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一部の高速路線バス事業者からは、「サイトの入り口(トップページ)で、高速路線バスと高速ツアーバスをもっとはっきり分けて欲しい」という風に言われる。銭湯の入り口で「男湯」「女湯」が分かれているように、「高速路線バス予約はこちら」「高速ツアーバス予約はこちら」と分けてしまえばいいのではないか、そうすれば各事業者の心理的な抵抗感が小さくなり、契約できるんだけど、と。そう意図したわけではなかろうが、実は私たちの競合である「YAHOO!トラベル」のページは、既に擬似的にそのような形になっている(高速路線バスを予約しようとすると、宿泊予約などでYAHOO!と強いつながりがあるJTBの高速バス予約サイトにリンクされている)。私としても、それで高速路線バスの取扱が増えるのなら、と、ちょっと気持ちがゆらがないでもない。だが私としては、それをやってしまえば負けだとじっと我慢である。私が実現したいのは、一つの「商品棚」になるだけ多くのバスを並べ、それを利用者に選んでもらう形である。従来、区間独占的に認可を得た事業者(多くの場合は共同運行ペア)のみが高速バス事業を行なっていた際には、高速バスとは高速路線バスしか存在しなかったし、高速路線バス同士を比較しながら予約をするような環境もまた、存在しなかった。しかし今は違う。高速路線バスについても需給調整が撤廃されマルチトラック化が進展している。さらに高速ツアーバス業態が容認され、むしろ高速ツアーバス同士は激しい競争のさなかにある。利用者一人ひとりが、高速バスと高速バスとを比較しながら、より自分の希望に近いバスを選んで予約できる状況が生まれたのだ。もちろん、「ルイ・ヴィトンの鞄が欲しい」と、あらかじめ欲しい商品が決まっている人は、ルイ・ヴィトンの直営店に行けばいい。「クルマは絶対にジャガー」という人は、ジャガーのディーラーに行けばいい。しかし「100万円くらいで、買い物に使いやすい手ごろな中古車が欲しい」というような漠然とした希望しかない人は、なるだけ多くの中古車を揃えた中古車センターに出向いて、何百台と並ぶ中古車から、予算や年式、メーカーなど希望に合わせて絞り込んでいって、希望に一番近いクルマを最後に選ぶことになろう。最初から「JRのドリーム号に乗りたい」と決めている利用者を簡単に予約まで結びつけることは、JRバスの「直営店、公式ディーラー」に当たる高速バスネットの仕事であり、私たちが担うべきなのは、どの会社のどの高速バスが自分の希望に最も近いのか比較検討しながら予約したいという利用者を、予約にまで結びつけることである。そのためには、なるだけ「同じ商品棚」に並べることが重要だ。京王百貨店で売っている298円の牛乳と、京王ストアで売っている198円の牛乳があったとして、どちらが高級でおいしい牛乳か、簡単に判別できるだろうか? その100円の価格差は、牛乳そのものの価値の差なのか、百貨店とスーパーという販路が異なるから生まれたものなのか、一般の消費者がブレイクダウンできるだろうか? だからこそ、同じ商品棚、同じ空席検索結果画面上に並べ、その中で利用者が一つひとつの商品を見比べながら予約する環境を作ることによって、利用者は自身が最も求めている商品にたどり着くことができる。老舗路線バス事業者の安心感を求める利用者もいるだろう。少しでも安く、という人もいるだろう。わかりやすい停留所や待合室のあるバスターミナルから乗車することを望む人もいるだろうし、アメニティグッズ付きなど柔軟な商品性を好む人もいるだろう。希望のタイプは満席で、やむを得ず次点の商品を選ぶケースもあるだろう。利用者のニーズは多様であり、その全員に万能な商品などあるはずもない。しかし多くの事業者が多様な商品を用意し、それを比較検討する場を用意することができれば、なるだけ多くの利用者が希望のバスにたどり着くことができ、結果として高速バスマーケット全体は拡大していく。利用者が商品を「選ぶ」ということは、事業者側も利用者を選ぶ必要が出てくる。時は既に従来の区間独占認可の時代ではない。同じ商品棚に競合する各社の多様な商品が並んでいる以上、ぼんやりとした輪郭の、個性の乏しい「最大公約数的な」商品を作っていたのでは誰からも選んでもらえない。事業者自ら「この商品は女性向け」「ビジネス出張向け」などとターゲットを明確に選定していかなければならない。事業者側も、商品ごとに、あるセグメントを採ってあるセグメントを捨てる「覚悟」を求められているのである。そこでは、「路線」か「ツアー」かといった業態の選択そのものも、ターゲティングの重要なツールのひとつとなりうる。老舗の路線バス事業者が高速ツアーバス業態を(あるいは両方の業態を)選んでそれに合ったセグメントに向かい合うこともまた、選択肢なのである。かつて酒販免許ががちがちに運用されていた頃、ビールといえば、近所の酒屋の親父に電話してラックで配達してもらうものだった。その頃、近所の酒屋が扱っているビールが極端に「女性向け」だったら、男性は不満に感じただろう。その逆もしかり。だから当時、ビールは余り個性がなかった。しかし、コンビニの冷蔵ショーケースから消費者本人が自身で好みのビールを選べる時代になった今、高級志向や低価格志向、女性向けや健康重視など様々な種類のビールが自らを主張しあっている。上記のような市場の変化は何もバスとビールだけでなく、この国の多くの商品で起こっている。競争が「磁場」を生んで新たな需要を集めるのである。一つ運用面での具体例を挙げれば「夜行便の開放休憩」だ。区間独占だったころ、開放休憩すべきかどうか事業者ごとに(結果として路線ごとに)判断が分かれ、利用者からの不満に各社頭を悩ませていた。休憩ごとに夜中に起こされるのは嫌だという利用者も、気分転換や喫煙で車外に出たいという利用者もいるからである。今なら「休憩しないので睡眠を邪魔されません」「2時間ごとに休憩するのでタバコが吸えます」とサイト上に明記すればいい。独占認可と引き換えに事業者が背負わされていたのは「特定の乗客に不利にならない、不満を持たれない」という責任だったが、競争になった以上、「ウチは開放休憩しません」と言い切ってしまって休憩を望んでいない利用者だけを集めればいいし、「どうしても休憩がお望みなら、他社に乗ってください」と言い切ることができるようになったのである。もちろん休憩は一つの例であって、車両タイプや価格にしても、わかりやすい停留所の有無も含めた「路線」業態か「ツアー」業態かにしても、各事業者が戦略に応じて使い分ければいいだけのことである。高速路線バスの皆様はどうも悲観的というか、必ずといっていいほど「並べて売られたら絶対に負ける」とおっしゃる。しかし、私のサイトで既に取扱を始めているいくつかの高速路線バスの予約状況を見ている限り、心配はいらない。むしろ、彼らがいま持っている自身の「強み」をもっともっとアピールする積極性だけは早く学んでいただきたい。販路拡大の意欲も、その販路を使いこなす積極性も持たないまま「どうせウチのバスが選ばれるはずがない」と引きこもっていたのでは、利用者数が増えるはずもない。
2010.06.28
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いつも書いていることだが、高速ツアーバスはこれまで大都市間路線を中心に成長した。具体的には、首都圏~京阪神、首都圏~名古屋、首都圏~仙台である。その3路線で高速ツアーバス輸送人員の70%以上を占める。首都圏~仙台を「大都市間路線」と捉えるかどうかは難しいが、正しくは「大都市間」というより「第1フェーズ型」の路線というべきか。要するに「地元の主(ぬし)」のような路線バス事業者が自ら高速バスを運行していなかった路線である。首都圏や京阪神は市場規模が非常に大きく数多くの路線バス事業者がバラバラに路線バス事業を行なっていて、それぞれのバス事業者は「地元の主」といえるほどの存在感を持っていないし、名古屋や仙台で「主」である名鉄や宮城交通といった事業者は、東名急行バスや東北急行バスの存在の影響で、長らく、東京線の高速バスを自ら運行してこなかった。東北急行バスやJRバス(国鉄バス)といった「第1フェーズ」時代から高速バス運行に携わる事業者は、運行については十分な実績があるものの、地元に密着して需要を掘り起こす力には乏しかった。その結果、上記3区間においては、本来高速バスが果たすべき役割(得るべき市場シェア)に遠く及ばない規模にしか高速バスは成長しなかった。ただ全体の流動量が非常に大きい区間だから、わずかなシェアを獲得しただけでバス業界では「ドル箱」だと認識されていた。しかし実際には「掘り起こしきれていない潜在需要」が大きく大きく残っていた。そこにウェブマーケティングという高効率なマーケティング手法が持ち込まれたことで、同区間の高速バス輸送人員は初めて適切な市場シェアまで成長した。そのウェブマーケティングをうまく活用したのが高速ツアーバス各社だったから、結果として高速ツアーバスだけが大きく成長した、という構図だ。だから、私に言わせれば、高速路線バス各社ももっとウェブマーケティングをちゃんと活用していればこんなことにならなかったのに…となる。高速ツアーバスにも高速路線バスにも冷たい言い方を許してもらえれば、高速ツアーバスの成長とは「落ちてた財布を拾っただけ」に過ぎない、ということだ。落とした方が「盗まれた!」と叫ぶのも筋違いだし、逆に高速ツアーバスが高速路線バスと本気で戦って「勝ち取った」わけでもない。しかし、財布はいくらでも落ちているわけではない。大都市間において高速バス(「路線」と「ツアー」の合計)輸送人員が「本来得るべき市場シェア」に達しつつあることで、高速ツアーバスの成長率は鈍化しつつある(それでも、上記3路線平均でまだ対前年20%前後では成長しているが、2年前くらいに比べると明らかに鈍化している)。ならば、私たちの会社として取るべき戦略は限られてくる。まずは、既に大都市と地方都市、あるいは地方都市同士を結ぶ区間において十分な存在感を持つ高速路線バスの取扱を開始し、彼らの乗車率向上に寄与しながら商品棚に並ぶ商品(区間)数を増やしていく戦略である。しかしそれがダメなら(あるいは同時に)、ウィラー・トラベルやオリオンツアーといった高速ツアーバス各社の地方路線進出を徹底的に支援する戦略だ。これまでのような「片手間」の進出ではなく、本気でローラー作戦を組み高速路線バスから乗客の転移を図る戦略を採らざるを得ない。いや、予約サイトである私たちでこそ、その気になれば(相手次第だが)高速路線バスの取扱をはじめ路線バス各社と果実を分け合うことができるが、高速ツアーバス企画実施会社にすれば、高速路線バスから乗客を奪うしかない。繰り返すが、これまで彼らがやってきたことは「落ちてた財布を拾っただけ」である。だがこれからは、本気で「がっぷり四つ」に組むことになる。ウィラーやオリオンの立場に立ってちょっと考えれば、それ以外に選択肢がないことはわかるだろう。路線バス事業者の前で私がこんな話をすると、ある事業者の課長さんは「今日はケンカを売りに来たのか」と怒り出した。まあ、感情的には怒りたくなる気持ちも理解できるのだが、そこで怒ってしまえば誰が見ても「負け」である。「これから戦うべき敵」に比較的近い立場にいる私が、せっかく目の前にいるのである。一つでも多く情報を引き出すべきだ。一方で、先日来お邪魔したいくつかの事業者では、まさに質問攻めにあった。銀行から移ってこられたお年を召した白髪の社長さん、多彩なご経歴をお持ちで柔軟なタイプの比較的若い部長さん、とパーソナリティは対照的だったが、上記のような話をこちらが持ち出しただけで大学ノートを手に身を乗り出してくる。「もしウチの会社が成定さんのトコロと契約しなかったら、ウィラーやオリオンに対し具体的にはどのような支援をするのか?」「現実に、○○地区の高速ツアーバスの取扱は、足元の数字でどれくらい成長しているのか?」「もしサイト上に並べて販売したとして、どれくらいの比率でウチの便に予約が入ると思うか?」私がお目にかかる路線バス事業者の皆様は、全員(当たり前だが)高速ツアーバスの存在自体は知っている。以前なら「乗合類似行為」に当たるとされたそれが、既にその非難の対象になり得ないことも頭ではわかっている。しかし、自分たちが育ててきた「第2フェーズ型」路線にまで高速ツアーバスが進出してくることを「現実」として受け止めそれへの対抗策を講じようと努力できる方と、「現実」を受け止めること自体を拒絶してしまう方がいる。実は先日の出張で、朝食を採りにホテルの部屋から出ようとしたら、財布がなかった。ベッドもゴミ箱もひっくり返したが見つからない。「昨晩、向かいのコンビニではあったはず。いや、酔っ払っていたから落としたのか」。それでもあきらめきれずカバンをひっくり返し……「ああ、自分は財布を無くしたんだ」という「現実」を受け入れたのは、最後の手がかりと向かいのコンビニに行って「財布落ちてませんでしたか?」と勇気を出してたずねた正にその瞬間だった。「いやあ、届いてないですね」。それ以降は早かった。自分でも意外なほど冷静に、交番で届けを出し、現金なしで新幹線に乗せてもらう方法を確認した。十分に現実を受け入れ、これからするべきこと(今日これからのアポイントを断り、クレジット会社に電話をし…)を頭の中でリストアップしながらホテルの部屋に戻ったとき、ワードローブの隅に落ちていた財布を発見した。今度は、財布があったという事実を受け入れられるまで、少し時間がかかった。高速ツアーバスの成長を「落ちていた財布」などと例えるからバチが当たったんだ、と反省しながら、現実を受け入れることの難しさを知った。少なくとも、現実を受け入れようとなさっている方々には、そのことに敬意を払い最大限のお手伝いをしようと感じた瞬間でもあった。
2010.06.25
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人事の季節である。全国のバス事業者から、人事の話が伝わってくる。ほとんどの事業者は、おおむね周りの推測どおりの「順送り」人事になるようだ。ある事業者は、社長の席は鉄道からの「行って来い」で、だから無事に鉄道に戻ることができるのはおめでたい話のようだ。またある事業者はバスが「本業」だから、現役の社長は「勇退」となり専務さんが後を継ぐ。一方、大きな若返り人事となる事業者もあるようだ。「え、このクラスの人が次期社長?」と驚くような話も伝わってきた。私の会社のようなベンチャー色の強い会社ならともかく、長い歴史を持つ老舗バス事業者の話である。「何人抜き」というような話はこれまで余り聞かなかった。見渡してみると、バス「プロパー」の社長や鉄道からの天下り組みなど、「いわゆるバス会社の社長さん」といった面々ではない経営者の数も増えてきた。もっともわかりやすいのが、産業再生や民事再生などのスキームを経て新しい経営者を迎えた事業者たちである。彼らの多くは「バスのプロ」ではなく「経営のプロ」たちである。当初は現場からは微妙な雰囲気で迎えられたかも知れないが(まあ、厳しい言い方をすれば「一度つぶれた会社」である。現場の面々も、会社が存続し仕事があるだけでありがたいと理解するしかなかっただろう)、その中で新しい経営者たちはそれぞれなりに経営改革を進め、皆さん結果を出しつつある。少なくとも、一度経営破たんし新しい経営者を迎えた事業者で、もう一度行き詰ったという例は未だ聞かない。バス事業を取り巻く環境が難しさを増している状況の中でだから、さすが、と評価すべきだろう。また、目に見える経営破たんは迎えておらずとも新しい経営者を迎えた事業者もある。以前にも書いたが、地方の路線バス事業者という存在は、日本ならではの間接金融(地方銀行)の存在感の大きさと歩を一にしてきた。今の地方銀行に、従来までと同じような長いスパンでバス事業者との付き合いを考える余裕はないだろう(その意味では、いくつかの地方の路線バス事業者に引導を渡したのは、あるいはこれから渡すのは、バス業界の規制緩和ではなく、金融業界の「護送船団方式」の終焉、金融における規制緩和なのかも知れない)。後が無くなった地方の金融機関によって新しい経営者に代替わりを迫られたバス事業者もある。この場合は、全く地域に縁のない人を外から呼んでくるというわけではなく、地域の産業界で一目置かれた優秀な経営者にバス事業者の将来を委ねる、といったイメージだ。バスが好きで(なにも「愛好家」でなくとも、地元の役に立つバスという存在に共感して)バス事業者に就職した若者にとって最終的なゴールの一つが「社長」であること自体はもちろん好ましいことなので、プロパー社長が多いほうが、それはいいだろう。ただ、あくまで傍で見ていての感覚的な話に過ぎないが、現時点では、新しい経営者の皆様方の動きを見ている限り「経営のプロ」を迎えることの意義の方が大きいような印象がある。何より、私の知る限り彼らは非常に勉強好きである。私などがお邪魔しても、まるで根掘り葉掘り尋問でもされるような感じで「成定さん、これはなぜ? こっちはどうなると思う?」と質問攻めに合う。私の会社が開催する戦略共有のイベントにも、お忙しい日程を調整してまで参加してくださる。「ツアーバスの話は聞きたくない」という姿勢を前面に打ち出す方の多い旧来の経営者の皆様とは、そこが対照的だ。さて、いつも書いているように、路線バス事業者は典型的な「日本型経営システム」でここまで育ってきた。日本型経営システムとは、会社が右肩上がりで大きくなることを前提としたシステムである。同期入社した新入社員たちがやがて年を取っていく中で、「終身雇用」と「年功序列」を守り、やがて年配社員となった彼らに十分なポストと給料をあてがうには、管理職のポストを常に増やしていくしかない。管理職のポストを増やすには、会社の規模が常に拡大していなくてはならない。「エコノミックアニマル」などと揶揄されつつも「モーレツ営業」によって世界へ進出していったメーカーたちとは異なり、完全に内需型産業であるバスは、本来なら日本型経営システムでは立ち行かなくなることが明白な業種である。ただ、国全体で人口が増え、国全体で経済が成長していた時代には自ずとバス事業も成長した。だが、国全体が成長の歩みを止め、むしろモータリゼーションの進展など逆風が続く中で、これまでと同じやり方では路線バス事業者の経営が行き詰ることは素人目にも明らかだ。このような流れの中で新しいタイプの経営者が増えていくのはある種の必然なのだろう。また業界全体で「終身雇用」の色が強いことの裏返しとして、業界内の転職が非常に少ないのも特徴だろう。どんどん会社を移っていくことだけが前向きな生き方だという気はないが、転職の可能性がない業界では、各社員が「仕事」「業務」に紐づくのではなく「会社」に紐づいてしまい専門的な業務知識が定着しないという弊害がある。いやむしろ、転職によるキャリアアップの可能性が閉ざされていることで、若手社員のモチベーションが、業務の専門性を極めることより社内政治をうまくこなすことに向きがちなのは残念である。○○バスにおいて高速バスの販売戦略で成功を収めた若手が、(もちろん本人の希望に応じて)別の県の△△交通に請われて移籍する、とでもいうようなダイナミズムがもう少しあれば、とは思う。もちろん全てのプロパー社員がその道を希望しているわけではないだろうが、そういう選択肢もあれば、ということだ。その意味で、今回の人事で、ある事業者で中途採用組が大抜擢で社長に就任するという噂をお聞きしたが、大きな大きな一歩であろう。私個人としては、引き続き、どこか個別の事業者の経営建て直しをお手伝いすると言うよりは、「高速バス」(それも今の時点では、バス業界のこれまで弱点であった「販売」「マーケティング」の分野を優先して)業界全体の黒子でいようと考えている。ただ、勇気を出して自らの体にメスを入れ癌を取り出そうとなさっている新しい経営者の皆様には、特に精一杯お手伝いさせていただきたいのは当然である。
2010.06.22
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昨日は、大手私鉄系バス事業者の、ある分社子会社の社長さんのところへご挨拶。会社として深いお付き合いがあるわけではないが、高速バスや貸切バスの生き字引のような方で、おおらかなお人柄も魅力的だからご挨拶と称して時々お伺いする。20年くらい前、ちょうど私が学生時代でバスに興味を持ち始めたころ本社部門で高速バスの企画などにたずさわっておられたようで、いつお邪魔しても「あの頃」の思い出話がぽんぽんと出てくる。私も、むしろその昔話をお聞きするために、「営業」という名目で往訪しているようなものだ。かわいがってくれる大先輩に会いに行く、という思いもあるし、昔の話を聞かせてもらうのは、懐かしい映画をわざわざビデオで借りて再見するというのに近い感覚もある。「昭和」から「平成」に変わった頃、バス業界は高速バスブームであった。原則的には国鉄バスや高速バス専業者(日本急行バス、東名急行バスなど)にしか高速バスの認可が降りなかった時代を経て、1980年代前半まで(昭和60年くらい)に、起終点それぞれを事業区域とする路線バス事業者同士の共同運行であれば高速バスの認可が降りるようになる(いつも書いているが、それによって地方の路線バス事業者が自ら高速バス事業に参入できるようになったことで、彼らの販売力によって地方側で高速バス市場が大きく成長した。私が日本の高速バス成長史の「第2フェーズ」と呼ぶ時代が始まったのだ)。<昭和から平成になった頃は…>と社長さんが懐かしく振返るのは、正にその「共同運行システム」が定着し、全国の路線バス事業者が我先にと高速バス路線を新設していた時代である。<あの頃は、全国から地方の老舗事業者が共同運行の申し入れにどんどん来てさ>。社長さんの目が輝いて笑顔のしわが深くなる。<毎週のように申請、申請。徹夜して書類作ったりしたもんだよ。平成元年の3月に○○線、4月には○○線。そんな感じだった>。<一方でこんなこともあったよ。○○バスさんが>といって、社長さんは他の大手私鉄系バス事業者の名前を挙げた。<やつら、「お前の会社がこの路線を始めるなら、○○高速道路の上にウチのバスをずらりと並べて阻止してやる」とか言うんだよ。別にその会社の事業エリアにバス停を作ると言っているんじゃない。高速道路を通過するだけなのに。まるで誰かさんたちのシマ(縄張り)争いみたいなもんだ>。こういう話を聞くといつも、日本史の教科書に出てくる「一所懸命」という言葉を思い出す。鎌倉時代以降、日本の武士たちは自分たちの「土地」を守るために命を懸けた。別に「古い」と非難しているつもりはない。諸外国では「公共」が担っている地域交通をこの国は「民間」に委ねてきた以上、運輸省が免許秩序を守り過当競争を防止することが地域交通を守る唯一の道であったわけだし、そうである以上、事業者はその秩序の下で自分の事業区域を維持することが企業として存続するための唯一の道だったのだ。大手私鉄が買収合戦までやって沿線や地方の路線バス事業者を傘下に収め勢力範囲拡大を競い合った混乱期を終え、いったん「縄張り」は安定していたが、「高速バス」という新しい事業モデルの誕生によりその安定にひびが入るリスクが出てきたのだ。上記の事業者の反応も判る気がする。というより、私がバスに興味を持ったのは、このような話題がきっかけだったと言っても過言ではない。「趣味」として聞くなら、社長さんの昔話に何時間付き合っても飽きることはない。だから私には、路線バス事業者がどれほど強い思いを持って、事業エリア、具体的には「バス停の権利」を守ってきたか、よくわかる。その努力を尊いと感じるし、逆に各事業者がその「枠」をいかに破ろうと知恵を絞ってきたかも理解している。だからこそ、募集型企画旅行という全く別のルールを強引に適用することでいとも簡単に同じような高速バス事業に参入してきた高速ツアーバスという事業モデルに対し、怒りというか、自分たちの尊厳、生きてきた証のようなものを傷つけられたかのように感じる気持ちもよくわかる。しかし、時代は変わってしまった。高速ツアーバスという事業モデルは生まれたし、それは行政によって容認されてしまったのである。2001年にオリオンツアーやウィラー・トラベルがこのモデルを始めていなければ、別の誰かが同じコトをやっただろう。2005年に私たちが予約事業に参入していなければ、YAHOO!かリクルートかが同じコトをやっただろう(現に彼らは高速ツアーバス予約事業に後発参入している)。<路線バス事業者さんたちがバス停の権利でどれだけご苦労なさってきたかはよく承知しています。でも別の見方をすると、昔から路線バスをやっていた会社だけがそのバス停を高速バスにも使えて、新規参入しようとする者にはバス停が与えられないのは「既得権益」に他ならない。下手するとメディアで悪者扱いされかねませんよね>。私がそう申し上げると社長さんの目は少し怒っていたが、私がどうしても伝えたかったのは、「バス停の権利」の話は一つの美学ではあるが、その種の美学は相対的なものであって絶対的なものではない、ということなのだ。例えば沖縄の基地や消費税上げなどでも立場によって意見が異なるように、路線バス事業者が自らの正当性を大上段に構えれば構えるほど「既得権益」として世間からネガティブに見られるリスクが、彼ら自身に生まれる点なのだ。道路運送法は改正され、国の方針は、免許秩序と内部補助によるバスネットワーク維持では既になくなっていることを路線バス事業者の皆さんも頭では理解しているのに、感覚的には「昔話」から抜け出せないのは彼ら自身のためにならないと、私は思う。まあ、大先輩の話を聞きに来ている一愛好家の前でなら、それでも構わないが。と、最後は厳しいことを書いたけれども、<毎週のように申請、申請>のような時代を一度は経験している路線バス事業者の皆さんに、もう一度そのような「成長するドキドキ感」をぜひ取り戻していただきたいと願う気持ちを新たにし、事務所を後にした。目の前の車庫では、その事業者自身は運行から既に撤退した路線の相手側事業者の夜行車両が、のんびりと昼寝をしていた。
2010.06.18
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本日より、東京空港交通/西東京バス共同運行による八王子-成田空港線リムジンバスの取扱を開始。昨年11月に4路線(新宿/東京駅/TCAT→成田、新宿→羽田)から取扱をスタートさせた東京空港交通だが、その後、羽田→成田の取扱や、各路線での「お帰り券付き」(復路はオープン券)の取扱などが加わり、このたび初の共同運行路線の取扱開始となった。経済不順による渡航客の減少に伴う需要減(今月に限っては、昨年インフルエンザの影響で大きく落ち込んだ反動で対前年の数字はいいだろうけれど)を補うほどめちゃくちゃ多くの予約をお送りできているわけではさすがにないけれども、取扱路線を増やしてくださっているということは、まあまあご満足いただいているということだろう。海外航空券やホテル予約とのシナジーが期待できるという意味では、私たちも「戦い方」がはっきりしている商品だ。業態が「路線」だろうが「ツアー」だろうが、私のサイトで販売をするというのは、原則、認知度を高め新しい需要を獲得するための「攻め」である。もともと電話予約だったリピーターさんをウェブ予約に誘導することで、乗客は24時間予約でき便利になり事業者側は予約センターのコストを削減できる、といった「守り」の話ももちろん非常に重要なわけだが、それは私たちが担うべき役割とは異なる。「発車オーライネット」や京王系SRS(サイトとしては「ハイウェイバスドットコム」)など、基幹システムと、それに連動したウェブ予約エンジンの担当分野である。事業者にすれば、システム利用料は負担するものの、私たちがいただく「送客手数料」よりはぐっと安く済む(もっとも、路線バス事業者の中には「発車オーライネット」に対してもっと集客力を期待する向きもあるようだが、今のシステム利用料で集客力を持つことなど無理だし、逆に集客力を持った結果システム利用料が値上がりすれば元も子もない)。もちろん、各事業者によって「守り方」の上手い下手に差があるのはたしかで、本当はそこをどんどん改善していただきたく、「趣味」としては各社の守り方にもっともっと口出ししたいのはやまやまなのだが、仕事としては私の役割ではない。では、どんな路線でも闇雲に「攻め」ればいいのか、といえばそうではない。あるいは攻める際のツールとして私のサイトがあらゆる路線に有効かというと、これもそうではない。大切なことは、各路線ごとにそれぞれが置かれた環境を十分に理解し、正しい「処方箋」を書いていくことである。例えば、首都圏-京阪神/名古屋/仙台といった「大都市間路線」においては、言葉は悪いが、私のサイトは「釣堀」状態である。同区間の高速バスを予約しようとしている乗客予備軍をたくさん抱えているのである。席を登録すればその瞬間から予約は入り始める。ただし競合も山ほどいるので、「とんがり」が無い平板な商品だと他社に競り負けてしまう。逆にニーズに合致した商品を作れば驚くほどの予約を集めることができる。全く新規参入の高速ツアーバス企画実施会社なら、極端な話、私のサイトに登録すればさえ戦い方しだいで「バス何台」単位で送客を受けることができるし、逆に路線バス事業者は既に自分自身の集客力をほどほどに持っているわけで、それはそれで従来どおり予約を受けつつ、こっそりと私のサイトに座席を登録し「足りない分」の穴埋めに使えばいい。既存のリピーターや自社販路で告知した乗客(親会社である鉄道の車内に掲出したポスターを見たお客様など)には、なるだけ私のサイトで売っていることは黙っておいて「発車オーライ」などへ誘導し、余計な送客手数料を負担しないようにするべきなのだ。東京-青森や東京-金沢、大阪-広島など地方都市向け長距離路線は、私たちのサイトは残念ながら大都市間路線ほどには多くの顧客を抱えていない。一方、これらの路線はある程度高速路線バスに乗客が定着しており、また高速路線バス同士がマルチトラック化している。ふだん高速バスに乗らない人を次の旅行や出張で高速バスを使うように誘導するのはかなりのリソースがかかる(スイッチングコストが高い)が、ふだん他社の高速バスを利用している人を自社のバスに誘導するのはさほどハードルは高くない。ならば、むしろ積極的に私のサイト名をアピールし、それをフックにライバルの高速バスからの転移を図ることが有効だ。その際「期間限定でポイント○倍」などは地元のメディアにもアピールしやすい。もちろん、大都市間路線ほどでないとはいえ高速ツアーバス予約者の転移も期待できる。その合わせ技で戦うべきである。さらに、高速ツアーバスで言えば熱海や清里、乗合商品で言えば黒川温泉や由布院温泉そして冒頭に挙げたリムジンバスのような路線なら、宿泊予約や航空券予約とのシナジーを明確に見込めるので、私たちには初めての路線であっても送客のお手伝いをすることはできる。もっとも、首都圏-京阪神のように「バス何台」単位での送客は到底無理なので、全くの新規参入では採算ベースに乗らないだろう。リムジンバスや九州横断バスのように既存路線の乗車率向上に活用するには有効だし、高速ツアーバスなどの新規参入であれば、まずは十分に各種販路を整えた上で参入する必要がある。ざっくり言うと、私たちがいま座席をお預かりして結果を出す「自信がある」のは、上記3タイプの路線である。もちろん、それ以外の路線でも個別に処方箋を書くことはできるだろうが、既に確立した「モデル」としては上記3タイプということだ。全国の高速路線バス事業者の皆さんには、ぜひ「もしウチの路線を登録するとしたら……」と、自分の路線に当てはめて空想だけでもしていただきたい。あ、大事なことを一つ忘れていた。上の考え方だと、既に地元で十分な認知があり地元客だけで十分な乗車率がある路線を取扱させてもらえれば、若干の乗車率の上乗せ(特に大都市側での観光客の喚起)につながるとはいえ、既存客の予約ソースの転移が起きて手数料の持ち出しが増えるリスクがある、というわけだが……業態がツアーか路線かにかかわらず同一区間に新規参入があり「がっぷり四つ」に組んだ戦いが始まるのなら、手数料負担がどうのなんて言っていられないはずだ。例えばアサヒやキリンのビールが、ヨーカドーでは売っているけれどイオンでは売っていない、という状況があれば、そのメーカーの売上が相手に負けることは明白なのと同じことである。現在よく乗っている路線ほど新規参入のターゲットになりやすいのは当然で、だから各事業者は、実は調子がいい路線こそ、脇を固めて乗客ニーズの把握とそれに対応する変化、進化を続けなければならないことを、もう一度認識しなおすべきである。
2010.06.16
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本日より、南海バスの高速バス「サザンクロス」大阪-広島線の取扱を開始した。先日の西東京バスに続き2社目の、大手私鉄直系の事業者(ツアー商品も含めれば小田急箱根高速バスと京成バスシステムの例があるが)。西東京バス金沢線と同様、意思決定の関係でまずは同社唯一の単独運行路線から取扱となった。昨年11月の乗合商品取扱開始以来、平均するとなんとか毎月1社のペースを保っている。既に取扱がある事業者の共同運行路線のうち具体的に案件進捗中のものがいくつかあり、その共同運行先まで含めて、いわば「乗合商品取扱の第1フェーズ」というところだろう。昨年11月には「ようやく予選を突破しスタートラインについただけ」と書いたが、西東京そして南海の件で「スタートし、第1コーナーは無事に通過」くらいまで進んだだろうか。南海バスをはじめ、(状況を勘案すれば)勇気あるご決断をいただいた経営者の皆様、様々な調整を行なってくださった企画や営業の担当者の皆様、そして多少のオペレーション負荷を受け入れてくださった現場の皆様と、ここまで導いてくれた協力者の皆様に、深く深く感謝する。ちなみに今回、南海バスは、ほぼタイミングを合わせて「オフピーク片道運賃」を設定した上で、私たちのサイトには、まずはそれが適用になる月曜~木曜日のみ席を登録している。さらに期間限定でポイント付与率を5%(通常は1%)に設定することで、サイト上では高速ツアーバス(同路線を運行しているのはウィラー・トラベルのみ)からの乗客の転移を図るとともに、パブリシティ等リアルな露出も目指している。柔軟な価格設定と在庫(販売対象座席数)登録、さらにはポイント付与率変更と、私たちのサイトをうまく活用している印象だ。単に「何でもいいから出してみよう」ではなく、該当路線の置かれた状況と使えるツールを勘案して総合的に決めた戦略、という印象がある。これで、自社側の販路の売れ具合を見ながら在庫数をリアルタイムにコントロールし始めれば完璧だ。「平日だけ在庫を登録する」「売れ残りそうな座席数を見極め、その座席のみ登録する」というと、よく「そんなことをしたらお前のトコロが儲からないだろう」とよく尋ねられる。たしかに送客実績に基づき手数料をいただく私たちとしても、金曜日の夜行便とか土曜日の朝便など黙っていても売れる座席をお預かりするのに越したことはない。売るのに苦労しないからだ。しかし、売れなさそうな座席しか預けてくれないリスクがあるからこそ、私たちは集客力をさらに強めることに必死になる。その代わり、がんばって結果を出したときの手数料率は他社より高い。その分のコストと知恵を使っているのだし、黙っていても満席になる便を何席販売するよりも、売れ残りそうな座席を1席販売することの方が事業者側にもメリットがあるからだ。在庫、価格、そしてその前提となる商品作りを私たちが握るのではなく、各事業者が主体的にコントロールするという考え方は将来も変わらないだろう。仮に手数料率を無闇に値上げして暴利を貪ったり、せっかく預かった座席をぜんぜん売る力がないなど、私たちが各事業者にとってメリットが無い取引先になってしまったら、各事業者は座席を投入しなければいい話だ。しかもそれがリアルタイムに可能である。極端な話、私の電話口の対応が悪くて担当者を怒らせてしまえば、次の瞬間に座席を全部抜かれてしまうリスクを私たちは抱えている。売れる商品が無ければ、手数料売上も何も無い。だからこそ、私たちは各事業者のメリットが最大になるよう慮るのだし、私たちが事業者にもたらすメリットが大きければ大きいほど、私たちも多くの座席をお預かりでき結果として手数料も多くいただける。会社も、そこで働く人間も、基本的には「サボリ」である。ほうっておくと「のんべんだらりん」と、昨日までと同じことだけをやりたがる。それでは、変化する環境の中マーケットに対応することができなくなる。それを防ぐ手立ては一つ。「がんばらなければ、工夫しなければ、儲からない(別に金儲けだけが全てというわけではないが、給料が貰えないとメシも食えない)」環境を、あえて作り上げることである。その上で、各事業者は、1便ごとに、1席ごとに、どの販路でどのような戦略で予約をゲットしていくべきか真剣に考え試行錯誤を繰り返す必要がある。ここで周りを見渡してみると、規制緩和(高速ツアーバス業態の容認を含む)とウェブ化の進展は「販売力のフラット化」をもたらした。「昔からバスをやっている」ということが高速バス参入の事実上の条件だったり、「駅前に窓口を構えている」会社だけが販売力を持っていたりする時代では、もうない。そして、これらの変化は何もバスにだけ起こっているのではなく、この国のあらゆる産業が直面している共通の変化である。そのような環境変化によって、たとえ新興でも中小でも、努力と工夫しだいで事業に後発参入できたりそこで大きな販売力を持ったりすることができるようになったのだ。そしてこの文脈の中で「高速路線バス事業者」を捉えたとき、たしかに一面では新規参入者に追い上げられる既存勢力であることは間違いないにしても、別の一面では鉄道や航空などより存在感の大きい交通手段に対し積極的に攻め込んでいくツールを手にした、ということもまた事実である。いったいどの事業者が、これまでの「座席が予約で“埋まる”」から「予約で“埋める”」へと考え方を変えていくことができるか、楽しみだ。難しいことではないと思う。つい30年ほど前、それ以前は主に高速バス専業者か国鉄バスくらいにしか参入を認められていなかった高速バス事業に、自ら規制をこじ開け参入しそれ以降の高速バスの事業モデルを作り上げたのは、ほかでもない彼ら自身なのである。
2010.06.15
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来月初旬に迫った「高速ツアーバス連絡協議会」の第三回の年次総会に向けて、事務局として準備に走り回る日々。会場の手配、当日の配布資料の作成などのほか、昨年の総会同様、関係諸機関からご来賓をお迎えしたり講話をお願いしたりするため事前にご挨拶に伺ったり。「業態(路線かツアーか)に限らず、高速バスマーケット全体の販売のお手伝い」を目指す私たちだが、本協議会の事務局として仕事をする際には完全に「高速ツアーバス陣営」となる。もっとも、その足で高速路線バス事業者に提案営業に伺ったりもするから、頭の中がちょっと混乱したり……別に「○○陣営」ではないだろうに、と、つくづく思う。特に「高速ツアーバス陣営」の側は、前にも書いたけれどそもそも彼らどうしがお互いに毎日、いや毎時毎分競争のさなかにあるから、正直なところ「路線さん」のことなど余り意識しているとは思えない。逆に高速路線バス事業者の側の反応は、感情としては理解できるものの、冷静に考えれば少し不思議というか、むしろ滑稽にさえ見えてくる。不思議と言えば、私のサイトの宿泊予約のページで、軽井沢地区のプリンス系(西武系)ホテルさんたちが、軽井沢までの足としてこぞって高速ツアーバスの案内を掲載してくれている図は少しシュールだ(例:ザ・プリンス軽井沢、軽井沢浅間プリンスホテルなど。なおバスの紹介をしてくれているのはPC画面のみ。モバイル画面では見れません)。私自身、ホテル業界で長く働いていたわけだが、激しい競争の中で一人でも多くのゲストに自分のホテルを使ってもらう努力は、ホテル業界の誰もが惜しまない。残念ながら軽井沢までの高速路線バスが私のサイトで取扱がない以上、彼らはサイト上では高速ツアーバスの案内をするしかないのだ。ちなみにこの「キラキラ号」の軽井沢経由草津温泉行きだが、よく売れている。東京~軽井沢と東京~草津にはそれぞれ高速路線バスが高頻度で運行されており便利であるし価格差もほとんどないから、商売抜きの立場ならむしろ「お客様、本当なら西武さんやJRさんを使った方が便利ですよ」とお一人ごとに声をおかけしたい気分だ。逆に言うと、いま私のサイトで「キラキラ号」を予約しているお客様は残念ながら西武やJRの高速バスの存在をご存知ではない、ということを表わしている。「この区間なら西武やJRの方がもっと便利なのに」というのはバスに詳しい私だから感じることであって、お客様ご自身は何の疑問も無く「キラキラ号」をご予約なさっているのだろう。私が会社帰りに何気なくコンビニでA社の牛乳を買うとして、牛乳マニア(そんなのいるのか?)がその姿を見ていたら「道路の向こう側の別のコンビニで売ってるB社の牛乳の方が安くておいしいのに」と思うのかも知れない。だが私にとっては「いつものコンビニで売っている」というのは、A社の牛乳の最大の価値である。さて、先日から取扱が始まった西東京バスの金沢線の売れ行きは、まあまあ、といったところ。東京~金沢間の昼行便は(繁忙日のスポット運行を除き)これまで取扱っていなかったから実質的には新路線にあたるので、これから「路線を育てる」ことが重要だろう。なお販売対象座席数をリアルタイムにコントロールできるのが私のサイトの最大の「売り」だから、西東京バス側も既に、いったん投入した座席が売り切れそうになり、発車オーライネット上で座席を新たにブロックして追加投入してくれている日もある。逆に、自社販路(発車オーライネットや電話など)で売り切れそうな勢いだから慌てて私のサイトから座席を抜く、というほどの乗車率ではなさそうなのが少し残念(?)。とにかく私としては、手数料率は他社よりちょっと高めかも知れないけれど、その代わりに、対象座席数を事業者側に積極的にコントロールしていただきたいのだ。座席は放っておいて売れるものではなく、どの販路で何席ずつ、どんな手法で予約を獲得していくか考え、能動的に予約をゲットしていくものである。先日お邪魔した、ある路線バス事業者さんがおっしゃっていたとおり「土俵の上で戦うのは我々(各事業者)」なのだ。私のサイトは、土俵を準備し整えるのが役割である。あと、最近、いろんな方のご紹介や、中には先方から直接コンタクトをいただいて、地方の路線バス事業者とお話しする機会が多い。地方の事業者の中には、もちろん前にも書いたとおり「お殿様」で周りを余りご覧にならないところも目立つのだが、反対に厳しくなる一方の経営環境を踏まえ真剣に情報収集し様々な可能性を考えておられる会社も多いのだと、失礼ながら驚いている。「ツアーバスを育ててきたようなサイトとは契約しない」「ツアーバスと並べて売られるなんて」「お前らが地方のバス会社を苦しめてるんだ」などと、地方側の共同運行先の立場を代弁しているつもりの大都市側事業者数社の皆さんは、共同運行先各社の経営者や担当者の顔ぶれを一人ひとり想像しながら、本当に自分の施策が「民意を反映」したものなのか、思いを巡らせてみてもいいかも知れませんね。私自身、共同運行先の面倒見がいい京王さんの感覚が染み付いているので、「地方の事業者に直接お邪魔しても何も意思決定はしてくれないだろう」と考え、(たまたま縁のあった弘南バスや九州産交などを除き)大都市側のハブ的事業者ばかり提案に伺っていたが、もしかしたらそれは間違った戦略だったのかも知れない、と今ごろ反省している……
2010.06.10
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昨日の南部バスの記事の件だが、弘南バスと南部バス、青森県の事業者2社それぞれの選択が興味深い。一方は自社ブランドで高速ツアーバスに参入するとともに既存の高速路線バスも含めて一部の席を私のサイトに預け、もう一方は商品そのものをウィラーに預けウィラーの商品として私のサイトに登場する。この違いは、少し補足説明が必要かもしれない。まず、旅行業界には、企画実施(商品を造成し、実際に催行すること)をメインとする「ホールセラー型」旅行会社と、彼らが作った商品を利用者一人ひとりに販売することを主とする「リテーラー型」旅行会社がいる(JTBなどはその両方をやっているので「総合大手」などといわれる)。なぜそんな風に分かれているのかというと、商品造成にあたってはそれぞれ得意な分野に注力する方がいい商品ができる(最も典型的なのが、専門性の強い「登山ツアー」とか「遺跡ツアー」)一方で、利用者は商品ごとに別々の旅行会社の窓口を使い分けるほどの情報が無いからとりあえず近所の旅行会社の窓口に行くので、それぞれの窓口ではなるだけ多くの商品を揃えることが求められるからだ。結果として「メーカー」と「小売店」のような関係が成立している。総合大手に当たる近畿日本ツーリストや阪急交通社を除けば、京王観光など多くの私鉄系旅行会社はどちらかというと「リテーラー型」である。駅ナカ、駅前の一等地に窓口を設置できる点は「リテーラー型」としては非常に大きな強みである。その意味では、ウィラーはスキーバス時代からの典型的な「ホールセラー型」旅行会社だ。ただしウェブ時代が到来するにつれ「ホールセラー型」はウェブによる直販という販売手法も手に入れたから、今は企画実施と自社商品の販売(小売)の両方を彼らはやっている。一方、私の会社は、ウェブ上に限定されるという意味では新しいものの、従来の基準でいうと「リテーラー型」だ(現実に旅行業免許は「第3種」である)。数多くの会社が企画実施する商品を並べ、利用者に選んで予約してもらうことが仕事だ。同じ「○○トラベル」で、「メーカー」と「小売店」があるのが紛らわしいという声もあるが、三菱電機はメーカーで、ヤマダ電機は小売店だ。角川書店は出版社だからメーカー的存在でジュンク堂書店は小売。それと同じである。したがって弘南バスの選択は、「パナソニックのテレビ」で例えると、これまで系列のパナショップでしか売っていなかった(いわば、そのパナショップのPOSシステムを請け負っているのが「発車オーライネット」である)ところを、「ヨドバシカメラ」でも売ることに決めた、ということになる。もちろんパナショップでは他メーカーのテレビは買えないので、「家電のことはよくわからないから、家電が欲しいときには近所のパナショップの親父さんに電話する」という顧客がいる限りパナショップは重要な販路である。一方で、駅前の便利な場所に立地しテレビCMも放映し積極的に集客をするヨドバシカメラで、シャープやソニーや海外製の安いテレビとも比較検討しながら購入したいという顧客が増えている以上、ヨドバシカメラにも卸して販路を拡大する、というのが弘南バスの選択だ。ヨドバシカメラに何台売ってもらうかは事業者側が決めればよく、人気商品は自社系列のパナショップで売り、売れ残りそうならヨドバシカメラに卸せばいい。だから「組んだ」というほどのことはなく、弘南バスから見れば販路の一つとして活用するというだけの話だ。逆に南部バスは、テレビ作りそのものからは撤退し、液晶やチューナーといった基幹部品の製作に徹する、という選択をした。商品の企画(どんな機能を持たせるか、というのもそうだし、それを月間何台作るか、というような決定、さらにはそれをどの販路で小売をするかの選定まで含め)をウィラーに任せた。だから、もし「今年はテレビが多く売れるだろう」と踏んでたくさん作ったにもかかわらず実際には多くが売れ残っても、在庫を抱えて苦しむのはウィラーであり、南部バスは発注を受けた分をウィラーに納品してしまえばいいのでリスクは小さい。商品企画そのものもウィラーが行なうほか、販売についても、ウィラーが持っている自社サイト(パナショップ)で売るのはもちろんヨドバシカメラやヤマダ電機に何台ずつ卸すかもウィラーの責任と判断で行なわれる。ちょっとややこしいのは、南部バス自らが、パナショップに相当する自社の強力な販売網を(地域限定だが)もともと持っていたので、部品メーカーであるはずの南部バスがウィラーのテレビ販売に「小売店」として協力もする、という建てつけになっている。ヨドバシカメラである私たちとしては結局、どちらの形であっても取扱させていただけるので一緒なのだが、「心情的」には、せっかくパナショップ(自社での販売力)を持っている既存事業者には、弘南バスと同様の選択をし自社ブランドで勝負してもらいたいという希望はある。一方で同時に、ウィラーらと組むことで、高速ツアーバス各社が育ててきた柔軟な各種ノウハウを手に入れてもらいたいという気持ちも強い。東京線の高速ツアーバスでのパートナーであるウィラーから盗んだ発想やノウハウを、仙台線など「路線」業態の他の路線で活用できるようなら南部バスは本物である(ホテルの世界では普通に行なわれていることだ)。さて話題は変わるが、弘南バスと同様の選択をした既存事業者の、高速路線バスの取扱が本日から始まった。京王グループ西東京バスの八王子・渋谷-金沢線である。意思決定の関係で、まずは同社唯一の単独運行路線として金沢線の昼行便からスタートとなった(他の路線の準備状況についてはここでは書けないが)。私個人としてはもちろん、「京王カラー」が私のサイトに登場したという意味で本当に感慨無量である。業界として見ても、これまで「ヨドバシカメラ」で売っていた「名門メーカー」は、地方の事業者かまたは東京空港交通だけであり、東京空港交通は会社の「格」(というものがあれば、だが)としては十分以上とはいえ、厳密には「高速バス」ではなく、大手私鉄系バス事業者の高速バスの取扱が始まったというのは大きな大きな一歩である。ご協力いただいた皆様と、ご決断下さった同社の経営陣にあらためて感謝を申し上げる。今月はさらに別の大手私鉄系事業者の取扱開始も予定されており、南部バスの件も含め、業界が大きく動いているのは間違いが無い。何度も繰り返すが、新興メーカーに加え名門メーカーの商品を店舗に並べることそれ自体が、ヨドバシカメラの存在意義ではない。来店客を一人でも増やしつつ、来店してくれた顧客一人ひとりの希望に合った商品を選んでもらうことこそが私たちの役割であり、果断なご決断をしていただいた取引先各社に結果でお返しするために、集客策を練る努力は、どれだけ取引先が増えたとしても、休むわけにはいかない。
2010.06.01
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