“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

2022.11.08
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立冬の連続講座 飲食道、幸福の法則 Vol.52 最終回


飲食道、幸福の法則 Vol.52 最終回
飽きることの秘密

福瀬智広 - Profile 
1966年生まれ。島根県隠岐出身。岡山市内に寿司店「活種鮮寿(いきだねせんじゅ)」を開店し10年目を迎える。マグロやトロ、うになどの高級ネタは一切置かない「おまかせ形式」にもかかわらず地域で根強い人気を誇る。広告宣伝はしない、値引きもしない「飲食道」を忠実に実践している。


 先日、お客さんからこんな質問を受けた。その女性のお客さんは未婚者であり、私が既婚者ですと言った次の言葉である。「奥さんと毎日一緒にいて飽きませんか?」と。
「ムム・・・」私は返答に困ってしまった。

 なるほど、そうしてみると確かに20年以上も一緒にいるわけだから「飽きる」ということはあるかもしれない。だがしばらく経って出た私の答は「考えてみたこともありませんでしたが、全然飽きませんねぇ」だっだ。

 だって本当にそうだからだ。毎日、毎日顔を合わせているのだが不思議と飽きることはない。逆にこのような職業なので会う時間も短く、帰宅して寝るまでの間お互いが今日あったことをしゃべり合って終わるといった具合である。「飽きる」などお互いが考えてみたこともない「領域」に違いないはずだ(と私は思っているが妻はどうなのだろうか(笑))。

 私のオノロケに少し付き合っていただくが(笑)、私の妻は本当によくしてくれる。家事を懸命にこなし、料理も上手い。私などには出来すぎた妻である。
 間違いなく言えることは「私にないものが彼女にはある」ということだ。
それが、お互いが感じる「魅力」というものなのかもしれない。



 以前、このコラムにおいて「恋愛と繁盛は同じだ!」ということを語らせていただいたが、ここにおいても全く同じことが言えると思う。要は、お客さんからほんの一瞬でも「このお店、もう飽きたかな」と思われたら次回への来店は絶望的ということなのかもしれない。

 ならば、「飽きられないようにするにはどうすればいいのか?」なんて考えるのは無意味であり、飽きられないように努力すること自体がもはや無駄なことであり、時遅しでもあるのだ。先程の夫婦論で言うなら、互いが互いの魅力に惹かれるからこそ、その関係は長く続くのだから。

夫婦であればお互いに対する思いやりを忘れないということも大切だ。これは飲食業であればホスピタリティということになる。だが、お互いが自分を失ってしまっては魅力も何もない。「飽きられないようにする」ということは最終的に「お客さんのニーズに合わせる」ということになってしまうからだ。これは、恋愛で言うなら
「私はあなたの言うことなら何でも言うことを聞きます。あなた好みの人間になって見せます。だから私と付き合ってください!」
と言われていることと同じだ。こんな人にあなたは「魅力」を感じるだろうか。

 私ならはっきり言ってお断りだ。だが、人によってはそんな「奴隷」のようなタイプを好む者もいる。まあ、それはそのひとそれぞれの好き好きでもあるので干渉するつもりはないがまあ、最初はいいかもしれない。だがそれこそ「飽きられる」のではないだろうか。

 そう、「自分を持っていない人には、人は飽きやすい」ということなのだ。これは「お店」に置き換えても全く同じことである。
 人にどう思われようが断固として自分自身の持つ「本当の自分」を貫くことにより、その人が持つ「本来の魅力」が輝きを放つのだ。

 このコラムにおいても「欠けの魅力」について語ったことがあるが、人は完璧なものに対してその魅力を感じる生き物ではない。ここを直せばもっといいのにな、と思いながらでもその魅力という神秘な魔物は心を充分に奪えるのだ。

 だから「飽きられること」など考えている暇などない!と心得たい!!。
自分自身をピカピカに磨くこと、そして自分の店舗を同じように磨き続けることに精進すればいいのだ。これもこのコラムにおいてもウザいぐらい言い続けてきたことだ。


ピカピカに光り輝き続ける彼ら彼女らは「飽きられること」など微塵も考えていない。次々と新たな自分を見つけ出し、世に発信し続けているのだ。

 ここでひとつおもしろい話がある。現代においてのトップアーティスト達は髪型ひとつにしてもどんどん変える。似合う、似合わないなどどこ吹く風で強気な姿勢を貫いているように見える。そしてその「姿」がカッコイイ。見た目ではなくその「生き様」がカッコイイのだ!

 だが、昔のアイドル達をよく見てほしい。彼ら彼女らはその「髪型」をかえようとはしなかった。「売れなくなる自分が怖い」からである。
売れなくなったらどうしよう、売れなくなったのは髪型を変えたからだろうか。
そう思いたくないから髪型を変えない。いや、変えられないのである。



 私の住む街でもここ数年で何件もの老舗がなくなった。飽きられることが怖いのに自分自身を変えることもできなかったからだ。それと、もうひとつは「存続の意味」を理解していなかったことが挙げられるのではないかと思う。

 なくなってしまった老舗に共通していたのは「ひとつの山を築いた」ことだ。
飛ぶ鳥を落とし、一攫千金を掴みでっかい看板をつくりあげた。「お金」という揺るがないダムをつくり上げ、それにあぐらをかいてしまったのだ。

 なぜか。それが「目標」だったからである。「お金」を儲けることが目標だったからその目的は充分に果たしたわけだ。「存続」することが目的であるならば更なる飛躍を遂げられたかもしれなかったのだ。

 存続する為にははっきりと見える「道」が必要になる。私が提唱する「飲食道」とはまず、その「道」を明確にすべきでは?ということだ。自分の信じた「これを世に伝え続けるんだ!」というものを明確に持ち、人々を魅了し続ける。

 お客さんが知らない世界を次々と教える「マスター(師匠)」でならなければならない。それに対しお客さんから「ありがとう」という言葉をもらい、その関係が完成する。これは飲食業に限らず、どの業種に対しても全く同じだと思う。そこにいつまでも「幸福」を感じられる人こそがこの飲食業という業種を続ける資格があるのではないだろうか。

 その為には自分の価値を下げるような無意味な「値下げ」など決して行ってはいけない。どんなに苦しくてもだ。再度繰り返すが「私達は決して奴隷ではない!」私達はあくまでも健全な商行為を通じて世の中を幸福にするのが使命なのだ。それが世に伝わった時に「安堵」が訪れる。正しい飲食道を伝道し続けることが私達の真の使命なのだ。

おわりに・・・。

3年という長期に渡り連載を続けさせていただき、本当に感謝しています。
今後も飲食道実践者として現場に立たせていただきます。
大久保先生、読者の皆様、今まで本当にありがとうございました。





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Last updated  2022.11.09 10:35:47


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