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ますますそんな店に行かせたくなってしまう。
僕だけのものにしておきたいのだ。
「どうしても行かないといけないのか?」
哀願口調になってしまう。
「私だって、本当は行きたくないけど、
行かないといけないの。」
かぐや姫もさっきまでの強さがなくなってる。
「なんで行かなければいけないんだ?」
「わけは言えないけど、どうしてもなの。
だから、ついてきて欲しいの。」
目を合わせるのが辛いくらいに見つめる。
「わかったよ。一緒に行こう。」
僕が守ってやらなければと思う。
腕を組みながら、歩いていく。
足取りはつい遅くなってしまうけど。
やっと店に着くと、
「こんばんは。遅れてすみません。」
かぐや姫は明るい声で挨拶する。
うなだれて歩いていた彼女とは別人のようだ。
「待ってたよ。早速同伴か、やるねえ。」
僕までじろじろと値踏みされてる。
「新入りのかぐや姫だ。ほら、みんなに挨拶して。」
注目を浴びるかぐや姫。
その好奇の目をはね返すように、
「かぐや姫です。よろしくお願いします。」
と堂々と挨拶して、お辞儀する。
深々とするものだから、
かえって、気品が漂う。
それから奥の席に案内されて、
やっと人心地がついた。
「ここって、いくらくらいするんだろうね。」
声をひそめてかぐや姫に聞くが、
「そんなこと私だって知らないわ。」
と頼りない。
毎回ついてくるわけにはいかないし、
どうしたらいいのだろうか。
「ご注文は?」とボーイに聞かれて、
思わず「ウーロン茶」と
二人で一緒に言ってしまった。
顔を見合わせて、笑ってしまう。
ボーイは戸惑った顔をしていたが、
最初だから仕方ないと思ってくれたのか、
そのまま受けてくれた。
「酒にしないといけなかったかな。」
あまりこういうところに来たことがないんだよね。
酒にも強くないし、付き合いも苦手だ。
「いいんじゃないの? 何も言われなかったし。」
相変わらず無邪気なかぐや姫。
これで、フロアレディが務まるのだろうか。
「かぐや姫さん、ご指名が来てるのですが、
こちらに来ていただけますでしょうか。」
慇懃無礼に先ほどのボーイが呼びに来た。
早速指名とは、さすがかぐや姫だが、
心配だなあ。
僕では金にならないとボーイも思ったのか・・・。
まさかその席に付いていく訳にもいかないし。
「私は、こちらのお客様のお相手をしてるのです。
そちらはお断りしてください。」
毅然と言うかぐや姫。
「そうは言われても、困るんです。
顔見せとして、挨拶だけでもしてください。」
ボーイも容易には引き下がらない。
「では挨拶だけね。」
と言って、席から立ち上がる。
「すぐ戻ってくるから、待っててね。」
耳元でささやく声が甘く感じる。
「代わりに誰か来させましょうか。」
ボーイにそう言われたが、断る。
かぐや姫が気になるからな。
席はそう離れてないようだ。
通りすがりのかぐや姫を見て、指名したのだろうか。
耳を澄ませて、会話を聞こうとするが、
よく聞こえない。
トイレに行く振りをして、
近くの空いてる席に座ってしまう。
「君、新顔だね。
名前はなんて言うんだい?」
脂ぎった顔の男が、ねちっこく聞いてくる。
「かぐや姫です。」
「珍しい源氏名だね。」
「源氏名ではなく、本名よ。」
おいおい、そんなこと言っていいのか?
僕はあせってしまった。
「こりゃすごい。冗談でも、
こんなハッタリ聞いたことないよ。
面白い子だな。気に入った。」
大笑いしてるので、受けてしまったらしい。
「本当なのに。」
少し拗ねたように言うかぐや姫。
「わかった。もういいから。
かぐや姫に逢えた記念に、
ボトルを入れてやろうかな。
何がいい?」
「一番高いのお願いします。」
「また度胸がいい娘だな。」
目を見張っているが、悪い印象ではないらしい。
可愛いと許されるものなのだろうか。
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