この広告は30日以上更新がないブログに表示されております。
新規記事の投稿を行うことで、非表示にすることが可能です。
広告
posted by fanblog
2019年06月30日
家族の木 THE SECOND STORY 俊也と真梨 <42 似た母子>
似た母子
大阪へ家族で報告に行った。僕の母は涙を流して喜んだ。
純一は、それから3カ月ぐらいは大阪で勤務してから退職することが決まった。
僕の会社を継ぐことになるだろう。
もちろん、僕がきっちり平社員から仕込まれたように純一も平社員からの入社になる。
大阪では結婚式のことで盛り上がった。
母も美奈子さんもセレモニーが大好きだ。
絵梨は洋装が似合うだのブーケは私がこしらえるだのと、気の早い話で湧いた。
真梨もウキウキしているのが分かった。
その日は純一を残して真梨と絵梨と僕が東京へ帰った。
そして、夜も11時を過ぎたころに純一から電話がかかってきた。
「夜遅くすみません。」と他人行儀な話し方だった。
「実は結婚式の話なんだけど。」そう切り出されて、さっそく何か希望でもあるのかと思ったが意外にも「出来たら式はやりたくないんです。姉ちゃんが、いえ、あの絵梨がやりたくないって思ってて。僕もあんまり興味なくて。」という。
確かに絵梨があまり結婚式をしたくない気持ちはわからないでもなかった。
小樽での派手な結婚式の結果が流産から離婚だ。
「でも、純一お前いいのか?」というと、嫁さんが嫌がってるのに結婚式をやりたがる奴なんかいないよ。」という返事だった。
純一から嫁さんという言葉が出て、なんだかこそばゆい気がした。
「ねえ、パパが女性たちにブレーキかけて。今日の盛り上がり方じゃ、とっても言い出せなかったんだよ。」とお願いされてしまった。
僕はいつも、つまらない役を引き受ける運命だった。
直ぐに真梨に電話の件を伝えた。
早く伝えないと、どんどん夢が大きくなっていきそうだったからだ。
だが真梨の不満は結婚式をしないことではなかった。
なぜ絵梨が、わざわざ大阪にいる純一に言わせたかだった。
「なんで一つ屋根の下に居るのに直接言わないのよ。なんでわざわざ大阪から電話がかかってくるのよ。」とご立腹だ。
僕もなんとなく寂しい息がした。でも、これでいいとも思った。
絵梨は初婚の純一の気持ちを確かめたのだ。そして、言いにくいことは純一に言わせた。
真梨、絵梨は君に似ているだけなんだよ。
と正面切って言えないのが僕の性格で、純一の性格だった。
不思議なことに真梨の親である田原真一も妻の梨花の言うことに正面切って反対できなかった。あんなに意思の強そうな人間でも妻には煮え切らない男だった。
ああ、この家の家風は生き続けるのだと実感した夜だった。
結局、絵梨の希望で結婚式はしなかった。そのかわりハネムーンはアメリカの西海岸を観光した。最初に行く街は純一が暮らしていた街だ。2人は3日に一度ぐらいの割で家に電話をくれた。2人で小学生のようにわいわい騒いでいるのが分かった。
真梨が「もう、あれじゃ修学旅行じゃないの。」と言ったので、思わず「することちゃんとやってるのかな?」と言ってしまった。男親の親心だった。真梨に耳をねじ切られそうになった。絵梨が最初の結婚をする前のはつらつとした雰囲気を取り戻して帰ってきた。
続く
大阪へ家族で報告に行った。僕の母は涙を流して喜んだ。
純一は、それから3カ月ぐらいは大阪で勤務してから退職することが決まった。
僕の会社を継ぐことになるだろう。
もちろん、僕がきっちり平社員から仕込まれたように純一も平社員からの入社になる。
大阪では結婚式のことで盛り上がった。
母も美奈子さんもセレモニーが大好きだ。
絵梨は洋装が似合うだのブーケは私がこしらえるだのと、気の早い話で湧いた。
真梨もウキウキしているのが分かった。
その日は純一を残して真梨と絵梨と僕が東京へ帰った。
そして、夜も11時を過ぎたころに純一から電話がかかってきた。
「夜遅くすみません。」と他人行儀な話し方だった。
「実は結婚式の話なんだけど。」そう切り出されて、さっそく何か希望でもあるのかと思ったが意外にも「出来たら式はやりたくないんです。姉ちゃんが、いえ、あの絵梨がやりたくないって思ってて。僕もあんまり興味なくて。」という。
確かに絵梨があまり結婚式をしたくない気持ちはわからないでもなかった。
小樽での派手な結婚式の結果が流産から離婚だ。
「でも、純一お前いいのか?」というと、嫁さんが嫌がってるのに結婚式をやりたがる奴なんかいないよ。」という返事だった。
純一から嫁さんという言葉が出て、なんだかこそばゆい気がした。
「ねえ、パパが女性たちにブレーキかけて。今日の盛り上がり方じゃ、とっても言い出せなかったんだよ。」とお願いされてしまった。
僕はいつも、つまらない役を引き受ける運命だった。
直ぐに真梨に電話の件を伝えた。
早く伝えないと、どんどん夢が大きくなっていきそうだったからだ。
だが真梨の不満は結婚式をしないことではなかった。
なぜ絵梨が、わざわざ大阪にいる純一に言わせたかだった。
「なんで一つ屋根の下に居るのに直接言わないのよ。なんでわざわざ大阪から電話がかかってくるのよ。」とご立腹だ。
僕もなんとなく寂しい息がした。でも、これでいいとも思った。
絵梨は初婚の純一の気持ちを確かめたのだ。そして、言いにくいことは純一に言わせた。
真梨、絵梨は君に似ているだけなんだよ。
と正面切って言えないのが僕の性格で、純一の性格だった。
不思議なことに真梨の親である田原真一も妻の梨花の言うことに正面切って反対できなかった。あんなに意思の強そうな人間でも妻には煮え切らない男だった。
ああ、この家の家風は生き続けるのだと実感した夜だった。
結局、絵梨の希望で結婚式はしなかった。そのかわりハネムーンはアメリカの西海岸を観光した。最初に行く街は純一が暮らしていた街だ。2人は3日に一度ぐらいの割で家に電話をくれた。2人で小学生のようにわいわい騒いでいるのが分かった。
真梨が「もう、あれじゃ修学旅行じゃないの。」と言ったので、思わず「することちゃんとやってるのかな?」と言ってしまった。男親の親心だった。真梨に耳をねじ切られそうになった。絵梨が最初の結婚をする前のはつらつとした雰囲気を取り戻して帰ってきた。
続く
2019年06月29日
家族の木 THE SECOND STORY 俊也と真梨 <41 進展>
進展
絵梨は家から出る話は撤回したし真梨との会話もいつも通りだった。ただ食後お茶を飲みながら笑い話をするようなことは無くなった。とにかく、いつも明るく元気だが自室から出てくつろぐ姿を見ることがない。子供たちのバカ話を止めなければならなかった日々が懐かしかった。
大阪の隆君と純一は結婚に向けて話し合いをしていた。隆君が言うには養子と実子の結婚は法的には問題ないという話だ。特別養子の場合には戸籍上は違和感があるが、法的には問題ないらしい。僕たちは、こんなにも心の葛藤をしているというのに、法律はにべもないほど単純な答えだった。
純一は大阪の明るいおめでたムードの影響を受けて考え方がずいぶん前向きになっていた。僕たちも心が決まって本来めでたいことだということが呑み込めてきた。
純一は自分でプロポーズしたいといった。僕もそれが最も順当だろうと思った。親から言う話ではないだろう。
ただ、絵梨は純一が養子だということを知らない。混乱するだろう。簡単に、ありがとうとはいかないだろう。それでも、どう考えても、この方向へ進むのが一番幸福なことだと思った。
僕の母は、もう86歳になるが、まだかくしゃくとしたものだった。話の顛末を聡一から聞いていて純一と絵梨の結婚を心から願ってくれていた。早く進めたほうがいいと思った。
純一は度々家に戻ってくるようになった。家でくつろぐ姿を見て真梨や絵梨も嬉しそうだった。真梨も、この話がまとまれば結局は二人とも自分の手元に残るということが分かってきたのだ。話は前向きに進んだ。
ある日、僕たち夫婦が買い物に出ている間に純一が帰ってきていた。リビングで純一はコーヒーを飲みながら、絵梨は紅茶を飲みながら、ぼんやりテレビをながめていた。刑事ものだった。
普段2人ともテレビを見るときには、お笑い番組で馬鹿笑いをするかDVDを見ている。刑事ものを見ている姿は今が初めてだった。というよりも2人はテレビを見ていない。見ているふりをしているのだ。
何とはなしに何かあったと感じた。昔、自分がわざと無表情を作ってテレビを見た日を思い出した。叔父と叔母の留守中に真梨と関係ができた日だった。まあ、大人同士のことに、つべこべ言うまいと思った。
純一は帰り際に僕に向けてピースサインをした。真梨と絵梨は純一を玄関まで送った。真梨もこちらをみて笑った。絵梨が寝室へ引き上げた後、真梨が「絵梨、今日は玄関まで送って出たわね。」といった。僕は「婚約成立だ。さっき純一のやつピースサインしやがった。」といった。
翌週の土曜日の朝、朝食が終わった直後に「僕たち結婚しようと思います。」と純一がきりだした。絵梨は下を向いて、はにかんでいた。まるで、初デート中の乙女のようだった。「あの、私もそうできたらいいなと思っています。」といった。その日は家族でホテルのレストランを予約して夕食をした。
続く
絵梨は家から出る話は撤回したし真梨との会話もいつも通りだった。ただ食後お茶を飲みながら笑い話をするようなことは無くなった。とにかく、いつも明るく元気だが自室から出てくつろぐ姿を見ることがない。子供たちのバカ話を止めなければならなかった日々が懐かしかった。
大阪の隆君と純一は結婚に向けて話し合いをしていた。隆君が言うには養子と実子の結婚は法的には問題ないという話だ。特別養子の場合には戸籍上は違和感があるが、法的には問題ないらしい。僕たちは、こんなにも心の葛藤をしているというのに、法律はにべもないほど単純な答えだった。
純一は大阪の明るいおめでたムードの影響を受けて考え方がずいぶん前向きになっていた。僕たちも心が決まって本来めでたいことだということが呑み込めてきた。
純一は自分でプロポーズしたいといった。僕もそれが最も順当だろうと思った。親から言う話ではないだろう。
ただ、絵梨は純一が養子だということを知らない。混乱するだろう。簡単に、ありがとうとはいかないだろう。それでも、どう考えても、この方向へ進むのが一番幸福なことだと思った。
僕の母は、もう86歳になるが、まだかくしゃくとしたものだった。話の顛末を聡一から聞いていて純一と絵梨の結婚を心から願ってくれていた。早く進めたほうがいいと思った。
純一は度々家に戻ってくるようになった。家でくつろぐ姿を見て真梨や絵梨も嬉しそうだった。真梨も、この話がまとまれば結局は二人とも自分の手元に残るということが分かってきたのだ。話は前向きに進んだ。
ある日、僕たち夫婦が買い物に出ている間に純一が帰ってきていた。リビングで純一はコーヒーを飲みながら、絵梨は紅茶を飲みながら、ぼんやりテレビをながめていた。刑事ものだった。
普段2人ともテレビを見るときには、お笑い番組で馬鹿笑いをするかDVDを見ている。刑事ものを見ている姿は今が初めてだった。というよりも2人はテレビを見ていない。見ているふりをしているのだ。
何とはなしに何かあったと感じた。昔、自分がわざと無表情を作ってテレビを見た日を思い出した。叔父と叔母の留守中に真梨と関係ができた日だった。まあ、大人同士のことに、つべこべ言うまいと思った。
純一は帰り際に僕に向けてピースサインをした。真梨と絵梨は純一を玄関まで送った。真梨もこちらをみて笑った。絵梨が寝室へ引き上げた後、真梨が「絵梨、今日は玄関まで送って出たわね。」といった。僕は「婚約成立だ。さっき純一のやつピースサインしやがった。」といった。
翌週の土曜日の朝、朝食が終わった直後に「僕たち結婚しようと思います。」と純一がきりだした。絵梨は下を向いて、はにかんでいた。まるで、初デート中の乙女のようだった。「あの、私もそうできたらいいなと思っています。」といった。その日は家族でホテルのレストランを予約して夕食をした。
続く
2019年06月28日
家族の木 THE SECOND STORY 俊也と真梨 <40 真実>
真実
翌日はホテルの和食屋の個室で食事をしながら話した。「純一を養子にすると最初に言ったのはおじいちゃんだ。ある日突然おじいちゃんが男の子を養子にしたいと言い出した。
それに大反対したのがママだ。ママがその子は自分の子供だといってきかなかった。もちろん。僕も大賛成したんだ。僕たち夫婦は不妊治療に失敗してたんだ。だから、神様がその子を僕たち夫婦に下さったみたいに思った。僕たち夫婦は君が欲しくて養子にした。」
「なんで、おじいちゃんは僕を養子にしようとしたの?どういう縁で僕は養子になることになったの?」
「純一は聡一が結婚する前に美奈子さん以外の人と恋愛して生まれた子供だ。君のお父さんは聡一だ。」というと純一は、しばらくポカンとしていた。そして「それ隆や叔母さんも知ってること?」と聞いた。
「この間、美奈子さんが気づいたんだ。一瞬、修羅場に成るかと思ったんだが、あの人は意外に肝が据わってる。」というと、純一は腑に落ちたという顔をした。「僕、大阪でものすごく親切にされるんだ。だから縁談とか一生懸命になってるんだなあ。」といった。
僕は一瞬不快になった。「大阪がいくら親切だろうと、こっちの愛情の深さに勝てるもんか。」と妙な返事をしてしまった。
「絵梨と君は従妹同士、結婚して何の問題もない。君のお母さんと聡一が別れて、聡一が結婚してから君が生まれた。君のお母さんは、どうしても聡一の子供が欲しくて、聡一に知らせずに君を生んだ。そのころ美奈子さんは病弱で聡一は君の存在を言い出せなかった。
そこで、おじいちゃんが君を引き取りたいといった。でも、ママがそれに納得しなかった。自分の方がふさわしいからうちの養子にするって、おじいちゃんに食って掛かったんだ。ママはお嬢様育ちでね、その上おじいちゃんは甘々の親だったからママが人に食って掛かることなんてなかった。
縁っていいうのかな。なんで、あの時、あんなこと言ったんやろうって?そんな感じ。ママは直感的に、その男の子が欲しくて欲しくてしょうがなくなった。それで、今もまだずっとその子が可愛くてしょうがない。ママは自分以外の母親は認めない。」と説明した。
「僕、望まれてなかったんだね。父親から。」と純一が言った。「違う。聡一は君が可愛くてしょうがなかったから家の外にも家庭を持った。大阪のおじいちゃんにとっては君は孫だ。かわいくてしょうがなかったから毎月養育費を払った。
金で解決したかったら、一括で大きな金を渡せば終わる事をわざわざ毎月会うようにした。聡一も大阪のおじいちゃんも君が可愛かったし心配だったから毎月養育費を払った。聡一は、毎週通っていたらしい。そういう意味では美奈子さんは気の毒な立場だった。」
純一の顔は興奮で赤みを帯びてきた。「じゃ、僕の母親は愛人として僕を育ててたんだよね。その人今何してるんですか?」少し怒っていた。「実は僕は君のお母さんには面識がない。僕が君の存在を知った時には亡くなってた。君が生後3カ月ぐらいの時に交通事故にあったらしい。
それで当初は、お母さんの兄という人が君を引き取ったらしい。聡一は、その兄さんという人に会って君が幸福になれないと確信した。なんとか、こちらで引き取れないかを、要は親戚中で考えた結果、君がうちへ来た。」
「何でその時、父は僕を引き取れなかったんですか?養子に出すなんて筋違いじゃないですか。」と明らかに聡一を責めていた。「美奈子さんのおなかには隆君がいた。美奈子さんは病弱で心も弱かった。こういう問題に向かい合える人じゃなかった。
みんなはそう思った。あの頃の印象では、美奈子さんは神経質で、とても君を幸福にできるような気がしなかった。君は知らないやろうが真一おじいちゃんは田原真介の愛人の子供だ。中学生の時にお母さんが亡くなってる。君のことを放ってはおけなかった。
最初は自分の養子にするつもりで皆に話した。それを真梨が自分の子にしたいと言い張った。純一、うちでは君を欲しくて養子にした。だからこその特別養子だ。誰にも渡す気なんかない。」というと純一は泣き出した。個室にしてよかった。「パパに君呼ばわりされたくない。」と言って泣いた。
「僕も、この話をするについてはそれなりに決心した。いったんお前と距離を置かないと冷静になれないやないか!今でも、なんでこんな話をしてるのか納得してないよ。それでも真梨は絶対嫌だって言ったんやからしょうがない。僕が損な役を引き受けてきた。
ほかの人に頼むわけにもいかん。僕ら夫婦は今まで通り純一、純一って呼び捨てにしたい。ママからの伝言。ママの前では絶対ママだけの子でいてほしい。全くしょうもない役目や。僕は自分でも一体何をやっているのかよくわからん。」
純一が「世話のかかる息子でごめん。」といったので「もう一人の娘の方も世話がかかる。最近気分がちょっと破れかぶれで心配してる。明日、聡一にもきちんと挨拶をしてくれ。特に美奈子さんにちゃんと礼を言ってほしい。今回のことで僕たちの背中を押してくれたのは、あの人や。」
「うん、多分僕たちは、いい方向へ向かっているんだよね。」といった。「多分、そうだと思う。」と答えてから「世界が変わるというか、急転直下というか。たぶん僕たち家族4人は、みんなそんな感じでいるんやと思う。みんな三半規管とか平衡感覚とか、そういうものが狂って、何が何だかよくわからなくなってる。お前落ち着いたら真梨に電話してくれ。」と言って別れた。お互いに腑に落ちたような落ちないような訳の分からない気分だった。
続く
翌日はホテルの和食屋の個室で食事をしながら話した。「純一を養子にすると最初に言ったのはおじいちゃんだ。ある日突然おじいちゃんが男の子を養子にしたいと言い出した。
それに大反対したのがママだ。ママがその子は自分の子供だといってきかなかった。もちろん。僕も大賛成したんだ。僕たち夫婦は不妊治療に失敗してたんだ。だから、神様がその子を僕たち夫婦に下さったみたいに思った。僕たち夫婦は君が欲しくて養子にした。」
「なんで、おじいちゃんは僕を養子にしようとしたの?どういう縁で僕は養子になることになったの?」
「純一は聡一が結婚する前に美奈子さん以外の人と恋愛して生まれた子供だ。君のお父さんは聡一だ。」というと純一は、しばらくポカンとしていた。そして「それ隆や叔母さんも知ってること?」と聞いた。
「この間、美奈子さんが気づいたんだ。一瞬、修羅場に成るかと思ったんだが、あの人は意外に肝が据わってる。」というと、純一は腑に落ちたという顔をした。「僕、大阪でものすごく親切にされるんだ。だから縁談とか一生懸命になってるんだなあ。」といった。
僕は一瞬不快になった。「大阪がいくら親切だろうと、こっちの愛情の深さに勝てるもんか。」と妙な返事をしてしまった。
「絵梨と君は従妹同士、結婚して何の問題もない。君のお母さんと聡一が別れて、聡一が結婚してから君が生まれた。君のお母さんは、どうしても聡一の子供が欲しくて、聡一に知らせずに君を生んだ。そのころ美奈子さんは病弱で聡一は君の存在を言い出せなかった。
そこで、おじいちゃんが君を引き取りたいといった。でも、ママがそれに納得しなかった。自分の方がふさわしいからうちの養子にするって、おじいちゃんに食って掛かったんだ。ママはお嬢様育ちでね、その上おじいちゃんは甘々の親だったからママが人に食って掛かることなんてなかった。
縁っていいうのかな。なんで、あの時、あんなこと言ったんやろうって?そんな感じ。ママは直感的に、その男の子が欲しくて欲しくてしょうがなくなった。それで、今もまだずっとその子が可愛くてしょうがない。ママは自分以外の母親は認めない。」と説明した。
「僕、望まれてなかったんだね。父親から。」と純一が言った。「違う。聡一は君が可愛くてしょうがなかったから家の外にも家庭を持った。大阪のおじいちゃんにとっては君は孫だ。かわいくてしょうがなかったから毎月養育費を払った。
金で解決したかったら、一括で大きな金を渡せば終わる事をわざわざ毎月会うようにした。聡一も大阪のおじいちゃんも君が可愛かったし心配だったから毎月養育費を払った。聡一は、毎週通っていたらしい。そういう意味では美奈子さんは気の毒な立場だった。」
純一の顔は興奮で赤みを帯びてきた。「じゃ、僕の母親は愛人として僕を育ててたんだよね。その人今何してるんですか?」少し怒っていた。「実は僕は君のお母さんには面識がない。僕が君の存在を知った時には亡くなってた。君が生後3カ月ぐらいの時に交通事故にあったらしい。
それで当初は、お母さんの兄という人が君を引き取ったらしい。聡一は、その兄さんという人に会って君が幸福になれないと確信した。なんとか、こちらで引き取れないかを、要は親戚中で考えた結果、君がうちへ来た。」
「何でその時、父は僕を引き取れなかったんですか?養子に出すなんて筋違いじゃないですか。」と明らかに聡一を責めていた。「美奈子さんのおなかには隆君がいた。美奈子さんは病弱で心も弱かった。こういう問題に向かい合える人じゃなかった。
みんなはそう思った。あの頃の印象では、美奈子さんは神経質で、とても君を幸福にできるような気がしなかった。君は知らないやろうが真一おじいちゃんは田原真介の愛人の子供だ。中学生の時にお母さんが亡くなってる。君のことを放ってはおけなかった。
最初は自分の養子にするつもりで皆に話した。それを真梨が自分の子にしたいと言い張った。純一、うちでは君を欲しくて養子にした。だからこその特別養子だ。誰にも渡す気なんかない。」というと純一は泣き出した。個室にしてよかった。「パパに君呼ばわりされたくない。」と言って泣いた。
「僕も、この話をするについてはそれなりに決心した。いったんお前と距離を置かないと冷静になれないやないか!今でも、なんでこんな話をしてるのか納得してないよ。それでも真梨は絶対嫌だって言ったんやからしょうがない。僕が損な役を引き受けてきた。
ほかの人に頼むわけにもいかん。僕ら夫婦は今まで通り純一、純一って呼び捨てにしたい。ママからの伝言。ママの前では絶対ママだけの子でいてほしい。全くしょうもない役目や。僕は自分でも一体何をやっているのかよくわからん。」
純一が「世話のかかる息子でごめん。」といったので「もう一人の娘の方も世話がかかる。最近気分がちょっと破れかぶれで心配してる。明日、聡一にもきちんと挨拶をしてくれ。特に美奈子さんにちゃんと礼を言ってほしい。今回のことで僕たちの背中を押してくれたのは、あの人や。」
「うん、多分僕たちは、いい方向へ向かっているんだよね。」といった。「多分、そうだと思う。」と答えてから「世界が変わるというか、急転直下というか。たぶん僕たち家族4人は、みんなそんな感じでいるんやと思う。みんな三半規管とか平衡感覚とか、そういうものが狂って、何が何だかよくわからなくなってる。お前落ち着いたら真梨に電話してくれ。」と言って別れた。お互いに腑に落ちたような落ちないような訳の分からない気分だった。
続く
2019年06月27日
家族の木 THE SECOND STORY 俊也と真梨 <39 普通の会話>
普通の会話
家に帰ると、真梨はぼんやりと洗濯物をたたんでいる。いつもなら夕方に終わらせてるようなことだ。家事がはかどらないのだろう。「絵梨は?」と聞くと「部屋にいるわ。食事がすんだらすぐ部屋に入っちゃって、話し相手もないわ。いったい何なんだろう。」とぼやいた。
ダイニングテーブルには食事の支度がしてあった。以前なら真梨と絵梨がテレビを見ながら、とりとめのないおしゃべりをしていた。そのおしゃべりを聞きながら食事をするのが普通だった。
今は真梨もつまらなそうな顔をしているし僕は孤食だった。つい、そそくさと食事を済ませてしまった。「悪いね。美味しいんだけど、なんか味気なくて。」というと、「いいのよ。気が入ってないんだから。」と答えた。
「風呂に入ってから話がある。二階で話したい。ウィスキーも持って上がってほしい。軽く飲みたいんだ。君も一緒に飲もう。いいかね?」と聞くと、真梨は「なんだか、酔っ払いたいと思ってたのよ。」といった。
二階の寝室で今日の話をした。真梨は「純一も絵梨もいい方向へ向いてくれるといいわね。」と普通の顔をして言った。その通りではあるが、やっぱりうれしそうでも悲しそうでもない。なんだかわからない表情だった。
僕が「明日もう一度会う。その時に養子になった経緯を説明する。君も一緒に来てくれないかな。僕は、どう説明していいかもわからないんだ。」というと、「それを私にやらせるの?」と少し酔いが回った顔で泣いた。
そうだ面白くない原因はこれだ。事の発端は実母が亡くなったことだ。これを純一がどのように受け取るのか?想像もつかない。自分が実父から隠された身だということを、どのように感じるだろう。ここの説明の仕方が分からなかった。うちでは大切に育てたし僕や真梨の愛情は理解できるだろう。
だけど実父のことをどのように思うだろう。母が亡くなっていることを悲しまないだろうか?実母のことを悲しむ純一を見て真梨はどう思うのだろうか?なにか、悲しみや怒りの感情と愛がごっちゃになったややこしい気持ちだった。
真梨は自分は行かないといった。「お兄ちゃん、行ってきて。純一に話してやって。きっと悲しむわ。ホントのお母様のこと。でも純一の母親は私なのよ。私以外の人のことを本気で慕う姿なんて見たくもないの。純一に、そう伝えてほしいのよ。私の前では私の息子でいてほしい。自分が身勝手だってわかってるの。でも、お兄ちゃん私無理だから。」とまた泣いた。
そうだ、ほかに親がいる話なんてまったく面白くもない腹の立つ話だった。それでも、この話は進めなくてはならない。舵を切ってしまった話だった。真梨はこんな時、人使いが荒い。嫌な仕事を押し付けられたものだ。
話が終わってから大阪の聡一に電話をかけた。深夜だったが、あの家は宵っ張りだった。
この時間なら、まだみんな起きているだろうと思った。電話を取ってくれたのは隆君だった。今は弁護士として働いている。駆け出しなので給料は安いと嘆いていた。聡一に代わってもらった。
「純一に絵梨と結婚する気があるか確かめた。絵梨以外の女とは結婚したくないらしい。」というと、聡一は「おお、それやったら、戸籍のこともしっかり調べる。僕としては一旦こっちへ欲しいんや。」といった。途端に拍手が聞こえた。美奈子さんと隆君がずいぶん喜んでいる。
隆君が代わって、「叔父さん、大丈夫、細かいこと僕協力させてもらいます。ほっとしました。僕の兄ちゃんやから絶対幸せになってほしいんです。」といった。
喜んでやがると腹が立ったが、こんなに喜ぶ話なんだと改めてわかった。この話は冷静に考えると喜ばしい話だった。僕は「明日純一に、実親の話をする。お母さんの話もする。
」といった。
昔、実父に会いに行ったことを思い出した。温かい思い出になっている。そういう意味では母を亡くしている純一はかわいそうだった。
続く
家に帰ると、真梨はぼんやりと洗濯物をたたんでいる。いつもなら夕方に終わらせてるようなことだ。家事がはかどらないのだろう。「絵梨は?」と聞くと「部屋にいるわ。食事がすんだらすぐ部屋に入っちゃって、話し相手もないわ。いったい何なんだろう。」とぼやいた。
ダイニングテーブルには食事の支度がしてあった。以前なら真梨と絵梨がテレビを見ながら、とりとめのないおしゃべりをしていた。そのおしゃべりを聞きながら食事をするのが普通だった。
今は真梨もつまらなそうな顔をしているし僕は孤食だった。つい、そそくさと食事を済ませてしまった。「悪いね。美味しいんだけど、なんか味気なくて。」というと、「いいのよ。気が入ってないんだから。」と答えた。
「風呂に入ってから話がある。二階で話したい。ウィスキーも持って上がってほしい。軽く飲みたいんだ。君も一緒に飲もう。いいかね?」と聞くと、真梨は「なんだか、酔っ払いたいと思ってたのよ。」といった。
二階の寝室で今日の話をした。真梨は「純一も絵梨もいい方向へ向いてくれるといいわね。」と普通の顔をして言った。その通りではあるが、やっぱりうれしそうでも悲しそうでもない。なんだかわからない表情だった。
僕が「明日もう一度会う。その時に養子になった経緯を説明する。君も一緒に来てくれないかな。僕は、どう説明していいかもわからないんだ。」というと、「それを私にやらせるの?」と少し酔いが回った顔で泣いた。
そうだ面白くない原因はこれだ。事の発端は実母が亡くなったことだ。これを純一がどのように受け取るのか?想像もつかない。自分が実父から隠された身だということを、どのように感じるだろう。ここの説明の仕方が分からなかった。うちでは大切に育てたし僕や真梨の愛情は理解できるだろう。
だけど実父のことをどのように思うだろう。母が亡くなっていることを悲しまないだろうか?実母のことを悲しむ純一を見て真梨はどう思うのだろうか?なにか、悲しみや怒りの感情と愛がごっちゃになったややこしい気持ちだった。
真梨は自分は行かないといった。「お兄ちゃん、行ってきて。純一に話してやって。きっと悲しむわ。ホントのお母様のこと。でも純一の母親は私なのよ。私以外の人のことを本気で慕う姿なんて見たくもないの。純一に、そう伝えてほしいのよ。私の前では私の息子でいてほしい。自分が身勝手だってわかってるの。でも、お兄ちゃん私無理だから。」とまた泣いた。
そうだ、ほかに親がいる話なんてまったく面白くもない腹の立つ話だった。それでも、この話は進めなくてはならない。舵を切ってしまった話だった。真梨はこんな時、人使いが荒い。嫌な仕事を押し付けられたものだ。
話が終わってから大阪の聡一に電話をかけた。深夜だったが、あの家は宵っ張りだった。
この時間なら、まだみんな起きているだろうと思った。電話を取ってくれたのは隆君だった。今は弁護士として働いている。駆け出しなので給料は安いと嘆いていた。聡一に代わってもらった。
「純一に絵梨と結婚する気があるか確かめた。絵梨以外の女とは結婚したくないらしい。」というと、聡一は「おお、それやったら、戸籍のこともしっかり調べる。僕としては一旦こっちへ欲しいんや。」といった。途端に拍手が聞こえた。美奈子さんと隆君がずいぶん喜んでいる。
隆君が代わって、「叔父さん、大丈夫、細かいこと僕協力させてもらいます。ほっとしました。僕の兄ちゃんやから絶対幸せになってほしいんです。」といった。
喜んでやがると腹が立ったが、こんなに喜ぶ話なんだと改めてわかった。この話は冷静に考えると喜ばしい話だった。僕は「明日純一に、実親の話をする。お母さんの話もする。
」といった。
昔、実父に会いに行ったことを思い出した。温かい思い出になっている。そういう意味では母を亡くしている純一はかわいそうだった。
続く
2019年06月26日
家族の木 THE SECOND STORY 俊也と真梨 <39 確認>
確認
金曜日の夜、純一は空港ホテルのロビーで待っていた。数カ月合わなかっただけで一段と大人びて見えた。「おお、久しぶりやな。大人っぽくなったなあ。仕事はうまくいってるか?」と聞くと「うん、まあまあだよ。他の新入社員より老けてることが悩みかな?でも、仕事は好きだよ。それに上司とも良好だよ。僕はけっこう年上の扱いはうまいんだよ。」と笑った。
僕は「これからの話はパパと純一の二人の話にしてほしい。」と切り出したが後のことばが出なかった。純一は「縁談のことかな?それならまだ早すぎるよ。仕事も半人前なのに結婚もないし、しばらくは仕事一本で頑張らせてほしいんだよ。なんか、そういう話、凄くめんどくさくて。」と最初から断ってきた。
「いや、結婚というよりは恋愛の話や。」というと、おかしそうな顔をして「えっ、恋愛?どうしたのパパ、こんなに深刻そうに呼び出して二人だけで秘密に恋愛の話するの?パパと僕で?」と笑ってしまった。男親と息子は恋愛の話などしないものだ。
「お前、好きな人はいないのか?」と聞くと「いないよ。」とそっけない。「惚れた女はいないのか?」と聞いても「いない」としか答えない。
意を決して「実は絵梨が長年一人の男を愛していたことが分かった。」というと、急にムッとした顔をして「それを僕に言ってどうなるの?」と不機嫌に答えた。
「その長年の恋男って誰やと思う?」と聞くと「そんなこと僕が知るわけないじゃないの。話ってそういう話?」そうだと答えると不機嫌に立ち上がって、次の便で帰るという。
「お前、絵梨を愛してるんやないのか?写真立ての中を見た。」というと、「だからどうだってんだよ。若い時の気の迷いだよ。何もしてないし、そっとしておいてほしいんだよ。こっちはそのために留学したり大阪へ行ったり、それなりに忘れる努力してるんだよ。」と言い捨ててその場から立ち去ろうとした。
「絵梨も忘れるために好きでもない奴と結婚をしてしまったらしい。」というと、立ち止まった。「絵梨も忘れる努力をしてたらしい。」と念を押した。
「座れ。よく聞け。」といって座らせた。僕が「お前たちはいつまでメロドラマごっこをしているつもりだ。親をいつまでも騙せると思うなよ。」といったとたんに純一が眼がしらを押さえた。しばらく無言だった。
「大阪のおばさんが、いろいろ調べてくれた。どうも、結婚しても法律上問題ないようや。お前に、その気があるなら絵梨にもその話を進めてみる。ただ、絵梨は一度流産を経験してる。今後の妊娠や出産にどんな影響があるのかは誰にもわからん。子供を持てないリスクもある。結婚するなら、その部分をいたわる気持ちがなかったら無理や。もし、その部分で絵梨に辛い思いをさせるようなことが有ったら誰だろうと許すわけにはいかん。お前にその気がないなら、もう東京には戻るな。絵梨はもうぎりぎりや。これ以上悲しいことがあると本当に死んでしまう。絵梨は今はママがいなかったら一人では歩けない。」
純一はきょとんとしていた。叱られるかと思っていたのだろう。それが話が意外な方向を向いていったのが解せないようだった。「純一は養子や。絵梨とは実の兄弟じゃない。だからお前たちは結婚しても問題はない。戸籍の問題を法律的に解決できたら何も問題はない。戸籍も法律的に解決方法があるらしい。今日の話はこれだけや。よく考えて返事をしてくれ。」と話を打ち切った。
「ママと、めんどくさい、じいさんばあさんになろうと約束した。いい加減に決着をつけてくれ。」と言うと、純一は「考えたりしない。考える必要がない。姉ちゃん以外の女とは結婚したくない。」と答えた。
僕は自分のやっていることが、よくわからなかった。姉の縁談を弟に進めている。これはいったい何なんだろう?
「ありがとう。考えはわかった。法律的なことは自分でもしっかり調べてくれ。もともとは絵梨とお前は遠縁の間柄や。結婚しても何ら不思議はない。こちらでもよく調べる。大阪の叔父さんと叔母さんにきちんと報告してくれ。」というと、「はい」と短く素直に返事をした。
「お前の本当の両親の話もしないといけない。これは、もう一度ママと話し合ってみる。ママはお前のことを大切に育てた。だから自分以外の親なんて認めないんや。感謝しろ。」というと「はい」と答えた。「今晩こちらに一泊しろ。明日もう一度会おう。また電話する。」と言うと、また「はい」と答えた。
純一は思春期に入ると急に反抗的で扱いにくい子供になった。今日のように「はい、はい」と何度も素直に答える姿を見るのは何年ぶりだろう。
僕は嬉しくも悲しくもなかった。いや、嬉しいには嬉しかったが同時に悲しかった。腹も立てなかったし笑いもしなかった。いや腹立たしくてしょうがないのに、なんだか気分がほっとして気が緩みそうになる。
結局、無表情の普通の顔をして話した。不思議なことに純一も普通の顔をして「はい」といった、業務連絡を受けたときのようだった。話しながら二人とも先のことがいま一つわからない、呑み込みにくい話だった。
続く
金曜日の夜、純一は空港ホテルのロビーで待っていた。数カ月合わなかっただけで一段と大人びて見えた。「おお、久しぶりやな。大人っぽくなったなあ。仕事はうまくいってるか?」と聞くと「うん、まあまあだよ。他の新入社員より老けてることが悩みかな?でも、仕事は好きだよ。それに上司とも良好だよ。僕はけっこう年上の扱いはうまいんだよ。」と笑った。
僕は「これからの話はパパと純一の二人の話にしてほしい。」と切り出したが後のことばが出なかった。純一は「縁談のことかな?それならまだ早すぎるよ。仕事も半人前なのに結婚もないし、しばらくは仕事一本で頑張らせてほしいんだよ。なんか、そういう話、凄くめんどくさくて。」と最初から断ってきた。
「いや、結婚というよりは恋愛の話や。」というと、おかしそうな顔をして「えっ、恋愛?どうしたのパパ、こんなに深刻そうに呼び出して二人だけで秘密に恋愛の話するの?パパと僕で?」と笑ってしまった。男親と息子は恋愛の話などしないものだ。
「お前、好きな人はいないのか?」と聞くと「いないよ。」とそっけない。「惚れた女はいないのか?」と聞いても「いない」としか答えない。
意を決して「実は絵梨が長年一人の男を愛していたことが分かった。」というと、急にムッとした顔をして「それを僕に言ってどうなるの?」と不機嫌に答えた。
「その長年の恋男って誰やと思う?」と聞くと「そんなこと僕が知るわけないじゃないの。話ってそういう話?」そうだと答えると不機嫌に立ち上がって、次の便で帰るという。
「お前、絵梨を愛してるんやないのか?写真立ての中を見た。」というと、「だからどうだってんだよ。若い時の気の迷いだよ。何もしてないし、そっとしておいてほしいんだよ。こっちはそのために留学したり大阪へ行ったり、それなりに忘れる努力してるんだよ。」と言い捨ててその場から立ち去ろうとした。
「絵梨も忘れるために好きでもない奴と結婚をしてしまったらしい。」というと、立ち止まった。「絵梨も忘れる努力をしてたらしい。」と念を押した。
「座れ。よく聞け。」といって座らせた。僕が「お前たちはいつまでメロドラマごっこをしているつもりだ。親をいつまでも騙せると思うなよ。」といったとたんに純一が眼がしらを押さえた。しばらく無言だった。
「大阪のおばさんが、いろいろ調べてくれた。どうも、結婚しても法律上問題ないようや。お前に、その気があるなら絵梨にもその話を進めてみる。ただ、絵梨は一度流産を経験してる。今後の妊娠や出産にどんな影響があるのかは誰にもわからん。子供を持てないリスクもある。結婚するなら、その部分をいたわる気持ちがなかったら無理や。もし、その部分で絵梨に辛い思いをさせるようなことが有ったら誰だろうと許すわけにはいかん。お前にその気がないなら、もう東京には戻るな。絵梨はもうぎりぎりや。これ以上悲しいことがあると本当に死んでしまう。絵梨は今はママがいなかったら一人では歩けない。」
純一はきょとんとしていた。叱られるかと思っていたのだろう。それが話が意外な方向を向いていったのが解せないようだった。「純一は養子や。絵梨とは実の兄弟じゃない。だからお前たちは結婚しても問題はない。戸籍の問題を法律的に解決できたら何も問題はない。戸籍も法律的に解決方法があるらしい。今日の話はこれだけや。よく考えて返事をしてくれ。」と話を打ち切った。
「ママと、めんどくさい、じいさんばあさんになろうと約束した。いい加減に決着をつけてくれ。」と言うと、純一は「考えたりしない。考える必要がない。姉ちゃん以外の女とは結婚したくない。」と答えた。
僕は自分のやっていることが、よくわからなかった。姉の縁談を弟に進めている。これはいったい何なんだろう?
「ありがとう。考えはわかった。法律的なことは自分でもしっかり調べてくれ。もともとは絵梨とお前は遠縁の間柄や。結婚しても何ら不思議はない。こちらでもよく調べる。大阪の叔父さんと叔母さんにきちんと報告してくれ。」というと、「はい」と短く素直に返事をした。
「お前の本当の両親の話もしないといけない。これは、もう一度ママと話し合ってみる。ママはお前のことを大切に育てた。だから自分以外の親なんて認めないんや。感謝しろ。」というと「はい」と答えた。「今晩こちらに一泊しろ。明日もう一度会おう。また電話する。」と言うと、また「はい」と答えた。
純一は思春期に入ると急に反抗的で扱いにくい子供になった。今日のように「はい、はい」と何度も素直に答える姿を見るのは何年ぶりだろう。
僕は嬉しくも悲しくもなかった。いや、嬉しいには嬉しかったが同時に悲しかった。腹も立てなかったし笑いもしなかった。いや腹立たしくてしょうがないのに、なんだか気分がほっとして気が緩みそうになる。
結局、無表情の普通の顔をして話した。不思議なことに純一も普通の顔をして「はい」といった、業務連絡を受けたときのようだった。話しながら二人とも先のことがいま一つわからない、呑み込みにくい話だった。
続く
2019年06月25日
家族の木 THE SECOND STORY 俊也と真梨 <38 騙し愛>
騙し愛
僕は美奈子さんが言ったことを本気で考えようとしていた。要は戸籍だけの問題だった。多分真梨も同じ考えだろう。ただ純一の気持ちを正面切って確認したものは誰もいない。純一が絵梨を愛していることは僕はよくわかっていた。でも、それが青春の思い出なのか今も本気で愛しているのか?結婚したい気持ちになるのかどうかは僕にはわからない。
もしも純一に結婚の意思がなければ絵梨をどん底に突き落とすことになってしまう。純一の気持ちを確認しなければならなかった。絵梨には内緒で純一と話さなければならない。
絵梨はその日を境に勤務先からの帰りが遅くなった。僕たちと顔を合わせるのが気まずいのだろう。
2週間ぐらいたってから絵梨が「私転職しようと思ってるの。遠くじゃないの。でも、ここからはちょっと通えない。だから引っ越そうかと思って。」といった。
僕も真梨も大反対だった。このまま絵梨を一人暮らしさせるわけにはいかなかった。真梨は「絵梨、バカ娘上等よ。あなた一人で馬鹿になったわけじゃないわよ。パパだってママだって何にも気づかずにボーっとしていたバカ親よ。いいじゃない。同じ穴の狢よ。みんなでお気楽に暮らしましょう。ママを見捨てないでほしいわ。」といった。
言い方は穏やかだったが絶対に一人暮らしはさせないという強い意思表示だった。精神的に不安定になっている絵梨を一人にするわけにはいかなかった。
真梨は絵梨が気がかりで身動きが取れないようだった。しょっちゅう絵梨に付きまとっては冗談を言っていた。絵梨は「ママ心配かけてごめんね。無断で出て行ったりしないから安心して。無理に明るいフリしなくても大丈夫よ。子供をだまそうとしてもだめよ。」と言っていた。母と娘がお互いを気遣って騙しあいをしていた。
僕は焦った。早くことを運ばなければならない。翌日早速純一に電話した。その週末に空港のホテルで待ち合わせた。純一は怪訝そうにしていた。
その翌日には美奈子さんから連絡があった。「こんにちは、お家より会社の方がいいと思って失礼します。実はこないだの戸籍の話、めんどくさいけどやり方はあるようです。養子と実子は結婚しても問題ないんですって。なんなら、一旦、うちへ純一君もらって、婿養子に出すこともできると思うんです。」といった。
「いや、ホントに純一が絵梨と結婚する気があるのかどうか確認しないと。」というと「間違いないわよ。絶対!」と自信満々だった。
「私、なんとか絵梨ちゃんに幸せになってほしいんです。私が軽率やったばっかりに、しょうもない縁談持ち込んでしもて。聡一さんにも合わせる顔がない。それにホントに二人が好き同士やったら全部丸く収まります。好きな二人は一緒にしてやらないと。」と一歩も引かない。なんとなしに梨花叔母に似ている。
続く
僕は美奈子さんが言ったことを本気で考えようとしていた。要は戸籍だけの問題だった。多分真梨も同じ考えだろう。ただ純一の気持ちを正面切って確認したものは誰もいない。純一が絵梨を愛していることは僕はよくわかっていた。でも、それが青春の思い出なのか今も本気で愛しているのか?結婚したい気持ちになるのかどうかは僕にはわからない。
もしも純一に結婚の意思がなければ絵梨をどん底に突き落とすことになってしまう。純一の気持ちを確認しなければならなかった。絵梨には内緒で純一と話さなければならない。
絵梨はその日を境に勤務先からの帰りが遅くなった。僕たちと顔を合わせるのが気まずいのだろう。
2週間ぐらいたってから絵梨が「私転職しようと思ってるの。遠くじゃないの。でも、ここからはちょっと通えない。だから引っ越そうかと思って。」といった。
僕も真梨も大反対だった。このまま絵梨を一人暮らしさせるわけにはいかなかった。真梨は「絵梨、バカ娘上等よ。あなた一人で馬鹿になったわけじゃないわよ。パパだってママだって何にも気づかずにボーっとしていたバカ親よ。いいじゃない。同じ穴の狢よ。みんなでお気楽に暮らしましょう。ママを見捨てないでほしいわ。」といった。
言い方は穏やかだったが絶対に一人暮らしはさせないという強い意思表示だった。精神的に不安定になっている絵梨を一人にするわけにはいかなかった。
真梨は絵梨が気がかりで身動きが取れないようだった。しょっちゅう絵梨に付きまとっては冗談を言っていた。絵梨は「ママ心配かけてごめんね。無断で出て行ったりしないから安心して。無理に明るいフリしなくても大丈夫よ。子供をだまそうとしてもだめよ。」と言っていた。母と娘がお互いを気遣って騙しあいをしていた。
僕は焦った。早くことを運ばなければならない。翌日早速純一に電話した。その週末に空港のホテルで待ち合わせた。純一は怪訝そうにしていた。
その翌日には美奈子さんから連絡があった。「こんにちは、お家より会社の方がいいと思って失礼します。実はこないだの戸籍の話、めんどくさいけどやり方はあるようです。養子と実子は結婚しても問題ないんですって。なんなら、一旦、うちへ純一君もらって、婿養子に出すこともできると思うんです。」といった。
「いや、ホントに純一が絵梨と結婚する気があるのかどうか確認しないと。」というと「間違いないわよ。絶対!」と自信満々だった。
「私、なんとか絵梨ちゃんに幸せになってほしいんです。私が軽率やったばっかりに、しょうもない縁談持ち込んでしもて。聡一さんにも合わせる顔がない。それにホントに二人が好き同士やったら全部丸く収まります。好きな二人は一緒にしてやらないと。」と一歩も引かない。なんとなしに梨花叔母に似ている。
続く
2019年06月24日
THE SECOND STORY 俊也と真梨 <37 姉の恋>
姉の恋
絵梨が外出してから1時間ぐらいたってしまった。心配になったので探しに出ることにした。聡一夫婦も帰っていった。真梨は一言も発しない。つい先日純一を大阪へやる決心をしたのに今度は絵梨だ。きっと言葉なんか出ないのだろう。僕も何が何だかわからなくなっていた。
僕はあわてて仲裁にはいった。「落ち着きなさい。落ち着いて話を聞きなさい。とにかく食事だ。腹が減っては、いい話にならない。真梨、今日はちょっと休憩したらいい。ほらお土産の佃煮でササッとすまそう。明太子とか、とにかく、お茶を飲もう。」と二人をテーブルにつかせた。
絵梨は「ママどうしたの?」と聞いたが、それ以上何も言わなかった。「ママごめんね、さっきは取り乱しちゃって。結婚っていうワードは私にはきついのよ。なんか、その言葉に神経質になっちゃって。叔父さんと叔母さんに失礼なことしちゃった。ママからよろしく言ってほしいわ。純の話まとまればいいね。」といった。
真梨は絵梨の頬にびんたをくれるようなジェスチャーをして頬にちょっと手を触れた。子供のころからやる「怒ってるんだよ」という合図だった。すると絵梨は頭を押さえてうずくまってしまった。少し呼吸が荒くなっていた。
僕はハっとした。絵梨は長谷川に暴力を振るわれていたのだ。真梨も気が付いた。「絵梨、どうしたの?ごめん。絵梨ごめんね。」と抱きしめた。しばらく背中をさすって絵梨が落ち着くのを待った。
真梨は落ち着いた声で、いや、落ち着いた声ではない、子供を諭すような優しい声で、「絵梨はいつから純一を好きだったの?」と聞いた。絵梨は「子供の時からだけど?」と答えた。
「絵梨、いつまで親をだますつもりなの!いい加減にしなさい。いつ頃から純一を愛していたの?」と聞き直した。子供のころ泣いて帰った絵梨に「何があったの?」と聞いたときと同じ声だった。
僕は絵梨を正視できなかった。長谷川との縁談の時には何も感じなかったのに、今、恋の焔に巻かれて身動きできなくなった、女としての娘の姿を冷静な目で見ることができなかった。
絵梨は「パパ、ママごめんね。絵梨はホントはちゃんと人の奥さんになれるような人間じゃないの。弟に恋をしちゃったの。もうずっと昔から。大学を卒業するころには可愛いを通り越して恋しい人になっちゃったのよ。ごめんね。ホントに馬鹿な娘で。ホントにごめんなさい。」と何度も謝った。
僕は「純一は、それを知ってるのか?」と聞いた。絵梨は「感じてると思う。だから留学したんだと思う。だから私も結婚したの。なんとか解決しようとしたの。でも私不器用で夫に愛してもらえなかったの。だから、みんなに心配かけちゃって。でも、純一の縁談は進めてほしいの。純一には普通に幸福になってもらいたいのよ。」といった。
「あなたは本当にバカ娘。こんなことになるなんて想像もしてなかった。よく考えなさい。恋をすることはいけないことじゃないのよ。あなたが馬鹿なところはそこじゃないの。好きでもない人と結婚しちゃダメでしょ!長谷川さんがろくでもない男だったのは、やっぱりあなたのミスよ。
目が曇るのよ。動機が不純だから。もう忘れてほしいわ。純一のことは少し考えなきゃ。私もどうしていいかわからない。でもね、そんなに長い間大切なことを親に隠してちゃいけないのよ。親を甘く見ちゃいけないのよ。そこがあなたの一番馬鹿なとこ。」
真梨の母親としての器量の大きさを初めて思い知った。真梨はやはり人の愛し方を知っている女だった。
続く
絵梨が外出してから1時間ぐらいたってしまった。心配になったので探しに出ることにした。聡一夫婦も帰っていった。真梨は一言も発しない。つい先日純一を大阪へやる決心をしたのに今度は絵梨だ。きっと言葉なんか出ないのだろう。僕も何が何だかわからなくなっていた。
僕はあわてて仲裁にはいった。「落ち着きなさい。落ち着いて話を聞きなさい。とにかく食事だ。腹が減っては、いい話にならない。真梨、今日はちょっと休憩したらいい。ほらお土産の佃煮でササッとすまそう。明太子とか、とにかく、お茶を飲もう。」と二人をテーブルにつかせた。
絵梨は「ママどうしたの?」と聞いたが、それ以上何も言わなかった。「ママごめんね、さっきは取り乱しちゃって。結婚っていうワードは私にはきついのよ。なんか、その言葉に神経質になっちゃって。叔父さんと叔母さんに失礼なことしちゃった。ママからよろしく言ってほしいわ。純の話まとまればいいね。」といった。
真梨は絵梨の頬にびんたをくれるようなジェスチャーをして頬にちょっと手を触れた。子供のころからやる「怒ってるんだよ」という合図だった。すると絵梨は頭を押さえてうずくまってしまった。少し呼吸が荒くなっていた。
僕はハっとした。絵梨は長谷川に暴力を振るわれていたのだ。真梨も気が付いた。「絵梨、どうしたの?ごめん。絵梨ごめんね。」と抱きしめた。しばらく背中をさすって絵梨が落ち着くのを待った。
真梨は落ち着いた声で、いや、落ち着いた声ではない、子供を諭すような優しい声で、「絵梨はいつから純一を好きだったの?」と聞いた。絵梨は「子供の時からだけど?」と答えた。
「絵梨、いつまで親をだますつもりなの!いい加減にしなさい。いつ頃から純一を愛していたの?」と聞き直した。子供のころ泣いて帰った絵梨に「何があったの?」と聞いたときと同じ声だった。
僕は絵梨を正視できなかった。長谷川との縁談の時には何も感じなかったのに、今、恋の焔に巻かれて身動きできなくなった、女としての娘の姿を冷静な目で見ることができなかった。
絵梨は「パパ、ママごめんね。絵梨はホントはちゃんと人の奥さんになれるような人間じゃないの。弟に恋をしちゃったの。もうずっと昔から。大学を卒業するころには可愛いを通り越して恋しい人になっちゃったのよ。ごめんね。ホントに馬鹿な娘で。ホントにごめんなさい。」と何度も謝った。
僕は「純一は、それを知ってるのか?」と聞いた。絵梨は「感じてると思う。だから留学したんだと思う。だから私も結婚したの。なんとか解決しようとしたの。でも私不器用で夫に愛してもらえなかったの。だから、みんなに心配かけちゃって。でも、純一の縁談は進めてほしいの。純一には普通に幸福になってもらいたいのよ。」といった。
「あなたは本当にバカ娘。こんなことになるなんて想像もしてなかった。よく考えなさい。恋をすることはいけないことじゃないのよ。あなたが馬鹿なところはそこじゃないの。好きでもない人と結婚しちゃダメでしょ!長谷川さんがろくでもない男だったのは、やっぱりあなたのミスよ。
目が曇るのよ。動機が不純だから。もう忘れてほしいわ。純一のことは少し考えなきゃ。私もどうしていいかわからない。でもね、そんなに長い間大切なことを親に隠してちゃいけないのよ。親を甘く見ちゃいけないのよ。そこがあなたの一番馬鹿なとこ。」
真梨の母親としての器量の大きさを初めて思い知った。真梨はやはり人の愛し方を知っている女だった。
続く
2019年06月23日
家族の木 THE SECOND STORY 俊也と真梨 <37 姉の恋>
姉の恋
聡一夫婦の来訪が純一の縁談に関してだと知った時、絵梨は不自然に取り乱して外出してしまった。
美奈子さんは「私ね最近気になることができたんです。純一君のこと。純一君、隆とそっくりよね。純一君、ひょっとしたら、あなたの子供やないの?」と聡一を見た。何気ない口調で聡一の心臓をぶち抜いた。聡一は顔面蒼白になっていたが否定しなかった。
「私、こちらに純一君できはったって聞いたとき、なんか不自然な感じがしてたんです。でも、そんなこと深く考える余裕なかったんです。あの時、私、実は、拗ねて結婚したんです。母親に急かされて急かされて。田原の息子と結婚したら叔父の資産取り戻せるんやからって言われて。私、あのころ、母に逆らうことができなかったんです。せやから、母のいいなりになって結婚したんです。」話がどんどん深刻な方へ向いてしまった。
聡一も「そういえば、新婚のころの君はほんまに難しい嫁さんやったなあ。直ぐ黙ってしまうし、すぐ体壊すし。」と聡一も黙っていない。
「田原のお義父さんもお義母さんも優しいのをいいことに都合の悪いことに目をつぶってたんです。あの時、子供さんがいはって、どっかへ養子に出しはったっていう話、なんとなく知ってたんですけど、知らんぷり決め込んでました。純一君と付き合ってるうちに、なんとなく養子に出されたのはこの子やないかと気が付いたんです。隆と純一君、ホントに気が合うし。」といった。この人はいつも突然大砲をさく裂させる人だった。
「絵梨ちゃんと純一君、実の兄弟やないんと違います?そやから、お互い好きおおてるのと違います?絵梨ちゃんが可愛そうなことになった時、純一君、絵梨ちゃんのことほっとかれへんようになったんと違います?」といった。僕たち夫婦は何も言葉が出なかった。
「もしもよ、もしも2人が相思相愛やったら話は簡単ですよね。戸籍上のことだけですよね。ねえ、あなた、この話冗談ごとやないよ。2人の幸福考えたら本気で何とかしないと。ちょっと、大阪へ帰って隆に聞いてみます。今度の縁談は一旦止めます。どんな形にしろ、そういう縁談進めるわけにはいかへんわ。」といった。
「私、お義母さんが真梨さんのことものすごく大切にしてはることも腑に落ちるんです。ちょっとやきもち焼いてたんです。でも、そんな甘い話やないことが分かってきました。」と美奈子さんは、もう純一が聡一の子供と決め込んでいた。
僕は何か現実とは違う場所にいるような気がしていた。絵梨が純一を愛している?そんなことあり得るか?でも、確かにさっきの絵梨の態度は不自然だ。
聡一は涙目になっていた。「長いこと騙して悪かったな。このままだまし続けるつもりやった。罪な話やな。それにしても拗ねてたとは知らんかったな。身体も心も弱い人やと思ってた。」といった。聡一夫婦の雲行きが怪しくなってきた。
美奈子さんは「拗ねてたんは悪かったけど、こんな隠し事してはったんやから、おあいこですやないの。」とあっさり言ってのけて、聡一はぐうの音も出なかった。
「私、結婚するの嫌やったんです。ご存知やと思いますけど私の父にはお妾さんとの間に子供がいました。お妾さん言うても私と同い年ぐらいの人です。母に勝ち目ないやないですか。男の人ってみなそんなもんやと思ってました。だから結婚なんて嫌やったんです。
そやけど田原の家の人は皆ちゃんとしてて、聡一さんも俊也兄さんもちゃんとした家庭人やったから、私、自分の幸せ守りたかったんです。そやから、どこかにもらわれた子供さんのこと自分に目隠ししてたんです。でも、絵梨ちゃんのこともあるし、なんとか幸せになってほしいんです。」
美奈子さんの父親は衆議院議員の山下健三という人だった。普段は東京住まいで現地妻のような人がいたのは親戚の間でも皆知っていた。
続く
聡一夫婦の来訪が純一の縁談に関してだと知った時、絵梨は不自然に取り乱して外出してしまった。
美奈子さんは「私ね最近気になることができたんです。純一君のこと。純一君、隆とそっくりよね。純一君、ひょっとしたら、あなたの子供やないの?」と聡一を見た。何気ない口調で聡一の心臓をぶち抜いた。聡一は顔面蒼白になっていたが否定しなかった。
「私、こちらに純一君できはったって聞いたとき、なんか不自然な感じがしてたんです。でも、そんなこと深く考える余裕なかったんです。あの時、私、実は、拗ねて結婚したんです。母親に急かされて急かされて。田原の息子と結婚したら叔父の資産取り戻せるんやからって言われて。私、あのころ、母に逆らうことができなかったんです。せやから、母のいいなりになって結婚したんです。」話がどんどん深刻な方へ向いてしまった。
聡一も「そういえば、新婚のころの君はほんまに難しい嫁さんやったなあ。直ぐ黙ってしまうし、すぐ体壊すし。」と聡一も黙っていない。
「田原のお義父さんもお義母さんも優しいのをいいことに都合の悪いことに目をつぶってたんです。あの時、子供さんがいはって、どっかへ養子に出しはったっていう話、なんとなく知ってたんですけど、知らんぷり決め込んでました。純一君と付き合ってるうちに、なんとなく養子に出されたのはこの子やないかと気が付いたんです。隆と純一君、ホントに気が合うし。」といった。この人はいつも突然大砲をさく裂させる人だった。
「絵梨ちゃんと純一君、実の兄弟やないんと違います?そやから、お互い好きおおてるのと違います?絵梨ちゃんが可愛そうなことになった時、純一君、絵梨ちゃんのことほっとかれへんようになったんと違います?」といった。僕たち夫婦は何も言葉が出なかった。
「もしもよ、もしも2人が相思相愛やったら話は簡単ですよね。戸籍上のことだけですよね。ねえ、あなた、この話冗談ごとやないよ。2人の幸福考えたら本気で何とかしないと。ちょっと、大阪へ帰って隆に聞いてみます。今度の縁談は一旦止めます。どんな形にしろ、そういう縁談進めるわけにはいかへんわ。」といった。
「私、お義母さんが真梨さんのことものすごく大切にしてはることも腑に落ちるんです。ちょっとやきもち焼いてたんです。でも、そんな甘い話やないことが分かってきました。」と美奈子さんは、もう純一が聡一の子供と決め込んでいた。
僕は何か現実とは違う場所にいるような気がしていた。絵梨が純一を愛している?そんなことあり得るか?でも、確かにさっきの絵梨の態度は不自然だ。
聡一は涙目になっていた。「長いこと騙して悪かったな。このままだまし続けるつもりやった。罪な話やな。それにしても拗ねてたとは知らんかったな。身体も心も弱い人やと思ってた。」といった。聡一夫婦の雲行きが怪しくなってきた。
美奈子さんは「拗ねてたんは悪かったけど、こんな隠し事してはったんやから、おあいこですやないの。」とあっさり言ってのけて、聡一はぐうの音も出なかった。
「私、結婚するの嫌やったんです。ご存知やと思いますけど私の父にはお妾さんとの間に子供がいました。お妾さん言うても私と同い年ぐらいの人です。母に勝ち目ないやないですか。男の人ってみなそんなもんやと思ってました。だから結婚なんて嫌やったんです。
そやけど田原の家の人は皆ちゃんとしてて、聡一さんも俊也兄さんもちゃんとした家庭人やったから、私、自分の幸せ守りたかったんです。そやから、どこかにもらわれた子供さんのこと自分に目隠ししてたんです。でも、絵梨ちゃんのこともあるし、なんとか幸せになってほしいんです。」
美奈子さんの父親は衆議院議員の山下健三という人だった。普段は東京住まいで現地妻のような人がいたのは親戚の間でも皆知っていた。
続く
2019年06月22日
THE SECOND STORY 俊也と真梨 <36 弟の縁談>
弟の縁談
こんな日々の中、大阪の聡一から夫婦で会いたいと連絡がきた。そちらもご夫婦でという話だった。
聡一夫婦は土曜日の夕方、夫婦で我が家にやってきた。服装が少し改まっていたので何事かと思った。純一の見合いの話だった。相手は美奈子さんの親戚の浅田家の親戚の娘だ。今度は身近に付き合っている家だから大丈夫。浅田家はもともと大阪の田原と親しい。それに、結婚したら大阪に住むことになる。全く無縁の土地に行くのではない。先方の親が純一を見染めてくれたという話だった。
絵梨がお茶を持って部屋に入ってきた。「こんにちは、いらっしゃいませ。」とあいさつした。「絵梨ちゃん、元気そうでよかった。」と美奈子さんが言った。テーブルの上には、「釣り書」と書かれた書類があった。
「純一の縁談よ。絵梨もお話伺う?」と真梨がいった。絵梨の動作が一瞬止まって表情がゆがんだ。心なしか震えているようにも見えた。「いえ、私ちょっと用事があって。」と突然踵を返して部屋を出てしまった。
絵梨の不自然な態度に皆、一瞬、呆気にとられた。しばらくして絵梨が外出する音が聞こえた。
縁談に関しては特に断る理由もないのでよろしくお願いしますということで話は終わった。これから純一と話すということだった。縁談といってもまだ本人同士は全く知らない話だ。
本人同士が気に入らなければ進まない。まとまって欲しいような、まとまって欲しくないような複雑な気持ちだった。
話がいったん終わったところで今度は僕がコーヒーを淹れた。その時、美奈子さんが口火を切った。「さっき絵梨ちゃん様子がおかしくなかった?私には絵梨ちゃんが震えてるように見えたんやけど。」といった。聡一も「ちょっと、様子が変やったな。体調が悪かったんかな?その割にはすぐ、どっかへ行ったみたいやな。」といった。
真梨も黙って考え込んでいた。「ねえ、絵梨ちゃん純一君のこと好きなんやないの?」と美奈子さんが声を落として言った。僕は「そんなことは無いだろう。だって絵梨は結婚したんですよ。不幸な結果だったけれど。」と言い終わらないうちに、数日前の絵梨の言葉を思い出していた。
絵梨は「好きでもない結婚」と言った。確かにそういった。真梨も同じことを考えていたようだった。
続く
こんな日々の中、大阪の聡一から夫婦で会いたいと連絡がきた。そちらもご夫婦でという話だった。
聡一夫婦は土曜日の夕方、夫婦で我が家にやってきた。服装が少し改まっていたので何事かと思った。純一の見合いの話だった。相手は美奈子さんの親戚の浅田家の親戚の娘だ。今度は身近に付き合っている家だから大丈夫。浅田家はもともと大阪の田原と親しい。それに、結婚したら大阪に住むことになる。全く無縁の土地に行くのではない。先方の親が純一を見染めてくれたという話だった。
絵梨がお茶を持って部屋に入ってきた。「こんにちは、いらっしゃいませ。」とあいさつした。「絵梨ちゃん、元気そうでよかった。」と美奈子さんが言った。テーブルの上には、「釣り書」と書かれた書類があった。
「純一の縁談よ。絵梨もお話伺う?」と真梨がいった。絵梨の動作が一瞬止まって表情がゆがんだ。心なしか震えているようにも見えた。「いえ、私ちょっと用事があって。」と突然踵を返して部屋を出てしまった。
絵梨の不自然な態度に皆、一瞬、呆気にとられた。しばらくして絵梨が外出する音が聞こえた。
縁談に関しては特に断る理由もないのでよろしくお願いしますということで話は終わった。これから純一と話すということだった。縁談といってもまだ本人同士は全く知らない話だ。
本人同士が気に入らなければ進まない。まとまって欲しいような、まとまって欲しくないような複雑な気持ちだった。
話がいったん終わったところで今度は僕がコーヒーを淹れた。その時、美奈子さんが口火を切った。「さっき絵梨ちゃん様子がおかしくなかった?私には絵梨ちゃんが震えてるように見えたんやけど。」といった。聡一も「ちょっと、様子が変やったな。体調が悪かったんかな?その割にはすぐ、どっかへ行ったみたいやな。」といった。
真梨も黙って考え込んでいた。「ねえ、絵梨ちゃん純一君のこと好きなんやないの?」と美奈子さんが声を落として言った。僕は「そんなことは無いだろう。だって絵梨は結婚したんですよ。不幸な結果だったけれど。」と言い終わらないうちに、数日前の絵梨の言葉を思い出していた。
絵梨は「好きでもない結婚」と言った。確かにそういった。真梨も同じことを考えていたようだった。
続く
2019年06月21日
THE SECOND STORY 俊也と真梨 <35 養父と実父>
養父と実父
僕は聡一に電話をして改めて純一のことを頼んだ。そのことで大阪まで出向く気にはなれなかった。真梨の言うように普通に息子の家に遊びに行けばいいことだと言い聞かせても気分がすぐれなかった。
僕たち夫婦には選択肢なんかなかった。こうする以外になかった。純一を迎えた日から今までの時間は何だったのだろうと思ってしまう。息子が親のそばから離れた場所で家庭を持つことなんて普通のことだとわかっていた。それでも割り切れなかった。
聡一は「わかった。任してくれ。兄ちゃんの息子、幸福になるようがんばるわ。」といった。心なしか嬉しそうに聞こえて腹が立った。
THE SECOND STORY 俊也と真梨 <35 姉の気持ち>
絵梨の縁談も考えなければならなかった。いや、むしろ絵梨の縁談の方が大切かもしれない。しかし、これが難題だった。絵梨の暮らしを安定させるためには会社経営ができる婿が必要だった。今僕が社長をしている会社は叔父がコツコツ作り上げた会社だ。自分たちの都合で簡単に手放していいとは思えなかった。
社員の一人と結婚してくれるのが一番いい。社員の中には信頼できる若い男もいた。その男は絵梨よりも3歳年上で東京生まれの東京育ちだ。同じ時期に同じ土地で学生時代を過ごしているのだから何かと話も合うだろう。意外に進む話かもしれない。
真梨もその話には乗り気になった。真梨にしてみれば純一の縁談よりも先に絵梨の縁談がまとまってほしいと思っているだろう。なんとか、この男と絵梨が合う機会を作らなければならない。案外気が合って仲良くなれるような気がした。
絵梨がもう一度見合いをするとは思えなかった。自然に出会って好感を持ってくれればそれが一番よかった。いきなり食事に呼ぶのも唐突だろう。はてどうしたものか?
そう考えつつも、では純一はどうなるんだと思った。純一を弟の子だと割り切れなかった。
純一に会社を継いでほしかった。ずっと、そのつもりで暮らしていた。僕の理想は、純一と絵梨か絵梨の婿が後を継いでくれることだった。この思いがしつこく胸の奥でくすぶっていた。
真梨から、それとなく絵梨に結婚の意向を確認してみた。絵梨は「ママ心配かけてごめんね。でも今私頑張ってるの。このまま正職員として働けたら、ちゃんと厚生年金ももらえるし何とか自立できると思うのよ。将来純一の足手まといにならなくて済むようにしたいの。」といった。絵梨は純一が会社を継ぐと思っているのだ。
真梨が、それとなく「絵梨のお婿さんが会社を継いでもいいし何なら絵梨が今から入社して頑張ってみてもいいのよ。今ならパパに習いながら経営者を目指すことだってできるわよ。」といった。その瞬間、絵梨の顔色が変わった。「純が継ぐのよ。当たり前でしょ。そのために私、好きでもない人と結婚したのよ。」と気色ばんだ。
なぜか二人で継ぐという選択肢がなかった。普通に、どちらかが社長になって、どちらかが役員になってもいいはずなのに、絵梨はもともとうちの幼児教育部門の発案者だ。立ち上げのときも自分で様々な努力も勉強もしている。2人で分担すればいいだけなのに、なぜ、この娘は別の道を行こうとしているのだろう?
好きでもない人と結婚をしたってどういうことだ?僕は少し混乱した。これ以上話すと険悪になりそうだった。真梨も絵梨の言葉に押されて黙ってしまった。日を改めたほうがよさそうだ。
続く
僕は聡一に電話をして改めて純一のことを頼んだ。そのことで大阪まで出向く気にはなれなかった。真梨の言うように普通に息子の家に遊びに行けばいいことだと言い聞かせても気分がすぐれなかった。
僕たち夫婦には選択肢なんかなかった。こうする以外になかった。純一を迎えた日から今までの時間は何だったのだろうと思ってしまう。息子が親のそばから離れた場所で家庭を持つことなんて普通のことだとわかっていた。それでも割り切れなかった。
聡一は「わかった。任してくれ。兄ちゃんの息子、幸福になるようがんばるわ。」といった。心なしか嬉しそうに聞こえて腹が立った。
THE SECOND STORY 俊也と真梨 <35 姉の気持ち>
絵梨の縁談も考えなければならなかった。いや、むしろ絵梨の縁談の方が大切かもしれない。しかし、これが難題だった。絵梨の暮らしを安定させるためには会社経営ができる婿が必要だった。今僕が社長をしている会社は叔父がコツコツ作り上げた会社だ。自分たちの都合で簡単に手放していいとは思えなかった。
社員の一人と結婚してくれるのが一番いい。社員の中には信頼できる若い男もいた。その男は絵梨よりも3歳年上で東京生まれの東京育ちだ。同じ時期に同じ土地で学生時代を過ごしているのだから何かと話も合うだろう。意外に進む話かもしれない。
真梨もその話には乗り気になった。真梨にしてみれば純一の縁談よりも先に絵梨の縁談がまとまってほしいと思っているだろう。なんとか、この男と絵梨が合う機会を作らなければならない。案外気が合って仲良くなれるような気がした。
絵梨がもう一度見合いをするとは思えなかった。自然に出会って好感を持ってくれればそれが一番よかった。いきなり食事に呼ぶのも唐突だろう。はてどうしたものか?
そう考えつつも、では純一はどうなるんだと思った。純一を弟の子だと割り切れなかった。
純一に会社を継いでほしかった。ずっと、そのつもりで暮らしていた。僕の理想は、純一と絵梨か絵梨の婿が後を継いでくれることだった。この思いがしつこく胸の奥でくすぶっていた。
真梨から、それとなく絵梨に結婚の意向を確認してみた。絵梨は「ママ心配かけてごめんね。でも今私頑張ってるの。このまま正職員として働けたら、ちゃんと厚生年金ももらえるし何とか自立できると思うのよ。将来純一の足手まといにならなくて済むようにしたいの。」といった。絵梨は純一が会社を継ぐと思っているのだ。
真梨が、それとなく「絵梨のお婿さんが会社を継いでもいいし何なら絵梨が今から入社して頑張ってみてもいいのよ。今ならパパに習いながら経営者を目指すことだってできるわよ。」といった。その瞬間、絵梨の顔色が変わった。「純が継ぐのよ。当たり前でしょ。そのために私、好きでもない人と結婚したのよ。」と気色ばんだ。
なぜか二人で継ぐという選択肢がなかった。普通に、どちらかが社長になって、どちらかが役員になってもいいはずなのに、絵梨はもともとうちの幼児教育部門の発案者だ。立ち上げのときも自分で様々な努力も勉強もしている。2人で分担すればいいだけなのに、なぜ、この娘は別の道を行こうとしているのだろう?
好きでもない人と結婚をしたってどういうことだ?僕は少し混乱した。これ以上話すと険悪になりそうだった。真梨も絵梨の言葉に押されて黙ってしまった。日を改めたほうがよさそうだ。
続く