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2019年07月05日
映画「ソイレント・グリーン」環境汚染と人口増加の未来
「ソイレント・グリーン」
(Soylent Green)
1973年アメリカ
監督リチャード・フライシャー
原案ハリイ・ハリスン
脚本スタンリー・R・グリーンバーグ
撮影リチャード・H・クライン
第2回アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞
〈キャスト〉
チャールトン・ヘストン エドワード・G・ロビンソン
チャック・コナーズ リー・テイラー・ヤング
2022年、人口増加と環境汚染による温暖化によって食料は枯渇し、住むところを失った人々が路上や建物に溢れ、“温室効果”による、むせ返るような息苦しさの中で生きる人々をよそに、一部の特権階級は高級住宅街のマンションで贅沢な生活を享受している激しい格差が生まれたニューヨーク。
本物の肉や魚、新鮮な野菜はなくなり、人々はソイレント社が作る“ソイレント・レッド”、“ソイレント・イエロー”などの高栄養食品で生き延びていました。
そして、さらに新製品として海中プランクトンから作る食料“ソイレント・グリーン”の配給が決定される中、高級マンションで殺人事件が起きます。
殺されたのは富豪の弁護士ウィリアム・R・サイモンソン(ジョセフ・コットン)。
ニューヨーク市警殺人課14分署のソーン刑事(チャールトン・ヘストン)が調査に乗り出し、殺人事件はチンピラの犯行と見せかけたプロの仕業とにらんだソーンは、サイモンソンのボディーガード、タブ・フィールディング(チャック・コナーズ)が手引きをしたと考え、タブの身辺の調査を始めます。
一方、ソーンの同居人で“本”と呼ばれる老人ソル(エドワード・G・ロビンソン)は、サイモンソンがソイレント社の委員会の重要人物であることを突き止めます。
ソイレント社の大きな暗い謎が次第に判明するにつれ、希少価値のプランクトンから作る“ソイレント・グリーン”は配給が滞るようになり、市民の間では怒りと暴動が広がり、混乱の中でソーンは何者かに命を狙われるようになります。
ハリウッドが得意とする近未来映画ですが、高度に発達したテクノロジーや、きらびやかな未来都市といったようなSF感あふれる世界ではなく、70年代から見た50年後はこうなのか、と思われる人口増加と環境汚染による食料問題と居住空間の悪化、そうした日常性が皮膚感覚に訴えるかのような暑く澱(よど)んだ空気感として伝わってきます。。
ベースとなったのはハリイ・ハリスンの小説「人間がいっぱい」。
急速な人口増加による食料不足や住宅の不足といった混乱の中で起きる殺人事件を、1999年のニューヨークを舞台に描いています。
出版は1966年なので、ほぼ30年後の未来を想定しています。
20世紀初頭に約20億人だった地球の人口は1987年に50億人を超え、国連の人口白書によれば2011年にはすでに70億人を突破しています。
だから世界的な食料不足に直面しているのか、というわけでもありませんし、現在の日本では食べられるのに捨てられている“食品ロス”は年間632万トンにのぼっています。
一方で、世界的には慢性的な栄養不足に苦しむ人々がアジアやアフリカで増加している現実があります。
食料危機の背景には政治的な問題があったり、干ばつや水害などの自然災害によるものがあったりします。
現在の世界では地球の温暖化による台風の大型化を始めとして、広範囲な赤潮の発生による水産資源の悪化、頻発する山火事、森林の砂漠化、熱波、夏の異常高温、河川の枯渇、海面の上昇による陸地の縮小、これらは今日的な問題でもあり、人々の生活と命を脅(おびや)かすものですが、中でも病害虫による作物への被害は深刻な食料危機になると予測されています。
「ソイレント・グリーン」の食料不足の背景のひとつとして環境汚染があります。映画的世界の話ですが、こういう世界になったらどうなるのだろうという、ちょっと怖い結末を迎える映画です。
人口が多いということは就職状況も厳しいわけで、刑事であるソーンは失業の不安を抱えながら、サイモンソン殺人事件を追いかけることになります。
この刑事ソーンは職権を利用しながら、手に入りにくい肉や野菜、サイモンソンの部屋から頂戴したバーボンなどをちゃっかりと持ち帰り、ソルとの食事を楽しむのですが、この場面は特に印象の深いものになっています。
本物の肉や野菜を目にしたときのソルの驚きと感情の高ぶり、バーボンを口にした歓び、すでに遠い過去になってしまった、当たり前の食事をする満ち足りた幸福感がよく表れていて、これは名優エドワード・G・ロビンソンの名演技によるものでしょうけど、失われてしまった人間らしい生活に涙するソルの心情がよく表現されたいいシーンでした。
あまりにも格差の激しくなった社会の中で、電気すら乏しい生活のソーンとソルは自転車を漕いで自家発電に頼るという、未来社会というよりは産業革命の時代に逆戻りしたような生活環境。
やがてソルは“ホーム”に入り、大自然の雄大な映像とベートーヴェンの交響曲第6番「田園」を聴きながら死を迎えるのですが、ソルの死はソイレント社の作る「ソイレント・グリーン」の秘密をソーンに暗示するものであり、その秘密を知ったソーンも凶弾に倒れることになります。
監督は「海底二万哩」(1954年)、「ミクロの決死圏」(1966年)、「ドリトル先生不思議な旅」(1967年)などの名匠リチャード・フライシャー。
チャールトン・ヘストンは「ボウリング・フォー・コロンバイン」(2002年)以降、全米ライフル協会会長として負のイメージがついてしまいましたが、「十戒」(1956年)、「ベン・ハー」(1959年)、「エル・シド」(1961年)などの史劇で見せた、たくましい男性像は、登場するだけでスクリーンに厚みがあります。
エドワード・G・ロビンソンは数多くの映画に出演していて、特に「キー・ラーゴ」(1948年)の貫禄たっぷりのギャングのボスがとても印象的だったのですが、「ソイレント・グリーン」が遺作になってしまいました。
1973年アメリカ
監督リチャード・フライシャー
原案ハリイ・ハリスン
脚本スタンリー・R・グリーンバーグ
撮影リチャード・H・クライン
第2回アボリアッツ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞
〈キャスト〉
チャールトン・ヘストン エドワード・G・ロビンソン
チャック・コナーズ リー・テイラー・ヤング
2022年、人口増加と環境汚染による温暖化によって食料は枯渇し、住むところを失った人々が路上や建物に溢れ、“温室効果”による、むせ返るような息苦しさの中で生きる人々をよそに、一部の特権階級は高級住宅街のマンションで贅沢な生活を享受している激しい格差が生まれたニューヨーク。
本物の肉や魚、新鮮な野菜はなくなり、人々はソイレント社が作る“ソイレント・レッド”、“ソイレント・イエロー”などの高栄養食品で生き延びていました。
そして、さらに新製品として海中プランクトンから作る食料“ソイレント・グリーン”の配給が決定される中、高級マンションで殺人事件が起きます。
殺されたのは富豪の弁護士ウィリアム・R・サイモンソン(ジョセフ・コットン)。
ニューヨーク市警殺人課14分署のソーン刑事(チャールトン・ヘストン)が調査に乗り出し、殺人事件はチンピラの犯行と見せかけたプロの仕業とにらんだソーンは、サイモンソンのボディーガード、タブ・フィールディング(チャック・コナーズ)が手引きをしたと考え、タブの身辺の調査を始めます。
一方、ソーンの同居人で“本”と呼ばれる老人ソル(エドワード・G・ロビンソン)は、サイモンソンがソイレント社の委員会の重要人物であることを突き止めます。
ソイレント社の大きな暗い謎が次第に判明するにつれ、希少価値のプランクトンから作る“ソイレント・グリーン”は配給が滞るようになり、市民の間では怒りと暴動が広がり、混乱の中でソーンは何者かに命を狙われるようになります。
ハリウッドが得意とする近未来映画ですが、高度に発達したテクノロジーや、きらびやかな未来都市といったようなSF感あふれる世界ではなく、70年代から見た50年後はこうなのか、と思われる人口増加と環境汚染による食料問題と居住空間の悪化、そうした日常性が皮膚感覚に訴えるかのような暑く澱(よど)んだ空気感として伝わってきます。。
ベースとなったのはハリイ・ハリスンの小説「人間がいっぱい」。
急速な人口増加による食料不足や住宅の不足といった混乱の中で起きる殺人事件を、1999年のニューヨークを舞台に描いています。
出版は1966年なので、ほぼ30年後の未来を想定しています。
20世紀初頭に約20億人だった地球の人口は1987年に50億人を超え、国連の人口白書によれば2011年にはすでに70億人を突破しています。
だから世界的な食料不足に直面しているのか、というわけでもありませんし、現在の日本では食べられるのに捨てられている“食品ロス”は年間632万トンにのぼっています。
一方で、世界的には慢性的な栄養不足に苦しむ人々がアジアやアフリカで増加している現実があります。
食料危機の背景には政治的な問題があったり、干ばつや水害などの自然災害によるものがあったりします。
現在の世界では地球の温暖化による台風の大型化を始めとして、広範囲な赤潮の発生による水産資源の悪化、頻発する山火事、森林の砂漠化、熱波、夏の異常高温、河川の枯渇、海面の上昇による陸地の縮小、これらは今日的な問題でもあり、人々の生活と命を脅(おびや)かすものですが、中でも病害虫による作物への被害は深刻な食料危機になると予測されています。
「ソイレント・グリーン」の食料不足の背景のひとつとして環境汚染があります。映画的世界の話ですが、こういう世界になったらどうなるのだろうという、ちょっと怖い結末を迎える映画です。
人口が多いということは就職状況も厳しいわけで、刑事であるソーンは失業の不安を抱えながら、サイモンソン殺人事件を追いかけることになります。
この刑事ソーンは職権を利用しながら、手に入りにくい肉や野菜、サイモンソンの部屋から頂戴したバーボンなどをちゃっかりと持ち帰り、ソルとの食事を楽しむのですが、この場面は特に印象の深いものになっています。
本物の肉や野菜を目にしたときのソルの驚きと感情の高ぶり、バーボンを口にした歓び、すでに遠い過去になってしまった、当たり前の食事をする満ち足りた幸福感がよく表れていて、これは名優エドワード・G・ロビンソンの名演技によるものでしょうけど、失われてしまった人間らしい生活に涙するソルの心情がよく表現されたいいシーンでした。
あまりにも格差の激しくなった社会の中で、電気すら乏しい生活のソーンとソルは自転車を漕いで自家発電に頼るという、未来社会というよりは産業革命の時代に逆戻りしたような生活環境。
やがてソルは“ホーム”に入り、大自然の雄大な映像とベートーヴェンの交響曲第6番「田園」を聴きながら死を迎えるのですが、ソルの死はソイレント社の作る「ソイレント・グリーン」の秘密をソーンに暗示するものであり、その秘密を知ったソーンも凶弾に倒れることになります。
監督は「海底二万哩」(1954年)、「ミクロの決死圏」(1966年)、「ドリトル先生不思議な旅」(1967年)などの名匠リチャード・フライシャー。
チャールトン・ヘストンは「ボウリング・フォー・コロンバイン」(2002年)以降、全米ライフル協会会長として負のイメージがついてしまいましたが、「十戒」(1956年)、「ベン・ハー」(1959年)、「エル・シド」(1961年)などの史劇で見せた、たくましい男性像は、登場するだけでスクリーンに厚みがあります。
エドワード・G・ロビンソンは数多くの映画に出演していて、特に「キー・ラーゴ」(1948年)の貫禄たっぷりのギャングのボスがとても印象的だったのですが、「ソイレント・グリーン」が遺作になってしまいました。