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2024年05月04日

十角館の殺人

2024年のGWも後半を過ぎました。
管理人は長年の宿題をまたひとつ片付けました。
今回の宿題は「十角館の殺人」(綾辻行人)です。
いわゆる「新本格ミステリィ」の元祖です。これを読んでいないと「新本格」を語れないそうですが、とくに語る予定はないので読まなくてもいいんだけど、冥途の土産に読んでおきました。
うむ、こういうミステリィだったのか。なるほど。

ということで、いまさら「十角館の殺人」を読んで「新本格」をマスターした気になったわけですが、「新本格」って何ぞ、という方のために、インターネッツから引用文をコピペしておきます。
「本格推理小説のように、犯行のトリックを重視し、謎解きの面白さを追求した作品を指す。 日本では1980年代から1990年代にかけて、社会派推理小説の隆盛に対して登場した一連の作家の作品が知られる」
ということだそうです。「本格推理小説」とは何ぞ、という新たな疑問が湧いてきますね。
分かりやすく言うと、「金田一少年の事件簿」です。
金田一耕助のシリーズが「本格推理小説」で、金田一少年の事件簿が「新本格」
マンガじゃねーか、と言われそうですが、マンガでも小説でもOKです。
謎のある事件を名探偵が解き明かすようなヤツね。ハードボイルドな探偵が殴りあったりとか、西部警察の大門軍団が出てきたりするやつは非該当です。
興味深いのは、本格、という言葉の使い方が妙な点です。
本格というのは、推理に係ります。正式な犯罪や捜査、という意味ではありません。論理的に破綻が無い推理に基づく小説、というような意味です。
したがって、事件自体はわりと奇天烈なものが多いようです。
無人島に招待されたご一行が次々と殺されたり、吹雪の山荘に閉じ込められたご一行が次々と殺されたり。
あるいは密室とか謎の館で連続殺人が行われて、おまけに死体が派手に装飾されていたりとか。
普通の新聞ではいちどもお目にかかったことがないような事件がほとんどです。

ちなみに「十角館の殺人」では、孤島にある謎の館で連続殺人が発生します。
謎は全て解けます!ジッチャンの名にかけて!
詳細はネタバレになるので書きませんが、いつも思うのは、本格・新本格の犯人は大変だなあと。
「金田一少年」のスピンオフにも犯人視点の作品がありますが、爆笑するぐらい犯人側の準備が大変だ。
しかも最終的には名探偵にすべて看破されるので、ひとつも報われない。
それでも新たなるトリックは日々産み出されているのです。



2024年04月15日

僕の心のヤバイやつ10巻(by桜井のりお)

「青春甲子園、優勝〜〜!!」
というのは別のマンガの名セリフですが、僕ヤバの10巻も青春甲子園の決勝ぐらい熱い闘いが展開されています。1冊丸ごと夏合宿編です。

桜井のりお先生の「僕の心のヤバイやつ」もついに10巻に至りました。
発行部数も450万部突破です。
コミックスで読むと一瞬ですが、「連載で読む派」にとっては隔週で1話(10〜12頁)の進行なので、じつは10巻の夏合宿のエピソードは半年ぐらいかかっていたのです。心して読むように。
夏合宿編は、別名「性の4日間」と呼ばれるだけあって、エロスなエピソードが満載です。
そのあたりについては、コミックスのあとがきで作者自ら「付き合うにあたって性への関わりは不可欠」と語っています。読者諸兄におかれましては、覚悟完了のほどよろしくお願いいたします。

序盤のコンドーム事件から始まり、ビーチやケンカや花火や宴会や勉強会などイベント盛りだくさんですが、やはり見どころは山田の山田力(山田を山田たらしめる力のこと)が暴走してゆくところですね。
例によって市川視点で語られるので、山田の内面を覗うことはできないのですが、行動の端々に理性の揺らぎが感じ取れます。
今回は海辺の別荘が舞台なので、水着も出てきます。
かなり「攻めた」水着を山田は選んでいますが、そのエピソードは9巻にあります。わりと重要な回です。
その水着を見せるのは、4日間のうちで2回あります。
初回と2回目の二人の反応とか、如何でしょうか。面白いですね。
物語の序盤ではモデルもやっている美少女、というキャラクタでしたが、市川との交際を経てものすごくリアルな人格が顕現してきました。うん、リビドーがだだ漏れじゃん。
ある意味で生命力に溢れた女性であるとも言えます。風邪ひいても24時間で復活するぐらいに。

コンドーム事件はカルテ140で解決?します。この小道具を作品に持ち込むのはなかなか勇気が必要だったと思います。おかげで二人の気持ちの深い部分が分かるのですが、残念なのは山田がキッスに夢中で市川の言葉を全然聞いていないというポンコツぶりです。
しかもその後、セクシー水着攻撃にも耐えたはずの京太郎の京太郎が意気軒高ぶりを見せてしまい、帰りの電車でそれを思い出してヒロインにあるまじきゲスな笑みを浮かべる山田が優勝となります。
山田、恐ろしい子。

おまけ。マンガクロスで連載時には毎回「扉絵」が描かれるのですが、コミックスには収録されません。
140話の淫靡な扉絵と、10巻で出番が無かった半沢さんの登場回(141話)の扉絵をご紹介します
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2024年01月06日

皇帝廟の花嫁探し 〜就職試験は毒茶葉とともに〜(by藤乃早雪)

「皇帝廟の花嫁探し 〜就職試験は毒茶葉とともに〜」は藤乃早雪による小説です。
初版発行は2023年12月25日。メディアワークス文庫から発行されています。
第8回カクヨムWeb小説コンテストの恋愛部門特別賞受賞作です。

じつはこの小説、先日ひとから頂いたもので、有難く読ませてもらいました。
本をくれたのは昔からのご友人で、そのご友人はこの作者の父上です。
はい、「身内の宣伝案件かよ!」と言わないように。デビュー作をご家族が支えるという美談なので、心をふるわせてください。

個人的には自分の創作物が親バレ・身バレしたら嫌だなあ、とは思うのですが、それはたぶん自分が「見られたら困るようなモノ」しか創作しないからでしょう。この作品は、きわめて健全なので、親御さんも安心ですね。

あらすじはこんな感じです。
「家族を養うため田舎から皇帝廟の採用試験を受けに来た雨蘭。しかし、良家の令嬢ばかりを集めた試験の真の目的は皇太子の花嫁探しだった!
何も知らない雨蘭は管理人として雇ってもらうべく、得意な掃除や料理の手伝いを手際よくこなして大奮闘。なぜか毒舌補佐官の明にまで気に入られてしまう。しかし、明こそ素性を隠した皇太子で!?
超ポジティブ思考の雨蘭だが、恋愛は未経験。皇帝廟で起こった毒茶事件の調査を任されてから明の態度はますます甘くなっていき——。」

いちおう1冊できれいにまとまっています。
冒頭のご老人を助けるイベントが「課長・島耕作」を彷彿とさせる流れで、その後も美形糸目(CV:石田彰)のキャラが出てきたり、ライバルや意地悪をするモブ子さんたちが登場したりと、いろいろと伝統芸能を味わえる明朗恋愛小説です。
ヒロインがとても前向きで性格が良いので、読後感が爽やかです。
ちなみにヒロインの造形ですが、「鬼滅の刃」の主役3人を足して3で割ったような子です。
正直で前向きで家事に強い炭治郎と、畑を耕しまくる善逸、行動が猪突猛進な伊之助が合体しています。
まわりからのいじめや嫌がらせにも毅然と耐えられるのは、たぶん長男だからだと思います。
設定上は病気の兄や弟妹がいますが、「精神的に長男」なお嬢さんです。

読み進むと、ところどころに妙に可笑しいところがあるのですが、個人的にいちばんツボにはまったのは本文186頁。
(まさか・・・・・・この俺がな)
という主人公のモノローグ。
超絶美形にしか許されていない伝説のセリフを久方ぶりに拝見しました。長生きしてよかった。

宣伝チラシには「恋愛」「ときめき」「ハラハラ」のタグが付いています。
10代から50代ぐらいまでの男女問わず、ご満足いただける1冊と存じます。

2023年12月10日

傷だらけのカミーユ/わが母なるロージー

ピエール・ルメートルというフランス人作家の「カミーユ・ヴェル—ヴェン警部三部作」をようやく読了しました。
この三部作は以下の通りです。
『悲しみのイレーヌ』
『その女アレックス』
『傷だらけのカミーユ』
『わが母なるロージー』
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「三部作なのに4作ある」ということに気付いた人は流石です。
そうです。正確には3.5部作です。
最後の「わが母なるロージー」はおまけの中編で、三部作完結後に書かれました。作品内の時系列では「その女アレックス」と「傷だらけのカミーユ」の間のエピソードです。

「傷だらけのカミーユ」のあらすじはこんな感じ。
「 カミーユ警部の恋人・アンヌが二人組の強盗に殴られ瀕死の重傷を負った。警察からカミーユに電話がかかってくる。アンヌの携帯の連絡先のトップにあったのがカミーユの電話番号だったからだ。カミーユは病院に駆けつけ、アンヌとの関係を誰にも明かすことなく、事件を担当することにする。しかし強引なうえに秘密裏の捜査活動は上司たちから批判され、事件の担当を外されるどころか、刑事として失格の烙印さえ押されそうになる。カミーユはいったいどのようにして窮地を脱し、いかに犯罪者たちを追い詰めることができるのか。」

「わが母なるロージーのあらすじはこんな感じ。
「パリで爆破事件が発生した。直後、爆破犯は自分であると警察に出頭した青年ジャンは、爆弾はあと6つ仕掛けられていると告げ、金と無罪放免を要求する。右腕のルイとともに事件を担当することになったカミーユ・ヴェルーヴェン警部は、青年の真の狙いは他にあるとにらむが……。」

いずれも傑作だと思います。個人的にはカミーユ警部の右腕として活躍する富豪刑事のルイが素晴らしい。
マンガ「こち亀」の中川巡査みたいな人で、無駄に優秀すぎる。実務的にはほとんどの事件は彼が辣腕をふるうことで解決しています。カミーユ警部はウロウロしたり姿をくらましたりして、上司としては迷惑千万。その分相当ひどい目に遭っているので、まあ、許すかな。

管理人はそれほどミステリィ小説を読む人ではないのですが(そもそも読書をしない)ときどき発作的に読み始めます。だいたいは他のマンガなどで紹介されたり引用された本を探して読みます。だから流行から2周ぐらいズレていることが多い。このシリーズも、10年ぐらい前に流行ったんじゃないかな。
シリーズを継続して読んだ理由は、単に主人公の名前が気に入ったからです。
「カミーユ」って名前は、ガンダム好きな一派には特別な感情があると思います。
「機動戦士Zガンダム」の主人公がカミーユ・ビダンだから。
ガンダムの劇中では「女の名前」と言われてカミーユ君は激昂します。ただしフランスでは男女どちらにも付ける名前のようです。
「カミーユ警部」は50代の禿げた小男ですが、管理人の脳内ビューワにはずっとカミーユ・ビダンの姿で投影されていました。
だから小説内では言っていないはずの名セリフをときどき叫んでいたことになっています。
こういうやつね。
「カミーユが男の名前で何で悪いんだ! 俺は男だよ!」
「遊びでやってんじゃないんだよ!」
「修正してやる!!」
「何でそんな簡単に人を殺すんだよ! 死んでしまえ!」
「ここからいなくなれー!!」
読んだ人なら分かると思います。小説に書いてないだけで、たぶんカミーユ警部は言ってるはずです。
まちがいない。

2023年11月23日

ヤコとポコ(by水沢悦子)

山田尚子監督の新作短編「Garden of Remembrance」の予告が公開されています。良い感じです。
キャラクター原案は水沢悦子さん。
山田監督の新作長編「きみの色」も水沢さんがキャラ原案の予定、のはずです。

ということで、水沢悦子さん。何者でしょうか。
はい、マンガ家です。ものすごいヒット作はないけど読者満足度がすこぶる高い人です。
「花のズボラ飯」「もしもし、てるみです。」などの作品があります。
一番人気はやはり「ヤコとポコ」だと思います。全7巻で好評発売中。
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「ヤコとポコ」(水沢悦子)
秋田書店 全7巻

「ヤコとポコ」は、たぶんSFマンガ。
ぬいぐるみ風のロボットが日常にいる世界を舞台に、失敗も多い「てきとうモード」の猫型ロボット・ポコをアシスタントにしている漫画家の少女ヤコの日々を描いています。
この世界では50年前に起きた「通信革命」と呼ばれる事件の後、インターネットが廃止され、PCの利用も大きく制限されています。
マンガ家は紙にペンで描いて、ベタを塗りスクリーントーンを貼り付けるというアナログ作業に従事しています。
電話は固定電話で、FAXが通信の主力です。スマホやケータイはありません。
ある種の「夢のような世界」ですね。アナログでマンガを描いてきた世代の夢です。
アシスタントロボの「ポコ」も、ネコ型ロボットでお腹にポケットが付いているのが「夢」らしくて可笑しいです。微妙に役に立たないところも、あのロボットに似ている。

物語は、基本的に「日常」をゆるく描いています。突飛な展開や刺激的な事件は起きませんが、じわじわくるマンガです。
主人公のヤコとネコ型ロボットのポコは、目のデザインが似せてあって、ふたりとも「死んだ魚のような目」をしています。
とても主役のデザインではないのですが、すごく世界観にマッチしている。
とくに、やや上目遣いでロンパリ気味の「ポコ」の目が、ときどき「賢者」のように思える瞬間がある。
未来の世界のネコ型ロボットは、こっちのほうが好きかも。


2023年11月11日

僕の心のヤバイやつ 第9巻(by桜井のりお)

2023年11月に「僕の心のヤバイやつ」第9巻が発売されました。累計400万部です。
TVアニメも2024年1月から2期が放送されるので、もうなんも言うことないんですけど。

8巻の修学旅行編でふたりが告白してお付き合いが始まったわけですが、9巻の冒頭がその現実をなかなか受け入れられない京太郎のモノローグから始まります。
この種のラブコメだと、カップル成立がゴールになっているパターンが多いので、「お付き合い篇」をリアルに描いていくのは稀有かもしれない。
「成就した恋ほど語るに値しないものはない」という説を真っ向から打ち破る展開が始まる訳です。
並みの作家であれば、凡庸な「のろけ話」がダラダラ続くと思われますが、この作品を描いているのは「鬼才・桜井のりお」なので、まだまだ「ヤバイやつ」が出て来る模様です。

9巻をまだ読んでいない方のために、少しだけヤバイものをご紹介しておきます。
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左の画像は猛勉強中の市川のスマホに送られてきた山田からの水着画像。
ツイッターでの「次回予告」の画像ですが、この予告画像で数万人の死者が出ました。
右の画像は、10巻から始まる「夏の合宿編」(通称:性の4日間)の始まりを告げる山田の画像です。
一見、普通の画像に見えますが、本編を読むと分かるとおり、山田がいろいろと狂っています。

9巻は、ふたりのお付き合いが始まり、市川が右往左往する様子が描かれていますが、じつはそれに隠れてもっと取り乱しているのが山田です。
山田のモノローグは非表示、というのがこのマンガのルールなのですが、表示アリにしたら、相当ヤバイことになっているのが9巻です。
「彼女」ポジションになったせいで、よけいに混乱している山田を読者はお楽しみいただければと思います。
なかでも、市川と微妙な距離にいる「萌子」への気持ちが複雑で大変です。
そのこじれた気持ちが右の画像に溢れていますので、眼玉のぐるぐるは「目は口ほどにモノを言う」を表しているとお考え下さい。

9巻のラストはふたりのガチンコのキスシーンですが、単行本の「あとがき」ページに描かれている「その夜の山田」のカットが最高に「桜井のりお」らしい。
お風呂から寝るまでの一連のカットが、どれも至高の領域に達している。
こういうヒロインを描ける作家が日本にいてくれて、本当にありがたいことです。


2023年10月01日

悲しみのイレーヌ

管理人のゆうすけです。
8日に1回宿直があるので、土曜の場合は土曜に仕事してそのまま宿直室で泊り、日曜の朝に交代して帰宅となります。月曜からは仕事なので、休みなく2週間連続で働いている感覚です。
未明に大雨が降ったので、起きて対応していたので、猛烈に眠いというか、お疲れです。

宿直の間はどこへも行けないので、せっかくだから読書をすることが多いです。
ということで、この週末に読んでしまったのが「悲しみのイレーヌ」
異様な手口による連続殺人事件を追うミステリです。

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「悲しみのイレーヌ」
ピエール・ルメートル著
文春文庫 2015年刊

以前このブログで書いた「その女アレックス」の前作です。
パリ警視庁のカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ(3部作)の1作目にあたります。
シリーズ順に書けば、?@「悲しみのイレーヌ」、?A「その女アレックス」、?B「傷だらけのカミーユ」となります。

管理人は2作目の「その女アレックス」から読んでしまったので、じつはこの話の結末は知っていました。
そのうえで、あえて読みました。予想通り、というか、予想以上につらい読書体験でした。
じつはこの小説の読者の過半数は、同じようなつらい経験をしているはずです。
なぜならば、日本での出版順序が?A→?@→?Bだったから。
何がつらいのかは書きませんが、なんかタイトルでネタバレしてますね。あまりうまい邦題ではないと思います。
原題は「Travail Soigne(丁寧な仕事)」。ピエール・ルメートルはフランス人の作家なので、フランス語です。原題の意味は、読めば分かるのですが、この犯行計画についての的確な表現です。
未読な方は、必ず?@?A?Bの順に読むことをお勧めします。
ミステリ小説で、かなり猟奇的な犯行が出てきますので、そういうのが苦手な方はご注意を。

さて、この先は別の映画に関係したことを書きます。
ネタバレになりますので、この小説と以下の映画を知らない方はここまでね。

「セブン」という、デビッド・フィンチャー監督が撮ったサスペンス映画のことです。
ブラッド・ピットとモーガン・フリーマンが刑事役で出ている映画です。すげえ恐ろしいアレね。

あの映画のラストは、あまりにも有名だと思います。
追い詰めた犯人と対峙する刑事役のブラッド・ピット。そこになぜか荷物が届く。
ブラッド・ピットに届けられた見知らぬ箱。その箱の中身は・・・。
映画の中では、箱の中身を写したショットは無いのですが、観客によっては「見た」という幻覚を持つ人もいます。
一般的にはその中身は「殺された奥さんの生首」だとされています。
ブラッド・ピットはそれを見てしまい、逆上して犯人を射殺する。
・・・というラストですが、管理人が友人と話して、意見が一致した内容は、少し違います。
箱の中身は、奥さんの生首ではない。
それでは普通の殺人で、刑事が逆上するレベルではない。
では何が入っていたのか。
・・・それはおそらく、妊娠していた奥さんの胎内から取り出した胎児だろう。
管理人と友人は、そのように思ったわけです。
それぐらい異常で、インパクトがないと、ブラッド・ピットは発狂しない。
「セブン」はそういう映画なのです。

それで、この小説ですが。皆さん、そういう小説を読みたいですか。
管理人的には一切お勧めしませんが、もしも貴方がそれを求めるならば、それは与えられるでしょう。
現実の崩壊感、というものを味わうミステリの傑作です。

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感想(8件)


2023年09月11日

駿河城御前試合

「駿河城御前試合」は南條範夫による日本の時代小説です。全12話の短・中編の連作で構成されています。
第1話の「無明逆流れ」を山口貴由が漫画化した『シグルイ』が有名で、その人気があって2005年に徳間文庫が新装版を出しています。管理人が読んだのもこの新装版です。

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「駿河城御前試合」南條範夫・著
徳間文庫

この作品に関する基本的な知識とネタバレ。
世にいう寛永御前試合(徳川家光の御前試合)というのは後世の創作ですが、じつはこの試合に関しては、寛永6年(1629年)の駿府城主徳川大納言忠長が行った11番の御前試合が元ネタなのです。という設定で、史実のように語られる「創作」がこの作品です。実際にこういう試合があったかは不明です。徳川忠長はそうとうヤバイ人だったので、あるいはあったかもしれない。

南條範夫は「残酷もの」で知られる作家ですが、この作品も豪快に残酷です。
人がバタバタ死ぬ作品が嫌いな人は読まない方が良いです。主要な登場人物はほぼ死にます。
真剣で行われる11番の勝負を、「グラップラー刃牙」のように全試合完全中継します。
管理人的には大好きな内容です。
余談ですが、時代小説を読むときに気を付けるべき点として「現代の常識や倫理観を持ち込まない」というのがあります。この作品は江戸時代が舞台なので、ゴリゴリの封建制度の中でのお話です。近代的自我などはまだ芽も出ていないし、人の命はやたらと軽く扱われます。羨ましいのは「自力救済」が一部に認められている点ですね。お上に届け出すれば「仇討ち」とか「決闘」とか、OKです。昔はよかったなあ。

ここに書かれた11試合はいずれも面白いのですが、管理人的にお気に入りのキャラクターを挙げておきましょう。
「被虐の受太刀」の座波間左衛門(ざなみ かんざえもん)
君は完璧で究極のドM。手におえない変態野郎。この作品で唯一「幸せ」に死んだヤツ。よかったね。

「破幻の秘太刀」の笹島志摩介
美形な顔立ちに、数々の秘剣を体得している凄いヤツ。実はこの秘剣を会得するためのルーチンがあって、惚れた女を使い捨てにするとスランプを脱出できて秘儀が会得できる、というもの。
なんじゃそれは。ざっくり20人ぐらいの女を使い捨てています。中には自害した人もいます。
こういうクズなキャラは嫌いじゃない。むしろ好きかも。
きわめつけは、試合前夜の事件。
かつて使い捨てにした女の妹が「仇討ち」にやって来ます。
助っ人ひとりを伴って屋敷に夜討をかけるが、返り討ちに遭う。助っ人は斬られ、妹は志摩介に犯されたうえに殺される。
志摩介は死体が転がる部屋で朝までぐっすり眠り、朝は井戸で体を洗い、清々しい気持ちで試合に臨む。
絵に描いたような悪役ぶりで、いっそ爽やかさすら感じられます。
彼がどうなるのかは読んでお確かめください。

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感想(0件)


2023年08月22日

ゆぴ太の恋人(by 谷ま乃ゆり)

管理人のゆうすけです。
「リネンの春」を描いていた谷ま乃ゆり先生の新作「ゆぴ太の恋人」のご紹介です。
2023年5月から漫画サイト「となりのヤングジャンプ」にて連載中です。Web連載なので8月22日現在、過去6話分は全部読めます。
作品内容はこんな感じ。
「売れない漫画家・黛菫の住む部屋の真上には、 若くて美人の女の子・いおが住んでいる。 ある日、いおが自分の作品の“熱心”なファンだと 気がつく。これは偶然?、それとも…!? 隣人サスペンス・ラブストーリー!!」
売れない漫画家のペンネームが「ゆぴ太」です。「灼熱魔法少女りず」をまんがアプリで連載中です。
謎の隣人が「佐藤いお」ちゃん。可愛い。
谷ま乃先生は女性のパンツを描かせると抜群に上手い人ですが、そのパンツを拾うことから二人が急接近していきます。しかし、何か不穏な空気が漂うこの作品、ミステリ仕立てになっています。

最大の謎は、隣人である「佐藤いお」の正体ですが、それについては第1話からすでに情報が開示されています。以後、管理人による考察というかネタばれ的な記述が始まりますので、未読の方はここまでね。

さて、よろしいでしょうか。
それではいきなりですが、「佐藤いお」の正体について3択です。正解を選んでください。

1 熱心なファンである「ゆの」さん
2 前任の担当者の関係者
3 現担当編集の中野氏の関係者

正解は、全部違います。
「佐藤いお」の正体は、「ぺろりん」です。あの「変な生き物」ね。
1話で名前を名乗るシーンがありますが、名前がすでに正体を示しています。
いお。ちょっと変わった名前ですが、当然意味があってこの名前がつけられています。
イオと表記すると分かりやすいですね。木星の第1衛星の名前です。名前の由来はギリシア神話の登場人物に由来します。その人物はゼウスの恋人であり、牝牛に姿を変えられた経歴があります。ちなみにゼウスはローマ神話ではジュピターです。
ここまで言うと、勘の良い方はタイトルの意味も分かると思います。はい、ゆぴ太は「ジュピター(木星)」に由来します。ローマ神話ではジュピター(ユピテル)の正妻はユーノーです。「ゆの」さん、けっこう重要な人みたいですね。
いおが「ぺろりん」であることを示すものは他にもいくつか描かれています。
スマホの待ち受け画面やキーホルダーに「ぺろりん」が使われています。
作中で「3話の配信から1日たっていない」と言っているので、待ち受け画面はともかく、キーホルダーは自作なのでしょうか? 
分かり易すぎるので、ミスリードかもしれないという疑問もありますね。
りずちゃんのタトゥ?については、「彫った」とは言っていないので、どうやって「入れた」のかは不明です。
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さて。
「いお」が「ぺろりん」なら、何の目的で「ゆぴ太」に接近したのでしょうか。
偶然でしょうか。いや、そんなわけないよね。
「いお」は連載中のマンガの今後の展開を知っています。登場人物のひとりだからですね。
作品の登場人物が作者自身に接近して行うことは、基本的に「作品世界の改変」です。
「ぺろりん」にとって、改変したい、改変しなければならない展開が見えているのかもしれない。
リアル世界に目を向けると、ゆぴ太先生は前作2本が打ち切りで終わっていて、今回が三度目の正直、という瀬戸際にいます。今の連載が成功しなければ後がない状況です。
このあたりが、「ぺろりん」側にもリンクしている可能性があります。
「ぺろりん」も後が無い。でも直接自分で作品を改変することはNGで、作者の自由意思に近い形で誘導して、望ましい結末を手に入れたい。そんな感じかな。

ということを考えながら6話まで読み進めています。
ここに書かなかった「ぺろりん」に関する考察はまた機会があれば。
じつはこの連載を知ったのはほんの数日前なので、谷ま乃ゆり先生の新作が久しぶり読めて浮かれています。
今後もますますのご活躍を祈念いたします。

2023年08月11日

潮が舞い子が舞い 第10巻(by阿部共実)

「問題 私は今 背中になんて 書いたでしょーか」
「えー アホ?」
「せいかーい」

皆さんお待たせしました。「潮が舞い子が舞い」10巻が刊行されました。これが最終巻となります。
名残惜しいですね。
冒頭のやりとりは、最終話のひとつ前、109話での会話です。
水木君が手に入れた中古自転車を乗り回していて、犀賀さんを拾うお話。
水木君と犀賀さんの関係については第1巻からずっと続いていたのですが、最終巻で一応の決着です。
地元での遭遇は、7巻でも似たようなシチュエーションがあり、そのときに水木の近所の高台に来ることを「登山」と呼ぶことにしようと犀賀は言ったのですが、そのことを水木君は忘れているみたいですね。
水木君のことが好きな犀賀さんは、自転車に二人乗りして送ってもらう途中で、勇気を出して水木の背中にある言葉を書きます。その言葉をクイズにして水木君に言わせる流れなのですが、彼の回答は「アホ?」でした。
ああ残念ですね。水木君は幼馴染の百々瀬さんが好きなので、犀賀さんの気持ちには応えらえないようです。
「せいかーい」って言う犀賀さんの笑顔が心を打ちます。本当に楽しくて笑ってるんじゃないんだけど。
その後のセリフ「水木はあほー」は本心ですね。
このシーンはもう少し続き、犀賀の想いと、それに対する水木の気持ちが伝えられます。
その時にはカメラは二人の後ろに廻っていて、二人の表情をとらえることはできません。
このマンガでは、とても大事な場面や、どんな表情を見せているのか単純には示せないときには、後ろ顔で見せたり、カメラを目いっぱい引いています。
読者の想像に委ねられているので、各自で頭に思い浮かべてください。
ちなみにここまでの記述は管理人の個人的な感想なので、異論は許しちゃいます。

ちなみに10巻で「意味ありげに後ろ姿で語る」カットは、例えば103話の羽坂副主任。
「水木くんも大人になったら 漬けものの良さわかりますよ」って言うところ。
位置的に後ろ姿になっていても不自然じゃないんだけど、あえて表情を描かないのは偶然ではない。

今回も50人近いキャラが文字通りの群像劇を見せてくれるわけですが、回を重ねるごとにキャラの複雑な人間性、というか、謎な部分が露見してきます。
ディックの小説じゃないんだけど、人間の中に「人間に擬態しているもの」が紛れ込んでいるような感覚にとらわれます。「私は人間です」と、わざわざノートに書き込む奴までいる。
現実崩壊感が始まる前に、永遠に続くと思われた高校2年の1学期は終幕です。
最終話は、百々瀬とバーグマンのエピソード。
授業を抜け出して砂浜で語らう二人。
「忘却されるなんでもない一日」と名付けられた「永遠に思い出される一日」
映画「フォーエバーフレンズ」(原題:Beaches)を想起させる、浜辺での女の子の友情。
阿部先生、長い間お疲れさまでした。素晴らしい時間と物語をありがとう。
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ゆうすけ
銀河大計画別館の管理人。 「銀河大計画」は、1993年から細々とやっている同人誌です。 ゆうすけが書いたネタや没ネタなどを、別館で細々と掲載します。どうぞよろしく。 アイコン卵酒秋刀魚さん。
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