オグ・マンディーノは"小説家"と言うより"自己啓発書作家"である。
娯楽として読書を楽しむ方には、少々 凭 れるかもしれない。
自己啓発系の本が好きだという同僚の"読み友達"であるN子さんにお勧めを訊かれ、頭に浮かんだのが、世界で700万部以上売れたという『この世で一番の奇跡』。
ナポレオン・ヒルやスティーブン・コヴィーでは、あまりにビジネス系で、20代の彼女にはふさわしくないと思ったからだ。
この本は、オグ・マンディーノの2作目で、1作目は『世界一のセールスマン(邦題・地上最強の商人)』。
こちらは未読である。
なぜなら、1万290円という宝石のような高価本なのだ。
しかし、2作目は1作目の続きになっている構成なので、1作目の内容がわかる仕組みになっている。
高くて手が出ない『世界一のセールスマン』のエッセンスを嗅ぎながら、新しい物語を楽しめる。
主人公はオグ・マンディーノ自身、であるけれど私小説ではない。
体験談に見せ掛けた寓話である。
ある吹雪の日、マンディーノが駐車場で立ち往生していた時、鳥にエサをやる長髪の老人に出会う。
「年はとっていますが、こう見えてもわしは力持ちなんですよ。それに、あなたが困っているのにほっとくわけにはいかんでしょう。『すべての高貴な仕事は最初、不可能に見える』とカーライルは書いています」
教養深きヒッピー風老人は、この危機を救って消えてしまう。
次に会ったのは春の終わり、同じ駐車場で、お互いに名乗り、老人は自分のアパートにオグを招待する。
そこで山のようにつまれた蔵書を見た。
「読書して・・・考えること以外、老人になにができるでしょう?どうぞ、お楽に。シェリー酒を注いできますから」
不思議な老人との交際が始まり、"この世で一番の奇跡"とは何かと言う"謎"が繰り広げられる。
『世界一のセールスマン』をあてる以前のオグ・マンディーノは、深い人生の穴に落ちていた。
挫折、借金、失業、離婚、アルコール・・・希望のない放浪生活。
質屋のウィンドウには29ドルのピストル。
「この銃がすべてを解決してくれる。・・・それで鏡の中の惨めな敗北者を二度と見ないですむ」
自殺が脳裏をよぎるが、しかしピストルは買わず、気づいた時には図書館の前にいた。
この朝を境にマンディーノの人生は大きく変わる。
成功哲学の偉大な巨匠の本を読み漁ったのだ。
その時の経験であろう、様々な 薀蓄 がこの物語の中でも繰り広げられる。
ウィル・デュラントの『シーザーとキリスト』、ジブランの『預言者』、プルタークの『英雄伝』、フルトンの『神経系の生理学』、ゴールドシュタインの『生体の機能』、アイズリーの『予想外の宇宙』、セルバンテスの『ドン・キホーテ』、アリストテレスの『形而上学』、フランクリンの『自伝』、メニンガーの『人間の精神』、ケンピスの『キリストにならいて』、そのほか『タルムッド』、何冊かの聖書・・・。
「そうです。それぞれの本は独自の方法で、"この世で一番の奇跡"のある面をあつかい、説明しているのです。ですから、これらの本をわしは"神の手"のかかった本と呼んでいます」
「ミスター・オグ、わしらのほとんどは自分自身を閉じこめる監獄を作るのです。一定の期間、その中に住んでいると、その監獄の壁に慣れてしまい、人生とはこんなものだという信念にとらわれるやいなや、人生をなんとかしようとか、夢を実現しようという希望をすててしまいます。あやつり人形になり、生きながらの死に苦しめられるようになるのです」
「ミスター・オグ、あなたはすでに一つの事実を忘れておられるようです。わしはこれらの人びとを生き地獄から引っ張りだすのだということです。彼らはすでに人生を捨ててしまっているのです。自分を救う道はないと確信しているのですよ。だから、救いの手を差しのべられれば、喜んでそれにしがみつくでしょう。それは希望の手なのです」
物語の核心は第9章に集約される。
老人の発見した人生の病を解決する四つの法則『神の覚書』が明かされる。
ネタバレになってしまうのだが、まとまりがつかないので、最後の部分を書き写してしまおう。
ここにいたる物語の展開に興味を持った方は、本書を読んでください。
今日のこの日を楽しみなさい。
明日は明日、楽しめばいいのです。
あなたはこの世で一番の奇跡をなしとげたのです。
生きながらの死から蘇ったのです。
もうこれ以上、自分を憐れまないでしょう。
毎日が、挑戦となり、喜びとなるでしょう。
あなたはふたたび生まれ変わったのです。
でも、以前と同じように、失敗や絶望を、あるいは成功や幸福を選ぶことができます。
選択はあなたにまかされています。
選択するのはあなただけなのです。
わたしは前と同じように、誇らしく、あるいは悲しみながら、見つめていることしかできません。
では、ここで幸福と成功の四つの法則を思いだしてください。
自分の恵みに感謝しなさい。
自分のかけがえなさを主張しなさい。
自分の枠を超えなさい。
選ぶ力を賢く用いなさい。
そして、もう一つ、以上の四つを実現するために必要なことがあります。
自分自身への愛、他者への愛、そしてわたしへの愛をもって以上のことをやり抜くということです。
涙をぬぐいなさい。
手を伸ばしてわたしの手をつかみ、背筋をピンと立てなさい。
あなたを縛ってきた墓場の衣装をわたしに切り裂かせてください。
今日あなたは知らされました。
自分こそ、「この世で一番の奇跡」であることを。
オグ・マンディーノの作品は、キリスト教に 造詣 が深くないと馴染めない部分がある。
世界の知名度と、日本のそれとの差があるのはそのためだろう。
僕がオグ・マンディーノの作品で一番好きなのは『十二番目の天使』で、日本ではこちらの方が有名なのでは。
N子さんには2冊貸してあげようと思う。
近藤誠著『「健康不安」に殺されるな』 2023年04月15日
ダニエル社長著『コロナと金』 2022年09月27日
ジェフリー・ケイン著『AI監獄ウイグル』 2022年02月05日
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