で生成し始める。 「ケン! 吹雪のように戦うのです! 出来ますか?」 「……!? なるほど、そうか!」 月光姫は後ろに下がりドレスアーマーをパージする。再構築したドレスアーマーは青白く輝き冷気を放ち始めた。 「月光姫は四元素を自在に操る!」 先の戦闘で苦しめられた吹雪のダイアモンドダストモードの再現に入る。 「酒が……凍る……」 凍結した酒気は分解され氷気に。ジンガが酒気を放てば放つほどダイアモンドダストの勢いは強くなる。 「火を使えば一瞬でテメェら爆死させられたのによぉ……どうやら先に吹雪を出したのは間違いだったな(サイバネを無視して先に勇者に酒呑童子を当てれば良かったな……)」 先にコピー酒呑童子とケンが当たってた場合、月光姫は完成に至らず不死鳥の剣士では相性が悪く撃破するのは難しかった。運よく冬華がジンガとダンジョンで初遭遇して吹雪のコピー体を使わせた事が功を奏した。 冬華はケンとジンガの様子を録画し続ける。 「(これが勇者の幸運の力……私が先にコピー吹雪と対峙した事が結果、月光姫を生み出す流れとなった。そしてコピー酒呑童子に対抗できるように)」 ジンガは酒気を浴びせ続けていたが突如距離を取った。 「酒気だけがコイツの力じゃねえ……」 大きく酒気を吸い込んだジンガの体が一回り大きくなる。 「シンプルにパワーアップだ! 小細工が通じねえのなら解りやすくねじ伏せにいくぜ」 「む……」 未来予知の魔眼で突進してくるジンガを見たケンは左に回避する。ダイアモンドダストで凍り付く前に痛恨の一撃を叩き込む気でいる。 「これでまた形勢逆転か? お前は今他のカードを使えない、自身を守るために気を使い仲間に守られなくてはならない」 「私を忘れてもらっては困りますよ」 茉白のパーツを取り付けた冬華がジンガを睨む。 「ふん、酒気で碌に動けねぇポンコツなど眼中にねえ」 矢のような突進で冬華に迫るジンガ、金棒の振り下ろしと同時に酒気ブレスを浴びせかける。谷川のフード付きボディスーツは一瞬で溶解、冬華のボディから煙が上がる。 「何!?」 冬華の左肘に取り付けられた茉白の予備腕がジンガの右腕を掴んだ。触れた箇所から凍結を始める。 「どうですか? コストは悪いですが私も直に触れれば魔力に干渉する事も可能。酒気で溶けるよりも速く凍結させます」 「テメェ!」 冬華が魔力を冷気に変換できるなどジンガには予想外だった。事実ダンジョンに入るまでは戦闘で使用できるほどの強力な変換は出来なったがコピー吹雪との戦闘経験が冬華を刺激し完成させるに至った。 左拳で冬華を振り払うジンガ。パージした茉白の腕はジンガの右腕を掴んだまま凍結を続ける。 「無理に剥そうとすると右腕ごと崩壊しますよ」 「……やってくれたな」 「たあああああああああっ!」 ゼクスミニアドを月光姫に持たせジンガに仕掛けるケン。 「ぬぅ……」 「ここで一気に決める!」 離れようとするジンガ、後方からマニュピュレーターを伸ばす谷川。 「うぜぇ!」 酒気で払うジンガ、体勢が崩れた所に月光姫の赤黒いオーラを纏った中段回し蹴りが炸裂、凍結した右腕を粉砕、金棒が床を滑っていく。 「ぐぎゃああああああっ!」 「終わりだ!」 「ここで終われるか! 酒樽領域出力全開! 酒の津波でダンジョンごと溶かしつくしてやるわ!」 ジンガの左手が床に触れる直前、飛翔してきた茉白のチェーンソー腕によって切断される。 「なんだとおおおおおおおっ!?」 「やりました」 既に谷川のスーツはなく、酒気でボロボロになりながら力を振り絞りチェーンソー腕を飛ばした茉白。その場で膝をつく。 「馬鹿な! こんなっ!」 「撃槍! ゼクスミニアド!!」 螺旋状の光帯を纏う槍。それを持った月光姫は華月を思わせる背中と足裏の魔力噴出によって爆発的加速。 「ちくしょおおおおおおおおおおっ!」 防御も回避も間に合わないジンガ、心臓にゼクスミニアドが突き刺さる。 「ごふぁ……これで……全て終わりだと思うなよ……真邪王いる限り再び魔王は現れる」 「その時はまた! 勇者と仲間がお前たちを倒す!!」 「ギャハハハハ……」 ゼクスミニアドの崩壊波で塵になっていくジンガ。 「終わった……」 「まだです勇者ケン、脱出しなければ」 冬華が言った。 「残りの血液カプセル全てを使用して全員を抱えて脱出します」 ドレスパーツは崩壊しほぼ素体状態の冬華。 「魔力放出……さぁ皆行きましょう」 球状の魔力を放出して生命維持空間を作り出す冬華。ケン、谷川、茉白を抱えて飛ぶ。 「津波が来ますしっかりと捕まって」 加速する冬華、穴の開いた壁面から脱出、直後円錐建物は大量の酒をまき散らしながら崩壊していった。 「やった……ついに魔王を……【凶】を壊滅させたんだ……後はユウが……」 ケンは崩壊するダンジョンを見ながら意識を失った。 丁度その頃、ユウも真邪王を撃破していた。 冬華はそのままホテルに向かって飛びながら財団の者に連絡を入れた。 続く
Jan 4, 2025
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