2月26日(金曜日)11:30
区役所の渡辺さんから電話があった。「速達は届きましたでしょうか」
「いえ、まだなんですよ。で、マイナンバーはわかるんですが。少し前に送られて来てましたよね。健康保険証と一緒にできるとかいうの。あれはそちらの役所が出しているんですか。あれだったら昨日開けてみたんで、で、中に番号書いてあったからわかりますよ」
「それはよろしかったですね。その封書は担当違いで当方でないないんですよ。で、ワクチン接種希望日予約表は昨日最終便で速達で出したのですが、書類がまだお手元に届いてないということになりますと、え~と・・・・・・」
「区役所に行けばよろしいでしょうか」
「あっ、はい、いえ、この件で多忙を極めておりまして、窓口業務を減らしておりますし、ご高齢の方にいらしていただくのは、コロナ感染の観点から申しましても望ましくはございませんし。そちらからですと、駅前乗り換えで、バス2本お使いいただくことになりますし、お車はお持ちでしょうか」
「いえ、免許返納して。あっ、週末でしたら息子が」
「週末は、申し訳ございません」
「あっ、窓口、閉まってますよね。じゃあ、タクシーで今すぐ、いや、昼食後にでも、お伺いいたしますよ。健康保険証持って、あと、マイナンバーがあればいいんですよね」
「あっ、はい、ただ、私、午後からは連絡会議で」
「窓口のどなたかにお伝えしておいてくだされば」
「え~、山口さまの場合、書類が届いていなかったと言うことで、2回目のをお送りいたしてる希なケースでして、あっ、ちょっとすみません、一度切らせていただきます」
家内が、ゴミ置き場会議から戻って来た。この辺りだって、教育施設も福祉施設も飲食店もクラスターが発生したというのに。「マスクして離れておしゃべりならいいでしょ」と週に4日、清掃当番でなくとも集まっているらしい。月替りなのでお隣から回って来た掃除当番札を玄関の棚に置く音がした。ダウンジャケットを脱ぎ、手袋を脱ぎ、洗面所に入って、手を念入りに洗いながら、私に話しかけてくる。
「ねぇねぇ、あれ、昨日の電話、詐欺じゃない?」
「昨日の電話って、だって、あれ、女だったし、区役所からだろう」
「本当に区役所だった?」
「何度もかかって来たし」
「でもね、小林さん家にも、中川さん家にも、鈴木さん家にも、安藤さん家にも斎藤さん家にもかかってきてないって」
「そりゃ、ちゃんとワクチン希望日書いて出したんだろう」
「だからぁ、そんな封筒、届いていないって。そんなの初めて聞いたって」
マスク2枚を外して外の物干し竿に引っ掛けてから室内に戻り、再び洗面所に向かう家内に言った。
「でも、あちこちのニュースで言っているじゃないか。医療従事者はもう接種が始まっていて。次は高齢者だからって、遅くても4月には始まるんだろう」
「だけど」
「自治体によって、接種方法や予約や場所が異なるって、スマホでとかLINEでとかって自治体もあるらしいけれど。ワクチン接種にマイナンバーを使うって、総務大臣? いや違う、デジタル大臣が言ってたし。
で、桜山区は、昨日、え~と、渡辺さんが言ってた、予約システムってことなんだろう」
「あっ、渡辺さんって、名前わかってんの?」
「当たり前だよ」
「じゃあ、お昼食べたら、電話しましょうよ。みんなが言ってたもの。そんなの詐欺に決まってるからって。区役所に電話すればわかるって」
「ああ」
昨日の夕食の残りをレンジで温め直し、インスタント味噌汁は塩分がきついから薄めにして、スーパーで買って来た千切りキャベツを皿に盛って、昼食は終わった。若い頃は量も種類も金額も大きかったのに。年をとると、鳥の餌並。
朝の連ドラの2度目を見終えて、市役所の代表番号に電話し、スピーカーホーンにして、こたつの上に置いた。オペレーターにつながった。
「コロナワクチンの担当部署にお願いします」
「健康増進課新型コロナウイルス対策部でよろしいですか」
「はい、お願いします」
家内に言った。
「なっ、あるだろう」
電話がつながった。
「私、山口と申しますが、ワクチン接種の件でお尋ねしたいのですが」
「はい、どう言ったご用件でしょうか」
「ワクチン接種推進とかいう部署、ございますか」
「あっ、はい、少々お待ちください」
「ほら、あるだろう」家内を見た。家内も肯く。
「渡辺さんとお話し通じているのですが、あっ、私、山口と申します」
「山口さんですね。で、渡辺ですが、ただいま席を外しておりまして」
「いるんだ」家内が小声で言った。
「ほら」と、俺、自慢することでもないのに、なんとなくドヤ顔になった。
電話の向こうから声がした。
「あっ、ちょっとおまちください。渡辺、戻って参りました」
「ほら、家だけじゃなくて、みんなの所に届いていないなら、この辺り、なんか事故ったんじゃないか、みんなに知らせなきゃ」と家内に言った時、
電話から声がした。
「お待たせいたしました。ワクチン接種推進担当の渡辺と申します」
家内がにやりとした。俺、愕然とした。
渡辺さんは、男性だった。
俺、めげずに男性の渡辺さんに尋ねた。
「女性の渡辺さんをお願いします」って。
「桜山区健康増進課に、渡辺は私一人しかおりませんが」
家内が再びにやり。さっきより口角が上がっている。
俺、男性の渡辺さんに、昨日夕方からの事情を説明した。男性の渡辺さんは、桜山区では、個別接種の方向で医師会と調整しているということで、まだ何らの書類も発送していないとのことだった。「詐欺の可能性が高いので、ホームページ等で注意を呼びかけますが、山口様も警察にご連絡いただければ幸いです」と。
中川さん家のご夫婦が日頃言ってる
「年とると、二人で一人前」を実感した。
***************
創作ですよ。
でも
高齢者のみなさま
ご注意下さいませ。
日々のニュースで
ただでさえ右往左往の政治下で
ワクチン接種関連の
あまりに情報が流れ過ぎて
どういう接種方法になるのか
どこの情報を信用すればよいのか
いつ
誰が
どこで
何を
どうするのか
マイナンバーで
健康保険証で
LINEで
スマホで
ホームページで
写メで
書面で
電話で
窓口で
医療機関で
個別接種
体育館で
学校で
登録
予約
自治体ごとにバラバラで
その自治体だって
都道府県なのか
市区町村なのか
優先順位は
アレルギー対応は
アナフラクシー対応は
医師会は
3月中なのか
6月までずれ込むのか
ワクチン接種以前の段階から
整理されない情報が
出回り過ぎている昨今
どうか
皆さま
ご慎重に。
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