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2012年05月29日
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カテゴリ: 宮部みゆき作品
昨夜(5月28日)、TBS系で宮部みゆきのミステリー&サスペンス作品『レベル7』(新潮社、90.09.25)を原作とするテレビドラマ「レベル7」が放映されました。

この宮部みゆきの原作『レベル7』の新潮社版の装画には、顔がのっぺらぼうな人物が階段の途中で座り込んで思案している様子を描いたマーク・コスタビの絵が使われています。すでにこの宮部みゆきの原作を読まれた方には装画の意味がすぐお分かりになったと思います。『レベル7』には、過去の記憶を喪失した二人の男女が登場します。彼らは、自分の住所・氏名や年齢・職業或いは身分、さらには肉親・親類縁者等の全てのことを憶えていないのです。本人にとってもそうですが、読者にとってもこの二人の記憶喪失者はのっぺらぼうな存在として物語に登場して来るわけですね。

 この原作の面白さの一つは、そんなのっぺらぼうな人物の身元が究明されていく過程にありますね。では、二人の記憶喪失者の身元が明らかになっていく中で彼らののっぺらぼうな顔に目鼻や口などか描かれるようになったでしょうか。おそらく読者にとっては、彼らは最後の最後までのっぺらぼうだったのではないでしょうか。そして、のっぺらぼうなのはこの二人だけではありません。悪役を演じる人物たちもまた見事にのっぺらぼうなんです。いや、のっぺらぼうな顔に「ボス」とか「不良息子」といった役柄を書いた紙がぺたっと貼り付けられていると表現した方がいいかもしれません。

 『レベル7』は、宮部みゆきが作家としてデビュー(1987年に短編「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞)してからまだ3年にも満たない時期に出版された初期の作品で、『パーフェクト・ブルー』、『魔術はささやく』、『我らが隣人の犯罪』の次に出版されていますが、私などは登場人物の造形面において大いに不満を感じたものです。しかし、作者自身はそんなことは百も承知で執筆しているのかもしれません。

 おそらく宮部みゆきは、二人の記憶喪失者の身元探しとそのなかで明らかになってくる驚くべき事実の解明過程の面白さを読者にミステリアスでスリリングなエンターティンメントとして提供したかったのであり、そのために様々な謎を複雑に絡み合わせ、またそれらを解明していくための伏線を効果的に張り巡らせることになによりも力を注いだのだと思います。

 では、昨夜のテレビドラマは、原作を映像化するに当たってどのような工夫を凝らしたのでしょうか。原作同様に記憶を喪失した男女が出て来ますが、まさか彼らの顔がのっぺらぼうというわけにはいかず、男性は玉木宏が演じ、女性は杏が演じています。二人の男女は全く知らない部屋で目覚め、彼らの手首には「LEVEL7」という刺青が刻まれていました。自分自身と相手の正体が分からないまま、彼らは血染めのタオルに包まれた拳銃と分厚い札束を目の当たりにして驚愕し、さらにテレビのニュースで老婆が殺害されたことを知って、「もしかして自分たちがこの殺人事件の犯人では」と疑心暗鬼となってしまい、警察に正直に届け出ることも出来なくなってしまい、相互に相手のことを信じられないまま闇雲に逃走を開始します。このドラマの出だしの部分は、まさに道に迷って当てもなく暗闇を彷徨うような二人の男女の気持ちに視聴者も共感し、ぐいぐいと画面に引き込まれたことと思います、

 しかし、逃走中の二人が複数の男に襲撃され、男(玉木宏)がナイフで傷を負ったとき、三枝という名前の杖を突いた謎の男(伊原剛志)に助けられ、島村病院の医師(白井晃)の治療を受けるところから、三枝が島村と組んで記憶喪失の二人をどこかに巧みに誘導しようとしてるらしいことが分かって来ます。

 この記憶喪失の男女の逃走劇と同時並行的に描かれるのが真行寺舞(瀧本美織)による失踪した祖母探しの話です。舞は父親の真行寺義男(田中哲司)と一緒に祖母の文子(長内美那子)を探して奔走しますが、その数少ない手かがりが文子の失踪前に残した「レベル7に行ったら幸せになれる」という言葉でした。そして祖母の友人で老衰で亡くなった女性の遺族から、文子の友人が「幸せになれる場所」のことを話していたと知らされます。この文子の友人は認知症になりかけていたとのことです。そんな情報を得た真行寺舞に祖母から「レベル7に行ったら戻れない」との電話がかかって来て、すぐ切れてしまいます。祖母探しを懸命に続行した真行寺舞と父親は文子が潟戸友愛病院に居るらしいことが分かって来ます。

 記憶喪失の二人も三枝の巧みな誘導に導かれて自分たちが記憶喪失にされた謎が潟戸友愛病院にあるらしいと知り、、「自分を取り戻すための闘い」に潟戸友愛病院に出掛けます。ところがなんと同病院の院長室で彼らを待っていたのは三枝でした。さらに院長の村下猛蔵(竜雷太)も現われ、二人は三枝や村下から驚くべき事実を知らされます。



 村下猛蔵の説明に拠ると、日本がもうすぐ高齢化社会を迎えることになり、増大する高齢者に対して若者の負担はどんどん増して行くので、彼はこの問題を解決するために新薬を開発したと言うのです。この新薬を高齢者に投与すると老衰が加速され、高齢者はすぐ死亡するので、高齢者の介護者による介護の手間が大幅に省かれるというのです。確かに高齢化社会を解決する「画期的な新薬」には間違いありませんが、なんとまた非人道的な解決方法でしょうか。村下猛蔵の口からこんな嫌な話を聞かされて、純粋にミステリー&サスペンスを楽しもうと思っていた私は気分が悪くなってしまいました。幾ら宮部みゆきの原作を現代社会にマッチしたものに作り変える工夫を行ったと言っても、このような作り変えはないだろうと思ったのですが、みな様はどのように感じられましたか。

  なお、このテレビドラマ「レベル7」については拙サイト「映像化された宮部みゆき作品」の 「第四夜 レベル7」 に転載しましたので興味がございましたらご覧ください。





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最終更新日  2012年05月29日 18時40分38秒
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