うたのおけいこ 短歌の領分

うたのおけいこ 短歌の領分

2021年07月08日
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森高千里 雨



失恋は、詩歌の泉であると古来いわれる。
この美しい達成は、その一つの典型だ。

人はなぜ、失恋のつらい体験を詩歌や小説などに「表現」し、あまつさえ「発表」したりするのだろうか?
それはたぶん、表現行為には少なくとも「自己憐憫」「自己慰藉」「自己完結」「自己客観視」などの要素があり、精神の危機的状況を鎮静化しつつ、さらにそれを発表することによって「共感」や「評価」、あわよくば「賛嘆」などを伴う自己承認欲求(≒旧述語・自己顕示欲)の充足が得られ、それらによって自己愛(いわゆる「精神のバランス」)の回復が図れるからだろう。

自己愛は、行き過ぎればさまざまな人格障害に至ることが今ではよく知られているが、動物としての「自己保存本能」に根ざしたきわめて深い根源的な情動であり、ある程度は絶対に必要なものである。

その一方で「恋(恋愛、恋情)」は、子孫を残すという「種族保存本能」に根ざした、これまた強烈な衝動であり、人間も動物である以上、完全に抗えるものは一人もいない。
まさに本能と本能の狭間で、精神の激しい疾風怒濤に弄ばれるのが、恋愛というものである。

猫なら、目に見える(物理的な)傷口を自分でペロペロ舐めたりして治していく(自己治療してゆく)。心の傷は、あったとしてもごく小さいか、ふて寝でもして忘れてしまうのであろう。

人の、目に見えない(精神的な)傷だとそう簡単にはいかない。厄介だ。

それを、リベンジ(意趣返し、復讐)の意図もちょっと含めたりして、場合によっては半ば楽しんで美しい作品に表現できるということは、すでに治癒していることの証なのかもしれないし、人間精神の精妙さと強靭さの現れでもある。

人は社会的動物であり、言葉の動物であり、ホモ・サピエンス(考えるヒト属)だからだ。





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最終更新日  2021年07月11日 22時19分13秒
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