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《Gentleman》


登場人物一覧表


年表


千早 歴


柾 直近


麻生 環


千早 凪


潮 透子


不破 犬君


八女 芙蓉


杣庄 進


伊神 十御


青柳 幹久


志貴 迦琳


Gentleman


01話 【禁忌遊び】


02話 【騒き戻り】


03話 【鬼畜計画】


04話 【恋愛遊戯】


05話 【貴顕紳士】


06話 【萌え出づ】


07話 【姿情追い】


08話 【感情待機】


09話 【恋ふらし】


10話 【片趣なり】


11話 【匂ひ包み】


12話 【余裕無し】


13話 【特別扱い】


14話 【小心翼翼】


15話 【女郎回廊】


16話 【客観解析】


17話 【止事無し】


18話 【決別狂騒】


19話 【興味津々】


20話 【惑い出づ】


21話 【運命の女】


22話 【君知らず】


23話 【露の世に】


24話 【禁断の匣】


25話 【捲土重来】


26話 【夜半の嵐】


27話 【幕引きへ】


28話 【記憶の鎖】


29話 【告げる声】


Gentleman2


01話 【分岐点】


02話 【入社式】


03話 【一年目】


04話 【転換点】


05話 【綺羅星】


06話 【豆台風】


07話 【棚牡丹】


08話 【部外者】


09話 【依怙地】


10話 【空威張】


11話 【横恋慕】


12話 【蜃気楼】


13話 【蒲公英】


14話 【水面下】


15話 【花一匁】


16話 【遂行者】


17話 【目論見】


18話 【桐一葉】


19話 【五日話】


20話 【六日話】


21話 【七日話】


22話 【合言葉】


23話 【八日話】


24話 【九日話】


25話 【十日話】


Gentleman3


01話 【Tape Cut!】


02話 【Become Aware!】


03話 【House Dog!】


04話 【Silk Road!】


05話 【Of Course!】


06話 【Weak Point!】


07話 【Captured Butterfly!】


08話 【Walpurgis Night!】


09話 【Something Stimulating!】


10話 【Ursa Major!】


11話 【Three People!】


12話 【Children's Day!】


13話 【Secret Mission!】


14話 【Disappointed Love!】


15話 【Melting Vanilla!】


16話 【Toy Camera!】


17話 【Sea Change!】


18話 【Love Triangle!】


19話 【Ignite Gasoline!】


20話 【Since Then!】


21話 【Good Enough!】


22話 【Real Intention!】


23話 【Worrisome Heart!】


24話 【Unbosom Oneself!】


25話 【Make Of!】


26話 【After That!】


27話 【It's Scary!】


28話 【Be Careful!】


29話 【Take Measures!】


30話 【Feel Trapped!】


31話 【Execute command!】


32話 【Communication Gap!】


33話 【Clearly Perceive!】


34話 【Optimum Solution!】


35話 【Olive Branch!】


36話 【Detonating Agent!】


37話 【A Well-Wisher!】


38話 【Open Sesame!】


39話 【Over Protective!】


40話 【Dog Collar!】


41話 【Little Closer!】


42話 【Ladies & Gentlemen!】


43話 【Bring Together!】


44話 【In Person!】


45話 【Well Done!】


Gentleman4


00話 【捻くれた、感情の】


01話 【恋以外の、複雑な】


02話 【どの口が、それを】


03話 【私と貴方、平行線】


04話 【白山羊と、黒山羊】


05話 【水面下は、不穏で】


06話 【円卓会議、そして】


07話 【嫌い嫌い、大好き】


08話 【大切なら、素直に】


09話 【愛し抜く、と誓う】


日常編


G2 (―) 【青写真】


G2 (杣) 【茶飯事】


G2 (―) 【橋頭堡】


G2 (―) 【ーーー】


G3 (―) 【New Year!】


G3 (柾) 【Dark Past!】


G3 (柾) 【Forbidden Fruit!】


G3 (―) 【Various Men!】


G3 (犬) 【One Day!】


G3 (潮) 【Impudent Talk!】


G3 (―) 【Find Out!】


G3 (潮) 【I Gotcha!】


G3 (―) 【Fallin' Love!】


G3 (―) 【Who Cares?】


G3 (―) 【Sunny Tower!】


G3 (―) 【Russian Roulette!】


G3 (凪) 【Jerk Around!】


G3 (凪) 【Meow Meow!】


G3 (―) 【Lovey-dovey Couple!】


G3 (潮) 【Don't Apologize!】


G3 (邑) 【Brother Complex!】


G3 (―) 【Help Me!】


G3 (歴) 【Christmas Eve!】


G3 (―) 【Double Happy!】


G3 (―) 【Happy Valentine!】


G3 (―) 【Come Across!】


G3 (―) 【Canicular Days!】


G3 (―) 【Show Me!】


G3 (麻) 【Unrequited Love!】


G3 (―) 【Come On!】


G4 (青) 【社交的な、紳士然】


G4 (迦) 【過去から、未来へ】


G4 (―) 【遊びじゃ、ないの】


G4 (迦) 【たまには、甘える】


G4 (迦) 【計画的な、犯行ね】


誕生日編


01月01日 ■ 柾直近


01月04日 ■ 平塚鷲


02月05日 ■ 児玉絹


02月05日 ■ 児玉玄


02月13日 ■ 姫丸二季


03月14日 ■ 不破犬君


03月22日 ■ 麻生環


06月01日 ■ レオナ・イップ


06月02日 ■ 児玉菫


07月29日 ■ 伊神十御


07月31日 ■ 潮透子


08月06日 ■ 八女芙蓉


08月18日 ■ 志貴迦琳


09月01日 ■ 千早歴


09月07日 ■ 鬼無里因香


11月19日 ■ 五十嵐資


11月30日 ■ 青柳幹久


12月09日 ■ 杣庄進


12月11日 ■ 鬼無里火香


12月26日 ■ 千早凪


i NeeD Me


01話


02話


03話


04話


05話


Liar Wolf


01話


02話


03話


04話


05話


06話


07話


ファンタジー100


2020.02.20
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カテゴリ: Gentleman(日常編)

日常編 (―) 【Happy Valentine!】




「それはこっちのセリフだ」


*

2月14日、午後12時半。
昼休憩にありついた犬君が回転寿司店に入ると、店員からテーブル席での相席を請われた。
平日だが、チラシ広告が打たれた日とあって、ユナイソンネオナゴヤ店内は休日並みに賑わっている。
さらにこのお店自体が1皿85円のキャンペーンを行っていることも相まって、店からはみ出るほどの長蛇の列が出来ていた。
回転寿司といえば客の回転率は早い方だが、それでも昼時とあって席の確保は追い付かないらしく、犬君は二つ返事で了承したのだが。
「げ」
「うわ」
あろう事か、通された先には杣庄がいた。
「……店員さん、チェンジで」
「行っちまったぞ、馬鹿」
空の皿が2枚に、しょうが、湯呑み。杣庄も席に着いて間もないようだった。となると、しばらくは顔を向き合わせて食べるしかないだろう。
大人しく黙って食べればいいものを、テーブルに設置された注文用のタブレット端末を奪い合い、そのたびに言い争う格好となる。
口喧嘩の論点は次第にずれていき、今日がバレンタインデーということもあり、チョコレートの話題へと発展した。
「チョコの数だ? そりゃ減るだろ。彼女ができたんだから。誰も八女さん相手にしようなんて思わねーよ」
「ざまーみろです。僕は増えましたけどね、ふふん」
「透子とお前が結ばれるお伽噺なんざ、誰からも想定されていないからだろ。たくさん貰えてよかったな、モテ男」
杣庄は洒落た黒い紙袋を手繰り寄せた。中身を取り出すと、犬君に見せびらかすように、ひらひらと上下に動かしてみせた。
大きくはないが、小さくもない。手をパーに広げた程度の大きさだ。幅は5cmほど。その漆黒の箱は厳かに見え、決して安価には見えない。
「義理すら貰えないんじゃ俺の相手じゃねぇよな」
「まさかそれ、透子さんからとか言いませんよね」
「透子からだっつの。さっき貰った」
今日、透子とは2度ほど会話のやり取りをしている。プライドが邪魔をして、自分から催促はしていない。その実、淡い期待はしていた。
二人きりのタイミングを狙っての接触だったのに、チョコのチの字もなければ、何かを渡そうとする素振りも見受けられなかった。
――それなのに、ソマ先輩には既に渡しているだって? 義理なのに、あんなに立派そうなものを?
敗北感を抱かずにはいられなかった。己が惨めで仕方ない。
これまで何度も尋ねてきた。ソマ先輩を意識してるのではないのかと。そのたびに透子は怒り、「杣庄とはそんなんじゃない」と言い切った。
しかしである。待遇が明らかに違い過ぎやしませんか、透子さん。なんですか、あの黒い箱。あれ結構高そうですよ?
あぁ、太刀打ち出来ない――。本命とはいかないまでも、せめて義理だけでも。欲しかった。透子さんから。
「凹み過ぎだろ、お前」
お茶をすする杣庄が呆れ顔で犬君を見やる。その犬君からは、ずもももも……と黒い影のようなものを背負っているような気配すら感じられる。
児玉玄が見たら「祓いましょう」と言い出しかねない、ダーク極まりない落胆振りだった。
「きっと伊神さんも貰ってますよね……」
「あぁ、渡してた。俺より立派なものを」
――ちょっと。ちょっと待って下さいよ。一体何本刺してくるんですか。僕のライフもうゼロですから。あんたが貰ったって言った時点で既に。
「はぁ……」
「ご愁傷さん」
「……これが現実ですよね。奇跡が起きて、仕事終わった後にツンデレ口調で『ほら、早く受け取りなさいよ』なんて展開、ないですよね」
「透子ならあり得なくはないが、お前相手にそれをやるかと訊かれたら、答えはさて、どうだろうな?」
会話はそこで途切れた。二人からは、ただひたすら平らげ、空になった皿を積み重ねる音だけ。
お互い無言のまま皿の積み上がる高さを競っていたものの、杣庄が先におりた。
あぁ大人だな、と思う。ムキになって喧嘩をしかけてみたところで、相手は飄々とこなしてみせ、かつ綺麗に身を引いてみせる。
自分にはそれが出来ない。したいけれど。そんなオトナになりたいと憧れるけれども。
ふいにハッとする。いけすかない杣庄相手に憧れの念や嫉妬心を抱くなんて、どうかしてる――。
杣庄が店員を呼び、先に会計を済ませた。自分も既に満腹だし、同じタイミングで店を出ても構わなかったのだが、やめておく。
最後の一皿を取ろうと手が伸びる。掴んだそれは、サイドメニューのチョコレートケーキだった。
――甘いのは得意じゃないけど、やっぱり欲しいもんは欲しいよな。
ぱくりと頬張る。これが透子さんから貰えたチョコだったらよかったのに。


*

休憩時間は残すところ20分。バックヤードへ戻る途中、バレンタインの特設コーナーが視界に入った。
レジには青柳と柾が入っていた。当日に買い求める客は列をなし、忙しそうだった。
あの2人も沢山貰ってそうだが実際のところはどうなのだろうと考え、いや、バレンタインは個数ではないと思い直す。
それに、そういう考えは、自分にくれた人に対して失礼に当たるのではないか。チョコに込めた想いをもう少し大切に扱わねば、と思った。
――そうだ、チョコは想いなんだ。
透子さんが抱く、伊神さんへの想い。透子さんが抱く、ソマ先輩への想い。
そこに込められた想いの形というのは、感謝であったり、愛情であったり、友情であったり。さまざまなれど、どれも尊き感情だ。
――『チョコが貰えない理由』というのもあるんだ。
透子さんが抱く、僕への想い。想いが何もなければ、渡す理由もない。実に単純明快だ。
貰えなかったというのは、つまりそういうことなのだろう……。
トドメを自分で刺し、切なくなりながらもバックヤードへ戻る。ドライの詰め所へ行き、エプロンを着けていると、ノック音がした。
「はーい」
後ろ手にリボンを結び、廊下にいるであろう人物を出迎える。立っていたのは透子だった。
「とーこさん!?」
「な、何よ。何でそんなに険しい顔してんの?」
犬君の形相を目にした透子は半歩ほど後ずさる。
思わず期待してしまう。でも、既に二度も打ち砕かれている。これは三度目の正直? いや、そんな馬鹿な。
「え……と、青柳チーフに用とか?」
「青柳チーフ? 私が用あるのはあんただけど」
「よ、用って……」
「こないだ入力頼んできたアレ。拡大コピーしてって言ったのに通常コピーして千早さんに渡したでしょ。
数字が小さくて見辛いのよ。私がやり直すから原本渡してくれない?」
「はぁ……」
「ちょっと。人の話聞いてる?」
「聞いてます。聞いてますよ、はいはい」
言われた通り、入力に必要な書類一式を渡す。受け取った透子が中身を確認する。犬君はいても立ってもいられず、「透子さん」と名を呼ぶ。
「なに?」
「今日はバレンタインですけど」
「そうね」
「僕にはないんですか?」
ページを繰っていた透子の手がぴたりと止まる。
「ないって、チョコのこと? 欲しいの?」
マジマジと見つめる透子に対し、犬君はプライドをかなぐり捨て、真剣な面持ちできっぱりと言う。
「透子さんの本命チョコが欲しいです」
「本命って……。職場でそんなことさらっと言えるの、あんたや柾チーフぐらいでしょうね」
「僕まだ休憩中ですから」
「いや、そういう問題じゃなくてね……。あ、休憩中なの?」
「えぇ。1時半まで」
「ふぅん」
よくよく見ると、透子の胸にも休憩バッジが付いていた。
傍らにバッグが置いてあるところをみると、ここへは食堂へ向かうついでに寄ったのだろう。
透子はそのバッグに書類を収め、左右を見渡し人がいないのを確認すると、小さな袋を取り出した。
「ハッピーバレンタイン、不破犬君」
「え……」
いつものツンデレ口調じゃない。透子が伊神に話し掛けている時のような、優しく、元気な笑顔だ。
こんな表情で、こんな仕草で話しかけてくれること自体、稀である。しかも今日はバレンタインデー。これは夢だろうかとさえ思ってしまう。
犬君の動揺を知ってか知らずか――否、完全に知り得ないだろう。透子は自然な笑みを浮かべながら先を続ける。
「私のチョコ欲しいって言ってくれて嬉しかった。ありがと」
「……っ……!」
「私、これから休憩だから。じゃあね。あ、原本はコピーが終わり次第返すわ」
本命ですか? 義理ですか? このチョコには透子さんの、どんな想いが込められてるんです?
訊きたい。でも今は幸せで胸がいっぱいで、何も言葉が出て来ない。でもせめて。そう、そうだ、お礼だけでも。
「あのっ! 透子さん、ありがとうございますっ!」
「ホワイトデー期待してるから。3倍ね、3倍」
「3倍でいいんですか? 5倍にも10倍にもしますよ」
「重いわよ、馬鹿」
言いながら、くすくすと笑う透子を見送ったあと、紙袋を見た。そして中身を取り出す。
杣庄に渡したものとは全く別物のようだ。漆黒の紙袋でもなければ、漆黒の箱でもない。
自分に渡されたのは、真っ赤な紙袋に、真っ赤な箱。大きさは手の平ぐらい。だが、高さは10cmほど。
渡す相手によって、買う店を変えているとしか思えない。
それはつまり、1人1人の相手を想い浮かべながら、その人物に合った品を選び、贈っているということに他ならないではないか。
透子から真意は聞き出せなかったものの、犬君にはなんとなく、透子の想いが伝わってきたような気がした。


2013.02.13
2020.02.20 改稿





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Last updated  2020.02.20 21:52:23
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