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「雪の二人」
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小説「見果てぬ夢」4
ベルを押すと、父ジョンが待ち構えていたように、
飛び出してきた。
「遅かったじゃないか。何してたんだ。
まあ、早く上がりなさい。」
そそくさとリビングに通すと、
ソファに自分だけ腰掛けてしまった。
ローリーは、どうしていいか分からず、
振り返ってベスを見る。
「もうパパったら。お客さんを立たせたまま、
自分はさっさと座って。」
「やあ済まない。ついいつもの癖が出てしまってね。
さあどうぞ。」
と、座るように勧める。ローリーは落ち着いて、
立ったまま挨拶をした。
「ローリーと申します。お忙しいところを僕の為に
時間を割いていただいて、ありがとうございます。
それなのに、約束の時間に遅れてしまい、
申し訳ありませんでした。」
「いや堅苦しい挨拶は抜きにして、
まあ座ってくれたまえ。」
「パパはあんなこと言ってるけど、
『ちゃんと挨拶も出来ないような奴は駄目だ。』
と、いつも言ってるの。
ローリーが気に入られた証拠よ。」
「こら、もうばらすのか?
まあともかく私も第一印象は気に入った。
だが、問題はこれからだぞ。
覚悟して答えるように。まず君は娘のどこが
気に入ったのかね。
このじゃじゃ馬娘のはねっかえりを。」
「その勇ましいところです。
勇気と正義感を持った人だと思います。」
「フーム。まあ人間としてはともかく、
女性としては魅力ないだろう。」
「いいえ、心根は優しい女性だと思っています。
同情心あふれるほど。」
「もう、嫌味を言ってるの?
そらぞらしいお世辞ばかり言わないで」
と、ベスが割り込んで入った。
「これは本当のことだろ。
それを言うなら、皮肉と言ってもらいたいな。」
「まあまあ、痴話喧嘩はやめてくれ。
ベス、お前は黙っていなさい。
私が彼と話しているのだから、
口出しはしないでもらいたいな。
さて、それでは君のご両親は、
何をしていらっしゃるのかね。」
「父は死にました。母は元々いません。
僕には父しかいないのです。」
「いろいろ事情がありそうだね。
済まない事を聞いた。許してくれ。」
「いいえ、別に聞かれて困る事でも
恥ずかしい事でもありません。
僕は父を尊敬していますから、
母なんていなくても構わないのです。」
「君のお父さんはさぞ立派な方だったんだろうね。
君を見れば分かる。
「そうですね。父も科学者でした。
国家の機密に携わる研究をしていて死んだのです。
殉職したと言った方が、通りはいいかもしれませんが。」
「そうだったのか。
それで君は将来何になろうとしてるのかね。」
「科学者です。父に負けないような
研究をしたいと思っています。」
「お父さんは何の研究をしていたのかね。
良かったた、教えて欲しい。」
「残留放射能の研究です。
ドームの外にどれだけ残っているか。」
「何だって。私と同じ研究だ。
お父さんの名前は何というのかね。」
「ギルバートです。ご存知なんですか。」
「知ってるどころではない。
彼は私の友達だった。ロボットでは唯一の。
君ももしかしてロボットなのか?
彼の息子ということは。」
「そうです。僕はロボットです。
父に作られた実験ロボットです。」
「そうだったのか。
君が、あの転校生のロボットだったんだな。
ギルバートが個人的に作っていたロボットが、
君だったとは。」
「僕を知ってるんですか?
父が僕を作っていたのを。」
「ああ、彼は自分の子どもを
作るんだと張り切っていた。
大量生産され、コンピューターに
操られるロボットではなく、
自分の意志と感情のみで動く、
人間のようなロボットを作るのだと。
だが、完成間近に彼は亡くなったはず。」
「僕は研究所の実験ロボットとして、
その後完成されたのです。
父の意思に反して、
コンピューターにつながれていますが。」
「それで並のロボットより、優秀だというわけか。
君自身は素晴らしい。大変優秀なロボットだ。
しかし、残念なことだが、娘とは
これ以上深く付き合わないで欲しい。
友達として、またライバルとしてなら、
喜んで君を受け入れよう。
だが、恋人となると話は別だ。
愛し合えば、結婚や子どもを望むだろう。
それが無理なことは君も分かってくれると思う。
ギルバートの息子の君なら。
「分かりました。やはり、あなたも
ただの人間だったと言う訳ですね。
僕は、お嬢さんを愛してはいない。
だが、ロボットを恋人として認められないと
いうのは承服しかねます。
現実問題として、今は無理だとしても、
将来きっとロボットが人間と同等、
いやそれ以上になる時が来るでしょう。
その時は覚悟しておいて下さい。
人間の科学者など要らなくなりますよ。」
「ああ、覚悟している。今でさえ、
ロボットと対抗して、研究するのは大変だ。
だが、娘だけにはせめて夢を叶えさせてやりたい。
科学者になる夢を。」
「そうなればいいですけどね。
まあせいぜい頑張ってください。
僕はこれで失礼します。
もうお嬢さんとはお付き合いしませんので、ご安心を。」
ローリーは慇懃に礼をして、ドアを閉めた。
ベスは後を追った。
「待って、ローリー。」
「ベス、止めても無駄だ。」
ジョンがベスの腕をつかんだ。
「放して、パパ。行かせて。」
「どうしようもないんだ。これだけは。」
「イヤ! ローリーが行っちゃう!」
ベスは泣きながら叫んだが、ローリーの耳には届かない。
虚しく空に響くだけだった。
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