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2019年09月18日

映画「クレオパトラ」-愛と野望の悲劇

「クレオパトラ」 (Cleopatra) 1963年アメリカ

監督ジョセフ・L・マンキーウィッツ
脚本シドニー・バックマン
  ラナルド・マクドゥガル
  ジョセフ・L・マンキーウィッツ
撮影レオン・シャムロイ
音楽アレックス・ノース

〈キャスト〉
エリザベス・テイラー レックス・ハリソン
リチャード・バートン マーティン・ランドー

第36回アカデミー賞/美術賞/撮影賞/衣装デザイン賞/視覚効果賞受賞

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世界史を彩(いろど)る絶世の美女クレオパトラ。
もちろん、写真が残っているわけでもありませんし、その容姿を実際に見た人は2000年以上昔に亡くなっているのですから、クレオパトラが本当はどんな姿かたちをしていたのかは想像するしかありません。

当時の硬貨にクレオパトラの横顔の肖像が使われていて、それほどの美女でもなかったようだ、後世の作り話として美女とされたという話もありますが、人を惹きつける魅力を持っていたことはたしかなようです。

美女の宝庫のようなハリウッド映画界でも、クレオパトラを演じられる女優はそういなかった中で、当時ハリウッドきっての美女エリザベス・テイラーが100万ドルという破格の出演料で古代の王女を演じたのですが、美貌はいうに及ばず、周囲を圧するカリスマ性、恋と野望に燃える戦乱の美女を存在感たっぷりに見せてくれました。




20世紀フォックスが社運を賭けて作り上げた壮大な歴史ロマン大作。
空前のスケールと堂々たる風格。
20万人を超えるエキストラなど、30年代から続いたハリウッドの黄金期に陰りが見え始めた中で、その底力を見せつけた超大作です。

でも、ひとつ気になるのが、シェイクスピアの戯曲「ジュリアス・シーザー」「アントニーとクレオパトラ」でよく知られた英語表記の名前シーザーは、現在ではユリウス・カエサルが主に使われるようになっていて、ラテン語のこの方が当時の発音に近いからという理由のようですが、映画の登場人物たちは「シーザー」と呼んでいるのに、字幕では「カエサル」であったり「ユリウス」であったりするのは、なんかヘンだな、と思ったりします。

歴史上の人物の名前は、作家や歴史家によって呼び方を変えられたりしますし、日本でも、小谷城の城主で織田信長の妹、お市の方の夫である浅井長政(あさいながまさ)が現在では“あざいながまさ”と濁音になったりしてますしね。

ここでは英語の表記そのままに「ジュリアス・シーザー」を用いることにします。


紀元前48年。
エジプト最後の王朝となるプトレマイオス朝は政局の混乱にあります。

そんな中でクレオパトラ(エリザベス・テイラー)は弟のプトレマイオス13世(リチャード・オサリヴァン)と共同統治を行いますが、プトレマイオス13世を支持する宮廷側近たちから疎(うと)まれはじめたクレオパトラは王宮から追放の憂き目にあいます。

一方、ジュリアス・シーザー(レックス・ハリソン)は「ファルサルスの戦い」で敵対するポンペイウスを破り、エジプトへ逃亡していたポンペイウス追討のためにアレクサンドリアへ入城します。

エジプトと信頼関係にあるローマ帝国の執政シーザーがアレクサンドリアに来ていることを知ったクレオパトラは、暗殺を恐れて絨毯の中に身を隠すという奇策を用いてシーザーと密かに会い、同盟と支援の後ろ盾を得ます。

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クレオパトラをひと目見たシーザーは、その美貌と知性に惹かれ、野望を秘めたクレオパトラはシーザーの愛人として同盟の結束を図ると同時にエジプトのファラオ(王)として返り咲きます。

イタリア半島を制圧し、覇権を拡大して強大な勢力となったローマ帝国の実力者シーザーでしたが、絶大な権力を手にしたことで独裁色を強めだしたシーザーに対して元老院は激しく反発。
信任の厚かったブルータスにも見限られたシーザーは元老院議員たちの手によって惨殺されてしまいます。

シーザーと共にローマに滞在していたクレオパトラは、シーザー暗殺を知るとエジプトへ帰りますが、シーザーを失ったローマは内政の混乱を深めていきます。

紀元前42年。
分裂したローマ帝国は自由主義・共和主義を標榜するブルータス(ケネス・ヘイグ)らが率いる軍と、シーザーの片腕として知られるマーク・アントニー(リチャード・バートン)率いる三頭政治側の軍が「フィリッピの戦い」で激突。

アントニーが勝利を収めますが、エジプトがブルータス側を支援していたことで、アントニーはクレオパトラとの会談に臨みます。

かつてシーザーを魅了したクレオパトラの美貌は色あせることなく、アントニーはその魅力に惹かれてゆき、クレオパトラもまた、軍人でありながら人間的弱さを持ったアントニーに惹かれ、二人は激しい恋に落ちていきます。

クレオパトラとの関係からアントニーはエジプトに接近。
ローマでは、シーザーの後継として頭角を現し始めたオクタヴィアン(ロディ・マクドウォール)が軍を掌握。

東のアントニー、西のオクタヴィアンと勢力が二分したローマは、紀元前31年、「アクティウムの海戦」で雌雄を決することになります。

クレオパトラのエジプトはアントニー側の支援に回りますが、結果はアントニー側の敗北となり、圧倒的なオクタヴィアンの勢力の前になすこともなくアントニーは自決を図りますが、急所を外れたために死にきれず、宮殿に閉じこもっていたクレオパトラの横で息を引き取ります。

アントニーの死を看取ったクレオパトラもまた、イチジクの籠に潜(ひそ)ませたコブラに腕を噛ませ、アントニーの後を追います。


4時間を超える超大作で、映画は前半と後半に分かれています。
前半ではシーザーとクレオパトラの出会いから、クレオパトラのローマ入城、ローマ帝国の内紛とシーザー暗殺へと、歴史的な流れを追って話は進みます。

見どころは何といってもクレオパトラのローマ入城です。
シーザーとの間に出来た息子(後のプトレマイオス15世)を横に従えて、周囲を圧する貫禄でローマへ入る場面は圧倒的なスケール。
この場面だけで何本かの映画を撮れるのではないかと思うような豪華で華やか、躍動感あふれる場面です。

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シーザー亡き後の後半へ入ると、前半でひ弱に見えたオクタヴィアン(実際に虚弱体質だったらしい)が徐々に実力をつけ、シーザーの片腕とされたアントニーとの確執と全面戦争へと展開していきます。

後半の最大の見どころは、オクタヴィアン勢力対アントニー派による“アクティウムの海戦”で、ギリシャの西、古代都市アクティウムを本拠地として、その沖合いで行われた海戦でアントニーは屈辱的な敗戦の憂き目に遭うのですが、コンピューター・グラフィックスなど使わない時代の撮影技術は素晴らしく、史劇を得意とする往年のハリウッドの面目躍如たるものがあります。


監督は、脚本家でもあり製作も手掛けるジョセフ・L・マンキーウィッツ。
監督としては「三人の妻への手紙」(1949年)、「イヴの総て」(1950年)などの女性を中心としたメロドラマに本領を発揮したものが多いです。

「クレオパトラ」前半でもシーザーとクレオパトラのラブロマンスに重点が置かれ、クレオパトラの野望がからんだロマンスが展開されています。

マーク・アントニーに「聖衣」(1953年)、「史上最大の作戦」(1962年)のリチャード・バートン。

オクタヴィアンに「わが谷は緑なりき」(1941年)、「マクベス」(1948年)のロディ・マクドウォール。
子役から出発したマクドウォールは、ジョン・フォード監督による「わが谷は緑なりき」のモーガン家の末っ子ヒューの愛らしい少年役が素晴らしく、学校で教師にいじめられたヒューを見た谷の人たちが憤慨し、学校に乗り込んで教師を殴り倒すシーンはジョン・フォードらしい浪花節的名場面で、名作「わが谷は緑なりき」の中にあってマクドウォールの愛らしさが際立っていました。

もう一人、マーク・アントニーの側近で片腕でもあるルフィオを演じたマーティン・ランドー。
「クレオパトラ」の前作「北北西に進路を取れ」(1959年)では悪役でしたが、アントニーの片腕として時には激しくアントニーに意見をするルフィオは、忠実な部下であり、また友人でもあり、最後には味方がすべてアントニーを離れていく中で、最後までアントニーに忠実であり続けて殺されるルフィオは日本のサムライを見るようで、特に印象に強く残りました。


リチャード・バートンとエリザベス・テイラーの不倫騒動や、製作上の不手際、撮影上のゴタゴタなど、何かと問題の多かった「クレオパトラ」ですが、舞台裏の話はちょっと脇へ置いておいて。

4時間を超える大作ですが、愛と野望の悲劇として必見の価値はあります。

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