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2019年02月15日

映画「大いなる幻影」国境を超えた愛と友情

「大いなる幻影」(La Grande Illusion) 
 1937年 フランス

監督ジャン・ルノワール
脚本シャルル・スパーク
  ジャン・ルノワール
音楽ジョゼフ・コズマ
撮影クリスチャン・マトラ

〈キャスト〉
 ジャン・ギャバン ピエール・フレネー
 エリッヒ・フォン・シュトロハイム

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第一次世界大戦のヨーロッパ戦線。
フランス空軍のマルシャル中尉(ジャン・ギャバン)とド・ポアルデュー大尉(ピエール・フレネー)はドイツ軍陣地の偵察のために空中撮影を行うべく戦闘機で飛び立ちますが、あえなく撃墜され、捕虜の身となってしまいます。

二人は収容所送りとなりますが、捕虜仲間の中にドイツ軍に顔の利くユダヤ人で銀行家の息子のローゼンタール中尉(マルセル・ダリオ)がいたため、マルシャルたちは本国から送られてくる豊富な食料によって、贅沢な食事やコニャックを味わい、仮装ダンスを楽しむことまで許されていました。




しかし、そういった中にも国家への義務として脱走の計画が準備され、着々と進められていきますが、脱走のためのトンネルも完成し、今夜が決行というときになって、マルシャルたちに収容所の変更が告げられます。
ドイツ国内の収容所を転々と移動し、スイスとの国境に近い堅固な城塞「ウィンターズボルン」に落ち着くことになります。

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ここでも脱走の計画は準備され、ド・ポアルデュー大尉の犠牲によって、マルシャルとローゼンタールは脱走に成功します。

しかし、逃亡の疲労と空腹が二人を襲い、絶望感に苛(さいな)まれながらも二人は一軒の農家にたどり着きます。
小さな娘と二人暮らしの未亡人エルザ(ディタ・パルロ)は、マルシャルたちを脱走兵と知りつつかくまい、やがてマルシャルとエルザには愛情が芽生えることになります。

エルザの家で数日を過ごしたマルシャルとローゼンタールでしたが、やがてエルザとの別れの日がやってきます。
悲しみに暮れるエルザを残し、二人はスイス領内を目指して深い雪の中を歩いてゆくのでした。

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映画は三部から構成されています。
一部では最初の収容所での生活が描かれ、脱走の準備のほかには、これといったストーリー展開はなく、むしろ、収容所内でのゴタゴタとした様子が描かれていくのですが、それがつまらないのかというと、そうでもなく、特に、これが収容所なのかと思わせるような、フランス兵による女装ダンスは気味が悪いほど華やかで、後に「フレンチ・カンカン」を撮ることになるジャン・ルノワールの面目躍如といった感があります。

二部では一転。「ウィンターズボルン収容所」は中世の雰囲気を漂わせた古色蒼然とした堅固な城塞で、ここでマルシャルとローゼンタール、そしてド・ポアルデューの三人の立場、生い立ちの違いなどが鮮明になってゆきます。

さらにドイツ軍のラウフェンシュタイン大尉(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)の再登場が、第一部の陽気さとは打って変わって、ドラマに深さと厚みが増してゆきます。

折れた脊椎を銀のプレートで固定しているため、常に直立不動の姿勢を保つラウフェンシュタインは騎士道精神にあふれた職業軍人であり、貴族です。

同じ職業軍人で貴族であるド・ポアルデューを敬愛し、またド・ポアルデューもラウフェンシュタインとの友情を育むことになりますが、自分たちが滅びゆく階級であることを自覚している二人は、貴族としての誇りを失わず、それを象徴する白い手袋をはめたド・ポアルデューは死を選ぶことになります。




個人的には、初めて「大いなる幻影」を見たとき、最も強烈な印象を残したのがラウフェンシュタインでした。
敵兵であっても敬意を払い、滅びゆく貴族として翳(かげ)りを宿しながらも、軍人としての職務を遂行し、敬愛するド・ポアルデューを自らの銃弾で死に至らしめたラウフェンシュタインの姿には、日本の武士道にも通じる精神性を感じました。

題名の「大いなる幻影」とは、終戦によって平和が訪れることを指した反語のようです。
ラスト近くで、マルシャルのいった言葉に対するローゼンタールの言葉に表されています。

「大いなる幻影」は反戦映画ともみられていますが、スタインベックが「怒りの葡萄」で1930年代の大恐慌を背景に人間愛を描いたように、ジャン・ルノワールは第一次世界大戦のドイツ収容所、そしてエルザの家庭を舞台として、国境を超えた友情や男女の愛を描いたのだと思います。

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