監督アルフレッド・ヒッチコック
原作ダフネ・デュ・モーリア
脚本ロバート・E・シャーウッド
ショーン・ハリソン
音楽フランツ・ワックスマン
撮影ジョージ・バーンズ
第13回アカデミー賞作品賞, 撮影賞受賞。
〈キャスト〉
ジョーン・フォンテイン ジョージ・サンダース
ローレンス・オリヴィエ
「昨夜、私はまたマンダレイへ行った夢をみた」
若い女性の追想で始まるダフネ・デュ・モーリアの長編小説「レベッカ」が原作。
保養地モンテカルロで「わたし」は、城のような広大な屋敷を所有する貴族マキシム・デ・ウィンターと知り合います。
妻を亡くしたばかりのマキシムには暗い影が漂っていますが、「わたし」は20歳以上も年上のマキシムに惹かれ、マキシムもまた、“見すぼらしい上着とスカートをつけ、…哀れな小娘にすぎない、世間を知らない初心(うぶ)な「わたし」”に惹かれてゆき、簡素ではありますが、二人は結婚式を挙げます。
ここまでなら、「わたし」のシンデレラストーリーなのですが、マキシムと共にイギリスに帰り、広大なマンダレイに到着した日から「わたし」には悪夢のような日々が始まります。
マキシムの前妻、死んだはずのレベッカの存在が「わたし」の日常に大きな影となってまつわりつきます。
貴族社会の出来事なので、一般的には馴染みにくいように思えますが、ヒロインの「わたし」は身寄りのない、どちらかといえば内気な性格の女性であるため、読者は「わたし」の気持ちに寄り添いやすく、「わたし」と同じように疑心暗鬼にとらわれたミステリアスな世界に足を踏み入れることになります。
また、この物語の特徴的なところは、ヒロインの「わたし」に名前がなく、大きな影の存在となるレベッカはすでに死んでいて存在していません。
レベッカは知性あふれる美貌の持ち主でした。
そのレベッカの影に怯え、夫であるマキシムの愛情をも信用できなくなる「わたし」は、レベッカを崇拝する女中頭デンヴァース夫人の策略によって精神的に追い詰められてゆきます。
ですが、意外な方向へ話は進み、まさにどんでん返しといってもいい結末が「わたし」と読者を待っています。
映画「レベッカ」は、デヴィッド・O・セルズニックが製作に乗り出し、巨匠アルフレッド・ヒッチコックが監督を手がけました。
2時間を超える映画ですが、小説を読んでから映画を観ると、ストーリー展開が速すぎるのと(逆にいえば、あれだけの長編を2時間少しの時間によくまとめ上げたと思います)、この時代の映画の特徴で、俳優たちのしゃべるセリフが早口のため、せかせかした印象を受けます。
それはともかくとして、
「わたし」を演じたジョーン・フォンテインは、アカデミー主演女優賞にノミネートされ、受賞は逃しましたが、素晴らしい美貌でありながら、レベッカの大きな影に絶えず怯える少女のように繊細な表情は、とても魅力的。
レベッカの謎の死と、それにまつわるマキシム(ローレンス・オリヴィエ)の行動は、原作をそのまま映画化することは憚(はばか)られたようで、映画は多少ソフトなものになっていますが、それでも、レベッカという女性の強烈な個性が前面に現れるクライマックスは、まさに意外性の極地ともいえます。
存在する「わたし」に名前がなく(名前が表記されず)、レベッカという名前を持つ女性は、すでに死亡していて存在していません。
原作者ダフネ・デュ・モーリアの投げかけた存在と非存在が織りなすミステリーは、人間心理の内面に潜む二面性を描いたものでもあるかと思います。
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