【4-1-1. 7月概観】
7月2日に行われた都議会選挙結果が判明し、自民党と民進党が大敗しました。
同選挙は直近の国政選挙を示唆すると言われています。日本と欧米とは色々な違いこそあれ、既存政党への支持が減っている点は、同じなのかも知れません。
7月7日、日銀は金利抑制効果が強いという「指値オペ(さしね)」を実施した、という報道がありました。
指値オペとは、10年債金利を指定することで、その金利が日銀の防衛線だと市場に認知させる効果があります。従来から実施していた国債買入規模の増減より、更に直接的な金利調整手段に着手した訳です。
今回、指値オペでは0.1%が指値されたので、今後は長期金利が一時的に0.1%より下がったり上がったりしても、市場は金利がまた0.1%に回帰することを予想して売買を繰り返すことになります。そういう認識が定着されれば、海外主要中銀が利上げに向かう今は、JPYが売られやすい状況を作り出せる訳です。
と同時に、日銀も量的緩和からの出口戦略議論を開始するか、という6月に見かけた報道を完全に打ち消す効果がありました。
当然、この政策が特に有効な期間は、海外主要中銀が利上げの雰囲気を醸し出している間です。
そしたら、何ということでしょう。6月末から7月初めにかけて、あれほど主要国中銀に対し期待感のあった利上げや緩和縮小の話が、何か消えつつあるようです。
BOEは、GDP速報値や懸案だったインフレ率が低下したので、物価対策のために景気減速を後押ししかねない利上げが難しくなりました。RBA総裁は「欧米主要国の引締めに追随しない」ことを明言しました。FRB議長は「インフレ率が暫く下がるかも知れない」と議会証言し、ECB総裁に至っては「(引締めなんて)そんなこと、言うてない」旨、言ってます。
「何なんだよ、いったい」って、日銀総裁が言ったかどうかは知りません。
【4-1-2. 政策決定指標】
(1) 金融政策
政策金利及び政策発表時刻は、金融政策決定会合終了次第となっており不定時です。ほぼ正午前後に発表されるものの、大きな政策変更があるときには発表が遅れるというジンクスがあります。ともあれ、平日昼間の発表で時刻が不定というのでは、趣味でFXをやっている多くの人にとって取引参加できない、ということですね。取引に参加できなくても、大きな動きだけは追っておきましょう。
6月16日、日銀金融政策決定会合は、市場予想通り「イールドカーブ・コントロール付き量的・質的緩和の継続」が結論でした。
従来、出口政策議論は時期尚早という姿勢だったものの、「検討を開始する」との報道も6月に入ってからはありました。報道要点は「現在の長期国債保有残高を年間80兆円程度増加する、という政策をこのまま継続すると、2020年頃に対GDP比100%を超えてしまう」という危機感に基づくものです。実際には、日銀会合議事録でそのような危機感が委員間で「共有」されているという記載は見当たらないので、これは在野の危機感です。
ただ一連の報道を追うことで、「現在の長期国債購入ペースは年間60兆円を下回っているので、既に実質的テーパリングが始まっている」との指摘があることを知りました。
7月20日、日銀金融政策決定会合結論は、(1) 短期金利を△0.1%、(2) 長期金利をゼロ%程度に誘導する現行の金融政策維持、を賛成多数で決定しました。
同時発表された展望リポートは、(3) コアCPI前年比見通しを下方修正し、目標とする物価2%の到達時期を2019年度頃に先送りし、(4) GDP見通しを上方修正して、景気総括判断を「緩やかに拡大している」に引き上げました。
(2) 財政政策
危機的と言われて久しい財政赤字については、国債がほぼ国内で消化されていることや、国全体のバランスシート上の対外純資産が多いことから、楽観視する向きが多いようです。これはおかしな理屈で、財政赤字を民間も含めた与信規模で安心するという理屈がちっともわかりません。
もし夕張市にまだ金持ちが居たとしても、夕張市が財政破綻したら、行政サービスは現実問題として縮小したし、市は財政投資ができなくなったじゃないですか。
(3) 景気指標
景気指標への反応は、日欧が小さく米英が大きいという傾向があります。
短観は日銀金融政策の判断材料とされているので、報道では大きく扱われます。2017年7月3日に発表された短観では、企業規模の大小を問わず全般的な景況感改善となっていました。特に製造業は3四半期連続改善し、2014年3月以来の水準に達し、消費税増税前のレベルまで回復しました。
(分析事例) 日銀短観 (2017年7月3日調査)
(4) 物価指標
金融・財政政策に影響を与えるため記録しています。がしかし、ほとんど動かない指標のため、これも取引には向いていません。
なお、海外におけるコアCPI(消費者物価指数)に相当するのはコアコアCPIです。日本におけるコアCPIは生鮮食料品だけを除き、エネルギーを除いていません。日銀が目標とする物価上昇率2%とは、このコアCPIの年率+2%を指しています。
7月20日に発表された日銀展望レポートでは、コアCPI前年比見通しが下方修正されました。修正内容は、2017年度が+1.4%から+1.1%、2018年度が+1.7%から+1.5%、2019年度が+1.9%から+1.8%です。
7月28日に発表された6月分コアCPI前年比は+0.4%で、前月同値でした。全体的には僅かずつ上昇しているように見受けられます。7月分東京都区部コアCPI前年比も同様です。
(分析事例) 全国CPI・東京都区CPI (2017年6月30日発表結果検証済)
(分析事例) GDPデフレータ速報値 (2017年5月18日発表結果検証済)
(5) 雇用指標
7月7日に発表された5月分毎月勤労統計調査の現金給与総額前年比は+0.7%で、8月4日に発表された6月分毎月勤労統計調査では△0.4%でした。厚労省は「緩やかな増加傾向」という見方を示しています。
7月28日に発表された6月分失業率は2.8%、有効求人倍率は1.51倍でした。前月5月分の有効求人倍率の1.49倍という数字は43年3か月ぶりの高水準だそうです。
本指標は他の指標と同時発表されることが多く、反応もほぼありません。なので、取引は行いません。
【4-1-3. 経済実態指標】
いずれも反応しないことは同じです。指標良し悪しに対して為替が絶望的に反応しません。
(1) 経済成長
米国・中国・EUに次ぐ経済規模なのに、なぜこの程度しか反応しないのか、昔から不思議です。とはいえ、速報値は、日本指標の中ではBOJ(日銀)政策金利発表時に次いで動くようです。
6月8日発表の1-3月期改定値(海外主要国の確定値に相当)は+1.0%でした。
7月20日に発表された日銀展望レポートで、実質GDPの見通しが、2017年度は+1.6%から+1.8%、2018年度は+1.3%から+1.4%、2019年度は+0.7%増に据え置かれました。全体的に上方修正されています。
一方、IMFが7月24日に発表した世界経済見通しでは、2017年が+1.3%、2018年が+0.6%です。IMFも4月に発表した見通しより、2017年はわずかに上方改定しています。
(分析事例) 四半期GDP速報値 (2017年5月18日発表結果検証済)
(2) 実態指標
かつてよりも製造業はBtoB(企業-企業間取引)を重視しています。CPIではわからない動きを指標で掴むため、製造業の動向が必要です。非製造業には、金融・小売だけでなく発電などが含まれています。
6月1日に発表された1-3月期産業設備投資額前期比は+4.5%でした。
7月10日に発表された5月分機械受注前月比は△3.6%で、2か月連続マイナスとなりました。
7月14日に発表された5月分鉱工業生産確報値前月比は△3.6%でした。
(分析事例) 機械受注 (2017年6月12日発表結果検証済)
(分析事例) 鉱工業生産速報値 (2017年2月14日発表結果検証済)
【4-1-4. 収支関連指標】
貿易収支と経常収支で反応に結び付くのは貿易収支の方です。日本の対米・対中収支は、政治的発言・事件によって景気や為替に影響を与えます。
7月10日発表の5月分国際収支は、対米貿易収支が黒字に転じました。全体の数値は経常収支・貿易収支ともに市場予想を下回ったものの、これはGWの影響を考えれば自然です。輸出・輸入ともに増加した上での貿易赤字なので、悪い内容ではありません。経常収支は来月が黒字なら3年間連続で黒字ということになります。
7月20日発表の6月分貿易統計速報(通関ベース)は+4,399億円でした。
6月の輸出は前年比+9.7%で、米国向けは+7.1%、中国向けが+19.5%です。輸入は前年比+15.5%でした。
(分析事例) 貿易統計(通関ベース) (2017年6月19日発表結果検証済)
(分析事例) 貿易収支・経常収支 (2017年7月10日発表結果検証済)
以上
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