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高速ツアーバス企画実施会社(高速ツアーバス事業の実稼動ベースで約60社)は、事業タイプによって大きく二つに分けられる。一つは、通年で同事業を営む会社である。ウィラー・トラベルやオリオンツアーのように全国に路線網を持つ会社もあれば、サンマリンツアー(宮崎)や高志観光バス(福井)のように地元密着で1路線だけ運行する会社もある。通年運行する以上は平日の乗車率が課題だから、販路の拡大が肝要だ。各予約サイトでの代売や自社サイトに加え、電話予約や旅行会社での代売(それらのためにはパンフレット製作と配布が必須)など多様な販路を組み合わせる。予約サイトの送客手数料負担を少なくするために自社サイトのプロモーションを行なうなど、チャネルミックスにも積極的だ。彼らは季節波動に対応して続行便を設定するが、地上側での処理能力の限度などから、お盆などピーク日の需要に全て答えられる訳ではない(ロータリーエアーサービス「キラキラ号」や富士セービングバス「旅の散策」のように専用車両にこだわり続行便を一切設定しない会社もある)。そこで私たちは、通常の貸切バス事業者(ただし自社で旅行業免許も保有)に対し、ピーク日だけスポットで高速ツアーバスを企画・運行しないか提案に回ったのだ。私自身、座席表作成や乗車時のチェックイン業務など、初運行する会社の現場に出向きお手伝いしつつ手法を伝えたことも何度かある。その結果生まれたのが二つ目のタイプ「スポット型」である。彼らは年に数日しか高速ツアーバスを運行しないから、パンフレット製作や自社サイトのプロモーションをするより全座席を私たちに販売委託した方が安上がりでしかも楽だ。なお「スポット型」から「通年型」に移行した会社も多く、平成エンタープライズなど今やかなり大規模に高速ツアーバス事業を展開している。高速ツアーバス成長の歴史を振返るとき、まずは汎用的な貸切車で参入しやがて上級車両の品揃えも図る「スモールスタート戦略」とともに、お盆などのピーク日に他の交通機関が満席になった後でもスポット運行の車両を積み増して「満席」状態を回避し多くの人に利用してもらい、それが固定客となって通常期にもリピートする、というサイクルがうまく機能した点も大きい。「山」をとにかく高くすれば「谷」もそれに釣られて埋まっていく。もちろん、片道輸送でも利益が出るようピーク日には極端に高い料金を設定するため価格変動システムを導入したことや、特定日のみ運行でも利用者が該当商品に辿り着けるようサイトのメイン導線を「空席検索」に変えたこと、精緻なデータ分析を元に出発日ごとに不足する台数を事前に把握できるようになったことなどがその大前提である。そのような戦略を、私たちでは4年前にまず首都圏~京阪神に導入し、その成功を受けて首都圏~名古屋、仙台にも広げた。しかし、地方向け夜行路線に一気に拡大とはいかなかった。元のパイが小さいからだ。一晩で200台のバスが運行する区間に20台のスポット増発を設定するのと、3台しか走らない区間に1台のスポットを出すのとではインパクトが違う。「通年型」の会社も大切な取引先であるので迷惑をかけるわけにはいかないからだ。「通年型の会社にすれば、お盆のおいしい時だけスポット組が入ってくるのは歯がゆいのではないか」と質問をいただくこともあるが、そんな疑問自体「路線バス業界的」だ。お盆に初めて高速ツアーバスを使った利用者が次に同区間を移動しようとした際、それが平日なら通年型しか運行していない。ピーク日に一人でも多く(他社のバスであっても)高速ツアーバスを利用してもらうことが通年型の会社にとってもプラスとなるサイクルを彼らは体で実感している。高速ツアーバス(本当は高速バス路線バスも含め)は、各自が狭い縄張りを守ることより皆で成長することを求められている「成長期」の事業である。私はこれまで「高速ツアーバスは大都市間においては成功するが地方都市路線については難しい」と様々なところでご説明してきた。少なくとも3年ほど前には、決して既存事業者へのリップサービスだけでなく、私はそう信じていた(そう信じたかった、のかも知れないが)。地方都市路線では既に高速路線バスがマーケット掘り起こしを済ませている上に、マーケット全体の規模が小さく上記の各種戦略を採りづらいからだ。しかし企画実施会社たちの懸命な努力の結果、地方都市路線は大きく成長した。首都圏~青森、秋田、富山、金沢、岡山、広島、徳島、高松、福岡や京阪神~福岡など、大都市間路線に次いで流動が太い夜行路線については、何台もの続行便やスポット便の設定が当たり前になっている。この夏に在庫不足に陥って満席による品切れを誘発しそうなのは、首都圏~鳥取、島根、高知や京阪神~宮崎、鹿児島など、もう一段細い路線たちなのだ。それでも、高速バスマーケットのほとんどを占める多頻度昼行路線は未だ高速路線バスが圧倒的に強い。所要2~4時間の中距離路線で高速ツアーバスがなんとか事業として成り立っているのは、福岡~宮崎、東京~長野、東京~福島くらいで、高速路線バス側の運賃が他路線と比較しても高めだなど何らかの要因があったところばかりだ。長距離夜行と比べ習慣的利用が多い中距離路線では、制度面では当日発券など高速路線バス業態の方が有利だし、営業面ではフリークエンシーが重要で小規模参入では転移しづらいなど高速ツアーバス(ないしは新規参入者)に不利である。だから今現在の私の率直な意見を求められれば「やはり中距離路線で高速ツアーバスが大爆発することは難しいのでは」と答えるしかない(それこそが、針の筵のようになりながらも提案を続け高速路線バス取扱を拡大しようとしている、会社としての理由である。個人としての理由は単に「好きだから」だけど)。しかしながら、わずか3年前には、首都圏~青森、金沢、福岡などの路線がここまで爆発するとは、私自身、感じていなかったのである。今から3年後、高速バス業界がどう変化しているかなど断言は無理だ。できることは、業界の今後を見通していたつもりで実はできていなかった自分に反省しながら、その時その時の環境と一人ひとりのお客様のニーズに耳を澄ませることしかない。もう一つ、競争激化をいかに高速バスマーケット全体の拡大に寄与させるかという観点だけは、販売側として一瞬たりとも忘れるわけにはいかない。
2010.07.30
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ウェブの登場がマーケティングをどう変えたのかという点については様々な書籍で述べられているが、一言で言うと「サプライヤー(商品メーカーやサービス提供者)と消費者の間の距離を一気に近くした」とまとめていいのではないだろうか。宿泊業界で言えば従来、集客のほとんどを旅行会社に頼っていた。日本の宿泊業界においては「団体」が占める率が非常に大きい(旅行会社が企画する「募集ツアー」もだが、それ以上に大きいのは企業のインセンティブ旅行など「法人団体」だ)し、個人客についても、旅行会社のカウンターで予約を受ける例が、特に温泉旅館ではほとんどだった。旅行会社のカウンターで旅館が予約される際、利用客が見ているのは紙媒体(パンフレット)であり、係員が見ているのは自社の基幹システム(JTBなら「TRIPS」)である。しかしパンフレットも基幹システムも、掲載できる情報量に限界がある。例えばパンフレットなら、コスト度外視なら情報量モリモリの分厚いそれを印刷すればいいわけだが、現実には予算の都合で限られたページ数に少しでも多くの旅館を掲載することになり、一旅館ごとの情報量は限られてしまう。基幹システムも、情報を増やすことは技術的には難しくないが、各旅館が記入した「登録用紙」を元に食事や部屋タイプ、料金などを旅行会社側で手入力する以上、情報量は限られたものにならざるをえない。旅行のプロフェッショナルである旅行会社の係員とはいえ全国の旅館に精通しているわけではないから、どうしても、係員が利用客に宿を薦め、それを元に利用客が宿を選ぶ際には「地域」と「グレード」(料金)を軸にするしかない。係員も利用客も「有馬温泉で一人2万円くらいの宿」という条件をキーにするしかないのだ。そうすると旅館の側では、極端に「とんがった」宿作り、商品作りができなくなってしまう。同グレードの宿の多くが部屋食なのに、「温かいものは温かいうちに召し上がって欲しい」というこだわりから食事処での夕食に切り替えたら「部屋食だと思っていたのに部屋食じゃなかった」という苦情が旅行会社に寄せられるかも知れない。結局、どの旅館も似たような宿作りを迫られる。それで利用客が満足している間はそれでいい。しかしレジャーが多様化する中で、金太郎飴のような旅館ばかりでは利用客の心は離れがちになる。一方、ウェブ化の進展によって利用客が手にする情報量が一気に増えた。宿側も、紙媒体(パンフレット)に付き物だった「枠の大きさ」という限界を超え、多数の商品(宿泊プラン)を自らの手でウェブに掲載できるようになった。「平日限定で激安」「女性向け」「泊食分離(旅館では夕食を提供せず宿泊のみ)」など多様な商品を旅館が自ら考え、自ら商品設定し登録できるようになったのだ。その場合の「ウェブ」とは、各旅館の公式サイトも、私たちのような予約サイトも、である。私たちでは全国に「インターネット・トラベル・コンサルタント」と呼ばれるスタッフを配置し、各旅館が商品作りを自ら行なうようサポートを続けている。その古株が笑っていたが、最初のうちは旅館の女将さんに「おたくのウリは何ですか?」と質問すると、その答えは「伝統と格式」「心のこもったおもてなし」「地元な食材と職人の技」と、判でついたように同じだったのだという。しかし彼らもウェブを活用する中で、自らの「トンガリ」を持つようになっている。旅行会社のカウンターで旅館を予約しても私たちのサイトで予約しても、「手配旅行」という法的な位置づけは変わらない(ちなみに旅行会社で新幹線や高速路線バスの切符を買っても、私たちのサイトで高速路線バスを予約しても「手配旅行」である)。しかし本質的な意味としては、<「旅行会社の商品」として宿を売る>旧来の旅行会社から<「宿の商品」を売るのを手伝う>予約サイトへ、立ち位置は大きく変化している。私たちは、商品の作り方やその見せ方について徹底的に旅館をサポートし、また多くの利用客をサイトに集めるものの、意識の上では「売り手」はあくまで各旅館だ。旅行会社を通してしか販売できなかった旅館を、なるだけ利用客の近くまで連れて行くのが私たちの仕事なのだ。では高速バスではどうなのだ、という点が、既存事業者の皆様に今ひとつピンとこないようだ……。たしかに高速路線バスにおいては、旅館における旅行会社のような「販売を握っている」者はおらずバス事業者の直接販売が中心だった。そこに私たちが後から入り込もうとしているのだから、「サプライヤー(バス事業者)と消費者の間の距離を逆に遠ざけている」と思われるのはわかる気がする。しかし(「発券代行」としての旅行会社の役割はあったが)「集客」については失礼ながら高速バスはちゃんとできていなかったのであるから、これまで事業者と「一部の」消費者の距離は近かったものの、それ以外の多くの消費者(潜在需要。まだ高速バスの存在や魅力を知らない消費者)との距離はずっとずっと遠かったわけで、私たちはそれを近づける役割なのだ。さらに、高速ツアーバス企画実施会社も私たちも同じ「旅行会社」であることが余計に混乱させているようだ。極めて単純化して言えば、企画実施会社は貸切バスを安くチャーターすれば利益が出るのに対し、私たちは少しでも高い商品を取扱えば利益が出る。予約サイトというのはそもそも旅行業界からは鬼っ子扱いなのに、バス業界からは「旅行会社」と一括りにされるのはどうも微妙な感じがする(苦笑)。もしウェブが無ければ、中小旅行会社がや貸切専業者が高速ツアーバス事業で独り立ちすることなど無理だっただろう。高速ツアーバスではウィラー・トラベルの働きが目立つが、市場シェアで言うと決して圧倒的なわけではない。全国で60もの企画実施会社がそれぞれ順調に成長しているのだ。多数の中小規模のサプライヤーがそれぞれ「自走」し工夫と努力しだいで大きく成長できることこそ、ウェブ時代なのである(その最たる例がウィラーなのだ)。ならば、そういった中小企画実施会社が育つことで既存事業者は追い込まれるのか? とんでもない。JR(鉄道)やANAら「大手」サプライヤーに比べれば、高速路線バス事業者はみな「新興」「中小」サプライヤーである。その意味でウェブと高速バスの親和性は大きい。ウェブ時代の到来は、既存事業者の前にも、新興の旅行会社や貸切専業バス事業者の前にも、同じ大きさの未来を用意してくれているのである。
2010.07.29
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高速ツアーバス成長の歴史を振り返ると、いつも書いているように2006年ごろから突然、爆発的に成長している。2001年にオリオンツアー(厳密には、オリオンよりも先に某大手旅行会社が系列事業者の貸切バスを使って始めていたのだけれど)が高速ツアーバスに初参入して以来4年後にあたる2005年度の高速ツアーバス輸送人員(推計値)は年間20~30万人に過ぎなかったのに対し、その4年後にあたる2009年度は400万人である。まだ10年に満たない高速ツアーバスの歴史のなかで、前半の4年間と後半の4年間で、成長スピードは10倍以上の差があったことになる。ではその境目となった2005年後半から2006年前半にかけて一体何が起こったのか? 一つは、その時機に私たちのサイトが高速ツアーバス予約事業に参入したことに象徴されるようにウェブマーケティングの本格活用が始まったことであり、もう一つは、行政が通達等で高速ツアーバス業態を明確に容認したことである(この成長過程は7月12日付の『東京交通新聞』の記事に詳しい)。旧来の紙媒体に比べウェブにおいては情報量が非常に多く、利用者に「比較・検討」の可能性を与えたことで「お客様自身が高速バスを選んで乗る時代」を迎え、2007年ごろからは上級車両やアメニティグッズなど商品の開発競争が激化し、さらにその競争が新たな利用者を呼び込んだ。一昨日の記事に書いたとおりである。ただしそのための前提条件があった。一つは、既存バス事業者の存在感が相対的に小さい大都市どうしを結ぶ路線においては、既存の高速路線バスがマーケットの掘り起こしを十分になしえていなかった点である。そこにウェブマーケティングを持ち込むことで潜在需要を喚起できた。そこまでは何度も書いてきた内容だ。もう一つ、重要な前提がある。それは、この「首都圏~京阪神」のような大都市間路線は、全体(鉄道や航空などを含む)の移動量が、同距離の他の区間(例えば「首都圏~青森県」)に比べて圧倒的に大きかったことだ。ある区間を移動する客が、航空を選ぶか鉄道を選ぶか高速バスを選ぶか、というシェアは、それぞれの区間(すなわち所要時間)によって大きく変動する。さらに高速バスを選ぶ利用者の中でも、3列シートのような上級車両を望む人の比率もまた区間(所要時間)によって変動する。長距離になればなるほど「4列シートはイヤだ」という人の比率は当然上がる。一方、長距離になればなるほどグレードによる価格差も大きくなるから、「キツイけど我慢して4列シート」という人もいないわけではない。首都圏~京阪神や首都圏~名古屋を移動する人全体を移動コストのバジェットという観点で「輪切り」にすると、「最上位」には新幹線グリーン車や航空機の上級座席を選ぶ人たちがいて、「ボリュームゾーン」にあたるのは真ん中あたりの新幹線普通席利用者で、数では圧倒的だろう。そして「下位」に高速バスが一定程度存在し、その高速バス群の中でも3列シートの上級車両を望む人と4列でいいから安い方がいい、という人とに分けられる。それぞれの比率は、所要時間が同じ区間どうしであれば大きくは違わないと思われる。つまり、首都圏~京阪神の全移動者のうち「4列シートの高速バスでとにかく安く移動したい」人の比率は、首都圏~青森県のそれと大差ないはずだ。そうすると、京阪神と青森とでは、全体の移動量に大きな差があるから、結果として「4列シートの高速バス」を選ぶ人の数も、京阪神の方が青森よりも圧倒的に多いということになる。当初、高速ツアーバスが大都市間路線に入り込みやすかった理由として、いつも言うように既存の高速路線バスが市場を掘り起こし尽くせていなかった点に加え、まずは4列シートの汎用的な貸切車で参入しても、「キツくても安い方がいい」という利用者だけでバス何台分もの需要が隠れていた、という点がある。初期投資やそれに伴うリスクを最小限に止めながら新規参入をし、事業が軌道に乗るとともに3列シートなど上級車両を専用車両として導入する、という「スモールスタート」の戦略を採ることができた意義は大きいだろう。逆に彼らが地方都市向けの夜行路線(例:首都圏~青森、京阪神~鹿児島)に進出しようとしても、4列シートの最安値商品だけではバス1台を埋めきれず、大都市間で成立した「スモールスタート」戦略はハードルが高い。既に高速路線バスがマーケットを十分に掘り起こしていた点とあわせて、まずはリスクを最小限に汎用的な貸切車で参入し徐々に上級車両を品揃えを目指す「スモールスタート」戦略が採りづらい事が、これまで高速ツアーバスが地方都市向け夜行路線で苦戦してきたもう一つの理由である。ただ、それも状況が変わってきた。ウィラートラベルや日本ユース旅行など高速ツアーバス事業が一定規模を超えてきた企画実施会社にとって、そのような地方路線に3列シートなどの上級車両を投入することのリスクは相対的に小さくなった。地方都市路線に3列シートの新車を投入することは以前なら清水の舞台から飛び降りるような冒険だったが、もしその路線が思ったほどの収益性を出せなければ、全国にいくつもある自社の他の路線に転用すればいい、という状態にまで事業が育ったのだ。例えばウィラートラベルは今夏、首都圏~八戸/秋田/庄内/金沢/広島/松山や、京阪神~仙台/福島/鹿児島といった地方都市路線に3列シート車を運行している。そして3列シート車や、一段劣るものの優れた4列シートの特別車が導入された路線は、私たちのサイトでも確実に成長している。そして最近では、4列シートの汎用的な貸切車で「スモールスタート」を図る路線は、上記のような数路線よりもさらに線の細い地方路線に移行している。その中には、首都圏~しまなみ海道の各島(この便は大三島を経由し今治、松山行き)や名古屋~山口県のように、従来の高速路線バスのスキームでは難しかった細かな路線や、京阪神~唐津、佐賀、大分、さらには首都圏から日本海側(村上、温海)を経由し鶴岡、酒田を結ぶ商品(本商品については別途説明が必要だろう。詳しくは後日)のように、かつて高速路線バスが運行していた“懐かしい”匂いがする路線も目立つ。その多くは、まずは夏期限定から入るテストケースだが、それらがやがて上記のように上級車両へ、通年運行へと成長していけるかどうか、売る側から見ても楽しみである。もっともその先には、高速路線バスの「本丸」とも言える多頻度昼行路線が残るわけだが。
2010.07.28
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日本の高速バスは、1980年台前半に「共同運行」という概念が採り入れられたことで大きく成長した。それまでの国鉄バスあるいは高速バス専業事業者ではなく、起点側、終点側それぞれで路線バス事業を営む路線バス事業者が自ら高速バスに参入することが認められるようになったのだ。路線バス事業者、特に地方都市における彼らは正に「地元の雄」である。彼らが自ら高速バス事業に参入したことで、地方部において高速バスの認知は大いに拡大し高速バス市場全体が急成長した(ちょうどそのころ地方部において高速道路が続々と延伸開業した、といった他の要素もある)。私が「第2フェーズ」と呼ぶ時代であり、正にその時代のさなか高速バスと出会った、私自身にとっても原点と言える時代である。そして今、大都市間(首都圏~京阪神など)においては、その次のフェーズ「第3フェーズ」化がまもなくそろそろ完了しようかとしている。この「第3フェーズ」は、あらゆる面において「第2フェーズ」と対照的だ。上記「第2フェーズ」を象徴するキーワードが、「地方都市/共同運行/路線ごとの独占認可/地方部における路線バス事業者の販売力」だとすれば、「第3フェーズ」のそれは「大都市間/事業者同士の競合関係/乗車日や車両グレードによって細分化された多様な商品・価格設定/ウェブマーケティング」となる。この「第3フェーズ」化進展の背景は二点ある。一つは参入要件の緩和(高速ツアーバス業態の容認も含む)であり、もう一つはウェブ化の進展である。参入要件の緩和は新規参入を促し、ウェブ化の進展は、これまで高速バスの存在さえ知らなかった、あるいは予約方法がわかりづらく利用を敬遠していた潜在需要(特に大都市圏の需要)を掘り起こすことに成功した。どちらも、ここ数年間で起こった事実である。しかし、この二つがお互いに無関係に別々の話として実現したのではなく、相互に作用し合ったことが重要なのだ。例えば、参入用件の緩和だけが起こっていたらどうなっていただろう? いわば「仮に20年前に当時の運輸省が高速ツアーバスという業態を容認していたとしたら」という問いである。例えば、貸切バス運行については十分以上の実績を持ち、東京にも関西にも運行拠点を持つ老舗の貸切専業者(例えばKMとか帝産とか)が、高速ツアーバスに参入し成功していただろうか? 仮定の話ではあるが、おそらく成功は難しかったのではないか。運行はできても販売力が伴わなかったからである。ウェブ化の進展によって「販売力のフラット化」が実現したことで、路線バス事業者のように駅前一等地に窓口を持たずとも、あるいは車内吊り広告を低コストで展開できなくとも、貸切専業者や中小旅行会社が消費者に対し直接アプローチする術を得たのである。これはバスに限らない。この国の硬直化した流通制度の下では、その複雑な流通制度にうまくはまり百貨店など大手の販売網を活用できなければビジネスが難しかったのに対し、現在では、漁師の奥さんが手作りする魚の干物が、ウェブと宅配便さえあれば全国レベルの人気を集めるようになっているのだ。さらにウェブ化の進展によって、予約時点で利用者が手にしているバスについての情報量が飛躍的に増加した。紙の時刻表を見ながら電話で予約するのが普通だった頃、座席グレードや乗車日によって価格が細かく異なっていても、それをオペレーションに乗せることが難しかった。各座席タイプの詳細を画像で確認できたり、木曜日の夜行便に乗れば金曜の便よりも数千円安いといった情報をウェブ上のカレンダーで確認できたりするからこそ、利用者も複数の商品や乗車日を比較してバスを選べるようになったのだ。さらに、A社の窓口ではA社の商品しか並んでおらず、B社の商品と比較するには徒歩でB社の窓口に向かわねばならないといった状況なら「立地」が利用者の選択を左右したが、ウェブでは「買いまわり」の負担は極小化し、商品そのものの価値が最大の選択基準になったのだ。消費行動は、従来の「AIDMA(注目→関心→欲求→記憶→行動)」から既に「AISCEAS(注目→関心→検索→比較→検討→行動→情報共有)」に移ったと言われているが、利用者の予約行動の中で「比較検討」という行為の重みは非常に大きくなっているのである。つまり、単にウェブ活用によって需要喚起が進み、単に規制緩和で参入事業者が増えたことが「第3フェーズ」化を導いたのではない。その両者が有機的に結びついたことこそ「第3フェーズ」化の真因である。高速バスマーケットに多数の利用者が集まり、そこに多数の事業者の多様な商品が並ぶ。厳しい「比較検討」の目にさらされるなか、小さく細分化された個別のセグメントに対しいかに寄り添った商品を作れるかを各社が競い、その競争が「磁場」を生んでさらに新たな利用者を集めるのだ。考えてみれば、実は独占認可の時代から消費者ニーズは多様だったのだ。男性もいれば女性もいて、高級志向の乗客も低価格志向の乗客も以前からいたのである。独占認可の制度では、全ての人に不満を持たれない「最大公約数」的商品作りこそ望まれたが、「お客様自身がバスを選んで乗る時代」が到来した今、それぞれの商品が男性にあるいは女性に特化し、出張にあるいはレジャーに特化し、と、自らターゲットと定めたセグメントのニーズをきめ細かく実現することで、その「総和」(全体の合計値)としての高速バスマーケット全体を拡大させているのである。大都市間路線においては、失礼ながら高速路線バスが(本来のマーケットポテンシャルに比べて)大した存在感を持っていなかったので「第3フェーズ」化は数年で完了した。しかし「第2フェーズ」の成功体験を強く持つ地方都市路線において、上記変化は今すぐには完了しないだろう。そのことは一定程度、路線バス事業者と既存の高速路線バスを守る。この種の路線で新規参入側が既存側を逆転するのは容易ではない。しかしだからこそ、既存側は自分たちの事業スタイルがレガシー(強固な旧来モデルの存在が、結果として変革を妨げ成長を阻害する原因となること)になっていないか、自らをシビアに検証する勇気を求められている。そのことを私は、彼らへの愛情が強いからこそ、彼らに必死で伝えていきたいのである。
2010.07.26
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昨日、新幹線が事故で長い時間ストップしていた。本当はよろしくないのかも知れないが、電車が止まったというニュースを聞くと実は今でもドキドキする。腕まくりして現場に手伝いに出たくなってしまうのだ。電車が止まった時に気分が昂ぶるのは、私自身の中では大きく二つの理由がある。一つは、単純に「忙しい現場」に身を置くのが大好きだということだ。たぶん今頃、営業所やバスターミナルが「大騒ぎ」になっているんだろうなと想像すると、乗り場での列の整理係でも、着発のクルマの車内清掃でも、何でもいいから現場に手伝いに出たくなってしまう。ホテル勤務時代も、宴会場の運用がタイトで、昼の結婚披露宴が終わってから1時間で夜の立食パーティに宴会場をセットしなおさないといけない、などという日があると、自分のデスクワークそっちのけで上着を脱いで現場に手伝いに出たりしていた。もう一つ、電車が止まった日にバスターミナルに押し寄せてくるお客様というのは、裏を返せば、こんなことが無ければバスを使っていないはずのお客様、という点も魅力的(?)だ。もちろん中には高速バスのことをよくご存知の方(例えば「休日のプライベート利用ではよく高速バスを使うけど平日の出張は新幹線」など)もいらっしゃるが、「高速バスのことなど知らなかった」「遅くてキツイ、という印象があるから、存在は知っているけど使ったことはない」「かつて高速バスを使っていたけど、何らかの理由で最近は新幹線ばっかり選んでいる」というような、高速バスの潜在需要、わかりやすく言えば「見込み客」が、向こうからわざわざターミナルにやってきてくださるのだ。復旧作業に追われた新幹線のスタッフの人たちや、商談やレジャーの予定を狂わされた乗客たちには心苦しいが、競合する鉄道がストップした日というのは、単純にその日に何台の続行便を出せるかという単発の売上増が見込めるとともに、上記のような見込み客に、高速バスの存在を、その快適性や運賃の安さを体感してもらい高速バスのファンになっていただく最高のチャンスでもある。当然、そんな日の現場は忙しく、そんなときに限って高速バスに不慣れな乗客も多い。時に運輸にたずさわる者は、そういう目が回るほど忙しいシーンでは妙に使命感を覚え「バスを無事に走らせること」を優先するあまり乗客に厳しい口調で当たってしまいがち(私自身がそうだったからよくわかる)で、ついつい放送や案内の口調も無愛想になってしまうものだ。しかし、目の前で押し合い状態になっている乗客のうちのほとんどが、「本来なら高速バスを選ばなかった人たち」だと考えると、少しでも愛想よく、初めての人にもわかりやすいようにご案内しよう、と思い直すはずだ。「潜在需要」「見込み客」などというと高速バスをビジネスとしてしか見ていないと言われるかも知れないが、単純に「初めて高速バスを使ったお客様」が、ご乗車後「やっぱりバスはダメだったよ。乗り方もわかりづらいし係員は無愛想だし。次からはやっぱり新幹線」と思ったりそれを家族や友人に話したりすることを想像すると、それは非常に悔しいという、ただそれだけのことである。「阪神大震災で長期間不通になった新幹線の代替バスとして運行したものがそのまま高速バス路線として定着した」という例もある。「片道1,000円」というような期間限定ながら話題性のある極端な割引キャンペーンを機に、乗車率が以前より上がったという例もある。これらの事実が示すものは、「一度使ってもらえればさえ、高速バスはほどほどの満足感を与えることができ、ほどほどのリピート率を維持できる」タイプの商品だということだ。言い換えるなら、「一回でも使ってもらうきっかけ」さえ見込み客に与えることができれば、高速バスはまだまだ成長するということである。高速バスに欠けているのは「商品力」では決してなく、今不足しているのは「販売力」である、という私の信念の原点がどこにあるのかというと、中央線の特急電車がストップ(それも当時は中央線の駅で人身事故が発生することが「流行って」いて、しょっちゅう電車が止まっていた)する度に、どこからか山ほどの数がターミナルに現われ、高速バスに乗るのは初めてとばかりに「へえ、こんなに本数出てるんだ」などと会話する観光客や出張ビジネスマンの姿なのだ。「トイレ休憩はあるの?」とたずねられ「トイレは車内に付いています」と答えた時の、お客様の驚いた顔と、何となく誇らしげな気分。「へえ、福岡行きもあるんだって」「え、福岡? 何時間かかるんだろうね」という会話と、どれだけ快適な車両か本来なら説明したくなりながらも忙しくてそこまで手が回らない歯がゆさ。そんな、バスターミナルでのアルバイト時代に「現場」で感じた「もっと知ってもらえればさえ、高速バスはもっともっと使ってもらえるのに」という素直な願望が、インターネットという、マーケティング史上もっとも効率的なツールと出会って今の私の仕事に繋がっている。私個人の希望だけ言うと、今のような「販売」「マーケティング」という側面からだけ高速バスにたずさわる立ち位置は本来ではない。運行にも、車両にも、接客にも、事業者の経営にも、口出ししたいことは山ほどある。しかし、「販売力」こそが高速バスに不足していると考える以上、幅広く業界全体に対しそれを補うことができる立場にいることには満足している。悔しいのは、これまで高速バスのことを知らなかった人たちに私たちがウェブマーケティングによって認知を高めているバスのほとんどが、高速ツアーバス業態に偏っているという点だが、それは時間が解決してくれよう。いずれにせよ、高速ツアーバス各社と、既に取扱が始まった一部の高速路線バスについてもっともっと結果を出し、「販売力」さえ補えば高速バスにはまだまだ成長の可能性がある点を、他の事業者の皆様にもご認識いただくことを一歩一歩重ねていくしか道は無いのだ。それまでは、「現場」に手伝いに出たいという希望も、ぐっと我慢、である。
2010.07.22
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西日本の既存事業者数社を回った後、先週土曜日は「Qサポネット」第1回勉強・交流会に参加させていただいた。会場の九州大への路線バスは、貴重な「バス専用道」を経由しその時点で気分は盛り上がる(?)。約60人もの参加ということで、代表世話人の大分大・大井先生をはじめ世話人の皆様の熱意とご努力に敬意を払いつつ、なにより「成功おめでとう」と「お疲れ様」を申し上げたい。私自身、高速バス(「路線」「ツアー」両方)にたずさわる若手を集め小規模ながら勉強・交流会を開催したこともあるのだが、二度目が実現しないまま「忘れたフリ」をしている身である。これだけの規模でのイベント成功の裏側には相当のご苦労があったものだと想像する。「地域交通」をテーマとするイベントに、直接は地域交通にタッチしない私が出てもいいものか迷ったのだが、大井先生から「多様なバックグラウンドを持つ人が集まることに意義がある」と熱心にお誘いいただいて出張を組んだ。せっかく「異なる立場」から参加させていただくのだから、グループ討議や発表の機会では、なるだけ、あえて私なりの視点に立って(既存事業者からは出てこなさそうな)意見を申し上げようと思い参加した。「公共交通とは?」「路線バスとは?」「バスを守るには?」という本質的な議論になろうから、あえて申し上げようと事前に準備したのは次の2点である。一つは「高速ツアーバスを育て既存事業者の高速バスの収益を圧迫し、過疎地の路線バスを廃止に追い込んでいる」と非難されがちな私の事業そのものについて。もう一つは、消費者ニーズを吸い上げることを仕事とする今の立場に基づき「地域交通は本当に地域住民のニーズを把握、あるいはニーズを創出できていますか?」という疑問だ。一つ目の「内部補助理論」の件については、グループ討議(各グループは、行政、コンサル、事業者からバランスよく構成)に入ってすぐ、あえて一石を投じる必要が無いことに気づいた。そこにいた誰もが、旧来の内部補助理論で過疎地のバスを維持できないことをよく理解なさっていた。他グループの発表を聞いてもそのような議論は無かったようだ。懇親会の場である先生がおっしゃっていたが、<地域交通は「社会インフラ」の一種。そこに議論の余地なし。地域交通が民間で「成り立ってきてしまった」のは、様々な好条件に恵まれた「日本の奇跡」。「阪急モデル」を作り上げたのは立派だが、今後それでは地域交通を維持できない>という考えに全く同感。「奇跡」が今後も続くのではないかという淡い願望にすがり付くことが許されるほど、地域交通はどうでもいい存在ではないはずだ。二つ目の「ニーズの把握と創出」という点は、<公共交通にそもそもニーズ把握は必要ない>という意見をいただいたりもしつつ、私なりのメッセージをお伝えすることはできたと思う。バス事業者や行政にニーズ把握の能力が無いと言っているのではなく、無競争状態(実際にはモータリゼーションの進展や人口減、少子化などの外部環境とは競争状態なのだが)となることが多い路線バス事業においては、どうしても「目に見えるニーズ」(いま使ってくれている乗客の苦情。政治家や有力者の声の大きさなど)にのみ焦点が当たり、潜在的なニーズやウォンツは忘れがちになる。これが競争状態なら「トヨタが掘り起こし忘れている潜在需要があればニッサンが掘り起こす」ことで一件落着するのだが。また、ふだん会えない地方自治体の皆様のご意見を多くお聞きできたのも収穫が大きかった。本来なら行政が担うべき地域交通の設計・維持機能を、この国では民間が担当してきた。上記の通り、それはある時代には意味があったにせよ、もう限界だ。一方、ある日突然、事業者側から行政に「赤字だから補助金ちょうだい」ではうまくいくはずもない。これはある事業者さんが別の場でおっしゃっていた言葉だが「ウチの社員が役所に顔を出すのは、路線を廃止するときだけ」というのは、あながち誇張ではないのだろう。今後は、「カネ」を出しその分「意思決定」も求められる行政と、ここまで数十年間の「データ」や「経験」を持つ事業者との、より緊密な信頼関係が求められていくのだろう。それを単に「信頼関係が大事だ」という精神論に止めず、お互いに緊密な関係を持つことが双方にメリットをもたらすような「仕組み」作りが肝要だと感じた。さて、今回「考えるきっかけ」として北九州市の百武係長がご紹介くださった北九州市の「おでかけ交通」は、狭隘地のためバスが運行していなかった(しかしほどほどの人口規模はある)地域に乗合タクシーを導入した例として(趣味的?にも)興味深かったが、成功したのはおそらく既存のバス路線がない地域での「新規サービス」だったからで、その点は何かを象徴していると思う。(あくまで仮定の話だが)地域独占の既存バス事業者という存在がそもそも無かったとしたら、各地域に合ったサービスがもっと柔軟に多様に展開されていたかも知れないのだ。もちろん、地域全体の交通ネットワーク維持に責任を果たしてきた既存事業者の存在意義もまた大きく、一概に既存事業者の存在を良し悪しするつもりは毛頭無いのは当然だが。少なくとも、既存のネットワークをなるだけ効率よく維持するという短期的な観点と、「白紙」からこの国の地域交通を設計した場合の「あるべき姿」を描く長期的視座とを、並行して追いかけることを忘れてはいけないと感じた。それにしても、冒頭の大井先生の「話題提供:フィーダー型輸送の成立可能性」資料中にあった「路線バスの休廃止は、実は規制緩和前の方が多かった」というデータと、路線バスの輸送人員は1955年ごろから急成長し1970年ごろは逆にどんどん減少しているという「へ」の字型のグラフは、何度も目にしているにもかかわらず衝撃的。特に後者は、急角度の右肩上がりだった10年間、横ばいだった5年間と、右肩下がりの40年間、という風に正に「へ」の字を描いていて印象深い。一方で今回のイベントも、行政、研究者、コンサル、鉄道やタクシー事業者などあれだけの人数が集まっていながら、バスに直接たずさわっている参加者が、お互いによく顔を知っている数人だけだったことだが残念だ。今回のテーマに「まずはknow how(ノウハウ)より know who(人脈)」という一文があり、議論では「情報の非対称性」(相手に情報が伝わっていないこと)が結論の一つではあったが、確かにこれでは「know who」さえ始まらない厳しい印象だ。いつも書いているように、バスがこれ以上衰亡を続けて最も困るのは、実は地域住民でも行政でもなく、ほかでもないバス事業者の社員たちなのだが。
2010.07.20
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既存事業者に往訪して高速路線バスの取扱をご提案しても、ご想像のとおり、すんなりと話が進むわけではない。既に取扱開始したいくつかの会社もあるが、そこまで進んでいない会社にもご提案は続けていて、彼らの温度感は様々だ。考え方では合意したが手数料率で折り合いがつかず交渉継続中の会社、共同運行先がうんと言わないためにペンディングになっている会社などは「前向き」な方。「もうちょっと様子を見させて欲しい」と、具体的な理由も言わず断られる会社が、まあ「普通」。「後ろ向き」なのは、私たちの会社名を聞いただけで門前払いする会社、だ。「番外」として、経営者から担当者まで前向きなのに、「業界内の秩序」を慮って「もうちょっと待って欲しい」と言われている会社もある。「○○バスさんがやるんだったらウチもやるよ」と、具体的にベンチマーク先を率直に教えてくれる会社もある。それこそが「業界の秩序」ということだろう。もう4年も同じようなご提案を続けている。私たちに高速ツアーバスの「色」が付きすぎているとか、既存事業者にこれまで持なかった「在庫出し入れ」のオペレーションをお願いしないといけないとか、ハードルがあるのは承知しているので各事業者のお気持ちは(これを言っては営業パーソンとして失格だが)よく理解できる。ただ、ちょっとしたご縁(共同運行先からの提案など)で突然ご契約に結びつく可能性もあるから、文字通り「門前払い」でない限り機会を見つけては各事業者にお邪魔するし、すぐに結果が出なくても不満と言う気持ちはない。「断られ慣れ」状態だ。むしろ、じっくり社内でご検討いただいた感じが伝わってくる丁寧なお断り方をされると、変な話だが感謝さえしてしまう。ちなみに最も感銘を受けた?断り文句は、ちょっとシチュエーションが違う。高速路線バス取扱を本当に実現できるかまだ自信が無かったころ、「平場」の路線を持っているが高速路線バスを運行していない、けっこう伝統ある既存事業者にご縁があって、彼らのブランドで高速ツアーバスに参入しないかご提案に行ったことがある(※)。その、正に歴史が積み重なったような本社で、先方の役員がぼそっとこうおっしゃった。<熱心にお誘いいただいて光栄だけど、ウチら、ツアーバスやれるほどのタマではないですわ>。極めて本質を突いたお言葉だと思う。高速ツアーバスに参入するとか、それで利益を増やし企業を成長させていくというのは、いろんな意味でエネルギーのいる話なのだ※サンデン交通や弘南バスの2社は似たパターンに見えるが、先方から希望があって高速ツアーバスに参入している。こちらからのご提案で実現したのは、中紀バスと、あとは厳密には既存路線バス事業者とは言いがたいがイーグルバスくらい。なぜ販売サイトに過ぎない私たちが「高速ツアーバス参入」を働きかけるのかというと、取扱う業界全体が成長しないと我々も成長できないからだ。一時は本気で<どうがんばっても高速路線バスの取扱は無理だ。ならば高速ツアーバスを、規模的にも、事業者の「格」的にももっと拡大させよう>と考えていたのだ。その時期の暗い気持ちを思い出すと、その後ご決断いただいた弘南、リムジン、西東京、南海、九産交、宮交への感謝の気持ちでいっぱいになる……話は「高速路線バス取扱のご提案」に戻って、逆に「断りの理由」を聞いただけで疲れがどっと出てくる会社もある。<ウチの会社、まあまあうまく行ってるんで、今は結構です>。正直、たとえ言い訳でもよくこんな理屈が言えるもんだと。たしかにその事業者はいい地盤を持っていて会社は安泰だ。しかし、高速バスを、それも路線単位、便単位、日単位で見た場合、全て満席だとはとうてい思えないし、一歩譲って全路線全便が毎日満席になっているとしたら、次の路線、次の増便を考えるのが仕事ではないのか。いや、同じサラリーマンとして、会社が潰れない限り少しでも楽な方がいいのは「本音」としては理解できる。居酒屋でビールを飲みながらなら、わからないでもない。しかし初対面の私に「おおむね順調だからこれ以上がんばらない」と、よく堂々と宣言できるものだなと思う。もっとも、その「感覚」はよくわかる。原則的に地域独占認可だった路線バス事業においては、(社会的責任においても)赤字路線の「撤退」「廃止」こそが最もやってはならないことだ。撤退は、他社の参入を許すことを意味する。ならば「路線を維持する」ことが優先課題。逆に黒字路線については、競争がある世界ならその黒字を狙って新規参入があるので余地を与えないよう突き詰めないといけないが、地域独占ではそれがない。黒字部門は、赤字部門を維持しさえすれば十分なのだ。「これだけ乗ってたらこの路線は廃止にはならないだろう」という言葉をよく聞くが、本来あるべき姿は「この路線にはこれだけ市場ポテンシャルがあり、今はその○%まで獲得できている(逆に残りは獲得できていない)」というアプローチのはずだ。残りの需要を開拓するには何をすればいいか、開拓率が100%に達するまで突き詰めるのが「仕事」のはず。そこに「乗客のニーズ」があるわけだから。「黒字部門が赤字部門を補って、全体で黒字ならそれで十分」という考え方が常に悪いわけではない。が、それが通用するためには条件が二つある。一つは独占認可であること。これは制度上は否定されたものの平場の路線では実態としては生きている。問題はもう一つの条件だ。その条件とは、バスという輸送モード自体が右肩上がりであることだ。考えてみて欲しい。バス全体が右肩下がり、つまり黒字部門の黒字は漸減し、赤字部門の赤字が漸増する中で「全体でトントン」を目指すのに簡単な方法はただ一つ。縮小均衡しかないのである。そうやって我が国のバス事業者各社はここ数十年、毎年のP/Lの帳尻を合わせることに腐心しながら、振り返って見ると年率数%の縮小を続けてきた。需給調整撤廃や高速ツアーバス容認、「1000円高速」導入のずっと前から、この国のバス産業は縮小均衡の蟻地獄に嵌っていたのである。救い出すには、国全体、産業全体が右肩上がりだった頃のルールから抜け出すしかない。もっとも、レギュレーション(規制、制度)面では既に国の方針はそこから脱却している。問題は、各事業者の経営者、担当者の頭の中に化石のように残る、「よかった頃」の生温かい記憶の方である。
2010.07.14
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私たちのサイトで既に取扱が始まっているある路線バス事業者の担当者がこんなことをおっしゃっていた。<ウチの役員、なんか面白くなっちゃったみたいで、休みの日にも自宅から楽天さんの画面を見て「○日の残席が少なくなってるぞ。もっと在庫を入れないといけないんじゃないか」とか電話して来るんだよ>。私自身、ホテルで働いていたときには休日に自宅で各予約サイトの残室数などチェックしていた経験もあるから役員さんの立場もよくわかるし、電話を受けて苦笑する担当者さんの立場もよくわかる。この話は何かを象徴していると思う。役員だろうが現場だろうが、誰しも、数字を上げたいという気持ちはあるはずである(「売上を増やす」という表現では「バス事業には売上よりも大切なものがあるはずだ」と非難されるのであれば、「一人でも多くのお客様に、自社のバスに乗ってもらいたいという気持ち」と言い換えるべきかも知れないが)。しかし路線バス事業にたずさわる人たちにとって不幸なのは、数字を上げるためのレバーが少なかったことだ。いや、平場の路線バスについては今でもそうかも知れない。原則的に地域独占で事業を行なってきた路線バス事業者にとって、輸送人員や運賃収入が増えることは、ニュータウンが開発されたとか、雨が多くて自転車利用者がバスを使ってくれたとか、はては日本全体の景気が回復してきたとか、「外部環境の変化」でしか実現しないのだ。しかし高速バスでは違う。「高速バスの役割~公益性?~」の項で書いたように、ごく一部の路線を別にすると、高速バスとは鉄道や航空から乗客を奪っていく挑戦者の立場である。認知度や予約のわかりやすさしだい、車両や乗務員の接客といった商品の魅力しだいで、つまり自らの工夫や努力によって乗客数を増やす可能性を手にしたのだ。ただ独占認可だった頃は比較対象がなかったから、仮に乗車率が低くても「この路線は高速バスに向いていない。高速バスが弱い区間だ」で済んでしまっていた。しかし高速路線バスどうし、さらには高速ツアーバスとの競合環境が生まれ比較の対象ができ、ウェブ化の進展によってリアルタイムにそれぞれの予約状況を把握できるようになると、自らの力で予約を勝ち取り座席を埋めていく苦しさと面白さを経験することになる。今、まずは経営者や本社部門の企画・営業担当者から、その苦しさと面白さを味わっているのだ。実は、私の前職である高級ホテルの「現場」の連中(フロントクラークとか、レストランのウェイターとかコックとか)もまた、バスの現場と同じ「職人気質」「匠の精神」の塊である。彼らの意識の大半は、「一流のサービスをしたい」「(目の前にいる)お客様に最高の満足感を与えたい」という点にあると言える(あえて悪く言えば、本当のところお客様にとって実際にいいサービスであるかどうかよりも、先輩から脈々と受け継がれた「これこそが最高のサービス」とされるやり方を徹底的に守ることに最大のプライオリティがあるのかも知れないという点で、彼らは完全な「現場」だ)。しかし、ホテルの現場とバスの現場で唯一異なる点がある。ホテルの場合、その「職人気質のこだわり」の中に「数字」も入れ込んでしまっていたことだ。朝、デスクワークの私が出勤すると、前の夜からの「泊まり」勤務のフロントクラークが「成定さん、おはようございます。昨晩、稼働率98%まで行きましたよ! 100%には届かなくて悔しいけど」と声をかけてくる。1本何十万円のワインを薦めたところ見事にオーダーを獲り、バックサイドでワインの準備をしながら小さくガッツポーズしているソムリエがいる。彼ら(新入社員だった頃の私も)の中では、数字を上げることもまた、結婚披露宴をいかに厳かに執り行なうかとか、ナイフやフォークの銀の表面をいかに曇りなく磨き上げるかといった「職人気質のこだわり」の中の一つに見事に入っているのだ。ホテルでは、特に宿泊部門の場合、「客室稼働率」というわかりやすい指標があった。航空業界では「ロードファクター」である。もっとも、どちらも既にメインの指標ではなくなっている(現在、ホテルの場合は「RevPAR=販売可能1室あたり収益。“レブパー”」、航空の場合は「RASM=1席1マイル当たり収益。“ラズム”」という指標がメインになっている)ものの、客室稼働率やロードファクターの高低は誰しもが直感的にわかりやすく、現場には受け入れられやすいだろう。私の悪い癖で、特に数字のことになると「本質的な意味」にこだわってしまうので、私なりの指標「RevPACH=“レブパック”」なるものを様々な方にお勧めしているのだが、本当はもっと簡単な指標から入るべきかも知れない。いくつかの都内の大手私鉄系バス事業者の中で「車内マイクの使用」に徹底的にこだわる動きが流行した際、現場では「マイクより大事なものがあるだろうよ、おい」という雰囲気が強かった。しかしマイク使用も乗務員の「仕事」として定着した今、これら事業者のバスに乗って、マイクを使わない乗務員や不愉快そうにマイクを使っている乗務員に出会うことはない(上手い下手はあるけど)。それどころか、マイクで案内放送する際に「○○でございます」と丁寧語を使える乗務員が、乗客からの質問に肉声で答えるときには「わからないねえ」などと途端に無愛想な接客になってしまったりして驚くことさえある。本来は無愛想なタイプの乗務員も、マイクでしゃべるときだけは「丁寧な接客者」の役を演じられるのだろう。マイク同様に「数字」もまた、それが仕事だとなれば懸命に追いかけられるだろうと考えるのである。繰り返すが、特に平場の路線バスについては、乗務員一人ががんばったからといって数字が上がるものではない。しかしそれはホテルのフロントやウェイターもおおむね変わらない。それぞれが持ち場持ち場できっちりと仕事をし、それが会社の業績となって最後には自分の給料に戻ってくるというサイクルを体で実感することが大切で、「指標」はその象徴なのだ。現場での丁寧な接客や安全な運転それ自体が乗客(売上)を増やすことは難しくても、少なくとも、逆にそうでない接客や運転を続ければ乗客(売上)を減らしそれがまさに自分たちの生活を脅かすところまでバス産業は追い詰められているという点を、バスにたずさわる全ての人に体の芯まで染み込ませることだけは必要である。
2010.07.13
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京王電鉄バスから「中央高速バス松本線に“Sクラスシート”導入」のニュースが発表された。まあ、JRバス関東の「Gシート」などと同じと言えばそれまでなのだが、時代の流れの中で捉えるなら、一つの大きな一歩だという気がする。いずれにせよここ数ヶ月の京王電鉄バスの動きは速い。身延線や諏訪岡谷線の増便(三島沼津線の増便はちょっと毛色が違いそうだが)、伊那飯田線における1人2席利用サービスと情報が続いた。茅野駅発着系統の新設、松本線の泊まり運用の増加(まあ、この辺はいろいろ別の要素もありそうだが)のニュースが加わり、そして今回の「Sクラス」、同路線ではさらに他の施策も待っているようだ。一口に中央高速バスといっても、路線によってその性格、役割は異なる。松本線の特徴は、鉄道との競合があるという点だ。鉄道との競合があるということは、裏を返すと、マーケット規模が(あくまでも伊那飯田線などとの比較の話だが)大きい、ということでもある。極めて単純化して言うなら、伊那飯田線を成長させようとするなら、首都圏と伊那飯田地区の間の人の移動量そのものを増やさないといけない。伊那飯田側で観光資源をもっと開拓する(その意味では、ここ1年ほどの間に急激に人気を得て一大集客スポットとなった「分杭峠」について、トラビスジャパンによる分杭峠直通の高速ツアーバスに完全に先を越されてしまったのは京王側からすると残念なことだろう)とか、伊那飯田地区の産業がもっと発達して東京からの出張客が増えるとか、そもそも伊那飯田地区の人口が増えるとかである。一方で松本線の拡大のためには、観光需要の喚起ももちろん重要だが、それよりもずっと簡単なのはJRの特急「あずさ」で移動している人をバスに転移させることだ。では、首都圏~松本を移動する人は、どのような基準で特急「あずさ」とバスを選び分けているのだろう。最も明確な基準は所要時間である。この区間は山がちなので鉄道側の条件が悪く時刻表上の所要時間の差は決して大きくないものの、バスについては利用者は遅延のバッファを見込むだろう。鉄道も遅れることがないわけではないが、例えば出張で大切な取引先に訪問するとして「電車が人身事故で遅れまして」というと「それは大変でしたね」と許してもらえるだろうが「高速バスが遅れまして」という言い訳はビジネスマンとしては正直言いづらい。その点まで含めた所要時間の差、というのは厳然と存在する。「あずさ」とバスの最大の商品価値の差がここにある以上、それは価格差として反映するのは当然で、バスの方が価格が安い。さらに、座席の居住性(シートピッチやシート幅)でも現実には「あずさ」に軍配があがるから、その差もまた価格差に反映されていることになる。同区間を移動する人の全てが、素早い移動と居住性の両方に同一のプライオリティがあるのかと言えばそうではないだろう。横軸に「急ぐ人/急がない人」、縦軸に「居住性にこだわる人/こだわらない人」をとったマトリクスを書いてみると、「急ぐ人」で「居住性にこだわる人」が「あずさ」を選ぶのは当然だし「急がない人」で「居住性にこだわらない人」がバスを選ぶのも当然だが、それ以外の二つの領域が残ることになる。そのうち「急ぐけれど、居住性にはこだわらない」という人をバスが取る事はできないが「急がないけれど居住性にこだわる」という人は、グレードの高い車内設備さえ準備すれば「あずさ」からバスに転移させるターゲットということになる。そのために武装したのが、今回の「Sクラス」ということだろう。そんな当たり前のことをなぜダラダラ書いたかというと、このニュースが二つの観点で重要な意味を持つと考えるからだ。まず、ここ数年の高速ツアーバスの成功(すなわち大都市間路線に限定して発生した「高速バスの第3フェーズ化」)とは、ウェブマーケティングによる新規需要の開拓と同時に、従来の「最大公約数」的商品作り(独占認可であった以上やむを得なかった)から離れ、高級志向/低価格志向や男性/女性など個別の各セグメントに対し細分化された多様な商品を各社が競うことで結果として一人ひとりの利用者のニーズに寄り添った商品が作られ、それによってマーケット全体の規模を拡大させてきたことが最大の要因であった。一方で「第2フェーズ」成功例の典型例とも言っていい(現に私もよく講演等でこの路線のデータを「第2フェーズ」の象徴として紹介する)松本線が、「第3フェーズ」の象徴である「セグメント化された多様な商品性」を取り入れたことは、「第2フェーズ」型の多頻度昼行路線が次のステージへ進み始めた大きな転換点となるはずである。さらに「第3フェーズ」の特徴として「多数の事業者による競争環境」(それをフックにしたマーケット全体の成長)が挙げられるが、この「Sクラス」に限らず各路線の増便など京王電鉄バスの矢継ぎ早な動きは、脇をぎゅっと固めてさらなる新規参入を防いでおり、「横綱相撲」の風格さえ感じられる。考えられる新規参入とは、なにも高速ツアーバスや、あるいは新興事業者の高速路線バスとは限らないのである。ここまで脇を固められると、どのような形でも新規参入側が大きく逆転することはかなり困難になるだろう。あとは、分杭峠に代表される観光アクセス商品の開発(清里、蓼科、安曇野など)、現地側での自家用車対策、閑散期の運行効率化手法開発などの課題が考えられるが、彼らの素早い動きを見る限り、今後とも「攻撃は最大の防御」との視点を忘れず対応するだろう。従来の「第2フェーズ」の長所を残しながらもそこから脱却し、「第3フェーズ」の長所も取り入れた、新しい高速バスのあり方を具現化してくれるいくつかの企業(高速路線バス事業者、高速ツアーバス企画実施会社)のうちの一つが、京王電鉄バスであることは間違いないと私は思う。私としては一度「卒業」した会社なのだが、失礼ながら今ごろ勝手に惚れ直している。
2010.07.08
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毎年のことながら、夏休み前のこの時期、私たちには「1年で最も大変な2日間」が訪れる。一昨日は、全国からお取引先に集まっていただいての「戦略共有フォーラム」、昨日は、私たちが事務局を務めている「高速ツアーバス連絡協議会」の年次総会だったのだ。本来、この二つは全く別のイベントである。後者には私たちにとって直接の競合先に当たる高速ツアーバス受託販売会社(総合予約サイト)も理事や会員として数社ご出席になっているわけだが、高速ツアーバス企画実施会社の中には遠方から東京に足を運び二つのイベントに共通して参加する経営者、担当者が多いこともあり、競合先にも事前にご了解を得て両者を連続して開催する形が定着してきた。まず一昨日の戦略共有フォーラムは、昨年までの「高速ツアーバス戦略共有フォーラム」から晴れて「ツアー」の3文字が消え、今年からは「高速バス戦略共有フォーラム」に改称となった。もちろん、新たに取引先となった数社の高速路線バス事業者の担当者さんたちもご参加いただいている。もっとも、まだ契約がない一部の高速路線バス事業者やその関係者に「聴講」という形で非公式に参加いただく形は今年で3年目だから、「高速路線バス事業者と高速ツアーバス企画実施会社が机を並べて勉強している」という図そのものは目新しいものではない。ただ昨年までの「聴講」者が、大都市圏のハブ的な大手系事業者が中心だったのに対し、今年は(「公式参加者」である弘南バスなども含め)地方の路線バス事業者の経営者、担当者の顔ぶれも目立ったのは印象的。大都市圏の大手事業者の一部には、私の顔を見るたびに「お前らが既存の高速バスから乗客を奪い、ウチの共同運行先各社のジリ貧にし、過疎地の路線バスを廃止に追い込んでいるんだ」と噛み付く方もいらっしゃるが、まさにその共同運行先たちが私たちの話を聞くために遠く東京まで足を運んでくださっている事実をどうお考えだろうか。そう考えると、一口に「高速路線バス事業者」「既存事業者」と言ってもいくつかタイプ分けできそうだ。まず大都市圏の事業者だが、鉄道や他のグループ会社と人材が流動的に入れ替わる会社、あるいはグループの新卒社員のうち比較的優秀な人材がバス部門に投入されると言われている大手私鉄系事業者は、みなクレバーだ。他業種で「自ら集客する大変さと楽しさ」を学んだ人たちがバスの管理部門に順繰りに回ってくるので、変化の必要性もよくご理解なさっている。逆に鉄道や他のグループ会社と人材流動が少ない事業者は、そこだけ見るとバスに特化したプロパー社員が育ちそうに思えるのだが、何せ「今の上司とは、一生にわたって上司部下」という関係になりがちで、上司との関係維持に腐心する余り社員さんが自ら思考することを止めてしまうように見える。前者は総じて社内組織の適正化にも熱心で、いかにもマーケティングや新商品の開発が好きそうな顔ぶれを営業や企画チームに集め、オペレーション(運行)について責任を負う「運輸課」「乗客課」などと対置させている。逆にマーケティングもオペレーションも同じ部や課で責任を負う昔ながらの組織形態を保っている事業者は、変化への対応が遅いように思われる。地方の事業者は、もっとわかりやすい。一度経営が行き詰まり何らかの形で経営者が入れ替わった会社かどうか、という一点がその境目だろう。しいて言えば、ダメになるならダメになるで経営が完全に入れ替わった会社の方が、周辺産業の企業が、バス事業への憧れ半分、地元への恩返し半分で経営に参画したケースなどよりも意識変革は速そうだ。いずれにせよ大都市の大手、地方の老舗に共通して言えるのは、「会社」としてちゃんと組織が成り立ち、「経営」に携わる人と「現場」のマネージャーでちゃんと役割分担ができている事業者とそうでない事業者に明確に差が出てきた、ということだろう。そんなことを、今回フォーラムにお越しいただいたお顔ぶれを見ながらあらためて実感したしだい。一昨日のフォーラムで私たちがお示しした「これからの高速バス業界のあり方」が全て正しいと言い切るつもりはないが、過去4回のフォーラムで共有してきた内容はおおむね実現してきており、今回ご参加いただいた高速路線バス事業者の皆様にとっても、少なくとも今後起こりうる変化の可能性を事前に予知することができたという意味で、このようなイベントに関心を示さない他の事業者より一歩先んじたはずである。一方、昨日の「高速ツアーバス連絡協議会」は、企画実施会社、運行会社、受託販売会社など合わせて80人を超える出席があり、私たちはその事務局として会場の手配やプログラムの準備、当日の司会進行などを一通り担当した。例年通り、NASVA(独立行政法人 自動車事故対策機構)の金澤理事長からご来賓挨拶をいただき、国土交通省自動車交通局の山崎・安全政策課長から『ツアーバスの安全対策』と題した講話をいただいた。山崎課長の講話にも当然出てきたが、本年から運輸安全マネジメントの評価義務付け対象事業者が拡大しており、「高速ツアーバス事業者」もその対象であると通達に明記されているので、今年は特に運行会社の真剣さが目立った。会としては、前期半ばから会長代行を務めていただいていたウィラー・トラベルの村瀬社長を正式に会長に、平成エンタープライズの田倉社長と桜交通の小櫻常務を副会長(田倉氏は留任、小櫻氏は新任)に選出して幕を閉じた。事務局として一日中裏方で走り回っていたが(というか、総会準備にかけてきたリソースも計り知れないが)、それでも当日さりげなく手伝ってくれたり労をねぎらってくれたりするのは、意外にも直接の競合に当たる受託販売会社(予約サイト)の連中だったりしてちょっと嬉しい。取引先に当たる企画実施会社各社や、そのまた取引先に当たる運行会社よりは、「業界全体」の黒子的な意識が強いのかな。また来年、「暑くて長い2日間」が訪れたとき、高速バス業界はどのように進化しているか。その図を想像しながら、また本日から通常の業務が再開する。
2010.07.07
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月が替わって、本格的に夏休みの予約が入り始めた。私たちのサイトの今年の取扱高は、予算では対前年+30%強を目指しており、その達成は夏休みの結果にかかっている。予算達成は少し厳しいかと今から胃が痛いが、それでも、明確に予約が動き始めた手ごたえがある。スタッフたちも皆、取引先にあたる高速ツアーバス各社に続々と電話やメールをして、刻々と変わる予約状況やそこから導かれるフォーキャスト(販売予測)をリアルタイムで伝えている。このところ、高速ツアーバスは少し供給過剰感がある。ウィラー・トラベルなどの企画実施会社や、私たちのような受託販売会社の数はさほど増えていないのだが、長らく「大人の事情」で、企画実施会社から引き合いがあっても高速ツアーバスの運行を請け負うことを避けていた比較的大手の貸切バス事業者がどんどん運行業務に参入してきており、結果として高速ツアーバスに供されるバスの台数は大きく伸びているのだ。そのため、せっかく需要が強い日であっても、各社とも弱含みの価格設定をする傾向にある。しかし、夏休みである。データから導かれる市況は、強気だ。ウチのスタッフたちは、具体的に日にちと区間を示しながら、「ここは、あともうちょっと値上げしても大丈夫だと思いますよ」と企画実施会社各社に対しコンサルティングを続けているのだ。もっとも、価格を決定するのはあくまでも企画実施会社。弱気が抜けないのか、みな値上げを渋っている印象だ。リアルタイムに価格を変動させられるようにシステムを改修してから3年、このリアルタイムの価格変動は、各社の相場観、弱気と強気のメリハリの利いた切り替えによって支えられている。みんな、もっと自信を持たないと。そんな中、高速路線バス2社も「カスタマイズページ」を充実させてきた(西東京バスと南海バス。※カスタマイズページを見ることができるのはPCのみ。モバイルサイトからは見られません)。この「カスタマイズページ」は、あくまでも各事業者(高速ツアーバスの場合は各企画実施会社)が、自身のバスを選んでもらうために自身で作成するものだ。今回両社はいずれも、乗降場所のわかりやすさ、自社で整備工場を持つ大手事業者ならではの安心感などを訴求している(西東京バスのページの各乗り場の写真や南海バスの整備工場の写真は、もしかしてどなたか社員さんがわざわざ撮りに行ったのかなあ……)。従来なら、私たちのサイトを訪れたお客様には高速ツアーバスしか選択肢がなかった区間である。そこに新たな選択肢として上記2社の高速路線バスが加わって、特に東京-金沢は思ったよりも多くのお客様が高速路線バスを選んでいる(昼行は西東京便のみ、という事情が、もともと昼行も夜行も高速ツアーバスが運行している大阪-広島とは違うところだ)。高速ツアーバス各社に対して、相場観に自信を持って単価を引き上げてもらいたいのと同様、まだご縁がない高速路線バス各社には、高速ツアーバスと同一サイト上に並んでも十分にお客様の支持が得られるということに、もっと自信を持っていただきたい。話は変わるが、先月、ある地方の既存路線バス事業者を訪問し、社長さんと長い時間お話させていただいた。失礼ながら「地味で保守的な地方の事業者」だと思い込んでいたその事業者の社長さんが、こうおっしゃるのだ。<他の地域の路線バス会社の経営者たちと会うと、二言目には「ツアーバス対策」と言う言葉が出てくる。でも、実際にツアーバスへの「対策」をやっている会社は見たことがない>。いやいや、全く同感である。その意味では、西東京や南海、弘南や九州産交といった事業者たちは、黙って見ていると高速ツアーバスしか予約しない私たちのサイトのお客様を、一人でも二人でも自社の高速路線バスに誘導するという「対策」に成功している数少ない会社ということか。本気になって考えれば「一人でも多くのお客様に自社のバスに乗ってもらうにはどうすればいいのか」という問題は、さほど難しいものではないはずである。さて、この事業者が、この夏休みにどのような「ツアーバス対策」を打ってくるか、楽しみである。最後に、ありきたりだが、サッカーの話題を。テレビ番組でコメンテーターの寺島実郎氏がこんなことを言っていた。<こんなにも日本人に「愛国心」があるとは思わなかった。これだけの愛国心があるのなら、もっとこの国の将来について考えて欲しい>。わかる気がする。目の前の戦いに興奮するのは、それはそれで悪い話ではない。しかし本当にこの国が大切なら、サッカーに興奮するのと同じくらいの熱心さで、この国の、政治や経済や社会の将来に目を向けるはずである。既存事業者各社の、あるいはそのファンたちの「ツアーバスが憎い」という気持ちは私にもわかる。高速ツアーバス各社のあら捜しをし、それに一喜一憂したくなる感覚はよくよくわかる。ただ、本当に「我が国のバス産業の将来」を真剣に考えるなら、旧来の免許秩序に基づく護送船団方式で、この国におけるバスという交通機関の将来と、この国におけるバスという産業の将来を守れるのか、疑問を感じるはずである。免許秩序と内部補助理論が全て間違いだという気はないが、少なくとも、従前の固定観念に縛られそこから抜け出せなければ、この国のバス産業がここ数十年たどってきた、ずるずると衰亡してきた道をトラックするだけになってしまう。バスが大事であればあるほど、「数年」ではなく「数十年」単位で物を見る歴史家的な視点を、いまのバス事業者の経営者たちは求められているのである。
2010.07.02
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