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Wikileaksは「アフガン戦争日誌」と名づけられた9万1000以上の文書群を保有、そのうち7万5000文書を公表した。残る1万5000は内容を確認してから明らかにするようだ。 この文書群はイギリスのガーディアン、ドイツのシュピーゲル、そしてアメリカのニューヨーク・タイムズへ事前に渡され、ガーディアンは特に詳しく報じている。ニューヨーク・タイムズはアメリカ政府から「コメントを求める」という理由で当局者と接触、文書を見せているようだ。善意に解釈すれば、「保身」のためなのだろう。 問題の文書群には、アフガニスタンで2004年から10年にかけて兵士や情報機関員が書いた報告書などが含まれ、非戦闘員の殺害や特殊部隊による暗殺作戦などの実態が明らかにされている。パキスタンの情報機関とタリバーンとの協力関係はこれまでにも指摘されてきたが、今回の公表で、アメリカ軍も同じ認識を持っていることが確認された。「アフガン戦争日誌」は、アメリカ軍が侵略/占領軍にすぎないことも明らかにしている。 アフガニスタンではUAV(無人航空機)が結婚式を攻撃するなど、非戦闘員を殺害してきたことは知られているが、「アフガン戦争日誌」ではNATO軍の特殊部隊、「タスク・フォース373」による非戦闘員の殺害も明らかにされた。同部隊はタリバーンやアルカイダの大物とみなされた2000名以上の名前が記載されたリストに基づき、ターゲットを追跡/殺害しているのだが、女性や子どもを含む非戦闘員も殺している。 2003年の夏、アメリカがイラクへ軍事侵攻して間もない頃に掃討作戦を実行する目的で「タスク・フォース121」が編成されている。メンバーは、陸軍のデルタフォース、海軍のSEALs、そしてCIAの特殊部隊から集められている。特殊部隊の重用は当時の国防長官、ドナルド・ラムズフェルドの意向であり、イスラエルの影響を受けたものだという。 調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュによると、イスラエルの戦闘員や情報機関員はアメリカのフォート・ブラッグ(特殊部隊の本拠地)に派遣され、イスラエルではイラク占領の準備に協力していた。 もっとも、アメリカの情報機関と特殊部隊はベトナム戦争でも反抗的な傾向の強い地域で農民を皆殺しにしたり、都市部で「爆弾テロ」を繰り返す「フェニックス・プログラム」を実行していたわけで、「殺人部隊」を編成した全責任をイスラエルに押しつけることは間違っている。「類は友を呼ぶ」といったところだろう。 こうしたアメリカの暴力装置に組み込まれつつあるのが日本の自衛隊。「アフガン戦争日誌」によって、アメリカの軍隊や情報機関が「戦争犯罪」の領域に足を踏み入れていることが確認されたが、そのアメリカを日本の政府は支援し続けている。Wikileaksによる機密文書の公表は日本政府が支えてきたアフガニスタンやイラクでの戦争の実態を明らかにしているわけで、日本人にも関係がある。アメリカ政府の反応を伝えればいいとマスコミ社員が考えているとするならば、大きな間違いだ。 今回の文書公表について、ホワイトハウスや国防総省の広報担当は「国家安全保障」を脅かすと非難、狂信的な親イスラエル派として知られるジョー・リーバーマン上院議員も同調しているのだが、NBCのマイケル・イシコフ記者によると、国防総省の調査チームはそうした見解を否定している。 実際、文書の公開が原因で戦場の兵士が危険にさらされるという主張には説得力がない。文書に書かれた出来事は過去のものにすぎず、現地の人々は体験から知っていることだからである。文書は、抵抗運動を呼び起こすような殺戮を占領軍が繰り返してきたことを明確にしているだけだ。アメリカ政府が文書の公表を嫌がる最大の理由は、自分たちの悪事が明確になったからだろう。 公開された文書が過去のものだという点で、ホワイトハウスと近い関係にあるアイク・スケルトン下院議員も同じ意見を持っている。文書に書かれているような状況は「新しい戦略」によって改善されるという「希望的観測」はともかく、文書が現在の作戦に影響しないという点で国防総省の調査チームとも意見が一致している。 アメリカに限らず、権力を握る人々が「秘密」を好む最大の理由は、自分たちの腐敗した実態が露見したり、悪事が発覚することを恐れるからである。日本の官僚が情報を独占し、国民に公表したがらない理由も同じだ。自民党に替わって政権の座についた民主党が最初に行うべきだったのは情報公開の徹底だったのだが、実行できなかった。その時点で民主党の命運は尽きたと言える。 また、本来、ジャーナリズムが「国家の秘密」を暴露しなければならないのだが、そんな気骨のあるメディアは存在せず、権力犯罪に挑むような記者は露骨に排除されてきた。これは日本だけでなく、全世界で言える話だ。そうした中、Wikileaksは21世紀のジャーナリズムだと考える人も出てきたが、当然だろう。
2010.07.27
今から65年前、つまり1945年7月26日、アメリカのハリー・トルーマン大統領、イギリスのウィンストン・チャーチル首相、そしてソ連のヨシフ・スターリン首相(人民委員会議長)は日本に対し、無条件降伏を求める宣言を発表した。「ポツダム宣言」である。 この年の4月12日、ドイツが降伏する直前にフランクリン・ルーズベルトが急死したことにともない、副大統領のトルーマンが自動的に昇格したのだが、この交代劇は現代史に少なからぬ影響を与えている。 ポツダム宣言が発表された時点でイギリスでは、ソ連を奇襲攻撃する目的で「アンシンカブル作戦」が練られていた。数十万人の米英軍に加え、再武装された10万人のドイツ兵を北ヨーロッパの基地からソ連に軍事侵攻させ、諸都市を攻撃するという内容だった。この作戦を推進したのはチャーチルなど「文民」で、軍幹部は非現実的だとして反対していたとされている。 イギリス軍からの反対がなくても、ルーズベルトが生きていたなら、この計画は成り立たなかった。ルーズベルトは反ファシストであり、ソ連とは友好的な関係を結ぼうとしていたからである。こうした背景もあり、スターリンはルーズベルトがチャーチルの一派に暗殺されたと信じていたようだ。 アメリカの場合、イギリスと違って軍の幹部がソ連との戦争に積極的だった。「(19)48年後半までに、準軍事戦の専門家であるロバート・マックルア将軍は、統合参謀本部(JCS)に働きかけ、ソ連への核攻撃に続く全面的なゲリラ戦計画を承認させていた」のだ。1949年に作成された研究報告によると、「70個の原爆が、30日間にわたって、あらかじめ決められたソ連の標的に長距離爆撃機から落とされる予定になっていた。」(クリストファー・シンプソン著、松尾弌之訳『冷戦に憑かれた亡者たち』時事通信、1994年) この計画は戦略爆撃機や大陸間弾道ミサイルでアメリカが圧倒しているという前提で成り立つのだが、中距離ミサイルが届く範囲にソ連の軍事拠点ができると作戦の前提が崩壊する。つまり、キューバの革命政権を崩壊させ、アメリカの完全な支配下におく必要があるということだ。だからこそ、アメリカの軍事強硬派はキューバへの軍事侵攻を試みたと言える。キューバ人を装ってアメリカの諸都市で「爆弾テロ」を実行、最後には旅客機を自爆させ、キューバ軍に撃墜されたと宣伝、「報復攻撃」をするという「ノースウッズ作戦」もそうしたシナリオの中で作られたわけだ。 こうしたキューバ侵攻作戦を阻止、1963年6月にはアメリカン大学の卒業式で「平和の戦略」と呼ばれる演説を行い、ソ連と友好関係を結ぼうとしたのがジョン・F・ケネディ大統領。この演説から5カ月後、テキサス州ダラスで暗殺されている。(この辺の事情は次の本で詳しく解説する予定。) ルーズベルト大統領の急死は広島や長崎への原爆投下、さらに核兵器競争にも大きな影響を及ぼしている。 核兵器開発の切っ掛けを作ったと言われる科学者、例えばレオ・シラードやアルバート・アインシュタインたちは第2次世界大戦の終盤になると、原子爆弾の使用に反対するようになっていた。1945年3月の下旬には、シラードをルーズベルト大統領に会わせるため、アインシュタインが紹介状を書いている。原爆の人間への使用を思い止まるよう説得するつもりだった。この手紙を受け取った大統領の妻、エレノアは5月8日に会うと答えている。勿論、この会談は実現していない。4月12日に大統領が急死したからだ。 4月25日にヘンリー・スティムソン陸軍長官とレスリー・グローブス少将(当時)がトルーマン大統領と会い、原爆について説明、日本がターゲットだと伝えている。グローブは「マンハッタン計画」を指揮した人物。この時点で投下候補地として京都、広島、小倉、新潟が挙がっていたのだが、京都は長崎に変更される。 5月25日、シラードはアインシュタインの手紙を携えてトルーマン大統領を訪ね、原爆を投下しないように説得を試みたが、成功しなかった。ルーズベルトが急死しなかったならば、原爆が投下されなかった可能性も小さくない。 日本では真珠湾攻撃を正当化したい人々が、ルーズベルトを悪役にしたストーリーを宣伝している。アメリカを支配するエスタブリッシュメントの仲間、あるいは代理人だというわけだ。 言うまでもなく、権力層とつながっていなければ、大統領どころが議員になることも難しいのだが、ルーズベルトが歴代大統領の中では、そうした権力層と遠い関係にあることも事実だ。だからこそ、1932年の大統領選挙で当選した後、翌年の就任式を前にして銃撃され、就任直後からモルガンをはじめとするウォール街の大物が反ルーズベルト/親ファシストのクーデターを計画、スメドレー・バトラー退役少将が議会で告発したために失敗している。(この件については拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』で説明した。)
2010.07.26
防衛省技術研究本部が開発し、硫黄島の近くで試験飛行していたUAV(無人航空機)が23日、同島の西北西9キロの海上に落下した。試験飛行中の墜落は2月に続いて2度目。今回は、F15戦闘機から離脱して2分後、エンジンにトラブルが発生したと報道されている。同機はエンジンの点火に放射性物質のクリプトン85を使用していたが、文科省は環境に影響を及ぼすことはないと発言している。 ちなみに、日本で製造されているUAVにはTACOM(偵察)、FFOS(観測)、J/AQM(標的)、KAQ-1(標的)、また産業用としてはRPH-2、R-50、R-MAXがある。 アメリカはイラクやアフガニスタンだけでなくメキシコとの国境線でもUAVを使い、その目的も偵察だけでなく、殺人兵器として多用されている。 中でも有名なUAVは、アメリカのジェネラル・アトミックス(かつて、ジェネラル・ダイナミクスの1部門だった)が製造しているプレデター(捕食者)やリーバー(死神)で、1機あたりのコストは前者が450万ドル(約4億円)、後者は1500万ドル(約13億円)。それに対し、墜落した防衛省のUAVは2月のUAVが8億円、今回は25億円だとか。 プレデターが実戦で初めて使われたのはユーゴスラビアを攻撃したときで、2001年2月には武装タイプが作られ、ヘルファイア(地獄の業火)・ミサイル3発を試験発射し、成功している。2001年に登場したリーパーは攻撃能力が大幅に強化され、ヘルファイア4発と500ポンド爆弾GBU-12を2発(ヘルファイアだけなら14発まで搭載できる)を積み込むことができる。 偵察機がいつの間にか「空爆」に使われるようになり、要人を暗殺するための兵器という側面も持つようになった。こうした兵器の開発ではイスラエルが先行していると言われているが、2006年には、そのイスラエルにヒズボラのUAVが飛来したという。UAVは拡散している。今後、犯罪組織が殺人用に使う可能性もある。こうした流行に乗り、日本の防衛省もUAVを開発しているのだろう。 ところで、技術研究本部はステルス戦闘機ATD-X(心神)も開発している。主契約者は三菱重工で、そのほか富士重工、川崎重工、そしてIHIが研究開発に参加している。この航空機は直接、次期戦闘機につながるのではなく、「ATDX(先進技術実証機)」、つまり研究機の一種なのだという。エンジンの国産化はうまくいかず、国外で物色しているようだ。 UAVにしろステルス機にしろ、ある種の人々にとっては魅力的な「おもちゃ」なのだろうが、この「おもちゃ」は人殺しの道具である。そのターゲットは地上にいるわけだが、戦闘機のパイロットは相手が見えない上空で、UAVの場合は、はるか遠方で引き金を引くことになる。攻撃側にしてみると、コンピュータ・ゲームと大差はない。おもちゃで遊ぶ子どもは可愛いが、兵器を操るオペレーターやパイロット、あるいは彼らの上官たちは単なる「子ども」でなく、「デミアン」のようにも見える。
2010.07.25
イスラエルとアメリカ、両国で朝鮮に関する興味深い報道があった。イスラエル政府が朝鮮を攻撃しているのに対し、アメリカでは逆の報道があったのだ。 イスラエルのハーレツによると、イスラエルは国連の安全保障理事会に対し、朝鮮による弾道ミサイルの拡散は中東を不安定化させているとした上で、そうした行為を止めさせるように求めたという。 1980年代にはカチューシャ・ロケット弾をイスラエルは朝鮮から大量に買い付け、イランへ転売して大儲けしている。つまり、イスラエルと朝鮮はビジネス・パートナーだったのだが、今は敵対関係にあるようだ。 昨年12月にタイで拿捕された朝鮮の船は、ガザのハマスやレバノンのヒズボラに引き渡す武器を積んでいたとされているのだが、イスラエルのアビグドル・リーバーマン外相は5月、朝鮮はシリアやイランのミサイル計画を支援していると非難している。 しかし、イスラエルはアメリカから莫大な資金を供給され、高性能兵器を提供され、核兵器の開発と保有を擁護されてきた。その軍事力はイスラム諸国の比ではない。中東を不安定化している最大の要因がイスラエルだということは、間違いないのであり、リーバーマン外相に他国を批判することはできない。 リーバーマン外相のようなイスラエルの軍事強硬派と一心同体の関係にあるのがアメリカのネオコン(新保守)。1990年代から潜在的ライバルとして東アジアを警戒、成長の芽を摘もうとしている。つまり、ネオコンが「第二次朝鮮戦争」を目論んでいるひとつの理由はそこにあると考えるべきだろう。もし開戦に成功すれば、日本列島はアメリカ(ネオコン)軍の橋頭堡、つまり侵略の拠点になる。 日本には東アジアの発展をライバルの出現として警戒する人たちがいる。かつて、韓国のメディア幹部(おそらく、情報機関の高官)から、日本政府は表や裏で朝鮮統一を妨害してきたと聞かされたこともある。 しかし、現在、日本の大企業は中国で儲けているのが実態。アメリカの大企業も東アジアに多額の投資をしている。戦乱は彼らにとって好ましくない。よほどの事件が起こらないかぎり、中国を戦乱に巻き込んで破壊、あるいは分裂させることは難しいだろう。 勿論、東アジアを不安定化させる動きもある。3月に沈没した韓国軍の哨戒艦は朝鮮軍が魚雷で撃沈したと韓国政府は発表、アメリカ政府も同調し、朝鮮半島の軍事的な緊張が高まっているのである。イスラエルやネオコン、あるいは日本の一部勢力にとっては好ましい展開になっているのだが、ここにきて新たな動きがアメリカで見られる。調査結果に異を唱える人々の主張をアメリカのロサンゼルス・タイムズが紹介したのだ。 例えば、「朝鮮犯行説」をなぜ沈没から2カ月後、選挙の直前に発表したのかという疑問から始まり、米韓両軍が警戒態勢にある中、朝鮮の潜水艦が侵入し、哨戒艦を撃沈し、姿を見られずに現場から離れることができるのか、犠牲になった兵士の死因は溺死で、死体に爆破の影響が見られないのはなぜか、爆発があったにもかかわらず近くに死んだ魚を発見できないのはなぜか、調査団の内部で座礁説を唱えていた人物を追放したのはなぜかといった具合だ。 同紙によると、現場から「発見」された物体にハングルが書かれていたことを「朝鮮犯行説」の証拠だとする主張を、iPhoneにハングルを書き込んで「朝鮮製だ」と言うようなものだとバージニア大学のイ・セウングン教授は一笑に付しているという。まったく、その通りである。 韓国国内では、約20%の人が「朝鮮犯行説」を信じていないというが、当然だろう。調べれば調べるほど疑惑が深まるのである。アメリカでは、ネオコンに対する反撃の突破口としてこの事件が使われる可能性も出てきた。
2010.07.24
Googleと中国政府との対立に心躍らせていた人たちにとって、両者の和解は許せないことだろう。中国嫌いの人たちはGoogleを持ち上げ、英雄視することで中国を攻撃したかったらしいが、そのGoogleが中国でのビジネス継続を決めてしまい、「中国が国際社会から批判される」という夢は、はかなくも消えてしまった。 しかし、Googleに「ネットの自由」を期待すること自体が間違っている。アメリカの政府や大企業を信奉、あるいは信仰している人々は別にして、インターネットを利用する少なからぬ人々は、Googleを警戒すべき会社だと考えている。 最大の理由は、NSA(国家安全保障局)やCIA(中央情報局)といったアメリカの情報機関と緊密な関係にあるからである。つまり、Googleを英雄視した人々は同社の実態を知らないのか、反中国という思いに支配されて現実が見えていないのか、米情報機関に好意を持っているのだろう。2007年にイギリスのプライバシー権擁護団体「プライバシー・インターナショナル」は、プライバシーという視点から、Googleを最低ランクに位置づけている。 情報機関と特別な関係になくても、アメリカの企業である以上、愛国者法に従う義務があり、集めた情報は全てアメリカの政府機関へ提供しなければならない。勿論、こうした義務はGoogle以外の企業にも言える話であり、アメリカの企業を利用すれば、そうしたリスクが生じるということを意味している。 現在、Googleは検索エンジン市場で70%のシェアを占める巨人だが、それだけ個人情報を収集できる立場にある。例えば、どこへアクセスしたのか、誰に電子メールを送ったのか、どんなブログを書いているのか、どんな写真を手に入れているか、どんな地図を見ているか、どんなニュースを読んでいるのかといった個人情報を集めている。 中でも問題視されたのがGoogle Desktop。このソフトでSearch Across Computersの設定を許すと、コンピュータのファイルはGoogleのサーバーにコピーされてしまったのである。さすがに、この機能は中止になったらしいが、それにしても、Googleが情報収集という仕事をアメリカの政府機関から請け負っているような存在であることに変化はない。少なからぬ情報機関からの「転職組」がGoogleで働いていると言われているが、会社側は「個人情報は公表しない方針」として実態を明らかにしていない。 同社が提供しているアプリケーションのひとつ、Google Earthの技術を開発した会社はKeyholeである。そのKeyholeに設立資金を出したIn-Q-TelはCIA系のベンチャー・キャピタルとして有名である。1999年に設立されているが、その際にロッキード・マーチンの元CEO(最高経営責任者)、ノーマン・オーガスティンが協力している。Googleが手を組んでいる企業の中には、このロッキード・マーチンも含まれている。 インターネットが情報の収集と発信という面で有益な道具であることは間違いないが、その一方で情報戦の舞台だとうことも事実だ。Googleもそうした仕組みの一部を占めているわけであり、Googleと中国政府との対立を単純に「善」と「悪」の構図で描き、自動的に「反中国グループ」を「民主化勢力」と言い換えることは根本的に間違っている。 例えば、コロンビア大学が出している雑誌、CJR(コロンビア・ジャーナリズム・レビュー)の1998年9/10月号に掲載されたジェイ・マシューズ(ワシントン・ポストの初代北京支局長)の記事によると、1989年6月3日から4日にかけて(つまり天安門事件があったとされる日)現場に居合わせた人の話では、広場に到着した軍隊は残っていた学生が平和的に立ち去ることを許しているという。 当日、北京で数百名が殺されたのは確かなようだが、その場所は天安門広場から1.6キロメートルほど西で、大半が暴徒化した労働者や通りがかりの人であり、火炎瓶で焼き殺された兵士もいたようだ。天安門でなくても、これだけの死者が出ていることは大問題だが、西側メディアは「天安門」という象徴と、「学生」というエリートの臭いが欲しかったのだろう。 学生が虐殺されたという話を広めた香港の新聞は、「精華大学の学生」の話として、兵士が広場の真ん中で機関銃で学生を撃っていると書き、西側のメディアがこの未確認情報に飛びついたのが実際だという。学生の指導者、吾爾開希(ウイグル系の名字)は200名の学生が射殺されるのを見たと発言していたが、その出来事があったとされる時刻の数時間前、彼は広場から引き上げていたことが後に判明している。 広場から排除される際、1分半ほどの間、自動小銃の発射音を耳にしたというCBSのリチャード・ロスの話、あるいは兵士が学生を撃っているとする中国人の話を聞いたという「人権活動家」のジョージ・ブラックとロビン・ムンロの話などが伝わっているが、やはり「目撃者」ではない。BBCの記者は北京ホテルから銃撃の様子を見たとしているようだが、ホテルから広場の中央は見えないという。 中国は「悪」だと刷り込まれている人々にとって、「天安門事件」は自分の通念を確認するために好都合な話だった。中国非難の輪に加わることは一種の宗教的な儀式であり、陶酔感に浸ることができただろう。事実に基づく話などに彼らは興味がない。しかし、彼らが望む展開とは違う道を歩き始めたGoogleの行為は背信であり、許すことができないに違いない。
2010.07.22
アメリカでネオコンが勢いを盛り返し、戦争の機運が高まっている。そうした状況を象徴しているのがDNI(国家情報長官)の交代劇だろう。6月に辞任したデニス・ブレアは2001年、米太平洋軍の司令官だったとき、ジョージ・W・ブッシュ大統領を支えるネオコンの「中国脅威論」を公然と否定したのに対し、今回指名されたジェームズ・クラッパー空軍中将はネオコンに近い人物だと言われている。 2001年9月から06年6月にかけて、クラッパーはNIMA(国家画像地図局、2004年にNGA:国家地球空間情報局へ名称変更)の長官を務めている。つまり、アメリカが「戦時体制」に入ったときから、アフガニスタンやイラクを先制攻撃していく時期ということになる。 イラクへの攻撃を実現する上で、クラッパーの果たした役割を覚えている人もいるだろう。イラクに「大量破壊兵器」があるという話を広めたひとりなのである。例えば2003年3月、アメリカ軍がイラクを先制攻撃する前に、イラクからシリアへ大規模な車列を衛星が撮影したとしたうえで、禁止された軍事物資を運んでいることは間違いないと断言している。つまり「大量破壊兵器」を運んでいると示唆したわけだ。カール・ローブのようなネオコンは喜んだが、そうした兵器は見つからず、クラッパーの話は間違いだったことが判明している。 このクラッパーは20日、上院の承認を得るために公聴会へ出席し、「朝鮮が韓国を攻撃する」と主張している。この証言に合わせるように、韓国を訪問中のヒラリー・クリントン国務長官は朝鮮へ新たな制裁を課すと宣言した。その理由のひとつが今年3月に韓国軍の哨戒艦「天安」が沈没した事件。 沈没事件のあった海域は国境線が画定していないため、軍事的な緊張が続いてきた。昨年10月、朝鮮は韓国の艦船が1日に10回も領海を侵犯していると非難、11月には両国の艦船が交戦し、朝鮮の船に大きな損害が出たと言われている。朝鮮側は国境線は越えていないと主張、国籍不明の艦船を調査して戻ろうとしているときに攻撃されたとしていた。今年1月にも韓国と朝鮮の艦船が撃ち合ったと報道されている。 そして3月、米韓両軍が合同軍事演習を行っている最中に韓国の哨戒艦が沈没し、韓国政府は朝鮮の魚雷攻撃があったと主張、アメリカ政府も同調している。ただ、この主張に疑問があることは本コラムでも書いた通りであり、この出来事を理由にして軍事的緊張を高めるという展開はイラク攻撃前のネオコンのシナリオを連想させる。そして、あのクラッパーの登場だ。東アジアも焦臭くなってきた。 アメリカ政府は平和のためと称して戦争を始め、防衛のためと称して侵略し、民主主義のためと称して社会をファシズム化してきた。歴史を振り返れば、抑止力と称している沖縄のアメリカ軍が侵略のために存在してきたことも否定できない。
2010.07.21
テレビを見なくなって久しい。日本の新聞もざっと目を通すくらいだ。記者クラブで与えられる「お話」や権力者の「御高説」を垂れ流すマスコミは、情報源として役に立たない。「マスゴミ」と言いたくなる気持ちもわかる。 基本的に、日本のマスコミは権力者を「善」、権力に逆らうものを「悪」として扱う。きわめて明快だ。たしかに、たまには「口直し」に権力者を批判するようなことを書いたり放送したりすることもあるが、あくまでも許容された範囲内でのこと。「右」と「左」も、そうした中での差にすぎない。執拗な攻撃がある場合は、通常、裏には別の権力者がいる。 学校での教育、あるいはマスコミの報道などで国民の多くは、権力者が許す言動や思考の範囲を頭に叩き込まれ、こうして作り上げられた「常識」から逸脱することは許されない。「常識外れ」の言動も権力者に許された範囲でのことにすぎない。常識には、味付けの少し違ういくつかのバージョンがあるとも言える。そうした常識の指針としてマスコミが頼っている相手が官僚であり、大企業の経営者であり、アメリカの権力者である。マスコミ社員が安穏な生活を送るためには、常識から逸脱することはできない。 今日(7月20日)、新聞を眺めていたら、こんなフレーズが目に入った。 「もし(マイケル=引用者注・)ムーアの「キャピタリズム」を大銀行の幹部が見たら、反省して心を入れ替えるだろうか。」 何を言っているのだろうか?この文を書いた人物は「キャピタリズム」を見て不愉快に感じたのかもしれないが、「大銀行の幹部」は何とも感じないだろう。大企業の幹部は「確信犯」として庶民からカネを巻き上げ、富を独占しているのである。如何なる映画であろうと、書籍であろうと、説教であろうと、彼らを反省させることなどできるはずがない。革命でも起これば反省するかもしれないが。素直な庶民は教育や報道でコントロールされやすいが、彼らは違う。だいたい、ムーアが資本主義の支配階級を改心させようなどと考えてはいないだろう。 2年前に死んだコメディアン、ジョージ・カーリンは舞台でこんなことを言っていたそうだ。 「奴らは社会保障のカネに襲いかかっている。みんなが退職してから使う資金を奴らは欲しんだ。奴らはカネを取り戻そうとする。そこで、カネをウォール街の犯罪者仲間に渡す。わかるかね?奴らはそれを懐に入れるんだ。遅かれ早かれ、君たちから全てを巻き上げる。なぜなら、そこは奴らのシマだからだ。でかいクラブだ。君たちはメンバーじゃない。」
2010.07.20
7月19日付けのワシントン・ポストに掲載された情報機関に関する記事が話題になっている。2年間の調査に基づく調査報道で、そのタイトルは「トップ・シークレット・アメリカ」。2001年9月11日以降、アメリカの情報機関が「官」と「民」の壁を越えて肥大化し、制御できない状況になりつつあると警鐘を鳴らしているのだ。現在、1271の政府機関と1931の民間企業が「テロ対策」という名目で秘密裏に活動、85万4000名が最高機密保全許可を取得しているという。 第2次世界大戦後、アメリカでは破壊活動を目的とする秘密機関OPC(政策調整局、当初の名称は特別計画局)が組織された。平和な時代に情報機関は必要ないという意見がアメリカ国内にはあり、1947年にCIAを創設するだけでも大変だった。そこで、CIA長官の影響が及ばない場所にOPCを1948年に設置したのである。その初代局長がフランク・ウィズナー。この人物は大戦中、アレン・ダレスの下で秘密工作に従事し、イギリスのロンドンやルーマニアのブカレストで情報活動を指揮した。戦後日本が進む方向を決めた、つまり「右旋回」させたジャパン・ロビーとも近い関係にある。(この辺の詳しい事情は拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』で説明した。) ドイツとの戦争で疲弊したソ連を攻撃するべきだと考える勢力がイギリスやアメリカで台頭し、CIAやOPCが登場してくる頃から「冷戦」ということが言われるようになる。そして1950年10月にOPCはCIAの内部に潜り込み、翌年の1月にはアレン・ダレスが副長官としてCIAに乗り込んできた。そして「計画局」が1952年8月に誕生、1973年3月に名称は「作戦局」へ変更された。 この名称変更の背景には、アメリカ議会の調査がある。情報機関の秘密工作にメスが入れられ、OPCに関する情報が不十分ながら明らかにされたほか、クーデターや要人暗殺など、さまざまな秘密工作が表面化している。ベトナム戦争で情報機関と特殊部隊が展開した「フェニックス・プログラム」もこの時に判明した。この作戦によって、特定の地域に住む農民が皆殺しにされ、都市部では「爆弾テロ」が展開された。(この辺のことも拙著では触れている。) こうした議会の調査、メディアの報道、そして内部告発に懲りた情報機関は議員の口を封じる方策を考え、自分たちの言いなりにならない記者を排除し、内部告発ができないようなシステムを導入していく。「情報活動の民営化」も議会や国民の目をかいくぐる手段のひとつだった。この問題は「イラン・コントラ事件」で発覚している。 しかし、情報活動の民営化と肥大化が急速に進むのは2001年9月11日からである。同じように軍隊の民営化も推進されたが、軍や情報機関の仕事をする民間企業は秘密のベールに守られ、仕事の内容も資金の動きもわからない。 CIAの破壊活動部門は麻薬取引に手を出してきたと信じられている。ベトナム戦争の時には東南アジアのヘロイン、ニカラグアの反革命工作ではコカイン、アフガニスタンではヘロインといった具合だ。そうした手段で得た資金を「洗浄」するためにCIAは銀行業にも進出、ロッキード事件で登場するディーク社やアフガン戦争の際に名前が出てきたBCCIも「CIA銀行網」の一部だとされている。つまり、情報機関の肥大化は犯罪活動を守ることにもなりかねない。 ドワイト・アイゼンハワー大統領は1961年1月、退任演説の中で「軍産複合体」について警告しているのだが、現在では情報機関も加えなければならない。いわば「軍情産複合体」だ。こうした指摘は1980年代からなされていたのだが、体制派のワシントン・ポストがこの問題に取り組んだことは興味深い。何しろ、1996年8月にゲーリー・ウェッブがCIAと麻薬取引に関する連載記事を書いた際、同紙はウェッブ記者に罵詈雑言を浴びせたのである。体制を揺るがすほど、事態は深刻化しているのかもしれない。 秘密の裏では腐敗が進む。「国家安全上の秘密」によって、アメリカは朽ち果てることになるのだろう。秘密という点で、日本はアメリカよりも状況は悪いかもしれない。官僚が情報を握り、主権者であるはずの国民は何も知らされていない。政権が交代しても情報開示は進まなかった。やはり、日本も秘密によって朽ち果てそうだ。
2010.07.20
ベンジャミン・ネタニヤフの本音を垣間見ることのできる映像をイスラエルの「チャンネル10」が流したことは、本コラムでも書いた通りだが、その映像がYouTubeに英訳付き(ほかの訳と若干、違う部分もあるが、基本的に問題はないようだ)でアップされた。途中でネタニヤフは撮影を止めるように言ったが、カメラマンは撮り続けている。 その中でネタニヤフはアメリカを操ることは簡単だ語り、アメリカ人の80%はイスラエルを支持していると強調している。さらに、ビル・クリントン政権も極端な親パレスチナ派ではなく、クリントン大統領や国連との対決も怖くはなかったと付け加えた。クリントンの次に大統領となったジョージ・W・ブッシュ大統領を操っていたのはリクード(イスラエルの軍事強硬派政党)と一心同体の関係にあるネオコンであり、安心感から大口をたたいたのかもしれない。 このビデオが撮影された2001年はイスラエルでアリエル・シャロン政権が、またアメリカではブッシュ政権がスタートした年である。前年の9月にシャロンはイスラエルの警察官1000名以上を引き連れて「神殿の丘(エルサレム)」を訪問、その聖地はイスラエルが永遠に支配すると宣言し、パレスチナ人を挑発している。和平の意志がないことを宣言したようなものだが、そうしたパフォーマンスをイスラエルの有権者は喜び、翌年2月には首相に選ばれたわけだ。 この年、アメリカではイスラエル人「美術学生」ネットワークが摘発されている。発端は、1月にDEA(麻薬捜査局)へ送られてきた報告で、「美術学生」がDEAのオフィスへの潜入を試みているとする内容だった。DEA職員の自宅をイスラエル人学生が訪問している事実も指摘されていた。 逮捕された「美術学生」は、イギリスのテレグラフによると2001年9月11日の前に約140名、またワシントン・ポストによるとその後に60名以上。合計すると200名以上が拘束されている。イスラエルとアメリカとの関係は緊迫していたと言えるだろう。そして9月11日。この日を境にして状況は大きく変わった。ホワイトハウスは親イスラエル派が完全に支配し、アフガニスタンやイラクを先制攻撃し、アメリカ国内はファシズム化している。
2010.07.19
イスラエルの「チャンネル10」が流した映像にベンジャミン・ネタニヤフ首相は動揺しているに違いない。1996年から99年にかけてもネタニヤフは首相を務めているが、その頃の話をしているビデオで、アメリカのビル・クリントン政権や和平プロセスに関してヘブライ語でフランクに語っている。本人は撮影されていることを知らなかったようで、本音を口にしていることから、注目されているわけだ。 ネタニヤフが首相に就任する前、1993年にPLOのヤセル・アラファト議長、イスラエルのイツハク・ラビン首相、そしてクリントン米大統領は「暫定自治原則宣言(オスロ合意)」に合意している。パレスチナとイスラエルの関係は、この合意に基づいて築かれることになったのである。 パレスチナ側にとって不利な合意だったが、それでもイスラエルには合意を批判する声が巻き起こり、1995年11月にはラビンが暗殺された。アラファトは2004年11月に死亡しているのだが、その死に方に不自然なものを感じる人は多く、毒殺説も根強く流れている。 マームード・アッバスがアラファトの後継者になるが、その迷走ぶりは目を覆うばかりだ。日本のマスコミはアラファトの後継者が育成されなかったと主張していたが、有力な後継者候補はイスラエルによって暗殺されてきたのである。イスラエルやアメリカの「情報源」に頼らず、自分の足で取材する習慣をつけてもらいたいものだ。 ところで、問題のビデオの中でネタニヤフはクリントン大統領を騙した話を披露している。首相に就任する前、アメリカ政府に対してオスロ合意を尊重すると言う一方で合意を破壊したことを得意そうに話しているという。ネタニヤフに言わせると、アメリカを操るのは簡単で、思い通りにできるらしい。(ヘブライ語を理解できないので、確認はしていない。) イスラエルがパレスチナ人を暴力的に弾圧しているのも計算で、アラファト体制を崩壊させることが目的だったという。何しろ、アラファトはパレスチナ解放闘争の象徴的な存在であり、その権威を失墜させる意味は大きいわけだ。 PLOの対抗勢力としてイスラエルの育てた組織がハマスである。この組織が創設されたのは1987年のことだが、そのはるか前からイスラエルの工作は始まっている。1970年代の後半にはシェイク・アーマド・ヤシンに目をつけた。第3次中東戦争から6年後、イスラエルはムスリム同胞団の活動を認めるようになるのだが、この組織に若い頃から関わっていたひとりがヤシンだ。 アラファトが死ぬ8カ月前、ヤシンはイスラエル軍のミサイル攻撃を受けて殺されているのだが、この時点でPLOは弱体化している。この時点では、ヤシンの役割も終わり、その危険性が注目されるようになっていたということだろう。 ともかく、今回のビデオによってネタニヤフの信頼度が落ちたことは間違いない。「最初からわかっている」とうそぶく人もいるだろうが、「単なるお話」と「証拠付きの話」ではわけが違う。アメリカ政府としても対処に苦慮することになるだろう。無視するしかないかもしれない。
2010.07.18
ジョージ・W・ブッシュ政権以来、アメリカを「法治国家」と呼ぶことはできなくなった。2001年9月11日に航空機がニューヨークの高層ビルの突入し、ペンタゴンも攻撃された結果、憲法は機能を停止したのである。「愛国者法」と称する戒厳令が布告されたのである。 そのひとつの結果として、被疑者と弁護士との会話を捜査当局が自由に盗聴できることになった。テロリストに資金を提供したわけでも、あるいは武器を渡したわけでもないのだが、盗聴を妨害したという口実でリン・スチュワートという弁護士は逮捕され、2005年には懲役2年4カ月という判決を受けている。この判決に納得できないスチュワートは上告したのだが、15日に懲役10年という判決が言い渡された。 彼女が弁護を引き受けていたシェイク・オマール・アブデルラーマンは、1993年に世界貿易センターが爆破された事件の容疑者。アメリカの支配層から見れば、自分たちに刃向かう「不埒な輩」、つまり「テロリスト」。ブッシュ政権は、こうした人々を「軍人」とも「犯罪者」とも認めない。「敵戦闘員」というラベルを貼ることで、捕虜として扱われる権利も、犯罪者として裁判を受ける権利も奪ってしまった。戒厳令の国になったのである。スチュワートは戒厳令に抵抗する象徴的な存在だった。彼女への厳罰攻撃は、「テロリスト」の弁護を許さないという権力者の恫喝とも言える。 アメリカで戒厳令の準備が本格的に始まったのはロナルド・レーガン政権の時代、つまり1980年代の前半のこと。20年近くの間、研究した成果が愛国者法だ。それだけの準備期間がなければ、あれだけ早く作り上げることは不可能だっただろう。(この戒厳令プロジェクトはきわめて重要なテーマだと考え、次に予定している著作では詳しく説明するつもりなのだが、筆者と同じ意見の出版社はまだ見つかっていない。)
2010.07.17
16日付けの朝日新聞(夕刊)の第1面に「貴乃花親方、組会長と飲食」という見出しの記事が掲載された。「新弟子の勧誘で愛媛県を訪れて児童生徒の保護者らと会食したり、相撲のけいこを見学したりした際、地元の暴力団会長が同席していたことが、県警関係者らへの取材でわかった」のだが、「会長は取材に対し、親方と同席したことについて否定した」のだという意味不明の記事だ。裏をキチンととったのだろうか? ところで「県警関係者ら」とは誰だろうか。県警の本部へ出前を運んでいる人なのか、警察に逮捕されたことのある暴力団組員なのか、よくわからない。時期も時期、立場も立場である以上、暴力団の会長がいるとわかれば同席することはないと思うが、もし同席したとして、それだけで犯罪にはならないだろう。もし、それが犯罪なら取材などできなくなる。そうした話をもし警察の捜査官がしたとするならば、それこそ大問題である。 かつて、警視庁の捜査官から聞いた話だが、マスコミが報道するような事件(冤罪でもかまわない)を扱うと、評価が上がるのだという。話題の相撲に関係した話を事件にできれば、などということをまさか、捜査官は考えないと思うが。 暴力団とのつきあいが問題なら、細木数子の件からマスコミは逃れることができない。細木はテレビで番組を持っていただけでなく、相撲界とも密接な関係にあったのではないだろうか? 溝口敦が『細木数子 魔女の履歴書』(講談社)で詳しく書いているように、1971年に小金井一家の堀尾昌志総長と知り合い、「姐さん」になってから暴力団人脈を形成していく。そしてテレビ局との蜜月である。詳細は溝口の本に書かれているので、ここでは割愛する。(ある元暴力団幹部によると、溝口は暴力団からカネを受け取らなかった珍しいジャーナリストで、彼の著作や記事は信頼できる。) 警察と暴力団との関係も「知る人ぞ知る」話だ。溝口は『山口組ドキュメント 山口組五代目』という本を三一書房から1990年に出しているのだが、この本を読んだ直後に「危ない」と感じたことを今でも鮮明に覚えている。その「危ない」と感じた部分を引用する。「山口組vs一和会抗争には終始警察の影がちらついた。一和会との分裂からして警察の策したものであった。」「竹中正久が射殺された吹田の『GSハイム第二江坂』の所在について、当初大阪府警は寝耳に水、竹中の愛人が住み、竹中が通っているとは、と驚いて見せたが、何のことはない、84年6月には地元吹田署が探知、府警本部に情報をあげていたと、「ヒットマン裁判」で担当の巡査部長が証言した。」 そして、「山口組最高幹部」の次のような話も紹介している。「関東勢は警察と深いらしいですわ。われわれ、警視庁の17階に何があるか知らしまへんけど、よく行くというてました。月に1回くらいは刑事部長や4課長と会ういうようなこと大っぴらに言いますな。」
2010.07.16
イスラエルからの兵糧攻めで苦しむガザへ支援物資を運び込もうとした「アマルテイア(ギリシア神話に登場するニンフ。ゼウスを山羊の乳で育てた。)号」は14日にエジプトの港に入り、そこで2000トンと言われる援助物資を降ろした。その大半は食糧と医薬品だったようで、赤新月がガザへ運び込むことになる。医薬品はラファーから、また食糧はアウジャからだという。どうやら、アマルテイアが運んでいた物資は大半が運ばれるようだ。しかし、ヨルダンの活動家が陸路、運んでいた支援物資は、ガザへの輸送がエジプト政府によって拒否された。
2010.07.16
アメリカの情報機関は拉致を繰り返してきた。アメリカ国務省の言い方を借りると、そうした「習慣」がある。そうした意味で、サウジアラビアの協力を得たCIAに拉致されたとするイランの研究者、シャハラム・アミリの主張を無下に否定することはできない。バラク・オバマ政権では暗殺(裁判を経ない処刑)工作も公然と復活させている(水面下では続いていたが)わけで、拉致程度のことで驚くべきではない。 最近の例で言うならば、2003年にCIAはイタリアでエジプト人を拉致、この事件では20名以上のCIAエージェントに対する逮捕令状が出ている。また、2004年1月にはマケドニアから無実のドイツ人、ハリド・エルマスリを拉致してアフガニスタンの秘密収容所へ連れ去っている。拉致について公表しないという条件でエルマスリが解放されたのは4カ月後のことだ。世界各地に秘密の刑務所を設置していることも判明している。 マスコミの中にはアミリを「核科学者」とさりげなく書いているところもあるようだが、本人に言わせると彼は核開発には関係がなく、拉致にはサウジアラビアの情報機関が協力、アメリカでは武装した兵士に監視され、尋問にはイスラエルのエージェントが同席していたという。 ロイターはアミリがアメリカへ重要な情報を提供したと報道、ワシントン・ポスト(同紙がアメリカのプロパガンダ・プロジェクトと深く関係している事実は、次の著作が出版された際、詳しく説明する予定)は当局者の話として、CIAがアミリに500万ドル以上の報酬を渡したと伝えている。逃げられた「獲物」を中傷するのは常套手段であり、この話を無批判に信じるべきではない。 昨年9月25日にアメリカ政府はコム近くの核施設について言及しているが、この施設でアミリは働いていたという話も伝わっている。あたかもアミリが提供した情報に基づいてアメリカ側が施設について知ったかのようなストーリーも語られているようだが、これは正しくない。コム近くの施設についてイラン政府は9月21日にIAEA(国際原子力機関)へ通告しているのだ。アメリカ政府がこの施設について口にする4日前のことだ。 ニューヨーク・タイムズを始め多くのメディアが施設と核兵器の開発を結びつけて、アメリカ政府がコムの施設を核プログラムの一環だと疑うようになったのは数カ月前だと報道しているのだが、後になって「前から知っていたんだ!」と叫んでも説得力はない。 過去の例から考えると、アミリが亡命者だとするならば、CIAは1年程度の時間を使って徹底的な尋問を行うはずであり、もしイランの核開発について熟知している「核科学者」でアメリカ政府にとって重要な情報を持っていることが判明すれば警備の厳重な施設に保護(隔離)する。大した情報を持っていないならば、プロパガンダ要員として偽情報を流す道具として使う。つまり、亡命を試みたにしても、独力でCIAの手から逃れることは困難である。 そこで、アミリは自分の意志でアメリカへ渡り、自分の意志でイランへ戻ろうとしたとするアメリカ政府のストーリーがもっともらしく聞こえることも事実なのだが、国務省はアミリと接触を続けていたことを公式に認めているので、このシナリオも説得力がない。イランに拘束されているアメリカ人との交換を目論んだという見方もあるようだが、根拠があってのことではないようだ。アミリを誰か別の科学者と間違えて拉致した可能性もある。いずれにしろ、真相が明らかになるのは先のことだろう。
2010.07.16
ガザへ向かっていたリビアの支援船は進路を変更し、14日にエジプトのエル・アリシュ港に入った。イスラエルのミサイル艦が併走する中、ガザへ直接向かうべきだとする意見もあったのだが、リビア政府の広報担当によると、EUの調停に応じてエジプトへ向かうことにしたのだという。 15日には積み荷を降ろし、2000トンの支援品輸送は赤新月(西側諸国の赤十字に相当)へ引き継がれ、ラファから陸路でガザへ持ち込むという。ただ、エジプト政府は食糧や医薬品数トンの輸送を認めるだけだと言われ、大半の物資は積み残されることになる。 ガザの再建に不可欠なセメントなどの建設資材は勿論、イスラエルが「贅沢品」だとする食糧もガザへ持ち込ませないつもりのようだ。要するに兵糧攻めの体制は揺るがない。今後、新たなトラブルが発生する可能性もあるだろう。 今年6月1日、つまりイスラエル軍による公海上での支援船襲撃と関係者殺害を受けてエジプトはラファからの物資搬入を認めるようになったのだが、この検問所の通過に時間がかかることは有名。「お役人仕事」が理由にされているが、イスラエル側の意向を受けた嫌がらせだと考えている人もいる。赤新月の輸送団がスムーズに物資を運べるかどうかも注目されている。今回、エジプト政府がイスラエル政府の手先だと思われるような行動に出れば、エジプトでの政変につながる可能性すらある。
2010.07.15
ギリシアからガザへ向かっていたリビアのガザ支援船がエジプトへ進路を変更した。現在は、イスラエル軍の艦船、8隻に囲まれた状態で航行しているという。船のクルーはエンジンにトラブルが発生しているとしていたので、エジプトで修理するというシナリオになるのだろうが、本当にエンジンに問題が発生したのかどうかは不明だ。裏の交渉で、衝突を避けた可能性が高い。これまでイスラエルに協力してきたエジプト政府だが、このところ反政府運動が地下で広がっている。支援船に対して露骨なことはできないだろう。 支援船のほかに、25台の車両を連ねてヨルダンから陸路、ガザへ向かっている150名のグループも存在する。エジプト領からガザへ入る予定らしいが、このグループをエジプト政府がどのように取り扱うかも注目されている。
2010.07.14
アル・ジャジーラをイスラエルがアメリカで訴えた。言うまでもなく、アル・ジャジーらはカタールを拠点とするテレビ局。2006年にイスラエル軍がレバノンを軍事侵攻した際に、その状況を報道したことを問題にしている。要するに、イスラエル軍に都合の悪い話を報道したことが許せないということだ。 確かに、アメリカ政府もイスラエルと似たようなことをしている。アメリカ軍の軍用ヘリコプターから非武装の人々を攻撃する様子を撮影した映像がWikileaksによって公表されているが、その映像をリークした兵士を逮捕、Wikileaksの創設者は追われている。ならば、イスラエルの主張をアメリカは認めるべきだということになる。 ところで、2006年7月のレバノン侵攻がヒズボラを弱体化させる目的で始められたことはイスラエル軍の司令官も認めている。開戦の初日には誘拐された兵士の救出が目的だというポーズを見せていたが、翌日には空港、道路、橋、工場、発電所、石油施設など社会基盤を軍用機で破壊していった。これだけでも兵士の誘拐と無縁の作戦だということがわかる。そして、最終的にはアメリカから提供された120万発のクラスター爆弾を南レバノンに落としている。この爆弾は旧式で、「在庫整理」の意味もあったようだが、問題は不発弾の確率が50%と言われていることだ。不発弾は「地雷」になり、人々を苦しめる。 この軍事侵攻にはリチャード・チェイニー副大統領のほか、ネオコンのエリオット・エイブラムズ、デイビッド・ウームザーが深く関与していた。要するに、イスラエルの攻撃にゴー・サインを出したのである。アメリカやイスラエルがイランを攻撃したなら、ヒズボラがテル・アビブやハイファを攻撃することが予想され、イラン攻撃を実現するためにはレバノンのヒズボラを破壊する必要があったわけだ。しかも、この攻撃は事前にアメリカを含む各国の外交官、ジャーナリスト、シンクタンクの研究員などに説明されていた。そうした人々は、レバノンでの殺戮と破壊の共犯者だと言われても仕方がない。
2010.07.14
昨年6月から行方不明になっていたイランの科学者シャーラム・アミリがワシントンDCのパキスタン大使館に現れた。巡礼のために訪れていたメッカで姿を消し、今年初めには米情報機関の高官がアミリはアメリカへ亡命したと語っていたのだが、本人の出現で状況が一変してしまった。CIAがサウジアラビアの協力を得て誘拐した可能性が高まったのである。その目的は、イランが核兵器の開発をしているというストーリーを世界に信じさせることにあった。 1990年代からCIAはイランの科学者を取り込む作戦を展開、そのためにイラン系アメリカ人数百名と接触していると報道されているが、アミリもそうしたターゲットのひとりだと考えられている。昨年9月、バラク・オバマ大統領はコムの近くに秘密の核施設を建設している証拠があると発言しているが、この施設でアミリは働いていたという話も伝わっていた。この発言は、イランに対する「制裁」を強化する重要なステップになっている。 イランが核兵器を製造するために使える潜在的な能力を手にしようとしていると、今月12日にロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領は発言、アメリカ政府はイランを非難するトーンを一段と上げたのだが、それが攻撃の理由になるとするならば、日本も攻撃されることになってしまう。イランが核兵器製造の寸前だという主張が荒唐無稽だということはCIA自身も認識しているはずだ。 そうした中、行方不明になっていたイランの科学者が現れ、自分の意志に反してアメリカへ連れてこられたと証言したのである。メドベージェフ発言のあった12日の午後6時30分、誰かがアミリをパキスタン大使館の前で降ろして走り去ったという。イランへの攻撃が切迫していることを懸念したアメリカ政府の何者かが関与している可能性がある。 今回の出来事がCIAにとってダメージになったことは確かだろうが、それ以上に不味いことになったのはサウジアラビアの情報機関、そして政府である。イランと対立関係にあることは有名でも、CIAの誘拐工作に協力したとなると、問題は大きい。しかも巡礼のために訪れた人物を拉致したわけで、イスラム教への冒涜だと考える人も出てくるだろう。
2010.07.14
そもそも、ガザを封鎖し、住民の生活を困窮させる権利など、イスラエルは持っていない。そんなことを無視して兵糧攻めを続け、生活空間を分断する「アパルトヘイト政策」を推進、ころ合いを見計らって軍事侵攻による虐殺を繰り返してきたのがイスラエル。船舶のガザ入港を妨害しているのも、そうした政策の一環だ。その先には、アラブ系住民の追放(民族浄化)とガザやヨルダン川西岸の完全支配という目的がある。 ところが、「イスラエルは、外国船のガザ入港について、武器密輸を警戒し、禁止している」と書いた新聞があった。イスラエル政府の言い分をそのまま垂れ流したわけだが、少しは「恥」というものを知って欲しい。 イスラエル/シオニストは「建国」の前からアラブ系住民の消滅を実現しようと努力してきた。この点でイスラエルの支配層に対立はないのだが、その手法をめぐり、このところ不協和音が聞こえてくる。イスラエルにも「まとも」なエリートがいることを「演出」していると解釈することも不可能ではないが、ここは素直に対立が生じていると考えるべきだろう。つまり、旧ソ連圏からの移民を中心とする独善的な勢力と、少しは国際状況を考える勢力の衝突である。 前者を象徴する人物はアビグドル・リーバーマン外相で、パレスチナ人から市民権を取り上げ、将来、イスラエルに組み込む予定の領土から追い出すべきだと考えている。同外相は旧ソ連、モルドバのキシニョフで1958年に生まれ、1978年にイスラエルへ家族で移民した人物。ウラジミール・(ゼフ・)ジャボチンスキーの思想を信奉するという点ではリクードと同じだが、リクードの場合、少しは国際状況を考えて行動してきた。 少なくとも1980年代には、リクードとモサドは緊密な関係にあった。イランへの武器密輸やニカラグアの反革命ゲリラ「コントラ」への支援、いわゆる「イラン・コントラ事件」で両者の深い関係は明確になっている。(詳しくは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を) そのモサドの長官、メイア・ダガンは6月1日、議会でガザ支援船を襲撃した軍を批判している。当初の計画では、支援船を襲撃して破壊した後、船を公海上に放置することになっていたのだが、「人道上」の問題から反対され、特殊部隊が船に乗り込むことになったという。こうした行為の結果、イスラエルはアメリカの「財産」ではなく、「重荷」になっているとダガンは警告している。 今年1月、アラブ首長国連邦のドバイでハマスの幹部、マームード・アルマボーが暗殺されたのだが、その実行犯はモサドだとされ、その責任をとらされる形でダガンは事実上、解任されると報道されている。暗殺事件の発覚にイスラエル軍が何らかの役割を果たした可能性も否定できないだろう。 ガザ支援船の襲撃に関し、イスラエル軍は襲撃への批判を無視、襲撃チームを称える一方、情報機関の「ミス」を非難している。襲撃に対する世界的な反発に軍も慌てているようだが、自分たちの愚かさは反省せず、責任をモサドに押しつけている形だ。 そうした中、リビアの支援船がガザに近づいている。支援船に武器を持ち込み、軍事支援を目論んでいたという演出は稚拙すぎて説得力がないだろうし、どのように対処するかは大きな問題だ。前回の襲撃を全面的に支援するという姿勢を見せているアメリカの議員たちも気が気でないだろう。そんなアメリカと軍事同盟を結んでいることを日本人は真剣に考える必要がある。
2010.07.14
先週の土曜日、ガザへ向かって1隻の船がギリシアの港を離れた。12名のクルーと10名の関係者が乗り込み、2000トンの食糧や医薬品を積み込んでいるという。モルドバ船籍だが、リビアの指導者ムアマル・カダフィの息子が責任者を務めるグループが支援船のスポンサーだ。 ガザへ支援物資を運ぼうとしていた7隻の船が5月31日、イスラエル海軍の特殊部隊に公海上で襲撃され、550名の平和活動家が乗っていた「マビ・マルマラ」では多くの死傷者が出ている。その5日後に別の支援船「レイチェル・コリー」もガザに向かっているのだが、犠牲者を出さないため、イスラエル側の制圧行動に抗議せず、おとなしく従っている。つまり、目的は達せられなかった。 国際的にイスラエルを非難する声が高まる中、アメリカの議会では逆の動きが活発化した。つまり、アンソニー・ワイナー下院議員、ジェロルド・ネイドラー下院議員、ゲイリー・アッカーマン下院議員、ロン・クレイン下院議員、カーステン・ジリブランド上院議員などが襲撃事件でイスラエルへの支持を表明、ホワイトハウスで広報を担当しているロバート・ギブスはイスラエルの「安全保障」をアメリカ政府は支持していると語っている。 アメリカ上院の親イスラエル派議員、ジョー・リーバーマン、ジョン・マケイン、リンゼイ・グラハムはイスラエルを訪問したのだが、その際にリーバーマン議員は「必要なら軍事行動を起こす」と言明、イスラエル支持を再確認している。 少し時間をさかのぼると、アメリカの下院は「ゴールドストーン報告」を拒否する決議を344対36の大差で可決した。この報告ではイスラエル軍がガザに軍事侵攻した際、国際人道法に違反する行為があったと結論づけているのだが、これに反発したわけだ。自分たちに心地良いストーリーに反する事実は認めないということなのだろう。 支援船襲撃で苦境に陥ったイスラエルを助けるためにも、アメリカでは超党派の議員が立ち上がっている。イスラエル政府の主張をそのまま繰り返している議員たちは、イスラエルを支援するようにバラク・オバマ大統領の求める書簡を送ったのだが、その中心人物は民主党のハリー・リード上院議員や共和党のミッチ・マッコーネル上院議員。 その書簡に署名した議員は、リチャード・ダーバン、ジョン・キル、チャールズ・シュマー、ジョン・トゥーン、パリー・マーリ、レイマー・アレキサンダー、ロバート・メネンデス、ジョン・コーニンなど85名に達する。つまり、87名がイスラエル軍の公海上での支援船襲撃を支持すると宣言したことになる。 さて、リビアの支援船は火曜日か水曜日にガザへ到着する予定だというが、イスラエル政府は包囲網を突破させないと強硬な姿勢を崩していない。支配層だけの話なら「リビアの無謀な行動」を非難することで終わるかもしれないが、庶民は反発するだろう。リビア側はイスラエルを挑発する意図はないとしているが、国際的に認められた当然の権利を行使するという姿勢を見せたなら、アメリカにとっても面倒なことになるだろう。
2010.07.12
アメリカの国防総省は、次の中央軍司令官としてジェームズ・マティス大将を選んだようだが、この人選に呆れた人は少なくない。何しろ、2005年、当時は中将だったが、その年にマティスは「人を撃つのは楽しい」と公言、それだけでは足りず、アフガニスタンの男を「撃つのは本当に楽しい」と念を押している。 ジョージ・W・ブッシュ政権下の2003年、国防副次官に任命されてイラクの掃討作戦を指揮したウイリアム・ボイキン中将の場合はカルトに毒されていた。例えば、2002年6月には、1993年にソマリアで撮影した写真には「暗黒の印」が写っていたとオクラホマ州の教会で話している。また2003年6月には、自分たちは「サタン」と呼ばれる霊的な敵と戦っていると口にし、オサマ・ビン・ラディン、サダム・フセイン、そして金正日の写真を示しながら、「イエスの名の下に戦えば、あの霊的な敵を打ち破ることができる」と発言したのだという。つまり、ボイキンは宗教的妄想に取り憑かれ、異教徒を殲滅したいと願っていた。 こうした手合いが「出世」しているのがアメリカ軍。非武装の市民、負傷者を助けようとしていた人々、近くにいた子どもなどを攻撃型ヘリコプターから兵士が銃撃しても不思議ではない。 そうした実態の一端を垣間見せてくれたのがWikileaksが公表した映像。ロイターのカメラマンが殺される様子も映っていた。その映像をWikileaksに提供したブラドレー・マニング特技兵は逮捕され、50年近い懲役刑を言い渡される可能性がある。 つまり、アメリカ軍では一般の兵士から将軍まで、占領地で楽しみのために人を撃っていること自体を問題だとは考えず、その事実が外部に漏れることを恐れているわけだ。それを問題にしないメディアの腐敗も救いがたい。 アメリカが世界最大の「テロ国家」だということは、『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない:アメリカによるテロの歴史』(三一書房、2005年)で書いた通りなのだが、そのくせ「テロリストを許さない」というポーズをとりたがり、自分たちのテロ行為に刃向かう勢力を「テロリスト」と呼び、自分たちのテロ行為を正当化する口実にしてきた。 自分たちがテロ行為を繰り返してきただけでなく、アメリカは自分たちに従うテロリスト、あるいは独裁者が大好きである。イスラエルの歴代首相には「元テロリスト」が多く含まれているだけでなく、現在でもガザやヨルダン川西岸では白人政権時代のアパルトヘイト政策を推進、巨大な壁で周囲を囲んでパレスチナ人から自由を奪い、物資の流入を極端に制限して事実上の兵糧攻めを継続、軍隊を入れての虐殺も繰り返してきた。そんな国をアメリカでは議員も政府も無批判に支持している。 イラン、グアテマラ、チリなど世界各地でアメリカ政府は民主的に選ばれた政権をクーデターで倒してきた。自分たちが操る独裁者が死亡すれば、「弔意」を表してきた。ところが、7月4日に死亡したレバノンの宗教指導者モハンマド・フセイン・ファドゥラーに弔意を表したCNNの中東担当編集者オクタビア・ナスルはすぐに解雇されている。ファドゥラーが一時期、ヒズボラの武装闘争を支持したことが理由だというが、ほかの例と比較すると、CNNが公正な判断を下したとは到底、言えない。
2010.07.10
バラク・オバマ政権は6日、事実上、イスラエルの核兵器保有を容認すると表明した。今年5月に宣言していた「核兵器のない中東」という目標を降ろしたわけだ。「イスラエルは特別な存在」だとする意見に押し切られたのか、自発劇に「転向」したのかは不明だが、結果としてNPT(核拡散防止条約)に唾を吐きかけたことになった。 本コラムでは何度も書いているように、イスラエルは世界有数の核弾頭保有国だと信じられている。イスラエルの核施設で働いていたモルデカイ・バヌヌは1986年、イスラエルが保有する核弾頭の数を200発以上だと告発、イスラエル軍情報部の幹部だったアリ・ベンメナシェは1981年で300発以上の原爆を保有、この年には水爆の実験にも成功していると主張している。ジミー・カーター元大統領は150発という数字を示している。 しかも、イスラエルは単に保有しているだけではない。1973年の第4次中東戦争では窮地に陥ったイスラエルが核兵器の使用を閣議決定している。 このときはソ連の情報機関がこの決定を察知、エジプトやアメリカの政府へ警告している。アメリカは軍事物資を空輸してイスラエルを支援した。ヘンリー・キッシンジャーはエジプトのアンワール・サダト大統領に対し、核戦争へとエスカレートすることを防ぐためだったと説明した。 ところが、図に乗ったイスラエルは停戦の合意を無視、エジプトへの攻撃を続行した。そこで、ソ連はアメリカに対し、イスラエルが停戦の合意を守らないならば、適切な対応策を講じると警告したという。イスラエルの暴走が米ソ開戦を誘発するところだったわけである。 イラクでサダム・フセイン体制が崩壊してからイスラエルやアメリカの親イスラエル派は次のターゲットをイランに定め、軍事侵攻を臭わせてきた。現在、アメリカ上院で筋金入りの親イスラエル派議員、ジョー・リーバーマン、ジョン・マケイン、リンゼイ・グラハムはイスラエルを訪問中だが、7日にはリーバーマン議員が「必要なら軍事行動を起こす」とエルサレムで言明している。 いつものことと言えば、いつものことだが、アメリカ議会のイスラエル信仰はすさまじいものがある。(メディアも一緒だが)パレスチナに対する兵糧攻めと虐殺を容認しているだけでなく、最近では公海上で民間の船団を襲撃したイスラエル軍を支持している。 イスラエルは「建国」の際と1967年の第3次中東戦争で予定していた領土を確保できなかったようで、パレスチナ人を追い出すために「アパルトヘイト政策」を採用し、虐殺を繰り返すことで恐怖から逃げ出すのを待っている。いわば、「民族浄化」を実行しているわけである。 世界的に、庶民の間からイスラエルを批判する声が高まっているのだが、アメリカやイスラエルの支配層は従来通り、強行突破を狙っている。こんなことを続けていると、アメリカ帝国崩壊の切っ掛けになるかもしれない。
2010.07.08
ベルギーに本社を構えるSWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication/国際銀行間金融通信)という会社が問題になっている。金融に関する通信を行う目的で1973年に15カ国の239銀行の支援を受けて創設された会社だ。今では全世界8300行の間で取り交わされる通信を扱っている。この交信内容をアメリカの情報機関へ提供することでEUとアメリカは合意したというのだ。アメリカを支配する勢力が自分たちにとって都合の良い世界を築くため、そうした情報を活用することは間違いない。 個人にしろ、組織にしろ、資金の遣り取りは通常、金融機関を介して行われている。資金を抑えられれば、いかなる活動も困難になる。ビジネスは勿論、平和活動も環境保護運動も資金なしには始まらない。そこで、被支配者を監視するために支配者はカネの動きを監視しようとする。 アメリカでは「テロとの戦争」を口実にしているようだが、アフガニスタンやイラクへ軍事侵攻するはるか前、1980年代にCIAは資金の流れを世界規模で監視しはじめている。つまり、「テロとの戦争」は関係ない。当時から日本の銀行もターゲットになっていたのだが、銀行は状況を把握していなかった。 その当時、CIAが使っていたのはPROMIS(後にさまざまな名称で売られた)で、このシステムは日本の法務省も注目していた。1979年と1980年に「研究部資料」でこのシステムを紹介しているのだが、その裏で動いていたのは原田明夫と敷田稔。当時、原田は日本大使館の一等書記官で、後に法務省刑事局長として「組織的犯罪対策法(盗聴法)」の法制化を進め、事務次官を経て検事総長に就任した。敷田は名古屋高検検事長を務めることになる。 1970年代からイギリスのジャーナリスト、ダンカン・キャンベルなどはアメリカの情報支配戦略を追及、1980年代の終わり頃から広く注目されるようになっていた。ただ、例外だったのは日本。体制派と見られている人だけでなく、日本ではマスコミや「左翼文化人」もアメリカの情報支配戦略に関する話を極度に嫌っていた。EUがECHELONを問題視してからアリバイ工作的にこの問題を取り上げていたが、本質には迫ろうとしなかった。つまり、「企業のカネ儲け」の次元でしか語ろうとしなかった。 勿論、アメリカはカネの流れだけでなく、あらゆる個人情報を集め、監視しはじめている。空港での検査強化も無縁ではない。 ところで、日本では国家権力が情報を集めることを問題にしない。せいぜい、情報が漏れることを心配するだけだ。この絶対的な権力者崇拝は救いがたい。
2010.07.07
沖縄にいる米海兵隊をグアムへ移動させるプロジェクトに関連し、アメリカ政府は日本に負担金を増額するように求める書簡を送ったという。その額は数億ドル、つまり数百億円に達すると報道されている。 国防総省の見積もりによると、移転費用の合計は107億ドル、そのうち日本政府が60億9000万ドルを負担することになっていた。つまり、アメリカ政府の負担は46億1000万ドルということになる。 しかし、昨年7月、アメリカのGAO(会計検査院)はアメリカ側の負担額が少なくとも75億ドルになると試算している。30億ドル弱、移転費用は増えると見ているわけで、その分、日本に負担増を求めてくることは明らかだった。普天間基地の問題で日本政府が弱腰なのを見れば、吹っ掛けてくるのが当然だ。今回の要求額は数億ドルだというが、これで収まるとは思えない。桁が違うだろう。青天井だと思った方が良いかもしれない。 アメリカ政府の見積もりには、沖縄以外からの移動に関わる経費、訓練施設などの造成に必要な資金、国防総省の諸機関を強化する費用などが含まれていない。さらにインフラの整備に61億ドルが要求されているともいう。賃金を現地相場の2.5倍出すことも問題になっているようだ。現在、アメリカ軍が国外に保有している基地は「保養施設」としての役割が大きいと言われ、それだけ豪華な施設になることも経費を膨らませる一因になっているのだろう。
2010.07.05
未だに「ロシアのスパイ」が何者なのか、正体がわからない。「告白」したというのだが、機密情報を盗み出したようには思えず、FBIに察知されないような情報の伝達方法を使っていたという話も出てこない。 逮捕された11名(1名は逃走したらしいが)がロシアのスパイだったとしても、重要な役割を演じていない。もし、この11人がスパイ網の中枢につながっている可能性があるならば、絶対にFBIは手を出さないはずだ。つまり、「泳がせ」て大物が出てくるのを待つはずである。そんな大物が関係していないと判断したのか、別の理由で「スパイ騒動」を演出する必要があったのか、そんなところだろう。 アメリカとロシアとの接近を嫌う勢力が背後にいる可能性は確かにある。ボリス・エリツィン時代のロシアで「規制緩和」や「民営化」を利用し、不公正な手段で巨万の富を築いた富豪たちは、ウラジミール・プーチンの時代に逮捕されたり、亡命している。その亡命先はイスラエルやイギリス。アメリカでは親イスラエル派、つまり新保守(ネオコン)と緊密な関係にあるのだが、旧保守との関係は友好的でないようだ。中東やロシアの石油利権を新イスラエル派/イスラエルが支配する事態になれば、新保守と旧保守の力関係は完全に逆転する。 11人は、ロシアの情報機関が「目眩まし」で配置していたグループという説、あるいはバラク・オバマ政権がBPの石油流出事故やアフガニスタンやイラクでの困難な状況を誤魔化すために演出したという説もあるが、正しいかどうかは不明だ。
2010.07.02
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