《 幸せのひろいかた 》  フェルトアート・カントリー木工 by WOODYPAPA

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2009年12月22日
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途中まで降りたものの、疲れと寒さで足がすくんで動けなくなったジャックの耳に、かすかに人の声が届いた。

「がんばれージャック」

誰かが僕を応援している。

それも一人じゃない。

大勢の声だ。

下が見れないジャックは、とにかくその声を励みにして、又、一歩一歩降り始めた。

小一時間ほどそれが続き、疲労困憊ようやく地上に戻った。

「母さん、母さん、僕、行ってきたよ、ほら、金貨がこんなに―」

ポケットから金貨を出して見せると、村人から歓声が上がった。

「ジャック!どうしたんだこれは!金貨があるのか、雲の上に!」

「うん、たくさんの金貨が降ってくるんだ」

あわてて口をふさごうとした母親だったが、遅かった。

ジャックの言葉を聞くが早いか、村人が次々豆の木を登りだした。

「あ~だめだよ、皆さん、雲の上にはなんにもありませんよ~。この子はちょっと頭がおかしいんです~」

村人はそんな声にはかまわず、次々と上っていく。

「あ~ばかだねこの子は。みんなに盗られちまうじゃないか」

「大丈夫だよ母さん、金貨はすんごくあるから。それに、金色に輝くハープが、次々と金貨を降らしてるんだ」

「金色に輝くハープだって?」

「そうだよ、金貨も降らすけど、いい音も出すんだ。金貨はその音に合わせて、踊るように降り注ぐんだ」

「ジャック!それは、爺ちゃんが言っていた魔法のハープだよ!悪い魔法使いに騙されて盗られちゃった我が家の家宝だ」

「え~、うちにあったの?」

「そうだよ。確かに爺ちゃんに聞いた。そんなところにあったとは…。ジャック!もう一度上って行って、魔法のハープを取り返しておいで!」

「え~!!もう一度登るの~?」

「あたりまえだろ、うちの宝なんだよ。あのばかどもに横取りされちまうじゃないか」

「だって、母さん、僕もうくたくただよ。それに登るのはいいけど、降りるときはめちゃくちゃ怖いんだ」

「ジャック!いくら怖いって、今の母さんより怖いものはないはずだよ!」

ぐっと近づけてきた母親の顔は、言葉通り怖かった。

すると、一転、にっこり微笑んで、

「おまえが頼りなんだから。母さんにはお前しか居ないんだよ。おねがいだよ~」

猫なで声で頼んできた。

と思ったら急に、

「お~いおいおい…たった一人のかけがえのない母さんが、こんなに頼んでも、おまえって子は…こんな恩知らずだったなんて…」

今度は泣き落としに来た。

「わかったよ母さん。僕行くよ。がんばるよ」

泣き伏せていた母親が、にっこり笑ってジャックを抱きしめた。

「いい子だ。おまえは、やっぱりいい子。私の子。がんばって来るんだよ―」

ジャックは大きく頷いて、颯爽と登り始めた。

雲の上は大騒ぎだった。

村人が、手に手に金貨をつかみ、よだれを流して喜んでいる。

その歓声の渦の中に、ジャックはようやくたどり着いた。

と、なんとひとりの村人が、金貨の山を登り、金色に輝く魔法のハープに、手をかけようとしているではないか。

「あっ、ダメだ、さわるな~」

と言おうとしたら、

「やめて~たすけて~」

それはすさまじい金切り声が、四方に響き渡った。

声の主は、金色に輝くハープ自身だった。

手にかけようとした村人は、驚いて金貨の山を転がり落ちた。

同時に、なんとハープも転がり落ち、ころころ転がって、ジャックの足元で止まった。

ジャックとハープは目があった。

すると、今度は地の底から響くような太い大声が、あたりに響き渡った。

「だ~れだ~!だ~れが、そこに、いるのだ~」

ほこらの奥の大きな扉が、地鳴りと共に開き、そこに身の丈十倍ほどの巨人が立っていた。

村人は、恐怖に目を見開き、悲鳴を上げて逃げ始めた。

「こら~!まてい~!」

待て、と言われると、人はますます逃げ足が速くなり、一斉にもと来た豆の木にしがみついた。

そこで、村人は、ジャックがそうであったように、あまりの高さに怯え、立ちすくんだ。

が、今度は後ろからどんどん人が押してくる。

押された村人は、豆の木に掴まることも出来ず、つぎつぎ空中へ投げ出されていった。

投げ出された人々は手足をばたつかせたが、急に鳥のように飛べるようになるはずもなく、地上に向かって、かき集めた金貨と共に、ひらひらと落ちていった。

ジャックは一人、逃げ出さずに立ち止まっていた。

勇気があったわけではない、ただ逃げ遅れたのだ。

「だ~れだ~おまえは~」

巨人はジャックに向かって言った。

「ジ、ジャック、―ジャックです」

「なぜ、ここに、いる~」

「あっ、あの木を登って来たら、ここに来ました―」

巨人は雲をつきぬけそそり立つまめの木を見た。

「こんな、わるさを、しおって―。よからぬまほうつかいの、しわざだろうー」

「あの、僕は、魔法使いに、牛を売って、その代金を、取りに来ました。そして、貰いました、金貨を。だから、それは、牛の代金だから、いいはずですけど―」

巨人は長く垂れ下がった前髪の奥の目で、ぎろりとジャックを見た。

「そんな、うしのことは、しらん。このきんかは、まほうつかいのものではない。きんかをかってにもっていたのなら、かえしなさい」

「え~、だって、魔法使いが……。それに、このハープは、もともと、うちのものだって、うちの家宝だったんだって…」

「かほう?だれが、そんなことを」

「僕の母さんです」

「それも、ちがうな。このはーぷは、わしのものだ。むかし、いっときだけ、まほうつかいにぬすまれたことがあったが、おどかしてとりもどした。そのとき、なにかおもいちがいをしたのだろう」

「でも、母さんが…、どうしよう…」

「きんかは、はーぷがかってにだすもので、わしには、なんのかちもない。―ここまで、のぼってきた、おまえのゆうきにめんじて、くれてやる。―だが、はーぷは、だめだ。きんかをだすはーぷが、ちじょうにあったら、どんなことになるか。さっき、おちていった、ものどもをみればわかるだろう。よくふかき、にんげんには、わたせない。―これは、おまえを、しあわせにはしない―」

巨人の言うことは、真実味があり、騙したのは、魔法使いの方だとジャックにも解った。

だけど、ジャックは、目の前のハープをどうやって持って帰るかしか頭になかった。

「お願いです。このハープを、母さんに見せたいんです。一目見せたら、必ずまた持ってきます。だから、少しの間、貸してください」

巨人は、すこし黙っていた。

お願いです、お願いです、両手を合わせ、目をぎゅっとつぶり、ジャックは祈った。

「ははおやに、みせたら、すぐもどすのか―」

「はい、一目母さんに見せて、僕が嘘をついてないって解ってもらったら、今の説明をして、返します」

「ははおやが、かえさないといったら?」

「僕が、母さんを説得して、ちゃんと返します」

自信はなかった。

「それなら、できるかどうか、やってみるがいい。にんげんが、よくにかてるか、どうか、みてやろう」

ジャックの目が輝いた。

ハープを背中にくくりつけ、母の待つ地上へ向かう。

今度は二度目だから、怖さも半減している。

頭の中で、母親に言う台詞を考えていた。

このハープは、天に住む巨人のもので、我が家の家宝ではない。

たまたま何かの都合で、我が家にあったのかもしれないが、それは、魔法使いが巨人を騙して盗ったもので、結局その魔法使いは巨人に返した、我が家の家宝は、魔法使いに騙されたのではなく、返したのだと。

説明の段取りを考えてみたが、あの母親がそれで納得するとは思えない。

かといって、ハープを持って帰らなかったら、さらなる悲劇がジャックを襲うはずだ。

やはり、ここまでの行動は、間違っていないと信じよう。

あれこれ考えていると、ハープが不意に話しかけた。

「お前の家の家宝だったってのは、うそだな」

「えっ?何でそういえるの?」

「おいらが居たのは、王様のお城だ。お前の爺さんは、その家来だ。誰かが、話しを作り変えたんだな」

言われてみると、ジャックのお爺さんが王様だったなんて話は聞いたことがない。

王様でもないのに、魔法のハープを持っているのはやっぱり変だ。

母さんは、騙されてたか。

それとも、母さんはそれを知ってて、僕に嘘をついたのか。

「それから、言っとくけど、おいら地上では金貨をだせないからね。天上だと気持ちよく音が金貨に変わるけど、地上だと人間の欲が邪気を出すから金貨にならないんだ」

あ~又説明しなくちゃならないことが増えてしまった。

「それと、巨人がさっき、おいらは巨人の物だって言ってただろ。あれも、ちょっと違うんだな」

「えっ?どういうこと?」

「おいらを作ったのは、魔法使いで、欲がない人間の前では金貨を出すように魔法をかけたんだ。だけどそんな人間は居なかった。おいらは純粋に音楽を奏でたいんだけど、欲に駆られた人間に試されてばかりで、うんざりしてるところを、あの巨人が助けてくれたんだ。天上に行ったらあんなふうに好きなだけ奏でられたから、おいらにはよかったけどね」

ジャックの頭はこんがらがってきた。

結論が出ないまま、ジャックは地上にたどり着いた。

そこには、ジャックが初めて見る母親の姿があった。

なんと、あの母親の目から、ぼろぼろと涙が零れ落ちているではないか。

「おおジャック。よく戻ってくれたねえ。空からたくさん人が落ちてきたよ。母さんが悪かった。怖い思いをさせてしまって」

自分の生還を、涙を流して喜んでくれる母親に、ジャックは戸惑いもあったが、今まで感じたことのない喜びを味わった。

「母さん、僕ね―」

ジャックの声がつまり、言葉が続かなくなった。

すると、聞き覚えのあるしわがれた声が、

「ほほう、魔法のハープを盗んで来たのか。見かけによらずたいした奴じゃ」

魔法使いだった。

「違うよ、盗んだんじゃない。巨人に借りたんだ。母さんに見せるため」

今、涙を流して自分を抱きしめている母親が、魔法のハープと聞いてどう反応するか不安がよぎった。

しかし、あんな嘘までついて、ジャックに危険な思いをさせた母親が、意外にも興味を示さない。

「おい、どうした。お前が欲しがっていた、金貨を出す魔法のハープじゃぞ」

「ジャックごめんよ。母さんが悪かったよ。ハープなんて要らない。お前が無事に帰ってきてくれれば。欲に駆られて、自分をなくしていた母さん恥ずかしいよ」

「母さん、僕こそゴメンよ。母さんのこと、ちょっと信じてなかった」

魔法使いは二人の様子を見て頷いた。

それから、長い杖を空に向かってまわし、呪文を唱えた。

ハープに閃光が走り、それが豆の木に伝わり、共に消えた。

豆の木が消えると、あちこちで人の声が聞こえた。

空から落ちた村人が、頭を振り振り起き上がった。

「村人は何も覚えていない。今日のことはお前達親子の秘密にしておけ。ちょっといたずらが過ぎたかも知れんので、お詫びに贈り物じゃ」

魔法使いが杖を振った先に、牝牛が立っていた。

昨日売ろうとした老いた牛ではなく、若い、これから何年も乳の出る牝牛が。

驚くジャックが、我に帰ってお礼を言おうとしたときには、すでに魔法使いの姿はなかった。






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最終更新日  2009年12月22日 22時24分14秒 コメントを書く
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