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ReviveTheGunSword:灰蘇の剣銃2「記憶の無い少女」―夜の雨が滝のように降っている。ボクはそれを仰向けで全身に浴びている。「冷たくて気持ちいいなぁ~~~」 ここは知らないビルの屋上。どうしてここに全裸で寝転んでいるのか…… それはボクにも分からない。気が付いたらここでこうしてたのだから。「……」 体を起こして周囲を見渡す。ボクの寝転がっている場所はオレンジで〇にHと書かれた中心。Hな格好してるボクがHの中心に寝転んでいるのはわざとじゃない。「あはははは」 でもなんかおかしくなって笑ってしまった。とりあえずこのままじゃ駄目だし着るものを探さなきゃ。下の階に扉を見つけた、鍵がかかってたけど無理やりネジって壊して開けた。凄い!ボクって力持ちだったんだ!! 階段を降りていく、誰も居ない。踊り場に設置された鏡に映る自分の姿を見た。「かわいい顔、形のいい胸、くびれたお腹、張りのあるプリケツにスラリとした綺麗な脚」 ボクはどうやら超美少女のようだ。おっと見とれてる場合じゃなくて服探さなきゃ。 「お、ラッキー!」 すぐ下の階は婦人服売り場だった。電気が消えてるって事はお休みか閉店後?監視カメラの死角に隠れながら売り場を進む。良さそうなのを拝借して身に着ける。「支払いは……後で……」 そう言えばボクの銃はどこにいったんだろう?「あれ?なんで銃?」 銃を持ってるのがあたりまえで、持ってない事に違和感を覚えた。 ついでに傘とブーツも拝借して屋上に戻る。「……」 屋上を歩いて回る。ボクが寝ていた場所には何も無い。 屋上には室外機と発電機、ぶっといパイプが沢山―「あれは?」 屋上の端っこに人の頭くらいの大きさのトゲトゲの石があった。「卵みたい」 真っ二つに割れていて中身は無い。トゲトゲ石に触ってみる。「あっ!」 まばゆい光を放って……しばらく目を瞑ってあけると石は消えていた。代わりにボクの手に指輪が二つ。サイズが合いそうな中指にそれぞれつける。「ノリで指輪つけちゃったけど呪のアイテムとかじゃないよね?」 まぁいっか、ボクの記憶の手がかりになるかもだし。それよりも銃は……「え?」 掌に銃が出現した。よくわかんないけど……出てきた銃を眺める。「うーん……この灰色のボディに程よい光沢……レトロフューチャーなデザイン」 銃を構えて屋上の手すりの柵一本を狙う。バキュンと小さな音を出して青白い光弾が命中した。記憶はないけどこの銃を愛用してたのは体が覚えてる。「見つかったのはいいけどこれどうしよ……上着はポケットないしブラトップはあんまり伸びる素材じゃないし……スカートにひっかけるか……ソックスにねじ込むか……」 今履いている気に入ったデザインのパンツは小さすぎて無理。フルバックデカパンにすれば良かったかなそれでも銃はちょっと重いし大きいから無理かも。カバンも拝借しちゃおかな? 「あれ、消えちゃった」 よく分からないけど消えた。指輪がほんのり光ってる、もしかしてボクの意思に反応して指輪が銃を出し入れしてくれてる?「あ、出た……消えた。出た、消えた……」 左の指輪からはカードリッジっぽいのが出た。色んな弾を撃てるっぽい。「はー……これからどうしようかなー……」 下の街並みを眺める。キラキラしたネオン、派手な恰好の女の子たち。オラオラ系の男の子たち。酔っ払い……雨が降ってるのに結構人がいる。 「ここに居ても仕方ないし下に降りよ……」 非常階段の鎖を銃でバキュンと壊して降りていく。なんでこういうところは原始的なんだろう? タンタンタンタタンってリズムよく降りてく。一番下の階は何故か電子ロック。「これってセキュリティ発動しちゃう系かな」 バキュンとやっちゃう?うーん、銃じゃなくて何かでザックリくり抜いたら発動しないかな?「おっと?」 右手に現れたのは包丁のような形だけどボクの腕くらいの大きさの刃物。「銃が剣になった?この剣で扉斬れるかなぁ……」 剣で扉を突いてみた。あっさりと突き刺さってしまった凄すぎ……とりあえずボクが通り抜けられるようにギコギコくり抜く。 「よっこいしょ……」 通り抜けて路地に出た。 誰も居ないのを確認して左手から何が出るか念じてみる。ちょっと変な鞘だった、血管浮きまくったような見た目のちょっとアレだ……エッチな感じ。「鞘……かぁ、でも指輪にしまうなら要らないような気がするけど」 剣を鞘に挿入するとズップリと何か生々しい感触がした。「あ……何かこの感触気持ちいいかも……」 ゆっくりと剣を抜いてみる。ぬるっと抜けた剣はちょっと濡れて形が変わってた。包丁型から真っすぐに尖がったレイピア状に。一旦剣と鞘を指輪にしまう、その後また出してみるとレイピアと血管バキバキの鞘が出てきた。収納時の状態をそのまま維持するみたいな?「なるほど……大体使い方分かった……というか思い出した?」 指輪は他にも便利アイテムを出せるものかなと試してみたけど……結局銃と弾丸、剣と鞘だけだった。4つのアイテムは左右どちらからでも出せる事も分かった。「う~ん……これをガンガン使ってた気がするけど……」 記憶はぼんやりしている。理解してるけど何処か他人事のようなそんな感じ。「このアイテムの使い方がわかった所で……肝心の記憶は全然なんだけどなー」 何にもわからないからとりあえず街を歩いてみよう。誰かボクを知ってる人に会うかもしれないし知ってる場所があるかもしれない。 ボクみたいに手に持ってる傘の人はそんなに多くない。若い人は肩に乗せたデバイスとワイヤーで繋がった傘ドローンを広げてる人、ほとんど透明の合羽来てる人、完全撥水の服を着てる人ばっかりだ。 「ヨー!おねえさん!!お店で一杯やってかない?夢の一時過ごせちゃうヨー!!」 真っ白な完全防水ビジネススーツにハットの茶髪の男の人が話しかけてきた。イケメン度は55くらい。「お金ないんだよねー!ねぇ、ボクの顔に見覚えない?」「あるあるある!超ある見覚えあるヨー!お金がない?嘘バッカリ、お姉さんの服はみんなハイブランド!決済は手の甲のIDキャッシュでウチはいけるからカモンカモン!!」 無視して歩き始めてもすっごい着いてくる。 ―手の甲のIDか。 そっか、ID調べればボクが何者か解るんだ!そうと決まれば交番へGO!!「交番に用事あるから行くけど一緒にくる訳?」「全然オッケー!やましいこと何もしてない客引きじゃなくてこれはただのナンパ、お姉さんに一目ぼれワンナイトラブしようゼ!!」 金属か!って思うほど白くてピッカピカの歯を見せてウインクするチャラ男。「ふーん……じゃ、離れて付いてきてね。近づいたら……バキュン!だよ」 銃を取り出して空に向かって撃つ真似をする。チャラ男の顔色が変わった。「そそそそそそそそ……」「そ?いやホントに撃たないって」「それは!グレイブラスター!!!あひいいいいいいお助けおおおおおおおおおっ!!」 ガニマタで猛ダッシュして逃げていくチャラ男。「ちょ、待ってよ!!」 足に力を込めてダッシュ!床の石畳がめくれ上がってしまった。三歩でチャラ男に追いつく。ボクってやっぱり超人なのかな!?「ひいいいいいいいいいいい!!お助けええええ!!アンタがあの……」 失禁して失神してしまった。ヤッバ、人が集まってきそうだったのでチャラ男をゴミ箱の横にもたれかからせて路地に逃げ込む。「手がかり一個みっけ。この銃は知る人ぞ知るヤバイものらしい……」 ヤバイものって分かったけど……どうしよっかな。ボクがヤバイ系なら交番行って即逮捕とかありえるかも?「おや、お嬢ちゃん」「え?」 全く気配を感じなかった。すぐ後ろにお爺さんが立っていた………両手両足が今時じゃない機械丸出しの義手義足。雨宿りかな?「はぁどうも」「いつもと感じが違うからすぐにわからなかったよ」「え?そう……なの?ボクの事知ってるの?」「ん?人違いかな?儂だよ徳三だよ」「とくぞー……さん……」 あれ?ボクはこの人知ってるかも?「それでどうしたんだい?」「あの……」 ボクはとくぞーさんに事情を話した。けど記憶を失う前のボクはとくぞーさんに名前を教えてなかったらしい。なんてこったい!!M(エム)とだけ名乗ってたとか。「M……マイコ、ミコト、ムリアン、メイ、モリガン……全然思い出せない」「困ったねぇ~お嬢ちゃんには世話になったから何か力になってやりてえが……そうだ、三丁目の三角ビル向かいの公園にお嬢ちゃんが儂に預けた荷物があったんだ。ほれ、そこの室外機の下に鍵がある確認してみな」 とくぞーさんの教えてもらったところにガチャガチャのカプセルに入った鍵があった。「ありがと!早速行ってみるね!」「おお、気を付けてな」 路地を抜けて教えてもらった方角を進んでいく。さっきの通りよりはケバケバしくない。でも相変わらずタチの悪そうな集団がウロウロしてる。左前方に三角屋根のミラービルが見える。 雨は若干弱くなってきた。公園に到着すると目に飛び込んできたのはテントの数々。なるほどホームレスの人たちの寝場所ね。「あのーとくぞーさんから鍵預かってきたんですけど……誰か知りません?」 テントから何人か顔をのぞかせた。お年寄りだけじゃなくて若者に女の人もいる。「おや?Mじゃあないかここ一週間ほど姿を見なかったからな、元気そうで何よりだ」 と言ったのは眼鏡がバキバキにひび割れたおじさん。「え?あ……そうです……ね」 おじさんはすぐにテントの奥から小さな金庫を持ってきてくれた。ガチャガチャカプセルの鍵を使って開けると中に入っていたのは……傷だらけのICカードだった。なにこれなんのICカード? それにしても……一週間ほど姿を見なかったって?ボクはとくぞーさんや眼鏡バキバキおじさんらと最後に会ったのは一週間くらい前だったのかぁ……その前後何をしてたんだろう?「やめてぇええええええええ!!」 女の人の声だ、どこから!?上からだ!!向かいの三角ビルの上!! 三角ビルのバルコニー部分に女の人と黒フードで赤い目を光らせた男らが三人。手には刀のような刃物を持っているのが見える。「DMCだ!!」ホームレスのお婆ちゃんが叫んだ。「やべぇぞ!!あのお姉ちゃん殺されちまう!!」ホームレス少年が言った。 ギャング同士の抗争なら知った事じゃないけど一般人は助けなきゃ!!ボクは三角ビルと隣のビルの間の路地に駆け込み、壁ジャンプ。ジグザグに上に上がっていく。5階建ての三角ビルの屋上バルコニーに到着した。「ああん?何だぁテメェ……」 屋上には……10人くらいのDMC。全員刃物を持っている。下から見た数より多い!!「ストップ!動くんじゃないよ!」 でも銃を持ってるボクの方が有利だ。チャラ男が言ってたグレイブラスターを構える。「その銃……テメェ生きてやがったのか」「見た目で分からなかったぞ……」「団長に報告だな」「ふっふー!この銃の恐ろしさを知ってるようだねっ!そこの女の人離せ!」「それは無理だな、テメェはここで死ぬ」 体が盛り上がっていくDMCの連中。上半身が特に異常にデカくなった。「ゴウトウヘーーーーーーーール!!」「うっさい!」 グレイブラスターを放つ。青白い弾丸が正面の男の膝に命中!派手にすっ転んだ!次の敵に……って連射できないのー?「ヘヘヘヘヘヘーーーーール!!」「もうーーーーーー!!」 大ジャンプで一気に後ろに下がって距離を取る。連射できない弾なら……代えればいいって事だ!よーし、連射弾に……カードリッジ交換!! 手裏剣を投げてくるDMCの連中。ボクは華麗に空中伸身3回転捻りで回避して着地。着地と同時に連中の放った手裏剣が爆発した。三角ビルの屋根がボロボロに!爆裂手裏剣か!「ダララララララララララー!!」 ボクはマシンガンめいて光弾を発射。弾丸はDMCの巨漢の皮膚を破り鮮血を噴出させる。「きゃああああああああああああ!!」 さっきの女性が羽交い絞めにされて刀をつきつけられている。しまった……!!「用があるのはこの女だ。テメェがこの女に何の用があるか知らんがコイツは始末する」「用だって?無いよ!一般人を巻き込むのが気に入らないんだ、外道があああああっ!!」 超スピードでカードリッジを交換。今度は誘導弾!上に向かって4連射!!「はっ!何処撃ってやがる!!……うぐげっ!!」 戻ってきた弾丸は外道DMCの両肩を破壊!肉片を飛び散らせて倒れた。「て、撤退だ!!奴が戻ってきやがった!!」 残りのDMCは倒れた奴らを連れて去っていった。「あ、ありがとうございまーす!!」 女の人は無事みたいだ。クネクネモジモジしてる。「何で連中に襲われてたの?」「私見ちゃったの!隣のビルのマンションに住んでるんだけど出勤前にいつもタバコ吸いにベランダに出るの。そっから三角ビルのベランダ見てたらDMCの人たちがカップルを立たせたままめった刺しにして……化け物に変えたの!!」「え?」「携帯で動画撮ってるよー……ほら」「ホントだ……なにこれ」 ふむふむ、撮ってるところ見つかって……DMCのフックロープでこっちに引きずり込まれて刺されそうに……そこでボクが現れたって訳ね。「あ、ヤバイ!遅刻しちゃう!!あたしマリリン!【ヴィーナスQ】ってお店で働いてるから知り合いに宣伝しといてねーじゃあね~ん」 たくましい……命狙われたってのに。でもこの街の夜のお店で働くならそれくらいじゃなきゃダメなのかもねー。 「騒ぎ起こしちゃったし今日はどっかで隠れるしかないかなー……あてもないしお金も無いし公園のテントのどこか入れてもらおかな……」 ―結局おばあちゃんホームレスの瀧子さんのテントに泊めてもらった。昨日から何にも食べてなかったからおにぎりまで貰っちゃった!「ありがとー!この恩は絶対10倍くらいに返すからね!!」「いいのよ、困った時はお互い様だよ」 おにぎりを持って公園から路地に入る。今日は何か良い事起きるかなー!続く
Jan 30, 2022
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ReviveTheGunSword:灰蘇の剣銃1「諸田和音(もろだかずね)」 夜空に二つの煌めく光。白金ともう一つは藍の海の色を思わせる光。お互い衝突を繰り返し火花を散らす。「うおおおおおおっ!」「死いいいねええっ!」 二つの光は螺旋の光帯を描き上昇する。何度か衝突を繰り返し最後に大きな爆発を起こした。その中心から一つの燃え盛る流星が市街地に落ちていった。*** ―東京・秋馬原(アキバハラ)第三区 オレは9月の5連休を利用し東京の親戚の家に来ていた。「卒業したらここに住んだら良い。空き家なんて物置にしかならないからな」 七三分けのメガネをかけた目の前の男性は叔父の諸田瞬栄(しゅんえい)、年齢は44歳で外科医。 先月離婚して家を手放すことにしたのだ。卒業後東京の大学に通うのに瞬栄さんの家は色々便利だ。賃貸の狭いマンションで暮らすより勝手がきくこの家が都合が良かった。 瞬栄さんは勤務先により近いマンションに引っ越す予定をしている。「ありがとうございます瞬栄さん」「良いんだよ和音(かずね)君。伯父として出来る事はなんでも協力させてもらうよ。弟から聞いたよ、君は奈良の実家の家業を継ぐと決心したと考えて良いのかな?」「はい、俺は実家の刀鍛冶を継ぎます」「もったいないよなぁ……和音君は地元の高校でも成績トップでしょ?医師になってから継ぐのも面白いかもね?医師であり刀鍛冶とか中々居ないでしょ?」「それはそうですが」 瞬栄伯父さんは父の兄にあたる人だ。刀鍛冶になるよりも医師を目指して実家を飛び出したのだ。実家の刀鍛冶はオレの父が継いだ。父は元々瞬栄さんよりも刀鍛冶の仕事に興味があって子供のころからよく鍛冶場に出入りしていたと聞いた。「刀剣の美しさは素晴らしいと思うんだけど……医師の方に憧れちゃったんだよな」「瞬栄さんはどうして医師を目指したのです?」「俺は……子供のころに見た漫画の影響かな。もの凄い衝撃を受けてさ、刀鍛冶をするよりも沢山の人を治して助けたいって思ったんだ。幸いなことに勉強は出来る方だったしね」 笑いながら瞬栄さんは耳の後ろを掻いた。時々見るこの人の癖だ。「和音君は?」「色々迷っていましたが亜瑠の事があって決心しました」 オレの似てない双子の妹、亜瑠は夏休みに東京で行方不明になり、先週秋馬原の第二区:繁華街の路地で発見された【無傷】で。今も意識は戻らない原因不明だと搬送先の医師は言った。瞬栄さんも勿論診てくれたが原因は不明。「ふーむ……亜瑠ちゃんは物凄い熱量で鍛冶屋目指してたもんね」「ええ、不器用だけど情熱は人一倍でしたね。あいつの場合刀を作るよりも使う方が得意なタイプです」「ははは、そうかもねぇ」「今回の事で分かったんです。あいつには傍で切磋琢磨するライバルが必要なんですよ。目を覚ました時オレが本気で刀鍛冶を目指すって聞けばいい刺激になる」「熱い亜瑠ちゃんとクールな和音くんの兄妹の関係……いいよね。あの子は情熱と体力とひらめきで突っ走る。君は冷静に頭脳的に分析して行動する」「あいつは伝統的な技術と知識を身に着けることが第一と考えてます。刀鍛冶になるのに大学に通う事なんて無駄だって。オレは違います、最先端の技術や知識を学ぶ事が刀鍛冶の仕事に活かせると考えてます」「君たち二人が後継者になってくれると聞いて安心だよ。弟も喜んでたし」 「父は生涯現役を口にしていますから益々精が出る事でしょうね」「お、もうこんな時間か。俺は出勤するけどどうする?」「少し街を歩いてから亜瑠の病室に行きます」「そっか、じゃあ戸締りよろしく!」 瞬栄さんは車で通勤だ。オレは後から支度をして瞬栄さんの家を出た。 ―― 昨日までの雨はすっかりやんで雲一つない快晴だった。 天気予報も今日一日晴れ。傘は必要ない。 秋馬原第三区は閑静な住宅街だ。病院のある第一区は繁華街の第二区を抜けた先にある。 物騒な第二区繁華街と違い第三区は静かでトラブルの気配すらない。 トラブルの原因となる者たちが多く住んでいるのは第六区だ。用事も無ければ近づくことも無い。一部スラム化していると瞬栄さんから聞いている。 秋馬原総合病院に亜瑠は入院している。東京の有名な大学病院の医師が先月入ったと話を聞いた。TVでも紹介されていたウルトラドクターと呼ばれている人物で瞬栄さんの同僚だ。病院で会えるかもしれない。 第二地区と書かれたゲートをくぐり抜ける。一気に周囲の風景が変わる。異常なまでに多い看板の数々。増築を繰り返されたビル。大量の散らばったゴミを清掃するロボット。人の数は疎らなのはこの地区は夜に活性化するからだ。 大通りの歩道沿いを歩く。第二地区の中に用は無い。昼間であっても不要に立ち入らないにする事がトラブルを回避する。「キャアアアアアッ!」 早速悲鳴が聞こえてくる。オレは悲鳴の聞こえた方を向き身構える。すると上半身裸にホワイトタイガーの仮面をつけた男がジェットローラーブレードで大通りを目掛けてこちらに走ってきた。「ひったくりよー!!」 半裸ホワイトタイガー仮面の後方には派手なワンピースの女性が倒れて叫んでいる。「どけどけどけー!死にたい奴だけ止めにこいー!!」 男の両手指から鋭い爪が飛び出した。なるほど、東京のサイバネ者は一見普通の見た目をした内蔵型が殆どというのは本当のようだ。「どけニイチャン!引き裂くぞ!!」 オレは半裸男の右側に身を躱す。そして―「ウワッ!?」 襟首をつかんで半裸男を転倒させた。「イッテーな!!コノヤロウ!!ニイチャン……死にたい奴だけ止めにこいって言ったよなぁ?聞こえてなかったのか?」 派手に腰を打ち付けたのにもかかわらずすぐに立ち上がる半裸男。他にも身体改造をしていると見て良さそうだ。「そのカバンを置いていけ」「ハァ!?ジョーキョー分かって言ってんのか?テメェそのイケメン顔……第二地区に新しく入ってきたホストか?」「いや、違うが?」「だったら関わるんじゃネーヨ!切り裂かれて死ぬヒーロー気取りの若者Aになりたくねーだろ?この第二地区じゃあこんなこと日常茶飯事なんだよ、一々誰も気にしてねぇ匿名通報して終わりだ。警察が到着するころには姿は消えてるってお決まりのパターンなんだよ。奴らもさっさと切り上げて帰っていく」「だったらカバンは置いて行ってくれないか?通報は誰かしているのだろ?」「本当の馬鹿のようだな!痛い目みろやぁー!!」 飛び掛かって来るホワイトタイガー半裸仮面。引っ搔きのフェイントを入れて掴みかかってきた。オレは腕の動きを見切ってクロス状態で掴んだ。右手で右手を、左手で左手を。「何っ!?」「カバンを返してもらうぞ」「しつけーな!」 膝蹴りを放つ半裸男、オレは膝を合わせてカウンターの金的を入れてやる。「ごぉっ……」 プロテクターもしていなかったのか半裸男は悶絶しながらうつ伏せに倒れこむ。オレはたすき掛けにしていたカバンを取り上げた。「テメェ……顔覚えたぞ……」「さっさと行けオレはすぐに忘れたい」 股間を抑えジェットローラーブレードで去っていく半裸男。「何だったんだあいつは……サイバネギャングか?」「わーいありがとう!」 カバンの持ち主であろう女性が駆け寄ってきた。膝を少しすりむいている。「どうぞカバンです、膝大丈夫ですか?」「どもども!すりむいただけだし平気!おにいさんこそ怪我してない?あの仮面……ヤバイ連中なんだよ?」「そうなんですか、物騒ですね」「え~何その冷めた反応~もしかしてこういうの慣れてる?」 ものすごく顔を見てくる女性。香水の匂いが強い。「あの仮面は【G/T】って半グレギャングのメンバーなんだよ。普段は仮面してないんだけど抗争とか事件起こす前はしてるのよね」「なるほど……用があるのでこれで失礼します」「ああん、クール!あたしマリリンっていうの。そこのお店【ヴィーナスQ】でキャバ嬢してるんだぁおにいさんの年齢的にはまだ無理なのが残念ねーあたし年齢とその人が何の仕事してるか大体分かっちゃう特技があって……おにいさん18歳の学生……だけどバイトで金属加工的な?何かしてるでしょ?」 よく喋る女性だ。「まぁそんなところです、それじゃ」「あ、まって名前教えてー」「和音(かずね)です」「和音クンね!じゃあばいばーい!」 振り返らずに後にする。 来て早々にこれだ。亜瑠はこんな街で何をしてたんだ。 大通りをしばらく進んでバス停を見つけた。表示は第二地区一丁目。丁度秋馬原総合病院行きが着たので乗る。 電子マネーで決済して一番後ろの席に座る。乗客の数はそれほど多くない。「やっべー」「マジかよ」 男子高校生らしき乗客2人の声が聞こえてくる。「G/TとDMCがやりあった第二地区3丁目の三角ビルめちゃくちゃになったって」「勘弁してほしいわ……カード屋いけねーじゃん」「それなーソッチ系のやつら2丁目だけだと思ってたのにな」「警察役に立ってねぇし……あーあオークションサイトは信用できねぇし使いたくねー」「折角の連休なのにないわー」「しゃあねえタカシんちでだべっとくか」「だな、ジュースと菓子買ってこうぜ」 バスは第二地区3丁目を通り過ぎた。男子高校生ら会話が少し気になったので窓の外から三角ビルとやらを探してみる。数秒だけだがビルの間に三角屋根のミラービルの屋根が崩れているのが見えた。『次は秋馬原総合病院前』 降車ボタンを押す。バスは第一地区のゲートをくぐり抜けた。ごちゃごちゃとした街並みは突然整然としたものに変わる。第一地区は高層ビルが立ち並び人通りも多い。 オレの他に4人が総合病院前で降りた。―秋馬原総合病院 4つの棟が立ち並ぶ大病院だ。パワースーツの武装警備員が立っている。分厚い金属の玄関受付で左手の甲に埋め込んだマイクロチップから身分証ID確認と持ち物検査をして中に。 面会の受付を済ませて亜瑠の病室に向かう。大勢の医師が亜瑠の部屋に集まっている。「おはようございます。あの、何かあったんですか?」 廊下で医療カートを押している看護師に聞く。亜瑠の担当の人だ。「あら和音くん、おはよう。あの人たちはね例のウルトラドクターの回診に付き添っている医師なの。亜瑠さんに何かあったわけじゃないの」「そうですかありがとうございます」 医師らをかき分けて亜瑠のベッド横に行く。目の前には虚ろな目の無表情の医師が亜瑠の電子カルテを眺めて立っていた。「君は?」「諸田和音と言います。亜瑠の家族です」「あ、そう」 それだけ言うとすぐにカルテに目を通し始めた。 「あの、貴方がウルトラドクターのかm―」「おっと、苗字で僕の名を呼ぶな」「はい?」「僕の事はドクターKもしくは名前の壊袁(かいえん)と呼びたまえ」「はぁ……では壊袁先生」「それで何か用かね?」「亜瑠は治りますか?」 その質問をするとカルテから目を離しオレに向けた。「精密検査の結果を見たが身体に異常は全く無い。考えられる症状の病名を君に話したところで……ふーむ……」 壊袁先生は小さく深呼吸をした。「ベストを尽くすよ、今言えるのはそれだけだ」 しっかりとオレに目を合わせて壊袁先生は言った。10人程の医師を連れて去って行った。 花瓶の水を変えたあとしばらく窓の外を眺める。 ただ眠り続ける亜瑠。今にも起きて目を覚ましそうな顔をしている。「(亜瑠はそもそもどうして第二地区の路地で倒れていたんだ?)」 前回の面会時、警察官二人が一度亜瑠の様子を見に来ていた。確か名刺を貰ったはずだ。 警視庁 秋馬原警察署 刑事課警部補 比留山陶子(ひるやまとうこ) 若そうな二人組の刑事だった。一人は長身の女性ともう一人は落ち着きのない男性。「確か……第二地区で起きた大量殺人事件の捜査とか」 亜瑠と大量殺人事件の繋がりがあるとは思えないが……気になる。一度亜瑠が倒れていた場所を見たほうが良い気がした。 携帯端末を操作して地図を開く。亜瑠が倒れていたと聞いた路地に目的地を設定する。「ついでに骨董品屋に寄ってみるか……」 路地の近くに骨董品屋の【溝口堂】がある。面白い掘り出し物があるかもしれない。―第二地区 バスに乗って第二地区に到着。病院に来る途中で見た三角ビルの通りを入って行く。この通りは昼間でも開いている飲食店が多く大手チェーン店もある。ファストフードのマスドが見えてきたので少し早い昼食をとることにした。「あっ!」「!!」 手前の路地から突然人影が飛び出してきた。咄嗟に回避する。「うああああああっとおおおっ」 転倒直前の飛び出してきた女性。オレは手を引いて支えてやる。「大丈夫か?」 顔を上げる女性。くすんだ金と銀2色カラーの髪。その顔は――「……」「あっああああああ!!ボクのおにぎりがあああああ!!!」 円形に包装された握り飯が転がっていくのが見えた。それを2輪車が踏みつけていった。「ガアアアアアアアン……ボクのご飯……1日ぶりのご飯が……」「……」「まだ食べられるかな……包装から飛び出してない部分なら……」 平らになった握り飯に駆け寄って手に取る女性。「すまなかったな。オレのせいで握り飯が台無しになったか。お詫びにマスドを奢ろう」「ん?……え?ええええええええええっ!?いいの?やったー!!」 飛び跳ねる女性。派手な髪色に派手な服装、東京でよく見るタイプではある。「めっっっっっっっっちゃイケメンじゃん!!アイドル?ホスト?芸能人??」「違う。とにかく店に入ろうか」「ボクはあのヤミツキてりやきチキンめんたいマヨバーガーのデラックスセット食べたい!!」「わかった、席で待っててくれ」「はーい」 騒がしい奴だ。奢ってやったらさっさと別れて亜瑠の倒れていた場所に行こう。注文をしている間もオレの顔をじっと眺めていた。オレは自分のハンバーガーセットと一緒に女性の座る席に持って行く。「ありがとう!!ねぇねぇ、お名前なんていうの??」「和音だ。そういう君は?」「ボクはねぇ……えっと……わかんないんだー」「は?」続く
Jan 23, 2022
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VAMPIREEYE137「救世主と少年」 二郎は葛野忍の言葉を思い出す。開けるときは外から中の扉を開けられるのだと。 「中からじゃなく扉は外から開けられた。閉じるときは逆に中から?……ということは中に入って外に向かって鍵を突っ込んで回す……のか?」 「……ククク、白金の腕が欲しい答えをくれるでしょう?木城二郎……だがお前は……」 葛野忍は苦笑いで言った。 「アンタも付き合ってもらうよ葛野忍。白金の腕の先輩としてね」 二郎は足元に倒れる葛野忍を右手で掴んで言った。 「止めろおおお!!小生はこの星の救世主となるのです!!消えるわけにはいかん!!」 「だったら一緒に扉を閉じてこの星を救おう」 「やめろおおおおおおお!!」 葛野忍を異次元の中に突っ込む二郎。 「…………………………………………!!」 異次元空間で叫ぶ葛野忍、出ようともがく。扉に近づくとまた入ってしまった。 「ああああああああああああああああああああっ!!」 「……よし……」 意を決して異次元の扉に入る二郎。ゆっくりと。 そして振り返り、中から扉を眺めると外の景色はまるで鏡のように左右反転していた。 「白金の腕のおかげか普通に居られる……葛野忍のようにならない……」 扉の前で激しく回転し出現と消えるを繰り返している葛野忍。 「白金の腕の中にある鍵を扉に……」 扉に映っている二郎は左右反転した二郎。左手に持った鍵は右手に持つ。 「いや、きっとこうじゃない。このままじゃ鍵同士ぶつかって回せない……」 鍵を持ってゆっくりと後ろ向けに扉に近づく二郎。背中を何かが押す感覚があった。 「ゆっくり下がって……」 二郎の目の前の景色が変わった。見たことも無い砂嵐の荒野。扉をくぐったであろう顔までは存在し、その先の両腕は無い。 「……」 ゆっくりとそのまま下がる二郎。やがて腕が見えてくる。そして左腕の鍵が半分ほど見えた所で回した。 「何か感触があった」 目の前の荒地の空間に2mほどの純白の球体が出現する。それは徐々に小さくなっている。 「きっとあれが元の次元に戻る……」 磁石で反発するかのように押し返される二郎。 「なんだ……」 左腕が特に強く反発している。 「そっか……この腕はここに置いて行った方がいい」 左腕を外す二郎、驚いたことに中の自分の左腕は消えていた。 「……!?まぁ、仕方ないのかもしれない」 反発する力に抵抗して右腕を差し込む二郎。義手を通じて中の様子が見える。 「元の次元だ!皆だ!皆が見える!!うおおおおおおおおおおおっ!!」 純白の球体はゆっくりと小さくなっていく。 「―――」 後ろで声がした。 「なんだ?」 「――――」 *** ―晴明神社前 二郎と葛野忍が異次元の門と共に消えて数秒後。二郎の右腕が何も無い宙から現れた。 「二郎くん!!」 吹雪が叫ぶ。 出現した右腕はバックルを掴んでいる。出現した右腕はそのまま宙に浮いて停止。 「ジロウ!早く出てくるのです!!何をしているのですか!!」 叫ぶリティーシャ。 「二郎!」 華月が叫ぶ。 「二郎!」「木城君!!」「木城君!」「木城くーん!!」「がんばれー二郎くーん!」「もう少しですよ二郎くん!!」「ファイトダ!!」「木城君っ!」「木城さん!!」「木城二郎君!!」「木城君早く!!」「二郎さん!!」「木城君……!」「二郎ー!!」「木城二郎さん!」 全員が次々二郎の名前を呼んで叫ぶ。 しばらくして宙に浮いたバックルを握った腕は落ちた。二郎の姿は無いまま。 *** ―翌日 東京から戻ってきた二郎と蓮也の父親である木城紫蓮が京都に戻ってきた。 都メタルで昨晩の出来事を全てリティーシャと蓮也から聞く。 「あと12時間早く京都に戻ってれば……」 「まだ二郎は死んだと決まってねえよ親父!アイツは戻って来るって!!」 ソファから立ち上がって叫ぶ蓮也。 「そうですよシレン、あの義手とバックルの出現の仕方は何か二郎の意思を感じました。きっと戻ってきます」 「……ああ、二郎は戻って来る……信じよう」 ―碁盤の目町 華月一行と白峰家は碁盤の目町に居た。 混乱してた碁盤の目町は雪名と華月によって鎮圧。その後、華月派と雪名派による話し合いが碁盤の目町中央塔で行われる事となった。 「言いたいことは全て言い切る。いいな、雪名」 「ええ、母上。お互い積もる話もあるので存分に話し合いましょう」 周囲には笑顔ながらお互いの視線で火花が散っているように見えた。 話し合いは長引き12時間の間続いた。途中で休憩をはさみ食事をしながら。 ―センジョー 「社長、京都市内の鎮圧が終わりました。避難住民への支援物資を開始します」 「ああ」 葛野忍戦に参加しなかったセンジョーの者たちは京都市内で暴れていたグレイビーストの残した獣狩りをしていた。 「これから忙しくなるぞ……ヴァルキリーには早速仕事が入ってる明日からだ」 「承知致しました」 「一般には秘密の碁盤の目町の工事にセンジョーが関われるようになった……面白い」 「ええ、センジョーグループはまだまだ大きくなります」 ―京都駅近くのホテル 「それではこれで失礼します、私たちは大阪に向かいます。師匠に呼ばれているので」 「イグネイシャス君元気でな!」 タクシーに乗り込むリティーシャ。顔の映像を表面に映し出した特殊マスクを装備している。刀耶は奇妙な柄のシャツを着ている。 「ああ、リティーシャさんも刀耶君も元気でね!」 手を振る白いTMI製のパーカーを着たイグネイシャス。 タクシーが見えなくなるまで見送った。 「さて……今日中に本部に戻らされるし京都市内の観光行っとくかな」 振り返ると木箱を持った細い女性とぶつかりそうになった。 「おっと失礼」 「いえこちらこそ」 すれ違う二人。 イグネイシャスはどこかで見た人物だなと首をかしげてもう一度振り返るも既に女性は人混みの中に紛れ見失ってしまった。 「気のせいか……何も感じなかったし」 イグネイシャスは地下街に昼食を取りに入って行った。 イグネイシャスとすれ違った女性は地下駐車場の車に乗り込み木箱は助手席に置いた。 「梨花……」「もう少しの我慢ですよ……」 梨花と呼ばれた女性は全身機械に生体スキンをかぶせた存在。木箱を開けると螺旋状の拳大の棘と【神名Leandra咲夜】と書かれた人型紙が入っていた。 *** ―1週間後 アジトにしていたマンションに戻る華月と黒谷と冬華。閉じ込めておいたはずの黒焦げの長門顕彰の姿が消えていた。 「……マンションのモニターにも姿は見えませんね」 「僅かに残る魔力の残滓……このセキュリティの中、何者かが長門顕彰を連れ去った?」 奥の部屋で座っている和風ドレスの小さな華月。黒谷はタキシード、冬華は純白のゴシックドレス姿。二人は部屋を調べている。 「華月様……?」「お母様?」 口をへの字にして肘をついている華月。 「雪名どもめ……我らが碁盤の目町に入ることになるとは……」 「まぁまぁ、ここはお互い譲ったので……」 「そうですよお母様。今回の事件で誰も分家入りしなくて済んだのですから。次期当主を決めるのは最年少の霞が18歳になるまで保留、それまでは雪名が務める事になったのは皆納得できるもので良かったじゃないですか」 「長門顕彰が消えたのは気になりますので誰かに調査させましょう。さぁ華月様引っ越しの準備です要る物と要らないもの決めてください」 「うむ……」 「勝田さんらが用意してくれた碁盤の目町の博物館を改装した立派な和洋瀬中の館。良いところだったでしょう?」 「ああ………」 「お母様?」 「地上で行動する時はまた黒谷月の変装しなくてはならんとは……」 「仕方ないですよ、IDは黒谷月なんですから」 「すぐに慣れますよ華月様、お姿もその内戻るでしょう」 「まぁ……そうだな」 ―都メタル 白峰邸を新築するまでの間、雪名ら白峰家は都メタルのシェルターに住んでいた。 「ほんとにすっごい快適ねーここのシェルター」 ワンピースを着た雪名はソファに寝転んで言った。 水元来海が汗だくになって帰ってきた。両手には紙袋の山。 「只今戻りましたよ雪名さまぁああああ!!水着沢山買ってきましたよー!!……後で地下のプール行きましょうね!」 「いいわね!行きましょう!!」 「雪名様、皆さまアイスティーをお持ちしました」 スーツを着た吉良が運んで来た。 「ありがとう吉良。はぁ~楽、もう当分和服は着ないわ……新しい白峰のお家もここみたいにしてもいいかも」 そこに荷物を持ったスーツ姿の須原が入ってきた。 「雪名サマ、お荷物です。イギリスの蔵人様からです」 小包を置く須原。 「なにかしら?」 丁寧に包み紙を開ける雪名。霄、吹雪、霞が眺めている。 「もうすぐ帰れるって言ってたくせにもうちょっとかかるだなんてねー……あら」 ネックレスが入っていた。 「手紙も入ってるわね、なになに『結婚記念日に―』」 覗き込もうとする霞、雪名はダメと言って閉じた。 「いーじゃんお母さ~ん!」 「ダーメ、これは夫婦だけの手紙よ」 『結婚記念日に帰れなくてすまない。せめてプレゼントだけ送るよ。今度こそ来週には帰れる。事件解決に頼もしい助っ人が現れたからね。G.D.Ⅲ(白魔団)のメイガスが現れたんだ。彼が来て一気に解決にすすんだ、だから後処理が終わり次第日本に戻る。白峰蔵人』 「帰ったらいっぱいお話きかせてね。こっちも色々あったんだから……」 雪名は手紙の入った小包をもって個室に入っていった。 それを見てる霄は笑顔を浮かべていた。 「お母さん楽しそう、良かった私も嬉しい」 「完全にリラックスモードだよね。クールなお仕事モードは当分ないかも?」 クッキーをかじりながら霞が言った。頷いてアイスティーを飲む霄と吹雪。 一息ついたところで吹雪の携帯が鳴った。 *** ―木城家 家の敷地内になる小さな道場で刀を振る蓮也。それを見ている紫蓮。 「蓮也、ここまでにしておこうか。そろそろ準備始めよう」 「ああ」 「あなたー!蓮也ー!!ちょっと手伝って~!!」 「母さんが呼んでる……」 「凪子のやつなにをやってるんだか」 道着のまま台所に向かう蓮也と紫蓮。そこには台に乗った状態で上の棚戸を支えている凪子の姿だった。 「手離したら落ちてきちゃう!は、はやくなんとかして……」 「何やってんだよ母さん……準備は俺たちでやるって言ってたじゃないか」 「やれやれ……」 「だってじっとしていられなかったのよ」 蓮也と紫蓮は凪子をリビングに戻らせる。 「親父、桶とザルは俺が用意しておくから庭の台のチェック頼む」 「ああ、流しそうめんなんて久しぶりだからな」 玄関のチャイムが鳴った。凪子はすぐに携帯のカメラからインターホンの映像を確認する。 「あなたー!蓮也ー!帰ってきたわよ!!」 「予定より早かったな」「おお、そうか!」 凪子が玄関の引き戸を開けると全身に白い紋様が入り、一回り体格は大きく、半分髪は白くなり右腕に銀色の義手をつけた少年が立っていた。 「ただいま」 「お帰り二郎!!」 一部完
Jan 15, 2022
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VAMPIREEYE136「異次元の扉」 テントの前に立つ二郎、吹雪、刀耶。 ジョーカー珠はテントの中のリティーシャのナイトケースハートのマニュピレーター繋がっている。 「ギシャアアアアア!!」 「ストライクスマッシュ」 テントを守る結界に触れようとする量産型GBをランスで弾き飛ばす刀耶。 「硬いぜ量産型……仕留めるのに何発ぶちこまなきゃならないんだコレ」 「でも、あのグレイビーストと違って動きが単純だしまだ平気だよ」 二郎は槍に変えたバックルで量産型GBを突いて吹き飛ばす。 「タワーディフェンスって感じだな!守り切るぜ!!」 「できるだけ動きを鈍らせるわ。お母さんみたいにできないけど」 冷気を噴きつけ量産型GBの動きを鈍らせる吹雪。 「助かる………!」「この調子で頑張ろう、刀耶君、吹雪さん」 ナイトケーステント前の道路では雪名と葛野忍の戦闘が続いている。 「白峰雪名ああああああああああ!!よくも貴様ぁあああああああ!!」 「あなたの得意な呪は私には通じませんね。相性悪かったですね」 吸・引の呪は雪名の瞬間凍結の前には発動しなかった。結果、葛野忍は一方的に殴られ続けている。 「こちらの瞬間凍結もあなたに届かないのだからまぁおあいこ様ってところですか」 「(おのれ……華月に破壊された尾の再生が出来ぬ……残り4本の尾で雪名に勝てるか)」 「どうしました?母上たちと戦ってそろそろ限界ですか?わたしはまだまだ殴り足りないのですけど」 「だまれええええええええええええ!!(せめて九尾状態であったのならコイツと渡りあえたというのに!!こうなったら量産型GBを戻して尾の再生を……しかしそれでは)」 葛野忍の顎を蹴り上げる雪名。回転して落ちてくる所を尻尾を掴んで地面に叩きつける。 「がっはぁ……」 「集中力も切れ始めてますか?」 「(やはりここは量産型GBを回収して尾を再生、あの球体を叩き壊して異次元の扉を開かなくては!!)」 雪名の手を振りほどいて跳躍する葛野忍。 「急急如律令!!」 晴明神社に溢れていた量産型GBが消える、そして華月に破壊された尾が再生していく。 「クハハハハ!クハハハハハハハハハ!!力が戻った!!!」 着地する葛野忍。九本の尾の先を合わせテントに向かって構える。 「まとめて吹き飛ばしてくれる!!ここら一帯!!」 「させるもんですか!!」 尾から車ほどの超巨大陰陽弾を放つ葛野忍。雪名はそれを凍結させ両手で受け止める。 「爆裂しろおおおおおお!!!」 空中停止した陰陽弾を尾で連続で殴りつけ、呪を込め続けて押す葛野忍。 「このおおおおおおおお!!!」 雪名も負けじと陰陽弾を殴りつけて押し返す。 顔色が戻った小さな華月がテントを飛び出す。晴明神社の一同の元に走る。 「華月さま……そのお姿は……」 量産型GBが消え休んでいた谷川が気付き心配そうな顔で駆け寄る。 「谷川、大事ない。それよりも……ここにいる皆に頼みたいことがある。我に少しづつでいい、血をわけてくれないか。葛野忍を斃す為に」 華月に集まる11名。順番に掌に触れていく。 「ありがとう皆、必ず奴を仕留めて見せる」 小さな華月の体は輝きを取り戻す。銀色の髪はまぶしく、目は真紅に煌めいている。 「華月さんこれを使ってくれ」 蓮也が刀を渡す。 「……ああ、ありがたく使わせてもらう」 刀を受け取り赤黒い魔力のジェット噴射で葛野忍に向かう。 「休んでる場合じゃないよみんな!先代と一緒にGOだよ!!」 霞が叫ぶ。 「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 全員一斉に声をあげる。 飛んできた華月は雪名の後ろに着地する。 「雪名、我が隙を見て葛野忍の尾をまとめて切断する」 「わかりました母上、任せます」 飛び上がって葛野忍の背後に回る華月。 「華月いいいいいいいいいいいいいい!死にぞこないのクソチビがああ!!!」 超巨大陰陽弾を離し華月に振り返る葛野忍。 「ひねり潰してやる!!」 「来い!」 尾から陰陽弾を連続発射して華月を狙う。難なく回避する華月。 「よそ見は駄目!!」 横からボディブローを打ち込む雪名。風車のように回転して空中に。 「ぐっは……」 空中で回転する葛野忍に蜘蛛糸が絡みついた。地面に引き寄せられ這いつくばる。 「私たちもいるんだけど」 舞子たちが構えている。 「やああっ!」「喰らえっ!!」 霄と蓮也の炎の矢が葛野忍の背に突き刺さって爆発。 「オノレェ……」 「チューギューコン・ダイナミックシュート!!」 燿子の作った超圧縮ボールを妃羅莉萌絵が二人でシュート。葛野忍の横っ面に命中。 「うがああああっ」 蜘蛛糸を引きちぎり立ち上がる葛野忍。そこに霞、吉良、須原のトリプルキック。頭部を三方向から挟み込むように飛び蹴りが命中、頭部の装甲が砕け散った。 「サンダーウルフパワーキック!!」 「ごぁぁああああ……」 顔を抑え膝をつく葛野忍。 「有象無象のゴミ共が……神になる救世主の小生にこのような……」 「ストライクスマッシュ!」「ハアアッ!」 刀耶のバトルアックス、吹雪の上段からの斬りつけが葛野忍の両肩に命中。 「ぐがああああああ……つ、痛覚遮断……!!」 突如バランスを失って前のめりに転倒する葛野忍。 「オノレ!次はなんだ……!!」 葛野忍の膝から下は雪名の凍結で砕けていた。 「足が……おのれおのれおのれ……この白金の腕さえあれば!」 尾で飛び上がる葛野忍。飛び上がった先には華月が赤黒い魔力を宿し刀を構えている。 「邪魔だ華月いいいいいいいいいいい!!」 陰陽弾を連射、華月は弾丸を刀で全て切断して迎撃する。 「終わりだ葛野忍!」 「ううううおおおおおおおお!!」 白金の腕を振り上げ突進する。 「急急如律―」 「はっ!」 華月は刀を振りながら通り過ぎる。九本の尾の根本、白金の腕は繋ぎ目から切断。 「ああ……ああああああ……」 墜落する葛野忍。切断された九本の尾は燃え上がり、白金の腕は回転して落下。 「雪名との戦闘中、お前は吸・引の呪が通じぬと考え使用を止めた。そして皆の怒涛の攻撃で隙だらけになった所をつかせてもらった」 「し、止血ぅ……この小生がこんな所で……数十年の計画がこんなところで……」 残った左腕で傷に札を張り止血。はいずりながら移動。 「尻尾を再生した所でこれまでのダメージの蓄積はごまかせなかったようですね。さぁ異次元の扉を閉じてもらいましょうか」 ジョーカー珠を担いで葛野忍の行く手を阻んだのは雪名。 「ク、ククククハハハハ……それは無理です……扉は一度開いたら内側からしか閉じれない。つまり異次元に飛び込んで中から閉じるしかないのです。小生を無理やり放り込んだところで中から高みの見物をきめるだけですよ?」 「閉じる瞬間外に出る事は?」 「無理でしょうね、そもそも白金の腕を使えなければ意味がないのですけどね」 「……そんな」 「俺なら使えるんじゃないかな」 白金の腕を拾った二郎が言った。 「二郎君!」「二郎!!」 「この腕……俺の義手そっくりなんだ。それにほら見てよ、葛野忍から切り離されたあとは左手の形に成ってる、俺に装備しろって言ってるんじゃないかな?」 それを聞いたリティーシャがテントから飛び出した。 「あせって行動しないで下さいジロウ!今からその腕を解析します!!白金の腕をナイトケースの遠隔操作で使えればそんな犠牲にならなくても済みますから!!」 「……やっぱり宇宙に放り投げて始末します?」 雪名が星空を見上げて言った。 「クククク……宇宙に投げ捨てた所で異次元の扉は止まりませんよ?かなり地球から離すことが出来れば分かりませんが」 勝ち誇った顔で言う葛野忍。 「リティーシャさんが解析するまでこれをずっと抑えとくのはかなり危ないですよね。私が今こうやって持ってるのですけど、この包んでるジョーカーって特殊金属魔法鎧もいつ限界来るか分からないほど負担かかってて……私が凍結でなんとか今止めてる状態です」 「その通りです……」 リティーシャはマスクの下で唇をかみしめる。 「それなら……」 「ジロウ!?」 みんなの目の前で白金の腕を左手に装着する二郎。 「……驚くほど自然に馴染みますこの腕」 「ダメだダメだダメだ!!二郎!リティーシャのいう通り早まるな!」 刀耶が二郎の肩を掴む。 「刀耶君……別に俺は犠牲になろうってんじゃないよ、やるべき時なのにやらないのは絶対に嫌ってだけで……別の方法があればそうするよ」 「他の方法があるはずだ……こんな……」 周囲の者たちもざわつく。 「我と黒谷で成層圏ギリギリまで飛び上がり全力でその珠を射出するのはどうか?」 「母上、このジョーカーが射出の衝撃に耐えきれないかと。今も亀裂の入る音が聞こえてきてます……」 「なんだと……」 「ククククハハハハハハハハ!!勝った!小生は負けていない!!」 「皆離れて下さい……雪名さんも……」 白金の左腕を眺めて言う二郎。 「駄目二郎くん……折角お母さんも戻ってきてやっとなのに……」 吹雪が顔を覆って言った。 「吹雪さん離れてて危ないから……」 「うう……」 「ジョーカーそろそろ持ちませんよ……リティーシャさん、何か良い案は?」 「…………」 雪名の問いに首を振るリティーシャ。 「雪名さん……ジョーカーの珠を置いて下さい。皆もっと離れて……」 「クソ!二郎、俺にその腕を貸してくれ!!」 蓮也が二郎の白金の腕をつかむ。 「ぐあっ!!」 閃光と同時に弾き飛ばされる蓮也。それを見た葛野忍が笑う。 「ククク!白金の腕をそう簡単に使えるはずがないでしょう?この中では木城二郎だけでしょうね……」 「兄貴、大丈夫かい?これは俺がやらなきゃ駄目なんだ、きっとそういう運命なんだ」 「そんな運命………馬鹿げてる……」 「……」 ジョーカー珠が崩壊を始める。中から漆黒の珠が現れる。 ゆっくりと近づいて白金の腕を近づける二郎。反応した白金の腕が輝く。 「皆お願いだ、下がって欲しい。これは絶対俺が何とかするから」 二郎は白金の腕を異次元の扉に突っ込んでいく。 「……なんだろうこの感覚。前にもこんなことがあったような?」 周囲にいる全員が二郎の様子を眺めている。 「何か腕に触るものがある……」 突っ込んだ左手を動かす二郎。 「これは……鍵……か?」 次に右腕を入れる二郎。体験した事のない不快な感触が全身を駆け巡る。 「ぐうううう……義手を通じで中の様子が見える……虹色の空間……上も下も右も左も無い……」 「あ、ああ……」 それを聞いたリティーシャの顔が青ざめる。 「ジロウ!異次元を長く観察しては駄目です!!正気を保てませんよ!!」 「鍵が左手の中にあるんだ、だったら鍵穴がどこかにあるはず……それを探してるんだけど……」 「異次元の常識はこっちの次元の常識に当てはまらないのですだから……」 「それって……」 続く
Jan 14, 2022
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VAMPIREEYE135「起死回生」 『聞こえますかセツナ・シラミネ。私はリティーシャ・ヴァン・ヴァスベルゲです』 「聞こえますリティーシャさん。木城二郎くんを使って私に接触してきた理由は?」 『この膠着状態から貴女とこの街を救うべく来たのです』 「そうなの?いざとなったら思いっきりお空にぶん投げてやろうかと思ってたのよ」 『……私の想像していた人物像とは違いましたねセツナ。やはりその異次元の扉は移動が可能なんですね?』 「ええ、葛野忍の最初の計画ではこれを中央塔の緊急脱出口から射出して晴明神社の上空に設置するつもりでしたからね」 『この膠着状態をいつまで続けるつもりでしたか?』 「膠着するつもりじゃなかったのですよ。もっと小さくしておきたかったのだけど、この珠結構重くて……10トンとかあるかも?だから気合入れなきゃって、お空高くに投げきれなかったらどうしようって考えてた最中だったのよ」 『それは……なんというか絶体絶命の状況なのに貴女はあまり危機感が無いように見えますね』 「くよくよするの嫌いなの、だからしない。子供の時にそれ悟ったから。おしゃべりは後にしましょうか、リティーシャさんこの珠なんとかするの手伝ってくれるのでしょう?」 『はい、早速始めましょう。まずはセツナ、ジロウの右腕に触れていただけますか?少しの間、異次元の扉を片手で押さえる事になりますが』 「大丈夫、気合を入れればちょっとぐらい片手でいけます。じゃあ二郎くん、私の左側に立ってくれるかしら」 「はい」 ゆっくりと歩いて雪名の左側に立つ二郎。 「こうすればいいのよね?」 義手に触れる雪名。次の瞬間青白い光を放つ義手。 「あら?」 「う……く……雪名さん……ちょっと左手の魔力を………抑えて下さい」 「あ!そうね!」 『……ジョーカーは今のでむしろ良い状態になりました。ジロウ、セツナのように異次元の扉に右腕をかざしてください』 「はい!」 『いいですよそのままじっとしててください……ジョーカーでその異次元の扉を包み込みますから……その後はセツナに地上まで運んで貰いましょう』 「その後はどうするのかしら?」 『シノブ・カドノに返してやればやればいいのです。異次元の門を閉じなければならない状況に追い込んで……つまり痛めつけてやるのです』 「ああ~それいいわね!私ものすごーく我慢してきたからあの男ボッコボコにしたくてうずうずしてるのよ!白峰の女を怒らせると怖いんだから」 『……本当に貴女は見た目のイメージと合わないですね。カヅキもそうなのですが』 「カヅキ……って華月?母上を知ってるの?」 『ええ、まぁ。領域のその外で貴女を支援しているオキタはカヅキ・シラミネの配下の者ですよ?カヅキとは今日出会ったばかりなんですが』 「え?まさか母上復活してる!?うっすらとそんな予感はあったけど」 『ええ、元気でしたよ』 「は~~~~~~……そうですか!あの時、母上を斃した時から僅かに残った気配から消滅しないでどこかに居るとこの十数年ぼんやりと考えてきたんです。顔も出さなければ誰かが騒いでる様子も無いし無理に探す必要もないなと。ついに復活ですか~~~」 『……どういう心境なんですそれ。嫌そうなそうでないような嬉しそうな……』 「えっと……ちょっと後悔してたんですよ。で、母上は完全に亡くなったわけじゃないの私は知ってたから……あの人色々五月蠅かったし離れたかったのもあるんですよね。母上復活するかなーどうかなーそのまま亡くなったらごめんなさい復活したらああ良かったーて感じ?」 『セツナ……いい性格してますね………私と気が合いそうです』 「会えば母上と喧嘩になるでしょうねー………でも私はもう当主ですから負けませんよ。当主の力返せと言われて嫌だってハッキリいいます」 『あはははは……私はセツナ側につきましょうかね?』 「あの……雪名さんリティーシャさん……」 二郎はどんな顔をしていいか分からなかった。 『さて……ジョーカーは異次元の扉を完全に包み込みました、作業を終えたようですね。セツナ、そのジョーカーの球体を持ってもらえますか?それとこの領域の解除を』 「わかりました……よいしょっと」 超重量のジョーカー球体を左肩に乗せる雪名。同時に超極寒領域を解除する。 「お母さん!!」 吹雪が走りこんでくる。 「あらあら、ちょっと見ないうちに成長したわね」 右手で吹雪の頭をなでる雪名。 「よっしゃ!成功なんだな?リティーシャ」 刀耶は拳を握って言った。 「ええ、ほぼ。あのジョーカーで包んだ異次元の門を安全に地上に持って行かなくてなりませんよトーヤ」 【緊急事態発生!緊急事態発生!侵入者あり!緊急事態発生!緊急事態発生!直ちに排除します!!】 警告音が鳴り響く。 「あ、わたしが凍結させてたセキュリティが動き出したのね」 雪名は頬を突いて言った。 「急ぎましょう!隔壁結界の開放時間の余裕はまだありますが!」 「よし、脱出だ!!俺が先頭を行く!!」 刀耶が走り出す。 「私は雪名様の負担を減らす手伝いをします」 沖田は雪名の肩に向かって手をかざす。 「ありがとう沖田さん、この珠物凄く重いから助かるわ」 「お母さんわたしも手伝う!」 「じゃあ吹雪は邪魔なセキュリティを迎撃してくれる?そしたらお母さん助かるわ」 「まかせて」 刀耶の後に続く吹雪、その後ろを雪名と沖田。最後尾には二郎とリティーシャ。 「リティーシャさん何をしているのです?急がなきゃ」 「ここにナイトケースの一つを置いて行きます中央塔の制御の為に。またあの結界隔壁大攻略したくないでしょう?」 「なるほど」 中央塔を飛び出す一行。ガードボット&ドローンが集まって来るのが見えた。 雪名はジョーカー珠を担ぎながら大きく息を吸い込む。 「みんなああああああああああああああああ!!私は平気よおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!だからああああああああああああ!!自由に動いてえええええええええええええええええええええ!!」 爆発音めいた大声で叫ぶ雪名。数秒後碁盤の目町のいたるところで歓声が上がる。 「さ、行きましょ!多分もう大丈夫、ここの人や妖は自由になったわ」 「……雪名さんて華月さんとはタイプが違うけど凄い人なんだね」 「ええ、お母さんは凄いんだから」 碁盤の目町の中通りを走っていく一行。セキュリティボットたちが行く手を遮る。 「うおおおおおお!ストライクスマッシュ!!」 飛行ユニットを変形させた巨大ブーメランを投げつける刀耶。セキュリティボットらを弾き飛ばす。 「エクレシアのエージェントたちは住民の騒ぎを鎮圧するのに手が一杯のはずです」 「こんなロボ何かに俺たちは止められないぜ!」 「はっ!はァっ!!」 セキュリティドローンを氷弾で落としていく吹雪。 二郎は走りながら異常なほど力が湧いてくるを感じていた。義手はまだ薄く輝いている。 「ここは通さんぞ!」 ゲートの前に立ちふさがったのは八馬立人。セキュリティの攻略時にVR空間で撃破した陰陽師であった。 「止めておきなさい八馬立人。あなたでは止められませんよ?」 雪名が通る声で言い放った。 「だだだだっだだ黙れい!!俺は葛野忍様に次ぐナンバー2の陰陽師!!!」 「始める前からそれでは話になりませんよ」 八馬立人の足元は凍り付き膝まで凍結。 「なにぃ!?」 「安心なさい、動かなければ3分ほどで解凍されます。動けば……分かりますよね?」 「貴様を行かせれば……私は……私はああああ!!」 「はいはい、あなたは頑張りました。葛野忍もあなたが私を止められるなど考えてないでしょう」 「く……くそおおおお……」 八馬立人の横を通り抜けていく一行。 「圧倒的ですねセツナ」 「え?そうですか?あの人は一人で出てくるより隊を指揮して力を発揮するタイプだからあの状況では何もできなかったのですよ。冷静に隊を率いてきたのならちょっと面倒だったかも」 地下道に到達する一行、全力で駆けあがる。 ―地上にたどり着く一行。 目の前に広がっていた光景はボロボロになりながら量産型GBと戦う者たち。 「お母さんだ!!」 始めに気が付いたのは霞。 「雪名様!!」「雪名サマダ!!」 吉良と須原も気が付く。 「久しぶりに地上に出て来ましたよ」 雪名は襲い掛かってきた量産型GBを蹴り飛ばして凍結させながら言った。 「この状況……大体分かったわ」 集まった者たちの活躍で27体いた量産型GBは数を減らし減らし残り16体までになっていた。 「ケダモノ退治ね!!ところで霞、葛野忍はどこにいるか分かる?」 「あっち!南の通りで先代たちとやりあってるはず!!」 「じゃあお母さんちょっと行ってくるわね。霞たちもうちょっと頑張れる?」 「うん!」「いけます!」「大丈夫デス!」 「私も頑張って来るわね!今、物凄くやる気なんだから!!」 ジョーカー珠を担いだ雪名は一番に走り出す。 「あ!セツナ待って下さい私もついていきます!!」「私も華月様のところに行かねば」 リティーシャと沖田が続く。 「トーヤ!あなたは私の護衛ですから量産型の相手よりこっちに来てください!!」 「分かってる!でもよ量産型GBクッソ強いぞ?みんなに任せといていいのかよ?」 「分かってますよ、量産型GBはシノブ・カドノを斃せば消えるんですからカヅキに加勢するのです!!」 晴明神社の境内を南に走っていく一行。量産型GBと戦う者達全員がその姿を見ていた。 「お母さんが出てきている!!」「雪名さんだ………」 霄と蓮也は背中合わせで言った。 「雪名様!?」「あれが白峰雪名様………綺麗ですね」 谷川と茉白。 「え!あれが白峰雪名!?すご……」「めちゃセクシー!」「ほぇ~あれが霄ちゃんのお母さんね」「白峰雪名が解放された!?」 ヴァルキリーの4人。 晴明神社前の通りに出る雪名ら。 異形となった葛野忍、少し離れた所に血まみれの黒谷。片手片足を失い煙を上げる冬華。そして幼児の姿にまで縮んだ華月の姿があった。 「随分と好き放題やってくれましたね葛野忍」 静かに雪名が言った。その声を聞き振り返る葛野忍。 「なななななな!?莫迦な!!何故お前がここにぃいいいいいいいいいっ!!」 「今すぐこの物騒なもの消してくれるかしら?」 担いでる異次元の扉を包んだジョーカー珠を見せつける。 「な、ななななな……それは異次元の扉!?莫迦な莫迦な莫迦な!!どうしてそんな事が不可能だ……あり得ない!!」 「どうなの!?……ふぅ、でもとりあえず折檻かな、すっごいストレス溜め込んでますからね、あなたのおかげで」 「白峰雪名……ぬうううううううううううう……!!」 雪名に意識を向けている隙に二郎と吹雪と沖田は華月、黒谷、冬華を回収する。 「華月様、黒谷さん、冬華様……もう大丈夫です」 沖田は華月を抱きかかえて走る。 「沖田無事であったか……我は葛野忍を斃しきれんかった……尾は5本まで破壊したのだがな……」 「貴女様が無事あることが何よりも大事です。さ、ここは雪名様らに任せて少し離れましょう」 華月たちをリティーシャの設置したナイトケーステントに運ぶ二郎たち。 「セツナ、ジョーカーを足元に置いて結構ですよ。しばらくは異次元の扉が膨張しないように持たせます」 「分かったわ」 「それは小生のものだ!!返せええええええええっ!!」 飛び掛かる葛野忍。しかしテントの周囲に張られたキューブの赤い結界に弾かれる。 「ぬ!?これは陰陽術!!」 「ここはそう簡単に通れませんよ葛野忍」 テントから顔を覗かせる沖田。 「沖田あああああああ!!脱落者の貴様が邪魔をおおおおおおおおおお!!」 「そう、脱略者ですよ私は陰陽師としてはね。しかし、華月様に仕える者としては成功しています!ただ一つの呪だけを磨き華月様に頂いたこの力、同系統の吸・引の呪など跳ね返してやります!!」 「ならば爆放呪で粉砕するまで!!」 テントに向かって構える葛野忍の背後に雪名が接近する。 「な!?」 「私を無視するなんてね!!」 葛野忍を掴みそのまま背後に叩きつける。綺麗なアーチを描いたバックドロップ。 「ぐふっ……」 「さぁ始めましょうか、白峰家当主の力思い知りなさい」 雪名は打撃のラッシュを仕掛ける。葛野忍は下がりながら呪の準備。 その様子を華月はテントの隙間から眺めていた。 「雪名……」 「華月様、今は回復に専念を。お姿を戻すのは今は無理ですがせめて魔力回復だけでも」 黒谷は血で濡らした指を華月の口に運ぶ。 「トーカ、ナイトケースのパーツで応急処置をします」 「ありがとう……リティーシャ」 続く
Jan 12, 2022
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VAMPIREEYE134「超極寒領域」 八槍流の葛野忍を前に武器を構える華月、黒谷、冬華。 血を吸い取り対等だと言った華月であったが黒谷は不安がぬぐえなかった。 「(華月様のあの対等発言は………真実じゃない)」 華月に合わせたドレスは黒谷が用意した物でサイズは驚くほどピッタリの物。それが今は大きめのサイズとなっている。 「(華月様が縮んでいる……やはり魔力消費が大きすぎて生命力に影響している)」 魔力消費の大きすぎる華月は子供の頃悩んだ。制御して出力を押さえてみたものの自分の長所を生かせず不満が溜まっていた。 ある日限界まで魔力を使って訓練をしていたところ目の前が真っ白になり更に力が湧いてくるのを感じた。そして稽古を続け家に戻ると母親にこっぴどく叱られた。 『そのような禁術、どこで身に着けたのですか!』 母親がしかりつけたのも無理はなかった。華月の体は3cmほど縮んで幼くなっていた。 ふとしたきっかけで身に着けたと言いそれ以降はなるべく使わないようにした。 「(当主になった後はその心配も無く思う存分力を振るわれこの国を回られた……生命力を魔力消費に使う禁術は元々白峰家の体内に見についているものを強引に引き出す術。当主の力を譲った白峰の者は徐々に衰え生命力を使い魔力を維持する。それは二十歳で成長の止まる白峰家の者にとって生命力をつかうというのは幼化するということ。極限まで魔力を維持するのを選んだ場合赤子にまでなってしまう。だがそうなれば今度は自我を保てず魔力制御は不可能となり寿命を向かえてしまう)」 華月の前に出る黒谷。 「華月様お下がりください、ここは冬華と私にお任せを」 「……」 「私が気が付かないとでも?」 「わかった、下がろう」 既に華月の魔力は長門顕彰戦と同じくらいに消費していた。 「(華月様がフルパワーで安全に戦えるのは恐らく3分程度……既に経っている。先ほどの打撃のラッシュは長門顕彰を斃した時よりも強く打たれてた。葛野忍の吸・引呪対策で魔力で爆発力を付与できない分の破壊力を身体強化に使われた……)」 ゆっくりと葛野忍が近づいてくる。 「来ないのですか?こちらとしても待ってる時間はないのでさっさと始末してあげます」 八槍を持った尾が伸びて黒谷と冬華に襲い掛かる。バックステップで回避する二人、槍の穂先はアスファルトの地面を軽々と粉砕した。 「そう簡単には当たりませんか。それなら……」 白金の腕から銃を出現させる。 「爆裂陰陽弾を更にこの銃で追加します」 突進する葛野忍、八槍で仕掛けながら銃で黒谷を狙う。 「陰陽弾……現代陰陽師が持つ標準装備……それならば」 黒谷は冬華と華月の前に粘土質の高い壁を出現させる。 「華月様、冬華、これを」 粘土の壁に隠れながら黒い渦から銃器をとりだす。 「無反動砲にプラズマミニガン、大口径拳銃にプラズマアサルトライフル……」 華月、冬華は驚きながら手に取る。 「黒谷こんなもの何処で手に入れた」 「まぁ色々と……華月様の復活の前に準備していましたので」 「まぁいい、これでしばらく凌ぐか」 葛野忍の八槍が粘土壁を破壊する。 「何をコソコソと!!串刺しでs……」 冬華の放った無反動砲が葛野忍の顔面に命中。続けて黒谷のプラズマミニガン、華月のプラズマアサルトライフルが炸裂する。 「旧時代の戦車なら30秒でスクラップにするプラズマミニガンはどうですかね!?」 「ヌググググ……」 煙を上げながら仰け反る葛野忍。 「避けろ黒谷、冬華!!」 華月が叫ぶのとほぼ同時に弾丸めいて発射された葛野忍の八槍。 「ぐっ」「ああっ」「……」 爆砕呪を込めた槍は黒谷の右腕を吹き飛ばし、冬華の左足を破壊し、華月の左耳を削った。 「痛いじゃないですか……本体の痛覚は遮断してませんでしたしね。しかししぶとい……今ので全員心臓を串刺しにしたはずでしたが」 華月が咄嗟に放ったプラズマライフルが葛野忍の尾の軌道を僅かに逸らせてた。 「黒谷、冬華、動けるなら空中に退避しろ遠距離からの支援を頼む」 「問題ありません……」「私もまだ動けます!」 「よし」 飛び上がる三人。ゆっくりと浮遊し追いかける葛野忍。 「ダメージは与えられている、だが斃しきるには相当な時間がかかるだろう」 「まだ武器のストックはあるので大丈夫ですが……」 「お母様、私がVシステムで一気に決着を……」 「黒谷、最新鋭のプラズマブレードがあるなら我に貸せ。冬華、切り札はもう少し待て」 「勿論ありますよ、華月様何かお考えが?」「分かりましたお母様」 華月は二人を近くに呼び耳よせで囁く。 「奴の尾を見たか?我が破壊してやった一本はいまだに再生できていない、最初に奴に接触した時と今では僅かに力が落ちている」 「おお……確かに」「……じゃあ尻尾を狙うのですか?」 「ああ、尾を狙う。お前たちは回避が間に合う距離で支援を頼む」 *** ―碁盤の目町に続く地下道 坂道の地下道を降りていく二郎、吹雪、刀耶、リティーシャ。 「結構長いね」 「……いつもはエレベーターで降りてたからもどかしいわ」 「こうやって飛んだ方が速いと思うけど……それにしても長いな」 「そろそろ着くはずですよ、トーヤ、ジロウ、フブキ警戒を。魔力反応があります」 隔壁が開き結界の消えた地下道を降りていく4人。底に何かが居るのが見える。犬ほどの大きさの折り紙馬であった。 「あれは……沖田さんの式神かな?」 二郎は沖田の魔力を感じる。 「着いてこいといってるのかな?」 「……多分」 「オキタの魔力反応で間違いないですね、行きましょう」 解放されたゲートを抜け碁盤の目町に侵入する。 「しかし凄い地下都市ですね……区画ごとにキューブ状になってて移動も組み換えも自由自在。耐久性もある……災害にも強い」 リティーシャはナイトケースハートの中で分析をしている。 「宇宙開発のモデルシティとして建設されたと聞いています。日本の各企業が集まって完成させたとか」 吹雪が言った。 「これほどの都市を公式に発表しないでいたとは……そして今はエクレシアの日本支部の基地となっているのですね……何の為に日本は隠してたのでしょう」 「さぁ……観光はいつかまたしましょう、今は沖田さんの折り紙馬を追わなければ」 「そうですね」 折り紙馬は中央塔へと向かっている。 「中央塔はお母さんのいる部屋しか入ったことがないわ」 「それにしても……警備も何も動かないのですね静かすぎます、作業ロボしかいません」 「外を歩くという事は基本ないですからね。移動は全て乗り物を使いますし場所を指定して真っすぐに向かいます」 「……寄り道も散歩もできないわけですか。まるでディストピアですね」 「警備が居ない理由は分かりませんが……通常ならすぐにガードボットやドローンが集まるはずです……先に侵入した沖田さんらが何かしたのかも?」 白と灰色と黒と電灯だけの碁盤の目町の景色に吹雪以外の三人は圧倒されながらも中央塔に向かって折り紙馬を追って飛んで行く。 中央塔にたどり着くと既にゲートは開いて中は驚くほど静かだった。 「お母さんの部屋は最上階……でも折り紙馬はエレベーターの裏に」 エレベーター裏の柱の壁がわずかに開いていた。扉になっており下に続く階段が。二郎たちは折り紙馬を追って降りていく。 「う……寒い……」 二郎は階段を下りた扉を開けて飛び込んできた冷気に驚いた。リティーシャの内部モニターに表示されたのは― 「外気温マイナス50度です!」 漆黒と白の鎧に包まれていなければ二郎はひとたまりもない温度。 「大丈夫ですかジロウ?私とトーヤのナイトケースは耐えられますが。フブキは魔力操作で慣れていますか」 「なんとか大丈夫……」 「流石ナイトケースと言いたいところだが……この気温異常だな」 「冷気からお母さんの魔力を感じるわ」 奥に進む4人。折り紙馬に案内され更に扉を潜り抜けたどり着いたのはコンピューターに囲まれた異常な寒さの部屋であった。その中央にドーム状の結界と隣にキューブ状の赤い結界。雪名と沖田の姿があった。 「沖田さん!」「お母さん!!」 「おお……来てくれたか二郎君たち……この街のセキュリティは雪名様が作動させないようにしてくださっていたのだ。それよりも……この状況だ、私は雪名様の負担を減らすべく魔力をお渡ししているのだ」 「……」 雪名は振り返らない。目を閉じて唇をきつく閉じ両手で黒い球体を押さえている。 「……」 「お母さん……」 「沖田さん……俺が変わりましょうか?顔色が良くないですよ?」 「流石にこの寒さですからねぇ……でも大丈夫、人間を辞めて正解だったよ耐えれます」 雪名と沖田の横でリティーシャは持ってきた機材を広げ目の前の状況を分析している。 「……(師匠ならこんなときどうするでしょうか……世界のカードを使ってあの黒い物質……異次元の扉発生前に戻す……とか)」 「リティーシャ?」 「トーヤ、フブキ。とりあえずオキタに魔力を分けてあげた方がいいです。今二人が出来るのはそれです。ジロウは待機、私の指示で動いて下さい」 「オッケー!」「分かったわ」 二人は沖田の肩に手を置いて魔力を送る。 「(セツナが抑えられているのはどうしてか、凍結……つまり停止させているから。直接触れている訳ではないから周囲の物質全てを凍結させて広がるのを防いでいる……膠着状態に入っていると……そしてセツナの囲んでいる結界の中は絶対零度の領域。セツナだけが活動できる)」 リティーシャは思いついた解決策を次々とシミュレートしていく。 「(出現……膨張……停止……)」 リティーシャの横でジョーカーが起動した。 「リティーシャ、何でジョーカーを今動かしたんだ?」 沖田の肩に手を置いている刀耶が言った。 「トーヤはそっちに集中しててください。ジロウ、ジョーカーを装備です」 「え?いい……けど??」 それを聞いた刀耶に動揺が走る。 「は?二郎にジョーカーとか無茶だろ!」 「いえ、いけるはずです。そしてセツナのあの領域で活動できるのもこのメンバーではジロウだけです」 リティーシャはグレイビースト戦の二郎を見て分析していた。そしてジョーカーの装備が可能だと結論付けた。 「ジロウ、ジョーカー装着前にそのバックルの装備を外してジョーカーに取り付けてください。それからいつもバックルを武器変えている時のようにイメージしてください。ジョーカーを装着した全身の姿をイメージしながらバックルと一緒にジョーカーを装着です」 「えっと……分かった」 宙に浮いているジョーカーにバックルを取り付ける二郎。 「ジロウ、ジョーカーを装着したらセツナの結界領域に入って下さい。そしてセツナの真似をしてあの黒い球体に義手をかざすのです。そこから先は私がジョーカーを操作します」 「うん、やるよ!」 ジョーカーを装着する二郎。 「うぐっ……」 二郎は体を喰らいつくそうとする意思をジョーカーに感じた。しかしすぐに義手が反応して暴走する意思を沈めた。 二郎がバックルに込めたイメージは好きな漫画のロボットヒーロー。白と黒のツートンカラー。世界の平和を守る勇者の姿。若干の悪魔的な形状を残しながらもほぼ完ぺきにロボットヒーローの姿に変わるジョーカー。 「二郎!やりやがった!!ジョーカーの暴走を止めた!!」 「二郎くん……」 「計算通りですよトーヤ。カヅキや他のシラミネ家の魔力、情報を取り込んだ義手ならばジョーカーを制御できると考えたのです。そしてジョーカーならあらゆる環境に適応できます!さぁジロウゆっくりとセツナの領域へ入るのです!」 「はい!」 ゆっくりとセツナの超極寒領域に入る二郎。全身の凍結はジョーカーから発せられる魔力のオーラで防いでいる。 「GIGIGIGI……」 ジョーカーが呻き声を上げる。 「そのままゆっくりとセツナに近づいて下さい」 「……」 一歩進むごとにジョーカーは呻く。 「(静かだ……リティーシャさんの声はジョーカーを通じて聞こえるけど他は何も聞こえない……)」 「ジロウ、セツナの近くに着いたら一旦停止してください」 ゆっくりと静寂の空間を進む二郎は雪名の横で停止した。 続く
Jan 10, 2022
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VAMPIREEYE133「絶望と希望」 「ぞろぞろぞろぞろと!」 総勢18名が葛野忍と量産型GBの前に立つ。 「数ではこちらの方がそれでも上ですがね!!」 「皆の者、作戦は先ほど通信で伝えた通りだ。行くぞ!」 「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 華月の合図で霄、蓮也、谷川、茉白、霞、吉良、須原の7名。舞子、萌絵、燿子、妃羅莉のヴァルキリー4名が量産型GBに向かう。 「葛野忍、お前の相手は我らがしてやる」 華月、黒谷、冬華が葛野忍に。 二郎、刀耶、吹雪、リティーシャは皆の戦闘開始の合図の後、脇から通り抜け碁盤の目町に向かう。 「なにを笑っている!何がおかしいのです華月!!」 白金の右腕からエネルギー弾を放って叫ぶ葛野忍。 「可笑しいのではない。嬉しいのだ!」 *** ―センジョー 仙丈隼磨は笑いながら葉巻を吹かしていた。 「いつになく上機嫌ですね社長」 秘書の茨木童子・真柴樹里が言った。 「そりゃあそうだろうよ!あの白峰華月が復活してただけでなく、この俺や俺たちに頭を下げて頼んで来たのだ!!こんな愉快な事滅多にあるもんじゃあない!!」 「都メタルから映像通信が来た時は警戒しましたが……まさかあんな事になるとは思いませんでした」 「あの白峰華月がそこまでしなくちゃあならない事が起きてたとしても、奴の性格を知ってる者らからしたら頭を下げてくるなど天地がひっくり返ってもあり得ないんだよなぁ」 「何かが彼女を変えたのですね」 「どういう風の吹き回しかと尋ねても頼むの一点張りだ。こちらとしてもあの白峰華月に借りを作っておいて損なんてないからな断る理由など無い」 晴明神社に行く前、リティーシャがセンジョーにメールを送った後華月は行動に出たのであった。シェルターの自室でカメラを持つ黒谷だけがそれを知っていた。 センジョーの仙丈隼磨に助力を頼んだ後、華月は各メンバーに黒谷の黒渦の出現場所と集合場所を伝えた。 「見守ろうじゃないか!白峰華月の大舞台を!!」 「はい」 *** ―晴明神社 量産型GBと戦闘を開始するメンバーら。ヴァルキリーは4人固まってお互いをフォローしている。 「社長命令で公園に集まったらいきなり碁盤の目町にカチコミかけるとか言われてビックリしたわ」 蜘蛛糸スイングで量産型GBを蹴りながら言う舞子。 「ホントねぇ~……でもでもぉ、こういうバトルってアツくなるのよねぇええ!!」 ワンツーからのフック、アッパーで量産型GBを吹き飛ばす萌絵。 「転送魔法って初めてでドキドキした―!!おっと、チューチューマグナムシュート!!」 掴みかかる量産型GBを躱し魔力ネズミボールを叩き込む妃羅莉。 「狐生最大の落ち込みです……ウチの計画があそこの葛野忍のせいで台無し……」 落ち込んだ表情とは逆に力強い尾の一撃で量産型GBを吹き飛ばす燿子。 「ああ……葛野忍がとりこんだ九尾の骸…………千年やりなおし……」 「ん?燿子って……そっか九尾の分身とかだっけ?」 「まぁそんなところですねぇ」 「ざーんねん!でも燿子ちゃんはここにいるんだからやり直せばいいだけじゃん!!」 「燿子さんドンマイ!!」 「はぁ~この怒りは敵にぶつけますわ!」 少し離れた所で戦っている霄と蓮也。 「はぁはぁはぁ……量産型GB……強い……!!」 「落ち着け霄、こいつらはしょせんただの獣。単純な攻撃しかして来ない」 「わかった……」 落ち着きを取り戻した霄はカウンターを合わせて爆炎爪で迫る量産型GBを撃退する。 「そうだ!硬くて攻撃力も凄いが……それだけだ!」 「ええ!」 蓮也は火炎刀で切りながら吹き飛ばし霄は飛び回って爆炎爪を放つ。 二人の立ち位置から反対側には谷川と茉白。 「掴まれると厄介だよ」「はい、先生と私には指一本触れさせません」 谷川は百足アームから電撃、茉白は火炎放射で量産型GBを吹き飛ばす。 「あんまり効いて無いのが辛いな」 「先生、ここは耐え時です華月様らが敵のトップを斃すまでの時間稼ぎです」 「そうか……」 「冬華の分析によると量産型GBは葛野忍の尾から発生したもの」 「華月様たちが葛野忍を斃せばコイツらも消えるはず……か」 「はい、それまでの我慢です」 晴明神社前に集まっている量産型GBを相手にしているのは霞、吉良、須原。 「霞サンダー!!」 霞の放った雷に打たれる3体の量産型GB。 「ハァアア!」「フウン!!」 打撃を打ち込んで吹き飛ばす吉良と須原。 「吹雪お姉ちゃんたちの邪魔はさせないよ!!下に行かせるもんかー!!」 「この前の灰色獣達より体は強力なようですが動きが単純」 「なんてことはナイ、下には行かせないゾ」 「吉良、須原離れて!いっくよー霞ライトニングガン!!」 ポケットからナットを取り出し放り投げる。落ちてきた所に電撃を纏ったストレートを叩き込む。青白い爆発の衝撃と共に撃ちだされるナット。光の軌跡を描いて直線状の量産型GBを10体吹き飛ばした。 「10体かぁ……しかも仕留めれたのは先頭の2体だけ……しょぼん」 「いえ、効果は抜群です!量産型GBが霞様を恐れて離れました」 「凄い一撃デシタ!」 「まぁこれでちょっと戦いやすくなった……のかな?」 晴明神社上空では葛野忍VS華月、黒谷、冬華が行われていた。 「クハハハハハ!どうしたどうした!!」 三人の放つ攻撃を全て回避する葛野忍。 「やる気がないと思っているな?半分は当たりだ、無理に貴様らとやりあう必要はない。雪名の限界をここで待てばいいのだ」 「果たしてそうかな?招集をかけた全員がお前を斃す為に集まったとでも?」 「それはどういう……」 葛野忍は飛び回りながら戦っている者達を見る。 「む?確か後4人ほど居たはずだが……」 「碁盤の目町に向かっていますよ」 黒谷の魔力弾が葛野忍を掠めた。 「なんだと?……ふん、だが下に行ったとして何もできまい。この腕を持つ小生だけがアレを解除できるのだ」 「どうですかね?とても優秀な魔女の弟子と……未知の力を持つ義手……」 「…………そうか!木城二郎!!あの少年が!!!」 余裕の笑みが消える葛野忍。 「そういう事だ!」 隙をついて華月は放った赤黒い魔力を纏った蹴りが葛野忍の腹に命中。流星めいて廃ビルに墜落した。 「クゥ……これは失念してました。あの少年の存在を……今すぐ始末します!!」 「やらせると思うか?」 飛び込む華月。一気に肉迫して打撃の連打を浴びせる。 「ク……ハハハハ!時間稼ぎをして小生に何も教えなければよかったものを!」 「それは出来んな、お前は始末しなければならない」 「思い上がるなぁあチビ女があああああああ!!」 8本の尾と拳の連打で対抗する葛野忍。華月はガードして下がる。 「ヌ!?」 華月を追いかけた所で青白い閃光2発を撃ち込まれた葛野忍。放ったのは黒谷と冬華。 「ええい!この程度の攻撃!!九尾の骸と同化した小生には利かん!!急急如律令!」 葛野忍の懐から大量の人型紙が飛び出す。衛星めいて葛野忍の周囲を回り出した。 「月光剣!」「月光剣!」 黒谷と冬華が同時に青白い光の剣を右手に宿して飛び掛かる。 「!?」「!!」 月光剣が触れた人型は同じ色の青白い光を放ち纏わりつく。 「クハハハハ!!簡単には離せんぞ??」 「これは……魔力が……」 「お父様、魔力の放出が止まりません!!」 「咲夜が得意の爆放とは違う、道鳴の変化とも違う、小生は吸・引が得意でして」 手をかざすと次々と黒谷、冬華に張り付いていく人型。 「……成程、沖田と同じ系統か」 華月は魔力のこもっていない脇差を背から取り出し二人の人型を切り裂いて剥していく。 「沖田……ああ、沖田実光くんね覚えていますよ……白峰家になど仕えずに土御門家に残って細々と生きていれば良かったものを。彼はまだ生きていますか?」 「沖田は今、碁盤の目町で雪名を見張っておるわ」 「……そうですか、才能の無さから土御門を飛び出し陰陽師として生きていくを諦め教師となり挙句の果てに白峰家に仕えるとは」 「だからなんだというのだ。お前には関係あるまい」 「ここで死ぬことも無いのに!と思ったのですよ!!急急如律令!!」 人型が大きく散り三人を取り囲む。 「何故あの長門顕彰が小生と組んだと思う?ただの人間であるこの小生を警戒したのはこの呪を恐れてのこと」 8本の尾があがり先に炎が灯る。 「更に更に!今はこの白金の腕と!!九尾の骸で得た体がある!!!」 華月は黒谷と冬華の前に出る。 「クッハハハハハハハ!咲夜とは違うタイプの退魔のエキスパートなんですよ小生は!」 「ハッ!!」「ごっふ……」 葛野忍が手を振るよりも速く突進する華月、鳩尾に拳を撃ち込んで素早く引いた。「華月様!」「お母様!」 体をくの字に曲げる葛野忍。 「ごふぁぁぁぁ……流石ですね華月、呪が触れるよりも早くただの打撃を入れるとは……だが人間の時ならまだしも今の小生にはたった一撃では沈みませんよ」 「……」 華月の右拳に人型が張り付いている。 「ク……ハハハハハァ……白金の腕による具現化です!!小生の人型は無制限に出せると思っていただきたい。体のどこからでも!なんでも具現化してみせる!!華月、貴様の魔力操作の上位互換といったところですかね?」 「ハアアアアアアッ!!」 構わず華月は拳の連打を浴びせる。 「ぐばばばばばばばばばばぁっ!」 飛び散る葛野忍の鮮血。華月の拳には人型がビッシリと張り付いている。 「華月様いけません!」「お母様!?」 「きゅ、吸血鬼の怪力で強引に小生を破壊すればいいとでも?その前に貴様の魔力を吸い尽くしてやりますよ!」 「我がそんな方法をとるとでも?」 「怪力と体術で押し切るしか貴様には術が無い!!だがそれも時間の問題……小生は貴様らなどに構ってられないのですよ木城二郎を殺しに行かなくてはね」 「ここは通さんぞ」 華月の魔力が回復していく。両拳の人型はまだ張り付いたままである。 「んん??」 「お前が相手にしているのがどんな存在か忘れたと見える」 「デカい口を叩くな!白峰家がどうした!!」 「理解できぬのならこのままお前を殴り続けるまでだ」 「ちいいいっ!!」 急加速して華月を抜く試みをする葛野忍、華月は魔力ジェットで前を遮り殴りつける。 「邪魔だ邪魔だ!!」 8本の尾を振り回す。華月は全て受け捌いて頭部に蹴りを叩き込んだ。衝撃で回転して落下する葛野忍。道路の真ん中に叩きつけられた。 「深夜で良かったですね華月様」「やった、流石お母様!」 「ああ」 降りていく三人。顔面から血を流して立ち上がる葛野忍。 「おのれぇぇぇよくも小生の顔に傷を……」 狩れた狐面から除く素顔。葛野忍は血に塗れた額を触る。 「……これは!」 「気が付いたか」 「血液がもう乾いている……華月!小生の血を吸収しているな!!」 「白峰家は吸血鬼、それを忘れていたようだな。長門顕彰もたっぷりと吸収してやった」 「クク……ハハハハハハ!なんだなんだそう言う事ならすぐに対処できます、白金の腕で小生は自分の血液を作ればいい。貴様らから吸い取った魔力でね!!」 「ふ……やればいい、これで対等になったという訳だな」 脇差を構える華月、仮面を再構築して修理する葛野忍。 「対等だと!?貴様は魔力を封じられ体術のみで戦わなければならない。そっちの二人は貴様の邪魔にしかならないでしょう。それに比べ小生は吸・引の呪を無効化されただけ」 「ふたりは邪魔?そうかな?」 華月の後ろで黒谷は黒い渦からサーベルを。冬華は体内から大太刀祢々切丸を取り出す。 「我の家族は体術も使えるが」 「そうですか、では小生は近接戦闘など好きでは無いので少し離れて戦いますよ」 葛野忍は白金の腕から8本の槍を出現させる。傷ついた一本の尾を除く8本の尾で槍を握った。 「八槍流!!爆放はあまり好きでは無いのですが槍に!!威力は咲夜のものと引けを取りませんよ?」 続く
Jan 9, 2022
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VAMPIREEYE132「災悪」 ―晴明神社 全ての結界隔壁が解放され晴明神社にある見えない扉から坂道の地下道を進む華月ら。 「気をつけろ、何かが来る!」 「KOOOOOOOOON!!」 下から迫ってきたのは鈍い銀色に輝く4m程の塊。華月は前に出て厚さ1mの魔力の盾を出現させた。 「KOOOONNNNNN!!」 「むっ……」 塊の高速突進を受け止める華月。そのまま地上に押し返されていく。 「華月様!」 追いかける黒谷達。地上に出て見たモノは巨大な九尾の怪物であった。 狐を思わせる半獣人、二本の腕と脚、頭部は無く首部には葛野忍の半身。 「クハハハハハハハ!!ほんの僅か遅かったな!!あと1分貴様らが速ければ勝利していただろう!!」 「葛野忍か……その姿、九尾の骸を取り込んだな?」 華月はゆっくりと着地して言った。 「白峰華月!よくもぬけぬけと復活したものよ!!貴様の役目は昔に終わっている今更出てきて何のつもりか!この九尾との再戦を望むか?」 「阿呆が!我が復活したのはやり残したことがあったからだ!!それをやり遂げるまでは死んでなどいられるものか。お前の始末などついでの事!!」 「デカい口を叩くのは昔と何も変わっておらんようだ。あの時とは違うぞ?貴様は周囲に助けられ碁盤の目町に九尾を追い込みようやく斃した。今回は九尾に加え最強の陰陽師である小生が合体、更にこの白金の右腕!!貴様が勝つ要素など一つも無い!!大天狗を斃して思い上がっているのかな?」 「……葛野忍、雪名はどうした?」 「クハハハハハ!あの女には仕事を与えました。それにかかりっきりですよ、碁盤の目町中央塔でね。小生が戻るまで少しでも気を抜く事が出来ない状態ですから。早く貴様たちを始末して戻ってやらねば。その後にたっぷりと可愛がってやりますよ」 「一体何を」 「見に行けば分かりますよ?華月、貴様にはどうしようもできない!どうにか出来るのはこの小生だけ!」 「なんだと……」 「勝利宣言をしておきましょう!貴様らは小生を倒すこともできなければ下に居る雪名も碁盤の目町の連中も京都市内も何一つ救う事は出来ない!!小生の勝ちです!!」 「我らを甘く見るな」 赤黒い魔力で全身を覆い葛野忍九尾に突進する華月。 「冬華!沖田!碁盤の目町に入れ!!下の状況を勝田らにも知らせるのだ!!ここは我と黒谷が受け持つ」 「はい!」 「クハハハハハ!!無駄なあがきをするがいい!!」 華月の突進パンチを尾で受け止める葛野忍。 「小生は咲夜と違って肉弾戦は好みじゃないんですよね、急急如律令!!」 尾から27枚の人型紙が現れ小型のグレイビーストが次々と出現した。 「クハハハハハハー!!オリジナルの咲夜には及びませんが十分な強さです!!この右腕の力があればこんなことも可能なのです!!」 葛野忍本体が右腕を掲げている。 「……」 華月は赤黒い光弾を葛野忍九尾にぶつけながら離れて着地。27体の量産型グレイビーストを睨みつける。 「華月様………流石に分が悪いですね……あの量産型GB(グレイビースト)を私が全て引き受けられればいいのですが」 「黒谷……九尾の骸を取り込んだ葛野忍に拳を打ち込んだ感触での奴の強さだが……我と同程度だった」 「……そんなまさか!」 「長門顕彰以上の脅威だアレは。我も最初から全力で掛からなければなるまい」 「それならば応援を呼びましょう、市内の鎮圧に出ているもの全てを!」 「転送するのか?」 「魔力消費は激しいですがやむを得ません……」 「ここであの敵相手に呼ぶのか」 「皆覚悟は出来ているはずです、力を合わさなければあの怪物は斃せません」 ジリジリと迫って来る量産型GB27体。 ―都メタル 「緊急事態です!晴明神社に九尾の骸と同化した葛野忍、更に大量の量産型グレイビースト出現!!」 作戦室の隣で休んでいた二郎たちの前に飛び込んできたのは水元来海。 一気に絶望の空気に変わる部屋。 「そんな!華月さん達は!?」 「現在華月様と黒谷さんが交戦中、碁盤の目町には冬華さんと沖田さんが向かってます」 作戦室に戻る二郎、吹雪、刀耶。 「これは不味いですね……一旦撤退してカヅキを中心とした戦略を練らなくては」 大型モニターを見つめているリティーシャが言った。 「あああああ……かづたん………無茶してはいけません……」 頭を抱えた勝田。 「勝田さん!?どうしたんです」 駆け寄る二郎。 「長門顕彰と戦った時も無茶をしてたんです。かづたんは全力で長い間戦える状態じゃない。当主の力を持って無いかづたんはあっという間に魔力切れしてまうんです。魔力が切れると……自分自身の生命力を削ることになる。出力は全盛期以上にはなってるけど容量は当主だった頃の10分の1程度」 「そんな……!!」 「そうじゃなければこれまでの敵はかづたんの性格的に全部自分で戦って解決しようとするでしょ?」 「たしかに……」 「長門顕彰戦の時は黒谷さんが烏天狗らから吸い取った魔力をかづたんに送り続けたので生命力を削らずに済んだんです……今回はそういう訳にはいきません」 「どうすれば……!?」 「黒谷さんからつい先ほど通信がありました。市内に出ている全員を招集すると」 「そうですか……」 リティーシャがナイトケースハートに身を包んでいる。刀耶もナイトケースを。 「やはりここは一時撤退ですよ!カヅキを失いたくなければ!!」 リティーシャは4つの端末を操作しながら言った。 「既にセンジョー側にも状況を伝えてあります華月には前もって了承を得てます」 「リティーシャ……」 「こういう状況になると予測して師匠は私を送ったのですね。確かに師匠には向いてない案件です」 その時別の通信が入ってきた。冬華と沖田からであった。 『こっちも大変なことになってます……雪名が……』 『冬華さんから映像を送ってもらいますそれで説明を私が』 モニターに映し出されたのは中央塔、そしてその中。 雪名が青白い球状のエネルギーフィールドを展開し両手で光さえ飲み込む漆黒の物体を魔力を注いで抑えている様子だった。 『雪名様はあの漆黒の物質が広がるのを防いでいます。あれは異次元の扉だそうです』 沖田が言った。 『私たちがたどり着いた時漆黒の物質はもう少し大きかったのですそれを雪名様は抑え込み自らの凍結の能力の領域を作り中に入られ……あの漆黒の物質が雪名様の領域を超える大きさにまで広がれば何が起きるか想像もできないと。葛野忍曰く異次元の扉だと』 沖田は汗をぬぐいながら説明する。 『解除する方法は分かりません……葛野忍に閉じさせるしか今の所確実な方法は……』 『このままじゃ……雪名は何れ限界を向かえてしまう!!いくら当主の力を持っていても長い事あんな状態で耐えられない……どうすれば……』 いつも冷静な冬華が狼狽えている。 勝田、水元、リティーシャの表情が曇る。 「あああああ……どうすればどうすれば!」 「いやです!!嫌です嫌嫌嫌ああーーーーーー!!雪名様ああああああああああ!!!」 頭を掻きむしる勝田、半狂乱状態の水元。 「こうなったら……私が碁盤の目町に行きます!刀耶!!付いてきてくれますね?」 フル装備状態のリティーシャ。 「おう!絶対に何とかしようぜ!!」 「ここは任せましたよハル、クルミ。ジロウできればあなたも一緒に。その右腕が役に立ちそうな気がします」 驚くほど冷静な口調で言うリティーシャ。 「分かった!」 「じゃあわたしも一緒に!お母さんを助ける手伝いをしたい」 吹雪が名乗り出る。 「分かりました、フブキ貴女はセツナの娘。きっと手助け出来るはずです」 飛行ユニットを装着する刀耶。しがみつく二郎。吹雪はリティーシャの用意したランドセル型に変形したナイトケースクローバーを装着する。 「碁盤の目町のセツナの事は私たちに任せて下さい。ハル、クルミはカヅキたちの支援を」 「わ、わかった!かづたんは僕が守る!!」 「本当は私も行きたいのですが……私が行っても……雪名様の事お願いします!こっちは絶対何とかして見せますのでそっちも……あ、せめてこれだけでも持って行ってください」 水元はボトルをリティーシャに渡す。 「雪名様にも誉めて頂いた秘薬です。塗れば傷薬に、飲めば解毒体力回復に使えます」 「その効果はトーヤ達で実証済みですものね、ありがたく使わせていただきます」 *** ―晴明神社 「クハハハハハハハ!どうした華月!!いつもの威勢はどこに行った!!」 葛野忍九尾は巨大な九本の尾を操り破壊エネルギーと薙ぎ払い、突きで華月を近寄らせない。 「(一撃一撃に呪が込められている、物理的にも重い。あの時の九尾よりも厄介だな)」 華月は攻撃を受け流しながら魔力で形成したハンドキャノンで葛野忍本体を狙う。赤黒い弾丸は白金の右腕の前で軌道を変え周囲のビルに炸裂した。 「んん~~??どうしたのかな?そんな小さな攻撃で通じるとでも?長門顕彰とやった時はもっと激しかったのでは?」 「よく喋る奴だ。昔からそこが気に入らなかった」 華月は背と足の裏から赤黒い魔力のジェット噴射で加速、空中を飛び回りながら尾の攻撃をバレルロール回避。ハンドキャノンで尾の付け根を狙う。 「おおっと!痛い痛い!!チクっときましたよ。その調子で小生を斃せるかな?」 「我を甘く見るなよ」 突き刺さった弾丸が螺旋回転。九尾の体を抉っていく。 「ウガアアアッ!!このチビめええええ!!!」 四方から4本の尾で貫きに掛かる。華月はトンボ返りで回避、赤黒い魔力を掌に、尾に触れながらの表面を滑る。 「この離れろぉっ!」 「フン!」 尾の一本に赤黒い線を引いた華月、離れながらハンドキャノンをそこに撃ち込んだ。 「イギャアアアアアアアアアッ!!」 赤黒い線はハンドキャノンの着弾に連鎖して爆発。尾が裂ける。 「ぎゃあああああ……つ、痛覚遮断!!よくもやってくれたな!!」 「我を甘く見るからそうなる」 「……やはり巨大な体は慣れませんね。お前の相手をするにはやはりなじみのあるサイズでなければ」 首部に出ていた葛野忍の半身が吸い込まれる。それと同時に九尾の体は縮んでいく。あっという間に身長2メートル程の人型となった。 狐の面を思わせる頭部。豪奢な模様の狩衣。8本と傷ついた1本の尾。白金の右腕。白い肉体は筋骨隆々で二十歳前後を思わせる張りがあった。 「おお、おおおおおおおっ!!まるであの頃の小生の肉体のようではないか!!うむうむ、初めからこうすれば良かったのだ。咲夜は良い参考になりましたね」 狐面の装甲の奥で金色に輝く目。 華月と葛野忍との戦闘中、黒谷ジークベルトは羽を生やした量産型GBと空中戦を繰り広げていた。 「量産型とはいえ狂暴な獣、捕まれば一巻の終わりですね……」 空中を飛んで逃げながら魔法を撃ち込む黒谷。決定的なダメージは与えられていない。 「ギシャアアアアアアアアアアアアアッ!!」 「同時に3体までが限界……やはりここは……」 一体の量産型GBを青白い閃光が貫いた。 「お父様!お母様!!私も参戦します!!下の雪名の状態は私にはどうにもならず、沖田さんに見張ってもらってます」 右腕を砲身に変形させた冬華が碁盤の目町から上がってきた。 「下の状況の映像は今お父様お母様に送ります」 量産型GBに閃光を放ちながら背中のビットを飛ばして二人に渡す。 受け取ったビットから下の状況を得た華月、黒谷の眉間に皺が寄る。 「クハハハハハハハ!絶望しか無いでしょう??だから勝利宣言をしたのです!!」 「いや、希望ならある」「ええ……」 「今更何をあがいても無駄です。私を斃して下の異次元の扉を閉じさせますか?絶対に私は従いませんよ?そもそも斃せないでしょう??詰みですよ?受け入れて服従しなさいそうすれば飼ってあげなくもない。救世主の下僕としてね!!」 「葛野忍!神名L咲夜がどうやって敗れたのか知らないのですか?」 黒谷は不敵な笑みを浮かべる葛野忍に言い放った。 「ええ、見てませんからね?あの女は慢心から油断して敗れたのでしょう、こだわりなど捨てて一気に街を獣園にしていればすぐに終わったものを」 「いやいやいや、神名L咲夜は全力を出し切って敗れました。つまりこちらには切り札があるのですよ」 量産型GBは葛野忍の周りに降りて唸り声をあげている。 「ハ!切り札?そこの華月がそうなんでしょう?華月さえ排除すれば小生に怖い者など無い。センジョーの連中など異次元の扉が開けばどうでもいい事です」 「我は切り札では無い、見落としているのならそれでいい。黒谷、皆を呼べ」 「承知致しました」 黒谷は背後に黒い渦を出現させる。最初にそこから現れた人影は― 霄、蓮也、谷川、茉白、霞、吉良、須原の7名。 「まだ来てくれますよ」 次に現れたのは― 舞子、萌絵、燿子、妃羅莉のヴァルキリー4名。 そして最後に現れたのは― 二郎、刀耶、吹雪、リティーシャの4名。 続く
Jan 9, 2022
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VAMPIREEYE131「碁盤の目町攻略作戦2」 「ついに向こうからも来た……!」 三人の目の前に現れた陰陽師・八馬立人のアバター。 「まさか都メタルから侵入とはな……度し難い!!」 「退いて、今のエクレシアに正義はないわ」 「黙れ!なにを言おうがこっちが正義なんだよ!戦争が始まったんだよ!!」 「そう、退かないのなら排除するまで」 「デカい口叩きやがって……俺はお前程度のレベルの妖は山ほど狩ってたんだ。VRであっても万に一つも勝ち目はないぞ?」 「……そう」 八馬立人の左腕の銃口から吹雪の宙に浮いている白木の針から同時に陰陽弾と冷凍弾が放たれた。空中で衝突するお互いの攻撃。嵐のようにぶつかり合う飛び散った吹雪の冷凍弾はキラキラとダイヤモンドダストを発生させた。 「GAAAAA!」「GUUUUU!」「GOOOOOO!」 周囲の敵性プログラムに降り注ぎ冷凍していく。 「はっ!」 太刀を振る吹雪、ダイヤモンドダストは渦を巻いて凍てつく4つのつむじ風となり敵をを凍り付かせ吹きとばして砕く。 「お前……魔術も使うのかVR空間とはいえ現実で出来ない事は起こせないはず」 「自分でも驚いているわ、何せ初めてこんなことができたのだもの」 「なに!?」 迷いを断ち切った吹雪は剣の冴えだけではなく、魔力操作の腕も上がっていた。 「(これまでの事全てが繋がってる感じがする。絡まっていた糸が解けていくような感覚がある)」 「おおおりゃああああ!」 陰陽弾を連続発射しながら間合いを詰める八馬立人。対する吹雪は氷のシールドで陰陽弾を防ぎ、視線をぼんやりと虚に右上段・蜻蛉の構えをとる。 「ふううううう……」 「隙あり!」 3mの吹雪の魔力領域に侵入した者は瞬く間に凍結が始まり0.5秒で全身は凍りつ。しかし八馬立人はそれよりも速く間合いを詰め右手の刃を振り下ろし吹雪の首を狙いに肉迫。 「……!!」 八馬立人の意思通りに体は動かなかった。吹雪の横を通り抜け凍結した体はVRの地面に叩きつけられ砕ける。 「な……に……!?」 3mの魔力領域入った瞬間、八馬立人は既に吹雪の太刀を二撃受けていた。首と胴は切断、上半身と下半身は逆袈裟掛けに斬られていた。視覚的には太刀の間合いだが実際には透明の魔力の刃が延長され3mの魔力領域そのものが吹雪の太刀の間合いだった。 「……これで終わりだと……この俺がこんな」 「さようなら」 吹雪の一言の直後、八馬立人のアバターの全身は砕け散った。そして門が出現、それをぐぐりぬける吹雪、恭一、河上。 *** 都メタルのガードドッグや武装警備員、ドローンは建物に迫る屍人を撃退している。 「かなり多いねぇ」 木戸が都メタルから出てきた。 「そうですね社長」 ガードロボドッグを率いる警備主任が言った。 「後は僕に任せてよ。会社を守るのは社長の役目なのさ」 「そんな、まだやれます」 「無理はダメさ、社長命令だよ」 「は、はい!」 木戸はそう言いながら迫って来る屍人らにエキスパンドバルカンパンチを叩き込んだ。 *** 市内を暴れまわる元陰陽師団の灰色獣の制圧に向かった茉白、谷川。霞、須原、吉良の5名2組はグレイビースト撃破の報を受け安堵のため息を漏らした。 同時刻、センジョー側の制圧に向かったヴァルキリーらにも伝えられた。 「後はグレイビーストに変えられた元陰陽師の獣を狩れば屍人は消えるって」 奥寺舞子は複数の屍人を蜘蛛糸ネットで捕獲してスイングで投げ飛ばして言った。 「そうなの?」「やったね!」 声を上げパンチで屍人を吹き飛ばす野村萌絵と飛び蹴りを放つ山根妃羅莉。 「……気になりますね」 目の前の屍人を尾で薙ぎ払いながら緋川燿子は言った。 「どうしたの燿子?」 「灰色獣を斃せば屍人は消える、それは分かります。ですがグレイビーストを斃したのに灰色獣がそのままなのは妙なんです。理屈で言えばグレイビーストが消えれば全て収束に向かうはずですから」 「そういえば……」 「えぇ~!!じゃあまだ生きてるって事!?」 「ありゃ~……」 「屍を確認したと聞いてますからグレイビーストを斃したのは間違いないでしょうけど……神名L咲夜を完全にこの世から消滅させたかは分かりませんよね?」 「なるほど、つまり燿子が言いたいのは魂はまだこの世に残ってるから完全に消滅はしてないし灰色の獣も残ってしまってると」 「ええ、魂をこの世に留める呪(しゅ)を発動させていたのかもしれません」 「じゃあ魂を見つけて消滅させないと!」 萌絵が叫ぶ。 「残念ながらあの世とこの世の境界に入られてしまった場合手出しはでけへんのですよ野村さん。向こうからも何もできませんがね、精々見るくらいです」 「やぁだぁ~………鬱陶しい!」 屍人を屍人に投げつけて粉砕する萌絵。 「この世にギリギリ残ってるだけの存在なら放っておいても大丈夫なの燿子さん?」 屍人を連続キックしながら言う妃羅莉。 「この世に干渉できる怨霊や妖レベルの魂になるには相当な力が必要なので当分なにも出来ないでしょう」 「引っかかる事はあるけどともかくグレイビーストは斃されたのよね?じゃあ後始末をすれば解決じゃない」 「ええ、奥寺さんの言う通りです」 *** ―碁盤の目町中央塔 「咲夜が……敗れた……!?」 葛野忍は神名L咲夜の式神・梨花からの人型通話をしている。 「残念ですがここまでです葛野様。それでは」 「……」 人型は力を失いただの紙となる。 「何故だ、何故こうなった?全て上手く行ってたはずだ。どこで狂ったのだ?」 葛野忍はイライラしながら部屋の中を行ったり来たりしている。 「十数年前に白峰華月を利用して白面金毛九尾を滅し骸を手に入れついでに華月を始末し白峰家を抑え、長門顕彰と手を組みエクレシアは反抗的な妖を捕らえ時には駆除、厄介な鬼どもには敢えて追い詰めず居場所を作ってやり大人しくさせていた。そして現在!白金の腕も完成間近だ、小生が神の領域にたどり着くのも時間の問題だったはずだ!!」 その様子を式神・隠形鬼は刺激をしないように見守っている。 「この星の救世主と小生はなるのです。グレイだろうとグレイマンだろうと神の領域にたどりついた小生に敵は居ない。全ての敵からこの星を守り支配する!唯一無二の存在として!!」 白金の腕に繋がっている端末のモニターには98%の表示。 「もう少し、もう少しなのだ!……隠形鬼!結界隔壁はあとどのくらい持ちますか!!」 「半刻もちません。迎撃に出られた八馬立人様も返り討ちにされました」 「役立たずめ!こんなことならば、もっとエンジニアを確保しておくべきでしたね……今更言っても始まりません、総員戦闘準備を、碁盤の目町の収容所に居る戦闘系の妖も呼びなさい人質を盾にしてね」 「御意」 *** ―都メタル 「はぁはぁはぁ……」 吹雪の息が上がっている。八馬立人撃破の後も一人で前に立ちVR攻略戦を続けていた。 「吹雪ちゃん、一旦下がれ」 「ああ、僕らも回復してきたしここは一旦任せてよ。そのうち二郎くんたちも戻って来る」 「門はあと二つ……」 結界隔壁が全て開くと同時に碁盤の目町に突入する作戦。華月ら突入組は既に準備を終えていた。 「全ての結界隔壁が解放された時敵がどのような動きを見せるか分かりません、最大限の警戒を!」 リティーシャが叫ぶ。 ―そして最後の門に挑む吹雪たち。治療を終えた二郎と刀耶が戻って来る。 「待ってたぜ二郎……くたくたでもう腕も足も痺れてきてよぉ交代してくれ」 「ああ、任せてくれ恭一!」 刀耶は河上へと近づく。 「あ~キッツイねぇ人間やめたのにこんなにきついなんて。交代だね、ヨロシク!」 「はい、お疲れ様っす!!」 VR空間に飛び込む二郎と刀耶、吹雪のアバターが見える。 「待ってたわ」 「お待たせ」 「うっしVRラスボス攻略といくか!」 目の前には狩衣を着た陰陽師の男のアバターが立っている。 「よくもよくもここまで来たもんだ。小生は葛野忍」 「何!?」「……」「は、本当のラスボスか!」 「どこの誰の協力を得たか知らんが小生とエクレシアの粋を集めた結界隔壁をここまで攻略するとは……後3分、ここで貴様たちを足止めすれば小生の勝ちだと言っておこう」 「だったらこんな無駄話に付き合うつもりはねえな!ストライクスマッシュ!!」 刀耶の攻撃は葛野忍の横を通り抜けた。 「何だと!?」 「ククククク……さぁ、残り時間は少ないぞ?掛かって来るがいい」 余裕の笑みを浮かべる葛野忍のアバター。しかし実際に操っているのは式神の金鬼であった。葛野忍本人は白金の腕と九尾の骸の前のモニターを眺めている。表示は99% 「フフフフフフフ……白峰雪名、貴女をここに連れてきて正解でしたよ。貴女のおかげで連中の侵入より速く完成しそうだ」 葛野忍の横には白い着物を着た白峰雪名。装置に手をかざしている。 「こんなものが完成した所で貴方の野望は達成できませんよ」 凍るような視線を向け言い放つ雪名。 「ほう?そんな口をきいて人質がどうなってもよいのですか?いいから黙って貴女は魔力を注ぎ続けなさい。そうすれば地上のいる娘たちの命は保証しましょう」 「……」 「何ですかその目は!」 「焦りと緊張の色が見えます。どうやら追い詰められているのは葛野忍貴方の方ですね」 「今の発言気に触りました。収容所の妖一人の腕を落とさせます」 「……」 雪名の魔力の影響を受け急激に部屋の温度が下がっていく。 「この場で小生を討とうとしてもいいのですよ?その次の瞬間収容所の者は皆殺しになりますが」 「……っ」 「いかに貴女が強かろうが一人では何もできない。だからこそここでエクレシアに協力しているんでしょう?実の母親を罠に嵌めてまで手に入れた平和を台無しにするのですか?んん?」 「…………」 「その表情たまりませんね、そそりますよ。小生が神の領域に踏み込めば貴女は自分から従うようになるでしょう。その時は大事に可愛がってあげます」 『主殿!大変です!!晴明神社前に敵が……うばらばっ!』 「どうしたのです風鬼!」 偵察に置いていた式神・風鬼の人型紙が敗れ散った。 それを見ていた白峰雪名の表情は少し和らいだ。 「(何が起きているかよくは知らないけど……あと少しの我慢)」 *** ―晴明神社前 そこには一足早く華月、黒谷、沖田、冬華が居た。様子を伺っていた風鬼は沖田に感知され黒谷の魔法で引きずり出され華月に捕らえられ冬華に血を吸収された。 「補給完了です」 「良し、この先は何が待ち受けているか分からん最大限の警戒のまま維持だ」 「はいお母さま」 *** ―都メタル VR空間では二郎、刀耶、吹雪VS葛野忍のアバター(金鬼)の戦いが繰り広げられていた。 「くそ!逃げ回って時間を稼いでやがる!!」 「向こうからも仕掛けて来ないな……」 「速くしないと!」 吹雪は力を振り絞って冷気の領域を展開。逃げ回る葛野忍のアバターを凍結させた。 「やって、二郎くん、刀耶さん!」 「セリャア!!」「ストライクスマッシュ!!」 「ぐああああああっ!」 消えていく葛野忍のアバター(金鬼)。最後の門が開いた。 「やったついに!!」「結構手こずったな」「はぁはぁ……良かった」 二郎たち三人は門をくぐってその奥に見えた大綱を断ち切った。 『よくやったねー!!これで結界隔壁は全て解放だ!!すぐにログアウトさせるね!』 勝田は興奮した声で言った。 『全結界の解除を確認。隔壁全て解放します』 水元は晴明神社の華月らに向かって言った。 「……」 ログアウトした二郎の右手が細かく震えている。バックルも共鳴するように。 「どうしたの二郎くん?」 「わからないけど……物凄く嫌な予感がするんだ」 作戦室のモニターを見る二郎。そこには― 晴明神社の上に現れた巨大な九尾の怪物。 続く
Jan 7, 2022
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VAMPIREEYE130「碁盤の目町攻略作戦」 数秒後錐もみを描いて晴明神社に墜落する神名L咲夜。 「がはっ……こんな……理解出来ない……」 うつ伏せに倒れたグレイビーストの体は縮み殆ど咲夜の姿に戻っていた。 「こ、ここまでです……もう勝負はついた」 二郎はよろよろと歩み寄ってバックル刀を突きつける。 「何を……私は死なない限り……あがき続けますよ」 体を起こすことすら出来ない状態で咲夜は睨みつけて言い放つ。 「……貴女を殺すだけが解決方法じゃない」 刀耶、イグネイシャスも飛んで晴明神社に入って来る。 「囲むぞ、逃がすものか!!」「二郎君、止めを!!」 「……」 二郎はバックル刀を構えたまま動かない。目の前にはほぼ人間に戻った咲夜の姿。両手足は獣、尻尾は生えているが凶悪な獣の姿ではなかった。ボロボロになった咲夜を見て止めを刺す気は無かった。 「私を捕らえるつもりですか?やめておいた方がいいですよ、ここで止めをさしなさい」 「それはしない、グレイマンは他にも何人もいるのでしょう?それなら……」 「フフフ……情報を引き出そうっていう訳ですか?まぁ知った所でどうにもできないですよ。人間はもう終わりなんですから」 「違う……グレイマン達と争うだけが解決方法じゃないはず、だから……」 二郎は義手の記録を知った。連合と対立した世界、華月らと対立した世界、両方と上手くいかなかった世界……。 それならグレイマン達と対決するだけが選択肢ではないのでは?と考えた。 「アハハハハハ……話し合いで解決できるとでも?人類と【グレイ】の交渉は随分と前に決裂してるのです。合衆国のエリア51での事調べるといいですよ……」 ゆっくりと体を起こす咲夜、口からドリルめいた角が出てきた。 「危ない!」 刀耶が二郎に飛びつく。次の瞬間それは発射され夜空に消えていった。残されたのは咲夜の形をした灰色の硬直した骸。 「あ……」 「死んだか……?」 「体温は感じないね、心臓も動いてない……死んだと考えて良さそうだ」 咲夜の骸は風にさらされて崩れていく。同時に暗黒大結界も解除された。 「そんな……」 「最後の力を振り絞って道連れを狙ったのか」 「ともかく……これで碁盤の目町突入の障害は排除できたって訳だな。急いで都メタルに戻ろうぜ!俺たちの代わりに頑張ってる恭一、河上さん、水元さんと代わらなきゃ」 「あ、ああ……そうだね刀耶君……」 「グレイビーストが死んじまったの気にしてるのか?仕方ねえよ、二郎がとどめさしたわけじゃない。奴は最後に力を振り絞ってお前を殺そうとして力尽きたんだ」 「うん……」 「俺はちょっと休みがてらここで見張りをしているよ。二人は帰って攻略の続き頼む、気を付けて帰れよ」 イグネイシャスは腰を下ろして言った。 「わかった、イグネイシャスさんも気を付けて」 二郎は刀耶の背中の飛行ユニットに掴まる。二人は都メタルに向かって飛んだ。 「さて……調査の為に灰を回収……と」 吸い込み式の金属カプセルに咲夜の灰を詰める。ポーチにしまった後イグネイシャスは携帯をかける。 「……もしもし亀ちゃん?大丈夫?体調は??」 『頭にかかってたモヤみたいなのは消えたけど……他はあんまり何も変わらないです』 電話の相手はモスグレイパワーの亀姫。以前調査中に出会い少し戦闘になり圧倒したイグネイシャスが保護していた。彼女は灰色の軍勢になってしまったことを後悔していた。 『あの……咲夜さまは?』 「消滅したよ……グレイマンの事はまだよくわかってないからハッキリとは言えないんだけど……多分亡くなってる」 『多分……ですか』 「気になるかい?」 『だってモスグレイパワーが私に残ったままなんです』 「そっか……何か変化はあったかい?」 『気分は凄くよくなりました……意味も無く不安になってイライラしてたのが嘘のようになくなって……イグネイシャスさんはもうすぐ戻って来るんですか?』 「あとちょっとだけ仕事が残ってるんだ。それが終わったらそっちに戻るさ」 ―都メタル 戻った二郎と刀耶は疲労で膝から崩れ落ちてしまった。 「二郎くん!」 「トーヤ!」 吹雪が駆け寄る。リティーシャはナイトケースハートに作業を任せ刀耶に駆け寄る。 数名のスタッフと勝田は四人を囲むように様子を見ている。 「ちょっと疲れただけだよ。少し休めばすぐに回復するさ」 「そうそう、ちょっと休憩いれたら大丈夫だ。大した怪我はしてないし」 二郎は義手、刀耶はナイトケースの回復力により擦り傷、打撲、骨折に内蔵損傷は既に回復。崩れ落ちたのは治療の為にエネルギーを使い体力の限界を迎えていたからである。 「二郎くん医務室に行きましょう、来海さんの薬を飲んで横になるといいわ」 「トーヤ、すぐにナイトケースジャックを用意しますね。私の魔力を充填したジャックを装着すればすぐに元気になりますよ」 都メタルと吹雪に肩を貸してもらい医務室に向かう。ソファで寝そべる刀耶の体には、リティーシャのケースからカード状金属片が無数に飛び出て張り付いていった。 二郎と刀耶の様子を見つめる黒谷。 「グレイビースト撃破、華月様はこれで碁盤の目町攻略に全力を注げるというもの」 「……黒谷、まずは二郎と刀耶を労ってやれ。ただの人間二人と異能者があのような強大な獣を打ち破ったのだ」 「仰せのままに。まさかこのような展開になるとは予想だにできませんでした」 「我もだ。あのタイミングで長門顕彰を始末出来て、消耗が予想されるグレイビーストを直接対峙することなく討伐。我らの力は温存できた。何者かの未来視によって扇動されてる錯覚を覚えるが……」 華月は勝田を見つめる。 「かかかかづたん!?どうされました?」 「何でも無い、感心しておるだけよ。お前と二郎にな」 「そ、そうですか」 「華月様?」 黒谷が華月と勝田、二郎を見て訝しげに首をかしげる。 「我は仲間に恵まれたと思っただけだ」 華月はエクレシアに付いた雪名とその関係者、当時の自分の仲間の事について考える。 「あの当時、我に付いたのは若く未熟な世代であった。力を持っていた連中は雪名を推しエクレシアに取り入った。母上に付いていた勢力がそのまま雪名に付いた形だ」 「そうでしたね……旧体制派の者達は保守派の雪名様に付かれた。華月様は当時の新世代に人気がありましたね。私もその一人です」 突如シェルターに警報が鳴り響いた。 「何事だ?」 華月が構える。 「都メタルの周囲を灰色の軍勢が囲んでいます……!!」 水元がモニターを表示させて叫んだ。 「グレイビーストを始末したというのに……」 「出れる者は迎撃に当たれ!」 「街の灰色の軍勢も次々と妖を取り込み数を増やしているようです!!」 「グレイビーストめ……死んだあとまで!」 「街が壊れる……このままじゃ作戦成功しても街が壊滅状態になってしまう!!」 「落ち着け水元!僕たちがしっかりしなきゃ!!ヒントは必ずあるはずだよ!!」 勝田は水元の肩を掴んで言った。 「ハルの言う通りです。クルミ、少し休憩してくればどうです?」 刀耶の処置を終えたリティーシャが言った。 「グレイビーストを撃破したにもかかわらず灰色の軍勢は増え続けている。斃せばすべて元に戻ると言った幻想はもう捨てましょう。ではどうするか?私たちがグレイビーストに対抗できたのは何故ですか?」 「分析して……対抗策を練ったからです……」 「そうです。あなたも優秀な頭脳を持つ者ならば何をすべきか解ったでしょう?」 「……ええ、少し休憩してきます10分ほど」 立ち上がって部屋を出ていく水元。 「こんな状況だし彼女の気持ちは分かるけどね……それでリティーシャ、何か良い案でも?」 「おや、ハルともあろうものが気が付かないのです?グレイビーストの灰色の軍勢は呪(しゅ)なのです。ならばその呪を成立させているものを破壊もしくは解除すればいいのです」 「というと……グレイビーストが自ら放った配下の数体を始末すればいいと?」 「はい。それなりに人数が居て厄介ですがそこを抑えれば増える事はないでしょう。時間との勝負になります、こうしているうちにも屍人の数を増やし続けていますから」 「でもウチの戦力はもうこれ以上出せないよ……碁盤の目町攻略もグレイビーストの邪魔で少し遅れているんだギリギリ限界の状態で踏ん張ってるんだからね」 「うーん確かに……ジロウとトーヤには動けるようになり次第攻略に戻ってもらわないとこのままではあと3分持たせるのが限界です」 顔をしかめてうなだれる勝田とリティーシャ。 「勝田、センジョーに連絡しろ。グレイビーストの撃破と灰色の軍勢対策の内容でな」 華月が言った。 「はい!かづたん!!」 「すでに迎撃に向かっている茉白、谷川組、霞、須原、吉良組にも伝えておけ」 「はい!!」 *** 医務室のベッドに寝かされる二郎。吹雪は横に座り不安な表情を浮かべる。 「そんな悲しそうな顔しなくても大丈夫だよ吹雪さん」 「でも……あんな怪物相手に戦ってこんなボロボロに……わたしは何もできなかった」 「いいんだ。吹雪さんにしかできない事あるだろうしあの場面は俺だっただけさ」 「どうして二郎君はそんなに戦えるの?少し前までこんなのとは無縁の生活してたのに」 「俺も自分で驚いているよ。元々思い込んだら突っ走る性格だし……分からない事は怖いけど知れば必要以上に怖がる必要も無いしね。できると分かってる事をしないのは何かもどかしいんだ。そう考えて動いてるうちにこうなったのかもね」 疲労で全身が重い。二郎は首だけを吹雪に向けて話す。 「……わたしは二郎君に何をしてあげられるだろう。わたしの家の事にこんなに巻き込んでしまって……」 「『好き』でやってるんだから気にしないで」 「え?」 言葉に想いを込める二郎。恭一との約束、男の約束で抜け駆けはしない。だから今はこんな言い方でしか言えない。 「やりたくてやってるんだよ」 「そう……」 吹雪は二郎と恭一がただのお節介で協力してくれているとは考えていない。でもそれは今は彼らに向き合えない。自分を取り巻く問題を解決してからと決めている。器用では無いのだからいくつもの事に気持ちを入れれない。やるからには全力というのが自分の信念だった。姉の霄のようにあれもこれも頑張れない、妹の霞のように要領よく立ちまわれない。優柔不断でブレ易くすぐに影響を受ける。だから剣にも迷いがあった。自己肯定の低さが原因だと解っていても母・雪名と比べてしまい自身が持てなかった。 「(迷って悩んでばかりだけど……)」 剣に関しては記憶の楼で目指すべき道を決めれた。まずはそこから、そしてそれを生かして道を切り開く。自分は何者で何が出来るのか。その支柱、背骨が定まってようやく白峰吹雪は歩きはじめるのだと考える。 白峰静燕とのやり取りで決闘の話に出てきた二人の剣士。長太刀の剣士よりもその対戦相手、勝つための手段を考え最大限の努力をした剣士に吹雪は心を惹かれた。巨大な木剣も二刀流も並の者には使いこなせない。ゆえに幻想、理論のみで不可能と言われてきた。その剣士は誰よりも勝つための鍛錬した。理想を目指す剣ではなく勝利を掴むための剣。吹雪は父や母と重ねて理想を目指すのではなく、自分にできる最大の努力をして勝つための力を身に着けると決めた。 吹雪は立ち上がる。太刀を握りしめて。 「どこ行くの?吹雪さん」 「碁盤の目町攻略作戦に戻るわ。二郎くんたちが戻って来るまで少しでも進めておく」 「……わかった、すぐに俺と刀耶君も行くから」 「ええ」 作戦室に戻って来る吹雪、すぐにゴーグルと装備を着けVR空間に飛び込む。 恭一と河上が待ってましたとアバターの手を振っている。 「待ってたよ吹雪ちゃん!」「ふぃー……そろそろヤバかったんだよね」 「わたしが前に出て敵性プログラムを相手するから二人はサポートして」 「おう!」「あいよ!」 吹雪は飛び出すと魔力を自分の周囲3mを球状に展開する。 「GUUUUUUUUU!!」 飛び込んでくる敵性プログラム。吹雪の魔力に触れると同時に凍結。それを太刀で切り裂く。白木の針を取り出して放つ。吹雪の周りを衛星めいて浮遊。近づいてくる敵に向かって冷凍光線を撃つ自動迎撃の姿勢。 「(超低温をぶつけるだけじゃなく、瞬時に敵を凍結させなければ)」 太刀の間合いに入った対象を凍結させる剣。太刀によって凍らせるのではなく、間合いに入った時点で魔力による凍結を行う。その時間は0.5秒。吹雪にとってその0.5秒は長い。 それを補うために白木の針での冷凍光線。これによって間合いに入った時には0.3秒で凍結。相手に反撃の思考も与えずに太刀で粉砕。しかしこれは対象となる相手同時に5人が限度であった。 「(ならどうする……)」 吹雪の身体能力をもってすれば同時に5人迎撃できれば敵性プログラムが何人来ようと迎撃は可能。 「(わたしが当主になれなくてもいい、姉さんや霞、家族、大切な人たちを守れる力があればそれでいい)」 当主になれなかった白峰家の者は分家に入る。当主の力を伝承できなかった白峰家の者は徐々に力を失い100年ほどで寿命を終える。血を吸えば力を維持できるが寿命を延ばすことは出来ない。 「(……絶対に大切なものを奪わせない)」 静かに息を吐き、360度に気を張り巡らせながら吹雪はこれまでの戦闘スタイル、戦術を思い返す。記憶の楼での事を思い返す。 「ガルルルルルルル……」 ジリジリと迫って来る敵性プログラム達、その中に明らかに気配の違う者が居た。エクレシア側から迎撃にVR空間に飛び込んで来た陰陽師、名は八馬立人。剣術をベースに陰陽弾を撃ちだす銃を使いこなす戦闘に特化した団員。アバターの右腕は刃、左腕は銃口、顔は耳の長い犬の牙を剝いている。吹雪を睨みつけ左腕の銃口を構える。 続く
Jan 6, 2022
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VAMPIREEYE129「対決グレイビースト5」 「よっと……んん?なんか体か軽くなってきたような?」 刀耶は圧し掛かるような重みが薄れていくのを感じた。 「おや?楽になった………」 イグネイシャスが肩を回す。 「……何っ!?」 暗黒の帳が薄れ、同時に瘴気も消えていくの感じるグレイビースト。 「どうやら……上手くいったみたいだ」 二郎は吹き飛ばされた後暗黒の帳にもたれかかって、その際右腕で触れ続けていた。 「解除?消した?……いや、吸収した?」 「わからない、けどこの腕はこれまで色んなものを消したり吸収したりしてくれたんだ」 「その腕はただの少年が扱っていいものではありませんよ」 「この腕で何が出来るか知らないしよく分からないものなんだけど……でもこの腕も対し何も不安に思わないんだ不思議な事に」 その様子を別次元から黒い男たちが見つめている。 『別の並行世界で獲得した経験は全ての義手に繋がっている。今回初めて良い先に進んだ二郎の経験を他の並行世界に接続しよう。それによって新たに獲得した経験を今のこの世界の二郎に』 『義手は成長する。二郎も成長する』 『全ての並行世界に未来を』 『そうすれば我々も救われるというもの』 『【最初の二郎】もそれで救われる』 『彼こそが最後の二郎にふさわしい』 黒い人影たちの会話の後、二郎の漆黒の義手は変化を始めた。 「何だ何だ?義手が……!」 黒い人影たちはそれぞれ自分たちの世界の義手に戻っていく。その世界には既に二郎は存在せず、瓦礫に埋もれている義手、回収され保管されている義手、実験物になっている義手…… 過去から義手を取り付けた二郎と繋がり導くのではなく、現在の並行世界と繋がりこれまでの義手全てを並行接続。 これまでの自分たちの生きざまは無駄ではなかったと、義手は真の完成をするのだと確信して黒い人影たちは戻った。 この世界の二郎の未来を全員が信じ意思を繋げる。 この世界の二郎の古風な黒鎧武者は近代的なパワースーツに一部代わっていく。全身に白く輝く紋様が現れる。それを見たグレイビーストは睨みつける。 「その姿白い紋様……アンチアタッカーはお前でしたか。魔法鎧の男が現れた時、気配から一瞬そっちかと思いましたが」 二郎は前に突き出した右腕をじっと眺めた後バックル刀を拾って構えた。 「……右腕はまるで連中の持つ専用アイテム」 「……」 二郎に並行世界の出来事が頭に流れてくる。全て今より過去で途切れている、あり得たかもしれない世界の記憶の数々。 ここに立っているのは全てこれまでの経験のおかげだと知る。ただ一人、未来の二郎の記憶を除いて。 「(あの黒い影は……義手が記録した俺の、俺たちの記憶だった……)」 「二郎?どうした??」「二郎くん??」 「大丈夫、物凄い力の上昇を感じて戸惑ってるだけさ」 「グルルルルルル……何でも無いただの少年……魔法使いでも魔女でも超人でも異能者でもないその辺に居る少年が白魔団に選ばれたのが謎ですがね。これはここで潰しておかなければなりませんね何としても!」 グレイビーストは両手で印を結んで大規模な呪の発動を開始する。 「暗黒帳大解放!急急如律令!!」 グレイビーストを中心に五芒星の陣が広がる。 「周囲1㎞に暗黒帳を張りました……ここをグレイビースト最初の縄張りとします。過去に安倍晴明が張ったの大結界と位置が被るのが気に入りませんが!!その右手で解除できるものならやってみなさい!!」 「うげっ……気持ち悪い……さっきのより更にキツイぞ」 「クソ……ジョーカーの出力が落ちた……早く決めねえと!」 着地するイグネイシャス、ゆっくりとグレイビーストに向かって歩く刀耶。 「更に濃い暗黒帳空間……でも……俺には利かない!」 二郎だけが平然と歩いてグレイビーストに向かって歩く。 「二郎お前……すげえな……平気なんだ」 「刀耶君、イグネイシャスさん、少しでいいから時間が欲しい。グレイビーストに渾身の大技を決めたいんだ」 二郎はバックル刀を右上段に構え腰を落とす。 「超必殺技って奴か……いいぜ、キメてやれ」 「これ以上の削りあいはもう終わりにしたかった所なんだ、デカイの一発頼むよ」 「絶対に決める、いける気がするんだこの力なら!!」 ―自分ではない義手の記憶 ―成す術もなく敗れ、吹雪を殺された。目の前のグレイビーストに。 自分や吹雪が死ぬ記憶は無数にあった。目の前に居るのはその原因の一人。 「敵(かたき)は討つ!!」 この世界のグレイビーストは厳密言えば仇討ちにはならない。それでも、敵には変わりなく、この場から逃がすわけにはいかないと考える。 二郎にとって、もはやグレイビーストとの戦いは生き残りをかけた決闘ではなく、報復であった。自分自身が敗れる事も死ぬことも頭にはなく、微塵の恐怖も感じていない。 「グワアオオオオオオッ!!」 吠えるグレイビースト、それは威嚇の咆哮。二郎の姿を見て自分の存在を脅かすものとして本能が認識した。 「全て!ここで!潰す!!」 グレイビーストは虹色のオーラを爆発させての突進。刀耶のジョーカーが二郎の前に出て正面から受け止める。手と手が組み合うロックアップの状態。 「砕けろっ!!」 トリケラトプスめいた角の生えた頭突きを仕掛けるグレイビースト。刀耶はジョーカーの触覚二つを合わせて硬化、カブトムシ角に変え迎え撃つ。 「お前が砕けろっ!!ストライクスマッシュ!!」 角にエネルギーを込めて一撃を放つ。グレイビーストを後方に飛ばす刀耶。そこにはイグネイシャスの置いた火炎網。足を捕らえる。 「ええい!鬱陶しい……!!」 錫杖メイスを引き寄せ地面を突く。衝突箇所から光の柱が出現。グレイビーストを包み込む。火炎網を打ち破った。 「これまで妖も人間もサイバネも圧倒してきた私をそう簡単に狩れると思うな!!」 グレイビーストの全身に呪符印が浮かび上がる。 「小細工などいらない。自分自身を最大極限強化!!他のグレイマンや白魔団に対抗する為の決戦モード……急急如律令!!」 虹色のオーラの出力が増し、周囲の景色を歪める。 「ガアアアアアアッ!!」 両腕にエネルギーを集めて掌を合わせる。虹色に光るそれは膨張し波動として放たれる。 「シールド!!」 ジョーカーの腕部装甲を咄嗟にシールドに変えて防御する刀耶。凄まじい衝撃が全身を伝わり激痛の波が走る。 「私のグレイパワーと!呪を!合わせた!破壊力に特化した攻撃を!喰らいなさい!!」 「いづづづづづづ………クソ痛えーーーー!!」 『トーヤ!!そのままじゃ神経がズタズタになってしまいます!!』 「といってもよー……後ろにゃ二郎がいるんだ……離れられねぇよ」 『だったらシールドをドーム状ではなく、すり鉢状にしてください!!』 「……なるほど、なっ!!」 シールドをすり鉢、パラボラアンテナの形状に変える。グレイビーストの虹色の破壊光線はそのままグレイビーストに返される形となった。 「ガアア……ええい!本当に鬱陶しい!!」 両腕に虹色の力を纏い距離を詰めるグレイビースト、刀耶は巨大鉈を構える。 「砕けろ!」 「砕かれねーよ!」 グレイビーストの虹色爪スラッシュ。空間を切り裂き、爪の軌跡が爆発する。刀耶は巨大鉈で全て弾き返しストライクスマッシュの袈裟斬りを放つ。 「どうだ!」 「くっ……」 グレイビーストの左肩に巨大鉈が食い込む。 「うおおおおおっ!!」 「なぜこの爪で壊せない!砕けない!!」 「知らねー!ナイトケースジョーカーは特別なんだよ!!」 『そう特別なんです!(でもトーヤ……あまりジョーカーを長時間使わないで下さい)』 リティーシャの鼓動が高鳴る。ナイトケースハートに外装着状態であってもジョーカーの暴走を抑えるには限度がある。 『トーヤ……そろそろジョーカー限界の時間です……』 「なに!?ジョーカーはそうは言ってないぞ??」 『私の制御が限界なんです……だからそれ以上は……』 「わかった、後10秒だけ使わせてくれ!!」 ナイトケースジョーカーは本来リティーシャが装着する物。力を解放しヴァンパイアとして覚醒した状態で100%力を発揮できるのである。 トーヤが装着できる状態に調整し本来の性能は発揮できない。そしてジョーカーはリティーシャとリンクしており使用するエネルギーの半分はリティーシャが負担している。ひとたび稼働すればジョーカーは貪り食うようにエネルギーを消費、リティーシャは刀耶が衰弱死しないように出来るだけ自分自身から吸い上げるように制御していた。 「いくぞジョーカー!渾身のストライクスマッシュ!!」 巨大鉈を下から跳ね上げグレイビーストの腕を弾く、そして上段から一気に頭上に振り下ろす。 ジョーカーの一撃を避けるグレイビースト。巨大鉈は角を切断、首筋に突き刺さる。 全身の神経を走る激痛に刀耶は意識を持っていかれそうになりながら、グレイビーストに食い込ませた巨大鉈を押し込む。 「グウウウアアアアッ……!」 「ぐぅ……も、もう限界だ……これ以上押し込めねぇ……」 刀耶の体が限界と判断したジョーカーは搭載されたAIの判断で装着を解除した。ノーマルナイトケース刀耶の全身から力が抜ける。 「うぅ……クソ……」 「人間如きガアアアアアアアアアアアアアアッ!!」 体勢を立て直したグレイビースト、削岩機めいた凶爪は虹色の軌跡を描きながらで刀耶を襲う。避けれないと判断した刀耶は咄嗟に分解したジョーカーの肩アーマーを掴んで盾にした。 「ぐうううっ」 衝撃でナイトケースの装甲ごと左手の指が折れそうになった。刀耶に逸らされたグレイビーストの爪はアスファルトを豆腐のように削り取った。 「グルアアアアッ!!」 四つん這い状態から飛び掛かるグレイビースト。刀耶の肩を掴んで押し倒し首に噛みついた、牙はナイトケースの装甲に徐々に食い込んでいく。 「クソ……離せ……!!」 『トーヤ!!』 叫ぶリティーシャ、遠隔操作でジョーカーを人型に組み立て直し、グレイビーストに飛びかかる。 『トーヤから離れて!!』 ついに牙は装甲を貫き穴を開ける。 『トーヤ!!』 人型に組まれたジョーカーはグレイビーストの背後から掴み刀耶から引きはがしにかかるが止まらない。 『そんな!離れて!!』 「グルルルルルルル」 「そこまでだ!これでも喰らいな!!」 刀耶の首に牙が届く寸前、イグネイシャスの収束した螺旋熱線がグレイビーストの右目に命中した。 「ギャアアアアアアアッ!!」 食い込ませた牙を離し顔を押さえ体液を飛び散らせながら起き上がったグレイビーストは刀耶とジョーカーを尻尾で撥ね飛ばす。 「ガアアアアアアッ……グルアアアアアアアッ!!」 「ハァ、ハァ、ハァ……溜めに溜めて一点集中させた最強の一撃で頭吹っ飛ばないとか……頑丈過ぎるだろ」 指を向けたままイグネイシャスは肩で息をしている。 刀耶は背部装甲を飛行ユニットに変形させて距離を取る。 「助かったぜ!!」 「ああ、奴の動きが速すぎて狙いをつけるのに時間かかってすまない……」 「俺はもうそろそろ限界だ、二郎!そろそろいけるか!?」 「二郎君どうかな!?こっちもかなりキツイ」 「……ああ、いけるよ!十分に溜めは出来た!!」 右上段に構えた二郎のバックル刀は黒と白の力の渦が螺旋を描いている。 「グルルルルルル……よくも私の目を……」 傷ついた右目に札を張るグレイビースト。 「あのエネルギーの渦は……!」 グレイビーストは危険予測の本能に従い二郎に全力の攻撃を仕掛けることにした。 「ガオオオオアアアアアアアアアアアアッ!!」 飛び上がり空中に結界を張りピンボールを思わせる動きで跳躍しながら加速するグレイビースト。その手には錫杖メイス、重量にして1トンはあるそれを風切り音を鳴らして振り回し呪を込める。二郎にロックオン、咲夜の修得しているありとあらゆる呪を込め、物理的には大戦艦の主砲並、呪が炸裂すれば戦術核爆弾にも匹敵する正真正銘全力の一撃。当たれば衝撃で木っ端微塵。避けても呪の爆裂で周囲は汚染され、生物、大気、大地にダメージを与える。放てば勝利を確信できるものである。 「受けて!砕けなさい!私の最大の一撃!!急急如律令ー!!」 二郎はそれを、冷静に赤く輝く右目で見つめる。 「(グレイビーストのあれは防げない、回避できない、だから押し返すしかない!)」 グレイビーストは体をしならせ、全身をバネにしてバリスタめいて空中から渾身の投擲。 「グウウアアアアアアアッ!!」 「うおおおおおおおおおっ!!」 二郎は自身にも理解できない溢れる力が渦巻くバックル刀を一気に突き出す。 黒と白の波動が砲弾めいて飛んでくる錫杖メイスと激突。高圧縮されたエネルギーは閃光を発し周囲を朝日の如く照らした。 「うううううおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 「何っ!?」 衝突の際に発生した閃光エネルギーは二郎の右腕に吸収されていく。 お互いの必殺の一撃がぶつかり合ったエネルギーをも吸収する義手。無意識で華月のエネルギー操作を行いバックル刀の黒白波動に上乗せする。 「ヌガアアアアアアアアアアアアアッ……」 錫杖メイスを弾き飛ばしそして出力を増した黒と白の渦はグレイビーストに炸裂。 「ギャアアアアアアアアアアアアッ……」 「……決まった!?」 「(莫迦な、私の渾身の一撃は……物理的にも防御不可能、カテゴリー5相当のサイコキネシスでようやく対抗できる……呪はグレイストーム級のウィザードかウィッチでなければ対処できない……それを……押し返しながら呪を吸収だなんて……あの腕……)」 破壊の渦がグレイビーストの全身を裂き、破片をまき散らしながら空高く上昇していく。雲を突き破り星空がのぞく。 「や、やった……」 突き出したバックル刀を降ろす二郎。その場に座り込んだ。 続く
Jan 5, 2022
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VAMPIREEYE128「対決グレイビースト4」 「二郎!!」 倒れた二郎とグレイビーストの間に割って入ったのは刀耶。スモールシールドと飛行ユニットを合わせ大型シールドを形成。どっしりと構える。 「そんな盾など!!」 「ストライクスマッシュ!!」 刀耶は錫杖メイスの攻撃に合わせて大型シールドのエネルギーを放出。バネで弾かれかのように大きく跳ね返し退け逸らせる。 「!?」 「うおおおおおおっ!!」 刀耶のロングソードは西洋騎士のランスに変形。グレイビーストの喉元を狙って突く。 「ガウウウッ」 噛みつきで止めるグレイビースト。反撃の爪攻撃を刀耶はシールドバッシュで払う。 「ヤベッ(体勢が崩れた、次の攻撃を回避できねぇ)」 シールドバッシュの後に刀耶が見たのは蹴り上げてくる足爪。横に泳いだ上半身を立て直しての回避は間に合わないと考えた。 「させるか!!」 様子を伺っていたイグネイシャスのマシンガンめいた連続火炎弾がグレイビーストの右から撃ち込まれた。刀耶を狙った足爪の軌道は炎の勢いでは僅かに逸れ鎧を掠めて火花を散らす。 「グルルルルル……」 牽制し離れるイグネイシャスと刀耶。グレイビーストは火炎弾を受け止めて離れる。 「あぶねーイグネイシャスくん助かったぜ」 「どういたしまして、二郎君もなんとか無事みたいだし」 視線の先の二郎は腹部を抑えながら膝を立てて立ち上がろうとしている。 「痛てて……なんとか平気……だよ」 「しかしこのままじゃ斃せるイメージが湧かないんだけど……どうするかな」 そう言いながらイグネイシャスは牽制火炎弾を放ちながら刀耶と共にゆっくりと離れて二郎のいる所に。グレイビーストは錫杖メイスで受け止めながら様子を伺っている。 「わかんねー……リティーシャ、何か思いつかねーか?」 『あのトーヤ、こちらは隔壁攻略の作業もしているんですから……まぁいいですこの調子ですと時間内に斃せそうにないですからね考えます』 「頼む、今の所なんとか三人で相手できてるってところだしな」 『ナイトケースが本来の性能を出せればストライクスマッシュで十分なダメージを与えられるはずなんです。現状本来の性能の60%しか出せてませんしね。トーヤが悪いのではなくトーヤがもたないのでリミッターをつけているのです』 「そもそもナイトケースってお前(ヴァンパイア)が使う為に作ったんだろうから仕方ねーよ」 『そこで考えた拡張パーツがあるのですが……』 「なんだ?歯切れ悪いな??」 『この拡張パーツ、プロトタイプを改良してテストは私でしか出来てないんですよ。つまり【ジョーカー】の流用なのです』 「ジョーカー……前に一度使って酷い目にあったアレな。一週間筋肉痛だった……」 『それで済んだのが幸いでしたよ。最悪衰弱死してましたし。その反省を生かしてジョーカーを直接装着するのではなく追加パーツとして改良。危険防止のためAIによる制御機能もつけました』 「じゃあ問題なくね?すぐ送ってくれよ」 『実戦でテストになりますが……』 「ヤバくなったらすぐ解除するって、このままでもジリ貧だしな」 『分かりました……では送ります』 刀耶とリティーシャの会話の間、イグネイシャスはグレイビーストを牽制し続けていた。グレイビーストは火炎弾を受け止めていた錫杖メイスを地面に突き立てる。 「アハハハ……休憩する時間なんて与えるとでも?急急如律令!!」 暗黒の帳が出現、周囲20mを正方形に包み込む。 「体が……重い」 「ナイトケースの出力が下がった……」 「息が苦しい……」 「アハハハハ!この暗黒結界の中の環境こそがこれからのこの星の環境となるのです!!すなわち【彼ら】の快適な環境はこの星の人類・妖には辛いものとなるでしょう……ですが流石お前たち三人、動けるとは」 「地球をこんな環境にするってのか……?」 「人類も自分たちが快適に暮らす為にこの星を環境を好き勝手してきたでしょう?」 イグネイシャスの問いに当然だと言わんばかりに即答するグレイビースト。 「さて、まずは一番脆そうな異能者のお前から狩ってあげますよ!」 錫杖メイスを投げつける。イグネイシャスは重い体をジェット噴射で動かして回避。錫杖メイスを追いかけるように接近してきたグレイビーストの爪が肩を掠める。 「くっ……!」 「ほう」 イグネイシャスを掠めた爪が炎上している。爪から指、手首へと燃え広がっていく。 「カテゴリー5のパイロキネシスとは厄介なものですね」 「これでも……TMIの中じゃ最強のパイロキネシスなんでね!」 追加の火炎放射を浴びせる。グレイビーストは両腕をクロスしてガード。 「本当に……異能者と言うものは厄介ですよね……偶々生まれつき能力を授かっただけの者がここまで大きな力を持っているなんて」 「おっとそれに関しちゃ言いたいことが山ほどあるが……アンタとそんな話はしない」 グレイビーストの腕に着いていた火が突如広がり球状となって全身を包み込む。 「非人道的なんでこの技ほぼ使わないんだがアンタなら問題ないよな?」 球状の炎から飛び出るべく跳躍するグレイビーストしかし炎は動きに合わせ着いてくる。 「炎球の中は鉄も溶解する。骨も灰に変えるぜ」 動き回るグレイビースト。イグネイシャスは集中して炎球を維持し続ける。 「グルアアアアアアアアアアア……」 グレイビーストはアスファルトの割れた地面に駆け寄り高速スピンを始める。あっという間に土を掘り地中に姿を消す。 開いた穴から土が徐々に砂に変わっていった。急激に乾燥していくようにまるで砂原の砂のように乾燥していく。 「水刻火!」 穴から飛び出したのは炎を消しスライム状の水を纏ったグレイビースト。体毛は消え鱗に変わり、首元には鰓が形成されていた。 「やりますね流石カテゴリー5。私が道摩法師でなければ今の炎球で終わっていましたよ」 「まいったな……今ので決めるつもりだったんだが……そういう対処をするか。アンタは単純に水で炎を消したわけじゃない。俺の炎はそんなもんじゃ消えないからね」 「ええ、体に纏わりついていたお前の炎の属性を変えたまで。私の呪の範囲なら炎は水に変わる。地中に潜ったのは一度この地のエネルギーを吸い上げ水の属性を強化する為」 「五行ってやつか……厄介だな今ので仕留められないとなると……」 「アハハハ……次はそちらが苦しむ番ですよ!急急如律令!!」 穴から水柱が上がる。暗黒の帳で囲まれた四方に水が溜まっていく。 「水責めか!こっから出ないとな……」 「ナイトケースは水中も平気だけどイグネイシャス君と二郎はまずいよな」 「この暗黒の壁を潰せば!!」 三人は暗黒の帳ギリギリまで下がってグレイビーストと距離を取る。 「暢気な事ですね?水位が上がるのを、暗黒の帳が破られるのを私が指をくわえて見てるはずがないでしょう」 膝下まで増えた水面にグレイビーストの鱗が落ちる。鱗はあっという間に鋭い牙の生えた魚に変化した。次々と鱗を落とし牙魚に変える。 「礼を言いますよ、カテゴリー5。追い詰められて頭がすっきりしました。私はグレイビースト、獣であり道摩法師なのです。フルパワーで戦うのなら片方だけの力を出すのは不自然でした!」 「ギシャアアアアッ!!」 無数の牙魚が飛び出して二郎たちを襲う。 「でえい!」 「おっと!!」 バックル刀、火炎弾で迎撃する二郎とイグネイシャス。 「ああちくしょうー!リティーシャ!!ジョーカーはまだかよ!!」 ランスをトライデントに変え牙魚を迎撃する刀耶。 『送りましたよトーヤ!!その黒い壁が邪魔して入れないんですよ!!前も後ろも上も塞がってて!!』 「ナイトケースのカメラから見てるだろ?こっちは水責め&変な魚の相手でいっぱいいっぱいなんだ何とかしてくれ!!」 『ナイトケースは水中活動は平気ですが……ジロウとイグネイシャスが危ないですね……水攻めとは……』 「何でもいいから早くジョーカーをこっちに!」 『……』 「リティーシャ?おい!?」 『黒い壁を壊さなくてもジョーカーを送れそうです!!行きますよー!!』 蝙蝠型の追加外装ユニットジョーカーは羽を折り畳み円錐状となり地面に突き刺さる。そして高速回転して地面を掘り進んだ。 「アハハハ……さあ次は狂暴な鰐でも……ん?」 グレイビーストの開けた穴から飛び出す黒い金属の物体。空中で蝙蝠型に変形してグレイビーストにリング状のエネルギーを放つ。 「む……振動共鳴破壊音波を利用した攻撃……ですね」 「来たかジョーカー!!」 『グレイビーストがイグネイシャスの攻撃を受けて炎に包まれた時、黒い壁を解除しないで地中に潜ったのを思い出したんですよ。だから下には黒い壁が無いって判断したのです!』 「流石天才!さぁいくぜリティーシャ!!ジョーカーと合体だ!!」 『はい!』 分解するジョーカー。ナイトケースの頭、胴、肩、腕、腰、大腿、足の順に取り付いていく。その姿は額に角、頭部には二本の触角。肩から肘にかけて無数の棘、肘には刃、拳を包み込む突起物。胴体には瞼を閉じた三つの目。腰から大腿にかけては重ね合わせた装甲、膝から爪先にかけて無数の棘、背には畳まれた翼、その形は悪魔を思わせた。 「グウウウウウウオオオオオオオオオオッ!!」 猛然と飛び掛かる刀耶。武器を無骨な鉈に変形させてグレイビーストに叩き込む。錫杖メイスの刃が衝撃で欠けた。 「水、雷、爆!」 呪を放つグレイビースト。周囲の水が集まり水柱に、電気を帯びて爆発。二郎とイグネイシャスは吹き飛ばされる。ジョーカーを纏った刀耶は水雷爆を耐えきり再び連続で鉈を叩きつける。 「ガウウッ!」 「オオオッ!」 グレイビーストの刃尾が刀耶の顔面を狙う。それ対しジョーカーの触角を伸ばし迎撃。 「ガアアアアアアッ!」 グレイビーストの口から破壊弾が見える。 「ストライクスマッシュ!!」 ジョーカーの胸の悪魔めいた装飾の三つ目から破壊エネルギーが放たれる。相打ちで衝突したお互いの攻撃を受け、両者は背後の暗黒の帳に叩きつけられる。 「クッ……」 「ハァ~……この後にまだあの黒谷月が控えてるなんて嫌になりますね。まぁお前たち三人を斃して獣化すればいいだけなんですが」 攻撃を受けたお互い表面の装甲、皮膚からは煙が上がっている。 「クソ……ジョーカーの攻撃でこの程度のダメージかよ……化け物が」 「……そんな性能を持つ魔法鎧を作れる者が居るなんて……他の神名が知ればどうなる事やら、アハハハハハ」 『何がカミナですか!言ってやってくださいトーヤ!ナイトケースは私にしか作成できないと!!パクリなんて不可能だと!!』 「いや、そんな事言ってる場合かよ……リティーシャ、今のうちに聞いておくぞ……ジョーカーで無理なら……ホフの時のようにホントにホントの最後の手使うのか?」 『それは……』 「どうなんだ?嫌ならそれでいい、俺はお前に後悔して欲しくないんだよ!!」 『……トーヤ』 リティーシャはホフとの最終決戦でヴァンパイアの力を使った。あの時以来、接種するミルクの量が増えている。次はもうミルクでは我慢できない所まで来るかもしれないという恐怖があった。 『(血の欲求は一度決壊すれば二度と元には戻れないと聞きます……だから……)』 「リティーシャ?」 『あの手段はもう使いたくないです!嫌です!!』 「了解!!それならリティーシャを追い詰める事にならないよう限界が来たらすぐに撤退。取り返しのつかない所までいくのは莫迦のすることだ!」 刀耶は叫んだ。 「その為の三段構えの作戦だものな!もう無理と思ったらすたこらさっさと撤退するぜ!!チームの皆には悪いが特攻精神はないんでね」 『そ、そうですトーヤ!生存本能にしたがってください!!』 自分で言っていて矛盾しているとリティーシャは思った。自らの生存本能に従うのなら人間の血を啜って生きるのがヴァンパイアにとって自然。 『(トーヤは私をヴァンパイアではなく個人として見てくれる。やはり私のナイトケースを一番うまく使えるのはトーヤ。私は自分の為にもトーヤの為にも血は吸わない!)』 「二郎、イグネイシャス君、悪いがこのジョーカーでダメだったら俺は撤退するぜ」 「うん、分かった」 「そろそろ俺も限界が近いしそれもアリだね」 イグネイシャスも刀耶もごく自然な感情を持った少年であった。 二郎だけが――普通では無かった。 それは義手による影響なのか。つい数か月前までごく普通の高校生だった二郎が歴戦の兵士のように戦場に慣れ、危険な命のやり取りに自ら踏み込んでいる。 イグネイシャスは任務でいくつもの修羅場を経験し、刀耶はリティーシャと出会ってからは不可思議な事件を探偵としてコンビで解決してきた。 イグネイシャスも刀耶も目の前のグレイビーストと対峙するだけで緊張して勝てないと判断したのなら逃走する選択肢を入れている。 二郎だけはどういう訳か、グレイビーストを斃す。なにがなんでも斃さなければいけないという感情が沸き上がり、逃げるという選択肢は無かった。 他の世界の二郎はグレイビーストに成す術もなく殺された、だがその事はこの世界の二郎には関係していない。未来の観測者である二郎は見ていただけでこの世界の二郎には知る由もない。 それでも未来からの世界観測の度に増える黒い残滓は義手に影響を与えている。記憶は渡せなくても記録は義手にされていく。 グレイビーストの記録は義手にある。無意識に二郎はその記録に触れ感じ取っていた。 「(刀耶君もイグネイシャス君も必死で戦ってる……俺だけいつまでも倒れては居られない!!)」 二郎の右目が燃えるように輝く。赤眼の黒鎧武者はゆっくりと立ち上がる。 「あの黒い男達は……きっと義手の記録なんだ……何者か知らないけど思いを託しているんだ」 それを見たグレイビーストに動揺の色が走る。 「(あの目……何なんです……燃えるような……魔眼?……このグレイビーストを前にしてただの少年があんな目ができる)」 始めこそ、二郎の赤い目は魔眼のように見えたしかし今は違った。 「(魔眼の類……?いやあれは……)」 グレイビーストは手をかざし二郎の力の脈を見る。右腕を中心に、心臓のようにそこから流れ循環している。右目は右手と太い脈で繋がっていた。 「(あの腕の力で爆砕呪を解除し私の攻撃も見切れていた訳ですね……あの腕は……)」 続く
Jan 4, 2022
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VAMPIREEYE127「対決グレイビースト3」 「……ぞろぞろと……いいですよ、まとめて叩き潰します!」 接近してくる鎧騎士。背中に装着された飛行ユニットの上には漆黒の日本鎧に似た全身バトルスーツに真紅の隻眼の武者。 鎧騎士は宗像刀耶の変身した姿『ナイトケース・ダイヤ』 科学と魔法の技術を合わせて作り出したリティーシャの傑作。 漆黒の武者は更に義手をアップデートした木城二郎の姿であった。 イグネイシャスの前に着地する二人。 ――少し前、都メタル 「隔壁攻略にはあと45分程度かかります。その間グレイビーストを抑えられるかどうか。ここは一気にグレイビーストを叩くべきでは?」 黒谷はリティーシャに言った。 「だからと言って攻略を中断してトーヤやジロウを出すわけにはいきません。ましてやカヅキを向かわせるのはもっての外では?」 「しかし……」 数秒の沈黙。 「リティーシャ、何分なら中断してもたせられる?」 華月が立ち上がって言った。 「20分程度なら」 「ならば20分でグレイビーストを叩く。現地の冬華らに二郎、宗像刀耶、TMIのエージェントを合流させろ。20分で決着がつかない場合は黒谷の黒渦で二郎らは回収する。そこからは我が討ちに出よう」 「そんな無茶な……トーヤらに何かあったら……」 「このままでは我らが不利だ。冬華らが全滅した場合都メタルにグレイビーストが攻め込んでくるぞ」 「それは絶望的にマズいですね……」 「ええ、華月様の言う通りです。ここに攻め込まれるよりは攻めに言った方が良い。万が一ここを襲撃されることになれば追い返したとしても二度と碁盤の目町攻略のチャンスは来ないでしょう」 黒谷は必死に作業をしている勝田の横にあるタブレットを手に取って言った。 「ただ単に二郎君を送り出すのは心配です。なので……華月様」 「ああ、解っている」 華月は右手の人差し指から血を一滴出現させ空中に浮かべる。 「休憩中の二郎を呼んで来い」 「はい」 ――現在 「爆!!」 体毛に爆砕呪を込めて投げつけるグレイビースト。刀耶はそれを左手のスモールシールで受け止めた。粉々に散る体毛。 「おっと、喰らわねえよ!この距離で仕掛けるなら飛び道具ってのは定石だしな!」 「……(爆砕呪を消した?衝突した後すぐに呪は無効化された……)」 グレイビーストの想定では爆砕呪を込めた体毛は鎧騎士に着き爆発するつもりだった。 「なるほど……厄介な魔法鎧ですね。そちらの鎧武者は……右手から想像するに木城二郎君ですか。アハハハハ!ちょっと見ないうちにかわりましたね」 「そうです、木城二郎です……俺も驚いているんです。まさかここまでの力を出せるようになるなんて(華月さんの血がものすごい力をくれる)」 「いいですね、君たち三人が私の相手をするのでしょう?」 「ああ、そうさ」 「おうよ」 「俺と、二郎君と刀耶君がアンタを斃す」 飛び上がったイグネイシャス。指先から熱線を発射。それを錫杖メイスで受け止めるグレイビースト。 「ストライクスマッシュ!!」 一気に接近した刀耶はロングソードにエネルギーを込めて胴を狙う。グレイビーストの脇腹を掠め体液を飛び散らせた。 「手ごたえありだな!奴に攻撃通るぜリティーシャ!!」 『やはりそうですか、その調子でガンガン攻めるのですよトーヤ』 刀耶のナイトケースの兜の通信装置で会話するリティーシャ。 「雷!!」 左腕から電撃を放つグレイビースト、二郎はそれを右手で受け止める。 「む……(吸収されている)」 「全身に衝撃が来るけど……吸収できる!」 「それならこれで」 大きく口を広げるグレイビースト。破壊のエネルギーが口内から放たれる。単純に自身のエネルギーを砲弾として三連続発射した。 間一髪で躱す三人。後方の空き家は火柱を上げて吹き飛んだ。 「冬華さん達は、今のうちに怪我した人たちの救助を!!」 二郎が叫ぶ。 「了解しました。ですがそれはあそこにいる馬牛の獣人を始末してからです。霄と蓮也の二人だけに押し付けられません」 「頼んだぜ、ガキども……奴との相性はお前らの方が良さそうだ」 「……怪我人は任せな」 冬華は倒れている夜叉童子、黄蜂、佐久間、斎藤に水元特製の治療薬を打ち込んで行く。4人を抱えて走る星熊と虎熊と八瀬。駐車場の壁際に寝かせセンジョーへ連絡する。 霄と蓮也はグレイビーストの放った馬牛獣二人の絶妙な連携に苦戦していた。 「GUUUUUUUUUUUU……」「BUMOOOOOOOOO……」 馬の獣人は下半身を馬に変えての高速移動ヒットアンドアウェイ。牛の獣人は蜘蛛のような足から黒い粘着爆発物を投げて翻弄。 「GUHAHAHAHA-!!」「HIHIHAHAHAHA-!!」 「やりにくい……コイツらかなり戦闘なれしてるぞ霄」 「思うように攻撃できない……」 そこに加勢に入る冬華と星熊。虎熊と八瀬は怪我人を見張っている。 「霄は私と遠距離から支援を、接近戦は蓮也と星熊に任せるのです」 「はい!」 牛獣人の投げる黒い粘着物を炎で薙ぎ払う蓮也。 「あの黒い粘着物厄介だ、接着力は強い上に爆発のタイミングは奴次第」 「なら当たらねーように本体をぶっ叩けばいいんだろ?」 「そうだ」 体格に見合わない軽いアクロバティックな動きで黒粘着物を回避する星熊。棒高跳びを思わせる動きで飛び上がり金棒を振り下ろす。 「ドウリャア!!」「MOGAAAAAAAAAAA!!」 星熊の一撃で牛獣人の角が一本折れる。 「隙あり!火突!」 蓮也の火炎刺突が牛獣人の胸に突き刺さる。 「MOGYAAAAAAAAAAA!!」 「三連!!」 更に火炎刺突を三連続決める蓮也。傷口から噴き出した炎があっという間に牛獣人を包み込む。 「MOGYAGYAAAAAAAAAA!!」 転げまわる牛獣人。 「(木城家に伝わる火神流剣術は風の剣。練った気で炎を起こし剣と共に気を風の如く走らせ操るもの)」 「GYAGYAGYAAAAAAAAA!!」 たまらず背中の蜘蛛足を使って大ジャンプする牛獣人。屋根に上がり逃走の姿勢。 「霄!行ったぞ!!」 「ええ!!」 炎の羽を広げ牛獣人の前に回り込む霄。 「やああっ!」 霄の爪が空気を切り裂く。爪の軌跡は炎の刃となり牛獣人の胸を切り裂いた。 「GYAAAAAAAA!!」 体勢を崩し屋根から落ちてくる牛獣人。そこには蓮也が待ち構えている。 「烈風連撃!!」 高速の四連斬りが牛獣人の背中から生える蜘蛛足を切断。再び全身を炎が包み込む。 「MOGYAGYAAAAA!!」 転げまわる牛獣人。 「トドメダァ!!」 星熊が飛び上がり渾身の力で金棒を振り下ろす。 「MOGY……」 金棒は牛獣人の顔面に食い込み、痙攣の後沈黙した。 「BUHIIIIIIIIIIIIIIIIN!!」「まだまだ!!」 冬華と馬獣人のスピード比べは冬華に分があった。四本の足をスプリングに変え速度を増した馬獣人。それに対し冬華は『Vシステム』を起動させた。 冬華のCAROMボディに組み込まれているVコンデンサー。Vシステムは高濃度圧縮された粒子を蓄積しておき有事の際に解放するもので冬華の出力は一時的に3倍にまで上がる。 「BUHIHIHIHIHI!?」 全身の力を振り絞り残像を残しながら壁や地面を蹴って加速する馬獣人。それに軽々と付いていくVシステム起動の冬華。 「ハアアアアアア……月光剣オーバードライブ!!」 体内に取り込んだ祢々切丸を素体に高エネルギー粒子で包み込んだ巨大な青白いエネルギー剣。それをすれ違いざまに振り、馬獣人の体を薙ぐ。 青白い光に包み込まれて爆発する馬獣人。黒焦げとなって地面に転がって沈黙。 「……ふぅ、Vシステムはもしもの時にはグレイビースト相手に使うつもりでした。これで私のエネルギー残量は10%です休みます」 静かに着地する冬華、虎熊の後ろで正座して眠りに入る。 「ハハッアタシはガールスカウトかよ」 半笑いで言う虎熊。 グレイビーストは斃された馬牛の獣人を見てため息をつく。 「はぁ~……高濃度のグレイパワーを与えたのにあの様とは。まぁいいです私一人でここにいる全員始末すればそれで終わりなのですから」 「果たしてそううまくいくかな?」 火炎弾を放ちながらイグネイシャスが言う。 「この作戦は三段構えなのさ、最初に10人、無理なら次の俺たち、それでも無理なら最後に最高戦力のあの子が君を討ちに来る」 「あの子……ああ、長門顕彰を討ち取った黒谷月……そうですか。彼女の消耗を出来る限り軽減するためにこの作戦を。ですが、ここに戦力を集中していいのですか?街は燃えていますよ?」 「そっちも対処済みなんだなー。君が考えてるよりこの街の者は切れるようだぜ?」 イグネイシャスは火炎弾で牽制しながら言った。 「連合も動いているんです。街はあっちが対処しています」 二郎が言った。 二郎らが都メタルを出る前に華月は仙丈隼磨とメッセージを交換し情報を共有していた。都メタルは二郎たちが離れている間は河上、恭一、水元が隔壁攻略の時間稼ぎをする。グレイビーストを斃しきれないもしくは撤退に至った場合、華月が出る。それと同時に二郎たちは戻って攻略を再開する。緊急退避は黒谷ジークベルトの魔法の渦で行う事になっていた。 その間に仙丈隼磨ら連合は京都市内の灰色の軍勢を鎮圧するという流れになっていた。 「アハハハ……そうですか、追い込まれているのですねこの私が!いいです仕方ないです、全身全霊を持って戦うまでですよ!!」 グレイビーストの全身が虹色の光を放つ。全身の体毛が逆立ちヤマアラシのように鋭く尖っていく。両腕両足は分厚いうろこ状の皮膚に包まれる。 「ここからは全力です!ガアアアアッ!!」 ロケットめいたダッシュでイグネイシャスを狙う。瞬時に炎ジェットで下がるイグネイシャス。追撃の錫杖メイスは回避が間に合わず炎の塊を盾に爆発させて起動を逸らせて躱す。刀耶、二郎が反応し、グレイビーストに攻撃を仕掛ける。 「シャッ!」 グレイビーストの爪が伸びる。刀耶はロングソードで辛うじて受け止める。 「シィッ!」 刀耶への攻撃とほぼ同時に二郎を狙う刃尾。バックル刀の受けで直撃を回避した。 「グアオオッ!!」 グレイビーストは錫杖メイスを振り高速独楽回転、二郎、刀耶、イグネイシャスは辛うじてガードが間に合うも吹き飛ばされ廃ビルの壁に激突する。 「速い……」「重い……」「鋭い……」 「ウオオオオオアアアアアアアアアアアッ!!」 グレイビーストは大きく口を開け咆哮しながらエネルギーを放つ。ギリギリで回避が間に合う三人。ビーム状の破壊エネルギーは廃ビルを貫きその先にある道路の車をおもちゃのように吹き飛ばしていった。 「何て威力だ……」「あれは喰らったらヤベェ!」「マジかよ……」 飛び上がるグレイビースト。縦回転して二郎たちを狙う。三人はそれぞれの方向に飛んで回避。グレイビーストは地面に衝突の際、エネルギーを爆発させる。アスファルトの破片が二郎たちの体を打った。 「うぐっ……」「クソ」「くっ……」 「ゴフウウウウウウウウ……フルパワーで戦うなんて何時以来でしょうか……」 グレイビーストは牙を剥きながら二郎たちを睨みつける。 「怪我人が巻き込まれる前に離れるか……行くぞ虎熊、八瀬」「そうだね」「おう」 星熊と虎熊と八瀬は怪我人を抱えて離れていく。霄はグレイビーストを警戒しながら飛んで蓮也は刀を構えて最後尾で護衛を務める。 「アハハハハ!逃げていきますね、いいですよ後でじっくりと狩るだけです。まずは目の前のオマエタチ三人からですよ!!」 二郎、刀耶、イグネイシャスに獲物を狩らんとする獣の殺気を放つグレイビースト。 「グウオオオオオオッ!!」 錫杖メイスを振るいながら突進、狙われたのは二郎。錫杖メイスの連続攻撃を見切りバックル刀で受け流していく。 「ナンダト!?」 「(見える……速いけど解る……!)」 「ゴオオオオオオ……」 「(エネルギーの溜め……来る!)」 口から破壊エネルギー弾を放つグレイビースト。二郎はしゃがんで回避。 「ならば……爆砕呪!連打!受けて見なさい!!」 錫杖メイスを短く持って連打で突いてくる。触れた箇所からエネルギーを感じる二郎。体内に侵入し爆裂しようとするそれを、強引に右腕に引き寄せて解呪する。 ほとんど無意識で二郎はそれを行った。華月の得意とするエネルギー操作を。 「何……!?」 驚きのあまり動きを止めるグレイビースト。二郎は隙ありと袈裟斬りを仕掛ける。 「セヤーッ!!」「甘い!!」 槍のような刃尾が脇から突き出してくる。二郎はまともに腹部に受ける。漆黒の鎧部分は鋭い刃から二郎の生身を守りきったが衝撃までは防げなかった。後方に吹き飛ばされる。 「がふっ……」 「私の動きについてこれるようですが……技術ではまだ私が上、カウンターを合わせればお前には回避しようがないですね」 意識を失いそうになるのを耐えながら二郎は体を起こそうとするも動かない。 続く
Jan 2, 2022
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VAMPIREEYE126「対決グレイビースト2」 *** ―晴明神社前 「しゃらあああっ!!」 黒髪女性・夜叉童子の自在鎖鎌の分銅がグレイビーストの錫杖メイスを潜り抜け頭に直撃する。 「オン!!」 夜叉童子は魔力を分銅に込め直撃箇所に連続衝撃を与えた。道路工事の削岩機を思わせる魔力の衝撃がグレイビーストの頭部を襲う。 「シィ!!」 次に魔蟲属妖蜂の黄蜂が外骨格に包み込んだ針拳をグレイビーストの背中に突き立てる。細胞が壊死する毒を注入する。 「ドウラアアッ!!」 金棒をグレイビーストの横っ面に叩き込む星熊童子。 「……」 猛撃を喰らってなお、笑みを浮かべるグレイビースト。細長い犬のような顎から鋭い牙が覗く。右手で夜叉童子の鎖を掴んで引き、尻尾で黄蜂を捕らえ、左手で金棒を掴む。 「雷!!」 咄嗟に金棒を離した星熊を除き、夜叉童子と黄蜂はグレイビーストの発した電撃に打たれる。 「ぎゃあ!」「グハッ!」 「アハハハハハ……」 煙を上げる夜叉童子と黄蜂を投げ捨てるグレイビースト。 「集団で襲い掛かろうとも、一度に仕掛けられるのは精々3人。数で押せると考えていたのなら失敗でしたね。3人が私を斃せる者でなくては何の意味も無いですよ?」 「夜叉と黄蜂の二人に止めを刺さないのは……獣化させるためか?」 「ええ、私に恐怖を抱いたものはグレイパワーの支配に逆らえない。この夜叉童子と魔蟲蜂は後でゆっくり獣にします」 「そうかよ……(今の攻撃でダメージが入ってないのはあり得ねぇ……どんな術を使ってやがる……)」 「星熊、下がってくれ……こいつは俺が!やる!」 前に出てきたのは全身に電撃を纏わせ髪を逆立てながら青白く輝く竹刀型特殊合金警棒を正眼に構える斎藤勇雷。 「近藤さんの敵(かたき)はこの斎藤勇雷が討たせてもらう!!他の者も手出し無用!!」 「オイ……無茶すんな確実にやる事の方が……」 「解っているッ!!だがここは譲れないのだ、どうか見届けてくれッ!!」 「……いいぜ、ヤバいと判断したら割って入るからな?」 「ああ、恩に着る……」 斎藤勇雷の様子を見てグレイビーストは錫杖メイスを構える。 「いいですね貴方。決めました貴方はライオンにしてあげますよ……」 グレイビーストが言い終わるかいなや、轟音と共に電光を放って斎藤の剣が襲い掛かる。面打ちの一撃は錫杖メイスに激突。青白い電撃を撒き散らしながら衝撃でグレイビーストを後方によろめかせた。 「……これはこれは。A級上位の妖並の魔力ですね」 錫杖メイスを変形させ2つに分けるグレイビースト、二刀流の構えを取る。 「ですが、グレイビーストになる前の私もA級上位は単独で狩れてたんですよね」 「だからどうしたというのだ!」 「貴方に勝ち目はないということですよ斎藤勇雷」 「その慢心、打ち砕いてくれる!!ウオオオオオオオオオオオッ!!」 右上段に構える斎藤。剣は青白く巨大化。 「アハハハ!いいですね凄い魔力です!さぁ来なさい!!」 挑発するグレイビースト。 「……」 分析をしながら観察する冬華。魔力が強大であればあるほどグレイビーストは喜んでいるように見えた。 「いけません斎藤さん!」 「ウオオオオオオッ!!」 冬華の制止の声は届かず、音速に迫る突進力で剣を振り下ろす斎藤。しかしその剣は造作もなくグレイビーストに片手の錫杖で受け止められ、もう片方の錫杖で腹を突かれるカウンターの一撃を喰らった。 「がはっ!?」 錫杖メイスの先が斎藤の体を貫く。 「アハハハハハ!!妖殺しの専門家である私がグレイマンとなったのですよ?身の程を知りなさい」 「無念……」 うつ伏せに倒れこむ斎藤。 理解できなかった、一撃必殺の雷の打ち込みが手ごたえ無くそのまま反射されるようにカウンターを喰らった事を。 「さぁ次は誰ですか?そこのサイボーグ少女が一番私といい勝負できるんじゃないですか?それともそっちのサイバネカラテの男性かな?」 冬華と八瀬童子に視線を向けるグレイビースト。 「さぁさぁ掛かってきたらどうです?様子を見ているそっちの小柄な白峰の子と半妖の少年、周囲を警戒なんかしちゃって冷静なんですね?まぁそれで正解なんですけども」 霄と蓮也はグレイビーストの他に気配を感じていた。 「GUUUUUUUUUUUU……」「BUMOOOOOOOOO……」 物陰から馬と牛の灰色獣人。馬はアーマーを着込み、牛は背中から蜘蛛を思わせる足を4本生やしていた。 「昨日見つけた不審な動きをしている妖をさくっと軍勢に加えておいたのです。アラクネ?とゴブリン?でしたっけ?まぁとりあえず金につられてホイホイとついてきたのです。ちょっと狂化しすぎてあんまり理性残ってないですけど、その方が死ぬまで戦うので使い勝手は悪くないですね。可愛くないので後で殺処分決定ですが」 「吐き気を催す邪悪だな」 霄が言い放つ。 「いいですね可愛らしいですね貴女。サーバルキャット獣人にしてあげますよ。そっちの男の子は……豹とかいいかもですね」 「ふざけるな!」 「落ち着くんだ霄、あの馬と牛の灰色獣人は侮れんぞ」 刀身の赤い刀を構える蓮也。ジリジリと迫る馬、牛の灰色獣人。 「アハハハハ!安心してください、死ぬ前に獣化してあげますから!さぁやりなさい!」 グレイビーストの掛け声で飛び掛かる馬と牛の灰色獣人。迎え撃つ霄と蓮也。 連合と華月派の10人の内4人、佐久間、夜叉童子、黄蜂、斎藤がリタイア。 残るは冬華、霄、蓮也、星熊、虎熊、八瀬の6人。 「さて、残りはずっと影に潜んで狙っている鬼、金棒筋肉の鬼。私を分析しているサイボーグ吸血鬼少女。サーバルキャット娘(仮)と豹少年(仮)の二人は馬牛獣の相手。さぁどう出ます?」 グレイビーストの挑発に乗る者は居ない。 斎藤勇雷の実力はこのメンバーの中では1.2を競うものであった。その斎藤が成す術もなく倒れたことで残りのメンバーは慎重にならざるを得なかった。 「(グレイビーストの呪を仮定するなら反射反転の呪……魔力の強い者ほど吸収されて反撃される……ホテルでの特殊部隊との戦闘データから物理攻撃を完全無効する事はできないと考えられる……かといって近代兵器に頼り呪の耐性が無ければグレイビーストの攻撃を防げない)」 冬華は都メタルのデータベースにアクセスしている。 「(圧倒的攻撃力で再生する前に押しきるか、グレイビーストの呪を無効化しなければ)」 冬華の頭には圧倒的攻撃力の華月と呪に耐性のある茉白が思い浮かぶ。 「(……グレイビーストの仲間であるグレイストームがどのような力を持つ者であったかは不明……ですが、異能者特務機関なる組織がこれを撃破。そしてグレイストームが仲間に引き入れたと言っていた念爆者、これはグレイビーストも警戒していた……)」 異能者特務機関、念爆者、グレイストームで検索をかける冬華。同時に都メタルに居る華月と黒谷に助言を求める。 *** ―都メタル 「勝田よ、異能者特務機関に念爆者、グレイストーム。心当たりはあるか?」 華月は冬華からの通信で勝田に質問する。 「え?え??かづたんちょっと待って下さい今手が離せないので……リティーシャ、お答えしてあげて下さい」 「異能者特務機関(Talent's secret military institutions)通称TMIと呼ばれている組織ですね。念爆者の方は異能者強度カテゴリー6に属する世界最強最悪と言われていた異能者です。そしてグレイストームとは念爆者と組んでいた魔法使いの男です」 作業を続けながらリティーシャが答えた。 「冬華が現在グレイビーストと戦闘中だ。敵はその異能者特務機関と念爆者を警戒していた。理由が解らないとの事だが」 「カヅキ、少しお待ちを……あああああもう!これ以上演算力を上げるのにはアレをつかうしかないですね!ナイトケースハート起動!!」 リティーシャの背後にあるカバンから桜銀のプレートが無数飛び出しリティーシャに張り付いていく。そして女性型の鎧騎士へと変身した。 「疑似人格複製、並列接続開始……ふう、これで隔壁攻略は私のコピーAIらにしばらく任せられます。さてさて……カヅキの聞いたトーカの発言を回収して解析開始……」 リティーシャは光ネットとジーニアスレイジのデータベースにアクセス。 「グレイビーストの反転反射の術式に対抗しうるのは……そうですねー純粋にゴリ押しできる者、術式を無効化出来る者、もしくは強度の高い物理攻撃。グレイビーストが警戒する理由としてカテゴリー5に相当する異能者にはそれに該当するものが居るのでしょう……なので異能者が集まるTMIを警戒してたのですね」 リティーシャはグレイビーストの術式無効化にナイトケースのストライクスマッシュ(魔力分解変換攻撃)が通じるか演算しながら調整。 「この状況でグレイビーストに対抗しうるのは……カヅキ、私のナイトケース……後は可能性としてはジロウですね」 二郎の義手のこれまでのデータからグレイビーストに通用すると考える。 「ダメだよリティーシャ、そのメンバーは動かせない」 勝田は無数のモニターをチェックしながら言った。 「ここの誰も外せないのなら……カテゴリー5の異能者が必要です。味方に引き入れば有利なんですが私にそんな知り合いはいません……師匠ならいるかもですが」 「僕もそんな知り合いはいない……ね」 「だったらよー………俺と河上さんが結界隔壁攻略に入るぜ。一応トレーニングしてたし二郎や刀耶ほどの腕じゃなくてもなんとかやって見せるぜ。それなら二郎を動かせる」 恭一が立ち上がる。まだ体調は万全ではない。 「確かに僕も一応HKFやってるからね。無茶さえしなければサポートに徹すればいけるさ」 勝田と共にモニターをチェックしていた河上が立ち上がった。 華月の顔を見る勝田、河上、恭一。判断を待つ。 「……二郎と刀耶の交代に恭一と河上の二人が入れ。吹雪の交代にも誰か入れ、休憩だ」 「はい!」「了解!!」 装置を付けた恭一と河上が二郎、刀耶と席を代わる。 「吹雪ちゃんの休憩交代に私が入ります!」 水元が吹雪と代わる。 水分補給する二郎、吹雪、刀耶。 「恭一と河上、水元がどこまで出来るかが重要だ。この休憩時間にそれを見極める。グレイビーストには、我が行ってやる」 「カヅキそれでいいのですか?被害は減らせると思いますが肝心の碁盤の目町攻略が困難になるのでは?貴方の娘でこの国最高峰の吸血鬼一族の当主と最強の陰陽師とエクレシアのエージェントが迎え撃ってくるのでしょう?」 「どの道グレイビーストを放っておく事はできぬ」 「それではそうですが……」 「あの……」 二郎が華月とリティーシャに声をかける。 「グレイビーストの言っていた異能者特務機関……なんか聞いた覚えがあって………思い出したんですけど」 二郎はセンジョーで出会ったイグネイシャスの事を思い出した。 「ほう?」 「ジロウ!?」 「えっと連絡先を教えて貰ってて……」 携帯端末をリティーシャに見せる二郎。 「でかしたぞ二郎」 「すぐメッセージを送りましょう!!アカウントは信用のある都メタルの社長のキドのを使いましょう」 木戸は光ネット通信でイグネイシャスにメッセージを送る。 数十秒後すぐに返信が来た。内容は―― 『大体の事情は解った。こちらも調査をしていたのでね。すぐにそちらに向かう』 『都メタルの警備員に伝えておきます』 『いいや、向かうのはグレイビーストの所さ』 *** ―晴明神社前 「アハハハハ!いいですね粘りますねー!」 冬華、星熊は絶え間のない連携でグレイビーストに攻撃を仕掛け続けている。隙あらば影からしなやかに虎熊童子が飛び出し首や目などの急所を狙う。 グレイビーストに傷を与え続けているものの、すぐに回復。余裕が見える。それに対し消耗しているのは冬華たちであった。少しづつ体力を削られている。その後ろで八瀬童子は迫る屍人から斎藤ら怪我人を守っている。 「決め手に欠けますね……」 「あの雷の刑事の一撃ですら耐えきりやがったんだ……あれ以上の攻撃を入れなきゃなんねえって事かよ」 「……このままではキリがないよ」 「霄と蓮也も馬牛の獣人に手こずっているみたいです」 蓮也、霄は馬と牛の灰色獣人との戦闘が続いている。 「ん?あれは?」 グレイビーストの見つめる先には夜空を飛ぶ火の玉。こちらに向かって来る。 「アハハハ!増援って事ですかね?」 火の玉はグレイビーストに向かって突進。数十個に分裂し突撃。全方位から集中砲火を浴びせにかかる。 「……っ!?」 グレイビーストの顔色が変わる。物理のただの炎なら3000℃程度までなら問題ない。魔術の類の炎なら反射して吸収できる。浴びせかけられた炎は温度こそ3000℃にはいかないものの、グレイビーストの体毛、施した呪を貫通し焼いてきた。 「……何者ですか」 再生の術で火傷の治療にかかるグレイビースト。目の前に浮いているのは人型の炎。 「TMIイグネイシャス・ファイマン。カテゴリー5パイロキネシス」 「TMI……異能者ですか、忌々しい!」 「異能者の能力が通じる原理は……知っているようだな、グレイビースト神名L咲夜」 「……当然でしょう。異能者の力もまた宇宙からのギフトで誕生した存在だからです。腹立たしい事に……白魔団との繋がりもある」 「陰陽師のアンタなら知っていると思ったよ。そして何事にも相反する存在がいる。グレイマンやミュータントに対するは白魔団、TMI」 「そのうち現れるだろうと思ってましたよ。私に対するアンチアタッカーが。グレイストームも念爆者もそれに敗れた」 「おっと、アンタに対するのは俺だけじゃあないぜ?」 親指で後ろを指すイグネイシャス。月の光に照らされて輝いている鎧騎士。 続く
Jan 1, 2022
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