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マジック・ザ・メイカー1話 ―大阪府交方(かたかた)市大阪の中心街から離れた都市。主要道路と電車で中心部へは30分もかからない為、人気がある。高級マンションから大小の住宅、老若男女がバランスよく住み治安も良い。インフラの整備もなされ、他の市からも参考にされている。一つ難があるとすれば『交方市の生活に慣れる事』である。 人の欲にはキリが無い。「もっと、もっと、いい生活を!もっと楽しい事を!」求める事は悪ではない、欲無くしては成長は望めない。しかし成長には限界が来るもの。永遠に続く成長などはありはしない。交方市の都市としての成長は既に停滞しつつある。だがそこに住む人は……「おはよう……」 本郷晴凛(せりん)は交方市立高等学校の制服に着替え1階のリビングに降りてきた。「おはよう晴凛。早く食べちゃいなさい」 晴凛の母親は淡々とコーヒーをマグカップに注いで言った。「お父さんは?」「……行ったわよ」「そう……」 晴凛は席の前に置かれた折りたたまれた新聞を見てつぶやいた。顔を洗った晴凛は自分の席につきトーストをかじりコーヒーを飲んだ。去年までは家族三人揃って朝食を食べ、他愛のない会話をして朝の時間を過ごしていた。晴凛はその事を思い出しながらサラダを口に運ぶ。「(どうしてこんな暗い家になったんだろう……)」 晴凛は父親とも母親とも仲が良い。だが父親と母親はそうではなかった。二人はもう半年ほどまともに会話をしていない。「晴凛、今日は少し遅くなるからね。晩御飯までには帰ってくるから」「うん……」 晴凛は今日も母親に不仲の原因を聞けないままでいた。朝食を終え支度を済ませて玄関を出る。「イッテラッシャイマセ、セリンサマ」 家を管理している人工知能のマーサが晴凛に挨拶をした。マーサは最新のモデルで交方市の新興住宅に導入されたばかりであった。家のセキュリティはもちろん、電気、ガス、水道の管理、空調、照明を管理。家族の要望にあわせて家事にも対応する。「いってきまーす」 晴凛は歩いてバス停に向かう。携帯電話を取り出し同級生との他愛の無いメッセージの交換、お気に入りのサイトの巡回をしながらバスを待つ。「……ちょっとアンタ」 晴凛は不意に後ろから声をかけられた。驚いて振り返るとそこには黒髪に紫色のメッシュ、濃い目のメイク、胸元を大きく開けたシャツ、イアリング、ネックレス、ブレスレットなどのアクセサリーを多数身に付け10cm超えのヒールを履いた年齢不詳の女性が立っていた。「は、はい」「ここのバスいつも時間通りに来おへんの?」「え?そ、そうですね。(わぁ……今時こんなコテコテな言葉使う人リアルで初めてだぁ)」「なんで来られへんのに時刻表に書くんやろな?アンタのその制服どこの学校?」「葛ノ葉高校ですけど」「ふーん……知らんわ。だって昨日ここに越して来たんやしな。なぁなぁ最近はどこ行ってもロボットロボットで便利ちゅうか余計めんどくさいちゅうか~そう思わへん?こないだこの近くのコンビニ行ったんやけどな、無人やねん。誰もおらん訳ちゃうで?ロボットの店員はおるねん、なんや可愛らしい声でな、せやけど新幹線見たいな顔しとって全然表情わからんのよ。今日も暑いなーとか言うたら『今日の最高気温は31度です熱中症にご注意ください』とか言いよんねん。世間話も何もあらへんわ」「は、はぁ……」「あ、せや飴ちゃん食べる?チョコミント味のチュッチュポップやけど」 女性は棒付きのキャンディーをカバンから取り出して晴凛に渡す。「はぁいただきます」 晴凛は早速チョコミントキャンディーを口に運ぶ。「そうや名前言うてへんかったねぇ。アタシは立花冥珂(めいか)。冥界の冥に那珂の珂で冥珂やねん。お嬢ちゃんは?」「本郷晴凛です」「へぇ~晴凛ちゃん言うの。まぁ可愛らしい名前やこと、アンタにぴったりやな。ゴメンなアタシばっかり喋って」 立花冥珂はカバンからキャンディーを取り出し口に放り込んだ。「あの……立花さんはこれからどこに?」「下の名前でええよ。苗字で呼ばれるのあんま好きちゃうねん」「じゃあ冥珂さん」「どこに行くと言うよりもバスに用事あんねん。アタシはバイク持ってるしわざわざバスなんてもん乗らんでもぱーっとどこでも行けるし」 なるほど、この派手な格好はそっち系だからと晴凛は勝手に納得した。「バスに用事ですか?」「実際に乗る必要があるんよ」 しばらくするとバスが到着した。黒塗りで白と緑のラインが入った交方市の市バスである。ステップに足をかけ先に乗り込む冥珂。周囲を見渡して一番後ろの空いている席に腰を下ろす。晴凛はそのすぐ前の一人席に座る。「晴凛ちゃん、このバスいつもこんな感じなんかな?」「え?こんな感じとは?」「いつも見かける客とか運転手とかそういうのやねんけど」「そうですねぇ……うーんいつも携帯いじってるんでよくわかりませんね」「……そうかぁ。ん~……晴凛ちゃんこのバスはこの位の客の数かな?」「そりゃあいっつも10人くらいしか乗ってないですしね」「へぇ……なるほど、10人くらいねぇ~」 冥珂はキャンディーを噛み砕いて棒を自分の携帯灰皿の中にねじ込む。晴凛は質問の意味が分からず首をかしげた。「あと何駅くらい乗るの?」「5つですね」「バスに乗らないと通学できひんのかな?」「できますけど自転車は天気悪いと困りますし学校にはバスで申請してますしね」「しばらく自転車通学にしてくれへん?なんでかは色々片付いたら教えたげるし」「えー……大した理由も無しに通学方法変えれないですよ」「痴漢が出るとか適当に言っといて。もしそんなん認められへんとか言いよったらアタシが学校に言いに行ったるわ」「いやいや冥珂さんおかしいですよ。どうしてそこまでするのです?」 痴漢なんて言ったら大ごとになるし、そもそもされてもいないのに騒いだりしたらとんでもないことになりかねないと晴凛は思った。「それだけの理由があるっちゅうことや」 バス停で止まったバスはサラリーマンの客を一人載せた。「……冥珂さんて何してる人ですか?」 勝手に想像はしているものの気になって晴凛はついストレートに聞いてしまった。「そうやなぁ色々やっとるけど……あえて言うなら占い師かな。ほら名刺」 黒い名刺には立花冥珂の名前と占い館レヴィとだけ書かれていた。「この名刺住所とか電話番号書いてないですけど?(あやしい……)」「せやねん、でもそれでいいんよ。持っとくことが大事やねん」「??」「晴凛ちゃんは近いうちに来る事になるかもしれんよ」 冥珂は革製のカバンからタロットカードをちらりと晴凛に見せた。「そのカード……」「タロットカードは知ってるやろ?」「ええ、そのカードなんというかすごいですね。見てるだけでパワーを感じます」 冥珂の取り出したタロットカードはよく雑貨店で見るものや、晴凛の持っている雑誌の付録のものとはまるで違った。例えるならいつも食べている家のハンバーグ、たまに外食で食べる高級ホテルのコース料理についてくる肉料理。その時受けた圧倒的な差のようなものを冥珂のカードに感じた。「へぇ~そう感じる?せやねぇじゃあ一枚引いてみて晴凛ちゃん」 冥珂はタロットカードを扇状に広げて両手で持つ。晴凛は直感で一枚のカードを引き抜いた。甲冑の騎士を4頭のスフィンクスが引いている絵。『戦車』のカードであった。「戦車ね」「えっと……冥珂さんこのカード引いた意味は?」 占いは嫌いではないのでタロット占いはやったことがある晴凛。カード自体の持つ意味はなんとなくふわっと覚えてる程度である。「勝利、全身、コントロール。イケイケドンドンで前向きに問題に立ち向かうのが良い。晴凛ちゃん何か悩んでることがあってどうして良いか迷ってるんちゃう?」「そう……かもです」 晴凛は両親の事を頭に思い浮かべた。「ちなみにアタシが今朝引いたカードはこれ、魔術師」 カードを取り出す冥珂。その時バスが急停車、座席から投げ出され転げる晴凛、冥珂は前方宙返りで着地した。他の乗客は全て倒れ運転手はうなだれている。「痛ったぁ……何が起きたの?」「どうやらアタシの探してるものが向こうから来よったみたいやね」 カバンから宝石で装飾されたコンパクトを取り出す冥珂。晴凛を片手で抱えて起き上がらせてコンパクトの鏡を覗かせる。「え?ええええ?なんなんですコレ!?」 バスの外に黒いもやが写っていた。もやの顔はフクロウ、手には剣、大きな狼にまたがっていた。コンパクトから目を離し振り返る晴凛、バスの外には何も見えない。コンパクトの鏡には写っている。「アレはものすごい悪いものやね。見ててな晴凛ちゃんこのコンパクトはこうやって写すものだけじゃないんよ?例えばこう呪文をな『テク……マ』じゃなくて!『オロロンチョチョパー』って呪文を唱えてやれば~」 コンパクトの鏡から緑黒のツルが飛び出して冥珂をあっという間に包み込む。ツルはつなぎのライダースーツへと姿を変えた。「ハァイ!!変身かんりょう!!」「ええええええええ~!?」「晴凛ちゃん伏せといてや~セエエエイ!!」 飛び蹴りでバスの窓を突き破って外に飛び出す冥珂。晴凛はあっけにとられたままバスの座席にしゃがみこんで隠れながら冥珂の様子を眺める。「あのもやの本体は……近くにおらんみたいやな」「コルルルルルルルルルル……」狼に乗ったフクロウ顔のソレは剣を構え冥珂と対峙する。「グルアアアアアアアアア!!」「14のアート!!」 冥珂に向かって突進、冥珂はフィギュアスケートの選手を思わせるスピンジャンプで回避。着地と同時に『大アルカナ14番のアート』のタロットカードを地面に投げつける。「クルルルルアア……」 アートのカードが落ちた箇所から地面はぬかるみ、狼の足を捕らえる。「次はコレ!剣の10!」 冥珂は続けてカードを取り出す。『剣10番の崩壊』のカード。フクロウ頭の上に10の火の玉が出現、火炎弾を雨のように浴びせかける。「ググググググアアアアアアアアアアッ」 爆炎を上げるフクロウ頭。「ここで『やったか!?』とは言わへんよ?」「クアアアアアアアアアア」 フクロウ頭は狼から分離、体を燃やしたまま羽を生やして跳躍する。「逃がさんで!」 指を鳴らすと上空からほうきが出現し冥珂の目の前に落下。それを蹴り上げて空中に静止させて飛び乗る。「クアックアアアッ!!」 上空へと逃げるフクロウ頭、冥珂はスケートボードの要領でほうきを足で操作して追いかける。「くらえ!剣の6!!」 『剣6番科学』のタロットカードから6本の剣が現れ剣先を合わせる。剣は六芒星の光の魔法陣となる。「落ちろー!!」「クアアアアアアアアアアアアアアアアア」 青白い閃光が周囲照らす。放たれたのは光砲。フクロウ頭は体を粉々に散らせて消滅する。冥珂はほうきを足で操りバスの屋根に着地。割れた窓から車内に飛び込んだ。「ま、ざっとこんなもんやな!」「ええ~……」 目を見開き硬直する晴凛に構わず、冥珂はウインクをするとソーダ飴を取り出し空中に放り投げて口でキャッチする。「んが、ぐぐ……」「ちょっと冥珂さん大丈夫ですか!!」 背中を叩いて飴を吐き出させる晴凛。「ああ~今のはホンマに危なかったわ……晴凛ちゃんおらんかったらどうなってた事か」「あんな化物と戦った人が飴で死にかけるとかやめてくださいよ……」「あはは……」「聞きたいことはいっぱいあるんですけどこの状況どうするんです?警察でも呼んだ方がいいですかね?」 晴凛は倒れてうめいているいる乗客を見ながらそう言った。「せやねぇ……事故扱いになるやろうしその方がええね。それはそうと晴凛ちゃん学校間に合うん?」「ここから歩くとなるとちょっとやばいかもです……学校に連絡いれなきゃ」「それやったらアタシが送ってくよ」「まさか……ほうきで?」「流石にそれは目立ちすぎるし慣れんとあれは辛いよ?だからここは7の戦車!」「あ、それさっき私が引いたカード」 大アルカナ7番戦車のカードから現れたのは銀色の鎧を身につけた猫。あっという間に巨大化し、大型バイクへと変形する。割れた窓から再び飛び出した冥珂はバイクに跨る。「カッコエエやろ?アタシのスフィンクス」「スフィンクス……ですか?」「そ、戦車のカードにスフィンクス写ってるやん?」「バイクに変形する前は明らかに猫でしたけど……」「せやねん、コイツ猫形態の時毛が無いし」「あ、なるほどそれでスフィンクス……ってそもそも元のスフィンクス猫じゃないです!」「ほんまもんのスフィンクスなんか可愛ないやん、だからこれでええの。さ、そんな事より早よ乗り、遅刻すんで?」冥珂は後部座席に引っ掛けてあったヘルメットを晴凛に渡す。慣れない手つきでヘルメットを装着した晴凛はスカートを気にして横座りでバイクに乗る。「アカンてそんな乗り方危ないって、パンツ気になるんやったら晴凛ちゃんも変身しとこ」「え?えええ~!?」 コンパクトから伸びた蔓がセリンに巻き付きパンキッシュなライダー姿へと変身させた。「こんな格好で学校行けませんよ!行ったら大騒ぎですよ!!」「大丈夫大丈夫!しっかりつかまってや!ゴー!!」続く
Jul 30, 2017
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