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2012年02月02日
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カテゴリ: 宮部みゆき作品
 私は、興味を持って視聴したテレビドラマに原作があると、その原作を購入してテレビドラマと比較することがよくあります。文章で表現された原作がテレビドラマのために映像化されるのですから、原作の登場人物のキャラクターや人間関係、活躍する舞台、さらにはストーリー等が程度の差はあれいろいろ異なるのは当たり前のことですが、ドラマ制作側が原作をどのような意図でどう手直ししたのかを考察することはなかなか楽しいことです。

 2012年1月9日からTBS系の連続テレビドラマとしてスタートした「ステップファザー・ステップ」も私の大好きな宮部みゆき作品の小説『ステップファザー・ステップ』(講談社、93.03.25)を原作としたもので、全7篇で構成されている連続短編集です。小説の主人公である「俺」は、廃業した柳瀬という元弁護士の事務所で表向きは調査員をしていますが、実際には柳瀬から情報を得て窃盗を行っている35才のプロの泥棒という設定です。そんな「俺」が東京郊外の今出新町という新興住宅地の一軒の家に泥棒に入ろうとしたとき、落雷で屋根から落ちて気絶してしまい、隣の家に住む宗野家の直(ただし)と哲(さとし)という中学一年生の一卵性双生児たちに「拾われ」て介抱されるところから物語が始まります。

 この双子の兄弟は、彼ら自身が「父さんは、会社で自分の秘書をしていた女の人と」「母さんは、この家を建ててくれた工務店の社長」とそれぞれ駆け落ちしてしまったと言っているように、両親から見捨てられた遺棄児童たちだったのですが、彼らは自分たちが遺棄児童だと世間が知ったら施設に入れられてしまうことを恐れ、屋根から落ちて来た泥棒の「俺」と交渉し、「僕たち、あなたの指紋をとっちゃった」「ねぇ、前科あるんでしょう? まずいよね?」「またムショに入るの、イヤじゃない」と子どものくせに恐喝まがい、いや恐喝そのものだと思いますが、「俺」を脅かして彼らが必要なときだけ父親のふりをし、また彼らのために生活費も入れる疑似の父親(ステップファザー)となることを約束させてしまいます。なお、宗野家の家族がこの今出新町に来てまだ半年ちょっとなので、双子の兄弟としては「俺」が彼らの家に住み込んで父親のふりをしても近所の人たちから特に不審に思われることはないとだろうと判断しての擬似親父作りです。なんと彼らはしたたかで賢くてコワーイお子さんたちでしょうか。

 原作は「俺」がそんな双子の兄弟のステップファザーをしながら泥棒家業を続け、何度もピンチに遭遇した双子の兄弟たちを救う過程でつぎつぎと事件の謎を解いていく名探偵の役割をも演じる奇想天外なユーモアミステリー小説です。また、最初は双子の兄弟から強いられて仕方なく疑似の父親役を演じていた「俺」が、双子の兄弟の危機を救うなかで次第に彼ら兄弟に対する情愛を深めていくという一種の変形ファミリー小説でもあります。

 テレビドラマでは、主人公の怪盗キングは上川隆也が演じ、幼い頃から弁護士の柳瀬豪造(伊東四朗)の法律事務所に住んで怪盗に仕立て上げられ、表向きは法律事務所で情報員として雇われていますが、その実態は柳瀬から不正蓄財の情報を得て悪人たちから金品を巻き上げている義賊という設定です。

 そんな「俺」が原作同様に宗野家の直と哲(渋谷龍生・樹生)の双子の兄弟のステップファザーをやらされることになるのですが、原作では双子の兄弟は「俺」を脅かして無理やりステップファザーにするときに、彼らのために生活費を入れることも約束させており、さらに「俺」の泥棒の手伝いをして得たお金の一部を分け前としてもらったりしています。しかし、これは子どもたちも見るドラマとして教育上よくないと判断したのか、ドラマの双子の兄弟たちは親が残した通帳から生活をしているという設定に変え、さらにご丁寧に双子の兄弟たちを柳瀬の法律事務所まで行かせて、「俺」との間に「不法行為は一切禁止」という条項まで入っている「ステップファザー契約」を結んでいます。

 うーん、なんとも公序良俗に反さない実にご立派な「改正」だと感心させられますが、宮部みゆき作品のファンとしては原作の本来の奇想天外な設定の面白さを大いに損なう「改悪」ではないかと大いに不満を感じました。

 また原作では、兄弟それぞれ異なる中学校に通う双子の中学生という設定ですが、ドラマでは同じ小学校に通う小学4年生ということにしています。双子の通う学校を一つにすることによりドラマ制作の経費も節約され、内容的にも単純化されて分かりやすくなると考えたのでしょう。また双子の兄弟たちを小学生にしたのは、最近の中学生は成長が早く、原作の双子の兄弟のような可愛らしさを映像で表現するのが難しいと判断したからかもしれませんね。また、彼らの実の父親の職業も会社員(大手の不動産会社の営業部長)から新聞記者に設定変更されていますが、これは主人公の「俺」が平日でも自由に宗野家周辺を歩き回って近くで起こった事件の調査をしても不自然に思われないようにするための変更だと推測されます。

 テレビドラマ化に当たっての重要な変更点はそれだけではありません。原作では主要な登場人物として登場してくるのは、「俺」に双子の兄弟と柳瀬の親父と男ばかりですが、ドラマでは双子の通う学校の担任教師の灘尾礼子先生役を小西真奈美が演じ、柳瀬法律事務所の表の顔は秘書兼事務員で実際は女詐欺師という秋山ナオ役を平山あやが演じ、双子の兄弟が住む宗野家の近所の住人で「怪盗キング」を追う刑事の脇坂信之助(渡辺いっけ) の妻の芳江を須藤理彩が演じており、これら女優陣がドラマに彩どりを与えています。



 なお灘尾礼子先生の場合は、あくまでも脇役ではありますが原作にも出てくる人物なのに対し、表の顔は秘書兼事務員で実際は女詐欺師という秋山ナオ、刑事の脇坂信之助とその妻たちはテレビドラマ用に新たに作りだされたキャラクターです。しかし、主人公たちの脇を固めるこれらの人物たちの存在が、このコメディタッチのドラマの魅力を増幅させているように思われます。特に須藤理彩が演じる刑事の妻が主婦の強力なネットワークを通じて「俺」にいろいろ貴重な情報を提供してくれますが、これはいかにもありそうなことで、この部分をいつも大笑いしながら楽しんでいます。

 以上のことは原作とテレビドラマの主要な登場人物についての比較でしたが、物語のストーリー展開にも大きな違いがあります。原作では、最初は双子の兄弟から強いられて仕方なく疑似の父親役を演じていた「俺」が、双子の兄弟の危機を救うなかで次第に彼ら兄弟に対する情愛を深めていく過程が一直線に描かれていますが、テレビドラマでは「俺」と双子の兄弟たちとの信頼関係に危機を生じさせており、そのことによってドラマ展開に起伏を持たせていることです。

 第1話では、双子の兄弟は学校で盗まれた校長先生のカバンを隠し持っていることを「俺」に告げず、彼がそのことを知っても事実を正直に語りません。第2話では、湖で発見された白骨死体のことを双子の兄弟は失踪した両親ではないかと不安になり気にしているのに、「俺」が白骨死体の身元捜査を開始すると「余計なことはしないでくれ」と強く言い張り、ついには柳瀬の弁護士事務所を訪れて「ステップファザー契約」の解約してしまいます。第3話では、空き巣にネックレスを盗まれたことを「俺」に隠し、彼らだけで泥棒探しを始めますし、また彼らが泥棒から本当に取り返したかったモノも「俺」にずっと隠していました。第4話では、迷い犬を自分たちの家で飼うことに決めた双子の兄弟は、「俺」に飼う許可を求めますが、「俺」が自分たちの秘密の関係が礼子先生にばれた以上はもう自分は彼ら兄弟とは関係がないと突っぱねたとき、彼らも「俺」に「もうパパじゃないんだから僕たちが好きなようにしていいんだね」と言ってこの犬を勝手に飼い始めます。

 このようなドラマ展開によって物語に起伏を持たせているのですが、そのために「俺」の彼ら双子の兄弟に対する思いも複雑に揺れ動きます。視点人物的存在である「俺」がそうなんですから、視聴者の双子の兄弟に対する思いもまた当然それに連動して揺れ動き、双子の兄弟に対する同情と共感もなかなか深まりにくいように感じられました。

 宮部みゆきの原作『ステップファザー・ステップ』は、泥棒が双子の遺棄児童の疑似親になるという奇想天外なユーモアミステリー小説であり、その泥棒と双子との情愛がしだいに深まっていくという一種の変形ファミリー小説なんですから、その原作の本来の面白さを生かしてテレビドラマももっとぶっ飛んで大いに泣いて笑わせる単純明快なものにしてほしいと思いました。





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最終更新日  2012年02月09日 15時14分54秒
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